実践例8
準備した課題に、なかなか取り組むことが難しい子供には、どんな対応をすればいいんだろう?
(1) 対応する際のポイント
当初の計画にこだわらず、柔軟に対応しましょう。
○子供のその日の状態をよく見るようにしましょう。
- 通級指導の時間までに、何か嫌な思いをしたなど、気持ちが授業に向かえない状況にあるのかも知れません。傾聴を心掛けましょう。
- 興味のある話題を投げ掛けるなど、気持ちを切り替えられるような工夫をしましょう。
○学習内容や指導の順序を工夫してみましょう。
- 取り組めそうな課題を子供と相談して決めましょう。
- 子供の反応を見ながら、準備していた教材以外のものも柔軟に活用しましょう。事前に、複数の教材を準備して、選べるようにしておくことも考えられます。
【取り組むことが難しい状況が継続する場合】
- 学級担任や特別支援教育コーディネーター、保護者などから聞き取りを行うなどして、今一度、指導内容、指導方法、教材や教具を見直してみましょう。
- 再度、子供の実態を把握し直し、子供の得意な学び方から指導内容等を見直すことも考えられます。必要に応じて、指導計画を見直すことも大切です。
(2) 具体的な実践例
【概要】
- 小学校3年生のJ さんは、注意欠陥多動性障害(ADHD)があり、椅子に座って学習をすることが苦手で、授業中に立ち歩くことが多く、課題に最後まで取り組むことが難しいです。
- また、興奮したり、上手くいかないと大声を出したり、手が出たりしますが、納得すると、落ち着いて取り組める面もあります。
- ある日の通級指導では、イライラしている様子で、課題を提示してもなかなか、取り組もうとしませんでした。
- 何かあったのか、と通級担当が尋ねますが、特に理由はないがなんとなくイライラする、と答えただけで、着席する様子はありません。
- 教室内を歩き回っている状況がしばらく続いたところで、着席しなくてもできる課題に切り替えてJ さんに提案してみたところ、活動することができました。
- いつも通り、通級教室に来たJ さん。ただ、その日はなんだか落ち着かない様子でした。いつも使用しているその日のスケジュール表を示して、今日の流れを確認しましたが、あまり反応がよくありません。「どうしたの?始めるよ?」と声を掛けて、最初の課題に入ろうとしましたが、「今日は、何もやりたくない!」と言って、席を立ち、教室内を歩き回っていました。
- そこで、まずはJ さんの話を聞くことにしました。「J さん、何かあった?」J さんは、その場で立ち止まり、しばらく、黙ってうつむいていました。「話してくれるかな?」少し時間を置いて待っていると、J さんは、小さい声で話してくれました。「分かんないけど、なんか、今日はイライラする。」「そっか。イライラするのか。そういう日もあるよね。」
- J さんは、その後も着席する様子はありません。J さんの様子を見て、提案をしてみました。「じゃあ、ちょっと体を動かそう。いつもやっている神経衰弱を、今日は教室全体を使って、やってみようか。」J さんが少し反応を示したので、J さんにトランプカードを差し出しました。「じゃあ、J さん、教室内の好きなところ、どこでも使っていいから、カードを置いてくれるかな。」すると、J さんはトランプカードを手に取り、教室中に置くことができました。
- 順番を守ること、負けそうになっても、興奮しないで最後までやること、といった、通級指導で取り組んでいるいつものルールを確認し、神経衰弱を実施しました。当初の計画では、神経衰弱は、今日の3 番目の活動として準備し、着席して行う予定でしたが、J さんの反応に合わせて、予定を変更することにしました。J さんは、時に教室内を走りながらトランプカードを取りに行き、最後まで取り組むことができました。
- 神経衰弱を終えると、J さんは少し落ち着いた様子だったので、今日のスケジュールを見せ、できそうな課題をJ さんに選択させ、残りの時間を使って取り組みました。
- その日だけではなく、通級指導の冒頭、なかなか着席できないことが何回かあったので、J さんと相談して、イライラするような時には、J さんからの申し出で、活動の順番を変えたり、ストレッチなどの気持ちを切り替える時間を設けたりするとともに、授業計画を見直し、着席しなくてもできる活動を取り入れることにしました。

