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第1章
通級指導を担当するに当たって
初めて担当になって不安な気持ちもあると思います。でも、みなさんがこれまでの授業で行ってきたように「担当している子供を丁寧に見て、指導や支援を工夫する」ことは、通級指導においても同じです。これまで経験したことを活かしながら取り組みましょう。

「僕はできないんだ」と、ずっと思っていたけど、自分の得意なやり方と苦手なやり方を知って、「僕の得意な方法でやればいいんだ」っていうことが分かったんだ。前より、勉強が楽しくなったよ。

クラスを抜けて違う教室で指導を受けることについて、周りの友達との関係などに不安はありましたが、日頃から自信をもてずに、物事に消極的になっている子供が気になっていましたので、学級担任と相談して利用を決めました。そうしたら、ある日、子供が「僕の覚えやすい勉強の仕方が分かった!」と話してくれたんです。
少しずつですが、学校から帰宅後、一人で勉強机に向かう姿も見られるようになりました。今では、利用してよかったと思っています。
A 君は、前は授業中に発言することはほとんどなかったのに、手を挙げて発表する姿が見られるようになったかな。頑張っているんだなと思うと、自分も頑張ろうって気持ちになるよ。


弟は、みんなと同じように教わっても分からないことが多いみたいで、宿題も全然できてなかった。でも、通級では、弟に合わせた教え方をしてくれるみたいだから、弟も楽しく過ごしているよ。家でも、通級でこんなことをやったよって、よく話してくれるんだ。
通級は、心の安らぎの場所でした。先生が私の話をちゃんと聞いてくれて、自分の存在を温かく受け入れてくれました。ここで学んだコミュニケーションの取り方が、卒業後の新しい人間関係を作る際に、大きく役に立っています。自分を変えてくれたステキな場所です。

(1) 障害による学習面や生活面における困難の改善・克服に向けた指導が基本です。
通級指導に通う子供は、読み書きに時間がかかったり、友達とのコミュニケーションが上手く取れなかったりするなど、障害があることによって学習面や生活面で困難があります。通級指導では、子供の自立を目指し、障害による困難を改善・克服するため、一人一人の状況に応じた指導を行います。
まず、その困難さの要因と考えられる障害の特性を、本人や保護者、同僚、関係機関等の専門家から得た情報などを基に整理してみてください。
(2) 一人一人の状況や願いに応じた指導を心掛けましょう。
通級指導に通う子供やその保護者の思いは、様々です。一人一人の思いや願いなどに耳を傾け、寄り添いながら、どのような指導や支援をするのがよいかを考えましょう。
通級指導には、決まった教科書や教材はありません。まず、子供の困難さやその要因と考えられる障害の特性、「こうしたい」という願いを理解しましょう。そして、その子供に合った指導目標を立て、学びやすいように教材や教具を工夫しながら指導を行いましょう。その際、本人の得意な面からアプローチすることが大切です。
(3) 子供の自信や意欲につながる指導を心掛けましょう。
通級指導に通う子供は、他の子と同じように取り組んでも、上手くいかなかった経験をしています。「自分は頑張っても上手くできない」と感じるなど、自分のことを肯定的に受け止めにくい状態にある子供もいます。また、このような子供の様子を見て、「子育ての方法が間違っていたのだろうか」と悩んでいる保護者もいます。
通級指導が、そのような思いをもった子供や保護者にとって、安心できる時間や場所となり、子供の自信や意欲につながる指導にすることが大切です。
(4) 困ったら、一人で悩まずに相談しましょう。
通級指導を行う際、困ったことがあれば、管理職や特別支援教育コーディネーター、学級担任、特別支援学級担任等の校内委員会のメンバーに相談しましょう。また、授業の工夫が得意な教師に相談することも考えられます。
また、通級担当が近くの学校にいる場合は、その人に相談することもいいでしょう。地域によっては、通級担当が定期的に連絡会を実施している自治体もあります。他にも、地域支援という特別支援教育のセンター的機能を担っている特別支援学校や各都道府県や市町にある特別支援教育センター(教育センターが担っている場合もあります)、発達障害者支援センターなどがあります。そこで、相談にのってもらうこともできます。
大切なことは、子供の指導や支援をチームとして関係者が協力して行うことです。一人で悩むのではなく、気軽に相談してみましょう。
第2章
通級指導の1年間の流れ
通級指導の利用の決定から終了までのフロー図(例)
参照
具体的な実態把握の観点について:
早期発見のツールとして活用可能な、チェックリストの例:
(3) 個別の教育支援計画と個別の指導計画 (PDF:318KB)
参照
実態把握から具体的な指導内容を設定するまで:
個別の教育支援計画の作成について:
参照
校内の体制づくりなど引継ぎについて:
- 「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン」(文部科学省)
- 文部科学省「系統性のある支援研究事業」実践事例集(前半)(後半)
第3章
実践例
第4章
知っておきたい基本事項・用語
(1) 通級指導に通っている子供は、こんなことに困っています。
通級指導に通っている子供はいろんなことに困っています。その一部を紹介します。困っていることが複数ある子もいます。
- 拡大鏡などを使っても、通常の文字や図形などの認識に少し時間がかかることがあります。
読むのに時間がかかるから、授業で遅れをとってしまう。観察する時に、たくさん触ったり、顔を近づけて観たりするから、友達から変に思われていないかな。

- 集団の中で緊張してしまったり、感情と行動のコントロールが難しく不適切な行動をとってしまったりすることがあります。
みんなが声を掛けてくれるのは嬉しいけど、かえって緊張して話せなくなっちゃうんだよなぁ。

- 補聴器や人工内耳を使っても、聞き取りづらい音があります。また、周囲の状況で聞き取りづらさが変化します。
友達の話が上手く聞き取れなかったけど、何度も聞き直したら悪いよなぁ。

- 話す時に言葉がスムーズに出てこなかったり、特定の音を誤って発音していたりすることがあります。
言葉につまったりするから、「変な話し方!」と友達に言われた。またつまったらどうしよう。発表するのをやめておこうかな…。

- 定規やコンパスなどを使う時に工夫が必要です。また、同じ姿勢を保つのが難しかったり、移動に時間がかかったりすることがあります。
みんなより時間がかかるから、待たせちゃって悪いなぁ。学校以外にリハビリにも行かなきゃいけないんだよなぁ。

- 治療のために、吐き気や痛みを伴うことがあります。また、入院中の子供もいます。
勉強が遅れてるけど大丈夫かな。退院した後、学校で先生や友達に病気のことをどう伝えよう。学校で注射を打つ時、見られたくないな。

- 知的に障害はありませんが、話す、聞く、読む、書く、計算する、推論するのどれかが上手くできないことがあります。
文字を見ても、読み方がすぐに思い浮かばない。上手く読めないから教科書を読むのは嫌だなぁ。
漢字を、何回書いてもなかなか覚えられないんだ。

- 同じものに注意を向け続けたり、切り替えたりするなどの気持ちや行動のコントロールに難しさがあります。
頭の中にいろいろなことが思い浮かんで、勉強に集中したいのにできない!友達の嫌がることは言っちゃダメって分かっているのに、また言っちゃった。

- 対人関係の形成が難しかったり、言語発達に遅れがあったり、興味や関心が狭かったり、手順、方法に独特のこだわりが見られたりします。
「きちんと」「もう少し」と言われるけど、どのくらいやれば「きちんと」したことになるのかなぁ。思っていることをそのまま口にしたら、叱られてしまった。間違ったことを言っていないのに、どうしてなのかなぁ。他の人が気にしないような音をうるさく感じたり、光をまぶしく感じたりして、みんなとは感じ方が違うことがあるみたい。
※ 自閉症の子供の中には、知的障害がある子供とない子供がいます。知的障害がない場合や軽度の場合には、例えば、漢字や計算などの学習面は障害のない子供と同じくらいできるのに、他の人の立場に立って考えたり、相手の気持ちを想像したりすることが、難しい場合があります。

※ 自閉症、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)など、脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢から現れているものを発達障害といいます。
(2) 障害をどう捉えるか
子供の障害について考える時、その子供の生活上、学習上の困難は、身体機能や身体構造などの本人の特徴だけではなく、周囲のサポートや配慮などの環境との相互作用によるものと捉えることができます。障害の特性による困難があっても、環境の工夫次第で活動や参加が可能になります。
例えば、体調不良によって休養を余儀なくされたり、バリアフリーが整っていないために通行が妨げられたりするなど、健康状態や環境が「活動」や「参加」に影響を与える因子となる場合があります。


(3) 合理的配慮の提供
国公立学校の場合は、合理的配慮の提供は法的義務となります。子供や保護者から相談等があった場合は、子供や保護者の願いや気持ちを確認し、学校の体制など子供を取り巻く状況と照らし合わせながら、丁寧で柔軟な対応が必要となります。また、その内容を個別の教育支援計画等に明記することが望ましいです。合理的配慮の提供を受ける子供が、一人だけ特別扱いを受けていると周囲から誤解されることがないように、校内で研修会を開いたり、周りの子供や保護者に分かりやすく説明したりすることが重要となります。
参照
「障害者差別解消法」、合理的配慮について:
教育現場における合理的配慮の提供の手続きや具体例:
(4) 通級指導の法的根拠
通級指導については、学校教育法施行規則に以下のように規定がなされています。
学校教育法施行規則
第百四十条 小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校において、次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒(特別支援学級の児童及び生徒を除く。)のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、第五十条第一項、第五十一条、第五十二条、第五十二条の三、第七十二条、第七十三条、第七十四条、第七十四条の三、第七十六条、第七十九条の五、第八十三条及び第八十四条並びに第百七条の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
一 言語障害者
二 自閉症者
三 情緒障害者
四 弱視者
五 難聴者
六 学習障害者
七 注意欠陥多動性障害者
八 その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの
※ 八号については、通知で肢体不自由者、病弱者及び身体虚弱者を示している。
第百四十一条 前条の規定により特別の教育課程による場合においては、校長は、児童又は生徒が、当該小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校の設置者の定めるところにより他の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校又は特別支援学校の小学部、中学部若しくは高等部において受けた授業を、当該小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校において受けた当該特別の教育課程に係る授業とみなすことができる。
通常の学級に在籍している子供のうち、障害の特性に応じた支援が必要な子供について、大部分の授業を在籍している通常の学級で受けながら、特別の教育課程としてのその授業に加えて、あるいは、一部の授業に替える形で、障害による学習面や生活面の困難を克服するための指導(通級指導)を受けることができます。通級指導は、在籍校で受ける場合と他校で受ける場合があります。
なお、平成30年度より、従来の小・中学校等に加えて、高等学校においても通級指導が制度化されました。