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著作権分科会 法制問題小委員会(第7回)議事録・配付資料

1. 日時
平成19年8月22日(水曜日)10時〜11時40分

2. 場所
フロラシオン青山 「はごろも」

3. 出席者
(委員)
市川,大渕,潮見,末吉,茶園,道垣内,苗村,中山,松田,森田,の各委員

(文化庁)
吉田長官官房審議官,山下著作権課長,亀岡国際課長ほか関係者

4. 議事次第
1   開会
2 議事
(1) 権利制限の見直しについて
(2) その他
3 閉会

5. 配付資料
資料1   薬事行政関係の権利制限についての論点
資料2 視覚障害者関係の権利制限についての論点
資料3 聴覚障害者関係の権利制限についての論点
資料4 知的障害者、発達障害者等関係の権利制限についての論点
資料5 ネットオークション関係の権利制限についての論点

(参考資料)
参考資料1   文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第4回)議事録
(※(第4回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料2 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第5回)議事録
(※(第5回)議事録・配付資料へリンク)

6. 議事内容
【中山主査】
 それでは時間ですので、ただいまから文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第7回を開催いたします。本日は御多忙の中、お集まり頂きまして、まことにありがとうございます。
 議事に入ります前に、本日の会議の公開につきまして、予定されている議事内容を参照いたしますと、特段非公開にするには及ばないと思われますので、既に傍聴者の方々には御入場して頂いておりますけれども、このような処置でよろしゅうございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

【中山主査】
 ありがとうございます。
 それでは、本日の議事は公開ということにいたしまして、傍聴者の方々はそのまま傍聴をお願いいたします。
 それでは、議事に入ります。
 まず、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 いつものように、議事次第の1枚紙の下半分に配付資料一覧ということで記載がございます。
 本日、5点の資料をお配りしております。薬事行政、視覚障害者関係、聴覚障害者関係など、それぞれの項目ごとに応じた論点のペーパーを配付させて頂いております。
 それから、参考資料2点でございまして、第4回と第5回の議事録になっております。第2回と第3回のほうはまだ確認中でございまして、回答が集まっておりませんが、先にこちらの確認が済みましたので、本日配付させて頂いております。
 以上でございます。過不足等ございましたら、御連絡下さい。

【中山主査】
 よろしいでしょうか。
 それでは、初めに、議事の段取りについて確認をしておきたいと思います。
 本日検討して頂きたい議事は、権利制限の見直しについてでございます。権利制限につきましては、前々回に権利制限をめぐる課題に関する議論の進捗状況につきまして意見交換を行い、また、前回は関係者からヒアリングを行ったところでございます。それを踏まえまして、今回はそれぞれの課題における論点について事務局より説明を頂戴した後、各項目ごとに委員の方々の御意見を頂戴したいと思っております。

(1) 薬事行政関係の権利制限について

【中山主査】
 初めに、薬事行政に係る権利制限につきまして、事務局から説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 それでは、資料1に基づきまして御説明させて頂きます。
 薬事行政関係の権利制限につきましては、最初の枠囲いのとおり、医薬品等の製造販売業者が医薬品等の適正使用に必要な情報を提供するために、研究論文等の複写の提供ということで、権利制限の御要望があったわけでございます。
 アの部分は今までの背景と現状についての説明でございまして、前回のヒアリングまでの資料をまとめただけの部分でございます。
 1ページめくって頂きまして、2ページの参考の2ですけれども、こちらは追加のデータとして日本製薬団体連合会から頂いた資料でございます。前回、MR、医療情報担当者とはどういうものかということで御議論があったところですけれども、正確な定義をこちらで御紹介させて頂いておりまして、厚生労働省令において、MRとは、医薬品等の適正な使用に資するために医療関係者を訪問すること等により、安全管理情報を収集・提供することを主な業務とする者、こういう形で定義があるということでございます。
 そのMRのうちでどのぐらいの文献提供があるのかという、より細かいデータでございます。ある企業のサンプル調査ということですが、購入した文献ですとか、つくったパンフレットとか、そういったものを全部含めまして、MR1人当たり大体1万部ぐらいで、そのうち、医療関係者からの要望による文献数が平均で約40部ということでございます。
 次のページでその全体像を図示しておりますけれども、こちらの真ん中の横じま部分が権利制限を要望している部分の数ということになりまして、全体の提供文献類、印刷物類のうち、大体0.4から2.5パーセントぐらいの分量ということだそうでございます。
 それから、検討の方向性についてというところでございますけれども、前回までのヒアリングで明らかになりましたことは、権利制限を要望されている事項は製薬企業の自主提供部分を除いたものということだそうでございまして、個別の患者への対応等のために医療関係者から文献の提供が求められる場合ということで、範囲はある程度限定されてきております。こういった場合につきましては、患者の生命、身体に関わるものでありまして、迅速な対応が基本的に求められるものであると位置づけられるものだと思います。
 これに対して現状がどうなっているのかと申しますと、包括的な契約を製薬企業と関係の文献の団体との間で結ぶように努力が進められているということでございますが、交渉中のものを含めましても、団体の管理に属している文献数というのは提供に必要なものの約7割というような情報を頂いております。
 それを受けまして、以下が本日の議論のポイントになろうかと思われる点でございますけれども、まず、このような現状におきまして権利制限以外にどういう方法で対応が可能なのかということで、こういう可能性があるのではないかということで幾つかお示しをしております。
 まず、1つ目は、医療関係者による文献の提供そのものではなく、書誌情報の提供や購入した文献によって対応するという考え方が1つございます。こういった対応をする場合にはおそらくこういう条件が必要になるのではないかということで整理をしておりますのは、別刷り・抜刷り文献といったものが十分に流通することが必要でしょうし、あとは書誌情報の提供を受けた後に、医療関係者自らが文献を探すことのできる図書館等の整備といったことが条件になってこようかと思います。こういった対応で果たして対応できるのかどうかというのが1つございます。
 それから、次のページでございますけれども、別の方法としましては、今、包括契約が交渉中ということでございますので、契約の状況を引き続き見守るということも可能性としてはあるわけでございますが、そういった場合の条件としましては、管理著作物の比率が一層高まるように、一層の集中管理を進めるといったことが必要になってこようかと思います。この場合にとり得る手段としましては、契約条件の交渉に当たりまして、あっせんですとか仲裁とかの仕組みもございますので、こういった仕組みの利用を促すことで対応することも考えられますが、そういったことで対応が果たしてできるかどうかということもあろうかと思います。
 また、なお書きのところですけれども、管理団体の管理に属していない文献が約3割あるということでございますけれども、こういった問題は、ほとんどは権利者に連絡がつかない場合で迅速な文献提供に支障を生じる場合だと思いますけれども、連絡がつかない場合につきましては、現在、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会で、権利者不明の場合の利用の円滑化方策などが検討されていますけれども、そういったものの検討を待つということが果たして適当でしょうか、そういったことでも対応が可能でしょうかというのも1つあろうかと思います。
 以上のような対応策がある一方で、権利制限による対応を考える場合には、次のような点が議論のポイントになるのではないかということで、3)で整理をいたしております。
 まず、1つ目は、権利制限を行うことになった場合には、今、契約が締結されている団体もございますし、もしくは契約条件について詰めた交渉をしている最中という団体もございますので、この中で権利制限をしてしまうことでどういう影響が契約交渉の中に出てくるのかというのが、1点考えるべきポイントとしてあるのかと思っております。
 それから、2番目でございますけれども、平成18年1月の分科会報告書においては、無償とすることは困難ではないかといった御意見があったわけでございます。もともと医療関係の文献は、医療関係者に読まれることを想定しているということもございますので、利益が衝突する部分があるのではないかといった趣旨の御意見だと思いますけれども、そういった観点から、仮に補償金を求めるということにした場合には、現在でも利用料の契約交渉で合意締結に至っていないような状況でございますので、補償金にするにしても、どのぐらいの額の補償金にするのかということを、そのうち詰めた議論をしなければいけないわけでございまして、そういった状況をどう考えるのかということ。それから管理していない著作物が約3割あるという状況も踏まえまして、補償金制度の実効が上がるのかどうか、そういったところも1つポイントになってこようかと思っております。
 それから、3番目でございますけれども、権利制限部分は医療関係者からの提供が求められた部分ということで、自主的提供部分とは切り離すというようなお話でございましたけれども、この規定の確かな運用が確保されるために、その担保措置というものが実際にあるのだろうかといったところが、議論のポイントになろうかと思っています。
 なお、製薬業界でそういった自主的提供文献との区別などが担保できる仕組みがあるかということでございますけれども、現在は公正競争規約ですとか、もしくは業界の自主的な行動基準の中で、プロモーション、宣伝用の印刷物等につきましては、各企業の中に管理者を置いておりまして、そこで適切な情報提供なのかどうかを審査する体制を整えるという自主的な行動基準があるということを伺っております。
 以上のようなところが議論のポイントになろうかと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

【中山主査】
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの説明を踏まえまして、薬事行政に係る権利制限につきまして自由に意見交換を行いたいと思います。御意見がございましたら、お願いいたします。

【茶園委員】
 今御説明頂いた中で、3ページの一番最後ですけれども、様々な関係者の努力や医療行政における施策を待つことは現実的か、と記載されています。権利制限に関するその他の問題でも、問題点はあるのだけれども、その対応策がまだ十分でなくて今後の検討を待つというものがありました。そういうものの多くは、利用者の側ではやりたいのだけれども、著作権法上の問題があるので、今、ストップしているというものではないかと思います。しかしながら、この薬事行政関係の問題はもう既に現実に行われているもので、著作権法上の問題はあるのだけれども、薬事法上の必要性があって既に行われているというものですので、利用者はやりたいのだけれども、なかなか著作権法上の問題があってできないという問題とはちょっと違うのではないかと思います。そして、今回、問題の解決策を出さなかったとしても、おそらく今後も継続して行われるのではないかと思うのです。そうであれば、ともかく施策を待つという選択は、この薬事行政関係の問題に関しては適切ではないのではないかと思います。
 以上です。

【中山主査】
 他に御意見がございましたら。

【市川委員】
 今の茶園委員の最後の趣旨がちょっとわからなかったのですが、結局、施策を何もしないということでおっしゃったのでしょうか。

【茶園委員】
 ちょっと言葉が悪いですが、今後の状況を見守るとか、先送りというのは、この問題に関しては適切ではないだろうという趣旨です。既に現実に行われており、それはおそらく著作権侵害でしょうから、こういう解決をしましょうとか、あるいは中止すべきであるとか、一度ストップして交渉を続けさせるか、ともかく何らかの結論を出さないと適切ではないのではないかという趣旨で、何らかの結論を出すべきだということです。

【市川委員】
 7割については管理されているということですので、これは人の命に関わるということを踏まえて、両者、いろいろな管理団体との間でしっかり協議をして頂いて、妥当な額で決めて頂くのがいいかなと思っております。
 3割の管理されていないものについてどうするか考えますと、今、茶園委員の説明にもございましたように、では違法になるのか、いつか東京地裁に来たりするのか、こういう事態になってしまうわけでございます。ただ、この前のお話でを聞いてみましたら、結局は具体的にまだ問題にはなっていないと。訴えられて高額な著作権料を請求されたというような事態にはなっていないということはお伺いしましたので、場合によっては、どんどん見てください、別に著作権を請求する気はありませんと言われることもあるというお話でしたので、本当に必要なのかどうか。
 やはり管理されている比率が7割にとどまらず、どんどん10割に届いていくというのが一番望ましいわけですよね。その中で、もう少し様子を見て、管理をどんどん広めていっていただいても、どうしても残ってしまって、残ってしまったものについて、やはりどうしても問題があるという本当に切羽詰まった状況なのかということについては、若干まだ私も分からないところがありまして、先送りといっても全く放置しての先送りということではないのですが、やはり人の命に関わるので、最終的には何か解決しなくてはいけないにしても、もうちょっと様子を見てもいいのかなという感じを持っております。

【中山主査】
 どうぞ、潮見委員。

【潮見委員】
 感想めいたことなのですけれども、結局、この議論のフィールドが一体どこにあるのかというのが、従来の議論から掴みきれていないところがあります。
 といいますのは、今日の論点整理のところの3ページ目、他にもありますけれども、要するに、患者の生命、身体に関するもので迅速な対応が求められているから何とかしなければいけない、こういう形の前提をかけて議論をしているのか。それとも、資料の1ページ目の枠、一番最初のゴシックの太字のところですけれども、生命、身体に関するので迅速な対応が求められているもの以外のものも含めて、こういう場面での権利制限等をどうするかという形で議論をしているのか。つまり、前の四角の枠の中ですと、MRの方が調査して文献を複写して、場合によっては違法を承知でコピーをして提供している場面があるので、どうしましょうかと。茶園さんがおっしゃったのは、そういう前提ですよね。そうではなくて、生命、身体に関わって迅速な対応が必要だから、これについて何とかしなくてはいけないというのとは少し議論の性質が違うのではないか。
 生命、身体に対する迅速な対応が必要だという枠が仮にあるとすれば、場合によったら権利制限というものを本当に急いで真剣に考えなければいけないかもしれない。そうではなくて、そういう前提がないということであれば、先ほどの市川委員のお話ではありませんけれども、管理されていない文献が勝手に複写されている、それをどうするか、その対応について考えるというので、別にこれは権利制限ではなくても、別の方向で、例えば先ほどの補償金とか、別の制度を作ることによって対応はできませんか、という方向に議論が流れていくのかもしれないという感じが以前からしておりまして、その意味では一体どういう前提で、どういう要件のもとで今回の権利制限の問題を議論するのかによって、最終的な方向性も違ってくるのではないかという感じがしたということです。
 それから、あと1点、これは質問ですけれども、仮に裁定制度を使うということになったときに、もし仮に生命、身体とかで迅速な対応が求められるというような場面が出てきたときに、裁定制度で迅速な対応が果たしてとられ得るのかどうか。私は実際にどういうふうにやっているか分からないので、もし何か教えていただけるようなことがあれば御教示いただければありがたいです。

【黒沼著作権調査官】
 まず、御質問のほうからですけれども、4ページで権利者不明の場合の利用の円滑化方策というのを書かせていただいたのですが、現在では御指摘のとおり、裁定制度が用意されております。現状を申し上げますと、おそらく申請があってから早くても1カ月から数カ月はかかってしまう。相当な努力をしているかどうか、権利者捜索のために努力しているかどうかといった事項も調べるとか、あとは額を決めるために文化審議会に諮問をしてというような手続がありますので、そのぐらいの時間がかかってしまうということでございます。現状で申し上げれば、そうですけれども、今、利用の円滑化方策を議論されていますので、その結果、どのようなものが出てくるのかまだ分かりませんけれども、そういった場合には対応できる可能性があるのかないのかという、可能性にすぎないのかもしれませんけれども、そういったものはあり得るのかなということで、こちらを御紹介させて頂いたということでございます。
 それから、1点目の御指摘の部分ですけれども、生命、身体に関わるような文献のうちでも、なおかつ何割かは管理に属していない部分があるといったような御議論だったかと思います。

【中山主査】
 どうぞ、末吉委員。

【末吉委員】
 私も先ほどの茶園委員の御意見に近いと思うのですが、私は少し折衷的な考え方です。
 3ページの真ん中ほどの「基本的な考え方」の最初の3行が基本的な、ここで立法が求められているような内容だと思うのですけれども、もう少し絞り込むのだとすると、この4行目の「患者の身体、生命に関するものであり迅速な対応が求められる」と、さらに要件を絞ることが1つ考えられるのと、もっと絞り込むとすると、いろいろ契約関係が整備されている現況にかんがみると、許諾を求めることが困難であるなどのやむを得ない事情があるという、更に絞り込みも考えられるのではないかと思います。
 オリジナルの御要望とちょっとずれてしまうかもしれませんが、仮にそう限定するとしてでも、この段階であまり法律と違う世界で実際の医療現場が行われているというのも好ましくないのではないかと個人的には思いまして、そういう要件の限定などを含めて、この段階で権利制限という方向で、もう少し積極的に取り組んでもいいのではないかなというのが私の意見でございます。
 以上でございます。

【中山主査】
 大渕委員、どうぞ。

【大渕委員】
 今の末吉委員が言われたことに近いのですが、多分、この問題は、要するに、対象範囲の絞り込みというか、対象範囲をどこまでにするかで、大きく皆さんの意見が変わってくるところなので、今はどちらかというとフリートーキングとして、あえて対象範囲を設定せずに自由に自分で対象範囲を設定して議論するという形になっているのですが、もう少し議論しやすくするためには、むしろ、こういう対象範囲だったらどうかという形でペーパーを整理して頂いたほうが議論しやすいのかなという気がしています。今はむしろフリーディスカッションしやすいということで、このようなフリーな形になっているのでしょうが、このような対象範囲だったら賛成である、この対象範囲だったら反対であるといった形にして頂いて、幾つかの対象範囲を絞り込んだ案ごとの形に整理し直して頂いたほうが議論がしやすいかなという気がしております。

【中山主査】
 ありがとうございます。
 他に。どうぞ、松田委員。

【松田委員】
 私も、この段階で何らかの制限規定を設けることを検討すべきだろうと思っております。
 MRという資格は国が認定する資格ではございませんけれども、医薬行政の中にもかなり重要な役割として入り込んでいるわけです。これは、製薬の商業的なセールスとは別に、それぞれの薬剤の説明をするための役割として、営業とは別に動かなければならないという制約も受けているわけです。そうであるならば、MRの業務に限定した範囲内で、ある程度複製を制限規定で設けて、私の考えは、それは補償金でしっかりとリカバリーすべきだと思っております。
 ただ、その際の障害は製薬会社と権利者団体との間の捕捉率が70パーセントしかないということでございますので、この30パーセントを何らかの形で補償金をどこかにプールするような形、そしてコピーしたものはMRがどういう資料をコピーしたかということが、何らかの形で公示する制度によって30パーセントを捕捉できないだろうか。全て権利者不明の場合の裁定制度にしなければならないというのは、要件が1つ当てはまりませんし、もし要件が当てはまりましても、現実性がないと私は思っております。したがいまして、権利者団体か製薬企業側のどちらかに公示制度をつけて一定の金額をプールさせる、そして請求があった場合にはそれを支払うような形で処理できないだろうかと思っております。その前提は、MRの業務に対しての限定した範囲内でしかコピーできない。
 ある意味では、MRの使われ方として、よく巷間言われるところは、お医者さんが欲しい文献があって、別に薬とは直接関係なくても、「こういう文献ない?」と言ってMRが探してくるサービスをするというようなことも聞いておりますが、実はこういう範囲内についてはMRの業務ではないわけでありまして、その範囲を超えたところでは制限規定は当てはまらないようにしておいて、何らか設けるべきではないか。もしそうであるならば、MRに対する業務と複製と新しい制度との間の教育、啓蒙をきちんとした制度を確立すべきだろうと思っております。

【中山主査】
 ありがとうございます。
 森田委員、どうぞ。

【森田委員】
 ただいまの松田委員の御意見の中にも出ていますけれども、2つの問題があって、1つはその範囲をどうするかという問題と、それからもう一つはその効果をどうするかという点ですが、後者が重要だろうと思います。つまり、権利制限をする場合に複製等が無償になるということなのか、それとも、個別の許諾は事前に要しないけれども、何らかの形でそれに対する補償といいますか、対価を支払う形にするのか、その効果をどちらにするのかという点が重要だと思います。
 前回のヒアリングもそうですし、今日のペーパーもそうですが、なぜここで権利制限が求められているのかというと、患者の身体、生命に関するものであって迅速な対応が求められるから、個別に許諾に時間をかけることが適切でないということがその理由であるとしますと、事前に個別の許諾を求めることができないので、そこは事前の個別許諾は不要にしてしまうということはあり得ると思いますが、それで無償になるかといいますと、そこまでいくのは適当ではなくて、何らかの形で補償金なりを支払うことが必要ではないか。ここを無償にしてしまうことまで要望されているかといいますと、無償にすることを正当化するような理由は、ヒアリングでも出されていなかったように私は伺いました。
 そうなりますと、団体によって管理されている文献については、別に対応の必要がないわけでありますので、団体によって管理されていない文献についてどうするかという点が、最終的にはポイントになってこようかと思います。
 更に進めますと、団体によって管理されていない文献については無償にしてしまって、団体に文献の管理を委託しないでいると補償金ももらえないということにして、団体に文献の管理を委託するインセンティブを付与するという考え方も選択肢としてはあり得るかとは思いますけれども、基本的には無償にするというところまでいくのは、なかなか正当化が難しいのではないかと考えております。

【中山主査】
 ありがとうございました。
 では、道垣内委員、どうぞ。

【道垣内委員】
 今日は整理ということですが、最初から話が拡散していまして、まだその段階かと思いますけれども、幾つか確認したいのですが、1つは条約との関係です。ベルヌ条約上のスリー・ステップ・テストはクリアできそうであるというのが前提でないと、後半のほうの権利制限の話にはならないので、そういう見通しがあるのかどうかということを伺いたいと思います。
 それから、もう一つは、この問題の状況がはっきり見えてこないのは、仮に、お医者さんの側がMRに頼んでも、他の医師の著作権が障害になって治療に必要な情報が得られないという状況があって、それは非常に困るとお医者さんのほうが言っているということであれば話は非常に分かりやすいのですが、現実の問題の提起のされ方は、製薬会社のほうがお薬を売る過程において困っているという話になっているので、少し状況が見えにくくなっていると思います。
 それとの関係で申しますと、4ページの3)のウの括弧の中で「医療関係者からの求めに応じて」ということも一緒に書いてあるのですが、MRはこういう文献がありますという情報を提供することはできるはずだし、先ほどの定義からいっても、治療のために役立つお手伝いはすべきことだと思うのですが、コピーが欲しいと言っているお医者さんのために、その手足となってコピーをしてくるというのはできるのでしょうか。それは、お医者さんがコピーしたことになるのかどうかという点です。要するに、著作権法上、医師の医療行為のために自分で雑誌をコピーしてくることはできるのでしょうか。仮にそれができるとして、その医師の手足となってコピーすることはどのように評価されるのでしょうか。
 最初に申し上げた条約上の問題とともに、このあたりを整理を少しして頂けるとありがたいのですが、いかがでしょうか。

【中山主査】
 大渕委員、どうぞ。

【大渕委員】
 先ほど述べましたとおり、対象範囲がいろいろ考えられるので、それごとに何か案でも作って頂いたら議論がしやすいのではないでしょうか。念頭にありましたのは、対象範囲ごとにそれぞれの効果が伴うような形でありまして、この対象範囲でこういう効果でどうか、という案を幾つか作って頂くと、対象範囲と、先ほど出てきたような効果、つまり、完全に無償なのか、無許諾・無償なのか、それとも補償金を払うのかというあたりについてワンセットに議論することができ、かなり価値判断が違ってくるのではないかと思います。そのあたりについてはあまり複雑なものにするとかえって議論が難しくなる場合もあるかもしれませんが、大体今までの議論でかなりの程度幾つかのオプションの類型みたいなものが出つつあるかと思いますので、そういうものを作って頂ければ議論がしやすくなるのではないかという気がしております。

【中山主査】
 他に御意見ございますでしょうか。どうぞ、森田委員。

【森田委員】
 先ほどの続きになりますけれども、前回のヒアリングで私が受けた印象は、権利制限の理由としては迅速な対応が求められるので、個別の承諾が必要であるとすると困ったことになっていると言われるわけですけれども、実際困っているかというと、管理されている文献については困っていなくて、また、管理されていない文献についても許諾を求めずにコピーしているので困っていないということでしたので、そうすると何が困っているのか。関係者の協議の進展を見守るのが適当でないというわけですけれども、何か差し迫って対応が必要なのかというと、そういう意味では困ってはいないわけです。したがって、困っていることがあるとすれば、管理されていない文献については、法律的に見ると違法な著作権侵害をしていることになるので困っているということではないかと思います。事前に個別の許可を求めるのは困難なので、適法に複製等をしたいということです。
 それでは、その場合には複製に対して補償金を支払ってもよいということになるかといいますと、今は対価を支払っていない文献についてこれからは支払いたいという要望があるのであればこれに対応するということもあるわけですけれども、今後は対価を支払うということになるのだったら補償金制度なんかを設けてもらうよりは、管理されていない文献については、今までどおり違法ではあるけれども個別に許諾を求めずに複製して提供するほうがよいということも考えられます。それで著作権侵害を理由に訴訟を提起されるかといえば、そのリスクは相対的には低いので、立法による対応の必要はないという要望になるのか、それとも訴訟になるリスクは低いけれども、法律に従ってきちんと許諾を得て処理したいところが実際にはそれができていないのが心理的に苦しいので、そこはちゃんと筋道を立てて説明できるようにして欲しいということになるのか。その場合には事前に個別の許可は要らないけれども、事後的には補償金を払ってもよいという要望なのか。無償にして欲しいという要望だとすると、それに対応する理由はどうも見当たらないような感じを受けていましたものですから、先ほどあのように申し上げた次第であります。

【中山主査】
 では、苗村委員、どうぞ。

【苗村委員】
 この資料で、4ページの上から2つ目の段落で裁定制度の利用について触れておられるのですが、先ほど来議論の出ている管理されていない著作物に限って、例えば補償金であれ、あるいは無償であれ、コピーをさせることを権利制限として対処するというのと、この裁定制度の利用ということの区別がよく分からなくなってきているので、できればそこを御説明頂けるとありがたい。いずれも、当然、スリー・ステップ・テストの対象になるのだと思いますが。
 それから、この段落の文章の意味が分かりにくいのですが、現在、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において、裁定制度の利用の改善、その他について検討が進められていると。その中でこの問題が解決される可能性があるのかどうか。可能性がなければ検討を待つことには全く意味がないわけです。ですから、過去の著作物等というのは、例えば昨日の新聞に出ていたものについて、医者から質問があったときも該当するのかというのが分からなかったのです。裁定制度ということになると、直ちに向こうの小委員会に行って、こちらの小委員会のマターではないということになるのか、この小委員会でも権利制限の変形として裁定制度による対象も含めて検討するのか、そのあたりを教えて頂ければと思います。

【黒沼著作権調査官】
 権利者不明の場合の対応につきましては、我が国は裁定制度という形で、強制許諾といいますか、申請に応じて不明な権利者にかわって文化庁長官の裁定によって強制的に許諾をするという制度でございますけれども、一方で、他の小委員会で御紹介があったイギリスで検討されている制度は、強制許諾ではなく、権利者不明の場合についての権利制限を設けるというものでございまして、これが我が国に適合できるのかは、そちらの小委員会の議論だと思いますけれども、そういったことも可能性としてはあるのかなということでございます。ですので、権利制限と裁定が違うの重なってくるのかというのは、そちらの議論にもよってくる部分はあるのかとは思っております。

【潮見委員】
 時間のないところ、すみません。1点だけ。
 森田さんのさっきのお話の関係ですけれども、おそらく議論がややこしくなっているのは、前からこのヒアリング等も含めて、今回の薬事行政関係の権利制限の議論が出てきている背景に2つあるんですよね。1つは、前回の改正で、薬事関係で権利制限の見直しをやったと。そのアナロジーで今回のものもやって欲しいという要望と、それから、もう一つは森田さんがおっしゃったような、管理されていない著作物についての追跡というものは難しい、そういう面からコストもかかるし、何とかして欲しいという両面がおそらくあるんですよね。多分それが一緒になって、ここでわっとヒアリングに出てきたから、ややこしくなっているのかなという感じがします。
 私、その関係で、むしろ先ほど現状維持でいいとおっしゃられた茶園さんと末吉さんと松田先生の3人にお尋ねしたいのですけれども、先ほどの3ページ目の、これは末吉さんがおっしゃったもので、基本的な考え方、それから患者の身体、生命に関する問題があり迅速な対応が求められることが多い、それから、やむを得ない、こういう要件がクリアされれば現状維持でいいということは、さっき森田さんがおっしゃった補償金的なもの、対価というものも取らない形での、これが本来の意味でしょうけれども、権利制限という形が望ましい、こういう御趣旨でおっしゃられたのか、それとも、そうではなくて、今回の議論というのはさっきの森田先生の発言にあったように、別にその要望のほうも対価は払うという部分については別に異論はないという前提で来ているものだから、先ほどの要件がかぶさったような場合には要件面はクリアしたと。しかし、権利制限に向かわずに補償金、あるいはその対価を払わせるという形で解決をするのが望ましいという御趣旨で考えておられるのかということをお尋ねしたいのです。つまり、現状維持と言われた意味が分からない。どなたでも構いません。

【茶園委員】
 現状維持というのは何もしない、このまま先送り。

【潮見委員】
 分かりました。そうしたら、むしろ松田先生のほうがよろしいかと。

【茶園委員】
 私自身の意見を言わずに、ああいうことを言ったので分かりにくかったかもしれません。
 私は、権利制限を設けるべきではないかと思っております。現状のままでは、やはり問題がある。先ほど言いましたように、単に先送りとすると、著作権法上の問題があるということで製薬会社が今後ストップするかというと、おそらくはストップしないだろう、このまま行うであろうと思います。1つは薬事法上の努力義務というのもありますし、患者の生命、身体を守るという正当化の理由もありますから、継続するであろうと思います。そうであれば、ここで審議が始まったのですから、何らかの結論を出さなければいけない、そういう趣旨です。
 私は、権利制限を設けるとしても、おそらく無償というのはなかなか難しくて、先ほど道垣内委員もおっしゃったスリー・ステップ・テストもなかなか満たせないのではないかと思います。そこで、補償金をかけるという形で権利制限を認める必要があると思っております。また、先ほど道垣内委員は、医者の行為だと捉えられるかとおっしゃっていましたけれども、医者の行為として仮に捉えられたとしても、医者の行為だから許されるかというと、おそらくそれも許されないのではないでしょうか。ですから、結局、何らかのことをしなければいけないのではないかと思っております。
 また、先ほど裁定制度あるいは過去の著作物の保護に関して何らかの制度を考えるということでしたけれども、裁定制度のように個々具体的な利用に対していちいち申請をして対応をするというのは、おそらくこの場面では非常にコストもかかることですし、うまく適合しないのではないかと思います。この問題は特殊な背景のもとに、おそらく一部とか、そんなに大量に行われないという特殊性があって、一般的な制度には適合しにくいのではないかと思います。この特殊性を踏まえて、どこまでかは分かりませんけれども、仮に権利制限を設けるのであれば特徴的な制度を設けるのが適切ではないかと思っております。
 長くなって、すみません。

【中山主査】
 では、大渕委員、どうぞ。

【大渕委員】
 また繰り返しになって恐縮なのですが、お話を聞いていれば聞いているほど、やはり効果として無償なのか、補償金なのかとか、そのあたりを明確にした上で、分けて議論しないと、結局趣旨が分からなくなってしまうので、今日はフリーディスカッションをするとしても、次回、そういう形で要件効果というか、対象範囲と効果の点を整理したような案をつくって頂いて、それに沿って各自の意見をお聞きしたほうが、より議論がかみ合うかなという気がしています。また、それで捉え切れないのは別途議論して頂くことにして、何か一定の要件と効果のマトリックスみたいなものがないと、議論がお互いに分かりにくいなという気がしております。

【中山主査】
 ただ、実質的な議論は今日行う予定となっているところではありますので。

【大渕委員】
 そうでしたら、できるだけそのような形で議論していただくのがいいかと思います。

【中山主査】
 どうぞ、市川委員。

【市川委員】
 私、先ほどまだ時期が早いのではないかという意見を申し上げました。基本的に、まだその考え方は変わっておりません。ただ、今の段階でやろうという御意見が強いことに、あえて反対するかといったら、それほどの強い考え方もないということでございます。
 ただ、なぜそういうことを申し上げるかといいますと、このレジュメにもありますけれども、やはり今の医療側の体制がどこまで変わってくれるか。例えば、開業医や大学病院がどれだけオンラインで医学文献を取る体制を作っているのか、アメリカではそういうことをしっかりしているから、あまり必要性がないとかいう議論も前回聞かせて頂きました。そういうことからいきますと、やはりIT化などというのもどんどん進むわけですので、もう少し、IT化がどこまで進むかとか、医学の世界で見きわめた上で、それでどうしても必要なのはどこなのかということをもう少し待ってもいいのかなということで、先ほどの意見を申し上げたわけでございます。
 ただ、その状況が大体読める状況になっていて、問題状況も出て、皆さんの意見にありましたように、ただというのは無理だけれども、要件を絞って補償金なりでやるということの方向で検討するということであれば、それに参考になる制度がどこまであるのかよく分かりませんけれども、うまくそういう制度に乗せられるということで、コストのあまりかからない制度が作れるということであれば、それにあえて反対しようという気持ちはありません。

【中山主査】
 ありがとうございます。
 予定した時間も大分オーバーいたしましたけれども、いろいろ意見が出ましたので、事務局のほうでまとめて頂きたいのですけれども、1つ共通しているところは、仮に権利制限をかけたとしても無償ではないというところは、ヒアリングあるいは皆様の御意見もどうもそこに近いように思われます。あとは要件をどうするかというような問題もございますので、今後、中間まとめの報告書(案)を作ってもらいますけれども、事務局のほうで適宜議論を整理していただければと思います。
 時間の都合もございますので、次の議題に移りたいと思います。

(2)  視覚障害者関係の権利制限について

【中山主査】
 次は、視覚障害者関係の権利制限についてでありまして、まず事務局より説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 それでは、資料2に基づきまして御説明させて頂きます。
 視覚障害者関係につきましては、大きく2点御要望を頂いていたわけでございます。
 最初は、私的使用のための複製について、第三者が録音等の形式でかわって複製をするということについて。それから2点目は、現在、著作権法第37条3項で既に視覚障害者関係の規定がございますけれども、その範囲を拡大する、そういった2点の御要望でございました。
 アの部分は今までの議論を単純に整理しただけでございますので、2ページ目のイの部分から御説明させて頂きますと、まず、頂いている要望について現行規定でどこまで対応できるのかということについて、簡単に整理させて頂いております。
 私的使用目的の複製ということでは、現在、著作権法第30条に規定がありまして、個人的な使用の目的で、使用する者本人が複製をすることができるという規定になっているわけでございます。使用する者本人ということは、基本的には使用者自身であることが原則ですけれども、その支配下において補助的な立場にある人が、本人でなくても代わって複製することも許されると一般に理解をされております。そういったことでございますので、御要望のうちでもボランティア等が障害者の自宅において複製するような場合ですとか、もしくは障害者自身と個人的な関係がある人、そういった個人的な関係のもとに複製をするような場合であれば、これは現行の30条のもとでもおそらくその範囲内として可能と整理できるのではないかと思っております。
 一方で、点字図書館などで行われているようなプライベートサービスのように、外部の機関が多数の障害者の要望に応じて録音物を作成する、そういった形態ですと、一般には第30条の範囲だとは考えにくいと思われますので、こういったものについては別の形での対応が必要になるだろうと思っております。
 では、別の形ではどういう規定が用意されているのかと申しますと、第37条第3項で視覚障害者の用に供するために、公表された著作物を録音することはできるということでございますが、目的の限定がございまして、貸出しの用に供するためといった限定がある。そういった現状になっております。
 これを前提といたしまして、以下が議論のポイントでございますけれども、18年1月の著作権分科会の報告書では、私的使用のための複製の規定の拡大で考えるのか、もしくは特別の権利制限を考えるのかについて、実態を踏まえた上で検討すべきだという宿題を頂いていたわけでございます。この点につきましては、第30条の規定の趣旨と申しますと、家庭内での複製などは把握が実際には困難であるという点ですとか、零細な複製である、そういった点に基づいた規定でございますので、その趣旨から申しますと、外部の機関が多数の要望に応じて複製するというような形態については、なかなかこの規定にはなじみにくいのかなと考えられるのではないかという点と、そうであれば、一種の特別な権利制限規定という形を念頭に検討を行ってはどうかというのが、1点目の議論のポイントでございます。
 2点目でございますけれども、仮にそういった特別な権利制限規定を設けるとした場合の様々な要件でございますけれども、まず複製主体としてどのようなものを考えていくのか。今の第37条第3項では視覚障害者を対象とした施設として、例えば点字図書館、点字出版施設ですとか、特別支援学校に設置された学校図書館など、様々な施設が指定されているわけでございます。一方で、これらの施設だけで私的な複製の要請に応えられるのかどうかというのがありまして、実際に公共図書館等において録音可能とするようにという要望がなされているわけでございます。こういった公共図書館においても、現在、政令で指定されているような施設と同様に、主体の公共性ですとか登録制などによって利用者の確認が行える体制が整えられている、そういった施設については録音を行える施設として含めることはどうなのかということ、もしくはそういったものを含める際には基準はどうしたらいいのかというところも、また議論のポイントになろうかと思います。
 その次の4)ですけれども、視覚障害者以外についても権利制限規定の対象に含めて欲しいという要望もあるわけでございまして、そういった対象者をどこまで広げるのかというのも御議論のポイントになろうかと思っております。例えば、今回の権利制限は録音物がなければ、図書を一般利用者と同様に享受できないといった際の対応という観点で検討されているものでございますので、そういった観点から考えますと、理念的には視覚障害者だけに限られるものではないのかなと考えられますけれども、一方で、権利制限規定は権利の範囲を定めるという規定の性格もございます。また、法律ですので、予測可能性は必要ですので、規定の適用範囲がどの程度明確にできるのか、そういったところからも対象者をどのように考えていくのかというのが議論のポイントになろうかと思っております。
 その次の5)は、どのような著作物を対象に権利制限を考えていくのかということでございます。今回の要望をストレートに考えますと、私的使用目的のための複製ということですので、おそらく使用する人の手元にある著作物、所有物等、そういったものが念頭にあるのかなとは思いますけれども、仮に第30条との比較で申し上げれば、第30条の私的使用目的の複製であれば、特に所有物といった限定はかかっておりませんで、借りてきたものの複製というものも実態としてあるわけでございます。
 そういった点を踏まえまして、次のような点が議論のポイントになろうかということで、幾つかポイントを挙げさせて頂いております。
 アは、仮に図書館等から借りてきたもの、図書館等にあるものを複製してもらうというような御要望であったとすれば、現在、第31条であれば著作物の一部分のみの複製物を渡すことができるという規定ですので、仮にこれが全体を複製することができるということになった場合には、このバランスをどう考えるのかという点が1つございます。ただ、私的複製の代替措置だということで考えれば、それはそれでバランスはとれているわけでございますけれども、どういったバランスをとるかによって御議論があろうかと思っております。
 2番目のイですけれども、これはまた別の観点でございますが、ヒアリングの中でも、本来はコンテンツの提供者によって録音物が提供されることが本来望ましいといった趣旨の御発言もございましたけれども、そういった観点からしますと、コンテンツ提供者自らが録音図書なりを発行していくというインセンティブを阻害しないようにしておく必要性はあるのかなということでございまして、そういった観点から、録音物が市販されている場合などについて、どのように取り扱っていくのかということも御議論があろうかと思います。
 その他、18年の報告書では、非営利、無報酬の場合に限るべきではないかといった御議論もありましたので、そういった点も検討のポイントとしては1つございます。
 残りは参考でございますけれども、諸外国の立法例について幾つか例を載せております。
 まず、イギリスの例でございますけれども、こちらは視覚障害者が複製物を所有しているような場合には、アクセス可能な形の複製物を作成することは著作権侵害に当たらないという規定があるようでございます。また、2段落目では、その条件としまして、いわゆる実費、作成・提供にかかったコストを上回ってはならないというような条件があるようでございます。さらに、別の規定としては、認可を受けた機関が合法的な複製物を所有している場合には、アクセス可能な形での複製物を作成することができるという規定があるようでございます。
 また、ドイツの例でございますけれども、ドイツは視覚障害者というよりは一般的な知覚に障害があるなどによって、作品の理解が困難である人々という広い形になっておりますけれども、利益を目的としない、要するに非営利の複製は認められるという規定でございます。
 アメリカの例では、許諾を得た一定の団体が視覚障害者、その他の障害者が使用するための特殊な形式においてコピーができるという規定があるようでございます。
 以上でございます。よろしくお願いいたします。

【中山主査】
 ただいまの説明を踏まえまして、御意見を頂戴したいと思います。御意見がございましたら、お願いいたします。
 よろしいでしょうか。障害を持った人がなるべく健常者と同じというか、健常者に近い形で文化を享受できるようにするということは、著作権法に与えられた大きな課題ではないかと思いますので、重要な問題だと思います。特に要件あるいは効果について何か御意見がございましたらお願いいたします。
 森田委員、どうぞ。

【森田委員】
 基本的な考え方は、いま中山先生がおっしゃったように、現行の著作権法の体系においては、いろいろな権利の組み方というのが健常者の利用行為を想定したものになっている。これに対して、視覚障害などの様々な障害をお持ちの方は、著作物へのアクセスの仕方、利用の仕方が健常者とは違うわけでありますから、それを想定したものに替えないといけないところが、健常者を基準としたルールをそのまま当てはめると不都合が起きる、これにどのように対応すべきかという問題として把握をすべきではないかと私は思っております。したがって、例えば30条の私的複製のアナロジーで考えるとか、あるいは図書館の延長で考えるというのは、これとは別の観点からの問題設定でありますので、そうではなくて、視覚障害の場合、あるいは、視覚障害に限らず、さまざまな障害により健常者とは違う著作物のアクセスの仕方をする場合には、それに応じた変容をそれぞれの部分に加えるという形で対応を考えていくことになろうかと思います。
 そうしますと、基本は、(4)のその対象者をどうするかというのがポイントになります。イ)(3)の「複製を行う主体について」というのは、対象者の範囲を限定するために複製を行う主体の観点からこれを限定していくというアプローチであって、これによって障害者向けのサービスであるということが明確になってくるということではないかと思います。このように、複製を行う主体の問題も出てくるかと思いますが、基本的には視覚障害者向けのサービスであるかどうかという点が問題であり、あとはこれを技術的にどういう形で絞り込んでいくのかという点に問題は集約されてくるのではないかと思います。それとは違う、30条とのバランスとか、あるいは31条のバランスというのをあまり強調してきますと、問題の所在がかえって不鮮明になるのではないかと感じましたものですから、その点だけ申し上げたいと思います。

【中山主査】
 ありがとうございます。ただいまの森田委員の意見はそのとおりだと思います。
 他に何か御意見ございましたら。どうぞ、松田委員。

【松田委員】
 私、障害者と著作権の関係を論じるときに、再三これまでも言ってきたのですけれども、障害者が著作物を利用できる可能性を著作権法上確保するというのは、著作権法上の重要な役割だと私は思っています。そのことと、著作物を対価なく使用できるかということとは別に考えるべきだと、基本的にそういう考え方を持っています。日本の著作権法第30条が所有者による複製の制限をはるかに超える規定を持っていますから、友人のものでも自己使用であればいいわけでありますから、ここにも実はそれがあらわれてきてしまっておりまして、何らかの特殊な方法で複製することについては私は賛成です。
 しかし、それについては、しかるべき対価を払うべきだと考えております。その対価の支払い方が福祉の視点から本人に負わすべきでないというのであれば、それは著作権法の問題ではなくて福祉法制の問題だろうと思っております。

【中山主査】
 他に何かございましたら。
 この後も聴覚障害とか知的障害の問題もございますので、視覚障害はこのくらいにいたしまして、次に聴覚障害者関係の権利制限につきまして、事務局から説明をお願いいたします。

(3)  聴覚障害者関係の権利制限について

【黒沼著作権調査官】
 それでは、資料3に基づきまして御説明をさせて頂きます。
 聴覚障害者関係につきましては、これも大きく2点御要望があったわけでございますけれども、1点目は、聴覚障害者情報提供施設において、貸出しの用に供するための映像資料に対して字幕などを挿入しての録画というものが1点。それから、2点目は、放送等の著作物に対して字幕等を挿入しまして、それをさらに公衆送信するという大きな2点を頂いていたわけでございます。
 これにつきましては、アの最後の部分ですけれども、18年の分科会報告書では契約システムの現状などを踏まえた上で、改めて検討という宿題を頂いていたわけでございます。
 それに対応するものを以下で整理しておりますけれども、まず、基本的な考え方については、こちらも視覚障害者の部分と同じですけれども、障害者の著作物の利用可能性について格差を解消するという観点からは、字幕の付与等の行為は公益性が基本的にあるだろうということで、何らかの対応が必要ではないかと考えられるところでございます。
 現状がどうなっているのかと申しますと、まず、放送関係でございますが、放送行政において放送局自らが字幕放送を行うということを、目標を設定して進めてきているわけでございますけれども、緊急放送等を含めて、全ての番組が対応できている状況にはないということで、前回のヒアリングでも御紹介がございました。四角囲いのところは前回のヒアリング等で御紹介があったデータを参考に載せております。そういった現状だということでございます。
 それ以外のサービスにはどういうものがあるのかということでございますけれども、現在、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターで、映像作品などに字幕を挿入して貸出しをするというサービスが行われているようでございますけれども、こちらは権利者団体、放送事業者なりと事前の一括許諾を結ぶことによりまして、約3,000本のビデオまたはDVDに字幕付き、あるいは手話を入れたような作品を用意しているということだそうでございます。ただ、いろいろとお話を伺いますと、作品ごとに利用できる者に限定がかかっていたり、利用方法にも限定があったり、そういった限界があるという声を聞いているところでございます。
 こういった現状を踏まえまして、ここから先がまた議論のポイントになろうかという点になりますけれども、基本的には視覚障害者と同じような点が議論になるかと思います。
 まずは、複製を行う主体について公共図書館等について複製の主体として含めていくかどうか、その際の基準はどうするかという点。それから、対象者の範囲として聴覚障害者以外にどこまで権利制限規定の範囲を明確にした上で広げることができるのか、広げられる範囲はどうなのかという点。
 それから、その他に権利制限を考える上で留意すべき点として、4)に幾つか整理をしております。
 アは、点字図書や録音図書と違いまして、字幕等を付した映像資料というのは字幕が付いているだけということでありましたら、障害者以外にとっても利用価値が損なわれない可能性がございます。ですので、いろいろな条件付けを考えていく上で、どう考慮していくのかということがあろうかと思います。
 なお、録音図書と違う部分ということで、なお書きで御紹介しておりますけれども、映像資料のうち、映画の著作物については貸し出しについては、現在、第38条第5項で非営利の場合は一定の施設でできることになっておるのですけれども、その施設は視聴覚ライブラリーとか図書館等に限定されているということと、補償金の支払いが義務付けられているという点、こういった点が視覚障害者の場合とは違う点としてあろうかと思います。
 それから、イでございますけれども、こちらは先ほどと同じでございまして、コンテンツの提供者がもともと字幕等を付して提供するというインセンティブを阻害しないための措置は、どのようなものが必要でしょうかという点。
 それから、ウは、同じように営利事業の取り扱いをどうするのか、そういった点があろうかと思います。
 次は、2点目の要望の公衆送信についてでございますけれども、具体的にはアの冒頭に書いてありますけれども、災害時、緊急時の放送、そういったものに字幕を付して再放送するという要望があるわけでございます。アで書かせていただいておりますのは、現行の規定でどこまでできるのかということでございまして、可能性があるといいますか、近い条文としましては第41条の報道のための利用、もしくは第32条の引用ぐらいが考えられるわけでございます。第41条の規定の趣旨からいきますと、基本的には報道用の写真とか報道目的に撮ったものそのものを使うということにはなじみにくいという一般的な解釈もあるわけでございますけれども、裁判例では、中には現場を収録したビデオをニュースで放映することについて、それ自体が事件の一部だと解された例もあるということではございます。ただ、基本的にこれでどこまでいけるのかどうかというのは疑問があろうかとは思います。
 2点目は、イですけれども、これは先ほどと同じような話でございますけれども、公衆送信を行う場合には障害者以外の方にも利用可能性があるという場合には、権利者の利益に影響を及ぼす可能性がありますので、そういった利用者限定の手段などの条件付けをどうしていくのか、そういった御議論があろうかと思います。
 ウは要望事項ではないので御参考ですけれども、仮に放送ではなく自動公衆送信をすることになった場合には、放送番組を更に自動公衆送信することにつきましては、障害者とそれ以外の方との情報アクセスの格差ということから考えますと、障害者以外の方の場合でも許諾が必要ということになっておりますので、そのバランスをどう考えるのかということが議論になってこようかと思いますので、念のため書かせて頂きました。
 諸外国の立法例としましては、イギリス、ドイツ、スウェーデンなどで例があるということでございます。それぞれ特徴は、イギリスは指定団体がテレビの放送また有線番組の複製物を作成して公衆に配付することができるという点でございます。ドイツは先ほどと同じですけれども、公衆送信はないということでございます。ざっと特徴等はそんなところでございます。
 よろしくお願いいたします。

【中山主査】
 ただいまの説明を踏まえまして、御意見を頂戴したいと思います。何か御意見ございましたら、お願いいたします。どうぞ、茶園委員。

【茶園委員】
 お聞きしたいことも含みますが、権利者の利益を考えますと、一般的に、障害者の方が認識しやすいような形態のものを利用する場合と、健常者も利用できるものを利用する場合とがあります。先ほどの視覚障害者関係でもあったと思うのですけれども、もし障害者関係で権利制限を設ける場合にそれが健常者の市場にどういう影響を及ぼすかが問題となります。健常者にとってはあまり利用価値がないというものであれば、その影響は考えなくてもいいということになるでしょう。今回御説明頂いたものに関しては、健常者も利用する価値がまだ残っているから、その点をどう考えるかということですから、おそらくその点はどういった条件を定めれば、それが健常者の市場に影響を及ぼさないかということを考えなくてはいけないのだろうと思います。
 もう1点は、先ほどの視覚障害者関係でもあったのですけれども、今度は障害者向けの市場があって、権利制限をかけた場合にそれに悪影響を及ぼすのではないかという問題です。そこで、コンテンツ提供者が、障害者の利用しやすい形態で提供するような場合に、どう考えるかということだったのですけれども、私は、現実はよく知らないのですけれども、おそらくそういうものはあまりないのではないでしょうか。仮にあったとしても、非常に大々的に行われるということはあまり考えられませんし、コンテンツ提供者が、障害者の利用しやすい形態で提供する場合を考えますと、権利制限を設けることによって、コンテンツ提供者の活動に悪影響を及ぼすことは、あまりないのではないかなという気がします。そうであれば、この点はあまり考える必要はないということになると思うのですけれども、現実にコンテンツ提供者自らが障害者向けの活動を行っているという実態が、そもそもあるのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】
 我々も全体を把握しているわけではございませんけれども、2ページで御紹介しているような、例えば放送番組でありましたら、字幕放送などが行われていますし、昨年あたり話題になったことで言えば、有名な映画に、英語の字幕は付いているのですけれども日本人の役者の部分だけには字幕が付いていなくて、それについて障害者団体が映画会社に要望したところ、映画会社は字幕を付けたというような事例もあったと聞いていますし、そういった形で何らかの対応する実態はあるとは思っております。

【中山主査】
 他に御意見ございましたら。どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 意見ではないのですけれども、先ほど茶園委員が御指摘された2点は重要な点で、要するに健常者にも使えるものをどうするかというところと、それから障害者向けのマーケットはどうするかというあたりは、やはり現状がわからないと判断のしようもないものですから、先ほど言われたように、どの程度そういうものがあるのか、ないのかという現状についてのデータがもう少しあればと思います。データといってもよく分からないということなのかもしれませんけれども、抽象的に考えたら可能性はあるかなとは思いつつも、どの程度あるのかと言われると、いま一つ分からないところがありますので、何らかの形でそこのところの情報を提供して頂ければと思います。

【黒沼著作権調査官】
 なるべくデータは集めたいとは思いますけれども、こちらで論点として挙げさせていただいた趣旨は、将来的なものも含めて、将来的にはもともとはコンテンツ提供者に、こういった字幕を付することを義務化して欲しいというようなことも御要望としてはあったわけです。例えば、その要望が実現して、放送行政でそっちが義務化されたのにもかかわらず、著作権行政では権利制限をかけてしまうというような施策の矛盾が起きないようにという観点も踏まえてということで、論点として挙げさせて頂いたということでございます。

【中山主査】
 他に御意見ございましたら。
 それでは、時間も押しておりますので、似たような問題でございますので、引き続き、知的障害者、発達障害者等関係の権利制限につきまして、事務局より説明をお願いいたします。

(4)  知覚障害者、発達障害者等関係の権利制限について

【黒沼著作権調査官】
 それでは、資料4になりますけれども、こちらは知的障害者、発達障害者等関係の権利制限の要望でございます。12と2つございますけれども、大体同じような文脈で出されている要望だと理解をしておりまして、知的障害者、発達障害者、それから学習障害者のために、それぞれが理解しやすい形で翻案しての複製をできるようにするという御要望だと思っております。
 検討の背景の部分は今までの整理でございますので、2ページ目から御説明させて頂きますが、基本的な考え方といたしましては、今までと同じでございまして、一般に流通している著作物の理解が困難な方に対しての情報格差の解消という観点からは、対応の必要性は基本的に高いものだということで考えております。
 現行規定でどこまで対応できるのかということでございますけれども、前回のヒアリングの中で御発表があった事例では、学校教育に関係した事例が多くあったわけでございまして、そういった観点で申し上げますと、第35条1項で、現在、学校その他の教育機関において教育を担任する者が、授業の過程で使用するために複製することはできることになっておりますが、その際には翻案して利用することもできるという規定になっております。こちらの「教育を担任する者」につきましては、私的複製の場合と同じように、その支配下において補助的な立場にある人が代わって複製することも許されるということでございまして、必ずしも教員本人でなくても認められる場合があり得るということでございますので、そういった制作の態様によっては、現行法においても許諾を得ずに複製できる場合があるのではないかと思われます。
 一方で、ヒアリングの中では、現段階で具体的なものがあるわけではないのかなという印象は受けましたけれども、将来像としては共通のセンターのようなものがデイジー図書なりの作成を行う、もしくは蓄積をしておいて、それを提供するというような構想が提示されていたかと思います。そのように、個別の要望に応じて手足として動くような形態でなければ、第35条1項の範囲内とは捉えにくいのかとは思われます。
 以下は、そういった現状を踏まえまして、権利制限による対応を行う場合の議論のポイントとしてどういうものがあるのかということでございます。
 まず、1点目として、アの今後の製作・流通形態がどうなるのかという点を挙げさせて頂きました。これは、先ほどのような一定の形態であれば現行法でも可能でございますし、一方で何らかのセンター的なものを作るのであれば難しいということではございましたが、まだ現状そういうものが整備されているようにも思われなかったので、そういったものをどう考えていくのかというのが1点あろうかと思います。
 2点目でございますが、これは議論のための議論になるのかもしれませんけれども、権利者に与える不利益というのはどの程度あるのかということでございます。基本的には、デイジー図書というものであれば独自の再生機器が必要ですとか、おそらく流出可能性はないと思われるのですけれども、そのままデジタルテキストデータをCD−ROMに録音したような場合ですとか、そういったものの可能性があるのであれば、それはまた議論が変わってくるのかもしれませんし、その実態に応じていろいろあり得るのかなということで、議論のポイントとしては掲げさせて頂きました。
 それから、ウは、権利制限規定を仮に作る場合の作り方ですけれども、発達障害者、学習障害者というものに着目して独自の規定をつくった場合には、それが権利制限規定の範囲内なのかどうか確認する手段が果たしてあるのかどうか、その実効性の担保という点でどうなるのかというのが1つ議論になるかと思います。それに応じまして、複製主体の議論もまた、あわせて出てこようかと思っております。
 それから、下のほうにいきまして、エですけれども、仮に独自の規定がうまく作りにくいのであれば、ほかの規定、第33条の2で拡大教科書の規定ですとか、第35条の教育関係の権利制限規定、こういったものの拡大によって対応する可能性はあるのか、ないのか。それぞれの規定によって、蓄積が可能であったりなかったり、いろいろな条件の違いはあろうかと思いますけれども、そういった可能性は議論の余地があるのかと思っております。また、ここには書いてございませんけれども、視覚障害者、聴覚障害者、先ほどどこまで範囲を広げるのかという議論がございましたけれども、それの対応によってはこちらの要望も拾えてくる部分があるのかと思います。
 諸外国の例としましては、イギリス、ドイツは先ほどと同じものでございますけれども、カナダにおいては、すみません、これは視覚、聴覚のところにも本来載せておくべき規定だったのかもしれませんけれども、知覚に障害がある方、そういった方からの求めに応じていろいろな複製ないし録音、手話、翻訳、改作、複製することなどができるという規定があるということでございます。知覚障害者につきましては、視覚、聴覚なども含めた広いものになっている規定でございます。
 以上でございます。よろしくお願いいたします。

【中山主査】
 それでは、ただいまの説明を踏まえまして、御意見を頂戴したいと思います。
 何か御意見ございましたら、お願いいたします。どうぞ、苗村委員。

【苗村委員】
 先ほどから御説明のあった権利制限3つあわせてなのですが、基本的にこの3つは最初の薬事関係の話とは違って、日本固有の事情はないのだろうと思います。それで、著作権法の権利制限を考えるにしても、いろいろと御紹介いただいている欧米の例などを参考にして、基本的にはそれと同じレベルの権利制限を認めるのがよいのではないかと思います。実際にそれを条文としてどうするかについては、今、具体的な意見はありませんが、できれば、そういう趣旨で具体的な案をお示し頂くほうが良いのではないかと思います。
 それから、全く別の視点なのですが、ここでは視覚、聴覚あるいは知的、発達障害などを対象にしていますが、これとは別に、実際にマーケットニーズがあるかもしれないのは、むしろ外国人、日本に滞在していて日本語が十分使えない人たちは、こういったことに関してもかなりのニーズもあると思うので、むしろマーケットとしてはこういう分野がいろいろと進展していいのではないかと思うので、何らかの意味で将来、例えば、3つともそうなのですが、こういったことに関して、より多くのユーザーが使えるような技術、サービスが進展していくようなことを一応予想しておいたほうがいいのではないかという気がします。ただ、現時点でそれが分からないから権利制限を認めないというのは必ずしも良いことではないので、総論としては認めていいのではないかと思います。

【中山主査】
 他にございましたらどうぞ。
 知的障害、発達障害につきましては、視聴覚障害と比べると認定は難しいかもしれませんけれども、難しいからといって放置していいということにはならないと思いますので、何らかの措置は講じたほうがいいと思いますけれども、いろいろ問題もあるかと思いますので、御意見を頂戴できればと思います。
 よろしいでしょうか。いろいろお伺いしておりますと、基本的にはやはり障害者が健常者になるべく近い形で文化を享受できるようにという方向では一致していると思いますので、また事務局のほうで案をまとめて頂ければと思います。

(5)  ネットオークション関係の権利制限について
 それでは、障害者関係は以上にいたしまして、引き続きまして、ネットオークション関係の権利制限について事務局より説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 それでは、障害者関係につきましては、また要望団体ともいろいろ相談させて頂いて、こちらのほうで、また案を詰めさせて頂こうと思います。
 それでは、ネットオークション関係につきましては資料5になりますけれども、ネットオークション等において商品の紹介のための画像を掲載することに関しての議論でございます。
 検討の方向性、イからスタートいたしますけれども、まず、前回こうした画像が複製に当たるのかどうかという御質問を頂きましたので、それについての整理をしております。
  1)でございますけれども、まず、複製の定義は有形的に再製することということでございますけれども、その中身としましては、既存の著作物の内容及び形式を覚知させるに足るものを再製することとして具体的に解されているようでございまして、あとは著作物の部分的な再製であっても、それが著作物の本質的な部分の再製になっていれば、それは複製に該当するということで現状はなっております。
 一方で、写真の一部などに他の著作物が写り込んでいるような場合については別の見解もありまして、それはそもそも著作物の利用でないと捉える見解もあるようでございますし、実際の裁判例でも、これは「書」の場合でございましたけれども、広告宣伝用の写真の一部の壁に書道の書が掛かっていたような場合につきましては、もともとの書の創作的な表現部分が再現されているかどうかという基準で判断いたしまして、墨の濃淡ですとか、かすれぐあいとか、そういった書の作品の美的要素の基礎になる特徴的な部分が表われるまでにはなっていないということから、複製に当たらないというようにした裁判例もあるということでございます。
 ただ、これは書の場合だからこういう判断がされたのではないかという御見解もございまして、商品用の画像であれば、もちろん内容や特徴が関知できる程度の画像を載せる場合がほとんどであると思いますので、この裁判例のように複製に該当しない場合があるとしても多くはないのではないかと思われます。
 机上資料としまして、メーンテーブルにだけカラー刷りの2つの資料を御用意しておりますけれども、こちらは前回600ピクセルというのはどのぐらいの大きさなのかという御質問がありまして、お答えできませんでしたので、実物を御用意させて頂きました。1つは、ヤフーオークションのものでございますけれども、4枚刷りのほうで、これぐらいの大きさのものが600×450ということだそうでございまして、実際にこれだけのものがサイトで見られるということでございます。もう1点のほう、広げていただく形の資料でございますけれども、こちらは国税庁の公売サイトのものでございますが、広げて頂くぐらいの大きさのものが掲載されているということでございます。こちらが1,600×1,200だそうでございます。御参考までにということでございます。なお、こちらは後ほど回収させて頂ければと思います。よろしくお願いいたします。
 もとの資料に戻りまして、2番目、現行法でどこまで対応が可能かということでございますが、第32条の引用の規定でどうかという御見解も、中にはあるようでございます。引用につきましては、公正な慣行に合致することと、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われることという要件があるわけでございますけれども、裁判においては、その中身としまして利用する側の著作物と利用される側のものを明瞭に区別して認識することができるという明瞭区別性の要件、それから、もとの著作物と使った側の著作物の間に主従関係があること、附従性などと呼ばれますが、こういった2要件がその中身であるということで捉えられてきております。
 一方で、最近の学説におきましては、この2要件はそもそも第32条第1項のどこの文言に対応しているのかということで、いろいろな御意見があるとか、御見解が分かれている状況にあると伺っております。そうした観点から、もっと第32条第1項の文言からストレートに考えたらどうなのかという御意見も出てきているようでございまして、そういったものの延長として、ネットオークション関係の商品紹介の画像も第32条の引用に該当するのではないかという御見解もあるようでございます。
 一方で、3ページでございますけれども、前回のヒアリングでは、日本美術家連盟のほうからは、著作物とは言えない商品紹介の中でこれを引用だと解釈することについては、引用の規定が本来予定している範囲を相当超えてしまって、多くの著作物の利用が引用で大丈夫なことになってしまうのではないか、そういった御意見も示されたところでございます。
 このように、引用については見解が分かれておりますので、御議論のポイントになろうかとは思っておりますが、ここでは、引用に該当するかどうかはにわかには判断しがたいのではないかと書かせて頂いております。
 そこで、権利制限を行う場合の議論のポイントとしてはどういうものがあるかということで、幾つか整理をさせて頂いております。
 まず、仮に権利制限をするとした場合の正当性をどこに求めるのかという点でございますけれども、権利制限規定は公益目的のものですとか、いろいろな種類があるわけでございますけれども、基本的に商取引関係ですので、公益性とは違うような気もしまして、それで整理させて頂いたのがアですけれども、商品取引の上で商品の提示を行うことは、その前提として当然必要不可欠な行為であるというのが、まず1点。その一方で、画像掲載ができないことになりますと、本来著作権の及ぶ範囲でないところにまで著作権で影響が出てしまう、そういったところをどう考えるのか、この調整の問題なのかなというのが1つ議論としてあり得るかと思っております。その他、どういう性格のものとして権利制限を捉えるのかにつきまして、いろいろ御意見を頂ければと思っております。
 2番目でございますけれども、イは、ここで先ほど実物の画像も例として御用意しましたけれども、インターネット等に掲載された画像がそのまま鑑賞に堪え得るものとして転々と流通していくような場合でありましたら、これは権利者の利益に及ぼす影響が大きくなる場合もあるのではないかと思われますけれども、こういったものをどう考えていくのかという点。
 それから、3番目でございますけれども、立法措置を行う場合の範囲としまして、公売のような公的なものに着目するのか、それとも一般のショッピングサイト等も含めていくのか、その他もろもろ御意見を頂ければと思っております。
 なお、諸外国の立法例では、ドイツで販売のために造形美術の著作物もしくは写真の著作物を、その販売に必要なものと認められるときには公衆提供すること、日本で言えば公衆送信のようなものでございますけれども、そういったものについて権利制限の規定が設けられているということでございます。
 以上でございます。よろしくお願いいたします。

【中山主査】
 ありがとうございました。
 ただいまの説明を踏まえまして、ネットオークションの権利制限に関して、自由に意見の交換を行いたいと思います。
 何か御意見ございましたら、お願いいたします。松田委員、どうぞ。

【松田委員】
 今日の資料の中の公売情報で、写真をクリックすると、この大きいほうになるわけですね。大きいほうになったときに、実は全画面が出ているわけではないんですね。5分の1ぐらい削られているのですよね。そう理解していいわけですね。

【黒沼著作権調査官】
 もともとの画像は1ページ目にある小さなものですので、これはプリントアウトの都合でこうなってしまったのかと。

【松田委員】
 そうですか。それは残念です。
 実は、私の意見は、鑑賞用にたえられるものも出さないと、実は公売に役に立たないのではないかと思っているわけです、この小さいものだけでは。そのときには鑑賞用にたえられないように、例えば一部分に斜線を入れるとか、何かマークを入れるとかということになると、出力して展示することはできないわけだから、かなりその後の利用を抑止することができるので、そういう範囲内で実は制限規定を設けたらどうかなと思っているんです。残念でした。

【中山主査】
 残念とはいえ、それは立法論としてあり得ると思います。

【松田委員】
 いや、あの例がそうなのかなと思ったわけです。失礼しました。

【中山主査】
 ほかに何か御意見ございましたら。どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 事務局に御負担をおかけする発言ばかりで恐縮なのですが、最後の諸外国の立法例でドイツのものは、一見した感じではかなり参考になりそうな気がするのですが、実際、「催しを助成するために必要なものと認められるときは」というあたりは、具体的にどういう範囲で認められているのかという情報があれば、大変参考になるのではないかと思います。条文はこういうことなのでしょうけれども、実際、現実にはどういう範囲で認められているのかが分かると大変参考になるのではないかという気がいたします。

【黒沼著作権調査官】
 大変申しわけありません。そこまで調べがついてはいないのですけれども、日本と違いまして、オークションなどの伝統があるようなヨーロッパでは、オークション用の紹介の冊子に画像を載せるとか、一定の慣習ができあがっているのではないかと思っておりまして、おそらくその延長線上の範囲でやられているようなものではないかなと推測はいたしております。

【中山主査】
 ほかに何かございましたら。どうぞ、松田委員。

【松田委員】
 私は、制限規定をもし設けるとすれば、公売等の公的な制度以外だけでなくて、商用のオークションについても同様のルールを設けるべきではないかなと思っております。

【中山主査】
 そうですね。仮に公売だけにしてしまうと、商業用の普通のオークションはだめだというメッセージになりますね。

【松田委員】
 もうそういう時代ではないのではないかと思うんです。

【中山主査】
 ほかに何かございましたら。森田委員、どうぞ。

【森田委員】
 権利制限をかけるときに、それは何のためかという問題ですが、おそらく公益目的ということではなくて、自分が所有するものを販売するというときに、売主として一定の義務を尽くすためには、どういう商品であるかについて買主の候補者に一定の情報を提供しなければいけない。これが対面で販売する場合には、現物を見せることは別に自由にできるわけでありますけれども、そういう対面販売ではなくて様々な情報手段を使って、つまり、隔地者間で売買契約が結ばれるときに、売主としての義務が尽くされなくなってしまうことは問題ではないか。そこで、そのような場合には、一定の隔地者取引といいますか、現代的な情報手段を利用した隔地者取引によって、売主としての義務を尽くすためになされるべき情報提供を可能とするために権利制限を行う、という括りになるのだと思います。もっとも、対面で見せる場合には見せる相手方というのは、おのずと物理的あるいは地理的空間によって限られてくるわけでありますけれども、インターネットで取引を行う場合には、不特定の相手方が対象となりますので、こういう情報がどこかに出てしまいますと、それを様々な形で、販売目的以外でコピーしたり、利用されたりすることが事実上想定できるわけでありますので、そういうことに伴う弊害をどう抑えるかという問題について、何かうまい知恵ができればよいのだと思います。そのあたりの兼ね合いで、何が問題なのか。権利制限の根拠としては、先ほど言ったような根拠が考えられますけれども、これを認めてしまった場合にはどういう弊害が実際上考えられるのだろうかという点を拾い上げていって、対応の難しいものが含まれてきますと、現時点では慎重にならざるを得ないということになるかと思います。そのあたりをもう少し詰めていく必要があるのではないかというふうに考えます。

【中山主査】
 ありがとうございます。
 どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 先ほどドイツについてお聞きしたのは、今、森田委員がおっしゃったことにも関連しなくもなくて、催しを助成するために必要なものというのに関しては、例えばそのまま100パーセント同じ画質で出していいのか、解像度を若干落さなければならないとか、先ほどのように一部の表示にとどめるとか、あるいは、他に、ダウンロードなど見ることはできても、それ以上のことはできないように何か制限をつけた範囲だけで許しているのかとかいうあたりが参考になるのではないかと思ったので、お聞きした次第です。さっき明示的に申し上げなかったのは事務局の御負担になることが目に見えていたからなのですが、これらの点について、100パーセント使えるような形で提供するのか、それとも何らかの形で、ネットオークション以外に利用されてしまうことを抑えるような技術的な手段とか制限などがあるのかなど、そのようなあたりも総合的に考えた上で、最後は利益の調整ということになろうかと思います。そういう意味では、技術論も含めて、実は検討すべき点は多々あるのではないのかなという気がしております。

【中山主査】
 ありがとうございます。
 どうぞ、道垣内委員。

【道垣内委員】
 私も、事務局の御負担になることをあえて申し上げますけれども、これをインターネットに載せますと世界中で見える状態になってしまうわけで、本来ならばWIPOなりで議論すべき話ではないかと思うのです。日本でオーケーですと言っても、それは必ずしもどこかの国で処罰とされるリスクや、違法だとされて損害賠償を命じられるリスクがないわけではないわけです。こういうことは日本だけでやっているわけではなくて、おそらくアメリカは一番最初から問題になっているのではないかと思うのですけれども、アメリカでどんな議論があって、きっと構わずやっているみたいだと思うので、それはどういう理屈に基づいてやっているのか。さっきおっしゃったように、それが使いものにならないレベル、すなわち、それ自体としては保存しておいても複製物としては価値がないような形であるのでいいのだとみんな思っているのかどうか。そうであれば、その限度でいいのではないかと思いますので、もう少し世界的な動きを教えて頂ければと思います。

【黒沼著作権調査官】
 すみません。情報が少なくて恐縮でございます。
 アメリカにつきましては、インターネット関係はいろいろと幅広な手当てがなされておりまして、権利者からこれを削ってくれなどの警告があった際に、その警告に基づいて措置をとっているなど一定の条件を満たしていれば権利侵害にならないとか、そのほかフェアユース規定とかもありますし、そういった範囲内で、市場で一定のルールがつくられていくという場合がございますので、なかなかパラレルには考えにくいのかなとは思います。少なくとも日本のサイトでいろいろな訴訟を海外から起こされているというような話は、今のところ伺ってはおりません。

【中山主査】
 ほかに何かございましたら。
 この問題は議論がたくさん出ると思って、時間をたっぷりとって、このために先ほどの審議を急いだわけでございますが、何か御意見ございましたら。
 先ほど道垣内委員のおっしゃった、日本でネットへ載せると世界中で見てしまうという話は、別にオークションに限らず公衆送信できると書いてある情報はたくさんあるわけで、すべての場合共通で、おそらくもうこれは国際的な解決は当面できないので、日本でよければやってしまうしかないのではないかと思うのですけれども。
 ほかに何か御意見ございましたら。どうぞ、茶園委員。

【茶園委員】
 既に出されている意見なのですけれども、これをもし仮に認めるとすると、商品提示情報提供にとどまって、それ以上に著作権者の利益に悪影響を及ぼさないとか、そういうことが、まず必要だろうと思います。その際には、この書面に書かれていますように、画像が鑑賞にたえられるというのだったら問題であろう、著作物の利用が別のところで阻害されることになると適当ではないだろうと思います。そうであれば、解像度を下げることは、当然必要で、このような大きいものを出すのはちょっと問題ではないかという気がします。
 それと、おそらく複製禁止というか、複製ができない状態にしないと、それも問題ではないか、複製がなされて、他のところで利用できることになるのは問題であろうと思うのです。
 あるいは、前回既にあったことかもしれませんけれども、私、欠席していたので、教えて頂きたいのですけれども、現在、日本のオークションに出されているものは複製を制限する技術的措置というのはとられているのでしょうか。

【中山主査】
 こうして実際に複製されてしまっているから、ないのでしょうね。

【茶園委員】
 確かに、そうですね。

【中山主査】
 物を売るときに物を正確に見せないというのは難しいので、多分その点は共通の認識だろうと思いますけれども、あとは濫用といいますか、流れ出ることをどう防ぐかということだろうと思います。今おっしゃった解像度を下げるのは一つの手かもしれませんけれども、物を売るときに解像度を下げて売るというのも、正確な情報を提供しないことになるので問題があります。本来だったら、目で見せてから売る、そこは100パーセントの解像度で見せるということですよね。ですから、解像度を上げたほうが物を売るという観点からは好ましいけれども、上げれば上げるほど濫用される可能性が高くなる。そういうことの調整をどこでとるのかということだろうと思います。
 何か御意見、他にございましたら。どうぞ、潮見委員。

【潮見委員】
 意見というよりも、むしろここで引用されているのは、ドイツの著作権法ですよね。現行法ですよね。58条の1項というと、委員の先生方のお手元にある、これは斉藤先生がお訳しになられている、これは改正前のものですよね。
 申し上げたいのは、今、大渕委員とかが言われた「それらの行為がその催しを助成するために必要なものと認められるときは」というのは、旧法で入っていないのですよ。旧法というか、日本語になっているものでは。だから、これは改正をしたときに、ここの部分を挿入しているはずなんですよね。おそらくその場面で何か議論があったのかもしれない。
 かつての条文というのは、目録の画像ということで、「公に展示され又はその公の展示ないし競売予定の美術の著作物を、展示又は競売の実施のために開催者によって出版される目録に複製及び頒布することは許される」と、これだけの規定なのですよね。だから、今回の改正で何かの事情があって、この要件を新たに付加したのではないかと、これは単なる推察なのですけれども、何か出てくるかもしれないです。

【中山主査】
 ありがとうございます。
 森田委員、どうぞ。

【森田委員】
 別の点ですけれども、「引用」という観点から対応すると主張されている方は、現行法の解釈で対応する場合を前提とされているのかもしれませんので、立法論は別なのかもしれませんけれども、「引用」についてのペーパーのまとめ方として、最後の部分で「にわかに判断しがたいと考えるが」というのは、確かに「にわかに判断しがたい」わけですけれども、こういう記述でよいのかは少し気になります。そうしますと、最終的には、「引用」との関係で捉えるべき問題なのか、それとは違う問題なのかをどこかではっきりさせなければいけないのではないかと思います。
 私がよくわからないのは、「引用」目的という場合には、何か具体的な目的が想定されているのでしょうか。それとも、「引用」という概念は、引用のための正当な目的というのは本来無限定であって、商品を売るということであってもよいという趣旨なのでしょうか。「引用」の目的というのは何ですかと聞かれたときにどう答えたらいいか、専門家の方にこの点をお伺いしたほうがよいかもしれませんけれども、「引用」との関係をもう少し詰めておく必要があるのではないかという点が申し上げたい点であります。

【中山主査】
 引用は、要するに他人の著作物を使うことですけれども、引用していい条件としては、32条で「公正な慣行に合致する」ものであり、かつ「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲」とあります。オークションがこの要件に当てはまるか。これを広く解釈すれば、当てはまるのではないかという意見もあるということですね。

【森田委員】
 「報道、批評、研究その他の引用の目的」の「報道、批評、研究」というのが例示で、これからイメージされるような一定の縛りがかかっているというのが素直な読み方なのでしょうけれども、「その他の」というのは、「その他の」で開かれているという読み方も文理上は可能であります。そうすると、「報道、批評、研究」という3つで示されるイメージは何かというのと、それから販売する場合の目的との違いをはっきりさせれば、その点が出てくるのだと思いますけれども、これを開かれた構成要件として読む解釈論が現に展開されている、そういうことをおっしゃる方がおられるということだとしますと、この3つは単に例示であって、これに限られないのだという読み方もできるということになります。それはとらないということで別の観点から立法的に対応することなのか、そういう解釈はあり得るけれども、32条に載せるのは適当でないということなのか、そのあたりの詰めが必要ではないかということであります。

【中山主査】
 引用であるという説がありますけれども、仮に引用であるとしても、それは最終的には裁判所が決めることです。政策としては、仮に将来裁判所がどう判断するのか分からなくても立法するということは大いにあり得ることだと思います。これは前回の放送と通信の融合のときも、有線放送の解釈でいけという意見もありましたけれども、やはり法的安定のために立法したわけです。もし、本当にネットオークションで著作物の複製が必要であるという判断が出たならば、引用でいけと言って突き放すよりは立法のほうがよろしいのではないかと私は思います。それに仮に引用であるという解釈を取るとした場合、他の引用の解釈にどのような影響を与えるのか、という考察も必要となるでしょう。
 どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 基本的には私も主査と全く同意見でありまして、引用というと、著作権法上の大論点の一つなので、これに入り出すと、この審議会を何回やっても終わらないぐらいになりまして、そこに入り込むよりはもっと現実的なアプローチをとったほうがいいのではないかと思います。今の段階だと、ほとんど1人の学者の方が言っているだけという状態だと思いますので、それよりは正面からこれに立法的に対応したほうが現実的であるという意味で、私も主査と同意見です。

【中山主査】
 ほかに何かございましたら。
 よろしいでしょうか。それでは、ネットオークションにつきましては、このくらいにさせて頂きたいと思います。
 本日予定している議事は以上でございますけれども、ちょっと時間がありますので、もし何か全体を通じて言い残したことがあればお伺いしたいと思いますけれども、何かございませんでしょうか。
 よろしいでしょうか。それでは、ありがとうございました。
 権利制限の見直しに関しましては、ある程度議論を行うことができましたが、中には更に関係者団体とか、あるいは権利者団体の意向の確認など必要となってくる部分もあろうかと思います。あるいは外国の調査等で必要になってくることがあろうかと思いますので、必要なところにつきましては、また事務局におきまして論点を更に整理をして頂きたいと思います。
 議論の熟度にはまだ差があるようには思いますけれども、整理できたものがあれば報告書(案)の段階で整理し、再度議論するということにしたいと思います。それでよろしゅうございましょうか。
 では、そういうことにさせていただきたいと思います。
 では、本日の会議はこのくらいにしたいと思います。次回の小委員会ですけれども、秋以降の例年のスケジュールを踏まえますと、そろそろ今期の小委員会の議論のまとめを考えていくべき時期になっておりまして、次回は各ワーキングチームからの検討状況についての報告を中心に、これまでの議論の整理を行いたいと思います。
 最後に、事務局から連絡事項がございましたら、お願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 本日はどうもありがとうございました。
 次回の日程でございますけれども、9月21日(金曜日)10時から、場所は三田共用会議所の大会議室を予定しております。
 なお、本小委員会の今期の検討課題の中で、私的複製の範囲の見直しが必要に応じて議論する項目として挙げられていたわけでございますけれども、昨年度の報告書でも私的録音録画小委員会の議論を踏まえて検討するという宿題を頂いておりまして、そちらの小委員会の進捗状況を見て、もし可能なようでしたら、次回以降、法制問題小委員会で御議論頂ければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

【中山主査】
 それでは、次回は三田ですので、お間違えのないようにお願いいたします。
 本日は、これで文化審議会著作権分科会の第7回法制問題小委員会を終了させて頂きます。長時間ありがとうございました。
─了─

(文化庁著作権課)


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