ここからサイトの主なメニューです

著作権分科会 法制問題小委員会(第4回)議事録・配付資料

1.日時

平成20年6月19日(木曜日)10時〜12時

2.場所

虎ノ門パストラルホテル 新館5階 「ミモザ」

3.出席者

(委員)

大渕、清水、茶園、土肥、苗村、中山、松田、村上、森田、山本 の各委員

(文化庁)

高塩文化庁次長,吉田長官官房審議官,山下著作権課長,ほか関係者

4.議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    • (1)「機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱い」について
    • (2)知的財産推進計画2008等について
    • (3)その他
  3. 閉会

5.配付資料一覧

資料1
  知的財産推進計画2008(2008年6月18日、知的財産戦略本部決定)(著作権関係部分抜粋)
資料2
  知的財産推進計画2008で示された著作権関係課題に係る著作権分科会での検討状況
資料3−1
  デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について<検討経過報告>(知的財産戦略推進事務局報告資料)(PDF:136KB)
資料3−2
  デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について<検討経過報告>(知的財産戦略推進事務局報告資料)
資料3−3
  デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について<検討経過報告>(知的財産戦略推進事務局報告資料)(参考)
資料4
 コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書─既存プログラムの調査・解析等について―(平成6年5月、文化庁)
資料5
  諸外国の立法例(研究、リバースエンジニアリング関係)
資料6
  当面の審議予定等について(案)
資料7
  「ワーキングチームの設置について」の一部改訂について(案)(PDF:97KB)
参考資料1
  機器利用時における蓄積の取扱いについて(中間報告)(デジタル対応ワーキングチーム報告資料)
(※(第3回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料2
  通信過程における蓄積等の利用行為に関する法制上の論点について(審議経過報告)(デジタル対応ワーキングチーム報告資料)
(※(第3回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料3
  「インターネットの普及に伴う著作物の創作・利用形態の変化について」(平成20年3月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
参考資料4
 障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律
参考資料5
  文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第1回)議事録
(※(第1回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料6
  文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第2回)議事録
(※(第2回)議事録・配付資料へリンク)

6.議事内容

【中山主査】

 それでは時間でございますので、ただ今から、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第4回を開催いたします。
 本日は、ご多忙中、ご出席賜りましてありがとうございます。
 いつものことでございますけれども、議事に入ります前に、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照いたしますと特段非公開にするには及ばないと思われますので、傍聴者の方々には既にご入場いただいておりますけれども、このような処置でよろしゅうございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

【中山主査】

 ありがとうございます。
 それでは、本日の議事は公開ということにいたしまして、傍聴者の方々はそのまま傍聴をお願いいたします。
 それでは、議事に入ります。
 まず、事務局から、配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 それでは、お手元の議事次第の方に配付資料一覧を記載してございますので、そちらと見比べながらご確認をお願いいたします。
 本日は、資料が7点、それから参考資料が6点ございます。資料3は3−1から3−3までございますのでご注意いただければと思います。それから、参考資料の1と2は前回の小委員会で配付した資料の再配付でございまして、議事(1)で利用を予定しているものでございます。
 過不足等ございましたら、ご連絡をお願いいたします。

【中山主査】

 よろしいでしょうか。
 それでは、本日検討していただきたい事項は2つありまして、1つは「機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱い」、2つ目は知的財産推進計画2008等について、この2点でございます。
 (1)の「機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱い」につきましては、前回、デジタル対応ワーキングチームからご報告をちょうだいしたところでありますけれども、前回は検討課題が多くて討論の時間を確保できませんでしたので、今回も引き続いてこの点について議論をしていただきたいと思います。
 (2)につきましては、昨日の6月18日に官邸で行われました知的財産戦略本部会合で、知的財産推進計画2008が決定されましたので、この計画における著作権関係の課題につきましては、知的財産戦略推進事務局の大路参事官にご説明をお願いしたいと思っております。
 それではまず、最初に、「機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱い」についてでございます。こちらは前回、茶園座長より詳しくご報告をいただいておりますけれども、前回からちょっと時間を置いておりますので、事務局より改めて簡潔に要点をご説明していただければと思います。よろしくお願いします。

(1)「機器利用時・通信過程における蓄積の取扱いについて」

【高柳国際著作権専門官】

 それでは、前回、茶園先生の方から詳細なご説明がございましたので、ごく簡単に説明させていただきます。
 本件につきましては、既に平成18年の報告書の中で、権利を及ぼすべきでないとする場合の3つの要件というものが設定されたわけでございますが、これでは必ずしも十分ではないということで、今回、機器利用と通信過程に分けてご検討いただいたものでございます。
 まず、参考資料1の機器利用時における蓄積の取扱い、こちらの方に関しましては、3つの要件、こちらの資料の2ページにございます3つの要件のうち、3の蓄積が合理的な時間の範囲内という要件につきまして、必ずしも時間の問題ではないだろうということでございまして、この要件の含意を酌み取りまして、より一般化した形で要件化してはどうかというものでございました。具体的には、4ページの(2)にございますとおり、12を満たすこと。具体的には、まず蓄積自体につきましては、この12で書いたような合理的な範囲内での視聴等の行為に合目的なものとして行われること。そして、蓄積後になされる視聴等につきましては、それが合理的な範囲で行われることとしてはどうかということでございまして、これに基づきまして、5ページの結論にありますとおり、3つ目の要件が新しく変わるという形で、この123の要件を前提に権利を及ぼさない立法的措置を講ずるということにしてはどうかというものでございます。
 次に、参考資料2の通信過程における蓄積等についてでございますが、こちらは、資料の2ページの2.にございますような、いろいろな伝送過程で起こる蓄積、あるいはシステム・キャッシング、ミラーリング、P2P等の通信の中継過程において生じる蓄積等々の扱いをどうするかということでございまして、こちらは現行法の枠組みでは、なかなか法的リスクを払拭するまでには至らないということでございまして、こちらも立法措置による対応の可能性について検討が必要であるのではないかということになっております。具体的には4ページの(2)以降にありますとおり、立法措置の正当性というものに関しましては認められるというふうに思われるところでございますが、他方で、5ページのロの部分の立法措置の許容性という点につきましては、原則としては問題がないように思われますが、一部のP2Pファイル交換ソフトによる違法な著作物流通につきましては、問題があるのではないかというものでございます。
 そこで、具体的な立法措置の考え方としまして、5ページの下の方の以降の3つのパターン、具体的には1のように、全ての蓄積等の行為に関しまして権利を及ぼさないとしつつも、一定の制約要件として、例えば、権利者の正当な利益を不当に害しない場合に限るといったものを設けるような方法、さらには次のページ、6ページにまいりまして、2のようにP2Pを他と区別した上で、P2Pに係るものについては一定の制約要件を設けるとするという方法、さらには、3にございますように、そもそもP2Pに係るもの以外のみに権利を及ぼさないとする方法と、この3つの考え方があるのではないかというところが挙げられてきたところでございまして、これらのそれぞれのメリット、デメリットの検討を引き続きワーキングで検討していただくことになっております。
 以上、簡単でございますが終わりです。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 それでは、ただ今の報告を踏まえまして、ご意見、ご質問があればお願いいたします。
 この問題はかなり前から議論されていて、もう昭和60年ごろから議論されている重大な問題なのですが、先に進みまして、また後から質問等思いつきましたらお願いいたします。

(2)知的財産推進計画2008等について

【中山主査】

 次に議事の2番目でございます。昨日決定されました知的財産推進計画2008につきまして、まず事務局の方から、著作権法関連で盛り込まれた事項についての紹介をしていただきたいと思います。

【黒沼著作権調査官】

 それでは、資料1、資料2が関係資料でございます。資料1は、昨日決定されました知的財産推進計画2008のうち、著作権に関係する部分を抜粋したものでございます。大量なものですので逐一ご説明はいたしませんが、資料2で、このうち特に法制度に関係する項目だけを抜粋をしてございます。表の一番左が資料1のページ数になっているという対応関係でございます。
 まず、資料1の12ページ、資料2の表の一番上でございますけれども、研究開発における情報利用の円滑化に係る法的課題。これは2008で新たな項目として入ってきたものでございます。中身の詳細につきましては、後ほど知財事務局の方からご説明いただけるということですので、項目が新しく入ったということだけご紹介をさせていただきます。
 資料2のその次の海賊版の広告行為自体を権利侵害とすること、それから間接侵害につきましては、既にこの小委員会でも検討いただいている事項が引き続き盛り込まれております。
 その次の通信・放送の法体系の見直しへの対応、これは本小委員会でも検討課題としては設定をしておりますけれども、まだ具体的な検討に着手していないという段階のものでございます。具体の記述は、資料1の23ページの方にありますが、通信・放送の法体系の見直しとセットにして著作権についての記述も盛り込まれている形になっております。
 その次のネット検索サービス、それから先ほどご議論いただきましたサーバー上の複製行為などに係る法的課題についても盛り込まれてございます。
 それから、1つは再掲ですので飛ばしまして、その次のリバース・エンジニアリングに係る法的課題、こちらも新しい課題として2008に盛り込まれたものでございます。文化庁では平成6年ぐらいに過去に検討したものがございまして、後ほどご紹介させていただこうと思っておりますけれども、今期の検討課題としては新たなものになろうかと思っております。
 それから、その次のデジタル・ネット時代に対応した知財制度の整備、これも新たな項目でございますが、後ほど知財事務局の方から詳しくご説明をいただけるかと思っております。
 その次からは今までも検討してきているものが並んでおりまして、デジタルコンテンツの流通促進のための法制度、権利者不明の場合の利用円滑化策、違法に複製されたコンテンツの私的複製の取扱い、障害者のための権利制限などなど、いろいろ盛り込まれてございます。
 その次のeラーニングのための公衆送信につきましては、本小委員会でも検討課題としては設定しておりますけれども、関係者の具体的提案を待って検討というように平成18年1月にまとめられておりまして、推進計画2008におきましても、同じように教育関係者に具体的な提案を踏まえての検討事項とされております。その次の医薬品等の製造販売業者による情報提供でございますけれども、こちらも昨期からの法制問題小委員会の検討と同様に、国際的な状況などなどを踏まえて検討という記述になってございます。
 そのほか、保護期間、私的録音録画補償金、国会図書館での蔵書のデジタル化などについて盛り込まれているというところでございます。
 まず、項目につきましては以上でございます。

【中山主査】

 ありがとうございました。
 それでは続きまして、本日は、知的財産戦略推進事務局の大路参事官にお越しいただいておりますので、新たに盛り込まれた課題等の趣旨につきましての説明をお願いいたします。
 それでは、大路参事官、よろしくお願いいたします。

【大路参事官】

 それでは、失礼いたします。内閣官房知財事務局参事官の大路でございます。
 私の方から、昨日決定されました知的財産推進計画2008につきまして、特に今回新たに盛り込むことになった事項について、その検討経緯だとか、問題意識の辺りをご説明をさせていただきたいと思います。
 まずその前に、せっかく事務局の方から今年の知財推進計画の抜粋を配付していただいておりますので、この2008を編集するに当たっての若干特徴的なこと、我々がどういう問題意識でこの編集に当たっているかというような辺りを、少しご説明させていただきたいと思うんですけれども、まず、目次をご覧いただきますと、この2008の見出しとしまして、「世界を睨んだ知財戦略の強化」というふうな見出しを立てております。グローバル競争が激化する中で、技術革新、市場変化、スピードが飛躍的に拡大をしている。それから、デジタル化、ネットワークの進展が著しいと。そういう中で、世界各国が戦略的な取組を進めている中で、我が国におきましても、やはり、いろんな意味での取組を進めていかないと世界から取り残されてしまうというような問題意識で、「世界を睨んだ知財戦略の強化」という見出しを立てて編集に当たったのでございます。
 ページをめくっていただきまして、目次が1ページ、2ページ、3ページと書いてございますけれども、特に1ページの重点編のところをご覧いただきたいと思います。先ほど申し上げた世界を睨んだ知財戦略として具体的に何をするかということでございますけれども、1つとして、「我が国の重点戦略分野の国際競争力を一層強化する」というふうにしております。iPSの分野でございますとか、コンテンツ分野、我が国として重点的に取り組まなければならない分野の国際競争力を強化していくということでございます。
 2番目、「国際市場への展開を強化する」というふうに書いてございます。とかく内向きと言われております我が国の産業構造に関しまして、外への展開を強化すべきということでございます。
 3番目、「世界的共通課題やアジアの諸問題への取組にリーダーシップを発揮する」ということでございます。国際的な制度調和を含めまして、そのために日本がリーダーシップを発揮をしていくべきだということでございます。
 今年の推進計画2008の特徴といたしまして、この重点編の目次の中に、私どもの問題意識が可能な限り入るような形で編集をしているところでございます。その辺りが特徴的なことかと思っております。
 本編は、個別の施策について掲載をしているところでございますけれども、従来と形式は変わっておりませんで、1章から3章までがそれぞれ、知的財産の創造、保護、活用、第4章がコンテンツ、第5章が人材育成というふうな構成でございます。これは昨年のものと変わっておりません。
 この中で著作権の関係の項目についてでございますけれども、先ほど事務局の方からご説明がありましたとおり、いろんな箇所に分散して記述をしているわけでございます。特に集中しておりますのが、第2章におきます保護の分野におきまして、模倣品・海賊版対策の関係の記述と、それから第4章のコンテンツの振興の部分におきまして、著作権に関する記述がかなり集中的に記載をしているというところでございます。
 続きまして、この推進計画を策定するに当たりましては、私ども、通常、専門的な見地からの調査研究を行うための専門調査会というものを設けまして、そこでの検討結果を踏まえて計画に反映するというような手続をとっているわけでございます。昨年秋以降、2つの専門調査会を動かしてきておりまして、知的財産による競争力強化専門調査会という、主として特許関係の周辺の部分、産業財産権を取り扱うのものと、それから、コンテンツ・日本ブランド専門調査会という2つの専門調査会を設けて検討しておりまして、今年の3月までの間に、3つの報告書が取りまとめられたところでございます。
 資料の3−3としてお配りをさせていただいておりますものが、これらの3つの報告書において記載されていた内容からの抜粋でございます。ちょっと簡単に紹介させていただきますと、まず、コンテンツ・日本ブランド専門調査会におきまして、3月に「デジタル時代におけるコンテンツ振興のための総合的な方策について」という報告書を取りまとめていただいたわけでございますけれども、この中では、メディアが大変革する中で、これに対応した新たなコンテンツ・ビジネスモデルや利用形態の出現に対応し得るような、新たな知財制度の見直しというものが必要になってくるのではないかというような提言をいただいているところでございます。
 それから、(2)に記載しておりますのが、11月に競争力強化専門調査会において出されました「知財フロンティアの開拓に向けて」というところで、「分野別知財戦力」に関する報告書でございます。この報告書の中では、検索サービスのことを例示をいたしまして、新技術の事業化に係る制度的問題を解消するというような観点から、フェアユース規定という文言を引用しておりますけれども、引き合いに出しながら記述がなされているところでございます。
 それからページをめくっていただきまして、3月の競争力強化専門調査会における「オープン・イノベーションに対応した知財戦略の在り方について」という報告書がございます。この中では、オープン・イノベーションを促すという観点から、外部の情報を利用しやすい環境を整備するというような観点からの様々な提言がなされているわけでございます。具体的な取組としては、1つとして図書館の情報へのアクセスの問題、それから2つ目として特許情報データベースの問題、それから3つ目としてeラーニングに関わる問題、それから4つ目として研究開発目的の情報利用の円滑化という問題、これについては若干、後ほど詳しく説明いたします。それから5つ目として、ネット環境の安全性確保のためのソフトウェア解析の円滑化、これはいわゆるリバース・エンジニアリングに関わる問題ですけれども、こういったところの提言が、この3月までの間になされてきたというのが経緯でございます。
 こうした2つの専門調査会からの様々な提言を受けまして、主として著作権に関する、やはり総合的な検討が必要なのではないか、特にデジタル化、ネットワーク化の進展に対応した全般的な見直しが必要なのではないかというふうな観点に立ちまして、去る3月13日に開催されました知財本部会合におきまして、3つ目の専門調査会といたしまして、「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」というものを設置するということが決定をされたということでございます。実は、この専門調査会におきましては、4月に立ち上げて以降、集中的に何度か会議をしていただいておりまして、中山先生に会長を務めていただいておるわけでございますけれども、学者、弁護士、裁判官等、合計12名の委員により構成をしていただいておりまして、課題の全体につきまして、概ね年内を目途として取りまとめを行っていただくということで、今、検討をしていただいているところでございます。
 その一方で、課題の中には緊急性を有するものもございますので、そうした事項についての提言を行うというようなこと自体を目的といたしまして、大体の取りまとめは年内でございますけれども、中間的な取りまとめという形で、5月29日に開催をされました第3回の会議におきまして、それまでの検討経過報告というような形で取りまとめをいただいたわけでございまして、それを昨日の本部会合で、中山会長の方からご報告をいただいたというところでございます。
 その辺りの内容につきまして、若干ご説明をさせていただきたいと思います。資料3−1と3−2でお配りをしているものがその検討経過報告の概要でございます。
 3−1は、その報告書の全体を、構造をお示しをするために作ったものでございまして、簡単に資料3−2に基づきまして、それぞれ全体どういうふうなことを考えているかというような辺りをご説明させていただきたいと思いますけれども、まず、報告書の1ページに、「1.検討の背景」とございます。この専門調査会における検討に当たりまして、どのような問題意識を持って検討をいただいているかということでございます。書いてあることを端的に申し上げれば、デジタル化、ネットワーク化の進展によりまして、様々な新たな産業展開、それからコンテンツ流通の可能性が広がってきているということ。我が国としても、そうしたメリットを最大限生かすことによって国際競争力の強化を図っていく必要があるのではないか。そのためにデジタル化、ネットワーク化によってもたらされるメリットを社会全体として活用し得るような環境作りと、それを支援するための知財制度の構築が必要なのではないかということでございます。
 ページをめくっていただきまして、2ページでございますけれども、デジタル・ネット社会における著作権制度の役割とはどうあるべきかということでございます。委員会の議論を踏まえて、キーワード的なものも含めまして、委員からいろいろなご意見をちょうだいしているわけでございますけれども、それを最大公約数的に整理をしたものでございます。
 それから、「3.改革が必要な課題について」というふうなことで、デジタル化・ネットワーク化の進展に伴って、現在の制度がどのような具体的な問題をもたらしているかというようなことについて類型的に整理をして記載をしているものでございます。(1)として、単一の利用方法を前提としており、マルチユースに対応していないという問題でございます。
 それから(2)として、デジタル・ネット上の豊かな情報を生かした新しい利用方法に対応していないという問題でございます。この中に検索エンジンの話、研究開発目的での利用の問題、eラーニング、図書館等々の問題が含まれております。
 それから(3)として、技術的過程に付随する行為の取扱いが明確ではないということでございます。この中には、一時的蓄積の問題、それからリバース・エンジニアリングの問題等が含まれております。
 それから(4)として、投稿サイトやブログなどで他人の創作物を相互に利用し合いながら創作するケースなどの新しい創作形態への対応が明確ではないということでございます。デジタル化、ネットワーク化の進展によって、いわゆる1億総クリエーターの時代が到来していく中で、制度的な対応が追いついているのかどうなのかという辺りの問題意識でございます。
 (5)として、新たな技術やビジネスモデルの出現に際して、柔軟に対応し得る規定がなく、新たな動きが萎縮しがちであるという点でございます。
 それから、最後の(6)として、ネット上の違法な利用に対する対策が不十分であるということでございます。
 そうしたたくさんの課題がある中で、これらの問題について年内を目途に全体的な検討を行っていくというふうなスケジュールで進めているわけでございます。
 その中で、4.として5ページから示しております項目が4項目ございます。たくさん課題がある中で、特に国際的な産業競争力の強化の観点、それからイノベーションの創出の観点から、緊急度が高いと思われるこの4つの項目について早急に検討を行い、2008年度中に法的措置を講ずるべきものという形で提言をいただいた事項が、ここに掲載している4つの項目でございます。
 (1)の検索サービスと、(2)の一時的蓄積につきましては、既に著作権分科会におきましてご議論が進んでいるというふうに伺っておりますので、詳細な説明は省略させていただきまして、(3)の研究開発に係る著作物利用の適法化についてでございます。この提言は、もともと先ほど申し上げたとおり、競争力強化専門調査会の方からの提言からスタートしているものでございまして、そこにも書いてありますとおり、科学技術によるイノベーションの創出を促進する観点から、研究開発活動を充実させる、その際に研究開発活動の中で行われる著作物の利用を適法化する必要があるのではないかということでございます。デジタル化、ネットワーク化によって大量の情報が蓄積され、流通もされるわけでございます。こうした情報基盤を研究開発、すなわちイノベーションに生かすことができるようにすることが、我が国の競争力強化の観点からは不可欠ではないかという問題意識でございます。そこには画像、音声、言語、ウェブ解析技術等の技術開発ということを例示的に書いてございますけれども、このほかにもこうした科学技術を活用した幅広い分野での研究開発において、著作物の利用の必要性があるものと考えられるところでございます。
 一方で、現状こうしたウェブ上の著作物を研究開発で利用するという場合に、こうした利用についての著作権法上の問題、制約によって萎縮効果が働いているのではないかというような指摘もあるわけでございまして、そうした観点、特にイノベーションを創出するという観点から早急に対応すべき課題として取り上げていただいたものでございます。
 研究開発については以上でございます。
 それから次に、(4)のリバース・エンジニアリングについてでございます。これにつきましては、ソフトウェア開発等におきます技術開発のためには、他者の製品を解析し、そこから技術を習得する、いわゆるリバース・エンジニアリングが不可欠となっているところでございます。特許法の世界では必要な権利制限の規定があるということでございますけれども、コンピュータ・プログラムの開発に当たっては、リバース・エンジニアリングの過程で生じる複製や翻案が著作権侵害に当たる可能性があるというふうなことで、そうしたところから、相当程度の萎縮効果が働いているのではないかというような指摘もあるところでございます。特に相互運用性、インターオペラビリティの確保でございますとか、セキュリティ確保のためのリバース・エンジニアリングにつきましては、特にその必要性が高いというようなことで、明示的に記載をしているわけでございます。そういうことで、リバース・エンジニアリングに係る制度的なケアというのも、緊急を要する課題として提言をいただいたものでございます。
 早急に対応すべき事項については以上でございますけれども、最初にご説明申し上げた対応しなければならない6つの課題のうち、早急に対応すべきという先ほどの4項目を除きまして、今後、どういった課題が残っているかということをお示ししておりますのが、7ページの「5.今後の検討課題」ということでございます。3つほど記載をしております。(1)として、コンテンツの流通促進方策についてということでございます。それから(2)が、包括的な権利制限規定、いわゆる日本版フェアユース規定の導入についてということでございます。3つ目に、ネット上の違法コンテンツ対策の強化ということでございます。これらの3点につきまして、引き続き専門調査会において検討いただいて、年内に全体の報告を取りまとめていただくというふうなスケジュールで考えているということでございます。
 以上、専門調査会の審議の経過等につきましてのご説明でございます。
 最後に、専門調査会で提言いただいた内容が、どのような形で推進計画2008の中に反映されているかという辺りのことだけを、一言だけ申し上げたいと思いますけれども、ページで言いますと、資料1でご用意いただいたものの23ページから24ページにかけてが該当箇所でございます。23ページの2345と列挙されておりますのが、先ほど、専門調査会の中で早急に対応すべき課題として挙げていただいた4つの課題でございまして、いずれも2008年度中に法的措置を講ずるというふうな形で記載をしております。それから併せまして、(3)として、「デジタル・ネット時代に対応した知財制度を整備する」というふうに書いてございますけれども、これがまさに専門調査会における検討のことそのものについて、記載をしておりまして、先ほど最後に申し上げた、今後の検討課題として残っている主な課題としての3つの課題、流通促進、包括的な権利制限、それからネット上の違法な利用に対する対策強化というふうなことを明示をした上で、2008年度中に結論を得るものというふうな形で記載をしているということでございます。
 以上、ご確認をいただければと思います。私からのご説明は以上でございます。

【中山主査】

 ありがとうございました。
 本小委員会の検討課題となっていない事項といたしましては、研究開発における情報の利用、それからリバース・エンジニアリングの2点が、新たに盛り込まれたわけであります。そのほかに知財本部では、今年度中に検討する課題としては、日本版フェアユース規定などが考えられているとのことでございます。
 最初に、ただ今のご説明につきましては、ご質問がございましたらお受けするといたしまして、議論につきましては、後で、研究開発における情報利用とリバース・エンジニアリングを中心に行いたいと思います。
 それではまず、今のご説明の内容についてご質問ございましたらお願いいたします。
 どうぞ、松田委員。

【松田委員】

 2008年の計画が今日示されましたが、昨日はたしか日経新聞1面に出ていたと思うんですけれども、2008年の著作権、特に著作権に関するテーマとしてはこれがありますねといって3つ挙げられていまして、その3つは、私は今、正確な記事があるわけではありませんが、今説明されました資料3−2のデジタル時代における知財制度専門調査会の方の今後の検討として7ページにあります(1)(2)(3)の内容が新聞では報道されていたと思います。したがいまして、新聞にはきちんとフェアユースの規定の導入も、著作権法上の改正項目として検討しなければならないという趣旨のことが挙げられていたのです。ところが、今日の2008年の計画には、それが具体的には載っていないんです。別に新聞がどうこうというのではありませんが、専門委員会、専門調査会と2008年の計画との関係で、著作権の動向の審議会が検討しなければならないことの中には、結局フェアユースの新規導入の問題については挙がっていないということの理解でいいのでしょうか。

【中山主査】

 大路参事官、よろしくお願いします。

【大路参事官】

 まず、確認させていただきますのが、推進計画2008の中でのフェアユースに関する記述といたしましては、先ほど最後にご説明させていただいた24ページの(3)のところに、2行目から、包括的な権利制限規定の導入も含めて新たな技術進歩や利用形態等に柔軟に対応し得る知財制度の在り方について早急に検討を行い2008年度中に結論を得るという記述があるわけでございます。これが、我々の公式な見解というか、取扱いについての考え方でございます。2008年中に法的措置を講じるところまで議論が成熟しているかどうかというと、必ずしもそういう認識はしておりませんで、中山先生に会長を務めていただいている専門調査会におきまして、これから秋から冬に向けての検討の中で、フェアユースの導入の可否も含めて、その範囲の問題であるかについて詳細な検討をした上で、必要であれば法制化に向けた取組を進めていくというふうなスケジュール感覚で今取り組んでいるというのが、事実関係でございます。

【松田委員】

 分かりました。

【中山主査】

 フェアユースについては、別に否定的ということでは全くないわけで、時期的に極めて早急にやらなくてはならないものとそうではないものと分けたと、それだけのことです。
 ほかに何か内容についてご質問はございませんか。どうぞ、苗村委員。

【苗村委員】

 学校教育における著作物の利用に関して質問したいのですが、これは知財本部の事務局の方にご質問していいのか、文化庁の方にご質問していいのか、少し分からないんですが、資料1と2と、それから3−2にまたがっております。資料1ですと、26ページのところにeラーニング推進のため云々という表現があります。ここでは、教育関係者による具体的な提案を踏まえ、2008年度中に結論を得ると書いてあります。
 それに対応するものが資料2にも書いていて、文化庁サイドとしては、平成18年1月に同様の結論を出しているといいますか、あくまでも関係者の具体的提案を待ってと書いてある。そこで、これを急ぐべきかどうかということが非常に難しいわけですが、資料3−2の中でも、表現はちょっと違いますが、3ページのところで、遠隔教育を推進するための法的環境の整備とあります。
 質問は具体的には2点なのですが、1つは時期の問題で、2008年度中に結論を得るということをしようとすると、そろそろ具体的提案が出てこなければならないのですが、その可能性がありそうかどうかについてお聞きしたいのが1つと、もう一つは、学校教育といいましても、おそらく初等・中等教育と高等教育では大分状況が違うのではないかと思います。特に、私自身も大学で、いろいろな意味でのeラーニングを活用していますが、言うまでもなく、大学設置基準では、大学の設備内で行う授業というのは、本来単位を与えるために必要な学習に要する時間の一部分であって、学生は本来自宅に帰ってからも継続して学習をしなければ単位を与えてはならないはずですので、そのときに授業時間に見せたものを見てはならないというのは、余りにも不合理な規定になっていると思いますので、私はこれについて、ぜひ緊急に処置をしていただきたいというふうに前から思っているわけです。
 ところが、例えば小学校も含めて全部一挙に決めようとなると、これは確かに大変で、そういったことを含めて、この教育関係者からの提案というのをぜひ早く出してほしいんですが、その第2の質問は、この教育というのが初等・中等教育、高等教育、両方合わせての意味で、2008年度中に結論を得るというふうに予定をされているのかどうか、以上2点についてお答えいただければ幸いです。

【中山主査】

 これは、文化庁の事務局の方に伺った方がよろしいかと思います。

【黒沼著作権調査官】

 eラーニング関係の権利制限につきましては、以前からご要望はありまして、平成17年に検討した際には、ある程度やる必要があるだろうというご意見はあったところです。ただ、ではどの範囲までやるのかということに関しまして、今どういう構想があるのか、どういう著作物の利用の仕方をするのかということを聞くと、はっきりしたイメージが返ってこないということもありまして、そういう状態だと条文も書けないというようなこともございますので、まずはどういう構想が今あって、それに伴って著作権がどう障害になってくるのかをはっきりさせないと審議に入れない、そのような状況だったかと思います。
 その後の教育関係者の検討の状況ですけれども、我々もときどきお尋ねはしているのですが、まず、高校以下につきましては、それほど活発な動きはないというふうに伺っております。
 大学につきましては、大学教育を支援する機関でありますメディア教育開発センターなども絡みまして、検討を進めようとしているということは聞いておりますが、大学側の受け皿といいますか、検討をする主体の組織化が進んでいないということで、意見集約までは今のところ至っていないということを伺っております。事務局の方にも、例えば、私立大学関係者の方がご要望に来られたりするのですけれども、何か検討が進んでいるかと尋ねると、他の関係者とは相談していませんという感じでございまして、我々も、いろいろと相談しつつ悩んでいるというような状況でございます。

【中山主査】

 よろしいですか。
 村上委員、どうぞ。

【村上委員】

 それで私、ここの記述項目で、通信と放送の垣根を超えた新たなサービスに対応するという形で項目が出ていますけれども、通信・放送の法体系の抜本見直しというか、通信放送の包括法案の制定のような話というのは、ただ今進行中の作業なわけです。それで、その進行中の作業について、総務省がまずは担当するべきところだと思いますが、その項目の中に、権利関係の見直しや著作隣接権の在り方の検討は、2008年度から開始すると、こういうふうに文章が出ているわけです。これについて、私は通信・放送の法体系の見直しがある程度方向性ができるとか、法案自体ができないと、著作権をどう見直せばいいのかというのは方向性がはっきり決まらないと思うのですが、これは2008年度からもう何か検討会議に具体的に上がってくるというイメージなのか、その辺どういう感じなのでしょうか。

【中山主査】

 大路参事官の方からお願いいたします。

【大路参事官】

 ご指摘のとおり、今まさに総務省の方で審議が進んでいるというものでございまして、結論的には、恐らく総務省における方向性が見えてきた段階でないと、なかなか具体的な検討に入るのは難しいなということは、率直に言ってあろうかと思っています。
 しかしながら、どちらが先に検討するのかという問題とともに、場合によっては著作権法制も含めた形での放送・通信の体系の在り方の検討というのもあり得るので、そうした可能性を排除しないために、2008年度から開始というふうな表現にしたものでございまして、著作権だけを取り上げて、2008年度から何でもかんでも開始しなければならないという、そういう問題意識ではございませんので、おそらく結論的には、総務省の方である程度の方向性が出てきた段階で本格的な検討に入っていただくというふうな形になるのではないかなというふうに思っております。

【中山主査】

 よろしいですか。
 ほかに何か内容に関してご質問がございましたら。どうぞ。

【土肥委員】

 1点、お尋ねさせていただきたいと思うのですけれども、資料3−2の、早急に対応すべき課題について、4にありますけれども、そのうちの(3)のところですね。(1)(2)(4)は何となく、私としても伺って話としては分かるのですが、この(3)で、研究開発に係る著作物の利用を進めるという観点で、こういう情報がDRMというのですか、技術的保護手段によってプロテクトされているような場合に、そういう情報についてアクセスすることとの関係をお尋ねしたいのですけれども、そういう場合に、そういう情報について、DRMを外していくことができるのか、あるいは、そこについて何か代替手段はないのか、入っていけないのであれば、研究開発のための情報利用の推進ということにはならないような気もするのですけれども、そこのところの議論があったのかなかったのか。そして、もしあるとすれば、どういう方向なのか。その点をちょっとお伺いしたいと思うんですけれども。

【中山主査】

 大路参事官、どうぞ。

【大路参事官】

 私どもといたしましては、さきほど申し上げたとおり、イノベーションの創出の観点から、研究開発で著作物利用に支障が、著作権法上の問題があるのだとすれば、その問題を解決すべきという方向性を主としてお示しするところに、この報告の意味があるわけでございます。したがいまして、具体的な制度設計まで踏み込んで、こういう場合にはどう考えるかというふうなことを詳細に議論したわけではございません。
 したがって、DRMがかかっているものについて、どういうふうにアクセスするかというふうなところの問題については、実は議論をしていないというところでございますけれども、一言だけ申し上げるとすれば、やはり研究開発だから何でもかんでもということで、新聞報道にかなりあったのかもしれませんけれども、全てを自由にしてしまうのかというと、これは必ずしもそういうことではなくて、やはりある種の目的、それから営利、非営利の問題もあるのかもしれませんけれども、そうした一定の枠をはめた上での研究開発、それは権利者の権利の方とのバランスというふうなところも常に問題として出てくるかと思いますので、そうしたところでの利用を可能にするというふうな措置になってくるのだろうというふうに思っております。その具体的な制度設計については、まさにこちらの場においてご検討いただきたいというふうに思っております。したがって、私どもの専門調査会の中では、そこまで踏み込んだ検討はしていないということでご了承いただければと思います。

【中山主査】

 まさにそういう問題も含めて、目的とか範囲とか、その他の諸々の論点は、これからここで議論をするということになると思います。
 ほかに何かございましたら。どうぞ、松田委員。

【松田委員】

 デジタル時代の方の調査会の方にも、緊急の検討課題として、6ページ、コンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアリングの適法化が挙げられ、なおかつ2008の計画につきましても、24ページで、リバース・エンジニアリングに係る法的課題を解決するという記載があります。これは2008年度中に法的措置を講じることになっていると思います。これはかなり緊急に検討すべき事項としてされているわけですけれども、今日資料で配られています資料4、これは平成6年に同じテーマで協力者会議で検討したものなのですが、これはかなり集中して、毎週のようにやった審議でございまして、この結論は、当分の間は法制度の対応はとる必要まではない。諸外国の状況を見て、この組織を招集することができるというふうになっていたはずであります。ということは、これは、どういう齟齬があるのでしょうか。そもそも平成6年に研究していて、必要があれば招集するというふうにここにはなっていて、そして知財本部の方では緊急の課題として2008年度中にやれと。私、このリバース・エンジニアリングは今、焦眉の急だとは思っていないのですけれども、何か具体的案件が挙がっているなんて全く思っていませんが、この辺の認識はいかがなものでしょうか。

【中山主査】

 それはどちらの方に、お伺いしましょうか。

【松田委員】

 事務局に聞いてみたいというのがあるんですが。

【中山主査】

 では、文化庁の事務局の方へ。

【黒沼著作権調査官】

 まず審議の進め方、この協力者会議と文化審議会との関係につきましては、すみません、ちょっと私も準備不足で勉強をまだしておりませんで、調べてみたいと思います。
 それから、具体にどういう問題が起きているのかということにつきましては、恐らく知財本部でこういう議論がされた背景としては、推測としましては、検索エンジンもそうですけれども、昨今のコンプライアンスの遵守というような流れもありまして、具体に問題とされなくても形式的にでも侵害になってしまうことについては払拭をしておきたいという、一時的蓄積の話も同じですけれども、そういった一連の流れでこういった議論が起きてきたのではないかと推測をしております。

【中山主査】

 外国の問題等につきましては、これから事務局の方からも説明がございますので、またその具体的な議論につきましては、その後でもう一回やろうと思いますけれども、よろしいですか。
 ほかに何か内容についてご質問がありましたら。よろしいでしょうか。
 それでは、今のお話にございました、新たな課題となっております研究開発における情報の利用とリバース・エンジニアリングにつきましての議論について入りたいと思います。
 まず、諸外国の状況等につきましての関係資料について、事務局から簡単に説明をしていただきまして、その後、自由討議ということにしたいと思います。
 それでは、事務局からお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 それでは、資料4と資料5に基づきまして、ただ今の研究開発、リバース・エンジニアリングの関係についてご説明させていただきます。
 まず、研究開発につきましては、資料5の方をご覧いただければと思います。諸外国の立法例でございます。研究開発に関しての法的課題を検討する趣旨につきましては、先ほど知財事務局の方からご説明がありましたが、その中では、諸外国でも立法があるので、ということも言われておりましたので、まず、諸外国の立法にどういうものがあるのか関係の資料をご用意いたしました。
 まず、ドイツ法では、研究のための公衆提供、公衆提供といいますのは、日本で言いますところの自動公衆送信、送信可能化のようなものでございますけれども、そういったものにつきまして権利制限の規定が設けられております。52a条(1)2のところですけれども、著作物の小部分、わずかな分量などを専ら明確に限定された範囲の者のためにその者自身の学術研究を目的として、公衆提供するということができるという規定でございます。EUのディレクティブに基づく立法措置に併せて改正されたものということでございます。なお、その際には相当な報酬を支払うという規定も追加されております。
 それからもう一つは、以前からある規定ですが、公衆提供ではなく複製ですけれども、第53条で、自己の学術的使用に供するためには少量の製作は許されるというような規定がございます。
 これ以降はどちらかといいますと、いわゆるフェアユース的な規定、抽象的な規定の世界でございますが、英米法の国で幾つか研究関係の規定が用意されているということでございます。
 まず、イギリスにつきましては、研究目的で、利用できる著作物の分野は限定されているんですが、文芸、演劇、音楽、美術の著作物の公正利用はできるという規定がございます。どういうものが公正利用なのかにつきましては詳細な規定がなく、それぞれ事案に応じて判断していくということのようでございます。なお、もともとはこの「非営利目的の」というのは入っていなかったのですが、近時の立法で追加されたということでございます。
 カナダでは、さらに抽象的な規定ですけれども、調査または私的研究を目的とした公正使用であれば侵害とならないという規定がございます。
 アメリカにつきましては、ご案内のようにフェアユース規定があるわけですけれども、その例示といいますか、事項として、研究または調査等を目的とする著作物のフェアユースは侵害とならないという規定になっております。
 それから、オーストラリアでもイギリスと同様に、言語、演劇、音楽、美術の著作物、もしくはその翻案物の研究目的の公正利用は侵害にならないということでございます。また、イギリスの方はこれだけでしたけれども、オーストラリアの方は、言語、演劇、音楽、美術のほかに、コンピュータ・プログラムにつきましても研究のための規定が設けられております。
 研究開発につきましては、今のところご用意できる資料はこのぐらいしかございませんけれども、こういった規定と我が国との並びをどう考えていくのかなどを、いろいろご示唆いただければと思っております。
 引き続きまして、リバース・エンジニアリングですけれども、同じ資料5の4ページ以降がリバース・エンジニアリング関係の諸外国の立法例でございます。
 まず、大きくヨーロッパとそれ以外の国と掲げておりますけれども、ヨーロッパにつきましては、古いものですけれども、ECのディレクティブに基づきまして、コンピュータ・プログラムの解析などにつきまして、権利の例外規定が設けられております。大体同じものが設けられておりますので、ドイツを例にご説明をさせていただきますと、まず、69d条(3)の辺りでございますが、プログラムの複製物の使用権限を有する者が、プログラムの要素の基礎に存する思想・原則を解析することを目的とする場合には、ロード、表示、実行、転送、蓄積の行為によって、観察、調査、試行をすることができるという規定がまずございます。それから69e条で、他のプログラムとの互換性の確立に必要な情報を取得する上で不可欠である場合があって、使用につき権限を有すること、それから互換性の確立に不可欠な情報であること、そういった情報がオープンになっていないことという限定の下に、プログラムのコードを複製する、もしくは翻訳するということが可能だという規定がございます。
 ECのディレクティブに基づくものですので、イギリス、フランスにつきましても同様の規定が設けられております。
 8ページにまいりまして、アメリカ法でございます。アメリカ法では、プログラムの解析などにつきましては、フェアユースの範囲の中で行われていると言われておりまして、特段の明文の規定はないわけでございます。ただ、9ページをご覧いただきますと、リバース・エンジニアリングという規定がございまして、リバース・エンジニアリングそのものができるということを正面から認めた規定ではないのですが、フェアユースでできるということを恐らく前提とした規定だと思いますけれども、プログラムの互換性を達成するために必要なリバース・エンジニアリングをする際には、プログラムの部分にかかっているアクセスコントロールなどの技術的手段を回避することができると、そういう規定が置かれております。この規定を考える限りは、恐らく少なくとも互換性を確立するためのリバース・エンジニアリングにつきましては、フェアユースの範囲内に入る部分があるのだろうということだと思われます。
 その次はオーストラリアでございますけれども、47条のDが先ほどのEUと同じような規定でございますけれども、互換製品を作成するためのコンピュータ・プログラムの複製ということが認められております。さらに、オーストラリアでは、47Fで、セキュリティ・テストのためのコンピュータ・プログラムの複製というものを明文ではっきりと認められているというわけでございます。エラー修正とセキュリティ・テストと両方入っているということでございます。
 これが諸外国の立法でございます。
 資料4に戻っていただきまして、我が国では、過去どのような検討が行われていたのかというご紹介でございます。
 まず、この協力者会議で何を検討していたかという部分ですけれども、リバース・エンジニアリングという言葉自体は非常に幅広い範囲を指す場合にも使われるということでございまして、既存のプログラムの機能を解析することだけではなくて、場合によってはその解析結果に基づいて新しいプログラムを開発するところまで含めて「リバース・エンジニアリング」と呼ぶ場合もあるということなのですが、この協力者会議では、広い意味ではなくて、調査・解析の部分について検討を行ったということでございます。
 まず、調査・解析にはどんな目的があるのか現状を調べておりまして、著作権侵害の調査・発見、プログラムの保守、プログラムの改良・移植、性能・機能の調査、互換プログラムの開発、接続プログラムの開発、記憶媒体による情報交換、コンバータの開発などの目的で、リバース・エンジニアリングが行われることがある、また、その手法としては、次のページの1)から8)にあるような手法があるということでした。その中でどの手法をとる場合には著作権法上の問題が生じるのかを整理しておりまして、6)から8)の事項については、既存プログラムの固定、複製、翻案行為が存在する場合があるということです。6)メモリダンプは、プログラムを実際に中身を表示をしてみるような行為でございます。7)の逆アセンブル、逆コンパイルは、これは実際に売っているプログラムは、0、1、0、1のような、機械しか分からない言葉で書いてあるわけですけれども、それを人間に分かるようなプログラムの構造に戻してやるという形態の解析でございます。8)は、ソース・プログラムそのものを分析するという行為。これらにつきましては、それぞれ実際に表示したり、複製してプログラムを打ち出してみたりということが必要になりますので、複製、翻案などの行為が関係してくる、そう整理されております。
 その後は、国際的動向につきましていろいろと分析をしておりまして、先ほどご紹介したような各国の状況も含めて、いろいろ諸外国の立法が調査されております。
 それを受けまして、11ページ以降、この既存プログラムの調査・解析に伴う複製、翻案に関して権利制限をするかどうかにつきまして、大きく4つの考え方に分けて検討が行われております。
 1つ目は、1)権利制限を設けるべきだということで、特に調査・解析の目的を限定せずに権利制限を設けるべきだというご意見。これは、理由としましては、著作権法は表現を保護するけれども、その表現の背後にあるアイデアについては保護しないのであるから、それをアクセスするための手段にすぎない解析部分については権利制限してしかるべきだというご意見でございます。2)は、権利制限規定を設けるべきだけれども、一定の目的の場合には許されないとするもの。例えば、競合するプログラムの開発、あるいは海賊版プログラムの開発の場合には許されないというような規定にすべきだという意見もございました。3)は、特定の目的に限って権利制限を設けるべきであるということでございまして、これは、権利制限の範囲を最小限にとどめるべきだという発想から、相互接続性の達成、あるいはエラー修正のものに限って権利制限を設けるべきではないかという意見。それから、4)のように、権利制限規定を設けるべきではないという観点のご検討もされていたようでございます。この趣旨としては、プログラムのアイデア部分も含むかどうか分かりませんけれども、プログラムの創作につきましては、それなりの費用、時間がかかっているので、それを回避することになってしまうのではないかという趣旨のようでございます。
 これらの大きく4つの考え方を挙げながら、それぞれの合理性などを検討していたということでございますが、結論としましては、先ほど松田委員からご紹介がございましたけれども、プログラムの研究・開発に係る技術の状況、産業の実態等を見極めて、なお詳細な検討が必要であるということ、それから、国際的な動向も当時定着しているとは言い難いということ、その両面を合わせまして、当面は現行法の解釈に関する判例、学説の発展を待つということと、国内外の状況の進展に応じて改めて検討を行うということでまとめられておりました。
 なお、その先に、仮に権利制限をすることとした場合ということで、制度設計の詳細が検討されておりまして、先ほど議論があったような目的をどの範囲で認めるか、そのほかの付加的な条件、主体をどうするか、作った複製物を廃棄するかなどなどの条件についても検討がされております。
 このような検討が過去に行われているということでございますが、先ほど松田委員からご指摘があった、その後の状況の変化としてどういうことがあったのかにつきましては、我々の方でもまだ十分に調査ができているわけではございません。その点も含めまして、実は後でご審議いただこうかと思っていたのですが、次回以降、関係者からヒアリングを行う際に、具体的にどういう状況の変化があったのかにつきましても、関係者からお話を伺えればと思っております。
 以上でございます。

【中山主査】

 ありがとうございました。
 それでは、研究開発の場合の情報利用とリバース・エンジニアリング、2点ございますので、まず、最初に研究開発における情報利用につきましてのご意見をちょうだいしたいと思います。何か意見がございましたら、お願いいたします。
 どうぞ、森田委員。

【森田委員】

 諸外国の立法例についてご紹介いただいたのですけれども、この研究開発における情報利用というテーマでいう「研究開発」というのはどの範囲のことを指しているのかということを確認させていただきたいと思います。先ほどの課題の中では、画像、音声、言語及び解析等の技術の発展に伴って、著作権法上の制約がそれに関わる研究開発に萎縮的な効果を及ぼしているということでしたので、特定の関係の研究開発を念頭に置いたような検討の必要性の説明であったと思いますけれども、ただ今の諸外国の立法例として紹介があった中には、研究目的一般に関するものも含まれているように思います。そうしますと「研究開発」というのは、研究開発一般なのか、それともあるタイプの研究開発を念頭に置いたテーマの設定なのでしょうか。もし前者だとしますと、これはある種の一般条項を設けるということでありまして、フェアユースの規定についての検討は次のステップであるという整理とある種の矛盾といいますか、抵触関係が出てくると思います。その関係で、ここでのテーマでいう「研究開発」というのは研究開発全般なのか、それとも、いろいろと説明があったようなある特定の目的のというか、ある範囲の情報やウェブ情報の解析に係るものなのか、これは今後のヒアリングの内容にも関係してくると思いますけれども、その辺りの前提を、まず確認させていただきたいと思います。

【中山主査】

 では、事務局からお願いします。

【黒沼著作権調査官】

 非常に厳しいご指摘かと思うのですが、我々も同じ問題意識を持っておりまして、フェアユースについても別途検討が進められているということもありますし、こちらの立法例にあるように、英米法系では、研究のための規定はあるわけですけれども、大体がフェアユース、フェアディーリングの規定だということですので、別途検討されているフェアユースと別に研究開発として特に検討しなければいけない範囲とはどこなのかというのは、正直、まだ我々自身も範囲を探っているところでございます。ただ、いずれにしましても、別途検討されるフェアユースとの関係の上で、なおかつ緊急課題として別に設定されたということを考えますと、恐らくはその情報解析など緊急提言の方で言われている部分の研究開発について特に、ということなのではないかと思っております。

【中山主査】

 それは、基本的にはこの場で議論していただきたいと思いますけれども、ただフェアユースとの整理でいいますと、フェアユースとこの規定とは別に抵触はしないだろうと思います。フェアユースの規定を設けたとしても、現在の制限規定は残るし、あるいはこれからも入るということになるだろうと思います。フェアユース規定は、個別規定で救えないものを救うということであって、仮に両者がだぶっていても、それは問題ないだろうと思います。一番問題なのは、音声、言語、ウェブ解析等に必要な場合だけなのか、あるいは、我々文系の学者が大学で研究のために複製するものも含まれるのかとか、そういう問題を議論してもらえればと思います。
 どうぞ、茶園委員。

【茶園委員】

 森田委員は研究開発に関して質問されましたが、私も研究開発に関して、森田委員とは違う観点からの質問をさせていただきます。外国において研究目的での権利制限と定められているものについて詳しく調べたわけではないですけれども、恐らく、少なくとも主としては、ある特定の著作物を研究するために利用するということを対象にしているのであろうと思います。特許法の69条も、特許権の効力を制限する試験又は研究のための実施は、その対象にする特許発明自体を研究するということだと思います。そこで、私の理解と違うかどうかというのを確認させていただきたいのですが、先ほど、知財事務局から、これに限られるかどうかはともかく、画像、音声、言語、ウェブ解析技術等の研究開発について説明がありましたが、そこでの著作物の利用というのは、おそらくその著作物そのものを研究開発するのではなくて、開発する技術のために、何かそのテストデータのために著作物を利用するという、画像、解析技術等がうまく使えるかどうかを調べるために著作物を利用するということで、そのような利用自身は当然必要だとは思うのですけれども、そのような利用を対象に考えられているのでしょうか。つまり、研究開発目的での著作物利用というのは、著作物そのものを研究開発するのではなくて、別の技術の開発で、その技術がうまく機能するかどうか、あるいは、より以上に発展させるかどうかという過程において、ある特定の著作物を利用する必要は必ずしもないのだけれども、その著作物を利用するということを対象にされているのかということを確認させてください。

【中山主査】

 それをまさに議論していただきたくて、それについてどういうご意見を皆さんお持ちかということがお聞きしたいのですけれども。

【茶園委員】

 ここで知財事務局から言われているこの問題というのは、そういうことかということをお聞きしたいのですが。

【中山主査】

 知財事務局では、このことは別に詳しくは議論されていないと思います。
 大路参事官、何かございましたら。

【大路参事官】

 すみません、余り私どもの専門調査会で詳しく議論したわけではございませんけれども、報告書の6ページのところの記述をちょっとご覧いただければと思います。資料の3−2でございますけれども、(3)の2つ目の段落のところで、2行目辺りから、「画像・音声・言語・ウェブ解析技術等の基盤的技術が重要となっている。これらの技術に係る研究会開発を行うためには、放送番組に係る情報やウェブ情報等の膨大な情報を蓄積・改変することが必要となる。」というふうに書いてございます。そういう情報の解析技術の研究開発ということが、典型的に生じる例として挙がってきたわけでございますけれども、専門調査会の中で出された意見の中には、これに限るべきではないのではないかというふうな問題提起があったことは事実でございます。そうしたところも受けて、「このほか」以下で書いてあるものが、その辺りの含みを少し持たせるような意味合いで書いてあるわけでございまして、「このほか、幅広い分野の研究開発において、学術論文以外にも様々な著作物が利用されている」と。
 したがって、私どもの立場からすると、およそイノベーションの創出に関わるような研究開発というのは、必ずしも画像の解析技術だけの問題ではないという問題意識を持っておりまして、例えばどんなものがあるのかというふうな話になるとなかなか難しいんですけれども、専門調査会でご報告があった話で言えば、ウェブの中から大量の情報を集めて、それを利用した研究ということで、データ・セントリック・リサーチとか言うらしいですけれども、言語解析だとかパターン認識だとか、そういうものの研究に生かされるというふうなこともあるようでございまして、可能性を必ずしも限定して考えるというのは多分議論のスタートではないだろうなと思っておりますが、しかしながら、やはり制度化するに当たってはどういう範囲で考えるかということを考えていかなければならないという事情も大変よく分かりますので、その辺りについて、我々は結論出さなかったわけでございますけれども、むしろいろんな可能性についてご議論をいただければよろしいのではないのかなということでございます。

【中山主査】

 これは、その方面の研究者の要望が非常に強くて、こういう要求が出てきたわけですけれども、これを法制化するに当たっては、当然特定の要求だけを考えるわけにはいかないので、それをどの程度一般化するかということで議論をしなければいけないわけで、まさにそれをここで議論してもらえればと思います。
 どうぞ、苗村委員。

【苗村委員】

 今のポイントに関する私個人の意見を申したいんですが、まず、先ほど茶園委員がご指摘になった、その対象となる著作物自身に関する研究をするのではなくて、むしろそれを単なる材料として、より広い、ある種のツールなり何なりの研究をするのではないかとおっしゃったことが、多分かなり本質を突いていると思います。
 この今の資料3−2の6ページの、先ほど第2段落のことをご紹介いただきましたが、第3段落に「このような行為は、著作物の通常の利用形態とは異なるものであり著作権者の正当な利益を害するおそれは少ない」云々というような表現があります。例えば、仮に文芸的な著作物、小説なら小説に関する評論を書く人であれば、その著作者の許可を得た上で、より詳細に中の表現なり、あるいは内容に関する分析をすればよろしいわけですが、言語の著作物でも、ネット上にブログが大量にあるとして、それを分析して社会学的な研究をしようと思ったときに、そのブログの著作者にいちいち許可を得るということは実質不可能なわけで、特定の人が何を言ったかを出すのではなくて、ある種の統計的解析をしたりする、そういう目的でやろうとすれば、これは現実にその著作者から許可を得るということはあり得ないわけですね。そうすると、そういう研究はしてはならないということになってしまう。
 それから、同様に先ほど画像の話もありましたが、そのほかのありとあらゆる種類の著作物がウェブ上で公開されていて、それを個別に、例えばコピーするのであれば、あるいは翻案するのであれば、その著作者に許可をとればいいわけですが、ある種の自動的な手段で膨大な情報を網羅的に調査し、分析して、新しい知見を得るための研究というのは、多分従来の著作権法の規定に基づいてはできないという結論になってしまう。これは実は、検索エンジンの場合もそうだったわけで、検索エンジンを研究する人はむしろできなかった。それがアメリカでここまでビジネス展開をしてしまった。同じような、むしろ検索エンジンの先に新しいイノベーションがあるはずで、それを研究しようとしても、仮に国の機関が研究予算をつけても、それを受託した大学なり企業は、研究はできませんという結論を出す。これを何とか突破したいというのが緊急な課題ですので、多分関係者の要求は、それを何とか解決してほしい、だから今年度中にも結論を出してほしいということなのだと思います。ところが、それが余りにも一般化してしまって、個々の著作物に関して内容を分析することに関してまで、研究開発上の利用は権利制限してほしいということになると、これは恐らくほとんど一般的な著作者の了解を得られないだろうと思うので、むしろ限定した方がいいのではないかと私は思います。

【中山主査】

 ありがとうございました。
 それでは、森田委員。

【森田委員】

 限定した方がよいという考え方が出てくるのは理解できるところですけれども、果たして限定ができるのでしょうか。社会学的な調査といっても、例えば法律家が、学者の論文をいろいろ読んで、学者の多くがどう考えているのかという意見分布を調査するのは、学者の考え方の社会学的な調査と言えばそうとも言えそうですけれども、それも研究であるわけです。そうしますと、その研究の中身から研究のタイプを分類できるかという点が問題になると思います。限定できるという前提で考えていくと、どうも暗礁に乗り上げそうな気がします。他方で、諸外国の立法例を見ると、そういう限定をしてというよりは、研究開発一般について、研究目的での公正な利用についての一般条項的なものを置くという形で対処しているということですので、そういう選択肢もあり得るということなのか。しかし、フェアユースについては、もう少し長期的に検討するということですが、研究のタイプを限定しないときは、おのずとそこに踏み込むということにならざるを得ないように思います。その問題の切り分けの仕方が、一般条項には立ち入らない。、しかし限定するのも難しいとなると、解答が出ない可能性が高いのではないかという感じがします。もし最初から解答が出ないことが見込まれていて、短期間で検討せよというのは、それは検討が不可能な課題を背負ってしまって後で困ることになりますので、最初からそういうことであれば、もう少し課題の設定の仕方そのものを変えておかないと、後で困ることにならないかという点が私の危惧するところであります。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 確かに内容はともかく、条文に書けないもの法律にはならないというのはそのとおりなんですけれども、ほかに何かご意見ございましたら。
 どうぞ、苗村委員。

【苗村委員】

 ちょっと私の発言が誤解を招いたとしたら申しわけありません。私が限定と申し上げたのは、特に社会科学に限定するとか、そういうことを申し上げたわけではなくて、この資料3−2の表題にもありますように、デジタル・ネット時代における云々ということであるというのが1つ。つまり、通常の単行本をコピーすることについてまで適用するというのではなくて、むしろデジタル・ネット上の著作物に限るというような限定があり得るのではないかというのが1つと、もう一つは、その著作者の数が膨大であって、いちいち許可を得ることが実質的にできない場合といったような、何か、これは実際に法律にすることの難しさは私も十分分かりますが、限られた場合だろうということを申し上げたかったんです。

【中山主査】

 ほかに。どうぞ、土肥委員。

【土肥委員】

 研究開発に係る著作物の利用の適法化ということで、そもそもの趣旨は、イノベーションの創出を図る、促進をするということから来ているのだろうと思います。その場合は、こういう画像、音声、言語、ウェブ解析技術等の基盤技術、その当該著作物の分析ももちろんですけれども、広くそれに基づいて他の著作物なり、あるいは他の基盤的技術なり、そういったものが創出されるということが当然必要なわけですし、恐らくそのことを目的にするんだろうと思います。
 その場合、私も領域的に限定するというのが非常に難しいんじゃないかというふうに思っておりまして、例えばデジタル技術、そういったものに限定するということも難しいというふうに思っています。だから、基本的には研究開発一般をまず想定して、その範囲を想定して、関係の業界等々、関係者の意見等々を聴取した上で、合理性のある部分については絞るという方が論理的なのではないかなというふうに思います。
 それから、もう一つは、やっぱりこういうデジタル技術の場合はどうしても、先ほど申し上げました技術的保護手段の問題が当然出てくるので、それを破っていいというふうに先ほどちょっと言いましたけれども、それは乱暴な話になってくるわけでありますので、しかし、そこの観点からはもうそこに入れないのでは、研究開発のために権利制限を設ける意味が薄れる。つまり、科学技術のイノベーションという目的のために、現在ある著作物の利用が、一方においてはできて、一方においてはできないということになりますので、そこのそれを越える手段、そういったものを考えるべきだと。つまり、そこまで入れるような手段を考えて、全ての著作物、全ての目的の研究開発ということを前提にし、その場合に合理性のある部分については例外をつければいいんじゃいかなというふうに思います。
 以上です。

【中山主査】

 鍵がかけてあっても、どこまでが研究目的かは別として、研究目的のためならば鍵を外してもいいという、こういうご趣旨ですか。

【土肥委員】

 そこまで踏み込むのかどうかは、代替手段として別のもので出させるとかですね。つまり、研究上そこに入れないということであれば、研究開発のために鍵のかかっていないものを出させる、そういう趣旨ですけれども。

【中山主査】

 出させるということですか。

【土肥委員】

 例えば、アナログのものとして出させると。そういう趣旨です。

【中山主査】

 そういう請求権を研究者に認めると。

【土肥委員】

 要するに、研究開発の目的で著作物を権利制限できるわけですよね。だから、その権利制限できるときに、著作物のある種のものについては権利制限を認めないということにするわけですよね、DRMをかけている場合について、除くというのでは権利制限の意味がないのではないかというふうに私は思うんですよ。

【中山主査】

 どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】

 問題点のとらえ方によるのでしょうが、ここで議論しているのは研究開発に関わる一定のものについて権利制限を認めるかどうかという話であって、かぎを外す、外さないというのは、それ自体としては、基本的にはまた別次元の問題かなという感じがいたします。今でも権利制限がかかっているものについてかぎがかかっているということはあり得るのですが、もっと大々的に、権利制限に係っているものについてかぎを外してよいかいう話であれば、念頭に置く必要はあるのでしょうけれども、何かちょっと別次元の問題も含むのかなという気は、お聞きしていてするのですが。

【中山主査】

 恐らく、研究開発は極めて公益性が強いから、これに限っては鍵を外してもいいという、そういうご趣旨なんじゃないかと思いますが。もちろん権利制限一般の話ではないですよね。

【土肥委員】

 権利制限一般の話というのは。

【中山主査】

 つまり、一般的に権利制限でやってもいいとなっている場合は鍵を外してもいいということは、そこまでは……

【土肥委員】

 かぎを外していいということになると、今度は、先ほど大渕さんも言われたように、その技術的保護手段を解除する、そういうことについて触れてくるわけですから、だから、それはそれとして置いておきながら代替手段を考えるというのはあっていいんじゃないかなという、そういう趣旨です。だから、その代替手段について、格別事務局で出されている外国法等の制度の中にそういうものはないのかどうかということなのですね。これ、一般に研究開発だけで資料としては出ているんですけれども、それは当然考えられる話じゃないかと私は思うんですけれども。

【黒沼著作権調査官】

 私も十分に理解できていないかもしれませんが、確かに日本の今の権利制限規定は、2段構えになっておりまして、まず権利制限規定があるかないかということと、その各権利制限規定の適用に当たって技術的保護手段を回避して利用した場合に、元に戻って権利侵害になるのか適法のままかということ、そういう2段構えの規定構造になっておりますので、そこをそれぞれどう考えるのかというのは確かに論点として一つあるのかとは思います。もし違っていたら申しわけありません。
 ご質問の諸外国の点は、リバース・エンジニアリングにつきましては、アメリカの規定で回避することができるという規定があるのはありますが、それ以外については現在のところ調べがついておりません。

【中山主査】

 そうですね、インターオペラビリティをとるための規定というのはあちこちで見られると思います。

【土肥委員】

 はい、いいです。

【中山主査】

 ほかに何か。どうぞ、森田委員。

【森田委員】

 確認なのですけれども、この著作物の複製や翻案を行うことができるようにという中に、かぎを外すということも検討してくださいというのが含まれているのか、それとも、ここで言っているのは権利制限をしてくださいということなのか。もし後者であるとしますと、検討の要請の外のことで、しかしそういう問題もありますよということを指摘して、この点については今後考えていくという整理になりますし、前者であるとしますと、著作物の複製や翻案を行うことができるようにというのは、かぎを外すということも含めて広く検討するようにというふうに要請があることになりますが、そこを非常に広いとり方をするといろいろなものが全部入ってくることになります。そうしますと、何を検討せよということなのかが、最初からはっきりしていないように思います。

【中山主査】

 それはそのとおりなのですが、鍵についてはどうこうせいということは、戦略本部では決めておりませんので、それはここで検討していただければよろしいかと思います。
 例えば、仮にインターオペラビリティの場合でしたら、これは強行法規にするということもあり得ますし。ですからこの研究目的が極めて公益性が強くて強行法規でやるんだという皆さんのご意見ならば、そうなるかもしれませんし、いや、そうじゃないということかもしれないという、これから議論をしていただければと思いますけれども。
 村上委員、どうぞ。

【村上委員】

 私はむしろ、リバース・エンジニアリング一般のことで申し上げようかと思ったのですが、まさしく今のテーマで、英米法の国では、先ほど申し上げましたように、基本的にコンピュータ・プログラムのリバース・エンジニア、フェアユースもそこでいきますから、したがって公益目的というのが非常に強いので、今、こういう目的であるからフェアユースと認められる場合においては、いわゆる当事者間の契約でも、オーバーライトというか、覆すことができないという効力と、多分コピー・プロテクションも解除することができるという、それができるという形の解釈になってきているのだし、それが英米法のコンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアの規定の仕方に結びついたと。
 ただ、問題は、大陸法系の国で本当にそうなのかというと、例えば日本の今までの、個別のいわゆる法の規定の場合でも、多分契約者間、契約でそれを覆す場合には、特約の方が、当事者間では有効であるし、同じことがプロテクションを解約する場合にできるかできないかの議論も、当事者間の契約の方が仮にあるならば、有効に出したプロテクションのかぎというのは別問題だという形の議論になるのが、多分大陸法系というか、日本法で今までの議論で多分やってきた強い解決だろうと思います。
 そこで、問題は、もう事務局からは返事はいただいた感じですが、まさしくフランス、ドイツ的な大陸法的な国でリバース・エンジニアを研究開発の形で認めた国の場合に、契約によってオーバーライトできるかできないかの議論というのと、それともう一つが、今出ているプロテクションの解約ができるかできないかの議論というのがありますから、そこがどうやら条文には書いていないような感じなのです。先ほど紹介していた条文にはそこまで書き込んでいないので、解釈上これはどういう解釈をとっているのかというのが、一番ドイツ、フランスのところのことなのですけれども。

【黒沼著作権調査官】

 少なくともリバース・エンジニアリングを禁止する特約については、一部はヨーロッパでも規定を置かれていまして、例えば先ほどの資料5の5ページの一番上ですけれども、69d条、69e条に抵触するものは、無効とするということになっているようです。相互互換性を確保するための権利制限の対象になっているようなものについては、特約も無効という取扱いが明確になっております。

【村上委員】

 今のは個別の権利制限規定一般に対して、そういう、それに反すれば無効だというふうな大原則なのか、それに対する例外というので、いわゆるコンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアについて、それを許さない規定は無効にするというのを入れてあるという解釈でよろしいですか。それがそこだけの話なのか、一般的な権利制限規定の効力との兼ね合いのような感じになりますか。

【黒沼著作権調査官】

 すみません、諸外国までは調べがついておりませんけれども、日本法と同じであれば、契約それぞれの中身に応じて、公序良俗なりに反するということであれば無効というような形の一般規定を恐らく使って、中身に応じて考えているのではないかと思いまして、権利制限一般について、オーバーライトしている場合にはどうかというような一般的な規範はないのではないかと思っております。

【中山主査】

 我が国においての制度で議論されているところで、一般的な規定はないですけれども、著作権法の理念に反するような契約でどこまでオーバーライトできるかと、まさに今、議論されているところであって、契約が全てに優先するかどうかというところはまだ、ちょっとはっきりしていない。条文によるし、あるいは事例によるのだろうと思います。ですから、この研究開発、インターオペラビリティはまた後で議論いたしますけれども、研究目的のこれについてはどうしましょうかという、そういう議論なのです。これに限って言えばどうですかという、そういう議論なのですけれども。

【村上委員】

 多分、これから包摂して検討していただければ結構ですが、あそこでやっぱり個別制限規定でやるのと、英米法的なフェアユースでやるので、かなりそこら辺のニュアンスが違うんじゃないかと思いまして、そこのところ、切り分ける話の議論でいくのではないかという気がしましたので。

【中山主査】

 ほかに。どうぞ、茶園委員。

【茶園委員】

 先ほど質問させていただいたことと、森田委員が先ほどフェアユースとの関係をおっしゃったのですけれども、それらと関連することをお話しさせていただきたいと思います。まず、研究目的で著作物を利用するといった場合に、ある特定の著作物の研究を目的にして利用するといった場合と、その利用する著作物それ自体を目的にするのではない場合に分けるとしますと、ある特定の著作物の研究のために利用するという場合は、ある程度絞られるといいますか、その範囲は一般的にはそれほど広範なものにはならないだろうと思いますが、研究と利用される著作物の関係が薄まれば薄まるほど、いろいろなものが利用できるようになり、範囲が広くなるだろうと思います。
 余り関係がなくてもよい、研究目的であれば、その過程でいろいろ著作物を利用することができるのだということになりますと、恐らく、何をしてもよいというところまでいくことになるのではないかと思います。そのような利用自体は著作権者の正当な利益を害さないことが一般的と思うのですけれども、逆に言えば、正当な利益を害さない利用形態であれば許容されるということにまでなるのではないかというように思います。
 他方で、知財事務局の方から挙げられておりますような画像とかウェブ解析技術の開発というのは非常に重要でしょうし、その際には、ある特定の著作物それ自体を利用する必要はないのだけれども、やはり著作物を利用することは必要になるだろうと思います。
 そこで、研究と特定の著作物自身の関係が余りないという場合も含めるということであれば、何らかの限定を考えべきではないかと思います。研究と利用される著作物の関係が全く無関係というのは、やはり問題があって、ある程度の関係を持つ場合に限るとか、何らかの限定をする必要があるように思います。研究目的であれば利用することが許されるというように一般的に言ってしまうと、それは行き過ぎになるように思います。先ほど、森田委員がおっしゃいましたように、フェアユースを現実的には認めたというように、あるいは場合によっては、アメリカのフェアユース以上のことを許容するということになるのではないかと思います。
 以上です。

【中山主査】

 ほかに何かございましたら。
 しかし、その場合、例えば著作権の制限規定を研究したいというので茶園先生の論文をコピーするというのは、これはどっちに入りますか。

【茶園委員】

 コピーされるのが特定の著作物とまだ言えるかなというようには思うのですけれども。先生が問っておられるのは、限定するといっても難しいということだと思うんですが。

【中山主査】

 そうなんです。さっきの森田委員のお話もそうですね。

【茶園委員】

 はい。

【中山主査】

 どうぞ、森田委員。

【森田委員】

 著作権の権利制限を認めるあるルールを作るときに、フェアユースというように言われますが、フェアユースというのは、要するに一般条項ですね。非常に評価を要するような規範的な要件を掲げて、著作物の性質とか量とかそういうものを考慮要素に入れておいて、それで著作権者の受ける不利益が一定程度にとどまっていて公益目的の利用であったならばよいですよという、そういう規定を置くということです。このような一般条項を置くということは、個別のルールは、具体的なケースが出てきたときにそれぞれに即して考える、それで争いがあれば訴訟で決着をつけますということを意味します。要するに、具体的なルールは訴訟を通じて明らかにしますというタイプの紛争解決を選択するというものです。これに対しては、具体的なルールがあらかじめに法律で明確に決まっていて、訴訟をするまでもなくこれはしてよいということが事前に分かるというタイプの解決もありえます。このどちらの方が、ここでの問題についての対応として適切なのかという問題がそもそもあるわけです。日本では萎縮的効果があると言われる場合も、諸外国ではフェアユースという一般条項に基づいて許されているのだとしますと、それは訴訟になるリスクというのを当事者は当然引き受けた上で、場合によってはロイヤーにフェアユースに当たるか否かについてのオピニオンを求めて、それならばおそらく大丈夫だろうというふうに判断して、そういうリスクをとってやっているという意味であって、国がこういう行為であればよいですよというふうに明確に保証してやっているわけではないことになります。
 日本でフェアユース規定を置くべきであると主張されている方は、ある行為がフェアユースに当たるかどうかという問題が出てきたら最終的には訴訟で決着をつけるという社会に移行するのだという覚悟を決めてやるということなのかがどうもはっきりしないように思います。そうではなく、何か法律でフェアユースは許されると書くと、各人がフェアユースであると考えれば何でもできるようになるというふうに考えておられるように感じられることもありますが、その辺りからして今の問題に関わってきます。しかし、法律で研究目的と書いてさえおけば、研究目的の公正利用であれば何でもできるようになるかといえば、そもそもそんなことはあり得ないはずであって、一定の規範的な要件を掲げておいて、ある研究目的の利用がその要件を満たすかどうかは争いになれば訴訟で決着を付けるということになるわけです。
 この種の問題は、ある程度一般条項によって対応せざるをえない面があります。事前にどういう行為が公正利用に当たるかというと、個別具体的にある特定のケースを念頭に置いて、それだけよいと法律に書くわけにもいかないわけですから、一般的に規定するとすれば規範的な要件を使って、一般的にはある評価の必要な考慮要素を掲げておいて、それらの考量によって一定の範囲にとどまっていれば当該行為は認められますよというふうに法律には書いておいて、あとはその要件に該当するか否かについての判断リスクを当事者がとっていくということになるわけです。それで諸外国でもやっているというのならば、日本でもそれでやっていきましょうという方向に行くというのが、1つあるべき姿ではないかという感じがします。何か萎縮的効果があるということが、日本では諸外国よりも過度に強調されて、その結果、事前に明確なルールを決めてくれという要求が強くなりすぎますと、それに応えることが難しい場合がかなりあるのではないか。情報通信技術の問題についても、その種の個別要求がたくさん出てくるところですが、そうであれば、一般条項を置いておいて、あとは当事者が訴訟リスクをとってやってくださいというふうに回答するというのも1つの考え方ではないかと思います。

【中山主査】

 松田委員、どうぞ。

【松田委員】

 資料3−2の、今のテーマのところは研究開発とは言っておりますが、6ページで、科学的技術、イノベーションの創出、ウェブ解析技術等の基盤技術が重要であると。こういうことを前提とした上で、公的機関や産業界における研究開発に相当程度の萎縮効果がある。だから研究開発に必要な範囲内で複製、翻案をすることができるように、法的措置を早急に講ずべきであると書いてあるんです。
 ところが、研究開発だけ取り出したら、中山先生が茶園先生の論文をコピーするというのも研究であることは間違いないわけですよね。そこにどう線を引くかというのは、私はすべきではないんだろうと基本的には思っています。全ての分野の研究は一定のルールで許されるようにすべきではないかなと思っています。それがフェアユースなのか、研究・教育活動における制限規定を設けるかなどはあるかもしれませんが、イノベーションのため、先端技術のためにやるというのではなくて、研究全般を検討すべきではないかと、私は思っています。
 そういう要請があると思います。一例を言いますと、図書館で一定のものを資料としてコピーするというのは許されているけれども、大学の先生が研究のためにみんなで共有の財産をデータベースで作ろうということは、現行法上駄目なわけです。しかし、恐らく社会的なコンセンサスとしては、その程度はいいんじゃないかというのはあるのじゃないでしょうか。そういうのを保護してやるべきだというふうには、社会学的でも先端技術でも同じようにあるというふうに思います。
 それから、先端技術に関して、フェアユースでの特別規定があるとしたときに、次に、その分野についてはリバース・エンジニアリングに影響してしまうのですね。リバース・エンジニアリングをするものが、解析すると互換性のプログラムを開発できるところまで来てしまう。そして、ターゲット・プログラムと同じ競合商品を作るところまで来てしまう。そういうことがいいのかどうかということを考えなければならない。だから、研究開発と研究とは別に、リバース・エンジニアリングについては違う要件で制限規定を私は設けるべきだろうと思っています。リバース・エンジニアリングによる著作権についても、私は導入すべきであるというふうに基本的には考えておりますが、研究開発と同じような条文ではまずいと思っております。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 ほかに何かございましたら。どうぞ、土肥委員。

【土肥委員】

 さっきの話にも関係するんですけれども、そもそも研究開発に係る著作物の利用の適正化、適法化という点で、目的がイノベーションの創出ということになるのであれば、それは、私はあらゆる著作物というものが前提になるんだろうと思うんですけれども、現在やっているその行為の萎縮効果を排除したいと。現在やっているところを前提に、そこにおける萎縮効果をなくしたいというのであれば、それはDRM等にかかっているところについてまでということには当然ならないんだろうと思いますので、そもそも今回の検討されている趣旨というのがどっちにあるのかですね。あらゆる科学技術分野、これはもう法律も全て入ると思うんですけれども、あらゆる科学技術分野のイノベーションのために、全ての研究活動を促進する、新しい成果物の創出を促進するということからすると、恐らくそれは相当程度高度な、つまり権利制限としても高いものが求められるんだろうと思うんですけれども、現在出ている萎縮効果を排除したいというのであれば、それはまた別で、そこが目的そのものを1つはっきりさせていただければ、当然それに伴って範囲等々も決まってくるのでないかなと。そしてさらに、現行の著作権法の著作物の保護と権利制限とのバランス、こういうものを入れる場合にはバランスというのもありましょうから、そういうことを考えていくのであれば、順番として、目的を決めて、範囲を決めてという段取りがいいのではないかというふうに思います。

【中山主査】

 まさにそのとおりです。まさにそれを決めていただきたいわけで、知財戦略本部は、本部の成立経過からして、日本の産業の再生・復興ということであるわけで、どうしてもそちらの方に重点が置きがちですけれども、それをこちらにおろしてきた場合には、果たしてここで書いてある画像云々だけの問題でいいのかどうか、それも含めて議論してもらわなければいけないわけです。ですから、どちらかであればどちらかということなんですけれども、そのどちらかをまず議論してもらえればというふうに思いますけれども、土肥先生は、そこら辺はどうお考えになりますか。

【土肥委員】

 難しいです。

【中山主査】

 分かりました。ですからそこら辺のことを、当然これ、審議会におりてきた以上は議論をしてもらうということになると思います。
 先ほど言いましたように、これはそちらの方の関係の学者から強い要望があったわけですから、それはそれで必要性があると思いますけれども、それ以外も、条文にする以上は、一応一般的なことを考えなければいけないということだろうと思います。
 大渕委員、どうぞ。

【大渕委員】

 この辺全くおっしゃるとおりだと思うんですが、要するに、ニーズとしてこれが出てきているけれども、やるからには研究開発一般もターゲットにするかという点と、それからもう一つは、先ほど出ておりましたけれども、緊急性というか、どの時点でやるかという点があって、後でもっと一般的な話をするのであれば、そこで拾えるのを今の時点でどうするかという辺りも考えることになろうかと思います。目的を先に決めてからやるというよりは、もっと全体に、効果なども含めて、やっぱり全体像を描いた上で考えないとなかなかむつかしいかと思います。スペシフィックにこれだけやる方がいいのか、それともこれも含めた一般ルール的なものがいいのかという点が問題となり、これは、さらには全体的なフェアユースの話にもつながってくるのですが、先に目的で絞ってしまうだけのアプローチよりは、ある程度いろいろな組み合わせを考えたりして、こう絞るとこういうような効果も伴うという辺りを全部にらみながら、前広に議論していくほうがよいのではないのかなという気がしています。
 先ほどのような特定の著作物との関連性をどうするかなど、いろいろな点も含めて、研究開発、研究というのも先ほどあったように、営利目的、非営利目的、多々あるわけですけれども、それも何かもう全体的な中で考えてみて、どの点に一番の緊急必要性等があるのかを含めて、どこに落としていくのがいいのかということを総合的に考えていくしかないのかなという気がしています。

【中山主査】

 もちろん、そのとおりだろうと思います。
 ほかに何かご意見ございましたら。

【土肥委員】

 質問でもいいですか。

【中山主査】

 どうぞ。

【土肥委員】

 その段取り自体はこの後、次回等々でこの関係者の方のご意見を伺う場があるわけですよね。そこでどういう趣旨でこれを必要とされるのかということを、我々としては伺えるということだと思いますので、その後でいかがなんでしょうか。

【中山主査】

 おっしゃるとおり、これから、後で事務局からお話しございますけれども、ヒアリング等を行ってやりたいと思いますけれども、それは次回以降になっています。今日の段階で皆さんのご意見を伺えればというふうに思っております。
 どうぞ、村上委員。

【村上委員】

 それで、私は、いろんな議論がありますが、コンピュータ・プログラムのリバース・エンジニアについては、研究開発目的でやる場合にはそれを禁止するというのは、やっぱり私は好ましくないと考えていますので、そういう意味で、コンピュータ・プログラムについてはリバース・エンジニアを当然、研究開発目的というのを限定して認めてやるべきだと思います。ただ、そのときには、そこだけで終わってしまうと多分意味がないのであって、リバース・エンジニアリングを禁止する特約は効力がないとか、それから、そのプロテクションの、そのときにはまた、リバース・エンジニアリングを研究開発の目的で行う場合にはそのプロテクションも解除できると、そこまで書き込んでもらわないと多分意味がない形になると思います。
 それと、今の研究に発する一般の話を、私はどうしてもやっぱり市場にいろんな事態に対応するために抽象的な文言で規定を置いて規制を行うという発想ですから、確かに具体的には裁判で決着しなきゃならない。ただ、そういうシステムというのは確かにうまく動いている国もあるので、そこでやっぱりフェアユースとの関係というのは、積極的な検討は、私は十分に絡めてすべき話だと思います。

【中山主査】

 リバース・エンジニアリング特有の問題は、またこの次に議論いたします。調査研究ですけれども、これは確かに研究目的という言葉だけですと、例えば、31条に図書館で調査研究のためにコピーできるというのが書いてありますけれども、実際は楽しみにコピーをしても拒否はされないという実態がある。それが多分茶園委員が恐れているところだろうと思いますけれども、それでは何かうまい言葉で制限できるかというと、これまた苦しいところでして、なかなか難しい、悩ましい問題を含んでいるわけですけれども、何かほかにご意見ございましたら。
 リバース・エンジニアリングについて、少し議論する時間がなさそうなので、次回に回してよろしいでしょうか。

【吉田文化庁長官官房審議官】

 はい。

【中山主査】

 では、とりあえず今日は調査、研究目的のところだけ議論をしたいと思います。何かほかにご議論ございましたら。
 ここで、戦略本部の方で書かれている画像解析云々のほかに、大学での例えば文系の人のコピー、これがいいかどうかという、そこが一番の問題だと思うんですけれども、例えばそれがもしいいとなると、今の複写権センターが大学から金を徴収しているという、あれは徴収できなくなるとなるわけですね。いろんな意味での権利制限というのがありますけれども、権利制限規定を設ける1つの理由は、市場の失敗といいますか、トランザクションコストが余りにも高すぎるという点があるわけで、それが仮に安くなれば、例えば、まあ大学では複製をしても良いが対価は払う、そういう規定もあり得るし、いろんな可能性があるとは思いますので、ぜひ皆さんのご意見を伺いたいと思いますけれども、何か。
 どうぞ、松田委員。

【松田委員】

 意見を聞く場合でありますけれども、先端技術やIT関係のイノベーションのためだけの研究ではなくて、今、中山先生が言われたように、社会科学的機関等における研究についてもどんな問題が生じているのかは、一例ぐらいは出した方がいいのではないかなと思うので、ぜひそういうことの意見を出せる人を事務局に呼んでいただきたい。

【中山主査】

 分かりました。
 ほかにご意見はございましたら。よろしいでしょうか。
 では、今日の議論はこのぐらいにしたいと思います。
 リバース・エンジニアリングにつきましては議論を残したわけでございます。調査、研究についてもまだ議論を残しておりますけれども、この両者につきましては、これから検討をしなければいけない課題であると思っております。したがいまして、次回以降、優先的にこの2つの点について議論をしてまいりたいと思います。
 事務局から、今後の審議予定等について説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 資料6になりますが、今後の審議予定としましては、関係者からの意見聴取も含めて議論をしていきたいと思っております。その際に、呼ぶ相手方としましては、リバース・エンジニアリングにつきましては、その目的の範囲をどうするのかというのが一番のポイントになってくると思いますので、相互互換性以上の部分をどうするのか、例えばセキュリティ関係をどうするのかというところも視野に入れまして、そういった関係者も呼んではいかがかと考えております。それから研究開発のところは、案としましては、情報解析関連学会、関連産業会を中心にと思っていたのですが、先ほどのご議論の様子だともう少し幅広にということでしたので、多少工夫をして探してみたいと思います。
 そのような形で今後進めていってはどうかと考えております。
 それと、すみません、今日の課題ではないのですけれども、ついでに資料7も説明させていただいてよろしいでしょうか。

【中山主査】

 お願いします。

【黒沼著作権調査官】

 資料7は、前々回の本小委員会でご議論いただきました事項に関するものですけれども、参考資料3にありますように、インターネット上で行われております新たな創作形態といいますか、特に多数の者がいろいろな著作物をお互いに利用し合って行っているような創作形態についての課題などが指摘されておりましたので、その問題につきまして、契約・利用ワーキングチームの方で検討を進めていただいてはどうかと考えまして、このようにワーキングチームの所掌の追加をお願いしたいと思っております。

【中山主査】

 よろしいでしょうか。
 ただ今の当面の審議予定(案)につきまして、何かご質問ございましたら。よろしいでしょうか。
 それでは、ヒアリングの対象団体につきましては、私にご一任願えればと思います。松田委員のご意見、ごもっともだと思うのですけれども、適当な人がいるかどうか、ちょっと探してみます。誰が適当かというのは、なかなか難しい問題があると思いますけれども、ご一任願えればと思います。よろしいでしょうか。ありがとうございます。
 また、そのネット上の複数者による創作に関する課題につきましては、契約・利用ワーキングチームで検討をお願いするということで、土肥座長、よろしくお願いを申し上げます。
 ワーキングチームの委員につきまして決まりましたら、いつものようにこの場でまたご報告をお願いしてもらえればと思います。
 時間があれば、先ほどの議題1に戻る予定でございましたが、ちょっと時間がございませんので、これをもちまして終了させたいと思いますけれども、何かほかに事務局から説明ございましたら。

【黒沼著作権調査官】

 それでは、議題(1)の部分、参考資料1、2につきましても、もしご意見がございましたら書面でも構いませんので、お送りいただければと思います。
 それと、本日お時間があればと思っておりましたが、参考資料4ですが、議員立法によりまして著作権法の一部が改正されております。中身、もしよろしければ1分程度で。

【中山主査】

 お願いします。

【黒沼著作権調査官】

 障害のある児童、生徒のための教科書関連の活用の法律でございます。参考資料4に官報の写しがございますが、第5条をご覧いただきますと、教科用図書発行者に一定の義務を課している規定でございますが、検定教科用図書に係る電磁的記録を提供しなければいけないという規定、要するに教科書の元データでございますが、拡大教科書なりをボランティアが作るときに、電子データがあると作りやすいというご要望があるようでございまして、そういったこともありまして、教科書発行者にその教科書の元データを文部科学大臣または指定する者に提供しなければいけないという義務が課せられたということでございます。
 それから、第7条をご覧いただきますと、発達障害その他障害のある児童、生徒のためにいろいろな形態の教科書の整備充実を図るための措置などについて規定されております。
 こういった規定を受けまして、附則4条で、著作権法が一部改正されております。具体的には、一部改正ですので、新旧対照表の方をご覧いただきますと分かりやすいかと思いますが、33条の2の、現在の拡大教科書の規定に一部追加がされております。現在の規定では、弱視の児童、生徒のための教科用図書の拡大ができるという規定でございましたが、この範囲が、視覚障害、発達障害その他障害により教科用図書に掲載された著作物を使用することが困難な児童、生徒ということに広がりまして、複製の形式も拡大だけではなくて、その他児童、生徒が使用するために必要な方式で複製することができるという規定になってございます。
 それから第4項で、先ほど申し上げました電子データの提供の関連の規定がございますけれども、これにつきましても、著作権侵害にならないということを明確化するための規定が置かれているということでございます。
 ご報告、以上でございます。

【中山主査】

 ちょっと主査の立場から若干逸脱するかもしれませんけれども、一言申し上げたいと思います。以前の改革で、弱視者についての拡大教科書は通ったわけですけれども、そのとき、弱視者以外にもいろんな障害者はあるということで、障害者団体からは何とかしてほしいという要望があったわけでございます。しかし障害者といったって範囲が分からないとか、いろいろな理由で、弱視者だけになったわけです。
 しかし、その間に、これ議員立法であっさり通ってしまったわけですね。つまり、この条文がないことによって誰が困るかと。実際教科書が読めない小学生、中学生がいるわけですね。この条文がないために、犠牲になっているわけです。そんなことをやっていると、著作権法というものはけしからん法律であるという、そういう風潮が社会に出てくるのではないかと思います。したがって、これを議員立法で先を越されてしまったのは、ちょっと私にとっては悔しいのですけれども、しかし、こちらの方でもきちんと必要なものは早急にやるということをしておかないと、議員立法でやられてしまうと、そういう教訓になったのではないかと私は思っております。主査の立場を逸脱しているかもしれませんけれども、一言コメントを申し上げたいと思います。
 それでは、本日の会議はこのぐらいにしたいと思います。
 これをもちまして、文化審議会著作権分科会の第4回法制問題小委員会を終了させていただきます。どうも本日はありがとうございました。

(文化庁著作権課)