ここからサイトの主なメニューです
資料3

聴覚障害者関係の権利制限についての論点

1   聴覚障害者情報提供施設において,専ら聴覚障害者向けの貸出しの用に供するため,公表された著作物、放送等に手話や字幕を挿入(翻案)して録画すること
2   専ら聴覚障害者の用に供するために、手話や字幕が挿入(翻案)された、公表された著作物、放送等の録画物を公衆送信することについて

 検討の背景と現状について

 現在、聴覚障害者情報提供施設において、聴覚障害者用に字幕・手話入りビデオ、DVD等の貸出を行っているが、複製権との関係から、実質、多くの作品には字幕や手話を付与することは行われていない。このことについて、権利制限を認めてもらいたいとの要望がある。
 また、聴覚障害者情報提供施設において、放送又は有線放送される著作物について、字幕を付した公衆送信が認められているが、この公衆送信はリアルタイムによるものに限られていることから、字幕や手話を付した複製物を作成し、これを公衆送信するには許諾が必要である。このことについて、権利制限を認めてもらいたいとの要望がある。

 平成18年1月の著作権分科会報告書においては、「権利制限の範囲の限定、その必要性の明確化(契約による権利処理の限界)、障害者にとっての当該利用の意義など提案者による趣旨の明確化を待って、聴力障害者情報文化センターと関係放送局、映画会社、権利者団体との間の契約システムの現状を踏まえた上で、改めて検討することが適当」としている。

 検討の方向性について

1  現状及び基本的な考え方
 障害者の著作物の利用可能性についての格差を解消していく観点からは、このような字幕等の付与を行う行為には高い公益性が認められると考えられ、なんらかの対応の必要性が高いと考えられる。

 現在、放送行政においては、放送局自らが字幕放送等を行うことについて目標を設定しつつ取組を進めてきている。このような取組は今後とも重視されるべきものであり、また相当の進捗が見られるが、しかしながら、緊急放送等を含めたすべての放送番組において字幕等が対応できている状況にはない。
 また、放送行政以外の分野では必ずしも同様の取組が進んでいるとは言い難い状況にあると考えられる。

【参考:字幕付与可能な放送時間に占める字幕放送時間の割合、手話放送の割合】(注1)
 字幕放送:
 NHK(総合テレビ) 平成18年度実績 100パーセント(総放送時間に占める字幕放送時間の割合43.1パーセント)
 民放(キー5局平均) 平成18年度実績 77.8パーセント(総放送時間に占める字幕放送時間の割合32.9パーセント)
※は、総放送時間に占める字幕放送時間の割合

 手話放送:
 NHK(教育テレビ) 平成18年度実績 2.4パーセント
 民放(キー5局平均) 平成18年度実績 0.1パーセント

【参考:日本語によるパッケージ系出版物のうち字幕の付与されているものの割合】(注2)
日本図書館協会による頒布事業において、日本で製作された日本語による映像資料のうち、日本語字幕付きVHS:139本(0.66パーセント)、日本語字幕付きDVD:約1,000本(7.1パーセント)

 一方、現在、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターでは、放送事業者や著作者団体との事前の一括許諾契約を結ぶことで、字幕・手話を挿入した録画を行っているが(NHK、関東民放5社、関西民放5社、地方局等・次ページ図参照)、仮に、それ以外の個人や取材先等に関するものを製作しようとする場合には、改めて個別の契約が必要となるところである。
 字幕付き、手話付きのビデオ又はDVDが約3,000本あり、作品ごとに利用条件、利用方法を設定しつつ、利用登録制により、貸出等を行っている。(社団法人聴力障害者情報文化センターホームページより)

【参考:字幕ビデオ制作等の流れ】

(情報提供:社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター)

2  複製を行う主体について
 現行では、上記のように、聴覚障害者情報提供施設等を中心として、関係団体との契約により字幕の付与等が行われているが、公共図書館等についても複製主体としていく旨の要望がなされている。現行の第37条の2(いわゆるリアルタイム字幕のための権利制限)の対象としては、聴覚障害者情報提供施設を設置する事業者等が指定されているが、どのような施設や事業者を複製主体として考えるべきか。また、その際の基準をどのように設定すべきか。

3  対象者の範囲について
 また、対象としては、いわゆる聴覚障害者のほか、視聴に困難を抱える者についても対象とすることについて要望がある。
 今回の権利制限は、字幕等がなければ、映像資料について一般利用者と同様に著作物を享受できない者への対応という観点から検討が必要とされているものであり、その必要性は、理念的には、いわゆる聴覚障害者に限られるものではないと考えられる。一方、権利制限規定は、権利の範囲を定める規定との性格上、また予測可能性の観点から、規定の適用範囲を明確にしておく必要があるが、この観点から、対象者をどのように考えるか。例えば、施設の利用登録などにより確認ができるものなどの条件をどのように考えるべきか。

4  その他権利制限を考える上で留意すべき点について
 そのほか、以下のような点についてどのように考えるか。

 点字図書や録音図書と異なり、字幕等を付した映像資料については、障害者以外の者でも利用価値が損なわれない可能性があることから、貸出しを行う施設との関係で、この点をどのように考えるか。
(なお、非営利無料の貸出しのうち、映画の著作物については第38条第5項において、貸出しを行える施設は、視聴覚ライブラリーや図書館等に限定されており、また補償金の支払いが義務づけられている)

 コンテンツの提供者等によりこれらの録音物が提供されることが本来望ましいとの考え方(注3)からは、コンテンツ提供者自らが、障害者に利用しやすい形態で提供するインセンティブを阻害しないようにする必要があると考えられるが、字幕を付与した放送や映像資料等が提供・市販されている場合等をどのように取り扱うべきか。

 その他、仮に営利目的の事業等があった場合の取扱いはどのように考えるか。

5  公衆送信の取扱いについて
 貸出しの用に供するための字幕等を付与した複製のほか、公衆送信を行うことについても要望がある。これらに関して、次の点についてどのように考えるか。

 災害時、緊急時に放送に関して特に要望があるとのことであるが、解説等を付して放送等を行う場合には、それを独自の報道と捉えて、現行の第41条(報道のための利用)や第32条(引用)等の規定による対応可能性はどうか。
 この点、第41条の規定は、「本条では、報道用の写真は、利用できる著作物とはなりません。といいますのは、事件現場を撮影した写真自体は、その事件を構成する著作物でもないし、その事件の過程において見られ聞かれる著作物でもない」と解されているが(注4)、裁判例では、現場を収録したビデオをニュースで放映することについて、そのビデオが時事の事件を構成するものと解された例もある(注5)。

 点字図書や録音図書と異なり、字幕等を付した映像資料については、障害者以外の者でも利用価値が損なわれない可能性があることから、公衆送信を行う場合には、利用者の限定の手段等が確保されない場合には、権利者の利益に及ぼす影響が大きくなるのではないか。

 仮に、公衆送信のうち自動公衆送信についても要望があるとした場合には、現在、放送された著作物を自動公衆送信するに当たっては、障害者以外の用に供する場合であっても、許諾が必要であることとのバランスをどう考えるか。

(注1) 「平成18年度 字幕放送等の実績」(平成19年6月29日・総務省報道発表資料)
(注2) 第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料4-2
(注3) 「これらの作業は本来出版や放送を行う側が行い、それを保証することを政府が義務化すべきであるが…(後略)」(第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料4-1)
(注4) 加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』(著作権情報センターp.288)
(注5) 「TBS事件」大阪地裁平成5年3月23日判決(判例時報1,464号p.139)

【諸外国の立法例】

 イギリス法第74条(1)では「指定団体は、聾者若しくは難聴者又はその他身体障害者若しくは精神障害者である人々に、字幕入りの複製物その他それらの人々の特別の必要のために修正されている複製物を提供することを目的として、テレビジョン放送若しくは有線番組又はそれらに挿入されている著作物のいずれの著作権をも侵害することなく、テレビジョン放送又は有線番組の複製物を作成し、及び複製物を公衆に配付することができる。」と規定されている。

 ドイツ法45条a(1)項に、「知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である人々のために、またそうした者への作品の普及目的の場合に限り、利益を目的としない作品の複製は認められる。」と定められている。したがって、聴覚障害者のための利益目的でない複製は、著作権侵害とならないことになる。ただし、「複製」が認められるにとどまり、「公衆送信」は認められていない。

 スウェーデン法第17条では、「録音以外の方法により、だれもが、障害者が作品を楽しむために必要な形態において、出版されている文学作品、音楽作品、視覚的芸術作品の複製を作成することが可能である。その複製物を障害者に配付することができる。また、政府が特定の場合において認可した図書館や組織は、以下のことが可能である。1.最初の段落で言及した複製物を、作品を楽しむために複製を必要としている障害者に伝達すること。(中略)3.聴覚障害者が作品を楽しめるように、作品をラジオ、テレビ放送、映画で送信すること、およびその複製物を聴覚障害者に配付、伝達すること(以下略)」と規定されている。


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ