特別支援教育について

平成21年度 自閉症事業中間報告(北海道教育庁)

都道府県名北海道

平成21年度自閉症に対応した教育課程の在り方に関する調査
研究事業中間報告書

1 研究のねらい

 特別支援学級や通級指導教室で指導を受ける児童生徒数は、特別支援教育に対するニーズの高まりなどを背景として、近年増加傾向にあり、特に自閉症・情緒障害や知的障害を対象とした特別支援学級の在籍者数が増えてきている。このような状況から、自閉症・情緒障害特別支援学級では、障害の特性と発達の状態に応じて、指導内容を精選し、指導の充実を図る必要がある。
 また、知的障害特別支援学校においては、知的障害と自閉症を併せ有する児童生徒に適切に対応するため、これまで編成・実施された教育課程の中で、自閉症のある児童生徒がどのような力を身に付けてきたのかを評価し、自閉症の特性に応じた教育課程の編成が課題となっている。
 このようなことから、特別支援学級においては、自閉症のある児童生徒の障害に基づく学習上及び生活上の困難を主体的に改善克服する自立活動の在り方を検討するとともに、障害の特性等に応じた教科別の指導や各教科等を合わせた指導の在り方を見直し、自閉症の特性等に応じた教育課程の編成・実施・評価の在り方について実践研究を行う。
 また、特別支援学校においては、これまで培われた実践を基盤に、自閉症のある児童生徒の自立活動の内容、効果的な指導の形態の在り方についての検討を通して、各教科、道徳、特別活動全体の内容との関連を整理し、自閉症の特性に応じた特別支援学校における教育課程を編成するとともに、自閉症以外の障害のある児童生徒との教育課程の違いについて検証と整理、併せて自閉症の特性に応じた教室環境、学習環境の整備の在り方について検証する。
 さらに、寄宿舎を設置している特別支援学校において、自閉症のある児童生徒の生活指導の在り方や学校生活と寄宿舎生活の連続性についての検討を通して、地域生活や家庭生活に必要な指導内容・方法を整理する。

2 研究内容

1. 北広島市立大曲東小学校

1) 現状

  • 特別支援学級在籍児童14名中9名が自閉症及び、発達障害、発達障害の疑いのある児童である。
  • 特別支援学級は、知的障害と肢体不自由、自閉症・情緒障害を対象とする学級を設置しており、3学級合同で学習を行うことが多い。
  • 「各教科、道徳、特別活動、自立活動」の4領域と「総合的な学習の時間」を再編成し、8つの特別な指導の形態による教育課程を編成している。
  • 自立活動では、「地域の人とのふれあいの学習」「園芸活動」「健康保持」「基本的な生活習慣の定着」の内容で行っている。
  • 「地域で生活する力を育てる」という教育目標の達成のため、校外での学習活動を多く取り入れている。
  • 自閉症の特性や一人一人の実態をどのように把握すべきか、また、どのような形態や内容で学習を計画すべきかが学級の課題として挙げられており、各教科等を合わせた指導、自立活動についての検討をすすめている。

2) 研究内容

  • 自閉症のある児童の自立活動の在り方についての検討を通して、教科別の指導や、各教科等を合わせた指導の在り方を見直し、自閉症の特性に応じた小学校特別支援学級における教育課程を編成する。
  • 自閉症のある児童の認知発達の実態把握から、自立活動の在り方に関する研究を進め、具体的な指導内容、指導方法として整理する。さらに、教科別の指導や各教科等を合わせた指導の内容について見直すことで、自閉症の特性に応じた教育課程を編成し、指導の充実を図るための方法を検証する。
  • 個別の教育支援計画を作成し、自閉症の特性に応じた指導を小・中一貫して行うことための引継ぎの方法等について検討を行う。
  • 指導内容の妥当性、家庭生活での変容の状況について、保護者へのアンケートを通して評価する。
  • 児童の変容、指導内容の妥当性等について、職員へのアンケートを通して評価する。

2. 北広島市立大曲中学校

1) 現状

  • 特別支援学級在籍生徒6名中5名が自閉症及び自閉的傾向のある生徒である。
  • 特別支援学級では、「国語」「数学」「美術」「家庭」「生活単元学習」「総合的な学習の時間」を行っているが、教科によって授業に参加する生徒が変わるため、授業を計画的に実施することが課題である。
  • 自立活動は、時間を設定しておらず、全学習活動を通して行っている。コミュニケーションに課題のある生徒も多く、個別の学習の指導方法や指導内容の設定が課題である。
  • 将来の生活を見通して、一人一人に必要な学習活動の設定が学級の課題となっている。

2) 研究内容

  • 自閉症のある生徒の認知発達の実態把握から、自立活動の在り方に関する研究を進め、具体的な指導内容、方法として整理するとともに、教科別の指導や各教科等を合わせた指導の内容について見直すことで、自閉症の特性に応じた教育課程を編成し、指導の充実について検証を行う。
  • 引継ぎ資料の作成方法等の工夫や、高等養護学校の職員による授業参観や高等養護学校への体験入学を通して円滑な接続について検討を行う。
  • 生徒の変容について、各種検査や行動観察により評価する。
  • 指導内容の妥当性、家庭生活や社会生活での変容の状況について、保護者へのアンケートを通して評価する。
  • 生徒の変容、指導内容の妥当性等について、職員へのアンケートを通して評価する。

3. 北海道札幌養護学校

1) 現状

  • 小・中学部及び高等部を設置し、在籍児童生徒215名中97名が自閉症である。
  • 在籍児童生徒の増加に対応し、児童生徒の個々の教育的ニーズの把握と個に応じた指導の充実が課題である。
  • 基礎的な理論研修会等を実施しながら、障害特性の理解に努め、各学級において自閉症の児童生徒がスムーズに学習できるよう工夫し、指導を実施している。
  • 自閉症のある児童生徒が学びやすい学習環境の整備が課題であり、「統一性のある学習環境の整備」「共通・一貫した対応」について検討をすすめている。

2) 研究内容

  • 自閉症のある児童生徒の自立活動の内容、効果的な指導の形態の在り方についての検討を通して、各教科、道徳、特別活動全体の内容との関連を整理し、自閉症の特性に応じた特別支援学校における教育課程を編成するとともに、自閉症以外の障害の児童生徒の教育課程の違いについて検証・整理する。
  • 自閉症の特性に応じた教室環境、学習環境の整備の在り方について検証する。
  • 自閉症のある児童生徒の認知発達について適切に実態把握を行い、自立活動の内容、効果的な指導の形態の在り方に関する研究をすすめ、指導内容、指導方法を具体化する。
  • 各教科、道徳、特別活動の内容を整理することや、集団構成、単元・題材等の学習のまとまり等を踏まえた指導計画を作成することで、自閉症の特性に応じた教育課程を編成し、指導の充実を図る。
  • ・自閉症の特性に応じた指導内容・方法を整理することを通して、効果的な学習が展開できる教室環境、学習環境の整備について検証する。
  • 保護者、関係者等を交えた支援会議の開催や、個別の教育支援計画の作成を通して、自閉症の特性に応じた小・中・高の学部間の一貫した指導について検証を行う。また、合わせて社会生活への移行の仕方や、引継ぎの方法について検討を行う。
  • 児童生徒の変容について、各種検査や行動観察により評価する。
  • 生徒の変容、指導内容の妥当性等について、職員へのアンケートを通して評価する。
  • 授業研究会などの実施により、指導内容・方法の妥当性について明らかにする。
  • 定期的に研究実践校会議を開催し、研究の進捗状況の把握や研究内容・方法の改善点を明らかにする。

4. 北海道星置養護学校

1) 現状

  • 小・中学部及び高等部を設置している。
  • 在籍児童生徒178名中87名が自閉症である。
  • 遠隔地に居住する児童生徒のため寄宿舎を設置しており、寄宿舎と学校の指導の連続性が課題である。
  • 在籍児童生徒の増加に対応し、児童生徒個々の教育的ニーズの把握と個に応じた指導の充実が課題である。
  • 自閉症の児童生徒に対する社会生活に必要な指導内容・方法の検証が課題である。

2) 研究内容

  • 自閉症のある児童生徒の自立活動の内容、効果的な指導の形態の在り方についての検討を通して、各教科、道徳、特別活動全体の内容との関連を整理し、自閉症の特性に応じた特別支援学校における教育課程を編成するとともに、自閉症以外の障害の児童生徒の教育課程との違いについて検証・整理する。
  • 個別の指導計画の作成・実施・評価を通し、自閉症の特性に応じた授業の在り方について検証する。
  • 寄宿舎における自閉症のある児童生徒の生活指導の在り方や学校生活と寄宿舎生活の連続性について検討し、地域生活・家庭生活に必要な指導内容・方法を整理する。
  • 自閉症のある児童生徒の認知発達の実態把握より、自立活動の内容、効果的な指導の形態の在り方に関する研究を進め、指導内容、指導方法を具体化する。
  • 各教科、道徳、特別活動の内容を整理することや、集団構成、単元・題材等の学習のまとまり等を踏まえた指導計画を作成し、自閉症の特性に応じた教育課程の編成、指導の充実について検証する。
  • 授業研究や事例研究を通じて、自閉症の特性に応じた授業づくりの配慮事項等を明らかにする。
  • 家庭生活、社会生活への円滑な移行に向けて必要な事項を明らかにすることで、寄宿舎における自閉症の特性に応じた生活指導の内容・方法を整理し、学校における指導内容・方法について関連付けを行う。
  • 児童生徒の変容について、各種検査や行動観察により評価する。
  • 生徒の変容、指導内容の妥当性等について、職員アンケートを通して評価する。
  • 授業研究会などの実施により、指導内容・方法の妥当性について明らかにする。
  • 定期的に研究実践校会議を開催し、研究の進捗状況の把握や研究内容・方法の改善点を明らかにする。

3 評価の方法

評価の方法については、各指定校の研究評価の方法は以下の通りである。

学校名

評価の方法

北広島市立大曲東小学校

  • 児童の変容について、各種検査や行動観察により評価する。
  • 指導内容の妥当性、家庭生活での変容の状況について、保護者と面談し評価する。
  • 児童の変容、指導内容の妥当正答について、指導評価表を基にして評価する。

北広島市立大曲中学校

  • 生徒の変容について、各種検査や行動観察により評価する。
  • 指導内容の妥当性、家庭生活や社会生活での変容の状況について、保護者へのアンケートを通して評価する。
  • 生徒の変容、指導内容の妥当性等について、職員へのアンケートを通して評価する。

北海道札幌養護学校

  • 児童生徒の変容について、各種検査や行動観察により評価する。
  • 児童生徒の変容、指導内容の妥当性等について、職員へのアンケートを通して評価する。
  • 授業研究会などの実施により、指導内容・方法の妥当性について明らかにする。
  • 定期的に研究実践校会議を開催し、研究の進捗状況の把握や研究内容・方法の改善点を明らかにする。

北海道星置養護学校

  • 児童生徒の変容について、各種検査や行動観察により評価する。
  • 児童生徒の変容、指導内容の妥当性等について、職員アンケートを通して評価する。
  • 授業研究会などの実施により、指導内容・方法の妥当性について明らかにする。
  • 定期的に研究実践校会議を開催し、研究の進捗状況の把握や研究内容・方法の改善点を明らかにする。

4 研究経過

1.運営協議会及び実践校会議の開催

4月30日研究に関する事務打合せ
8月21日第1回研究運営協議会
11月27日第1回実践研究校会議

  • 星置養護学校公開授業
  • 星置養護学校事例研究発表
  • 研究協議
  • 1月27日第2回実践研究校会議
  • 大曲東小学校公開授業
  • 大曲東小学校事例研究発表
  • 研究協議

2月17日第2回研究運営協議会

2. 実践研究校の取組

 平成21年度は、各指定校において以下のような内容で研究をすすめてきた。

1) 北広島市立大曲東小学校

ア児童の特性の把握
 児童の実態について把握するため、行動観察、保護者からの聞き取り等に併せて心理検査を実施した。教育課程を編成する上で知的発達や学習面の配慮事項等を明らかにする必要のある児童に対してはWISC-3やDN-CASを、自閉症の特性や配慮事項をより詳細に知る必要のある児童に対してはPEP-Rを実施した。

イ外部講師の助言による自立活動の理解
 特別支援学級に在籍する児童の中には、通常の学級における交流及び共同学習を行う児童が多いため、全校教職員が自閉症の障害特性や自立活動について理解をする必要性がある。そのため、北海道教育大学札幌校教授による講演「自閉症児の自立活動」を全教職員対象に行った。

ウ合同学習における自立活動の指導の検討
 知的障害学級、肢体不自由学級の児童も合同で行う学習「なかま」の中での自立活動の指導に関する検討を行った。自立活動の区分より、「心理的な安定」「コミュニケーション」「人間関係の形成」の三つを重点とし、各児童の活動内容と教師の指導における配慮事項について、指導案の中で整理した。

エ児童の実態に合わせた時間割の編成
 自閉症・情緒障害学級に在籍する児童は、知的発達や自閉症の障害の状態が大きく異なる。そのため、個別の教育支援計画に明記された一人一人の教育のニーズから、年間指導計画や時間割の編成を見直すようにしてきた。
 各児童が基礎学力を身に付け、それを生活の中で生かしていけるよう、教科学習や教科等を合わせた指導のバランスを考慮し、将来の社会自立に向けた教育を行ってきた。

2) 北広島市立大曲中学校

ア生徒の特性の把握
 生徒の実態について把握するため、行動観察、保護者からの聞き取り等に併せて心理検査を実施した。対象とした生徒に対して、教育課程を編成する上で知的発達や学習面の配慮事項等を明らかにするため、WISC-3を実施した。

イ外部講師の助言による自閉症の理解
 大曲中の特別支援学級に在籍する生徒の中には、通常の学級における交流及び共同学習を行う生徒が多い。知的に高い生徒は自閉症の特性が理解されず、本人が困難に感じていることを交流学級の担任が理解することが難しい場合もある。このことから、全校教職員が自閉症の障害特性について理解する必要があり、道都大学教授による、全教職員を対象にした講演「自閉症児の理解」を行った。

ウ交流及び共同学習における自立活動の指導の検討
 大曲中では、自立活動の指導を全教育活動を通じて行っている。その中でも、体育大会、合唱コンクール(文化活動発表会)、修学旅行などの学校行事は、生徒にとって所属感を強める貴重な場である。そのため、行事への参加を通して、他者とのかかわりやコミュニケーションの基礎的能力を習得することをねらい、自立活動の指導を検討した。

エコミュニケーションの指導の在り方についての検討
 ウで述べた交流学級での活動の基礎を学ぶために、特別支援学級における国語の時間に、コミュニケーション能力の基礎となる言語理解の学習を重点とした。
 本人の興味関心に考慮し、「だじゃれ」「回文」を教材に言語の広がり、深まりをねらった学習を行った。

3) 北海道札幌養護学校

ア学習環境の整備
 各学級において、自閉症の児童生徒が学習しやすい環境を設定するため、自閉症の児童生徒の特性に配慮した教室環境の整備に取り組んだ。札幌養護学校独自で作成した「自閉症等への対応ガイドライン」を改訂しながら、それを用いて校内研修会を実施した。
 また、校内の視覚支援を共通化していくため、授業内容や場所を示した「授業カード」「場所カード」をデータベース化した。

イ外部講師の助言による自閉症の認知特性の理解
 札幌養護学校は、自閉症のある児童生徒の発達や障害特性を教職員で共通理解するため、北海道立特別支援教育センター室長による、講演「自閉症の認知発達への理解と対応」を行った。

ウ指導の連続性についての検討
 学部、学年が変わっても、共通・一貫した対応ができるよう、学校独自で作成した「自閉症等への対応ガイドライン」を使った研修を行い、引継ぎ等での活用を行った。

エ特性に応じた指導内容・方法の工夫
 自閉症の特性に考慮し、学習環境における構造化についての考え方や実践例を「自閉症等へのガイドライン」にまとめた。物理的、時間、活動、言語環境の構造化について整理するとともに、指導場面における必要な支援は何かという視点で、教師のかかわりについても見直した。

4) 北海道星置養護学校

ア教材教具の工夫
 自閉症のある児童生徒の特性に配慮して作成された教材・教具を、写真、使用目的、使用した後の評価を加えた資料集として作成した。「教材・教具集」を校内の他の教師と共有したり、地域の学校へ紹介したりしながら、授業の中で日常的に視覚的教材が活用されるようすすめてきた。
 教材・教具の効果についての検証は、事例研究や授業研究を通して行ってきた。

イ外部講師の助言による自立活動の理解
 自閉症のある児童生徒に対する指導方法について検証するため、サポートセンター「ぴっころ」の安井愛美氏による講演を行った。
 また、自閉症のある児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握した授業づくりが校内の研究テーマであり、北海道立特別支援教育センター室長による、講演「教育的ニーズに応える授業づくり」を行った。

ウ事例研究の実施
 自閉症のある児童生徒に対する指導内容・方法の検証のため、各学部と寄宿舎において、社会生活に必要なスキルの獲得を目指すための事例研究を行った。

エ寄宿舎との指導の連続性
 寄宿舎で生活する児童生徒の社会生活のスキルを身に付けるために、実態把握の共通理解、情報交換の方法などについて検討を行った。
 指導の実践においては、個別の指導計画を活用しながら、指導の手立てや指導経過の様子、評価の共有を行ってきた。
 さらに、寄宿舎と学校が連携した取組について検証を行うために、両者が連携した事例研究を行い、成果や課題を整理した。

5 成果と課題

1.児童生徒の実態の把握

 自閉症のある児童生徒一人一人の障害の特性を理解するために必要な心理検査、発達検査を行うとともに個々の障害に基づく学習上、生活上の困難を改善克服する自立活動の指導を行った。教職員や保護者が共通理解をすることで、自立活動の指導の成果を共有することにつながっている。
 今後は、障害の特性等の理解に基づく効果的な指導に向け、一人一人にあった学習環境や教材・教具について検討をすすめる必要がある。また、一人一人の実態に応じて、交流及び共同学習の目的や必要な学習内容、指導時間等について検討をすすめる必要がある。
 特別支援学校では、一人一人に合った指導内容の充実を図るため、ダイナミック・アセスメントの取組を通しながら、具体的な指導内容について検討していきたい。

2.自閉症の特性、自立活動に関する校内研修

 各校において、自閉症の特性や自立活動、自閉症のある児童生徒の障害の特性に配慮した授業づくり等の校内研修を行ってきた。その結果、特別支援学級では通常の学級の担任に特別支援学級の取組に関する理解をすすめることができた。特別支援学校では、「自閉症等への対応ガイドライン」や「教材・教具集」を作成することで、各担任の取組を校内全体で共通理解することについて検討をすすめてきた。
 校内全体で自閉症の特性について理解をすることは、特別支援学級、特別支援学校ともに重要である。
 特別支援学級では次年度においても校内研修の研修内容として、自閉症や自立活動に関する理解について取り上げていく必要がある。
 特別支援学校においては、自閉症の障害特性を共通理解したり、教室環境の整備の考え方などを効果的に引き継ぐため、「ガイドライン」や「教材・教具集」を活用しながら、共通理解を図る校内研修をすすめていくことが課題となる。

3.児童生徒の実態に併せた時間割の編成

 特別支援学級では、児童生徒の実態から教育課程を編成し、個別のねらいに対応した集団構成をしながら、指導をすすめてきた。
 通常の学級でお互いにより深いかかわりがもてるよう、児童生徒の実態に応じて、年間を通して同一の学級と交流及び共同学習を行ってきた。教科学習や行事において、スムーズなかかわりがもてるよう、自立活動とのかかわりについても検討を行った。
 次年度は、児童生徒の知的発達の状態や自閉症の特性に配慮するとともに、今年度の個別の教育支援計画の評価を踏まえながら、より実態に即した時間割を編成するために検討をすすめていく必要がある。
 特別支援学校では、社会生活において身に付けなければならない内容を検討しながら、学年間、学部間で一貫性のある指導ができるよう教育課程を検討してきた。
 次年度は、様々な障害種の集団の中で、どのように自閉症の特性に配慮した教育課程を編成するべきか、指導内容・方法、指導の形態について検討を行う必要がある。

4.交流及び共同学習における自立活動の指導

 特別支援学級において、児童生徒が通常の学級での交流及び共同学習を行うために、必要な指導内容を自立活動の視点から見直してきた。大曲東小学校では、「心理的な安定」「コミュニケーション」「人間関係の形成」の三つを、大曲中学校では「人間関係の形成」「コミュニケーション」の二つを重点とし、個別に指導をしてきたことがどのように集団で生かしていくか、検討しながら指導してきた。
 次年度は、通常の学級の担任と、交流及び共同学習の目標や自立活動の内容について共通理解をもちながら、より効果的に学習が展開できるよう検討していく必要がある。そのため、交流及び共同学習の教育課程への位置付けについて、研究をすすめていく必要がある。

5.自閉症の特性に配慮した学習環境の整備

 札幌養護学校では、自閉症の特性に配慮した環境を設定するため、学校独自で「自閉症等への対応ガイドライン」を作成し、改訂をすすめてきた。それを用いながら校内研修会を実施し、学校全体での教室環境の整備に取り組んだ。
 また、校内の視覚的な支援を共通化していくため、授業内容や場所を示した「授業カード」「場所カード」を作成し、どの学級も同じカードを使用することで、学校内を整備しようと取り組んだ。
 次年度は、自閉症のある児童生徒の構造化された教育環境を、実態に合わせてどのように変化させていくか等、さらに児童生徒の実態にあった教育環境の在り方について検討をする必要がある。

6.指導効果を高める教材・教具の工夫

 星置養護学校では、自閉症のある児童生徒が、視覚的な情報を有効に活用しながら、学習で提示された課題に取り組めるよう、色や形を使い分けたり、絵や写真を使用するなど、分かりやすい教材教具の工夫を「教材・教具集」としてまとめた。
 また、他の実践研究校においても、児童生徒の実態に合った分かりやすい教材・教具を、実態把握から検討してきた。

7.事例検討会の実施

 星置養護学校(11月27日)と大曲東小学校(1月27日)における21年度の実践校会議では、事例検討会を行った。
 事例検討会では、自閉症の児童生徒に必要な指導内容や方法について、教科学習、自立活動の学習について事例が発表された。
 それぞれの事例では、対象児童生徒のアセスメントや保護者の願い、各学習の目標等から検討が行われ、指導実践後の課題等についての意見が出された。
 次年度についても、実践研究校から事例を出しながら、事例検討会を行う予定である。検討会においては、各事例を通して具体的な指導実践が、教育課程とどのように関連しているかを、さらに検討する必要があると考える。

6 今後の展望

1.自閉症のある児童生徒に対応した教育課程モデルの提案

1) 障害種の異なる児童生徒間での教育の実践

 特別支援学級と特別支援学校は、同じ学年、学級の障害種の異なる児童生徒が、時間割上同じ授業を受けていることがある。
 大曲東小学校においては、「からだづくり」「さぎょう」「なかま」など、学級全体での授業が複数あり、障害種の異なる児童が一緒に活動している。活動の目標や活動内容は一人一人に合わせて設定されているが、それらの違いを教育課程上どのように設定すべきかを明確にしたいと考える。
 札幌養護学校と星置養護学校も、知的障害の児童生徒と自閉症の児童生徒が同じ教育課程で教育が実践されている。自閉症の特性に合わせた指導の内容や方法が、知的障害の児童生徒にも効果的であるという報告が各校からあげられているが、反面個別に対応する時間が十分にもてないという課題もあげられている。今後、自閉症の障害に合わせた内容を、どのように教育課程に位置付けていくか、検討を行う必要がある。

2) 特別支援学級における教育課程の在り方

 特別支援学級に在籍する児童生徒は、知的発達の段階や障害の状態に違いが大きく、交流及び共同学習の必要性も個人によって異なる。
 特別支援学級の教育課程の在り方について、22年度は、以下のようなモデルを設定しながら、教育課程の在り方について検証を行いたい。

  • 知的障害のない自閉症の児童生徒の交流及び共同学習の充実を目指した教育課程
  • 知的障害(軽度)のある自閉症の児童生徒の教育課程
  • 知的障害(重度)のある自閉症の児童生徒の教育課程

3) 自閉症に対応した教育課程の在り方(特別支援学校)

 特別支援学校では、児童生徒のアセスメントの取組を通して、必要な指導内容を明らかにし、知的障害の児童生徒との教育課程の違いについて検証を行う。
 さらに、般化の難しさをもつ自閉症の児童生徒に対して、一貫した指導を行うために、社会生活に必要な指導内容を整理し、知的障害の児童生徒との違いについて検討を行う。

2.校内で行う自閉症理解の取組

1) 自閉症の理解をすすめる通常の小中学校における校内研修の実践

 小学校では、通常の学級の教員も交えて研修会や授業研究を実践しながら、自閉症に関する理解、通常の学級における配慮事項等について共通理解を図る。
 特別支援学級で行われている障害特性に合わせた工夫を参考に、通常の学級でもできる配慮事項や交流及び共同学習の在り方の検討など、校内の全教職員で共通理解を図る取組について検討したいと考える。

2) 特性理解のための研修モデル

 札幌養護学校や星置養護学校においてまとめた自閉症の特性理解の資料を活用し、校内で研修会を行うことで、一貫性のある効果的なかかわりが可能となると考える。
 各学級で行われている取組の考え方が共通になることで、学年間、学部間の引継ぎをさらにスムーズにし、連続した指導が期待される。具体的には、研修の内容、回数やその実施時期などを提示しながら、自閉症の特性の共通理解の方法について検討したいと考える。

3.自閉症の児童生徒の自立活動の指導内容、方法

1) 特別支援学級の自立活動の指導について

ア知的障害のない児童生徒の自立活動
 知的障害のない自閉症のある児童生徒は、教科学習など多くの時間を通常の学級で過ごす。教科学習の時間を保障するために、時間における自立活動の指導が困難である場合が多い。
 特別支援学級では、児童生徒の障害による学習上または生活上の困難を改善・克服するために、自立活動の指導が行われるが、交流及び共同学習の中においても自立活動を意識した指導を行う必要があると考える。
 また、休み時間や放課後に本人の行動を振り返るための指導などを行った場合がある。時間割上には明記されないが、児童生徒によってはたいへん重要な学習内容となる場合がある。このような指導をどのように扱っていくかは今後の課題といえる。特別支援学級の教育課程のモデルについて検証を行いながら、どのような指導が必要となるのか検討をすすめ、教育課程上の位置付けについて整理していきたい。

イ多様な障害の児童生徒の集団における自立活動
 特別支援学級の運営上、自閉症・情緒障害学級の児童生徒は、知的障害児や肢体不自由児等と一緒に学習を行う場合もある。
 大曲東小、大曲中の教師は、自閉症のある児童生徒が他児を意識したり、他児とかかわる機会をもつことで、所属感や集団意識をもつことができるようになる、と指導効果を述べている。
 障害特性に応じた自立活動の指導を行うためには、一人一人の指導の目標を明らかにしながら、指導に当たる必要がある。そこで、集団での指導を効果的に行うために、指導目標の設定や、指導内容の工夫について、自立活動との関連性について明らかにしていけるよう、学習指導案や個別の指導計画について検討をすすめていく。

ウ般化を意識した自立活動の指導
 身に付けたことを違う場面や人に対して、般化することが難しい自閉症のある児童生徒には、将来の生活を意識した自立活動の目標設定が必要である。
 個別の指導計画を作成する際の短期目標は、具体的な指導目標を設定するが、その目標をどのように段階的、系統的に発展させていくかを考慮する必要がある。
 そこで、個別の教育支援計画、個別の指導計画の活用を通して、自立活動の指導目標や指導内容について、担任だけではなく交流先の教師や保護者が共通理解をし、場所が変更しても目標が達成されるよう、取り組みをすすめていく。

2) 特別支援学校の自立活動の指導について

ア自立活動の教育課程上の位置付けについて
 札幌養護学校と星置養護学校では、自立活動が時間で設定されておらず、教育活動全体を通して実践されている。
 一人一人の児童生徒が、どのような指導内容をどのように行うべきか明確にしながら、教育活動全体と自立活動との関連について検討をすすめていく。

4.学習環境の整備に向けた取組について

 札幌養護学校で作成した「自閉症等への対応ガイドライン」を学校全体で共通理解をし、校内の教室環境を整備していく。研修会、ガイドラインの見直し作業、データベース化などをすすめ、継続して活用できるものとして位置付ける。
 また、スケジュールやコミュニケーションで使用する写真や絵を校内で共通のものを使うことにより、校内の掲示物を整理する。

5.指導の継続性の確保に向けた取組について

 星置養護学校では、社会生活に必要な指導内容を、学年、学級間でどのように引き継いでいくか、授業研究等を通して検討している。各学部における社会生活の指導内容について整理するとともに、卒業後の生活を視野に入れた指導内容・方法の取組について検討を行う。
 さらに、小、中学校では、個別の教育支援計画を活用した学校間の引継ぎについて検討を行う。中学校から高等養護学校への引継ぎについては、年度内における高等養護学校の職員における中学校の授業参観、高等養護学校への体験入学等を計画しながら、効果的な引継ぎを行うための検討を行う。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成23年01月 --