「障害に応じた通級による指導の手引 解説とQ&A(改訂第3版)」(文部科学省 編著)より抜粋

「通級による指導」とは、大部分の授業を小・中・高等学校の通常の学級で受けながら、一部、障害に応じた特別の指導を特別な場(通級指導教室)で受ける指導形態で、障害による学習上又は生活上の困難を改善し、又は克服するため、特別支援学校学習指導要領の「自立活動」に相当する指導を行います。

実施形態として、①児童生徒が在籍する学校において指導を受ける「自校通級」、②他の学校に通級し、指導を受ける「他校通級」、③通級による指導の担当教師が該当する児童生徒のいる学校に赴き、又は複数の学校を巡回して指導を行う「巡回指導」があります。

通級による指導を行うに当たっては、以下のような視点が大切です。

◆個に応じた指導の徹底を図る

通級による指導の対象となる児童生徒の障害による困難の改善・克服を図るためには、一人一人の障害の状態等に応じた対応が求められるところであり、画一的な指導内容の選択や指導方法は好ましくありません。このため、通級による指導の担当教師と当該児童生徒が在籍する学級の担任が連携協力しながら、一人一人の状態に即した個別の指導計画を作成し、計画的に指導を行い、着実に障害の状態の改善・克服を図ることが重要です。

◆障害のある児童生徒に対する教育の専門的な支援機能を果たす

通級指導教室は、学校の中に設けられた各障害専門の教育を行う場であるとともに、各地域においては同様の場が複数設けられていることが少ないことから、当該学校の児童生徒に限らず、地域の学校に在籍する障害のある児童生徒への教育を行う場にもなります。

ここでは、その専門的な支援機能として、以下の点が挙げられます。

①障害のある児童生徒に対する教育に関すること

②障害のある児童生徒の保護者からの相談に応じ、助言・援助を行うこと

③地域の障害のある児童生徒の実態把握を行うことと同時に、該当児童生徒の学級担任への適切な援助や助言を行うこと

④障害のある児童生徒の理解の推進に関すること

◆望ましい指導体制の整備を図る

障害のある児童生徒は、周囲の対応が不十分な場合など、学校生活の中の様々な場面や環境に対して十分に適応することが難しいことがあります。

このことから、通級による指導の際はもとより、通級による指導の担当教師と通常の学級の担任とが、綿密に連携しながら、校内及び校外の関係者の間で児童生徒の様子や変容の情報を共有しておくことが重要です。児童生徒の全体像を的確に把握し、本人の自己実現が図られるような指導体制の整備を図っていくことが大切です。

その際には、校内委員会や特別支援教育コーディネーターの活用も有効であると考えられます。

通級による指導の対象となるのは、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、LD、ADHD、肢体不自由、病弱及び身体虚弱の児童生徒であり、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする程度のものになります。

なお、通級による指導の対象とするか否かの判断に当たっては、医学的な診断の有無のみにとらわれることのないよう留意し、総合的な見地から判断することが必要です。

言語障害の状態は様々ですが、口蓋裂、構音器官のまひ等器質的及び機能的な構音障害のある者、吃音等話し言葉におけるリズムの障害のある者、話す、聞く等言語機能の基礎的事項に発達の遅れがある者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒が、通級による指導の対象となります。

言語障害の児童生徒に対する通級による指導は、個々の言語機能の障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服することを目的として行われますが、対象となる児童生徒の有する課題が複雑多岐にわたっているため、個々の児童生徒の障害の状態に即した特別の指導が必要です。

したがって、児童生徒の言語及びコミュニケーション能力等についての実態を十分把握した上で、指導の方針を決めることが必要です。

指導の内容としては、正しい音の認知や模倣、構音器官の運動の調整、発音・発語の指導など構音の改善にかかわる指導、話しことばの流ちょう性の改善や吃音のある自分との向き合い方にかかわる指導、読み書きに関する指導等が考えられます。

また、言語の障害は、児童生徒の対人関係等生活全般に与える影響が大きいことから、話すことの意欲を高める指導、カウンセリング等も必要となるでしょう。

通級による指導は、個別指導が中心となります。また、指導に当たっては、教材・教具を有効に活用し、児童生徒の状態によってはコンピュータや視聴覚機器等も活用して、指導効果を高めることが大切です。

また、言語障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服のためには、学校においても、生活場面においても発音・発話やコミュニケーションなどへの配慮が必要であり、学級担任及び家庭との連携を密接に図ることが大切です。さらに、器質的な障害のある児童生徒については、医療機関等との連携を図ることも大切です。

自閉症は、他者と社会的な関係を形成することに困難を伴い、それに、しばしばコミュニケーションの問題や行動上の問題、学習能力のアンバランスを併せ有することもあり、通常の学級での一斉指導だけでは十分な成果が上げられない場合もあります。

そのような場合には、円滑なコミュニケーションのための知識・技能を身に付けることを主な指導内容とした個別指導が必要です。

さらに、個別指導で学んだ知識・技能を一般化する場面として、小集団指導(グループ指導)を行うことも効果的です。その指導では、個別指導で学んだ知識・技能を音楽や運動、ゲームや創作活動などの実際的・具体的な場面で活用・適用して、実際の生活や学習に役立つようにするとともに、学校の決まりや適切な対人関係を維持するための社会的ルールを理解することなど、社会的適応に関することを主なねらいとします。

他にも、自閉症のある児童生徒には、感覚の過敏さや鈍麻さがある場合があるため、自分の感覚の特性に気付き、自分で工夫する技能等を身に付けるための指導を実施することも考えられます。

指導に当たっては、視聴覚機器等の教材を有効に活用し、指導の効果を高めることが大切です。

なお、自閉症のある児童生徒の場合、LDやADHDの障害の特性を持つ場合もあり、指導の際には留意が必要です。

主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒が、通級による指導の対象となります。

選択性かん黙等のある児童生徒については、情緒障害の状態になった時期や、その要因などに応じて中心となる指導内容が異なります。

例えば、カウンセリング等を中心とする時期、緊張を和らげるための指導を行う時期、障害の状態に応じて各教科の内容を取り扱いながら心理的な不安定さに応じた指導を行って自信を回復する時期と、これらの段階に応じて、障害の要因を踏まえた指導内容を適切に組み合わせて指導することが重要です。

拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な状態の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒が、通級による指導の対象となります。

通級による指導の内容は、主として視覚認知、目と手の協応、視覚補助具の活用等の指導が中心となりますが、形の似た漢字の読み書きの指導、算数(数学)のグラフの目盛りを正確に読み取る指導や社会科の複雑な地図を読み取る指導など、視覚的な情報収集や処理の方法を指導しなければ効果的に学習活動を行うことができない内容などについては、各教科の内容を取り扱いながら指導を行うことも必要となります。

また、通常の学級における学習や生活を円滑に行うために、自分に合った適切な明るさを調整したり、学習で使用する道具等の置き場所を決めておいたりするなど自ら環境を整えることができるようにすることも大切です。

通級による指導は、個別指導を原則としますが、場合によってはグループ指導を組み合わせることもあります。いずれの場合においても、視覚補助具、コンピュータ等の情報機器、拡大教材などを有効に活用し、指導の効果を高めることが大切です。

補聴器等の使用によっても通常の会話における聞き取りが部分的にできにくい状態の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒が、通級による指導の対象となります。

これらの障害の程度の判断に当たっては、専門医による聴覚障害に関する診断結果に基づき、難聴となった時期を含め生育歴、言語発達の状況等を考慮して、総合的に行うよう留意することが必要になります。

通級による指導の対象となる児童生徒の指導においては、保有する聴覚の活用が優先されます。保有する聴覚の活用に当たっては、まず補聴器等を適切に装用する指導が挙げられ、次いで、聴覚学習として聴く態度の育成、音声の聴取及び弁別の指導等が必要となります。

また、言語指導に当たっては、日常の話し言葉の指導、語彙拡充のための指導、言語概念の形成を図る指導、日記等の書き言葉の指導などが挙げられます。

さらに、難聴に対する自分なりの受け止め、周囲の人たちの思いなどについても理解を深めることにより、通常の学級における学習や生活を円滑に行うことができるようにするための援助や助言等も大切です。

通級による指導は、個別指導を原則とし、必要に応じてグループ指導を組み合わせることが適切です。

例えば、言語指導における発音・発語の指導や音声等の聴取及び弁別の指導などは、その指導内容が個人に即することが必要であるため、個別指導が中心となります。グループ指導は、ルールや常識等を理解するための集団活動や、難聴やその特性などを理解したり話し合ったりする活動等において行われる場合が多いでしょう。いずれの場合においても、コンピュータや視聴覚機器等の教材・教具を有効に活用し、指導効果を高めることが大切です。

全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と活用に著しい困難を示すもので、一部特別な指導を必要とする児童生徒が、通級による指導の対象となります。

基本的には、自分の障害の特性とその特性から生じている困難を理解し、自分自身で工夫したり他者に支援を依頼したりするなどして、その困難の軽減を図ることができるようになるための指導が考えられます。

具体的には、困難を示す能力に応じ、以下のような指導が考えられます。

①聞くことの指導

教師の指示をしっかり聞いて理解することが苦手な場合には、興味・関心のある題材等を活用して、できるだけ注意を持続させたり、音量に配慮したりして、注意深く話を聞くことの必要性を理解させるなどして、態度や習慣を身に付けさせる指導等があります。

②話すことの指導

自分の話したい内容をしっかり伝えることが苦手な場合には、あらかじめ話したいことをメモしておくなどの工夫をして、書かれたものを見ながら自信を持って話をするなど、自分に適した方法を理解させ、身に付けさせる指導等があります。

③読むことの指導

文章を読み上げることや内容を理解することが苦手な場合には、書いてある文字の音や意味を素早く思い出しながら音読したり、細かな違いの見極めが難しいときに漢字やアルファベットを大きく表したりするなどして、自分に適した方法を理解させ、身に付けさせる指導があります。

また、内容の理解においては、指示語の理解を図る指導や書かれた事実を正確に捉えたり、図解して主題や要点を捉えたりするなどして、自分に適した方法を理解させ、身に付けさせる指導等があります。

④書くことの指導

文字を正確に書き取ることが苦手な場合には、間違えやすい漢字やアルファベットを例示するなどして、本人に意識させながら正確に書いたり、経験を思い出しながらメモし、それを見ながら文章を書いたり、読み手や目的を明確にして書いたりするなどして、自分に適した方法を理解させ、身に付けさせる指導等があります。

⑤計算することの指導

暗算や筆算をすることや数の概念を理解することが苦手な場合には、身近な事象をもとに、数概念を形成する指導や数概念を確認しながら計算力を高めたり、文章の内容を図示するなどしてその意味を理解させながら文章題を解いたりするなどして、自分に適した方法を理解させ、身に付けさせる指導等があります。

⑥推論することの指導

事実から結果を予測したり、結果から原因を推測したりすることが苦手な場合には、図形を弁別する指導や空間操作能力を育てる指導、算数や数学で使われる用語(左右、幅、奥行き等)を理解させる指導、位置関係を理解させる指導等を通して、推論するために自分に適した方法を理解させ、身に付けさせる指導等があります。

これらのほかにも、社会的技能や対人関係にかかわる困難を改善・克服するための指導として、ソーシャルスキルやライフスキルに関する内容などがあります。その際には、グループ指導を活用することも有効です。

さらに、障害の理解を図り、自分が得意なこと・不得意なことを児童生徒に自覚させる指導も大切です。

なお、LDのある児童生徒の場合、ADHDや自閉症の障害の特性を持つ場合もあり、指導の際には留意が必要です。

年齢又は発達に不釣り合いな注意力、又は衝動性・多動性が認められ、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすもので、一部特別な指導を必要とする児童生徒が、通級による指導の対象となります。

LDのある児童生徒と同様に、基本的には、自分の障害の特性とその特性から生じている困難を理解し、自分自身で工夫したり他者に支援を依頼したりするなどして、その困難の軽減を図ることができるようになるための指導が考えられます。

具体的には、不釣り合いな能力に応じ、以下のような指導が考えられます。

①不注意による間違いを少なくする指導

不注意な状態を引き起こす要因を明らかにする努力が大切です。その上で、例えば、刺激を調整し、注意力を高める指導、また、情報を確認しながら理解することを通して自分の行動を振り返らせるなどして、自分に適した方法を理解させ、身に付けさせる指導等があります。

②衝動性や多動性を抑える指導

指示の内容を具体的に理解させたり、手順を確認したりして、集中して作業に取り組ませるようにする指導や、作業や学習等の見通しをもたせるなどして集中できるようにする指導、身近なルールを継続して守らせるようにさせるなどして、自己の感情や欲求をコントロールする自分に適した方法を理解させ、身に付けさせる指導があります。

これらのほかにも、社会的技能や対人関係にかかわる困難を改善・克服するための指導として、ソーシャルスキルやライフスキルに関する内容などがあります。その際には、グループ指導を活用することも有効です。

さらに、障害の理解を図り、自分が得意なこと・不得意なことを児童生徒に自覚させる指導も大切です。

なお、ADHDのある児童生徒の場合、LDや自閉症の障害の特性を持つ場合もあり、指導の際には留意が必要です。

肢体不自由の場合、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別の指導を必要とする児童生徒が、通級による指導の対象となります。

指導内容としては、学習時の姿勢や言語の表出、認知の特性に応じた指導など、身体の動きや環境の把握、コミュニケーションなどの改善・向上を図るための指導が大切になりますが、障害の状態によっては、身体各部位の理解と養護に関することや、各種の支援機器等を学習や生活に活用できるようにする指導なども考えられます。

病弱及び身体虚弱の場合、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別の指導を必要とする児童生徒が、通級による指導の対象となります。また、入院中の児童生徒については、活動が病院内に制限されることから、教師が病院を巡回して指導に当たることも考えられます。

指導内容としては、健康状態の維持や管理、改善に関すること、心理的な安定や体力の向上を図るための指導が中心となります。

例えば、慢性疾患の児童生徒が自己管理や予防することの重要さを学ぶことで、自分の病状に合わせた活動を自ら選択できるように指導したり、進行性の疾患や精神性の疾患のある児童生徒に対して日記や作文を書かせることで、ストレスとなった要因に気付かせたり、ストレスを避ける方法や発散する方法を考えさせたりする指導などが考えられます。

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