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資料1

薬事行政関係の権利制限についての論点

 医薬品等の製造販売業者が医薬品等の適正使用に必要な情報を提供するために、関連する研究論文等を複写し、調査し、医療関係者へ頒布・提供すること

 検討の背景と現状について

 薬事法では、医薬品等の製造販売業者には、医薬品等の適正使用に必要な情報の収集、検討及び医療関係者への提供について、努力義務が課せられている(第77条の3)。
 製薬企業等がこの規定に基づき情報の提供を行うに当たって、著作権の権利処理を要するものがあるが、情報の迅速な提供という医療上の要請及び現在の権利処理手続きの実情から、権利制限の要望がなされている。

 平成18年1月の著作権分科会報告書では、「当面は、関係者の最大限の努力の下、構築されているシステムが利用料の徴収の観点から有効に機能し著作権処理の適正化が行われていくか注視することとするが、医薬品等の適正使用に必要な情報提供の複写の実態を十分踏まえた上で、著作権者等への影響を勘案して、適切な措置について引き続き検討を行うことが適当」としている。

 現在、日本製薬団体連合会によれば、著作権処理に関しては、日本製薬団体連合会は、学術著作権協会との包括契約を結んでいるが、日本著作出版権管理システムとは、使用料等の問題から契約は未締結とのことである。なお、最近では、日本著作出版権管理システムが著作権等管理事業法に基づく一任型管理事業の実施を準備しており、当該事業における使用料について両者間で合意に向けて協議を重ねているところとのことである。

【参考1:薬事法第77条の3に基づく情報提供に係る文献等の管理状況について】

 薬事法第77条の3に基づく情報提供のうち、医療機関・医療関係者からの要望によるものは、提供文献部数全体の43.7パーセントであり、残りは企業の自主的情報提供である。

 情報提供のために複写が必要な著作物のうち、いずれかの著作権管理団体にも許諾手続きが委託されているものは70パーセント弱(国内では約5割)である(参考資料1参照)。

(参考資料1) 文献等の管理状況について
(情報提供:日本製薬団体連合会)

【参考2:MR(医療情報担当者)による医療関係者への情報提供について】

 MRは、「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第135号)において、「医薬品の適正な使用に資するために、医療関係者を訪問すること等により安全管理情報を収集し、提供することを主な業務とする者をいう。」と定義されている。

 業界大手製薬企業A社(MR数約1,300名)が2006年1年間に医療関係者へ情報提供用に作成又は購入した印刷物の数と、それに対するMRによる文献提供の状況は以下のとおり。

A社における作成・購入印刷物合計部数 :1,350万部
MR1人当たりの提供文献・冊子数 :約1万部
 うち医療関係者からの要望による平均複写文献数 :約40部
 うち医療関係者からの要望による最大複写文献数 :約235部
(情報提供:日本製薬団体連合会)

(参考資料2) 製薬企業Aにおける医療関係者への情報提供媒体別割合
(情報提供:日本製薬団体連合会)

 検討の方向性について

1  基本的な考え方
 今回、権利制限が要望されている事項は、製薬企業から医療関係者への情報提供のうち、製薬企業の自主提供部分を除いたもので、個別の患者への対応等のために医療関係者から文献の提供が求められる場合とされている。
 これらの場合は、患者の身体、生命に関するものであり迅速な対応が求められることも多いと考えられ、文献の複製について個別に許諾に時間をかけることが不適切な場合もあると考えられる。このような状況の下、製薬企業と関係団体との間では、前述のように包括的な契約を締結する努力が行われているが、情報提供が求められる文献のうち、現在、関係団体(現在、交渉中のものも含め)の管理に属しているものは、前述のように約7割ということである。

2  権利制限以外の方法による対応の可能性について
 医療関係者への文献の提供ではなく、書誌情報の提供や購入した文献の提供にとどめるのであれば、特段著作権法上の問題は生じないが、その場合、別刷り・抜刷り文献(注)の流通や図書館等の蔵書の整備など、必要な文献を入手するための仕組みを整っている必要がある。この点、医療関係者、製薬企業、関係出版業界の努力や医療行政における施策を待つことは、現実的か。
 また、仮に、製薬企業と学術著作権協会と日本著作出版権管理システムとの契約の状況を引き続き見守ることとする場合には、1管理団体の側では管理著作物の比率を高めるよう一層の集中管理を進めることや、複製を許容しても良いという権利者に対しては自由利用マーク等の意思表示システムの利用を推奨することにより、契約による利用が実現できる環境を整えること、また、2契約条件等の交渉に当たっては、あっせんや仲裁等の利用を促すこと等の取組が必要になってくると考えるが、これらについてどう考えるか。

 なお、管理団体の管理に属していない文献については、患者への迅速な対応が求められているとの点から、連絡がつかない権利者の場合等の困難が予想される。この点については、現在、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において、権利者不明等の場合の利用の円滑化方策に関して、裁定制度の利用の改善やその他の方策について検討が進められているが、その検討を待つことは適当か。

3  権利制限による対応を考える場合について
 権利制限を行う場合、次のような点についてどのように考えるか。

 製薬企業と各管理団体との間で、契約が締結され、又は契約条件等について交渉が進められている中で、権利制限を行うことの影響はどうか。

 今回、権利制限が要望されている複製に係る文献は、医療関係の文献であることが多く、医療関係者に読まれることを想定としているものであることから、製薬企業による文献提供は、これらの文献の権利者の利益と衝突する可能性も否定できないものである。平成18年1月の著作権分科会報告書においても、無償とすることは困難ではないかとの意見があげられている。
 仮に、補償金を求めることとした場合、現在でも利用料等の契約交渉で合意締結にまで至らない状況があり、また、各団体が管理していない著作物が約3割ある状況において、補償金の実効性をどのように考えるか。

 製薬企業が自主提供を行う文献等との明確な区別が可能か。区別のための要件(例えば、法令の規定により情報提供が求められる場合、医療関係者からの求めに応じて等。)や、規定の確かな運用を確保するための措置について、どのように考えるか。
 なお、製薬業界では、「医療用医薬品製造販売業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」や業界の自主的な行動基準である「医療用医薬品プロモーションコード」の中でプロモーション用の印刷物等を審査するための管理者を置くこととなっており、疑義がある場合には、審査会等でそれを判断する体制をとっているとのことである。

(注) 一般に「雑誌・論文集などの、ある部分の記事だけを抜き出して別に印刷すること。また、その印刷物」(大辞林第二版)を別刷り、抜刷りなどという。市販される場合や無償配付される場合もある。


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