持続可能な国際競技力向上プラン

持続可能な国際競技力向上プラン

令和3年12月27日
スポーツ庁長官 室伏広治

はじめに

 新型コロナウイルスの感染拡大による1年の開催延期を経て今夏開催された、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京大会」という。)は、夏季大会では57年ぶりの自国開催で、異例の無観客開催となったが、その中でも日本代表選手団はすばらしい活躍を見せ、日本中に大きな勇気と感動をもたらした。東京オリンピックでは、27個の金メダルを含む58個のメダルを獲得し、8位以上の入賞者も近年の大会から大幅に増加するなど、過去最高の成績を収めた。加えて、金メダル及びメダル獲得の最年少記録の更新など若い世代の活躍や、女子種目における過去最多のメダル獲得など女性アスリートの活躍も目立った。東京パラリンピックにおいても、過去最多に匹敵する51個のメダル獲得や入賞者の大幅増など優秀な成績を収めたほか、世界記録を含む数々の記録更新や、史上最年少メダリスト及び史上最年長金メダリストの誕生など幅広い世代の活躍に国民が沸いた。
 スポーツ庁では、2016年のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会(以下「リオ大会」という。)後、東京大会に向けた国際競技力向上のための取組・支援を強力で持続可能な支援体制として構築・継承することを目的に「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」を策定し、これを基に毎年の予算を拡充しながら、関係各機関とともに取組を進めてきた。これまでの取組の成果が、2018年の平昌冬季オリンピック・パラリンピック競技大会での好成績、更には上述の通り歴史的な快挙達成を含む好成績を収めた東京大会での日本代表の活躍に現れているといえる。
 一方で、東京大会において期待された成績を残せなかった競技・種目もあり、これまでの施策の成果と課題について、令和3年4月に設置した「競技力強化のための施策に関する評価検討会」において評価検証を行った。同検討会の報告書を踏まえ、我が国の国際競技力の維持・向上のための取組を掲げた、「持続可能な国際競技力向上プラン」をここに示す。
 本プランは、基本的にオリンピック競技(以下「オリ競技」という。)・パラリンピック競技(以下「パラ競技」という。)、夏季競技・冬季競技共通のものとする。冬季競技については、今冬に控える北京冬季オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「北京大会」という。)の結果も踏まえながら、冬季競技の特性や競技環境にも配慮した取組を進める。
 イギリスやブラジルは、自国開催時のメダル獲得の水準をその後のオリンピックでも維持しており、我が国の国際競技力の真価が問われるのは、正にこれからである。東京大会等におけるすばらしい成績を一過性のものとせず、東京大会のレガシーとして、今後、本プランに基づく取組を着実に進める。その際、夏季競技については3年後に迫るパリオリンピック・パラリンピック競技大会(以下「パリ大会」という。)に向けた取組を加速しつつ、並行して2028年、2032年のオリンピック・パラリンピック競技大会(以下「オリ・パラ大会」という。)を見据え、冬季競技についてはまずは北京大会が迫っているが、その先の2026年、2030年のオリ・パラ大会を見据え、少子化等の大きな社会構造変化も的確に捉えながら、中央競技団体(以下「NF」という。)が中長期の展望の下、戦略的にアスリートの発掘・育成・強化を進めていく必要がある。また、オリ・パラ大会のみならず、各競技の世界選手権等を含む主要国際大会も重要な指標となる。目先の大会のみならず中長期の視点を持ち、戦略的・計画的な取組を着実に進めることとする。
 また、現時点でオリ・パラ大会の実施競技となっていない競技についても、本プランに基づき、国際競技力向上のための取組を支援する。

Ⅰ 基本的な方向性

 東京大会での好成績を一過性のものとせず、かつ少子化が進む我が国において持続可能な国際競技力向上を図っていくためには、より多くの優れた能力を有するアスリートを見出し、育成・強化する仕組みを構築するとともに、デジタル技術の積極的な活用等を通じてスポーツ医・科学、情報等の知見に基づく質の高いトレーニング環境の整備等を行うことにより、全てのアスリートが可能性を発揮することができる環境の実現を図ることが求められる。 
 こうした基本的な考え方に基づき、以下3つの方向性の下、各施策を推進する。

(1)アスリートの発掘・育成・強化の取組のシステム化・プログラム化
 アスリートの発掘・育成・強化の取組は、競技団体、地方公共団体、その他関係機関等、様々なところで行われているが、これら各機関における取組について必ずしも十分な相互連携が図られていない。様々な関係機関による発掘・育成・強化を、我が国の国際競技力向上に向けて有機的に連携させ、一貫した戦略的な取組となるようシステム化・プログラム化を行う。

(2)居住地域等にかかわらず全国でスポーツ医・科学、情報等によるサポートを受けられる環境の実現
 アスリートが健康を維持しながら安全に競技することはもとより、質の高い戦略的なトレーニング等により効果的に競技力の向上を図るためには、科学的根拠に基づく発掘・育成・強化が不可欠である。こうした認識の下、居住地域や年齢等にかかわらず、全国のアスリートがスポーツ医・科学、情報等によるサポートを受けられる環境を実現する。

(3)地域における競技力向上を支える体制の構築など、国と地方の競技力向上施策の連携強化
 我が国の国際競技力向上を持続可能なものとするためには、各地域におけるアスリートの発掘・育成・強化の質を高め、これが切れ目なくNFの選手強化活動とつながる、地域と一体となった競技力向上サイクルを確立することが肝要である。都道府県競技団体(以下「PF」という。)、地方公共団体、都道府県体育スポーツ・障害者スポーツ協会、各地域のスポーツ医・科学センター、大学及び企業等の関係機関が力を結集して、各地域のアスリートの発掘・育成・強化に取り組み、これら関係機関とハイパフォーマンススポーツセンター(以下「HPSC」という。)[1]やNFとの連携を図ることにより、地域の競技力向上を支える体制を構築するなど、国と地方の競技力向上施策の連携強化を進める。

 

Ⅱ 今後の具体的な施策・取組

1.NFによる選手強化活動の基盤の確立・強化

(1)戦略的な選手強化の実施に向けた支援

 我が国の国際競技力向上のためには、NFが中長期の強化戦略プランを策定し、これを実践・更新しながら、選手強化活動に総合的・計画的に取り組むことが不可欠である。リオ大会以降、NFが策定した強化戦略プランの実効化のため、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「JSC」という。)、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)及び公益財団法人日本パラスポーツ協会(以下「JPSA」という。)日本パラリンピック委員会(以下「JPC」という。)が協働して支援を行ってきたほか、メダル獲得可能性が高い競技を選定し、重点的な支援を実施してきたが、これら一連の取組が成果を上げ、東京大会等における日本代表選手団の活躍にもつながったことから、これらの取組を以下の通り継続的に実施する。

①強化戦略プランの実効化支援

  • ・JSC、JOC及びJPCは、引き続き協働チームを設置し、協働コンサルテーション(以下「協働コンサル」という。)の実施等を通じて、PDCAサイクルの各段階でNFの強化戦略プランの目標達成のための課題の明確化や課題解決のための情報提供等により同プランの実効化を支援しながら、競技横断的に知見を共有する。また、同プランは地域と一体となって取り組むアスリート育成等に関するものも含めて策定していく必要があることから、公益財団法人日本スポーツ協会(以下「JSPO」という。)の意見も踏まえながら進める。
  • ・NFの強化戦略プランの実行性(達成度)・計画性については、協働チームが検証した上で、外部有識者による評価委員会において改めて評価を行う。その評価結果は、引き続き、NFに対する競技力向上事業助成金の配分や、後述する重点支援競技の選定にも活用する。
  • ・NFの長期戦略の全体像を踏まえて、前述の強化戦略プランに基づく取組を進める上で、各NFに加盟する地域の競技団体等にも長期戦略の全体像を示すよう促す。

②メダル獲得最大化のための重点支援

  • ・通常4年周期のオリ・パラ大会に向けて選手強化活動が行われる実態を踏まえ、前半2年を「全競技パフォーマンスの最大化」の考えの下、各NFの選手強化活動を積極的に支援する『活躍基盤確立期』、後半2年を「メダル獲得の最大化」の考えの下、支援を柔軟かつ大胆に重点化する『ラストスパート期』と位置付ける。(なお、東京大会の1年延期により、次のパリ大会開催まで3年に迫っていることから、パリ大会に向けては、2022年度を「活躍基盤確立期」、2023~2024年度を「ラストスパート期」とする。)
  • ・ラストスパート期においては、メダル獲得の可能性が高い「重点支援競技」を選定し、競技力向上事業助成金の額を加算するとともに、スポーツ医・科学、情報等に基づく専門的かつ高度なアスリート支援の対象競技として重点的に支援を行う。

(2)コーチ等の育成・配置充実 

 国際競技力の向上には、優秀なコーチ・スタッフ等を含む人材の育成・配置が欠かせない。NFの選手強化活動全体を統括する強化責任者、ナショナルチームの強化責任者、現場指導者であるコーチ、サポートスタッフ等、それぞれが求められる役割を果たせるよう、以下の通り、人材育成・配置を進める。

  • ・近年の選手強化活動の高度化・専門化に対応するため、NF全体の強化活動とチームマネジメントを区分してそれぞれの活動に専念できるよう役割を明確化した上で、NF全体の強化責任者とナショナルチームにおける強化責任者である監督等について、それぞれ配置を支援する。
  • ・こうした人材が求められる役割を果たせるよう、JOC、JPC、JSPO及びNFにおいて、JSCが構築した「ハイパフォーマンス統括人材育成プログラム」[2]の成果を活用しながら、人材育成のための研修やプログラム等が実施されるよう取り組む。
  • ・あわせて、コーチやスポーツ医・科学(データ収集・分析、心理、競技用具、パラ競技におけるクラス分け[3]等を含む)の専門的な知識・技能を生かしてナショナルチームのサポートを行うスタッフについても、海外からの招へいも含め配置支援を実施する。

(3)競技団体の組織基盤の強化

 NFは、アスリートの発掘・育成・強化、競技普及など多くの役割を担っており、国際競技力の向上、更にはスポーツの振興を図る基盤である。NFが自己収入の確保に努め、組織基盤の強化を図り、自立してその役割を十分果たせるよう、以下の取組を行う。

  • ・各NFの実情に配慮しつつ、組織の持続的な成長・拡大に向けた改革を促進するため、競技普及による会員登録者数増加に資する取組や、先進的な技術の活用等による競技の多様な価値創出に向けた取組等の実施を支援するとともに、こうした取組の推進に向けて行う外部人材の活用や競技団体間の連携・統合等をはじめとした、NFの組織基盤の強化に向けた取組を支援する。
  • ・オリ競技とパラ競技の団体の組織基盤強化の観点から、共同での競技大会開催など、民間資金獲得や競技普及等における相乗効果を図る取組を促進する。

2.パスウェイに基づく地域と一体となったアスリートの育成 

(1)強化戦略プランに基づくアスリート育成パスウェイの構築

 持続可能な国際競技力向上のためには、中長期的な視点を持った戦略的な取組が求められる。少子化等の大きな社会構造変化も的確に捉えながら、次世代を担うアスリートの発掘・育成を進めるとともに、競技からの離脱にもつながる不適切指導等の根絶はもとより、現役アスリートとしての活躍の先にあるキャリアも見据えて取り組むことも重要である。
 また、パラ競技における発掘事業は、競技の裾野を広げるだけでなく、競技との出会いにより選手のみならず家族や周囲の人々を勇気づけることにもつながるため、継続的に支援していく必要がある。
 これらのことを踏まえ、東京大会に向けて取り組んできたアスリートの発掘・育成・強化の取組を更に強固なシステムとして確立していくため、以下の通り、各NFにおけるアスリート育成パスウェイの構築を支援する。

  • ・各競技のアスリート育成パスウェイを可視化するため、JSCの各NFにおけるアスリート育成の現状を分析するツール(パスウェイヘルスチェック)を活用しながら、NFが日本版FTEM[4] 等に基づく競技別育成パスウェイモデルを策定するための支援を行う。
  • ・NFの強化戦略プランに基づく、育成・強化のためのアスリートパスウェイについて、各NFにおける課題解決に向けた実効化支援を行う。
  • ・NFによるタレント発掘・育成に資するプラットフォームとして、各機関が有する体力測定等のデータを一元化し、NFの担当者が優れた選手を発掘できるシステムを構築する。
  • ・パラ競技におけるアスリートの発掘・育成については、国、JSC及びJPSAがJOC及びJSPOと連携して実施する発掘・育成プログラムへの参加者の拡大に向けて、都道府県体育スポーツ・障害者スポーツ協会などの関係機関との連携を強化する。

(2)地域における競技力向上を支える体制の整備

 持続可能な国際競技力向上を図るためには、地域と一体となってオールジャパンでアスリートの発掘・育成・強化に取り組むことが不可欠である。居住地域や競技環境に左右されることなく、全国のアスリートがスポーツ医・科学、情報等によるサポートを受けられる環境を整備するなど、競技団体、地方公共団体、都道府県体育スポーツ・障害者スポーツ協会、企業、地域のスポーツ医・科学センター、大学等が連携したアスリート育成のための仕組みづくりに取り組む。

  • ・NFが策定した強化戦略プランやアスリート育成パスウェイに基づく各地域におけるアスリートの育成・強化において、地域のスポーツ医・科学センターや大学、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点(以下「NTC競技別強化拠点」という。)等のリソースを活用したスポーツ医・科学、情報等のサポートが実施される体制構築等に向けた取組を実施する。
  • ・各地域におけるアスリートへのスポーツ医・科学、情報等のサポートの機能強化を図るため、体力測定や栄養、映像技術等のスポーツ医・科学支援に関するHPSCの知見についてコンテンツ化・パッケージ化を進め、地域のスポーツ医・科学センターや大学等へ展開する。
  • ・ジュニア層を含め各地域においてトップアスリートに育成する場としてNTC競技別強化拠点の活用促進に取り組む。

3.アスリートへのスポーツ医・科学、情報等による支援の充実

(1)スポーツ医・科学、情報等による国際競技力向上のための研究・支援の推進
 我が国のスポーツ医・科学研究の中枢機関であるHPSCの機能強化を図ることはもとより、HPSCを核として我が国のスポーツ医・科学分野の研究・支援を推進し、NFにおける科学的根拠に基づく選手強化活動の充実を図ることは、国際競技力向上に不可欠であるとともに、アスリートが健康を維持しながら安全に競技を実施するためにも極めて重要である。
 また、社会全体のDX[5]  が進み、諸外国においてもデータ収集・分析等を含めたアスリート支援の高度化・専門化が加速する中で、デジタル技術等の積極的な活用は、我が国が厳しい国際競争を勝ち抜いていくための鍵となるほか、アスリートが国内外のどこにいても必要な情報や支援にアクセスできる環境、更には感染症等による制約を受ける状況下でも選手強化活動を継続的に実施できる環境を整備する観点からも欠かすことができないものであることから、以下の通り取組を進める。

①HPSCにおけるスポーツ医・科学、情報等の研究・支援の充実

  • ・諸外国のメダル獲得戦略や選手強化方法等に関する情報収集・分析を行い、これらの情報をJOC、JPC、NF及び地域の関係機関等に提供することを通じて、NFの強化戦略プランの策定・見直しなど選手強化・育成活動の充実を図る。
  • ・HPSCが有するアスリートのデータ(体力測定、トレーニングサポート、栄養評価、診療・メディカルチェック、リハビリテーション等におけるデータ)の活用方法に係る研究を進め、データに基づくトレーニングやコンディショニングの手法の開発等につなげる取組を行う。
  • ・アスリートの外傷、障害及び疾病について、治療やリハビリテーションによる早期回復、再発防止、更には機能の向上を一連の流れで総合的にサポートできるよう、医師や理学療法士、アスレティック・トレーナーなど様々な専門性を有するスタッフが連携し、分野横断のアスリート支援に向けた体制構築に取り組む。
  • ・競技特性に対応した最適なコンディショニングの手法の開発、リモート機器やVR[6]  ・AR[7]  等の先端技術を活用したアスリートへの多様な支援手法の研究等を行う。
  • ・競技用具等の技術開発については、パラ競技の用具など民間企業等による開発が十分に実施されない分野における競技用具等の機能向上に資する研究を行う。
  • ・オリ・パラ大会等で活躍が期待されるトップアスリートに対し、スポーツ医・科学、情報等による多面的で専門的かつ高度な支援を実施するとともに、大規模な国際競技大会において競技直前の準備に必要な支援を行うサポート拠点[8]  をJSC、JOC及びJPCと連携して設置する。なお、サポート拠点の設置については、早期から大会開催地の情報収集を進め、その環境等に応じて利便性にも配慮した拠点機能の強化を行う。
  • ・NFにおいて、各種データの収集・分析に基づく戦略的な選手強化などスポーツ医・科学、情報等を活用した選手強化活動が一層進められるよう、データ分析の専門人材等の配置を促進・支援するとともに、コーチ・スタッフ等を対象としたHPSCによる研修会の実施などに取り組む。

②NTC競技別強化拠点における機能強化

  • ・NTC競技別強化拠点で活動するトップアスリート等へのスポーツ医・科学、情報等によるサポート体制等の整備充実を図るため、機能強化ディレクターの配置拡充等を通じて、HPSC、大学、医療機関及び地域のスポーツ医・科学センター等との連携を強化する。
  • ・東京大会で追加されパリ大会でも実施予定の競技・種目も含め、NTC競技別強化拠点を指定し、トレーニング環境の確保などナショナルトレーニングセンターとしての環境整備を行う。

③大学等とHPSCとの連携による我が国のスポーツ医・科学研究の推進と人材育成

  • ・医学・情報・工学分野等における先端的なスポーツ医・科学研究を実施するとともに、HPSCと大学及び企業等との連携協定等に基づく共同研究の実施など、我が国のスポーツ医・科学研究の推進に向けた取組を実施する。
  • ・我が国のスポーツ医・科学研究を担う人材の育成を推進するため、HPSCと大学との連携による教育プログラムの開発や人事交流の拡充などに取り組む。
  • ・体力測定や栄養、映像技術等に関するHPSCの知見の活用を図り、地域においてこれらのアスリート支援を担う、地域のスポーツ医・科学センターや大学等の人材育成に取り組む。

(2)全てのアスリートが健康に競技を継続し、最大のパフォーマンスを発揮できる環境の整備

 東京大会は、オリンピックの女子種目で過去最多のメダルを獲得し、パラリンピックの女子種目でも4大会ぶりに二桁となる16個のメダルを獲得するなど、女性アスリートのすばらしい活躍があった。こうした活躍を持続的なものとし、更なる活躍を実現するため、トップアスリートはもとより、ジュニアやユース世代も含め、女性アスリートが健康に競技を継続できるよう、科学的根拠に基づく育成・強化のための環境整備が必要である。
 また、インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷などアスリートを取り巻く昨今の状況を踏まえ、全てのアスリートが心身ともに健康な状態で競技に取り組み、大舞台で最大のパフォーマンスを発揮できるようにするためには、メンタルトレーニングを含む心理サポート[9] の充実を図り、アスリート・ウェルビーイング(アスリートが身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)の向上に向けた取組を行う必要がある。あわせてアスリートを支えるコーチ・スタッフ等のメンタルヘルスも重要である。こうした認識に基づき、以下の取組を実施する。
 
① 女性アスリートが健康に競技を継続するための環境整備

  • ・女性アスリートが居住地域や活動拠点にかかわらず健康に競技を継続するため、アスリートやコーチを含め全ての人が必要な情報にアクセスできるよう、HPSCや大学等における女性アスリート支援の知見や情報を集約したオンライン・プラットフォームの構築に取り組む。
  • ・妊娠・出産後の競技復帰を目指す女性アスリート等に対し、産前産後のトレーニングサポートや栄養・心理等の医・科学サポート、子供の遠征費やシッター派遣などの育児サポート等の支援を行うとともに、出産後の競技継続に有益な知見の展開や模範となる事例の発信に取り組む。
  • ・トップアスリートへの指導を行う女性コーチの育成を推進するため、NFと連携を図りつつ、実践経験を積み指導スキルを習得する機会を提供する女性コーチ育成プログラムを実施する。
  • ・女性アスリートの健康課題[10] 等に関する調査研究や支援プログラム等により得られた知見を選手強化活動や日常的なトレーニングの現場における課題解決に活用できるようにするため、競技特性や各種課題に対応したマニュアルの作成などに取り組む。
  • ・NFにおける女性アスリート支援体制の構築を支援するとともに、女性アスリートの健康課題に関する理解が不足する傾向にあるジュニア段階の選手や指導者等の理解促進を図るため、HPSCの知見を活用しつつ、大学や地域のスポーツ医・科学センター等と連携した地域における女性アスリート支援機能の向上に取り組む。

②心理面での支援の充実

  • ・NFの選手強化活動においてアスリート等に対する心理サポートの充実が図られるよう、HPSCにおいてNFのニーズに応じた個別相談や講習会等を実施するとともに、アスリート等への心理サポートの専門性を有する人材についてNFへの配置支援を行う。
  • ・アスリート等への心理サポートが科学的根拠に基づく有効な方法で実施されるよう、HPSCにおいて、実践の基礎となる研究を継続的に実施し、アスリート等の心理サポートに従事する資格保有者等に対して最新の知見を広く発信する。
  • ・国内外の遠征先や各地域においても心理サポートが受けられる環境を構築するため、HPSCによるオンラインでの心理サポートを拡充するとともに、地域のスポーツ医・科学センターや大学等に対してHPSCにおける心理サポートの知見をコンテンツ化して展開する。

4.パラ競技の国際競技力向上とオリ・パラ連携の促進

 自国開催のパラリンピックが閉幕した後も、継続的に、我が国のパラアスリートが国際舞台で活躍することを通じて、パラ競技の裾野が広がり、障害の有無にかかわらず誰もがスポーツを楽しめる社会を実現することが望まれる。また、若年層のみならず幅広い年齢層や重度障害のパラアスリートの活躍を目指す視点も重要である。これらを踏まえ、オリ競技とパラ競技の支援内容に差を設けないオリ・パラ一体の強化を前提にしながら、パラ競技の更なる国際競技力向上に向けて、以下の取組を進める。

  • ・パラ競技におけるアスリートの活躍のためには、アスリートの発掘・育成・強化に当たって、障害に応じた適性判断と競技選択やクラス分けに関する適切な助言、より公平なクラス分けの国際基準つくりへの積極的な参画が重要であることから、クラス分けに係る調査研究や人材の育成・配置を支援する。
  • ・クラシファイア[11] や競技パートナーなど、パラ競技の競技特性等を十分に踏まえ、必要なコーチ・スタッフの育成・配置を支援する。
  • ・パラ競技の国際競技力向上に向け、競技用車いすや義肢装具をはじめとしたパラ競技用具等の機能向上に資する研究やパラ競技のトレーニング方法等に係る研究を実施する。
  • ・パラアスリートのコンディショニング等に係るHPSCの知見を活用しつつ、大学や地域のスポーツ医・科学センター等と連携した、地域におけるパラアスリート支援機能の向上に取り組む。
  • ・NF及びPFレベルで、選手強化活動や競技の普及等におけるオリ・パラ間の連携協力を一層推進するため、合同での組織運営等の事例の普及に取り組むとともに、こうした取組を促進するための支援を行う。
  

成果の検証に基づく取組の見直し

 本プランに掲げる今後の取組については、オリ・パラ大会等における競技成績などを踏まえて、その成果を検証し、随時見直しを図ることとする。
 

注釈


[1] 東京都北区・西が丘にある国立スポーツ科学センター(JISS)とナショナルトレーニングセンター(NTC)の機能を一体的に捉えた、JSCが運営する我が国の国際競技力向上の中核拠点

[2] 複数の競技において活躍する海外のハイパフォーマンスディレクター等の例も参考にしながら、NFの選手強化活動全体を統括する強化責任者や世界トップレベルのワールドクラスコーチに求められる資質能力を整理した育成プログラム

[3] 様々な障害のあるアスリートができるだけ公平な条件の下で競技ができるよう、障害の種類・程度等によって競技のためのクラスを割り当てること

[4] アスリートの育成過程を「Foundation、Talent、Elite、Mastery」に分けたオーストラリアのフレームワークを基に、我が国の競技スポーツの基盤を踏まえたアスリート育成の在り方を根拠に基づいて段階的に見える化した枠組みとしてJSCが開発したもの(https://pathway.jpnsport.go.jp/ftem/)

[5] 「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0」(平成30年12月 経済産業省)において、「DX」は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義されている。

[6] Virtual  Reality の略。コンピュータ上に仮想的な世界を作り出し、あたかも現実にそこにいるかの様な体験をさせる技術。(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20180615/siryou3.pdf)

[7] Augmented  Reality の略。現実の環境にコンピュータを用いて情報を付加することにより人工的な現実感を作り出す技術の総称。情報を付加された環境そのものを示すこともある。(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20180615/siryou3.pdf)

[8] オリ・パラ大会などの大規模な国際競技大会において、アスリート等が競技へ向けた最終準備を行うため、「選手村」付近の施設を活用し、医・科学、情報等に基づくコンディショニングやトレーニングなどのサポート機能を提供する施設

[9] 心理サポートには、カウンセリング、メンタルトレーニング、コンサルティング、心理療法、個別サポート、集団サポート、オンラインサポート、講習会を含む。

[10] 代表的なものとして、激しいトレーニングの影響による、利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗しょう症が女性アスリートの三主徴と呼ばれている。

[11] クラス分けに関して専門的知識を持ち、その判定等を行う者

 

以上

<参考>

 

お問合せ先

スポーツ庁 競技スポーツ課