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「健康づくりはまちづくり」地域福祉を支える社会教育

栗栖 真理さん

[ 島根県 ]

浜田のまちの縁側 代表

栗栖 真理さん

昭和59年より病院看護師として、昭和63年より訪問看護師として働き、子育てなどでブランクがあったのち、介護保険制度開始の平成12年より、米子市で訪問看護やケアマネージャー等の地域福祉の仕事に復帰。同年鳥取県西部地震を経験し、あらためてご近所力の大切さを実感。市民の目線で地域力を育む活動をしていきたいと思い、縁側のような居場所づくりを模索。平成16年、浜田市定住を機に「浜田のまちの縁側」を開所し、同年浜田市教育委員会子供の居場所づくり事業を受託。以後、浜田市の生涯学習課、公民館、子育て支援課、子育て支援系市民団体、まちづくり委員会等と連携・協働しながら、地域ぐるみで子供を育む様々な取組を行っている。

Q. 栗栖さんの自己紹介をお願いします。

  •  私はもともと訪問看護やケアマネージャーとして地域医療・地域福祉の仕事に携わっていました。 訪問看護をしているときから、人々の健康と暮らしを支えるには地域づくりが必要であると考えていましたが、訪問看護をしていた際に起こった、鳥取県西部地震であらためて気づいたことがありました。 発災時、一人暮らしのお年寄りや心臓の悪い方の安否確認に回ることになったのですが、我が家の子供はまだ小さかったので誰かに子供を見ていてもらわないと、訪問看護ができませんでした。しかし、発災直後にもかかわらず、近所の方々が、「幼稚園に迎えに行くよ」「仕事の間面倒を見ててあげるよ」と言ってくれ、地域の人に支えられて、訪問看護をすることができました。行政や民間事業者による子育てや介護などの福祉サービスもとても大事ですが、あらためて地域のつながりの大切さを実感しました。

  •  そのことを通して、「ご近所力」が地域からなくなってしまうのはとても残念なことだなと思い、「つながり」を大切にできるようなことを自分のライフワークとしていきたいと考えるようになりました。そこで、子供から大人まで誰でも来ることのできる多世代の居場所をつくりたいと思い、「まちの縁側」を始めることにしました。

Q. 「福祉」関係の仕事に長く従事してこられた中で感じていたこと、課題などを教えていただけますか。

  •  元来、介護や子育てといった人々の大事な営みは、面倒なこともたくさんありますけど、人と人とのつながりによって行ってきました。しかし、福祉制度の充実によって、そういった営みが事業者のサービスとして外注できるようになりました。人々はサービスを受ける側、いわゆる「消費者」に留まり、地域での支えあいや他者への気遣いが薄れ、人と人とのつながりが希薄になっていく可能性、危機感を感じました。 ケアマネージャーというのは本来、介護保険事業というフォーマルなサービスを提供しながら、更に、地域のつながりを基盤にインフォーマルなサービスも開発して、提供していく役割をもっていますが、現状なかなかそこまで手が回らなくなっています。今あるサービスをケアプランに貼り付けることが仕事だと思ってしまい、地域づくりといった視点が弱くなっているように思います。

  •  福祉の世界では「健康づくりはまちづくり」と言われますが、保健福祉の専門職は目の前のケースの対応に追われがちで、地域を上げて福祉や健康のまちづくりを行っていくというところに十分な時間がさけない実情があると感じています。

保健師から見た地域づくりの重要性(浜田市子育て支援課 保健師 伊藤 恵さん)

浜田市子育て支援課 保健師 伊藤 恵さん

私たち保健師は、地域づくりも大切にしているところですが、日頃は、個別のケース対応や、ハイリスク者の対応が大きなウエイトを占めています。しかし、栗栖さんが「まちの縁側」や公民館を核とした地域づくりの取組を担ってくれているので、私たち保健師は安心してハイリスク者対応ができます。栗栖さんは、地域の特性を把握していて、その地域の課題をうまく事業に取り込んでいるので、日頃から、助言を頂きながら一緒に活動しています。

Q. 地域づくりというお話がありましたが、これからの福祉における地域づくりの重要性をもう少し詳しく教えてもらえますか?

  •  例えば、在宅医療や介護が必要な方の、その人らしい生活を支えるには、専門家による看護以上に、その人を取り巻く生活や環境が重要であり、家庭や地域、社会全体を、トータルにアセスメントしないと在宅ケアは支えらません。介護にあたる家族のストレスは蓄積していないか、まちに車椅子で行くことのできる喫茶店があるか、災害時に避難を手伝ってくれるご近所のマンパワーがあるかなど多岐にわたりますが、それらはみな福祉の地域づくりにつながっています。 また子育て支援に関する行政の対応でいうと、保健師は、ハイリスクファミリーの対応で精一杯で、本来実践したい予防的な対応としての地域づくりに十分に手が回らない状況にあります。

  •  そこで、地域が「温かい布団」のようになって、子育て家庭を支えていく必要があると感じています。 そういう意味でも、先ほど話したご近所力が落ちていくのはとても残念ですし、地域づくりの一つとして何かできないかと思い、まちの縁側をスタートすることにしました。

Q. まちの縁側について教えて下さい。

  •  ホームページにも掲載していますが、まちの縁側の目的は次のとおりです。https://blog.canpan.info/h-engawa/

    人が生まれ、育まれ、生き、そして老いて死んでいく、その営みそのものをあたたかくつつんでくれるまちを育みたいという願いから、子どもから高齢者まで、すべての人に開かれた自由な空間を提供し、そこから生まれるゆるやかな交わりが、福祉の増進・社会教育の推進・子どもの健全育成を図り、地域力を育むことを目的とする。

  •  開所日は、平日は水曜日の放課後、週末は毎週土曜日で10名前後の子どもがやってきます。子どもの居場所として、基本的に子ども自身で何をしたいかを決めて過ごせるようにしていますが、月に一度はみんなでお昼ご飯をつくって食べています。まちの縁側の運営は、ボランティア8名で行っています。 まちの縁側は私立の「公民館」のような存在だと考えています。 地域の人が自由に来て、学んだり、発信したりしながら、その人らしい輝き方ができる場所であり、子供を地域ぐるみで育むホームベースのような存在でありたいと考えています。

浜田のまちの縁側看板写真

地域の小学校から見たまちの縁側の意義(浜田市立三階小学校 校長 松本 潔さん)

浜田市立三階小学校 校長 松本 潔さん

学校で教員が見ている子供の姿って多分かなり狭いと思っています。「まちの縁側」で起きていることを学校に情報共有してもらって、何か気になるようなことがあれば、それとなくその子供を支援しようということで、栗栖さんと連携させてもらっています。

地域住民から見たまちの縁側の意義(自主防災組織 副会長 長野 治喜さん)

自主防災組織 相生2-2町内防災会 副会長 長野 治喜さん

子供たちは、まちの縁側に来ることを楽しみにしています。子供たちが大きくなっても、まちの縁側のことをきっと忘れないと思う。そして、自分の子供を連れて、また戻ってくるのではないでしょうか。 まちの縁側、そして栗栖さんは、この地域にとって本当に必要な存在です。

まちの縁側スタッフから見た栗栖さん(大谷 能子さん、柳川 智己さん、渡部 美和さん)

大谷 能子さん、柳川 智己さん、渡部 美和さん

栗栖さんに、上手に、いつの間にか巻き込まれていました(笑) 栗栖さんは常に次を考えていて、そこに留まることなく、次のビジョンを示してくださるので、私たちも刺激を受けます。 私たちは、自分に手伝えることがあるならと思って始めたのですが、今は、まちの縁側は自分たちの居場所にもなっています。ゆくゆくは、老後、ここで地域の子供達とお茶を飲んでいたいなって思っています。

Q. まちの縁側をこれからどのようにしていきたいか、お考えはありますか。

  •  「村が育つには子供が必要」 という言葉もありますが、子供にはすごく大きな力があります。  子供も主体的に、大人も主体的に、子供と大人が双方向で学び合える場所にまちの縁側がなったらいいと思います。

  •  子供たちにとって、いろんな家庭の状況、環境がある中で、この地域でしあわせな子ども時代を過ごした記憶があることが大切です。家庭以外にも自分のことを大事に思ってくれる大人が地域にいる、ということが子供たちに伝わる場でありたいし、そういった想いで今後もまちの縁側を続けていきたいと思います。

Q. まちの縁側は、地域の居場所の一つだと思いますが、地域づくり、地域の学びの拠点である公民館とはつながっていますでしょうか。

  •  子供の豊かな放課後をつくるということを考えると、まちの縁側の取組は、放課後支援の一つにすぎません。  まちの縁側という居場所が「点」としてあるのではなく、自分たちのエリア全体を俯瞰的に見て、地域における様々な活動とつながりながら、「面」として子供を支えていきたいと考え、まずは、地域づくりの核である公民館(石見公民館)と手をつなごうと思いました。

  •  そこで、浜田市教育委員会に相談し、一緒に公民館へ想いを伝えに行き、公民館と連携した放課後あそび隊(放課後子供教室のこと)に取り組んできました。

公民館から見た栗栖さん(浜田市立石見公民館主事 江木 眞由美さん)

浜田市立石見公民館主事 江木 眞由美さん

栗栖さんと出会って、私自身地域に対する考え方が変わったと思います。自分も地域をよくしていきたいという思いが強くなりました。 私が公民館主事になったのも、まちの縁側と公民館で地域の居場所作りを一緒にやって行こうと栗栖さんに誘われたことがきっかけです。今でも、公民館の講座を始める際には、必ず栗栖さんに相談して、地域の方にどんな姿になってほしいかというような講座終了後の出口を見据えて計画を練るために、アドバイスをもらいながら、一緒に企画をしています。

Q.社会教育に関わるようになったきっかけを教えてください。

  •  まちの縁側が子どもの居場所づくり(現放課後子供教室)事業に指定されたことから、社会教育との接点ができ、その後は、放課後あそび隊、先ほどお話しした公民館との連携、島根県全体で取り組んでいる「ふるさと教育」、浜田市や島根県の社会教育委員、といった形であっという間に社会教育の畑での事業に継続的に関わっていくようになりました。

  •  そして、社会教育に関わっていく中で、自身がこれまで取り組んできたことに対して、「今まで社会教育と思っていなかったけれども、これも社会教育だったのね」という気づきが生まれてきました。

Q. それが社会教育を関わるきっかけだったとのことですが、改めて社会教育主事講習を受講するきっかけを教えていただけますか。

  •  社会教育に関わる方々と一緒に仕事をしていく中で、共通言語を学びたい、また、自分の取り組んでいることについて、根拠を持って進めていきたいと思い、社会主事講習を受講しました。  社会教育主事講習では、社会教育を体系的に学ぶことができて視野が広がりました。そして何よりも学びになったことは、まちの縁側が子どもの居場所として、子ども一人ひとりの主体性を大切にしてきたことや、放課後あそび隊で中学生に遊んでもらった小学生たちが、やがて中学生になり、今度はお兄さんお姉さんとしてボランティアで参加するといった好循環が生まれる仕組みづくりは、社会教育の息の長い人づくりの考え方、ノウハウそのものだということに気が付いたことです。  自分がやってきたことって社会教育の大事なプロセスだったんだなって、改めてこれまでの取組の意図を言語化する機会になりました。

  •  私の場合、まちの縁側などの事業と並行して、社会教育主事講習を受講していたので、1年で全ての科目を受講するのではなく、4年間かけて少しずつ受講しました。  社会教育主事講習は、受講してすぐ何かが変わるというよりも、受講後に講習等で学んだことを生かして実践をしていきながら、自身の学びがさらに深まるという感じでした。  私の元々の専門は在宅ケアで、訪問看護、ケアマネージャー等の領域ですが、実は社会教育と類似していることが多いと感じています。成人教育の要素や、患者やその家族の意識、行動変容といったこと、また患者本人や家族を支える多様な人材、リソースのコーディネート、ネットワークづくりなどです。まさに社会教育主事講習で学ぶ内容ですね。

Q. 福祉と社会教育は似ているとありましたが、そのお考えについてもう少し詳しく教えていただけますか。

  •  社会教育は、学びや人とのつながりの中で、一人ひとりが気付き、自分事として行動していけるような人をつくっていく、という考え方に立っています。  そして、「また来週も会いたい」と思えたり、「今日もここに来れて良かった」と繋がりの中で生きる豊かさや確かさ、そして幸せを感じさせてくれるものに寄与できることを大事にしていると思います。

  •  そのようなところが、本質的には福祉が目指す、その人の人生を支えたり、助け合いのできる地域社会をつくることに通じていて、福祉と社会教育は、基本的な考え方は同じであって、「別のもの」という気はしていないんです。

社会福祉協議会から見た栗栖さん(浜田市社会福祉協議会 田さん)

浜田市社会福祉協議会 田邨さん

浜田市も人口減少と少子高齢化が顕著になってきています。そして、公的サービスだけでは生活しきれないという課題があります。近所や地域で見守りの目や声かけがあり「困った時はお互い様」と手助けする方を増やさないと、いつまでも元気に住み慣れた家で暮らしていくことはできません。 栗栖さんの活動している石見地区でも、町づくり組織や公民館と連携していきたいと考えていますが、浜田市で最大の地区で人口も最多なので難しいところもあります。しかし、栗栖さんは、いろいろなところと繋がっているので、社会福祉協議会の思いを地域に伝えたり、地域の思いを社会福祉協議会に伝えたり、福祉のパイプ役を果たして頂いています。

Q. 栗栖さんは福祉にとって社会教育との連携はどのようなメリットがあると考えていますか。

  •  福祉を突き詰めれば、住民一人一人が福祉のまちづくりをしなくてはいけないということは、福祉の人たちも分かっています。  しかし、大人には日常の生活があり、また、これまで長い間生きてきた歴史もあって、「言われてすぐに動く」とはなりにくく、難しいところがあります。  そういった意味で、「成人教育」は子どもの教育以上に学習者のレディネスや自己決定性に配慮する必要があります。  地域住民自らが気づき、行動できるようになるためは、社会教育が培ってきた成人教育やお互いに学び合う、といった学びの入り口がとても大事になります。

  •  そういった社会教育の専門性は、今後福祉にシンクロしていくものだと思いますが、今はまだ、社会教育がリードしなくてはいけないのかなと思います。  福祉は福祉のスペシャリストである一方で、社会教育に関わる人たちは、スペシャリストではなくジェネラリストであって、人と繋がりながら課題を解決する、そのエンジンをかけてくれる存在かなと思います。

Q. 社会教育はジェネラリストという言葉が出ましたが、栗栖さんは社会教育は福祉だけでなく様々な分野と連携することができると考えているということですね。

  •  そうです。例えば、これまで行政がやってきたことはどちらかというと、行政からお願いして地域の人にやってもらうという動員型ボランティアだったと思います。  しかし、社会教育がやっているのは動員型ボランティアではなく、学びやつながりの中で一人一人が自ら気が付いて主体的に行動できる人をつくるということです。  行政は人員削減などが進んでおり、福祉・防災・環境等様々な地域課題(行政課題)について、行政だけでできることが減ってきています。

  •  そのため、主体的に行動できる人を地域の中で増やさないと回らない状況になっています。どんどん行政がスリム化する中で、市民に「させる」のではなく、いかに市民を一緒にやっていくパートナーにするかということは行政にとって喫緊の課題ですよね。 住民一人ひとりが地域のことを自分事化できるように仕掛けていく、そこには社会教育のノウハウ・プロセスが必要であり、社会教育は行政と住民の協働の要なのかなと思っています。

Q. 今後の社会教育主事や社会教育士へ期待することは何ですか。

  •  まず、社会教育主事が、社会教育計画をはじめとする市全体の社会教育のグランドデザインをしっかりと描き、アウトカムを意識した計画を立てていくということがないと、それぞれの現場で活動する社会教育士たちが連携したり、のびのびと活躍したりしていくのは難しいと思います。そういった意味で、社会教育主事は、主事自身がプレーヤーというよりも、全体をどうオーガナイズしていくかということに力量が求められると思います。

  •  また、これからますます地域の課題解決や魅力化を自分事として、主体的に行動できる市民が必要になってくるとお話ししましたが、市民が主体的に行動するような状況になっても、市民が困ったときにサポートし、伴走していく社会教育主事・社会教育士の役割はますます大きくなっていくと思います。

Q. 最後の質問です。栗栖さんは今後、どのような地域・社会をつくっていきたいとお考えでしょうか。

  •  今後どのような地域にしていきたいか、どのような社会にしていきたいか 、次世代にどんな浜田を残していきたいか、ということを本気で考えることのできる大人がこの地域に増えたらいいなと思っています。  また、個人の豊かな暮らしのためにも、持続可能で安心できる地域社会をつくっていくためにも、生涯学び続けることのできる人が増えたらいいなと思っています。

  •  これからも「地域を良くしたい」と考えている人たちとつながりながら、「まちの縁側」を拠点に学びやさらなるつながりを作っていきたいです。

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