競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)

競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)-2020年以降を見通した強力で持続可能な支援体制の構築-

平成28年10月3日
スポーツ庁長官 鈴木大地

はじめに 日本に競技力強化・支援のレガシーを -関係者の「覚悟」と「挑戦」-

リオデジャネイロで開催されたオリンピック競技大会及びパラリンピック競技大会(以下「リオ大会」)において、 日本はオリンピックで金12個、銀8個、銅21個、合計41個を獲得し、パラリンピックで銀10個、銅14個、合計24個を獲得した。

オリンピックでは過去最多のメダル獲得数だった前回のロンドン大会の38個を上回り、入賞数も前回大会の80を上回り過去最多の88に達した。2014年度に文部科学省(スポーツ庁)に移管されたパラリンピックではメダル獲得数は前回大会の16個を大きく上回り、入賞数も前回大会の87を上回る97※に達した。競技力強化とその支援は総じて一定の成果を上げている。
注)入賞数はJOC、JPC調べ。※は暫定値。

一方、課題も浮き彫りになった。
オリンピックでは前回のロンドン大会でメダルを獲得した競技数は13だったが、リオ大会は10だった。
パラリンピックのメダル獲得競技数は前回大会の6を上回り7に達したが、世界の競技水準が急激に上昇する中で夏季大会として史上初めて金メダルの獲得を逃した。
日本はメダルの獲得が安定して期待できる競技が固定的かつ少数である。それらはいずれも強豪国と呼ばれる国々などと 既に厳しい競合関係にあり、それらの競技だけで飛躍的にメダル獲得数を伸ばすことは難しい。2020年の東京オリンピック競技大会及び東京パラ リンピック競技大会(以下「東京大会」)におけるJOC及びJPCのメダル獲得目標を踏まえつつ、日本が過去最多の金メダルを 獲得するなど優秀な成績を収めるには、得意とする競技の強化を一層図るとともに、メダルを獲得できる競技数を増やす必要がある。

リオ大会が終わり、いよいよ日本は、2018年の平昌オリンピック冬季競技大会及びパラリンピック冬季競技大会(以下「平昌大会」)をステップとして、自国開催となる2020年の東京大会に邁進する。リオ大会での成果と課題をしっかりと踏まえ、日本の各中央競技団体(以下「NF」)では競技力強化を、スポーツ庁、JOC・JPC、日本スポーツ振興センター(以下「JSC」)ではそのための支援を、ますます充実しなければならない。

この機をとらえ、私はスポーツ庁長官として、JOC・JPC、日本体育協会(以下「JASA」)、JSC等の意見も踏まえ、競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)を示すことにした。その内容には予算要求中のものも含まれるが、予算をお認めいただければ直ちに実施し、できることは今年度から着手したい。

このプランの目的は東京大会で日本が優れた成績を収めるよう支援するだけでなく、その取り組みを強力で持続可能な支援体制として構築・継承することにある。メダル獲得が全てという考え方は適切ではないが、メダル獲得を目標・原動力とした日本のトップアスリートのひたむきな努力、試合で躍動する姿は、勝敗に関わらずこの国に活力を、国民に希望と勇気を与える素晴らしい力を持っている。その力が東京大会以降も永く発揮されるよう、NFによる競技力強化のプロセスを支える優れた仕組みを後世に伝えることは、競技スポーツの祭典である東京大会の開催国に創出されるにふさわしい最重要のレガシーだと私は確信する。

スポーツ関係者は、このプランを踏まえ、競技力強化とその支援の充実のためにあらゆる努力を傾注する強固な「覚悟」を持ち、それぞれの立場で「挑戦」し、成し遂げる必要がある。

パラリンピック競技支援への配慮等
このプランは夏季・冬季競技共通である。またパラリンピック競技とオリンピック競技の支援内容に差を設けない(「オリパラ一体化」)。
その上で、パラリンピック競技の特性や競技力強化の環境等に十分配慮した支援が必要である。

1.中長期の強化戦略プランの実効化を支援するシステムの確立

高度で安定した競技力強化を行うには、各NFが少なくとも2大会先のオリンピック・パラリンピックにおける成果を見通した中長期の強化戦略プラン(以下「強化戦略プラン」)の策定・実践・更新を通じてシニアとジュニア(次世代)のトップアスリート(以下「アスリート」)の強化等を4年単位で総合的・計画的に進めることが望ましい。強化戦略プランの実効化はNFの競技力強化ガバナンスの生命線であり、支援には以下の取り組みが必要である。

(1)協働コンサルテーション等の実施
・本年4月にJSCに設置されたハイパフォーマンスセンター(Japan HighPerformance Sport Center)※にJOC・JPCを含めた協働チームを設置。
※「国立スポーツ科学センターとナショナルトレーニングセンターの連携」及び「JOC・JPC、JSCの連携」のためJSCに発足した組織
・協働チームは、NFの強化戦略プラン(4年、8年単位)におけるPDCAサイクルの各段階で多面的にコンサルテーション・モニタリングを実施。
・協働コンサルテーションは今月から開始。

コンサルテーションの主な観点
育成・強化活動(例)
・メダルポテンシャルアスリート(MPA)最大化のための取組み
MPA…世界選手権大会等で入賞の実績を有するアスリート
ジュニア(次世代)で上記に相当する実績を有するアスリート
・指導者・スタッフ育成のための取組み
・トレーニング強化のための取組み
・発掘・育成・強化環境の改善のための取組み
・スポーツ医・科学サポート、情報戦略の高度化、スポーツ・インテグリティ、アンチ・ドーピングなどの取組み
・マテリアル開発等のための取組み
・広報戦略(SNS等の活用)
目標設定(例)
・MPAの特定
・MPAのパフォーマンス目標
・オリンピック・パラリンピックにおけるメダル獲得目標

(2)NF評価への活用
・協働チームが得た知見は、スポーツ庁等によるターゲットスポーツの指定や各種事業の資金配分に関するNF評価に活用。
・評価に当たっては過去の大会成績を加味しつつ、強化戦略プランの達成度を重視。シニア・ジュニア(次世代)の一貫指導体制、発掘育成、指導者・スタッフの育成、トレーニング強化、スポーツ医・科学サポート、情報戦略、スポーツ・インテグリティ、アンチ・ドーピング、広報戦略(例えばSNS等によるアスリートの活躍やインタビューの発信を通じ、国民への説明、普及の促進はもとより、今後の活躍を目指す層の更なる奮起や発掘に活かす取り組み)など、NFの「現在」や4年先、8年先の「将来」を見通した取り組みを積極評価。
・競技特性を踏まえたきめ細かい評価を行うため、「記録系」「採点系」「ボール系」「格闘技系」などのカテゴリー別に評価。

2.ハイパフォーマンスセンターの機能強化

NFの強化戦略等を支援するには、ハイパフォーマンスセンターによる1.の支援だけでなく、同センター自体の機能を強化し、スポーツ・インテリジェンスや競技用具等の機能向上、アスリートのデータ集積・活用、ナショナルトレーニング施設整備などの面からより積極的に支援する以下の取り組みが必要である。

(1)戦略本部等の体制強化
・戦略本部(本年5月設置)や国立スポーツ科学センター(以下「JISS」)のさらなる体制強化を図るため以下の機能を置く。
a)スポーツ・インテリジェンスセンター(仮称)
諸外国のメダル戦略、選手強化方法、用具、急成長中の隠れた選手の情報等を収集分析し、NFの試合戦術、強化戦略プラン、スポーツ庁の政策立案等に反映。
b)スポーツ技術・開発センター(仮称)
メダル獲得が有望な競技・アスリートの競技用具等の調整、機能向上、技術開発のための体制を整備。NFの強化戦略を技術面から支援。
c)アスリート・データセンター(仮称)
アスリートの各種データを一元管理し、本人等が必要な情報を迅速に取得できるシステムを構築。NFの試合戦術、強化戦略プラン、新たな強化方法の開発、スポーツ医・科学研究などにも貢献。

(2)ナショナルトレーニングセンターの拡充整備
・JISS・ナショナルトレーニングセンター(以下「NTC」。アスリートビレッジを含む。)が集積する東京都北区西が丘に、日本初となるパラ仕様の最先端屋内総合トレーニング施設を整備し、オリパラ共用による競技力強化を支援。
・2020年東京大会時の日本選手のトレーニング&リカバリー拠点となることも想定。少なくとも東京大会の約一年前の開所を目指す。
・また、国内外におけるトレーニング場所の確保支援についても検討。

3.アスリート発掘への支援強化

世界には発掘から2~3年でメダルアスリートに成長した事例が少なくない。東京大会に向け、またそれ以降の強力で持続可能な支援体制を構築する上で、アスリート発掘支援の強化・確立は非常に重要である。特にパラリンピック競技における発掘とその支援は急務である。
日本における発掘は、NFが地方大会で実績のあるジュニア等を本格的な強化コース(パスウェイ)に引き上げるのが一般的である(種目特化型)。しかし、この方法だけでは母数が限られ、未知のタレント発掘や種目転向などには限界がある。現在JSCが都道府県の発掘事業とNFのパスウェイをつなぐ支援を行っているが、以下の取り組みを通じさらに強化する必要がある。

(1)日本体育協会(JASA)の参画
・従来のNF、JSC、都道府県による取り組みに、JASAが新たに参画。
・オリンピック・パラリンピック競技のうち、主にこれから恒常的なメダル獲得を目指す競技を対象に、アスリートの特性に応じて競技を探す種目適性型、類似したスキルの種目に転向する種目最適型の発掘を担当。
・アスリート発掘の重要性と手法の普及・定着のため、NFや都道府県を対象とした「TIDシンポジウム(仮称)」を全国で開催。
※TID…Talent Identification and Developement

(2)中体連・高体連・高野連・障がい者スポーツ協会・医療機関等との連携
・JASAはその全国ネットワークを活用し、JSCの支援のもと、JOC・JPC、中体連・高体連・高野連・障がい者スポーツ協会、医療機関、特別支援学校を含む諸学校と連携しアスリート発掘を推進。
・例えば全国中学校体育大会(全中)や全国高等学校総合体育大会(インターハイ)、選抜高等学校野球大会や全国高等学校野球選手権大会(甲子園)の予選・本選の機会等を活用し、大会終了を機に引退する選手、ベンチや応援に回った選手などを対象に、近隣でNFのコーチ等が帯同するトライアルを行うなど、ポテンシャルのある者が参加しやすくする工夫が必要。

4.女性トップアスリートへの支援強化

最近20年間(1996年アトランタ大会からリオ大会までの夏季6大会)のオリンピック・パラリンピックにおける日本の男女別メダル獲得率を見ると、オリンピックではロンドン大会まで5大会で女性が男性を上回り、パラリンピックでは2004年のアテネ大会まで3大会で女性が男性を上回った。日本のメダル獲得数を飛躍させる重要な要素に女性トップアスリート(以下「女性アスリート」)の活躍があるといえるが、どの国も注力しているところであり、競争は激化している。NF等による女性アスリートの育成、女性特有の課題対応を支援するため、以下の取り組みを進める必要がある。

(1)女性アスリートに特化した支援
・女性競技に不足している高水準の競技大会開催のためのプログラムを実施。得られた知見をNFに展開し、モチベーション向上や競技力強化を支援。
・不足している女性アスリート出身のエリートコーチを育成するためのプログラムを実施し、得られた知見をNFに展開し取り組みを支援。

(2)女性特有の課題対応への支援
・妊娠・出産を含む女性特有の課題に対応した医・科学サポートのためのプログラムを充実。得られた知見をNFに展開し取り組みを支援。
・女性アスリートやコーチ等が気軽に相談できるよう、ハイパフォーマンスセンターによるNFの巡回サポートを実施。

5.ハイパフォーマンス統括人材育成への支援強化

競技力強化を図る上で海外から優れたコーチを招聘する方法は有効だが、オリンピック・パラリンピック等で安定してメダルを獲得できる競技水準に達するには、NF自らがワールドクラスのコーチを輩出し、世界各国の競技水準の動向を見据えた強化戦略プランを策定・実践・更新することが望まれる。そのためにはJOCナショナルコーチアカデミーの修了やJASAの公認指導者資格を取得するなどしたナショナルチームのコーチ及び引退したメダリストなどが更に実践的な研鑽を積むことが求められる。
さらにその中から、例えば国際競技団体(以下「IF」)の技術委員会等でルールや用具変更等に参画するなどの研鑽を積みつつ、強化現場の代表としてNFの運営に関与する人材(ディレクター)を育成することも求められる。
各NFにおいて競技力強化ガバナンスを牽引する人材育成を支援するため、以下の取り組みを進める必要がある。なおNFには、トップコーチと若手コーチ間のノウハウ共有やオリ・パラ間のコーチ交流・転籍など、前例に捕らわれない指導力強化の徹底を強く求めたい。

(1)ワールドクラスコーチ育成への支援
・JOC・JPC、JASA、NF、大学、JSC等からなるコンソーシアムにおいて必要な資質能力の分析等を行い、海外におけるOJTを含むプログラムを作成・運用。得られた知見をNFに展開し取り組みを支援。

(2)ハイパフォーマンスディレクター育成への支援
・上記コンソーシアムにおいて必要な資質能力の分析等を行い、その結果をもとにIF等におけるOJTを含むプログラムを作成・運用。
得られた知見をNFに展開し取り組みを支援。

6.東京大会に向けた戦略的支援

東京大会は自国開催という特別な意味を持つ大会であることはいうまでもないが、強力で持続可能な支援体制を構築する最初にして最重要な第一歩としても特別な意味を持つ。メダル獲得が全てという考え方には立つべきではないが、東京大会を目指すアスリートはメダル獲得を目標・原動力として日々懸命に努力を重ねており、またそうしたアスリートの真摯な姿勢はやがて東京大会での活躍をもたらし、勝敗の如何を超えてスポーツの振興に貢献し、さらにこの国に活力を、国民に希望と勇気を与えるだろう。
こうした状況を踏まえ、JOC及びJPCのメダル獲得目標を踏まえつつ、日本が過去最多の金メダルを獲得するなど優秀な成績を収めることができるよう、人的・物的資源の戦略的支援について以下の取り組みが必要である。

(1)「活躍基盤確立期」 (2017~2018年度)
「全競技パフォーマンスの最大化」の考えのもと、1.~5.を踏まえ、各NFの強化活動を積極的に支援。

(2)「ラストスパート期」(2019~2020年度)
「活躍基盤確立期」における各NFの成果を踏まえ、「メダル獲得の最大化」の考えのもと、支援を柔軟かつ大胆に重点化

競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)<要旨>-2020年以降を見通した強力で持続可能な支援体制の構築- ※夏季・冬季競技共通

1.中長期の強化戦略プランの実効化を支援するシステムの確立

○ハイパフォーマンスセンター※によるNFへのコンサルテーション等
・ JOC・JPC、JSCの協働チームが、NFにおけるシニア・ジュニア(次世代)の一貫指導など、「4年単位・2大会先」を見通した強化戦略プランの策定・更新を支援。
・スポーツ庁等のターゲットスポーツの指定、各種事業の資金配分等に活用。
※「JISS・NTCの連携」及び「JOC・JPC、JSCの連携」のため本年4月にJSCに設置

2.ハイパフォーマンスセンターの機能強化

(1)戦略本部(本年5月設置)等の機能強化
a)スポーツ・インテリジェンスセンター(仮称)
諸外国のメダル戦略、選手強化方法、用具、急成長中の隠れた選手の情報等の収集分析。
b)スポーツ技術・開発センター(仮称)
メダル有望競技・アスリートの競技用具等の調整、機能向上、技術開発。
c)アスリート・データセンター(仮称)
本人及びNFの新たな強化方法の開発、スポーツ医・科学研究。

(2)ナショナルトレーニングセンターの拡充整備
・日本初となるパラ仕様の最先端屋内総合トレーニング施設の整備。オリパラ共用。
・少なくとも東京大会の約1年前の開所を目指す。
・国内外のトレーニング場所の確保支援を検討。

3.アスリート発掘への支援強化

○日本体育協会の参画
・ 都道府県レベルの発掘・種目転向を強力に推進。主としてこれから恒常的なメダル獲得を目指す競技が対象。例えば甲子園やインターハイ等で大会終了を機に引退する選手、ベンチや応援に回った選手などを対象にトライアルを実施。
・発掘の重要性と手法の普及・定着のため、NFや都道府県を対象としたシンポジウムを全国で開催。

4.女性アスリートへの支援強化

・女性競技に不足している高水準の競技大会の実施やエリートコーチ育成のためのプログラムを実施し、得られた知見をNFに提供。
・妊娠・出産を含む女性特有の課題に対応した医・科学サポートのためのプログラムを充実し、得られた知見をNFに提供。ハイパフォーマンスセンターによるNFの巡回サポートを実施。

5.ハイパフォーマンス統括人材育成への支援強化

・世界各国の競技水準を見極め、国際舞台で活躍できる世界トップレベルのコーチであるワールドクラスコーチと、IFのルール変更等に参画するなどの研鑽を積みつつ、強化現場の代表としてNFの運営に関与するハイパフォーマンスディレクターを育成するためのプログラムを実施。得られた知見をNFに提供。

6.東京大会に向けた戦略的支援

(1)「活躍基盤確立期」 (2017~2018年度)
「全競技パフォーマンスの最大化」の考えのもと、NFの強化活動を積極的に支援。

(2)「ラストスパート期」(2019~2020年度)
「メダル獲得の最大化」の考えのもと、支援を柔軟かつ大胆に重点化。

(パラリンピック競技支援への配慮)
○パラリンピック競技とオリンピック競技の支援内容に差を設けない(オリパラ一体化)。その上で競技特性や競技力強化の環境等に十分配慮した支援が必要。

お問合せ先

スポーツ庁 競技スポーツ課

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