平成20年度教員免許課程認定大学実地視察について(案)

中央教育審議会初等中等教育分科会
教員養成部会

1.実地視察の目的

 教職課程認定大学実地視察の目的は、教職課程認定大学実地視察規程(平成13年7月19日教員養成部会決定)に基づき、教員の免許状授与の所要資格を得させるための大学の課程(以下「教職課程」という。)の認定を受けた大学について、認定時の課程の水準が維持され、その向上に努めているかどうかを確認することである。

2.概要

(1)視察大学

(2)全体的事項(大学の教員養成に対する全般的な状況)

 全体としては、各大学の教職課程は、概ね教育職員免許法、教育職員免許法施行規則及び教職課程認定基準を満たしていた。
 しかしながら、基準に満たない教員配置がなされていた大学や、大学として養成したい教員像が不明確な大学、教員養成の理念を実現するための教職指導体制及び教職課程が確立されていない大学も見られたため、改善を求めた。
 また、全体的には、「教職に関する科目」に法令に定める「含めることが必要な事項」が含まれていない場合や、シラバスの記載が不十分な場合が見られた。
 教員養成に対して意欲的な取り組みを行っている大学としては、平成18年7月の中央教育審議会答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(以下「平成18年7月答申」という。)を受け、学内に改革検討委員会を立ち上げ、教職課程の「改革案」を取りまとめ、平成21年度の実施に向け「改革実施案」の検討を行っていた帝京大学や、教育学部を中心に「ちゃぶ台方式」と称して、各学部、教育委員会、付属学校等と連携をして様々な教育実践力を高めるための取組を行い、地方基幹大学としての役目を果たそうとしている山口大学などが見られた。

(3)個別的事項(個々の具体的評価、指摘・指導等)

1.教員養成に対する理念、設置の趣旨等の状況

 平成18年7月答申においては、教職課程の質の維持・向上を促すため、教職課程の認定に係る審査について、大学の教員養成に対する理念や教職課程の設置の趣旨、責任ある指導体制等を審査対象とすることが適当である旨提言されている。
 このことを踏まえ、実地視察大学の運営状況を確認したところ、大学として、また、学部・学科等として教員養成に対する理念等を掲げている大学が多く見られたところである。しかし、これらを具現化するために全学的・組織的な教職指導体制や教職科目の整備を行っている大学は少なかったため、教員養成に対する理念等を積極的に実践できる組織的な運営体制の構築に努めるべきであることを指摘した。
 一方で、新島学園短期大学においては建学の精神に基づく幼児教育を確立し、それに基づく運営が行われているなど、教員養成の理念を具体的に実現している大学も見られた。

2.教育課程(教職に関する科目等)、履修方法及びシラバスの状況

 教職課程における科目の開設状況については、全体的に、法令や認定基準を満たしていた。しかし、一部の大学において、認定基準を満たしていない大学があったため、早急に改善するよう求めた。
 また、「教職に関する科目」については、法令に定められている「各科目に含めることが必要な事項」が含まれていることが必要だが、多くの大学において、以下のような状況が見られた。
 ●「教職の意義等に関する科目」について
 施行規則に定める「含めることが必要な事項」が含まれていないものや、設置趣旨にかなった授業内容となっていないものが見られた。
 ●「教育の基礎理論に関する科目」について
 「幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」の科目において、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」が含まれていないものが見られた。
 ●「教育課程及び指導法に関する科目」について
 ・ 本科目は、学習指導要領に掲げる事項に即し、包括的な内容を含むことが法令上求められているが、徹底されていない大学が見られた。
 ・ 「教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)」の科目においては、情報機器の活用又は教材の活用が含まれていないものが見られた。
 ●「生徒指導、教育相談及び進路指導等に関する科目」について
 「教育相談(カウンセリングに関する基礎的な知識を含む。)」の科目においては、カウンセリングの専門的な理論に特化した内容を取り扱っているものが見られた。このため、カウンセリングに関する基礎的な知識を学んだ上で、応用的な内容を学ぶような構成にすることを求めた。
 ●「総合演習」について
 「総合的な学習の時間」に関する内容となっていたり、取扱うテーマ・課題が限定的で学生が選択できないなど、総合演習の趣旨を踏まえた開設がなされていない大学があった。このため、当該科目の設置趣旨を説明し、内容を見直すように指摘した。
 ●シラバスについて
 シラバス(講義概要)については、各科目の様式が統一されていないもの、統一された様式であるものの担当教員によって記載内容が統一されていないもの、各回ごとの授業計画が記載されていないもの、評価方法として出席を重視しているものが見られた。シラバスが、学生に対してわかりやすく丁寧なものとなるよう、科目のテーマ、学生が身に付けるべき資質能力、到達目標、各回ごとの内容等を明記するなど、改善を図るように指摘した。

 他方、福井県立大学においては、教員経験者が学校現場の知識を生かして工夫された指導法の授業を行っており、また国立音楽大学においては、総合演習の趣旨を踏まえた大学独自の参考書を作成するなど、積極的な取り組みを行っている大学も見られた。

3.教育実習の取組状況

 教育実習の実習校の選定にあたっては、母校実習が原則となっているような状況が多く見られた。このため、大学による十分な指導や評価の客観性の確保の観点から問題がある母校実習は極力避けること、大学の担当教員が実習校の教員と連携・協力し主体的に責任を持って指導にあたることなどを、平成18年7月答申における「教育実習の改善・充実」に即して指摘した。
 その点、評価できる取り組みとして、関西大学においては教育委員会と連携を図って実習校の確保が行われていた。また、青山学院女子短期大学においては、実習園を大学が必ず訪問し、学生の実習態度を見るとともに、園側の意見や評価を聞き、実習後には大学側と実習園との協議会を持って、実習の改善を目指すなど、望ましい教育実習の在り方として評価した。
 また、大学内の一部の学部においては積極的に実習生を指導しているが、他学部においては実習校任せにしているなど、学部間において取り組み状況に差異が見られる大学もあった。このため、学部間の連絡調整を行う組織を設け、全学的に責任を持って、実習生に対して丁寧な指導を行うように指摘した。
 そのほか、教育実習を履修する資格、実習内容、評価方法を体系的に企画・立案するよう求めた。

4.学校現場体験・学校ボランティア活動等の取組状況

 多くの大学において、学校における体験活動・ボランティア活動を取り入れていた      が、大学内の一部の学部のみでしか行っていない大学も見られた。
 また、教育現場において即戦力となる人材育成のため、地域と連携し、児童生徒とかかわる地域活動への積極的な参加を促している中京女子大学、教育委員会と連携し、特別支援教育に関するボランティアを経験させている武庫川女子大学、4年次の学生に、学習指導や学校行事への参加、特別支援の児童生徒や不登校の児童生徒への支援を経験させている弘前大学など、学生に有益な経験をさせるための取組を行っている大学も見られた。

5.教職指導及びその指導体制の状況

 大学によって、学生が恒常的に履修相談等を出来るような設備や人員を整備している大学もあれば、全体的なガイダンスのみで終わらせている大学もあるなど、学生に対するケアが大学ごとに大きく異なっていた。      この点、鎌倉女子大学においては、教職を目指す学生が入学して卒業・就職するまでの一貫した支援体制を構築し、教職経験者を指導員として配置して、学生への個別指導や全体的な指導を行っているなど優れた取組を行っており評価した。
 また、学生に対して教職課程の体系的な履修モデルを示している大学は少なかったため、教職科目を体系的に学べるような履修モデルを提示するよう求めた。この点、札幌学院大学においては、4年間の体系的な履修体制の整備が進められており評価した。
 また、指導法科目の履修時期が、2年時前期となっているなど、望ましくない時期に設定されてる大学、一部の学部学科等においては組織的な教職指導を行っているが、他の学部学科等を含めて全学的な教職指導体制が整備されていない大学もあった。

6.教員養成カリキュラム委員会等の全学的組織の状況

 「教員養成カリキュラム委員会」等の全学的組織を既に整備している大学もあれば、一部の学部学科等における組織化にとどまっている大学もあり、大学における格差が見られた。このため、各学部学科等における認定課程を一元的に管理・運営し、全学における教員養成の理念を具現化するための、「教員養成カリキュラム委員会」等の全学的な組織の設置を求めた。
 また、各学部・学科間の調整だけでなく、教職科目の内容の確認、教職科目担任教員間の連絡調整、教職科目の履修時期の検討などを、全学的組織の役割として求めた。
 この点、「介護等体験」及び「教育実習」の運営を全学的に行い、各学科毎にきめ細かい指導を行っている大学もあり、評価した。

7.施設・設備(図書等を含む。)の状況

 各大学において、教員養成に必要な施設・設備、教育機器等は、学生数の規模に応じて概ね整備されていた。
 ただし図書館については、各大学の教員養成の理念等を踏まえた集書計画がなされていない大学が見られた。また、蔵書が古いものばかりで構成されている大学が見られたため、教育の最新事情等に関する図書を充実させるように求めた。

(4)総括的事項(指摘・指導等の概要)

 今年度の実地視察大学については、概ね、法令及び認定基準を満たしていた。
 しかしながら、教員養成に対する理念を、全学的に明確に持っていない大学も見られたため、大学が教職課程の理念や設置趣旨等を明確に持ち、その理念を十分反映した教育課程・教員組織の編成や教職指導体制の確立に努めるよう求めた。
 課程認定大学においては、学長各学部長はもとより、教員を含めた、教職課程担当者全員が、これまでの各種答申で提言されている内容(特に「平成18年7月答申」)を再度確認し、教職課程の改善を不断に行い、責任を持った教職指導体制を構築することを強く望みたい。
 実地視察は、教職課程の認定を受けた大学が、課程の水準を維持し、その向上に努めているかどうかを確認するための重要な手段である。教職課程を法令や認定基準に照らして適切に運営することは、自ら進んで教員養成を行う大学の当然の責務であり、社会に対する最低限の約束であることを、全ての課程認定大学は今一度十分認識することが求められている。
 今年度の視察の対象とならなかった大学も含め、全ての課程認定大学が、本実地視察報告書の指摘内容を理解し、教職課程の質的水準の維持と向上を図るための取組を進めていくことを期待する。

お問合せ先

初等中等教育局教職員課企画係

(初等中等教育局教職員課企画係)

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