特別支援教育について

第2章 相談・支援のための体制づくり

1 関係部局・機関・関係者のネットワークの構築

ポイント

 都道府県、支援地域、市町村等における医療、保健、福祉、教育、労働等の関係する行政部局・機関及び関係者の横断型のネットワークを構築します。
 また、複数のネットワークがある場合には、相互の連携を図りながら一元化を検討しつつ、責任組織を明確にするなどの工夫を行います。

 障害のある子どもやその保護者が抱える様々なニーズや困りごとに対して適切な相談・支援を行っていくためには、多分野・多職種による総合的な評価と、多様な支援が一体的かつ継続的に用意されていなければなりません。
 総合的な評価を行うことや、必要な相談・支援を行うには単独の機関では限界があるので、地域に多分野・多職種による支援ネットワークを構築し、ネットワークにより障害のある子どもや保護者を支援していくことが必要になります。
 現在、障害のある子どもやその保護者への支援に関しては、大きく「教育委員会を中心とした教育分野のネットワーク」と「地域自立支援協議会を中心とした保健医療福祉分野のネットワーク」があります。
 ここでは、それらの概要を紹介するとともに、ネットワーク相互の連携や一元化、中核となる責任組織の明確化などの工夫について紹介します。

(1)教育分野におけるネットワーク

1都道府県におけるネットワークの構築(広域特別支援連携協議会の設置)

 都道府県においては、障害のある子どもやその保護者への相談・支援にかかわる医療、保健、福祉、教育、労働等の関係部局・機関間の連携協力を円滑にするためのネットワークとして、「広域特別支援連携協議会」を設置することが重要です。

 本協議会の役割としては、例えば、次のようなことが考えられます。

  • ア 相談・支援のための施策についての情報の共有化
  • イ 相談・支援のための施策の連携の調整や連携方策の検討
  • ウ 相談と支援のための全体計画(マスタープラン)の策定
  • エ 関係機関が連携して乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫した支援を行うための計画である「個別の支援計画」のモデルの策定(第3章「6 関係機関の連携による支援のための計画(「個別の支援計画」)の策定」参照)
  • オ 相談・支援にかかわる情報の提供
  • カ 支援地域の設定

2支援地域におけるネットワークの構築(支援地域における特別支援連携協議会の設置)

 支援地域においても、関係部局・機関間の連携協力を円滑にするためのネットワークとして、「支援地域における特別支援連携協議会」を設置することが必要です。
 本協議会においては、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係部局や、特別支援学校(盲・聾・養護学校)、福祉事務所、保健所、医療機関、公共職業安定所などの関係機関等の参画が考えられ、より地域に密着した体制を整えることが大切です。
 本協議会の役割は、広域特別支援連携協議会とほぼ同様と考えられますが、障害のある子どもやその保護者にとって、地域に密着した具体的な方策の検討などが求められます。

 支援地域は、相談・支援にかかわる関係機関の設置状況や機能、役割等を考慮して、都道府県や支援地域の実情等に応じて、教育事務所や障害保健福祉圏域、指定都市、中核市等の単位での設定が考えられます。
 基本的には、いくつかの市町村にまたがった一定規模の地域として支援地域の設定が想定されますが、市町村における関係部局・機関は、障害のある子どもやその保護者にとって最も身近な相談・支援の窓口であることから、市町村が単独で、ほぼ支援地域と同様に取り組むことも考えられます。その場合、市町村が連携協力を円滑にするためのネットワークを構築していくことも重要です。

 広域特別支援連携協議会は、支援地域及び市町村における円滑な連携を支えるものとして、支援地域における特別支援連携協議会は、市町村における円滑な連携を推進し支えるものとして、それぞれ設置の促進を図ることにより、都道府県及び域内の各地域でネットワークが網羅されることが重要です。
 こうした特別支援連携協議会の設置に当たっては、構成する部局をどうするかなど、各地域の実情に応じて検討を進めることとなりますが、こうしたネットワークを構築する上で、中核となって関係部局間の連携・調整役としてのコーディネーター的な役割を担う担当者を位置付けることも重要と考えられます。

 なお、特別支援学校(盲・聾・養護学校)においては、今後一層、地域における特別支援教育のセンター的機能(注1)を発揮することが求められており、支援地域において特別支援学校(盲・聾・養護学校)が、各学校の特別支援教育コーディネーターを中心的な連携調整役としながら、必要な役割を担うことが期待されます。
 また、特別支援連携協議会が、障害のある子どもや保護者のニーズに応じた適切な相談・支援を行うため、保護者の参画を推進することも重要です。

(2)保健医療福祉分野におけるネットワーク

 平成18年度に施行された「障害者自立支援法」においては、相談支援事業をはじめとする地域支援システム作りに関し、中核的な役割を果たす定期的な協議の場(地域の関係者の連携)として、相談支援事業者、障害福祉サービス事業者、保健・医療関係者、教育・雇用関係機関、企業、障害者関係団体、学識経験者等からなる、「地域自立支援協議会」を市町村(複数市町村や圏域単位での設置も可)が設置することとしています。

 本協議会の主な機能は次のとおりです。

  • ア 困難事例への対応の在り方に関する協議、調整(当該事例の支援関係者等による個別ケア会議を必要に応じて随時開催)
  • イ 地域の関係者によるネットワーク構築等に向けた協議
  • ウ 地域の社会資源の開発、改善
  • エ 子ども支援、権利擁護等の分野別サブ協議会等の設置、運営
  • オ 委託相談支援事業者の中立・公平性を確保する観点からの運営評価

 また、都道府県域全体の相談支援体制等の構築に向け、主導的役割を担う関係者等の協議の場として、「都道府県自立支援協議会」を都道府県が設置します。

 本協議会の主な機能は次のとおりです。

  • ア 都道府県内の地域自立支援協議会単位ごとの相談支援体制の状況を把握、評価し、整備方策等を助言
  • イ 地域では対応困難な事例に係る助言
  • ウ 地域における権利擁護等の専門的支援システムの立ち上げ援助
  • エ 広域的課題・複数圏域にまたがる課題解決に向けた体制整備支援
  • オ 相談支援従事者のスキルアップに向けた指導
  • カ 地域の社会資源の点検、開発に関する援助

(3)組織体制や連携の工夫

 このように、教育分野と福祉分野それぞれに地域におけるネットワークを構築することが求められています。
 地域によっては、どちらかの分野が先行してネットワークを構築している場合もあるでしょうし、教育と福祉のネットワークがそれぞれあるが、対象エリアが市町村と圏域など異なっている場合もあるでしょう。
 お互いに教育と福祉、その他関係分野が連携して支援体制を構築することを目的としており、構成メンバーや協議事項も重複することが予想されますので、地域の実情に応じて、組織体制を一本化したり、連携の在り方をルール化したりするなどの工夫が必要です。

(4)責任組織の明確化

 障害のある子どもやその保護者の相談・支援を行う組織は、多岐にわたります。それらが連携して支援すべきことには異論はありませんが、実際には、各機関の自主性に任せたままとなり、うまく連携できないことも多いようです。
 そのため、保護者がどこに相談に行ったらよいか分からなかったり、相談に行っても「うちの所管ではない。対応できない。」などと関係機関をたらい回しにされたりすることが生じやすくなります。
 その原因としては、対象者の違い、人事上の引継の途切れ、情報の少なさなどが考えられますが、結果として、いくら机上の連携組織が作成されていても、入口の段階で機能しなければ、役に立ちません。
 それらの課題を克服するためには、関係機関や関係者をつなぎ、相談者が適切な相談が受けられるよう責任を持つ組織の設置が望まれます。
 すでに、先進的な自治体では、自治体内や教育委員会内に「子ども課」等の名称で責任組織を発足させ、住民の抱える課題に適切に対応しています。
 市町村などの地方自治体の多くは、子どもや障害に関する事務が、首長部局の保健、保育、福祉担当組織と教育委員会事務局の学校関係組織とに分かれています。
 これらをつなぐ組織には、下記のようにいくつかのパターンがあります。

  • 1 首長部局に子どもに関する課・室を設置
  • 2 教育委員会に首長部局から子どもに関する課・室を集約し、筆頭課を設定
  • 3 首長部局に連携組織にチームを結成し、責任者を任命

 いずれにしても、複数の関係機関から人材を集め、窓口を一元化し、最初の相談はその組織で受けるようにしています。さらに、関係組織をつなぐ会議を開催することなどを行っています。
 また、都道府県においては、市町村における各組織の事務を集約することがより重要であり、必ずしも「子ども課」等の設置が現実的ではない場合もありますが、何らかの連携の基軸となり責任を持つ常設組織を構築し、都道府県内の全ての相談・支援が機能するようにすることが大切です。

  • (注1)特別支援学校におけるセンター的機能:学校教育法第74条に、「特別支援学校においては、第72条に規定する目的を実現するための教育を行うほか、幼稚園、小学校、中学校、高等学校又は中等教育学校の要請に応じて、第81条第1項に規定する幼児、児童又は生徒の教育に関し必要な助言又は援助を行うよう努めるものとする。」と定められており、このことを一般に、特別支援学校の「センター的機能」と呼んでいる。

図 関係部局・機関・関係者のネットワークの構築

【広域特別支援連携協議会と関係機関等のネットワーク】


(出典 全国特殊学校長会『「個別の教育支援計画」策定・実施・評価の実際』172頁(平成18年))

【青森県における支援体制の構想】

【長野県駒ヶ根市における子ども課の組織】

【滋賀県湖南市における発達支援システム】

2 相談・支援のための全体計画(マスタープラン)の策定

 医療、保健、福祉、教育、労働等の各部局・機関が実施している相談事業や支援の内容を明らかにし、相互の共通理解を図るとともに、一貫した効果的な相談と支援のための具体的な方策を示した全体計画(マスタープラン)を策定します。

 各都道府県や支援地域、市町村においては、関係部局のネットワークである特別支援連携協議会等の場において、まずは障害のある子どものライフステージに応じて、医療、保健、福祉、教育、労働等の各部局・機関が実施している各種の相談・支援の内容を明らかにし、相互の共通理解を図ることが必要です。その上に立って、障害のある子どもやその保護者に対して一貫した効果的な相談と支援が行われるようにするための全体方針や具体的な連携方策等を示した全体計画(マスタープラン)を策定することが大切です。
 全体計画は、例えば、都道府県においては、ライフステージごとに、都道府県内のどの地域で、どの機関が、どのような相談・支援を行っているのか、一貫した支援を行う上でどのような連携方策をとっていくことが必要であるのかなど、全体像がわかるようなパンフレットやリーフレットを作成するなどして、障害のある子どもやその保護者に対して周知を図ることが重要です。
 また、支援地域や市町村においては、全体計画に、例えば、相談・支援の機関、相談・支援機関のリスト、関係機関との連携による事業など、より具体的な内容を盛り込み、相談・支援の際により活用されやすくすることが大切です。
 なお、障害者基本法においては、都道府県や市町村において障害のある人のための施策に関する基本的な計画(地方障害者計画)の策定が義務付けられています(市町村は平成18年度末までは努力義務で、平成19年度から義務付けられた)。
 また、平成18年度から施行された「障害者自立支援法」において、国は障害者プラン作成に資するため、都道府県及び市町村において3年を1期とする「障害福祉計画」の策定を義務化しました。
 市町村においては、各年度における障害福祉サービス・相談・支援の種類ごとの必要な量の見込みやその確保のための方策等を計画・策定します。
 都道府県においては、区域ごとの各年度の障害福祉サービス・相談・支援の種類ごとの必要な量の見込みや方策、障害福祉サービス・相談・支援に従事する者の確保又は資質向上のための措置、各年度の障害者支援施設の必要入所定員総数等の計画を策定します。
 相談・支援のための全体計画についても、この地方障害者計画の中に位置付けていくことが望まれます。

-- 登録:平成21年以前 --