第8節 障害のある児童生徒の可能性を最大限に発揮するための特別支援教育

2.特別支援教育を推進するための制度的見直し(注1)

(1)中央教育審議会答申等における提言

 平成15年3月に,特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議において「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」が取りまとめられ,障害の程度などに応じ特別の場で指導を行う「特殊教育」から,障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う「特別支援教育」への転換を図ることが基本的な方向として提言されました。
 これを受け,平成16年2月に中央教育審議会初等中等教育分科会の下に特別支援教育特別委員会が設置され,関係する団体や教育委員会などからの意見を聴きながら審議を進め,17年12月8日に「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」が取りまとめられました。
 この答申においては,1障害のある児童生徒などの教育について,従来の「特殊教育」から,一人一人のニーズに応じた適切な指導及び必要な支援を行う「特別支援教育」に転換すること,2盲・聾・養護学校の制度を,複数の障害種別を教育の対象とすることができる学校制度である「特別支援学校」に転換し,盲・聾・養護学校教諭免許状を「特別支援学校教諭免許状」に一本化するとともに,特別支援学校の機能として地域の特別支援教育のセンターとしての機能を位置付けること,3小・中学校において,LD・ADHDを新たに通級による指導の対象とし,また特別支援教室(仮称)(注2)の構想については,特殊学級が有する機能の維持,教職員配置との関連などの諸課題に留意しつつ,その実現に向け引き続き検討することなどが提言されました。
 文部科学省においては,この答申の提言等を踏まえ必要な制度の見直しについての検討を進め,次の(2),(3)の制度改正を行いました。

  • (注1)答申や制度改正
     資料についてはhttps://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material.htm(※特別支援教育に関することへリンク)を参照。
  • (注2)特別支援教室(仮称)
     LD・ADHD・高機能自閉症等も含め障害のある児童生徒が通常の学級に在籍した上で,一人一人の障害に応じた特別な指導を必要な時間のみ特別の場で行う形態。

(2)LD,ADHDの児童生徒の通級による指導など

 小・中学校の通常の学級に在籍するLD・ADHDの児童生徒に対し,教育的支援を適切に行うため,学校教育法施行規則の一部改正を行い,平成18年4月から新たにLD・ADHDの児童生徒を通級による指導の対象に位置付けました。

(3)学校教育法等の一部改正(参照:本章Topics 2

 近年,児童生徒等の障害の重複化や多様化に伴い,一人一人の教育的ニーズに応じた適切な教育の実施や,学校と福祉,医療,労働などの関係機関との連携がこれまで以上に求められているという状況にかんがみ,児童生徒等の個々のニーズに柔軟に対応し,適切な指導及び支援を行う観点から,「学校教育法等の一部を改正する法律」(平成18年6月成立・公布,19年4月施行)が成立しました。具体的な改正内容については次のとおりです。

1学校教育法の一部改正

(ア)特別支援学校の創設

 学校教育法に位置付けられている盲・聾・養護学校について,障害の重複化に対応するため,これまで盲・聾・養護学校がそれぞれ対応してきたすべての障害種別のうち複数のものに対応することができる「特別支援学校」の制度に転換しました。なお,個々の特別支援学校が対象とする障害種別は設置者において判断することになります。
 また,特別支援学校が障害のある児童生徒等の教育についての専門性を地域に還元するための取組を一層促進するため,幼稚園,小学校,中学校,高等学校等の要請に基づき,これらの学校に在籍する障害のある児童生徒等の教育に関し,助言又は援助を行うよう努めることとしました。

(イ)小・中学校などにおける特別支援教育の推進

 学校教育法において,小・中学校などにおいても,LD・ADHDを含む障害のある児童生徒に対する特別支援教育を実施する旨を明確に規定することにしました。なお,従来の特殊学級の名称は「特別支援学級」に改めました。

2教育職員免許法の一部改正

 従来,盲学校・聾学校・養護学校ごとに分けられていた教員の免許状を,特別支援学校の教員の免許状に一本化し,その授与の要件などを定めました。
 特別支援学校教員免許状の取得のためには,様々な障害についての基礎的な知識・理解と,特定の障害についての専門性とを確保することとしました。また,大学などにおける特別支援教育に関する科目の修得状況などに応じ,教授可能な障害の種別(教育領域。例えば「視覚障害者に関する教育」など)を特定して授与することとしました。

3その他関係法令の規定の整備

 この改正に伴う関係法令の整備の中では,就学手続についても見直しが行われ,市町村教育委員会が障害のある児童の就学先を決定する際には従来より専門家の意見を聴取して就学先を決定することとされていましたが,これに加えて保護者の意見も聴取することが法令上義務付けられました。

(4)特別支援教育の一層の充実と推進のための教育課程の見直し

 盲・聾・養護学校や小・中学校などの特別支援教育に関する教育課程については,中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の下に「特別支援教育専門部会」を設け,平成18年3月から審議を進めています。盲・聾・養護学校の学習指導要領の見直しについて,1障害の重度・重複化,多様化に対応した教育課程の改善,2自立と社会参加を促進するための職業教育等の充実,3交流及び共同学習の推進などについて検討しているところです。あわせて,小・中学校などにおける特別支援教育の一層の改善・充実を図るための教育課程の見直しについても検討しています。

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