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資料4

知的障害者、発達障害者等関係の権利制限についての論点

1   聴覚障害者向けの字幕に関する翻案権の制限について、知的障害者や発達障害者等にもわかるように、翻案(要約等)をすること
2   学習障害者のための図書のマルチデイジー化について

 検討の背景と現状について

 聴覚障害者向けに字幕により自動公衆送信する場合には、ルビを振ったり、わかりやすい表現に要約するといった翻案が可能(第43条第3号)であるが、文字情報を的確に読むことが困難な知的障害者や学習障害者についても、同様の要請がある。特に、教育・就労の場面や緊急災害情報等といった場面での情報提供に配慮する必要性が高いため、知的障害者や発達障害者等にもわかるように翻案(要約等)することを認めてもらいたいとの要望がある。
 また、現在、学習障害者や、上肢障害、高齢、発達障害等により文章を読むことに困難を有する者の読書支援を目的として、図書をデイジー化し、提供する活動が行われている。このような活動についても、権利制限の対象とすべきとの要望がある。

【参考】デイジー(DAISY)について
 デイジー(DAISY)は、Digital Accessible Information SYstemの略語であり、デイジーコンソーシアムにより開発されているデジタル録音図書に関する国際規格である。現在、日本のほか、スウェーデン、英国、アメリカなどの国々で利用されている。
 デイジーコンソーシアムは、アナログからデジタル録音図書に世界的に移行することを目的として、1996年に録音図書館が中心となり設立された組織。

 平成18年1月の著作権分科会報告書は、1について、「権利制限の範囲の限定、その必要性の明確化(契約による権利処理の限界)、障害者にとっての当該利用の意義など提案者による趣旨の明確化を待って、聴力障害者情報文化センターと関係放送局、映画会社、権利者団体との間の契約システムの現状を踏まえた上で、改めて検討することが適当」としている。

 また、2については、自民党・特別支援教育小委員会において、以下の通り提言されている。

【参考】「美しい日本における特別支援教育」(平成19年5月11日、自民党・特別支援教育小委員会)
  8著作物のデイジー化は、学習障害のある者にとって大いに有用なツールであるとの指摘等も踏まえ、著作権法上の制約について、改正も視野に入れた検討を行う。

 検討の方向性について

1  基本的な考え方
 知的障害者、発達障害者等にとって、著作物を享受するためには、一般に流通している著作物の形態では困難な場合も多く、デイジー図書が有効である旨が述べられており、著作物の利用可能性の格差の解消の観点からは、視覚障害者や聴覚障害者の場合と同様に、対応の必要性が高いと考えられる。

2  現行規定での対応可能性
 ヒアリングの中では、学校教育に関係した事例が多く見られたが(注1)、著作権法第35条第1項では、学校その他の教育機関において、教育を担任する者及び授業を受ける者が、授業の過程において使用する場合には、公表された著作物を複製することができ、また翻案して利用することもできる(第43条第1号)とされている。
 この「教育を担任する者」については、その支配下において補助的な立場にある者が代わって複製することも許されると考えられており(注2)、学校教育、社会教育、職業訓練等の教育機関での活用であれば、デイジー図書の製作の態様によっては、現行法においても許諾を得ずに複製できる場合があると考えられる。

 一方、ヒアリングの中では、共通のセンターのようなものがデイジー図書の蓄積や提供を行う構想等も提示されているが(注3)、そのような形態であれば、第35条第1項の範囲の複製とは考えにくい。
 また、複製の分量や態様、その後の保存等の面においては、必要と認められる限度に限られる。

3  権利制限による対応を考える場合について
 権利制限を行う場合、次のような点についてどのように考えるか。

 今後、デイジー図書の製作や流通は、どのような形態で行われることとなるのか、その状況をどう勘案すべきか。

 デイジー図書は、点字による図書等と同様に、それを必要とする者以外にとっての利用価値は高くないと考えられるが、この複製が可能となることによる権利者に与える不利益をどう考えるか。

 発達障害者、学習障害等に着目した権利制限規定を考えた場合、予測可能性の観点から、実際に規定を運用する際の、権利制限規定の範囲内なのかどうかの確認の手段等をどのように担保すべきか。また、それに応じて、複製主体として、視聴覚障害者情報提供施設などに相当する施設に何が想定されるか。

【参考】発達障害者支援法(平成16年法律第167号)抄
(定義)
第2条  この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。
2  この法律において「発達障害者」とは、発達障害を有するために日常生活又は社会生活に制限を受ける者をいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。

【参考】学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)抄
第73条の21  小学校若しくは中学校又は中等教育学校の前期課程において、次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒(特別支援学級の児童及び生徒を除く。)のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、第24条第1項、第24条の2及び第25条の規定並びに第53条から第54条の2までの規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
 学習障害者

 発達障害者、学習障害等に着目した権利制限規定ではなく、他の規定(第33条の2、第35条第1項等)の範囲の見直しによって対応することはどうか。

 その他、仮に営利目的の事業等があった場合の取扱いはどのように考えるか。

(注1) 第6回法制問題小委員会(平成19年7月19日)資料4-2
(注2) 「教育を担任する者といいましても、第30条の私的使用の場合と同様に、実際にはその部下職員である事務員とか児童・生徒を手足として使ってコピーをとることは、複製の法律的主体が教員自身である限り許されます。」(加戸守行著『著作権法逐条講義(五訂新版)』(著作権情報センターp.257)
(注3) 前出。第6回法制問題小委員会・資料4-2

【諸外国の立法例】

 イギリス法第74条(1)では「指定団体は、聾者若しくは難聴者又はその他身体障害者若しくは精神障害者である人々に、字幕入りの複製物その他それらの人々の特別の必要のために修正されている複製物を提供することを目的として、テレビジョン放送若しくは有線番組又はそれらに挿入されている著作物のいずれの著作権をも侵害することなく、テレビジョン放送又は有線番組の複製物を作成し、及び複製物を公衆に配付することができる。」と規定されている。

 ドイツ法第45条a(1)項に、「知覚障害により作品の理解ができない、またはかなり困難である人々のために、またそうした者への作品の普及目的の場合に限り、利益を目的としない作品の複製は認められる。」と定められている。したがって、聴覚障害者のための利益目的でない複製は、著作権侵害とならないことになる。ただし、「複製」が認められるにとどまり、「公衆送信」は認められていない。

 カナダ法第32条(1)項において、「知覚障害者の求めに応じて以下のことをする場合、または非営利団体がその目的のために以下のことをする場合には、著作権侵害にはならない。(a)文学作品、音楽作品、芸術作品、演劇作品を、特に知覚障害者のための形態において複製ないし録音すること(映画著作物を除く)(b)文学作品、演劇作品を、特に知覚障害者のための形態において手話に翻訳、改作、複製すること(映画著作物を除く)(c)文学作品、演劇作品を手話(ライブあるいは特に知覚障害者のための形態)で実演すること」と定められている。
 さらに、2条に“知覚障害者”の定義が、「“知覚障害”とは、文学作品、音楽作品、演劇作品、芸術作品を元の形のまま読んだり聞いたりすることが不可能、あるいは困難な状態を指し、以下のような状態を含む。(a)視覚・聴覚における重度あるいは全体的な障害、または、焦点・視点の移動ができない状態(b)本を手に持ち扱うことができない状態(c)理解力に関わる障害のある状態」と定められている。


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