特別支援教育について

第1章 ガイドライン策定の趣旨

1 ガイドライン策定の背景

 障害のある子どもに生涯を見通した適切な支援を行うためには、早期にその障害を発見し、子どもやその保護者の相談に応じ、適切な支援を行うことが最も重要です。
 このことは、子どもの支援者の一人としての保護者の不安や負担を軽減することになり、子どもの障害の状態の改善・克服や望ましい成長・発達、自立や社会参加を促すためにも必要なことです。
 障害のある子どもやその保護者に対して適切な相談・支援が行われるようにするためには、地方自治体を中心に、乳幼児期から学校卒業後のそれぞれの段階にわたって、医療、保健、福祉、教育、労働等の支援が適切に受けられるよう、関係部局・機関あるいはそれらの関係者が連携して、一貫した支援体制を整備する必要があります。
 現在、医療、保健、福祉、教育、労働等の機関においては、概ね、下記のような相談・支援の取組が行われているところです。

  • 1 障害の早期発見に関して
    •  市町村における1歳6か月児健康診査、3歳児健康診査などの乳幼児健康診査
    •  市町村教育委員会における就学時の健康診断
  • 2 発見後の相談に関して
    •  保健所、保健センター等における保護者への育児相談、療育相談や発達相談等
    •  特別支援学校(注1 旧盲学校、聾学校、養護学校)や特別支援教育センター等における障害のある乳幼児やその保護者に対する早期からの教育相談
  • 3 発見後の支援に関して
    •  療育の場として、児童福祉施設等における専門的な指導訓練
    •  教育の場として、特別支援学校、小・中学校の特別支援学級(注2 旧特殊学級)、通級指導教室等における指導
  • 4 就労に関して
    •  公共職業安定所や地域障害者職業センター等における障害のある人に対する職業相談や就業支援
    •  特別支援学校等における職業教育の一環としての現場実習を含む就業体験や進路相談、就労への移行支援

 しかし、障害のある子どもやその保護者の側からみると、どの機関に相談すればよいか分からなかったり、支援を受ける機関が変わるたびに障害の状態やこれまでの支援の状況やニーズを説明しなくてはならないなど、十分連携した対応ができていないとの指摘もなされています。

 このような現状を踏まえ、文部科学省では、厚生労働省と連携しながら、教育委員会を中心とした地域における連携に関する事業(注3)を実施し、関係部局・機関の連携体制が構築され、全国で様々な連携方策が展開されるなどの成果をあげてきました。
 また、政府全体としても、障害者の支援のための計画の策定が行われました。
 平成14年12月には、平成15年度からの10年間に講ずべき障害者施策の基本的方向性を定めた新しい「障害者基本計画」が閣議決定され、その中には次のことが明記されています。

  • 「障害のある子どもの発達段階に応じて、関係機関が適切な役割分担の下に、一人一人のニーズに対応して適切な支援を行う計画(個別の支援計画)を策定して効果的な支援を行う。」
  • 「乳幼児期における家庭の役割の重要性を踏まえた早期対応、学校卒業後の自立や社会参加に向けた適切な支援の必要性にかんがみ、これまで進められてきた教育・療育施策を活用しつつ、障害のある子どもやそれを支える保護者に対する乳幼児期から学校卒業後まで一貫した効果的な相談支援体制の構築を図る。」

 さらに、「障害者基本計画」に基づき定められた「重点施策実施5か年計画」(平成15年度からの前半の5年間において重点的に実施する施策及びその達成目標並びに推進方策を定めた計画(いわゆる新障害者プラン))の中にも、より具体的に次のことが示されました。

  • 「地域において一貫して効果的な相談支援を行う体制を整備するためのガイドラインを平成16年度までに策定する。」

 これらの経緯から、文部科学省において、厚生労働省と連携協力しつつ、上記の事業の成果等を踏まえ、平成15年8月からガイドラインの策定に着手しました。
 その間、「発達障害者支援法」、「障害者自立支援法」、「教育基本法」及び「学校教育法」等の制定・改正及び施行が行われ、障害のある子どもや障害のある人々に対する施策が転換され、地域における相談・支援体制が大きく変わりました。
 このガイドラインでは、これらの制度改正を踏まえた最新の情報を盛り込み、試案としてとりまとめました。

  • (注1、注2)学校教育法等の一部を改正する法律(平成18年法律第80号)の施行により、平成19年4月1日から、特別支援教育が本格的に実施されています。盲学校、聾学校及び養護学校は複数の障害種に対応できる「特別支援学校」になりました。また、小・中学校の特殊学級は「特別支援学級」になりました。さらに、小・中学校では、子どもの実態等に応じて、通級による指導や通常の学級での指導も実施しています。
  • (注3)
    • 「障害のある子どものための教育相談体系化推進事業」(平成13~15年度)
       教育委員会と医療、保健、福祉、労働等の関係機関と連携した教育相談の体系化の一層の促進を目指した事業(参考資料5参照)
    • 「特別支援教育体制推進事業」(平成15年度~19年度)
       教育委員会と医療、保健、福祉、労働等の関係機関が連携し、学校における特別支援教育を推進するための体制を学校内外において整備する事業(参考資料12参照)

2 ガイドラインの役割

(1)各地方自治体における整備のために

 本ガイドラインは、都道府県や、支援地域(注4)、市町村などの各地方自治体において、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係部局・機関が一体となって、障害のある子どもやその保護者に対する一貫した相談・支援体制が整備されることを目的として作成したものです。
 すでに、地域により関係部局・機関が連携して相談・支援のための体制整備が進められているところもありますが、こうした取組が全国各地域で展開されるよう、各地方自治体及び相談・支援にかかわる関係部局・機関及び関係者においては、本ガイドラインを積極的に活用して、相互の制度や施策の現状について共通理解を深めつつ、地域の実態等に応じて適宜工夫を凝らしながら、責任ある相談・支援体制を整備してください。

(2)ガイドラインの内容

 本ガイドラインは、次のような内容となっています。

  • 1 全体の概要
     各地方自治体における関係部局・機関の連携体制の構築、相談・支援のための具体的方策、連携の際の留意事項などについて、具体的な事例を盛り込みながらまとめています。
  • 2 一貫した相談・支援のための体制づくりのために
     地域における一貫した相談・支援のための連携が円滑に行われるようにするための環境整備として、都道府県や支援地域レベルにおけるネットワークの構築や、相談・支援のための全体計画の作成の必要性について述べています。(第2章)
  • 3 一貫した相談・支援のための連携方策
     地域において一貫した相談・支援を行うための具体的な連携方策の例(「相談支援チーム」の設置、「相談支援手帳(ファイル)」の作成、専門家による巡回相談、「個別の支援計画」の策定、情報提供等)並びに個人情報等の留意事項について紹介しています。(第3章)
  • 4 参考資料
     体制整備のための施策を検討する上での参考資料として、発見や相談・支援にかかわる主な制度や機関、関係法令・通知等を巻末に添付しました。

(3)ガイドラインの見直しについて

 本ガイドラインは、今後、各地域における本書の活用状況を把握し、その有効性や課題等を検証しつつ、必要に応じて、その内容等について改善を加えていくこととしています。このため、今回このガイドラインは、試案という形での公表としています。

  • (注4)各都道府県で、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係機関が相互に連携して、広域的な地域支援を行うことを目的として設定した地域を指します。「障害保健福祉圏域」や教育事務所単位での設定が行われています(第2章「1 関係部局・機関・関係者のネットワークの構築」(2)参照)。

-- 登録:平成21年以前 --