特別支援教育について

障害のある児童生徒の教材の充実について 報告

平成25年8月28日
障害のある児童生徒の教材の充実に関する検討会

目次

はじめに

1.障害のある児童生徒の教材の充実の現状と課題

(1)近年の状況の変化
(2)発達障害のある児童生徒が使用する教材等の整備充実
(3)視覚障害のある児童生徒のための音声教材の整備充実及び高等学校段階の拡大教科書の発行
(4)様々な障害の状態や特性に応じた教材及び支援機器の充実
(5)障害の状態や特性に応じた様々なアプリケーションの開発
(6)情報端末についての基本的なアクセシビリティの保証

2.今後の推進方策

(1)総論
(2)国等の役割
(3)教育委員会の役割
(4)学校の体制整備
(5)教員の知識の習得及び指導方法の改善
(6)産業界、大学等との連携による教材や支援機器の充実

参考資料

はじめに

○ 平成23年8月に改正された障害者基本法では、教育の条文である第16条において、国及び地方公共団体における障害者の教育に関する環境整備の一つとして、新たに「適切な教材等の提供」が追加された。

○ また、平成24年7月に取りまとめられた中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」においては、障害のある児童生徒が十分に教育を受けられるための合理的配慮の基礎となる環境整備の一つとして、「教材の確保」が挙げられた。その中で、視覚障害のある児童生徒のための音声教材の整備充実、高等学校段階の拡大教科書の発行、発達障害のある児童生徒の使用する教材等の整備充実、様々な障害の状態や特性に応じた支援機器の充実、障害の状態や特性に応じた様々なアプリケーションの開発、情報端末についての基本的なアクセシビリティの保証が課題として挙げられている。

○ さらに、文部科学省が平成23年4月に取りまとめた「教育の情報化ビジョン」においては、ICTを活用することにより、一斉指導による学び(一斉学習)に加え、個々の児童生徒の能力や特性に応じた学び(個別学習)や児童生徒同士が教え合い学び合う協働的な学び(協働学習)を推進させることを目指すとともに、それらの学習活動に必要ないわゆるデジタル教科書(*1)・教材についても述べられている。このほか、障害のある児童生徒への活用を進めるため、支援機器等の活用や個々の児童生徒の認知の特性を踏まえたICTの活用、デジタル教科書・教材等に必要な機能の例についても述べられている。

○ このような状況を踏まえ、本検討会では、平成25年6月より6回にわたり検討を行い、障害のある児童生徒の教材の現状と課題、その推進方策について、報告書として取りまとめた。

○ 今後、教材の充実に関連した施策が推進されることにより、特別支援教育が一層充実され、障害のある児童生徒が十分な教育を受けられる環境が整備されることとなる。それにより、障害のある児童生徒の将来の自立と社会参加が加速されていくことを期待するものである。

1.障害のある児童生徒の教材の充実の現状と課題

(1)近年の状況の変化

○ 障害のある児童生徒について将来の自立と社会参加に向けた学びの充実を図るためには、障害の状態や特性を踏まえた教材を効果的に活用し、適切な指導を行うことが必要である。

○ 平成19年に改正された学校教育法においては、特別支援学校だけでなく、小・中・高等学校等においても、教育上特別の支援を必要とする児童生徒等に対して、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うこととされている。また、学習指導要領においては、各学校において、児童生徒に主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならないとされているところである。これらの観点から、従来より、障害のある児童生徒について障害の状態や特性を踏まえた教材の活用が進められてきているところであるが、今後、更にその充実を図ることが必要である。

○ また、障害のある児童生徒の教材については、十分な教育を受けられるための配慮の一つとして位置付け、各学校において活用されてきたところであるが、「障害者の権利に関する条約(*2)」及び平成23年8月に改正された「障害者基本法」への対応や平成25年6月に成立した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「差別解消法」という。)を受け、このような配慮についての考え方の整理が求められる。

○ 具体的には、各学校においては、その実施に伴う負担が過重でないときは、個々の児童生徒の障害の特性に応じて、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮(いわゆる「合理的配慮」)を提供することが必要であり、教材の活用に当たってもこのような配慮が求められる。

○ 平成28年4月から施行される差別解消法においては、合理的配慮の提供に関しては、国、地方公共団体等については法的義務に、民間事業者においては努力義務とされるところである。その具体の対応については、今後政府が策定する基本方針を踏まえ、国や地方公共団体において、当該機関における取組に関する要領を策定することになるが、いずれにせよ、障害のある児童生徒が十分な教育を受けられるようにするための合理的配慮の充実を図る上でも、国や自治体においては、基礎的環境整備の一環としての教材の確保及び合理的配慮の一環としての教材の工夫(その内容や指導方法などの変更や調整)が求められている(*3)。

○ 障害のある児童生徒がその能力を最大限発揮するためには、多様な学びの場において、障害の状態や特性を踏まえた教材を活用し、適切な指導を行うことが必要であり、このような教材や指導方法の開発・普及を進め、一人一人のニーズに応じた教材を活用した教育を受けることを通じて、障害のある児童生徒の自立と社会参加が、より促進されるものと考える。

○ 他方、各学校においては、障害のある児童生徒の学びの充実を図るべく、必要な教材を整備すること及びそのための児童生徒の実態把握、新たな教材の開発、既存の教材についての情報収集に加え、教員がこれらの教材を活用して適切な指導を行うことができるよう、体制整備の充実が求められる。

(2)発達障害のある児童生徒が使用する教材等の整備充実

○ 発達障害のある児童生徒の学習上等の理解をしやすくするため、個々の障害の状態や特性に応じた教材等、特にICTを活用した教材や支援機器(*4)の効果的な活用が求められている。

○ 例えば、学習障害のある児童生徒の中でも読み書きに困難を示す児童生徒に対して、文字だけでなく音声を同時に提示することや、注意することが困難な児童生徒に対して、文字を読む際に視知覚のコントロールを行いやすいように、読むべき箇所をハイライト表示する、行間を大きくするなどの工夫を行うことが効果的であると考えられる。

○ 現在、発達障害のある児童生徒が、音声教材として複製された教科用特定図書等(*5)を入手するためには、学校等を通じて、当該教材を製作するボランティア団体等に製作を依頼し、それを受けたボランティア団体等が製作した教材の提供を受けることが多い。

○ また、教科用特定図書等を製作するために必要となる教科書発行者が保有する教科書デジタルデータについては、平成20年6月に成立した「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(以下「教科書バリアフリー法」という。)に基づき、データ管理機関を通じてボランティア団体等に提供されており、ボランティア団体等の教科用特定図書等の製作に係る負担について一定の軽減が図られているところである。

○ このように、現在、ボランティア団体等により様々な音声教材として教科用特定図書等が製作され、発達障害のある児童生徒に対して配布されているところであるが、教科用特定図書等を必要とする児童生徒と製作された教材とのマッチングを含め、ボランティア団体等を支援し、円滑かつ効率的に教材提供を行うための仕組みを構築することが必要である。

○ なお、米国では、視覚障害や肢体不自由、学習障害等のため文字が読めない、読みにくい等の「印刷物障害(Print Disabilities)」のある児童生徒のためのアクセシブルな教材等の標準規格が整備されており、それらの教材等を教育現場の実情に沿った簡便な方法で提供できる体制が構築されており、我が国においても、参考とすべきと考える。

○ さらに、これまでの文部科学省による発達障害等の障害の状態や特性に応じた教材・支援技術等の実証研究を通じて、音声教材として複製された教科用特定図書等については、以下のことが明らかとなりつつあり、引き続き研究を進める必要がある。

 【効果】

  • 印刷されている文字等の認識に困難のある児童生徒は、音声教材により内容に対する理解が深まること、また、そのことにより自尊感情や学習意欲の向上につながるとともに、友達関係を構築する上でも効果があること。
  • 学級の児童全員に対して音声教材を使用させた後に、その使用の継続について選択させると、学習障害と診断できる児童だけでなく、それら以外にも何らかの原因によって読みに困難を示す多くの児童が引き続き使用していること。
  • 教科書と併用することで、必要に応じて児童生徒が自ら選択することが可能となり、学習内容の理解が深まるなど一定の効果があること。
  • 音声教材については、肉声でなく人工音声であったとしても効果に大きな違いはないこと。
  • 学習の基礎となる読み・書き・計算といった能力が習得困難なために、教科全体の学習が困難になってしまう場合には、適切なツール(ICT等を活用した教材等)を用いて代替させることで、教科全体の学習内容の理解につながる可能性があること。

【課題】

  • 音声教材については、同音異義語などが出てきた場合に意味理解を助ける機能が必要であること。
  • 汎用性があり、操作性が高く、安価でアクセスしやすいものである必要があること。
  • 教科書の中で様々な資料が活用されている場合、教科によっては、それらをどの順番で読み上げれば良いかが分かりにくいこと。
  • 音声教材を紙の教科書と併用する場合には、対応するページの表示が必要であること。
  • 音声教材を使用する場合の指導方法は、従来の指導方法にとらわれず、効率的な方法を開発することが必要であること。また、一斉授業において、音声教材を使用する際の効果的な指導方法、配慮事項についても検討することが必要であること。
  • 音声教材の活用を支援することができる人材が必要であること。
  • 発達障害に含まれる障害は重複していることが多く、また、その困難の現れ方には個人差が大きいため、対象者の線引きが難しいこと。
  • 音声教材の製作については、教材を製作するボランティア団体が少ないため、必ずしも必要な教材が必要な時期にそろわない場合があること。
  • 音声教材製作時の負担の軽減に資する良質な教科書デジタルデータが必要であること。
  • 試験時にも問題文を音声化するなど、日頃の教材の合理的配慮と同様の合理的配慮を提供することが必要であること。

○ このほか、例えば、耳に入る雑音が気になり集中できない児童生徒がノイズキャンセリングヘッドホンを使用したり、姿勢を保つことの苦手な児童生徒が滑り防止マットやクッションなどを使用したりすることにより、学習に集中できるようになる場合がある。これらの機器についても、発達障害のある児童生徒の学習を支援する教材等として、効果的に活用することが求められる。

○ 一方、発達障害のある児童生徒の学習支援のための教材等については、現在、紙や具体物を活用した教材からICTを活用した教材まで様々な教材等が作成・活用されているが、各学校においては、これらについての情報共有を図るとともに、教員がこれらを活用して効果的な指導を行うことができるよう体制整備を図ることが求められる。

○ 具体的には、教員は、一人一人の障害の状態や特性を理解した上で、適切な教材を用いて適切な指導を行うための知識・技能を身に付けることが求められる。特に、障害のある児童生徒については、学習等の困難の要因(視覚による認知の困難、聴覚による認知の困難、視覚的あるいは聴覚的短期記憶の困難、注意の困難など)に応じて指導方法を工夫することが必要である。

○ このような指導方法の工夫に当たっては、特定の教員だけで取り組むのではなく、障害のある児童生徒の状況や学校の実態等に応じて、学校が一体となって指導方法や指導体制の工夫改善を進めていくことが重要であり、学校全体として、それらの教員をサポートする仕組みが求められる。

○ また、発達障害のある児童生徒に対するこのような配慮は、当該児童生徒のみならず、学級全体における分かりやすい授業や指導にもつながるものであり、この観点からも積極的に取り組むことが求められる。

○ 上記を踏まえ、今後、学習上等の困難を有する発達障害のある児童生徒が理解しやすくなるような教材等が一人でも多くの児童生徒に行き渡るよう、一層の条件整備が求められる。  
  
○ なお、教科書デジタルデータの利用に当たっては、教科書発行者等の権利者等が安心してデジタルデータを提供できるよう、本来の用途以外への当該デジタルデータの流用や第三者への流出の防止等に十分に留意しつつ、今後は、教科書デジタルデータを利用した教材がより広く普及するための仕組みづくりが求められる。

(3)視覚障害のある児童生徒のための音声教材の整備充実及び高等学校段階の拡大教科書の発行

○ 平成24年度より、教科書バリアフリー法に基づき、教科書発行者の発行する小・中学校用検定済教科書に対応した拡大教科書の全点が発行されている。さらに、同法に基づき、教科書発行者が保有する教科書デジタルデータを、データ管理機関を通じて、ボランティア団体等に対して提供することにより、拡大教科書等の作成に係る負担の一定の軽減が図られている。

○ また、高等学校用検定済教科書については、小・中学校用の検定済教科書に比べて発行点数が多いことから、それぞれの拡大教科書の需要が少なく、必要数の見通しも立てにくいこと、また、小・中学校用の検定済教科書に比べて教科書に記載される情報量が多いため、拡大教科書の製作により時間がかかる等の課題がある。

○ さらに、文部科学省による、高等学校段階の弱視生徒に必要な拡大教科書及び指導方法の調査研究を通じて、以下のことが明らかとなりつつある。

  • 高等学校段階のニーズは多様であり、版を拡大することで文字サイズが拡大される単純拡大教科書も有効であること。
  • 理想的には、文字サイズや白黒反転等、調整できることが望ましいこと。
  • 使いやすさや可搬性も重要な要素であること。
  • 卒業後にも活用できる支援機器(補助具)の技術習得に関する希望が大きいこと。

○ また、拡大教科書以外にも、視覚から得られない情報を聴覚等の代替手段を使って補うため、音声教材の整備や教科書のデジタル化の研究等が進められているところである。

○ 今後、必要な教材が一人でも多くの児童生徒に行き渡るよう、上記を踏まえつつ、引き続き、視覚障害のある児童生徒のための音声教材の整備充実、高等学校等における拡大教科書等の普及に資するための調査研究が必要である。

○ 加えて、これらの教材に関する情報共有を図るとともに、教員がこれらを活用して効果的な指導を行うことができるよう体制整備を図ることが求められる。

(4)様々な障害の状態や特性に応じた教材や支援機器の充実

○ 現在、小・中・高等学校及び特別支援学校等の授業においては教科書を使用するほか、各学校の判断により適切な教材を使用することができ、文部科学省により、小・中学校及び特別支援学校について、それぞれ教材整備指針(*6)が示されている。また、自治体が整備する教材の費用については、所要の地方財政措置が講じられている(*7)ところである。  
○ さらに、教科書については、文部科学省において、視覚障害者用の点字教科書、聴覚障害者用の言語指導や音楽の教科書、知的障害者用の国語、算数・数学、音楽の教科書を作成している。また、拡大教科書については、前述のとおり、教科書バリアフリー法に基づき、教科書発行者の発行する小・中学校検定済教科書に対応した拡大教科書が、平成24年度から全点が発行されているところである。

○ また、教科書のほか、様々な障害の状態や特性に応じた教材や支援機器が作成・活用されているところである。

○ このような教材等については、例えば、視覚障害のある児童生徒のための音声教材が、視覚認知に困難のある発達障害や知的障害のある児童生徒の学習上も有効な場合があるなど、障害種を超えて活用できるものである。また、病気療養などにより入院や在宅で学習を行う児童生徒へのテレビ会議システム等のネットワークを活用した教育は、それ以外の障害のある児童生徒にとっても多様な形態での交流及び共同学習を実現する可能性があると考えられる。これらの教材等は、障害種別の活用にとどまらず、障害のある児童生徒の困難の要因に応じて活用できるようにするため、そのような活用の有効性を検証することにより、今まで以上に有効に活用する児童生徒が多くなることが期待される。

○ 前述のとおり、これらの教材等に関する情報共有を図るとともに、教員がこれらを活用して適切な指導を行うことができるよう体制整備を図ることが求められる。

○ 今後、特別支援学校や特別支援学級、通級による指導のみならず、通常の学級においても、教材や支援機器の充実及び活用が障害のある児童生徒の合理的配慮となることについて、理解と啓発に努めることが必要である。特に、通常の学級においては、これらの教材等を必要とする児童生徒と必要としない児童生徒が在籍する中で、教員が、児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じてそれぞれ異なる教材や支援機器を用いることが指導上重要であると認識し、積極的に活用しようという意識を持ち、かつ、その意識が児童生徒を含めた学校全体に浸透することが必要であるほか、教員が、保護者に対しても同様の意識が浸透していくよう取り組むことが望ましい。

○ なお、学校においては、障害のある児童生徒が自宅で使用している個人所有の教材や支援機器の使用を許可しない場合がある等の課題が指摘されるところである。障害のある児童生徒が自宅で使用している教材や支援機器は、所有する児童生徒の障害の状態や特性に応じて調整されていることが多く、他の教材や支援機器を代用することが困難な場合がある。このような場合には、それらの持参方法や管理方法、周囲の児童生徒の理解を得る方法等について、事前に保護者や本人と話し合った上で活用することが必要である。

○ このほか、障害の状態や特性に応じた教材や支援機器を活用している児童生徒については、日々の学習時にこれらの教材等を活用するだけではなく、高等学校や大学等の入学者選抜も含め、試験時にも障害のない受験者と公平に受験できるよう、さらには、これらの教材等が進学後も活用されることも見据えて、合理的配慮の観点から適切に対応することが必要である。

(5)障害の状態や特性に応じた様々なアプリケーションの開発

○ 従来より、紙や具体物を活用した教材の充実及び活用が進められているところであるが、現在、教育の情報化が進む中で、ICTを活用した教材については、障害の状態や特性に応じて活用することにより、各教科や自立活動等の指導において、その効果を高めることができる点で有用であると認識されている。

○ しかしながら、学校において、教員一人一人がICTを活用した教材に関して高度で専門的な知識を身に付けることは容易ではないことから、外部専門家の活用が求められている。また、この場合のICTに関する外部専門家については、特別支援教育に関する基本的な知識・技能を有することにより、障害の状態や特性に応じた効果的な活用につなげることができることから、外部専門家の活用に当たっては、このことを踏まえた対応が求められる。

○ 一方、ICTを活用した教材の中では、障害の状態や特性に応じたアプリケーションについて、現在、民間ベースで様々なアプリケーションが開発されているものの、その効果的な使用方法については、体系的に整理されておらず、個々の教員が各アプリケーションを評価しつつ指導に活用している状況であり、その評価に関する情報についても集約されていないといった課題がある。

○ また、障害のある児童生徒の使用するアプリケーションに必要な機能は、例えば以下のようなものが考えられる。これらの必要な機能については、更に検討を進めるとともに、これらに沿ったアプリケーションの開発促進が求められる。

 【本検討会において必要とされた障害のある児童生徒の使用する主なアプリケーション】

  • 学習活動への参加を容易にするため、アプリケーションに色の変更、拡大機能、読み上げ機能等が付加されること。
  • 学習の履歴を確認できる機能が付加されること。
  • アプリケーションが学習内容の理解を助けたり深めたりする教材となること。
  • アプリケーションが学習への興味・関心を高める役割をすること。
  • 成功体験を増やし、児童生徒が自信を持って取り組めるものであること(自尊感情を高めるもの)。
  • 操作が容易であり見通しをもって操作できること。
  • 誤操作しにくいこと。
  • 結果が分かりやすく、音声出力や拡大表示等必要な方法で出力されること。
  • ネットワーク等に接続する場合には、プライバシー等が保護されること。
  • 不適切なウェブサイトに誘導されるなどの危険性がないこと。
  • 料金や課金制度が明瞭で、適切な予算執行が可能であること。
  • 必要な場合には、指導内容や児童生徒の学習状況、障害の状態や特性に応じて調整できること。

○ 特別支援教育で求められるアプリケーションは、簡便で、誰もが使いやすいアプリケーションであることが期待されている。あわせて、障害の状態や特性に対応した機能が備わっていることが必要であるが、その一方で、全ての障害の状態や特性に応じた機能を備えるために使用に際して複雑な操作等が必要になるとすれば、逆に児童生徒にとって使いにくいものになる可能性がある。このため、必要に応じて機能を付加したり制限したりすることが可能なアプリケーションの開発が望ましいと考える。

○ また、既に情報端末には、ある程度のアクセシビリティ(*8)機能が標準機能で搭載されているが、新たなアプリケーションの開発においては、これらの標準アクセシビリティ機能の活用を可能にしておくことが望ましいと考える。

(6)情報端末についての基本的なアクセシビリティの保証

○ 情報端末のアクセシビリティについては、現在、様々な研究が進められてきている。例えば、キーボード入力が困難な児童生徒が、音声入力できるようにする、又は視線で文字を選択できるようにする等の工夫された方法があるなど、近年の情報端末の技術開発の進展により、従来では考えられなかったようなアクセス方法、利用方法が生まれてきている。

○ 情報端末のアクセシビリティについては、様々な方法でその保証を行うことができれば良いものであり、今後も一層の研究が必要である。

○ また、前述のとおり、既に情報端末にはある程度のアクセシビリティ機能が標準で搭載されているものの、そのことが一般的には知られていないため、情報端末の機能を効果的な形で使用できていない可能性があると考えられる。情報端末で搭載されるもの、OS段階で搭載されるもの、アプリケーション段階で搭載されるものがあるが、それらをうまく活用しながら指導に生かすことが必要である。

○ なお、教科書、教材については、現在、視覚的効果を狙ったものが多く、多くの児童生徒の興味・関心を引く一方、視覚障害のある児童生徒を始め、読みに困難のある児童生徒にとっては、読む順序が分からない等の課題もあることから、これらのアクセシビリティを高めることも必要である。

(*1)「教育の情報化ビジョン」においては、いわゆるデジタル教科書・教材は、「デジタル機器や情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集、移動、追加、削除などの基本機能を備えるもの」としており、併せて「期待される機能の例」を示している。(参考:文部科学省平成23年度報道発表「教育の情報化ビジョン」の公表について(平成23年4月28日)へリンク(※国立国会図書館ホームページへリンク)別ウィンドウで開きます)また、文部科学省学びのイノベーション推進協議会小中学校WGにおいて、学習者用デジタル教科書・教材等の機能について検討を行い、その在り方について取りまとめを行っている。
(*2)「障害者の権利に関する条約」:平成18年12月、第61回国連総会において採択、平成20年5月に発効。
(*3)合理的配慮と基礎的環境整備については、参考資料3を参照。
(*4)アシスティブ・テクノロジー(支援技術:Assistive Technology)において活用される様々な機器のこと。
(*5)視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため文字、図形等を拡大して教科書を複製した図書(以下「拡大教科書」という)、点字により教科書を複製した図書(以下「点字教科書」という)、その他障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため作成した教材であって教科書に代えて使用し得るもの。
(*6)小・中学校に係る教材に特別支援教育に必要な教材等や、教材整備の目安を新たに例示した「教材整備指針」を策定。(平成23年4月)
(*7)「義務教育諸学校における新たな教材整備計画」により、平成24年度から平成33年度までの10か年(総額で約8,000億円)の地方財政措置が講じられる予定である。
(*8)障害者を含む誰もが、情報機器やソフトウェア等に支障なくアクセスでき、利用できること。

2.今後の推進方策

○ 1.においては、発達障害や視覚障害などの障害種別の観点や、教育の情報化の観点から、各項目における現状や課題について述べてきたが、今後の推進方策については各項目間で共通する方策も多いため、本報告においては、主として推進方策を講ずる主体別に推進方策を述べることとする。

(1)総論

○ 障害のある児童生徒の学習支援のための教材は、これまでも各教員等の創意工夫により、紙や具体物を活用した教材からICTを活用した教材まで様々な教材が作成・活用されてきた。これらの教材について情報共有の推進や、より使用しやすい教材や支援機器の研究開発が不可欠であるとともに、今後は、ICTを活用した教材をこれまで以上に活用することにより、より効果的な学習支援につなげていくことが必要である。

○ 障害のある児童生徒のための教材や支援機器の情報共有については、現在、一部の自治体や団体、学校等においてデータベースを作成・管理しているものもあるが、今後は、速やかにそれらについて全国レベルで情報交換するためのシステムの構築に着手することが必要である。

○ また、効果的な学習の支援を行うための教材等や活用方法等については、すべての教員が一定程度の知識・技能を有していることが求められる。このため、教員養成段階や教育委員会における研修、校内研修等を通じて、これらの知識・技能(教材等の選定方法、指導方法、それらを盛り込んだ個別の指導計画の作成等)を身に付ける必要があるほか、国等においても、都道府県等の研修指導者の養成を行うことが必要である。

○ さらに、ICTを活用した教材や支援機器の活用に当たっては、ICTや支援機器の技術的支援を行う外部専門家により、どの児童生徒にどのような教材等が適しているのかといったフィッティング(*9)を経た上で、実際に指導する教員がその教材等を理解し、指導において適切にその児童生徒の能力を引き出せるかが重要である。このため、ICTや支援機器の技術的支援を行う外部専門家と教員との連携が大切であるほか、ICTや支援機器の技術的支援を行う外部専門家については、特別支援教育に関する基本的知識を有していることが望ましい。

○ なお、学校における教材等については、教材費用が地方財政措置において所要の措置が講じられていることや、関連する国の施策を踏まえつつ、教材の整備を図ることが重要である。

(2)国等の役割

○ 障害のある児童生徒のための教材や支援機器についてのデータベースに関しては、国等において自治体や団体、学校等と連携しつつ、教材や支援機器、これらを活用した指導方法、活用事例等について体系的なデータベースを構築するなど、アクセスしやすい環境を整備することが必要である。なお、国等におけるデータベースの構築に当たっては、各自治体等における教材等の情報を効果的に収集・提供できるような仕組みとすることが望ましい。

○ また、国として、障害のある児童生徒がより使用しやすく、適切な価格の教材や支援機器の研究開発について支援することが必要である。

○ さらに、現在、実証研究が進められている音声教材として複製された教科用特定図書等については、その一層円滑かつ効率的な教材提供のため、国として、ボランティア団体等による製作を支援していく必要がある。

○ 加えて、視覚障害のある児童生徒のための高等学校段階の拡大教科書については、特別支援学校(視覚障害)高等部において、拡大機能を有するタブレット型情報端末により教科書デジタルデータを活用し、拡大教科書と同等に使用しうるための諸条件等に関する調査研究等を行うことにより、一層の推進を図ることが必要である。

○ なお、上記に関連した国による事業等を充実させていくとともに、特に、特別支援教育におけるICTを活用した教材等の在り方について整理していくことが必要である。

○ また、国は、特別支援教育就学奨励費を確保し、障害のある児童生徒について、学用品としての支援機器の充実及び活用に努めることが必要であるほか、各学校においてICTや支援機器の技術的支援を行う外部専門家による支援が図られるように取り組むことが重要である。特に、ICTや支援機器の技術的支援を行う外部専門家の活用に関する好事例等については、教育委員会、学校、教員等への周知を図ることが必要である。

○ さらに、各学校において教員が、障害のある児童生徒のための教材や支援機器を活用して効果的に指導を行うことができるよう、これらの教材や支援機器の活用方法や指導方法について、各都道府県等の指導者層を養成するための研修等を実施することが必要である。また、指導に関する実践例を収集する中で、効果的にそれらの教材等を活用するために必要となる専門性(教材等の選定方法、指導方法、それらを盛り込んだ個別の指導計画の作成等)について、整理していくことが求められる。

○ 一方、教科書や教材の製作に当たっては、文章の読み方の順番の明示等、音声教材としての教科用特定図書等を効率的に製作するため、教科書や教材の構成を分かりやすくすること(構造化)の推進及び提供される図や写真データの高精細化を図る必要がある。このほか、例えば、単語の途中で行替えをしないようにレイアウトを工夫した教材や、いわゆるカラーバリアフリーに配慮し、色覚に障害のある児童生徒にも判別しやすい教材の開発の推進を図ること等が望まれる。

○ これらを踏まえ、例えば、国の特別支援教育のナショナルセンターである国立特別支援教育総合研究所においては、障害のある児童生徒のための教材や支援機器の研究・普及に関するセンターの役割を果たすものとして、以下の取組を行うことが必要である。

  • 前述の教材等のデータベース化を行うこと。
  • 各都道府県の指導者層を対象として、障害のある児童生徒のための教材や支援機器を活用した具体的な指導場面を想定した実践的な研修を実施するとともに、ICTや支援機器の技術的支援を行う外部専門家の活用に関する好事例等について情報提供を行うこと。
  • 教材等のアクセシビリティに関する調査研究を一層推進すること。
  • 米国等を参考とした障害のある児童生徒のための教材の標準規格の制定に 向けた研究等を実施すること。
  • 障害の状態や特性を踏まえた効果的な支援機器の選定・調整方法、活用について調査研究を実施すること。

(3)教育委員会の役割

○ 教育委員会においては、教材費用として地方財政措置において所要の措置が講じられていることや関連する国の施策を踏まえつつ、ICTを活用した教材を含め、教材等の整備を図ることが求められるほか、教材等が効果的に活用されるよう、教材等の活用方法や指導方法を習得するための研修を実施することが重要である。

○ あわせて、ICTに関しては、効果的に活用されるよう、既にICT環境やICTを活用した教材の整備が進んでいる先進的な学校の好事例について各学校に対して情報提供を行うことが重要である。

○ また、小・中・高等学校における障害のある児童生徒に対する教材等の整備充実に当たっては、特別支援学校のセンター的機能を活用することも効果的であり、教育委員会においては、特別支援学校が地域のセンターとして、これらの教材等の貸出しや、その活用方法の指導・助言等を行うことを念頭に置きつつ、特別支援学校の教材等の整備を支援することが必要である。

○ さらに、教材等の作成に当たっては、大学、高等専門学校、専修学校、ボランティア団体等の地域資源の協力を得ながら進めることも有効である。そのことで、より適切な教材等を作成することが可能になると同時に、教員の負担軽減が図られるなどの効果が期待される。

○ なお、学校においてICTを活用した教材による指導を行う際には、それら教材の整備のみならず、セキュリティ等に十分留意しつつ、無線LANなどの校内LANの整備等の必要な環境整備を進めることが重要である。

(4)学校の体制整備

○ 障害のある児童生徒が教材や支援機器を効果的に活用するためには、各学校における校長のマネジメントが重要である。各学校においては、これまでも教材や支援機器が活用されてきたところであるが、校長のリーダーシップの下、ICTを活用した教材や支援機器の充実及び活用が、障害のある児童生徒に対する合理的配慮の一環であり児童生徒の学びの促進に資するものであるという視点に立ち、校内研修等を通じて、児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた教材や支援機器の一層の充実や活用に取り組むことが重要である。

○ また、教材等の活用については教員の負担軽減を図る上でも、教員が個々に対応するのではなく、校内委員会等での十分な話合いや教員間での連携を図るなど、学校が組織として障害のある児童生徒の教材等を活用できるようにすることが必要である。

○ その中で、校内の支援体制の一環として、児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて教材や支援機器を活用しようという意識を教員間で醸成することも望まれる。

○ なお、教材費用として地方財政措置において所要の措置が講じられていることや関連する国の施策を踏まえつつ、教育委員会と連携し、ICTを活用した教材を含め、教材等の整備を適切に進めることが重要である。

○ 特に、特別支援学校においては、ICTや支援機器の技術的支援を行う外部専門家を配置しつつ、センター的機能を発揮し、地域の小・中・高等学校等における障害のある児童生徒のための教材等の充実(教材等に関する情報提供、教材等の選定方法、指導方法、それらを盛り込んだ個別の指導計画の作成を含む)に関する支援を図ることが重要である。また、必要に応じて、医師、作業療法士、言語聴覚士、理学療法士等の医療関係者や支援技術の専門家等と連携し、適切に支援機器を活用することができる体制を構築することが望ましい。

(5)教員の知識の習得及び指導方法の改善

○ ICTを活用した教材や支援機器の活用に当たっては、一斉指導や小集団学習だけでなく、必要に応じて個別学習や協働学習に取り入れていく必要があり、その観点から、指導方法の研究を一層進めていくことが必要である。

○ 障害のある児童生徒の学習の充実を図るためには、特別支援学校や特別支援学級、通常の学級において、一人一人のニーズに応じて教材等を活用することが効果的であり、各学校において作成される個別の指導計画の中に、教材等に係る合理的配慮の内容について明記することが必要である。なお、教材等については、従来の紙や具体物を活用した教材からICTを活用した教材まで、児童生徒の障害の状態や特性に応じて適切に活用することが重要である。

○ また、このような教材や支援機器の活用に関して明記された事項は、高等学校や大学等の入学者選抜時の配慮事項を決定する際の参考となることを考慮した上で、個別の指導計画を作成することが必要である。

○ これらの教材等を用いて実際に指導を行うのは教員であり、一人一人の障害の状態や特性を理解した上で、適切な教材等を用いて適切な指導を行うための知識・技能を身に付けることが必要である。このため、外部専門家の支援を受けつつ、障害のある児童生徒が活用する教材等に関してケース会議を実施するなどの実践的な研究活動の実施、国等で作成するデータベース等の活用等を通じて、これらを身に付けることが効果的である。

○ また、これらの教材等を家庭学習において活用することや家庭で使い慣れた教材等を学校で使用することが効果的な場合もあるという観点から、これらの教材等を活用することや教材等の持参方法、管理方法等について事前に保護者と話し合うなど、保護者との連携を図ることも重要である。 

(6)産業界、大学等との連携による教材や支援機器の充実

○ 教材や支援機器に関する研究開発については、学校と企業等の間の情報交換が促進されるような仕組みを構築するとともに、主に高等学校段階の生徒を対象として、将来の自立と社会参加を意識した教育的支援機器について、民間企業等が研究開発を行うことを促進する仕組みの構築が望まれる。

○ また、前述のとおり、教材等の作成に当たっては、大学、高等専門学校、専修学校、ボランティア団体等の地域資源の協力を得ながら進めることも有効である。そのことで、より適切な教材等を作成することが可能になると同時に、教員の負担軽減が図られるなどの効果が期待される。

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成25年09月 --