ここからサイトの主なメニューです
資料5

ネットオークション関係の権利制限についての論点

  ネットオークション等において商品の紹介ための画像を掲載することについて

 検討の背景と現状について

 近年、平成17年10月に横浜市が税金滞納者から差し押さえた絵画をインターネットオークションで公売する際、画家の許諾を得ないで画像を掲載するのは著作権(「複製権」及び「公衆送信権」)の侵害にあたる疑義があるとして問題となった事例や、平成19年5月に、税金滞納者から差し押さえた財産を公売するため、国税庁のオークションサイトにおいて、権利者に無許諾で美術品や宝飾品の写真を掲載するのは著作権(「複製権」及び「公衆送信権」)の侵害にあたる疑義があるとして問題となった事例など、ネットオークションにおいて美術作品等の画像を掲載することに対する著作権法上位置づけが問題となってきている。

 国税滞納処分に係る「公売」は、滞納国税を最終的に徴収するため納税者の差押財産を強制的に売却する滞納処分である。公売がインターネットオークションで実施される場合、公売財産が絵画等の著作物であれば、公売財産の情報を写真の掲載等により提供する過程において、著作物の複製や自動公衆送信(送信可能化)が問題となると考えられる。他方、公売財産となった絵画作品の中には作者不詳のものも多く、限られた期間に著作権者の許諾を得ることとするのは困難な模様である。

 ヤフー株式会社によれば、同社の提供しているインターネットオークションサイトでは、出品者が自ら商品画像の掲載(アップロード)を行うこととなっており、サイト運営者は、このような画像掲載を含めた広告の掲載サービスを提供するものであって、出品者とサイト利用者間の売買契約の成立過程に直接関与しない仕組みとなっているとのことである。また、このような点においては、国税滞納処分に係るインターネット公売についても、基本的に同じ仕組みにより実施されているとのことである。

 検討の方向性について

1  現行法上の取扱い1……「非利用」
 まず、ネット上に掲載した解像度を落とした画像が「複製」に該当するかどうについて、「複製」とは「有形的に再製すること」(著作権法第2条第1項第15号)であるが、具体的には、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足ものを再製すること」をいうと解されている(注1)。また、著作物の部分的な再製であっても、それが「著作物の本質的な部分」であれば、一般に「複製」に該当するとされている(注2)。

 一方で、写真の一部に他の著作物が写り込んでいる場合等については、これをそもそも著作物の利用ではないと捉える見解もある(注3)。また、実際の裁判例でも、写真の中に書が写り込んでいる場合について、「複製」に当たるか否かを元の著作物の「創作的な表現部分が再現されているかを基準」とすべきとした上で、写真の中で3〜8ミリメートル程度の大きさで撮影されている文字について、墨の濃淡、かすれ具合、筆の勢い等の各作品の美的要素の基礎となる特徴的部分を感得できないとして、「複製」にあたらないとした裁判例がある(注4)。

 ネットオークションに用いられる商品の紹介用の画像については、特に絵画等の美術作品を紹介するためには、その内容や特徴が関知できる程度の画像とすることが一般的と考えられるため、「複製」に該当しない場合があるとしても、多くはないと思われるが、どうか。

2  現行法上の取扱い2……「引用」
 「引用」については、「公正な慣行に合致する」ことと「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる」ことが要件として規定されているが、裁判例においては、その内容は、利用する側の著作物と利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること(明瞭区別性)と、両著作物の間に主従関係があること(附従性)であるとして捉えられてきている(注5)。

 一方で、学説においては、この判例上の二要件を中心としつつ更に別の要件を加える見解や、この二要件を第32条第1項の文言のどこに結びつけるかについて見解が分かれているとされる。こうした観点から、第32条第1項の文言に沿って引用の要件を再構成しようとする見解が出てきており(注6)、その中から、ネットオークションにおける商品紹介の中で、画像を掲載することは、著作権法第32条第1項(引用)の規定に該当すると考える見解も提案されている(注7)。

 一方で、関係団体からのヒアリングにおいては、社団法人日本美術家連盟から、著作物とは言えない商品紹介の中での画像使用を「引用」と解釈することは、「引用」が本来予定している権利制限の範囲を超え、インターネットのみならず多くの著作物の利用が「引用」に該当することとなってしまう旨の意見が述べられている(注8)。

 このように、引用の解釈については見解が分かれているほか、具体にネットオークションにおいて画像を利用する場合が「引用」に該当するかは、にわかに判断しがたいと考えるが、どうか。

3  権利制限による対応を考える場合について
 立法による対応を考える場合、次のような点について、どのように考えるか。

 商品の取引の上では、商品の提示を行うことはその前提として必要不可欠なものであり、仮にこの画像掲載ができないことになると、本来、著作権(譲渡権等)の及ぶ範囲ではない取引行為にまで、事実上著作権によって影響が及ぼせることにならないか、これをどのように考えるか。また、その他問題となるような事情はあるか。

 一方で、例えば美術品や写真の場合、インターネット等に掲載された画像そのものが鑑賞に堪えられるものであるときには、権利者の利益に及ぼす影響が大きくなると考えられるが、このような場合をどう考えるか。

 立法措置を行う場合には、公売等の公的な手続に着目するのか、それとも、一般のショッピングサイトも同一と考えるか。また、その他留意すべき点はあるか。

(注1) 「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件」最高裁昭和53年9月7日判決(判例時報906号p.38)
(注2) 斉藤博著『著作権法(第3版)』(有斐閣p.166)ほか
(注3) 「主要な被写体の背景に何か絵らしき物が写っているという程度のものは、著作物の実質的利用というには足りず、著作権がそもそも働かない」(加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』(著作権情報センターp.288)
(注4) 「照明器具カタログ(雪月花)事件」東京高裁平成14年2月18日判決(判例時報1,786号p.136)
(注5) 「パロディ事件」最高裁昭和55年3月28日判決(民集34巻3号p.244)ほか
(注6) 上野達弘著『引用をめぐる要件論の再構成』(法学書院「著作権法と民法の現代的課題」p.307)
(注7) 田村善之著『絵画のオークション・サイトへの画像の掲載と著作権法』(知財管理Vol.56 ナンバー.9)
(注8) 第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料7

【諸外国の立法例】

 ドイツ法第58条(1)では、「造形美術の著作物及び写真の著作物で、公衆に展示され又は公衆への展示若しくは公衆への販売のために特定されたものを、広告のためにその主催者が複製し、又は公衆提供することは、それらの行為がその催しを助成するために必要なものと認められるときは、許される。」と規定されている。


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ