第3節 魅力ある優れた教員の確保

3.義務教育費国庫負担制度及び諸関連制度の改革

(1)義務教育費国庫負担制度について

 義務教育費国庫負担制度は,すべての国民が,全国どの地域においても無償で一定水準の義務教育を受けられるようにするため,義務教育費の大半を占める公立の義務教育諸学校の教職員給与費について,国と地方の負担によりその全額を保障するものです。この制度は,国が法律によって学級編制や教職員定数の標準を定める法律とあいまって,教育の機会均等とその水準の維持向上のために重要な役割を果たしており,結果として全国約70万人の教職員給与費の総額5兆円が確実に確保されています。

(2)義務教育費国庫負担制度の改革

1三位一体改革について

 国庫補助負担金,税源移譲を含む税源配分,地方交付税の在り方を一体的に見直すこととしている「三位一体の改革」の中,この義務教育費国庫負担制度も検討の対象となりました。平成16年8月24日の地方六団体の案では,義務教育費国庫負担金全額を廃止し,税源移譲の対象とすることとした上で,中学校教職員の給与等に係る負担金を移譲対象補助金とすることとしていました。
 その後,政府部内における検討を経て,平成16年11月26日の「三位一体改革について」(政府・与党合意)において,この義務教育費国庫負担制の在り方について平成17年秋までに中央教育審議会において結論を得るとされました。これを受け,中央教育審議会において,義務教育制度の根幹を維持し,国の責任を引き続き堅持する方針の下で,地方の意見を真しに受け止め,費用負担についての地方案を生かす方策について審議を行いました。その結果,17年10月26日,中央教育審議会から,「義務教育の構造改革を推進すると同時に,義務教育制度の根幹を維持し,国の責任を引き続き堅持するためには,国と地方の負担により義務教育の教職員給与費の全額が保障されるという意味で,現行の負担率2分の1の国庫負担制度は,教職員給与費の優れた保障方法であり,今後も維持されるべき」(「新しい時代の義務教育を創造する(答申)」)との答申が出されました。そして,地方六団体から推薦された委員による地方の自由度を拡大し,自らの責任と判断で義務教育を運営する方法が地方分権の観点からも最も適切であるという主張は,学校と市区町村の自由度の拡大により実現されることが確認されました。
 このような一連の経緯を踏まえ,政府部内で慎重な検討が行われた結果,平成17年11月末の政府・与党合意において「義務教育制度については,その根幹を維持し,義務教育費国庫負担制度を堅持する。その方針の下,費用負担について,小中学校を通じて国庫負担の割合は3分の1とし,8,500億円程度の削減及び税源移譲を確実に実施する。また,今後,与党において,義務教育や高等学校教育等の在り方,国,都道府県,市町村の役割について引き続き検討する。」ことが決定されました。
 これにより,国の負担割合が2分の1から3分の1に引き下げられるものの,義務教育費国庫負担制度は今後とも堅持されることが初めて明記されました。その後,第164回国会において,国の負担率を3分の1に改める義務教育費国庫負担法の改正が行われました。

2総額裁量制の導入について

 平成16年度から,義務教育国庫負担制度に「総額裁量制」が導入されました。この「総額裁量制」は,都道府県ごとに配分される国庫負担金の総額の中で,都道府県が給与の種類・額や教職員数を自由に決定することができるという制度です。この制度の導入により,全国的な教育水準の維持・向上を図るために必要な国庫負担総額を確保しながら,例えば,各県の判断で,少人数教育の充実のために給与水準の引下げによって生じた財源で教職員数を増やすなど,教職員の給与や配置について地方の自由度が大幅に拡大し,地方独自の教育の展開が一層可能となりました(図表2-2-18)。

図表●2-2-18 総額裁量制の概要

3国庫負担制度の統合について

  1の中央教育審議会答申では,義務教育費国庫負担制度の維持とともに,地方の裁量を拡大するために義務教育費国庫負担制度の更なる改善の必要性が指摘されました。
 このことを受けて,地域の実情に応じた教職員配置が一層可能となるよう,これまで小中盲聾学校と養護学校が別々の国庫負担制度により教職員給与費が保障されていたのを見直し,平成18年度から二つの制度を一つに統合することとしました(第164回国会において義務教育費国庫負担法及び公立養護学校整備特別措置法を改正)。
 これにより,例えば,教職員給与費全体の中で,特別支援学校等の教員配置を充実させるなど,学校種を超えた柔軟な教職員配置が可能となり,総額裁量制のメリットを更に活かすことができるようになりました(図表2-2-19)。

図表●2-2-19 小中学校・盲聾学校と養護学校に係る国庫負担制度の一本化

(3)市町村費負担教職員任用事業の全国化

 市町村立小中学校などの教職員の給与費については,市町村間の財政力格差により人材確保が困難になり,地域ごとの教育水準に格差が生じないよう,都道府県が市町村に代わって市町村立小中学校などの教職員を任用した上で,その給与を都道府県が負担することとしています(県費負担教職員制度)。
 平成15年度より構造改革特区において,地域の実情に応じて教育や特色ある学校づくりを図るため,教育上特に配慮が必要な事情がある場合には,県費負担教職員に加えて,市町村が自ら給与を負担することにより,市町村立小中学校などの教職員を任用することができるようになりました(市町村費負担教職員任用事業)。
 これにより,市町村が独自の判断で地域の人材を教員として任用することができ,地域の特性に応じた学校教育の充実や各学校における特色ある学校づくりが可能となりました。平成18年1月時点においては,25市町村(認定市町村:31団体)において,220人の教職員が任用されており,少人数学級編制,不登校対策,英語教育の実施など地域のニーズに合わせた独自の取組が行われています。さらに,市町村が教育の充実を図るため,それぞれの創意工夫を凝らした教育活動を展開することができるよう,あくまでも県費負担教職員制度を前提とした上で,この事業を全国化(特区認定を受けることなく事業を実施することができること)することとしました(第164回国会において市町村立学校職員給与負担法を改正)。

(4)教職員給与の見直しについて

 日本の将来を担う子どもたちにより良い教育を行うためには,時代を問わず,優秀な教員の確保が極めて重要な課題です。
 ところが,昭和40年代,優秀な人材が給与の低い教職を避けて他職種を目指すようになり,教職員の質が大きな問題となりました。このため,優秀な人材を確保するためには,教員の処遇改善を図る必要があるとして,義務教育水準の維持向上を図ることを目的に,教員の給与を一般の公務員より優遇することを定めた,「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(いわゆる「人材確保法」)が制定されました。これにより,公立学校教員採用試験の競争倍率や国立大学の教員養成学部の応募倍率が,他学部の倍率に比べて相対的に上昇しました。このように,人材確保法による給与改善に伴い,教職を目指す若者が増えたことで,優秀な人材の確保について成果がありました。
 他方,現在,政府は公務員の総人件費の改革として,給与制度の改革を強力に推進しており,平成18年6月2日には「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(いわゆる「行政改革推進法」)が公布・施行されました。この法律の中で,教職員の給与については,「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(昭和49年法律第2号)の廃止を含めた見直しその他公立学校の教職員の給与の在り方に関する検討を行い,平成18年度中に結論を得て,平成20年4月を目途に必要な措置を講ずる」こととされました。さらに,18年7月7日閣議決定された,「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(いわゆる「骨太の方針2006」)においても,「人材確保法に基づく優遇措置を縮減するとともに,メリハリを付けた教員給与体系を検討する。その結果を退職手当等にも反映させる」ことが盛り込まれました。
 これらを受けて,平成18年7月,中央教育審議会に「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」が設置されたところであり,文部科学省としては,このワーキンググループの議論を踏まえ,優れた人材を教職員に確保できるよう,メリハリある教員給与制度の構築に向けて十分に検討していくこととしています。

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