第3節 教育改革の一層の推進

2.教育改革の進捗状況

(1)最近の教育改革の主な進捗状況

 ここでは,平成18年を中心に教育改革の主な進捗状況について,制度改正や新たな取組を中心にして,テーマごとに説明します。なお,平成17年度文部科学白書において,教育改革について特集していますので,併せてご覧ください。

【確かな学力の向上】

○学力向上アクションプランの推進(参照:第2部第2章第1節1
  • 学力向上拠点形成事業の実施を通じ,基礎的・基本的な内容を十分理解している子どもに対する発展的な学習などの学習活動を取り入れた指導,学習内容の習熟の程度に応じた指導など,個に応じた指導を推進しています。現在,全国の公立小学校の約8割,公立中学校の約7割で習熟度別指導を実施しています。
  • 総合的な学習の時間活性化プランの実施等を通じ,学ぶことの楽しさを体験させ,学習意欲を高めるとともに,大学や研究機関等と連携した先進的な理数教育などを行うスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の実施等を通じ,個性・能力の伸長を図ります。
○全国的な学力調査の実施に向けて(参照:第2部第2章第1節3
  • 平成19年度から「全国学力・学習状況調査」を実施します。これは,1児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより,国として教育の成果と課題を検証し,その改善を図るとともに,2各教育委員会・学校などが全国的な状況との関係において自らの教育の成果と課題をきめ細かく把握・分析し,その改善を図ることを目的としています。
  • これまで,平成17年11月に「全国的な学力調査の実施方法等に関する専門家検討会議」(座長:梶田叡一・兵庫教育大学長)を設置して具体的な実施方法などの方針について検討し,18年4月に報告書を取りまとめました。その後,18年6月には調査結果の取扱いや調査実施に当たっての留意点について記載した実施要領を作成し,11月には全国188校を対象にして予備調査を実施しました。

【豊かな心の育成】

○いじめ問題への対応(参照:第2部第2章Topics 4第2部第2章第2節
  • 「いじめの問題への取組の徹底について(文部科学省初等中等教育局長通知)」(平成18年10月19日)において,問題を隠さずに関係機関が連携していじめの早期発見・早期対応に取り組むべきことなど教育現場での取組の徹底を図っています。
  • 子どもの不安や悩みをより受け止めるために,夜間,休日でも対応できるよう都道府県教育委員会などの電話相談体制を充実するとともに,全国統一の「24時間いじめ相談ダイヤル(0570-0-78310)」の設置を行い,いじめ対策の一層の充実を図りました。
  • 「文部科学大臣からのお願い」(平成18年11月17日)を発表し,文部科学大臣から子どもと大人社会一般に対していじめの問題について呼びかけました。
  • 「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(文部科学省初等中等教育局通知)」(平成19年2月5日)を発出し,いじめなどの問題行動に対して,各教育委員会・学校が十分な教育的配慮の下,毅然とした指導を充実するよう出席停止制度について改めて周知するとともに,懲戒などの措置に関する文部科学省としての考え方を示しました。
○道徳教育の充実
  • 道徳の内容を分かりやすく表した小・中学生向けの「心のノート」の作成・配付などを行うとともに,児童生徒の心に響く道徳の指導方法などの実践研究を進めています(参照:第2部第2章第1節4(2))。
○学校教育における豊かな体験活動の推進
  • 学校教育において計画的・体系的に体験活動に取り組み,豊かな人間性と社会性の育成を図るため,平成14年度より「豊かな体験活動推進事業」を実施し,各学校における,自然の中での長期宿泊体験活動や社会奉仕体験など様々な体験活動を支援しています(参照:第2部第2章第1節4(3))。

【健やかな体の育成】

○スポーツ振興基本計画を改訂
  • 平成18年9月に改訂した「スポーツ振興基本計画」においては,昭和60年ごろから子どもの体力が長期的に低下傾向にあるという現状を踏まえ,外遊びやスポーツなどを通じた「子どもの体力の向上」を新たな政策課題の一つの柱とし,子どもの体力の低下傾向に歯止めをかけ,上昇傾向に転ずることなどを目指すこととしています(参照:第2部第8章Topics 2第2部第8章第1節1(1))。
○食育の推進
  • 栄養教諭を中核として,学校,家庭,地域が連携した食育推進のための事業を実施しています(平成18年度:94地域)。また,学校と生産者が連携した学校給食における地場産物の活用の促進,米飯給食の推進の在り方などの推進方策について実践的な調査研究を新たに実施しました(18年度:47地域)。なお,18年度は,25道府県,13国立大学法人で栄養教諭が配置されました(参照:第2部第8章第6節1)。

【幼児期からの「人間力」の向上】

○認定こども園を制度化
  • 平成18年6月9日に「就学前の子どもに関する教育,保育等の総合的な提供の推進に関する法律」が成立し,18年10月1日から,認定こども園制度が始まりました。本制度は,幼稚園,保育所などのうち,就学前の子どもに教育・保育を提供する機能と,地域における子育て支援を行う機能を備える施設が,認定こども園の認定を受けることができる制度です。これをきっかけに,保護者が働いている,いないにかかわらず教育・保育を一体的に提供すること,あるいは子育ての不安に対応した相談活動や親子の集いの場を提供することなど,就学前の教育・保育機能の一層の充実が期待されます(参照:第2部第2章Topics 1)。

【特別支援教育の推進】

○「盲・聾・養護学校」から「特別支援学校」へ
  • 学校教育法等の一部改正(平成18年6月15日成立,19年4月1日施行)を行い,盲・聾・養護学校の制度を複数の障害種別に対応した教育を実施することができる特別支援学校の制度に転換するとともに,地域の小中学校などへの助言・援助を努力義務化しました。また,小中学校などを含めたすべての学校において特別支援教育を行うことを明確にしました。これにより,近年の児童生徒などの障害の重複化や多様化に対応し,幼児,児童,生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う「特別支援教育」が一層推進されることが期待されています(参照:第2部第2章Topics 2第2部第2章第8節2(3))。
○小・中学校におけるLDなどを含む障害のある子どもに対する教育の充実
  • 学校教育法施行規則の一部改正等(平成18年4月1日施行)により,LD(注1)及びADHD(注2)の児童生徒が通級による指導の対象となりました(参照:第2部第2章第8節2(2))。
  • (注1)LD
    Learning Disability 学習障害の意。
  • (注2)ADHD
    Attention DeficitHyperactivity Disorder Atension Disability 注意欠陥/多動性障害の意。

【優秀教員の表彰,多様な人材の学校教育への登用】

○優秀教員を表彰
  • 平成19年2月15日には,学校教育活動において顕著な成果を上げている国公私立学校の教員765人を文部科学大臣が表彰しました。それとともに,各都道府県・指定都市教育委員会における優秀教員表彰の取組を促しています。
▲平成18年度 文部科学大臣優秀教員表彰式
○多様な人材を登用
  • 学校教育法施行規則を改正し,平成12年4月1日から民間人校長の登用が可能となり,102人(平成18年4月1日現在)が民間人校長として活躍しています。
  • また,平成18年4月1日からは,教員免許を持たず,教育に関する職に就いた経験のない民間人教頭の登用を制度化しました(参照:第2部第2章第3節1(5)2)。

【学校の組織運営の改革】

○学校評価システムの構築
  • 平成18年3月27日に,学校評価の方法,評価項目・指標などを示した「義務教育諸学校における学校評価ガイドライン」(文部科学大臣決定)を策定し(参照:第2部第2章第4節1(4)),これに基づく評価実践研究を,18年度には,各都道府県・政令指定都市で実施しました。また,全国124校の公立小中学校において,専門的・客観的な観点から行う学校の第三者評価を試行的に実施しました。これらにより学校は,自律的・継続的に教育活動の改善を行うとともに,開かれた学校として保護者や地域住民に対して説明責任を果たし,また,設置者などによる支援や条件整備などの改善を通じて,教育の質の保証・向上を図ることが期待されています。

【確固とした教育条件の整備】

○公立文教施設整備費を一部交付金化
  • 義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律を一部改正(平成18年3月29日成立,18年4月1日施行)し,改築や補強,大規模改造などの耐震関連経費を中心に,公立文教施設整備費の一部交付金化を行いました(参照:第2部第12章Topics 1)。これにより,地方の裁量幅が拡大し,効率的な施設整備が促進されることから,安全・安心な学校づくりに資するものと考えます。
○市町村費負担教職員任用事業を全国化
  • 地域の実情に応じた教育や特色ある学校づくりを図るため,平成15年度から構造改革特別区域制度において,県費負担教職員に加えて市町村が独自に給与を負担して教職員を任用することを可能としてきましたが,市町村の教育の更なる充実のため,市町村立学校職員給与負担法を改正(18年3月29日成立/18年4月1日施行)し,この任用を全国的に可能としました(参照:第2部第2章第3節3(3))。

【大学院教育の強化】

○大学院教育振興施策要綱を策定
  • 各国公私立大学における大学院教育の充実・強化を図る観点から,平成18年3月に大学院教育振興施策要綱を策定しました。この要綱では,今後の大学院教育の改革の方向性を示すとともに,各課程・専攻ごとの人材養成目的の明確化と大学院教育の実質化に向けた優れた取組への支援,世界最高水準の教育研究拠点の形成など,早急に取り組むべき重点施策を明示しました(参照:第2部第3章Topics 1)。

【医学教育の改善・充実】

○地域医療やがんに関する教育などの充実
  • 医学教育の改善・充実について平成17年5月から調査研究協力者会議を開催し,18年に,第一次報告(11月)及び第二次報告(12月)がまとめられ,各大学などに地域医療を担う医師の養成・確保の方策を示すとともに,医学教育に関し,社会的要請が高い事項について,モデル・コア・カリキュラムを改訂しました(参照:第2部第3章第2節3)。

【家庭・地域の教育力の向上】

○「早寝早起き朝ごはん」国民運動の全国展開
  • 平成18年度から「子どもの生活リズム向上プロジェクト」として,生活リズム向上のための全国的な普及啓発活動や先進地域における実践的な調査研究などを行っています(18年度 調査研究:45地域,全国フォーラム:7か所)。また,18年4月に民間団体が中心となって設立された「早寝早起き朝ごはん」全国協議会が行う運動に対して協力しています(参照:第2部第1章第2節3(2))。
○放課後子どもプランを推進
  • 「子どもの居場所づくり」を推進するため,平成16年度から緊急3カ年計画として「地域子ども教室推進事業」を実施しています(16年度:5,321か所,17年度:7,954か所,18年度:8,318か所)。
  • 平成19年度からは,放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用して,子どもたちの安全・安心な活動拠点を設け,地域の多様な方々の参画を得て,様々な体験・交流活動や学習活動等を推進する取組が,厚生労働省と連携した総合的な放課後対策「放課後子どもプラン」として全国展開される予定です(参照:第2部第1章第3節2)。

【教育費負担の在り方について】

○保護者負担を軽減
  • 各種世論調査において,将来の教育にお金がかかることなどについて不安を抱く人々が多いことや,少子化対策として経済的支援の充実を挙げる人々が多いことから,税制面では,引き続き,特定扶養控除制度や授業料等に対する消費税の非課税措置を維持するとともに,平成18年分からは,学校法人や奨学金事業を行う公益法人等への寄附を促進するため,学校法人等に対する個人からの寄附金に係る所得控除の適用下限額を1万円から5,000円に引き下げる措置を講じました。
     また,平成18年度予算においては,幼稚園就園奨励費補助や私学助成,奨学金事業など諸施策を通じ,教育費負担の軽減に取り組みました。
  • 幼稚園就園奨励費補助金 [平成18年度予算額] 181億円 (対前年度比 3,100万円増)
  • 私学助成(経常費補助) [平成18年度予算額] 4,351億円 (対前年度比 25億円増)
  • 日本学生支援機構奨学金事業 [平成18年度事業費] 7,999億円 (対前年度比 489億円増)
    (※高等学校等奨学金事業交付金分(190億円)を含む。)

(2)中央教育審議会の最近の審議状況について

 中央教育審議会は,文部科学大臣の諮問に応じ,教育の振興,生涯学習の推進,スポーツの振興などに関する重要事項を調査審議する機関であり,教育改革の推進に当たり,重要な役割を果たしています。最近では,平成19年2月6日に開催された第58回総会において,関係法案(学校教育法,教育職員免許法等,地方教育行政の組織及び運営に関する法律)及び教育振興基本計画について,文部科学大臣から審議要請がなされ,これを受け,3月10日に「教育基本法の改正を受けて緊急に必要とされる教育制度の改正について」(答申)が取りまとめられました。また,教育振興基本計画については,鋭意検討が行われています。このほか,18年度においては,次のような検討が行われました。

◆生涯学習関係

 国民一人一人の生涯を通じた学習活動を促進することと,子どもたちが家庭や地域社会の中で伸び伸びとはぐくまれるような環境を整えることが喫緊の課題となっていることを踏まえ,平成17年6月に「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」諮問がなされました。
 平成19年1月30日には,これまでの審議の内容を整理し,国民の学習活動の促進,家庭・地域の教育力の向上,地域社会全体で学習活動の支援に関する具体的な方策とともに,国・地方公共団体・民間団体などの今後の役割について提言した「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」(中間報告)が取りまとめられ,引き続き検討が行われています(参照:第2部第1章Topics 1)。

◆初等中等教育関係

 平成17年10月26日に出された「新しい時代の義務教育を創造する」(答申)の中で,引き続き検討が必要であるとされた課題などを中心に,義務教育9年間を見通した目標の明確化や高等学校の目標の在り方などについて,18年12月22日に公布・施行された新しい教育基本法を踏まえつつ,更なる検討が行われています。
 また,教育内容の改善については,教育課程部会において,平成18年2月13日に「審議経過報告」が取りまとめられ,学習指導要領全体の見直しについて基本的方向性が示されました。また,19年1月26日には,「審議経過報告」以降の審議も含めたそれまでの検討状況を整理した「第3期教育課程部会の審議の状況について」が取りまとめられ,引き続き学習指導要領全体の見直しなどについて検討が行われています(参照:第2部第2章第1節2(1))。
 教師の質の向上に関しては,教員が広く国民や社会から尊敬と信頼を得られる存在となることが重要であるとの観点から審議が行われ,平成18年7月11日に「教職課程の質的水準の向上」,「教職大学院制度の創設」,「教員免許更新制の導入」などについて提言した「今後の教員養成・免許制度の在り方について」(答申)が取りまとめられました(参照:第2部第2章Topics 3第2部第2章第3節1(2))。
 さらに,平成18年7月に設置された「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」においては,メリハリある給与体系を構築し,教育の質の向上を図るという観点から,公立学校の教職員給与の在り方について,検討が行われています(参照:第2部第2章第3節3(4))。

◆高等教育関係

 平成13年4月に行われた「今後の高等教育改革の推進方策について」の包括的な諮問を受け,1短期大学,高等専門学校から大学院までの高等教育制度全体の在り方について,2大学等の設置認可の望ましい在り方と今後の高等教育の全体規模,3職業資格との関連も視野に入れた新しい形態の大学院などの整備の在り方について,具体的な改革を推進していくため,現在,高等教育の質の保証や学生の視点に立った大学教育の展開など,「学士課程教育の在り方」について検討が行われています。
 また,大学院教育については,平成18年3月に大学院教育の実質化,国際的な通用性・信頼性の向上を目的とした「大学院教育振興施策要綱」を策定したことを受け,大学院部会において,本要綱のフォローアップや専門職大学院の在り方について検討が行われています(参照:第2部第3章Topics 1)。

◆スポーツ・青少年関係

 青少年が自立した人間として成長するに当たって,行動の原動力である意欲の向上を図ることが急務であることから,平成17年6月に「青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促す方策について」が諮問され,スポーツ・青少年分科会において審議が行われてきました。19年1月30日には,青少年の意欲をめぐる現状とその背景を検証するとともに,青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促すために講ずべき方策について,「次代を担う自立した青少年の育成に向けて」(答申)が出されました(参照:第2部第8章Topics 1)。

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