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「共助」を本当の意味で理解するには「学び合い」が必要

藤野 真一郎さん

[ 北海道 ]

恵庭市 総務部基地・防災課長

藤野 真一郎さん

平成8年恵庭市役所奉職。建設部や生活環境部での勤務を経て、平成14年度から教育委員会社会教育課で勤務。平成15年に社会教育主事講習を受講し、平成26年度まで13年間社会教育主事として、地域の声から地域課題を見出すよう心掛け、そこから地域の人と人、家庭・学校・地域がつながるような地域の教育ネットワークづくりの様々な事業を展開する。平成30年4月から総務部基地・防災課長として、自衛隊のまちでもある恵庭の基地業務と防災業務の担当になり、現在に至る。

Q. 藤野さんは基地・防災課長着任後、すぐに北海道胆振東部地震を経験されています。防災行政の課題など、どうお考えになっていらっしゃいますか?

  •  私は基地・防災課長として3年目を迎えましたが、その中でも印象に残っているのは、基地・防災課着任後5ヶ月目となる平成30年9月に発生した北海道胆振東部地震です。  災害対応に追われるなかで、うまく対応出来なかったことが様々あったのですが、その教訓の一つが、災害は行政がオール職員で当たっても対応できないということです。市職員だけでなく、地域の方々も含めた恵庭市全体で災害対応にあたる必要があるということ痛感しました。  その最たるものが、避難所運営です。  震災後、ある町内会長さんからも言われたんですが、胆振東部地震が発生し、その町内会長が自分の町内会にある避難所へ駆け付けたところ、市の職員が来て、「じゃあ、この避難所は地域の方で運営してくださいね。」と言われて「え?」と戸惑った、ということでした。

  •  恵庭市では平成29年3月に恵庭市避難所運営マニュアルを作成し、基本方針には「(避難所は)地域住民による自主運営が基本」と記載しています。市の職員は避難所 運営は地域住民がやるものだと思っていた一方で、地域の人にそのことが理解されておらず、地域の人は避難所運営は市の職員がやるものだと思っていたんですよね。  避難所運営マニュアルが作られたからと言って、地域の方が避難所をすぐに運営できるようになるわけではないと、頭では分かっていましたが、実際に地震が起こってみて、うまく回らないということを身をもって経験しました。  改めて、防災というのは自助・共助・公助がうまく噛み合って一体的に災害に備え、対応するものだと感じました。

Q. なるほど。行政と地域住民の役割、地域住民の当事者意識をどう考えていくかが重要になりそうです。では、胆振東部地震の教訓を受けて現在、どのような取組をされているのでしょうか?。

  •  避難所運営マニュアルを作ることだけではなく、その中身を地域の人に理解してもらうということが大切だということを改めて感じました。  そこで、現在、避難所運営マニュアルを地域の人とともに作る過程を「防災学習会」として取組んでいます。  「防災学習会」ではなく「マニュアル作り」としてしまうと、マニュアル作りだけがゴールになってしまいます。

  •  この防災学習会では、学習テーマが「避難所について」そしてその避難所について学ぶツールとして「避難所運営マニュアル作り」という位置づけにしており、マニュアル作りを通して、「避難所は地域が運営するんだ!」と思ってもらうこと、つまり、「共助」という言葉を表面的に理解するのではなく、「共助とはこの地域ではどういうことなのか」ということを真に理解するひとつのきっかけとなることを大きな目的として取組んでいます。

Q. マニュアル作りで特に大切にしていることはありますか?

  •  例えば「避難所運営は行政職員だけでは対応できないので、地域の力を貸してください!」と町内会長宛てに通知文書を出せば理解してもらえるというものではありませんので、そういった「理解」を求めるためには「学ぶ」という取組が必ず必要になると思っています。  人というものはなかなか変わらないと考えています。例えば、「こうしてください」とお願いした時、相手の方に頭で分かってもらうことは簡単でも、その人に実際に動いてもらう、つまり、行動を変えるということは難しいことです。本当の意味で理解するとは、「行動が伴って」初めて本当の意味で理解したと言えると考えています。真に行動が伴う理解まで持っていくためには、「学ぶ」ことが大切だと思います。その中でも一人で「学ぶ」だけではなく複数で組織的に「学び合う」ことが重要であり、「社会教育の出番」だろうと思いました。  こんな話をすると、防災においてどうして「学び」が必要なのか、と不思議に思う人もいるかもしれません。

  •  地域の人に動いてもらうときに、行政からお願いして動いてもらうという方法もあるのではないかと。もちろん、お願いして動いてもらうという方法もあります。しかし、それでは本当にその人に理解してもらえてはいない、その人の意識は変わってはいないと思うのです。  地域の人に意識を変えてもらう、「行政からお願いされたこと」ではなく「自分のこと」「地域のこと」として、主体的に動いてもらう、というような持っていき方は社会教育のノウハウであり、社会教育は「学び合い」のプロセスの中でそのような仕掛けづくりをするのです。

    ※社会教育の定義(社会教育法第二条) (前文省略)学校の教育課程として行われる教育活動を除き、主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育及びレクリエーシヨンの活動を含む。)をいう。

Q. 「社会教育」という言葉が出てきました。藤野さんは社会教育主事として10年以上勤務した経験をお持ちです。藤野さんの考える、「社会教育の出番」とはどういうところにあるのでしょうか?

  •  自治体職員として、市民の幸せのためにという大きな目標につながる活動をいかに意図的に働きかけて生み出すのか、また、どのようにそれぞれのミッション(地域課題)がクリアできるように働きかけていくのかという考え方は社会教育の発想そのものだと思います。   社会教育主事は教育の専門職です。教育には、教育を提供する側に、どういうことを目的に提供するのか、また、提供された側がどう学び合っていくのか、といった意図的な考えがあるかと思います。

  •  意図的に教育活動を行うということは、そこにはノウハウや手法、外せないポイントなどがあり、そこに社会教育の専門性が出てくると思います。

Q. 社会教育行政に長く携わっている藤野さんだからこそのお言葉ですね。では実際の社会教育主事のノウハウや、意識してきたことなどをご紹介いただけますでしょうか。

  •  仕事をしていて地域の方々の変化に立ち会える瞬間は、社会教育の醍醐味のひとつでもあり、一番嬉しい瞬間です。一人ひとりの変化が積み重なって地域の変容に気づく瞬間でもあります。 例えば、私がお願いして地域の人に動いてもらった事業でも、進めていくうちに私から「次はどうします?」と言わなくても地域の人が勝手に「次どうする?」と自分たちで次の話をし始めた時に地域のものになったなと感じ安心します。そして、自分の枠を超えて予想も超えて、地域活動としてどんどん広がり発展していくのは社会教育の魅力であると思います。

  •  地域のものになった後、そこで私の役割が終わりかというとそうではありません。その後、地域の人たちの活動としてさらに発展していってもらうためには、その活動を一歩引いた立場から「意味付けする」ことが大切だと思って、意識しています。地域の人たちの活動を丁寧に見ながら、社会教育活動としてどんな意味があったのかが伝わるような言葉を用意し、タイミングを逃さないように伝えています。地域のものになったからといってフェードアウトするようで、実はより丁寧でより深く関わることになるんですよね。

藤野さんってどんな人?

(地域住民・地域の活動者)恵庭市子育てグループ関係者 鈴木 祥江さん

(地域住民・地域の活動者)恵庭市子育てグループ関係者 鈴木 祥江さん

子育てをしていた私にとって、「まちづくり」というとものすごく大それた感じがして、自分と関わるとは考えられなかったのですが、藤野さんが、藤野さんの視点で意味づけてくれたことで、「本当に小さなことでもいいんだ」「子供たちの遊び場が無いから自分たちで作りたい」という日常の中の思いもまちづくりなんだと気が付かせてくれました。自分たちの活動を藤野さんが「イイね!」と言ってくれることで「あ、これでいいのかな」と安心できました。

恵庭市子育てグループ関係者 太田 実保さん

恵庭市子育てグループ関係者 太田 実保さん

地域で活動をしていて、藤野さんは「こうしなさい」というのではなく寄り添ってくれて、社会教育的な視点で「僕だったらこう思う」「それはこういうことなんじゃないかなあ」と押しつけではなくヒントをくれるので、「なるほど、そう考えたらいいのか!」と気づきをもらえます。藤野さんの寄り添ってくれるところや、一歩引いたところから見た意見や気づきをもらえるのは一体何なんだろうと気になって、私も社会教育主事講習を受けてみました!

(社会教育主事時代の同僚職員)恵庭市広報課 吉野 裕太さん

(社会教育主事時代の同僚職員)恵庭市広報課 吉野 裕太さん

地域での顔が広く信頼が厚い方ですね。 地域での会合などでも、自然と中心になって話を回し、色々な人の声を引き出して地域の学び合いを生み出しています。

Q. 現在は基地・防災課長として「防災」に携わっていらっしゃいますが、改めてズバリお聞きします。社会教育の経験が、防災に関する業務で役に立っているのでしょうか?

  •  恵庭市の人口約7万人の市民全てに自助・共助などを理解してもらおうと思っても、なかなか簡単なことではありません。いきなり全市民に伝えるのではなく、よりローカルな範囲で地域にアプローチしなければいけないという時に、「この地域では誰にアプローチすれば地域全体へ広げることができるのか」を把握できているのは、社会教育主事時代に築いた地域とのつながりや経験が生きているからだと思います。

  •  ただし、このような人脈は、行政職員としての経験年数が長ければ少なからず誰でも持っているものと思われますが、経験年数が短くても「地域との関係性をどのように作っていくのか」という「社会教育」のノウハウがあれば、関係を築くことができると思います。   そのため、私は社会教育主事時代の財産で、基地・防災課の仕事をしていると思ってます。

藤野さんってどんな人?

(地域住民・地域の活動者)恵庭市柏地区自治会役員 庄司 宏さん

(地域住民・地域の活動者)恵庭市柏地区自治会役員 庄司 宏さん

地域の方々とどう関わるか、その関わり合いのなかで藤野さんは意識していないと思うけどキーになる人をピックアップして育てている。そこで私たちは踊らされていたかもしれない(笑)。でも、それで良いと思っています。

恵庭市柏地区老人クラブ代表 亀石 和代さん

恵庭市柏地区老人クラブ代表 亀石 和代さん

行政に相談に行くと「前例がないからできません」「こういうことがあるからできません」といったように出来ない理由を並べられることが多いのですが、藤野さんは何かをお願いしたり相談したりした時に、出来ない理由を探すのではなく、「どうすれば出来るのか」を一緒に考えてくれます。

恵庭市柏地区自治会元自治会長 坂上 信之さん

恵庭市柏地区自治会元自治会長 坂上 信之さん

藤野さんは地域に親しみを持って地域に入って来ます。

恵庭市島松地区自治会長 鏡 貢さん

恵庭市島松地区自治会長 鏡 貢さん

藤野さんは地域に上手に入って来られて我々は上手に使われているんです(笑)。でも、逆にそうやって入ってきてくれるので私たち地域住民も一緒になってできるし、十数年間お付き合いしてくれて私は助かっています。

(恵庭市職員)恵庭市総務部長 横道 義孝さん

(恵庭市職員)恵庭市恵庭市職員総務部長 横道 義孝さん

社会教育課時代の地域とのつながりを防災の分野でも活かして地域との関係を大切にして取組んでくれています。

恵庭市基地・防災課 三浦 光騎さん

恵庭市基地・防災課 三浦 光騎さん

藤野課長が防災課に来られて、地域との調整がやりやすくなりました。地域に溶け込むのがうまくて、役所と地域という立場じゃなく見えるような良い関係を築いて仲良く話されていてすごいなと思いました。

恵庭市基地・防災課 福嶋 秀斗さん

恵庭市基地・防災課 福嶋 秀斗さん

藤野課長の地域とのつながりはアドバンテージだと思います。何かあった時に地域の方に相談できるといったネットワークはすごく大事です。人との関わりというのはどんなに時代が変わっても替えがきかない財産だと思います。

Q. 防災という分野以外でも、行政職員として、社会教育主事のスキルは活かせると考えていらっしゃいますか?

  •  社会教育主事としての専門性やスキルは、自治体職員としてどの分野でも活きると考えています。  行政には市民のために部署ごとに役割があり、そこにはまちの課題や市民の課題に向き合うという何かしらのミッションがあると思います。そのミッションには行政の力だけで解決できることもあるかと思いますが、「地域の方の協力を得て地域の方と一緒にやること」、さらには「地域の方でないと解決できないこと」に、各部署で向き合わないといけない場面があると思います。そのような仕事には社会教育的な考え方や手法というのが十分に通用すると思います。

  •  たくさんの方に社会教育の理解が広がり、社会教育の魅力を感じていただければと思います。

Q. 社会教育の魅力、本当に多くの方に伝えていきたいですね。最後に、藤野さんはこの先どのようなことをしていきたいですか?

  •  今後やっていきたいことってないといけないと思うのですが、あまりないんです(笑)。 社会教育って楽しいんですよ。これまで社会教育主事の魅力や自由さをたっぷり味わいました。 それと同時に、基地・防災課に来て、社会教育主事的な仕事は自治体職員として、どこの部署でもできるということを再確認できたので、こういうことをやりたいというのは無いのですが、「行ったところで社会教育をやる。でもそれはきっと楽しいだろう」と思っています。

  •  むしろ「楽しくできるようにやる」。それが私のやりたいことというかスタンスですね。  そう思わせてくれる社会教育との出会いに感謝です。

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