第2節 暴力行為,いじめ,不登校等の解決を目指して

1.生徒指導上の諸問題について

(1)生徒指導の在り方について

 生徒指導とは,児童生徒にとって学校生活が有意義かつ充実したものになることを目指して行われる指導です。すべての児童生徒を対象として,学校におけるあらゆる教育活動の中で,児童生徒が社会的な資質や能力,態度などを身をもって修得し,発達させるような指導・援助が行われています。
 しかし,暴力行為などの問題行動が依然として大きな教育上の課題となっており,少年による重大事件も続発しています。こうした憂慮すべき事態に対し,これまで以上に,児童生徒の規範意識や社会性を育成するための取組を強化するとともに,関係機関による連携体制の構築や教育相談体制の充実などきめ細やかな支援を行っていく必要があります。

(2)暴力行為

 平成17年度において,全国の公立小・中・高等学校の児童生徒が起こした暴力行為(対教師暴力・生徒間暴力・対人暴力・器物損壊)の発生状況は,学校内で発生したものが全学校の15.4パーセントに当たる5,720校において3万283件,学校外で発生したものが全学校の6.3パーセントに当たる2,324校において3,735件となっており,特に小学校における暴力行為は,前年度から約100件増の2,176件となっており,大きな課題となっています(図表2-2-6)。
 少年非行については,警察庁の調べによると,平成17年の刑法犯少年の検挙人員は2年連続で減少していますが,少年に関係する社会を震かんさせる事件が続発し,予断を許さない状況にあります。
 文部科学省では,省内に設置したプロジェクトチームが平成17年9月に取りまとめた「新・児童生徒の問題行動対策重点プログラム(中間まとめ)」を受け,学校と警察が連携して児童生徒の非行防止に取り組む「非行防止教室」をより推進するため,平成18年5月に「児童生徒の規範意識を育むための教師用指導資料(非行防止教室を中心とした取組)」を作成し,各学校が非行防止教室を実施する際の校内体制の在り方,各教職員の役割分担,教育課程への位置付けなどについてまとめました。
 また,国立教育政策研究所においても,平成17年11月から「生徒指導体制の在り方に関する調査研究」を実施し,18年5月にその報告書を公表しました。この報告書では,生徒指導の対応に関する基準の明確化と周知,指導方針に基づく粘り強い指導など,「ぶれない」「毅然とした」生徒指導の必要性について提言しています。
 このほか,問題行動への対応については,関係機関が連携して取り組むことが重要であるため,平成16年度から「問題行動に対する地域における行動連携推進事業」において,サポートチーム(注)の取組を一層充実させるとともに,「あそび・非行」型の不登校児童生徒や学校内で深刻な問題行動を起こす児童生徒に対応するため,学校内外での支援等を行う「自立支援教室」の取組を推進しています。

  • (注)サポートチーム
     ここでは,問題行動などを起こす個々の児童生徒の状況に応じ,学校,教育委員会,関係機関などが連携して対応するチームを指す。

図表●2-2-6 学校内における暴力行為発生件数の推移

(3)いじめ(参照:Topics 4

 平成17年度において,全国の公立小・中・高・特殊教育諸学校におけるいじめの発生件数は全学校の19.4パーセントに当たる2万143件であり,2年連続で減少しました(図表2-2-7)。
 一方で,現行の調査方法では,いじめの実態を適切に把握できていないという指摘もあり,現在,調査方法の見直しを行っているところです。
 いじめ問題への対応については,問題を隠さず早期発見・早期対応に努めることが大切です。特にいじめる児童生徒に対しては,いじめの非人間性や,それが他人の人権を侵す行為であることに気付かせ,他人の痛みを理解できるよう教育的な指導を徹底することや,校内において他の児童生徒と異なる場所における特別の指導計画による指導等を粘り強く行う必要があります。また,それでも状況に改善が見られず,性向不良であって他の児童生徒の教育に妨げがあると認められた児童生徒については,出席停止の措置もためらわず検討する必要があります。
 また,いじめられる児童生徒については,しっかり守り通しということを全教職員間で徹底するとともに,緊急避難としての欠席や学級替えなどの実施,「転校」措置の弾力的運用など,あくまでもいじめられる児童生徒の立場に立った取組がなされることが重要であり,文部科学省としてはその指導の徹底に努めています。

図表●2-2-7 いじめの発生件数の推移

(4)不登校

 平成17年度に,「不登校」を理由に年間30日以上学校を欠席した児童生徒数は,全国の国公私立小・中学生合わせて12万2,287人で4年連続で減少し,高等学校における不登校生徒数についても,5万9,419人で,前年度から減少しているものの,依然として相当数に上っており,引き続き教育上の大きな課題となっています(図表2-2-8)。
 文部科学省では,不登校への早期対応ときめ細やかな支援を行うため,不登校児童生徒の学校外の居場所である教育支援センター(いわゆる適応指導教室)を核とした地域ぐるみのネットワークを整備する「スクーリング・サポート・ネットワーク整備事業(SSN)」を実施するとともに,複雑化する不登校の要因や背景に応じた適切な対策を行うために不登校児童生徒への指導・支援に実績のあるNPO,民間施設等に対して,不登校児童生徒の実態に応じた効果的な活動プログラムや「あそび・非行」型の不登校児童生徒の立ち直りや学校復帰を支援するための効果的なプログラムの開発を委託する「不登校への対応におけるNPO等の活用に関する実践研究事業」を実施しています。

図表●2-2-8 不登校児童生徒数の推移

(5)高等学校中途退学

 平成17年度の国・公・私立高等学校における中途退学者数は,7万6,693人であり,また,在籍者に占める中途退学者の割合(中退率)は2.1パーセントとなっており,5年連続で減少しています(図表2-2-9)。中途退学の理由は,「学校生活・学業不適応」が38.6パーセントで最も多く,次いで「進路変更」が34.2パーセントとなっています。
 高等学校中途退学問題については,平成15年度から実施されている高等学校学習指導要領の下で,各高等学校において,生徒の能力・適性・興味・関心などに応じて魅力ある教育活動を展開するとともに,一層きめ細かな教育相談,ガイダンスを実施することなどが重要です。また,就職や他の学校への転・編入学など積極的な進路変更について支援していくことも大切です。

図表●2-2-9 公・私立学校における中途退学者数の推移

(6)自殺

 文部科学省の調べによると,平成17年度の公立小・中・高校の自殺者数は103人です。近年,この数値に大きな増減はありませんが,児童生徒の自殺については,身近な人の自殺や著名人の自殺などに影響を受けた連鎖的な自殺や,ネット上で知り合った人との自殺の問題など,教育上大きな課題があります。
 文部科学省では,これまでも命の大切さを学ばせる指導やいじめ対策などを通じて児童生徒の自殺防止に取り組んできましたが,児童生徒の自殺の特徴や傾向などを踏まえた対策をより徹底するため,平成18年8月より「児童生徒の自殺防止に向けた取組に関する検討会」を開催し,教育現場に資する自殺対策について検討を行っているところです。

(7)校則

 校則とは,児童生徒が健全な学校生活を営み,より良く成長・発達していくため,各学校の責任と判断の下にそれぞれ定められる一定の決まりです。校則自体は教育的に意義のあるものですが,その内容・運用は,児童生徒の実態,保護者の考え方,地域の実情,時代の進展などを踏まえたものとなるよう,各学校において積極的に見直しを行うことが大切です。
 文部科学省では,平成9年度に実施した「日常の生徒指導の在り方に関する調査研究」の調査結果を受けて,10年9月に,各学校における校則と校則指導が適切なものとなるよう都道府県などに対し通知を出し,指導の徹底に努めています。

(8)懲戒・体罰

 文部科学省の調査によれば,平成17年度に体罰に関して処分を受けた教員数は146人(前年度比3人増)となっています。
 体罰については,学校教育法により厳に禁止されていますが,もとより体罰による懲戒は,児童生徒の人権の尊重という観点からも許されるものではありません。また,教師と児童生徒との信頼関係を損なう原因ともなり,教育的な効果も期待できないと考えられます。
 一方,体罰がどのような行為であり,児童生徒への懲戒がどの程度まで認められるかを機械的に判定することは困難であり,このことが,ややもすると教員等が,自らの指導に自信を持てない状況を生み,実際の指導において過度の萎縮を招いているとの指摘もなされているところです。
 こうしたことから,学校が問題行動に適切に対応し,生徒指導のいっそうの充実を図ることができるよう,懲戒・体罰に関する裁判例の動向なども踏まえ,平成19年2月5日に「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(文部科学省初等中等教育局長通知)」を発出し,懲戒・体罰に関する解釈・運用の考え方を示したところです。
 文部科学省では今後,同通知の内容も含め,体罰の根絶について引き続き指導を行っていくこととしています。

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