特別支援教育について

兵庫県 姫路別所高等学校(公立)

都道府県名 兵庫県
学校名 兵庫県立姫路別所高等学校
学校所在地 兵庫県姫路市別所町北宿303‐1
研究期間 平成20~21年度

1.概要

1 研究課題

 特別支援学校との連携による発達障害のある生徒に対する教育の研究

2 研究の概要

(1)発達障害のある生徒に対する個別支援
(2)生徒の自己肯定感を育てる指導
(3)「集中でき、わかる」授業の研究
(4)就労支援につながるSST(ソーシャルスキルトレーニング)の実施

3 研究成果の概要

(1)発達障害のある生徒に対する個別支援

 新たに生徒支援部(従来の保健・人権・教育相談を担当)を創設して対象生徒(保護者を含む)の個別支援に取り組んだ。生徒支援部長が特別支援教育コーディネーターとして、関係部署と連携することで、組織的な支援が実現できた。また、キャンパスカウンセラーの適切な「橋渡し」により、地域の専門機関との円滑な連携が可能となり、「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の開発につながった。

(2)生徒の自己肯定感を育てる指導

 教育活動のあらゆる場面で生徒の自己肯定感を育てる指導に取り組んだ。単に校内の行事等を活性化するだけでなく校外活動にも積極的に参加させ、生徒の活躍の場を広げている。生徒の「困り感」に寄り添う姿勢は全職員に浸透し、生徒は安心して教員に心を開いている。

(3)「集中でき、わかる」授業の研究

 平成20年度における教員個々の工夫を発展させ、特別支援教育の発想に基づいた授業評価シートを活用して授業改善に努めた。また、その発想や手法は授業だけではなく、環境整備を含め、広く教育活動全体で活かされている。

(4)就労支援につながるSST(ソーシャルスキルトレーニング)の実施

 大学等専門機関と連携し、現2年生を対象に全3回のソーシャルスキルトレーニグを実施した。新型インフルエンザ対応のため、当初の計画(全7回)を大幅に縮小することとなったが、LHRや総合的な学習の時間を活用して展開しているキャリア教育を補完するという目的は十分に達成できた。

2.詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針
ア 生徒の実態(把握方法も含めて)

(ア)発達障害があると医師の診断を受けている者 3名

生徒 学年 診断名 備考
A 3 広汎性発達障害
(高1の夏)
キャンパスカウンセラーの勧めにより受診
B 3 自閉症 (就学前) キャンパスカウンセラーの勧めにより受診するも、まだ診断は出ていない。
C 2 広汎性発達障害
(高2の冬)
キャンパスカウンセラーの勧めにより受診

(イ)スクリーニングチェック「気になるカード」(校内作成21年6月実施)によって、複数の教員より「気になる」とされた者 21名
 ※ただし(ア)であげられた者を含まない

(ウ)(イ)の中から個別の教育的支援に関する学年・生徒支援部連絡会(21年9月実施)によって「個別支援が必要」とされた者14名

生徒 学年 生徒が困っていること・苦手にしていること
A 1 融通がきかない。まじめすぎる。
B 1 予定変更に対応できない。友人がいない。
C 1 カッとしやすい。対人トラブルが多く、孤立しやすい。
D 1 級友とのコミュニケーションが苦手。場の空気を読めない。
E 1 対人関係のトラブルが多い。
F 1 うまく話せず、いじめられることも多い。
G 2 遅刻が多い。人と話す時、適当な距離がわからない。
H 2 国語が苦手。話し方がぎこちない。
I 2 動作が極端に遅い。場をわきまえず発言する。こだわりが強い。
J 2 確認行動が多い。(時間割やテストの名前等)
K 2 会話がなめらかにできない。
L 2 ひとりごとが多い。字にくせがある。
M 2 数学が苦手。
N 2 机に座っていられない。環境の変化が苦手。
イ 指導方針

(ア)特別支援教育の発想に基づいた全体への支援

 「気になるカード」でのスクリーニングにあがらないまでも、調査項目「授業中に私語が多い」、「授業中いつも落ち着きがない」にチェックがつきそうな生徒は各学年に20~30人は存在する。今年度も引き続き、そうした「困った子」として立ち現れる生徒達を、「困っている子」として捉え直し、以下の点に留意しながら指導及び支援にあたった。
 1)生徒の「困り感」についてこまめに情報交換し、最適な支援方法を探る。
 2)生徒の特性に応じて活躍できる場を設定し、自己肯定感を育てる。
 3)指示に関しては、視覚支援・聴覚支援を念頭に多様な方法を用いる。

(イ)個別支援

 今年度は、生徒指導部より人権教育・教育相談・保健の三部門を独立させて新たに生徒支援部(2名構成:部長・養護教諭)を創設した。その部長が特別支援教育コーディネーターを兼ねることで、本校の実情に即した組織的な個別支援の方策を探った。

1)「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の作成

 特別支援教育コーディネーターが、校外での研修をもとに学年等の協力を得ながら試作した。

2)キャンパスカウンセリングの活用

 カウンセラーを3名配置とし、生徒・保護者・教員の多様なニーズに応えられるようにした。

3)校内の連携

  • 担任や学年団との連携
     保健室(養護教諭)を窓口とし、生徒の「困り感」の早期発見に努めるとともに、担任や学年団と密に連絡をとり早期対応をこころがけた。また、支援にかかる保護者連絡等も生徒支援部(主として特別支援教育コーディネーター)が担当した。
  • 生徒指導部との連携
     特別指導が必要な生徒の中には軽度の発達障害が疑われる者があり、事後指導等において生徒支援部で対応することもあった。
  • 教務部との連携
     考査受験に際して特別な支援を必要とする生徒がおり、受験教室・監督の配置に関して配慮を要請した。

4)校外(地域の諸機関)との連携

 キャンパスカウンセラーの適切な「橋渡し」により、地域発達障害者支援センターや専門医と連携し、主として医師の診断を受けている3名の個別支援(保護者を含むを実施した。

ウ 成果と課題

(ア)特別支援教育の発想に基づいた全体への支援
 生徒の「困り感」に寄り添う姿勢は全職員に浸透し、とがった言葉遣いはほとんどみられなくなった。生徒は安心して教員に心を開き、5月に開催された「夢コンサート」の効果もあったのか、部活動や学校行事等に前向きに参加している。特に6月に行われた生徒会選挙では会長候補に4名、副会長候補に3名もの立候補があった。また、今年度は校外活動(「青少年のための科学の祭典」「姫路あかりファンタジーワールド」等)にも積極的な参加がみられた。
 また、7月には図書室も再開館し、多様な生徒のニーズに応えることができるようになった。次第に落ち着きを取り戻しつつある今、空き教室の整備や生徒手帳の刷新等、新しい学校づくりへの動きが活発である。
 ただ、教職員の異動が多い本校において、生徒の「困り感」に寄り添う姿勢を共有し続けるためには、学校評価等を活用して不断に点検する必要がある。

(イ)個別支援

1)「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の作成

 外部機関との連携のため、すでに診断を受けている生徒について作成した。ただ該当生徒は3年生であっため、実際にその計画によって支援を実施したというよりは、これまでの支援の実績をまとめたという感が強い。しかしながら「計画」をまとめることで、本人や保護者の願いが明確になり、その後の支援のありかたは急速に焦点化された。
 現在、支援を開始している新たな生徒にもこれらの「計画」を作成し、定期的な評価・改善を実施していきたい。

2)キャンパスカウンセリングの活用

 本校の「個別支援」は、キャンパスカウンセラーと特別支援教育コーディネーターとの緊密な連携で成り立っている。学校と地域にある専門機関とはキャンパスカウンセラーによって繋がれ、本人の卒業後を見通した支援が実施できた。
 また、カウンセラーを3名配置とすることで、ほぼ週に1回の頻度でカウンセリングが実現し、生徒や保護者の多様な困り感に即応することができ、教員にとっても十分なコンサルテーションが可能になった。

3)校内の連携

 生徒の「困り感」に基づく支援の発想が全教職員に浸透しているため、学年、生徒指導部、教務部等、校内の連携はスムーズに実行できた。生徒支援部が全体的な支援のリーダーシップをとると同時に、個別のニーズにもきめこまやかに対応した。時には担任よりも親密にかかわることもあり、そのための小部屋(リソースルーム)の必要性を感じた。

4)校外(地域の諸機関)との連携

 キャンパスカウンセラーの尽力により、ひょうご発達障害者支援センター「クローバー」の巡回指導(月1回)を受けることができた。ただ、その指導も専門医との連携も保護者の同意なしには実現せず、学校における個別支援の要は保護者との信頼関係の構築にあるといえる。

(2)発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫
ア 授業の際の配慮事項

 本校では発達障害のある生徒を別クラスで指導することは行っていない。そのため、全てのクラスを「発達障害のある生徒を含む集団」として位置づけ、授業改善の工夫を行っている。特に今年度は授業評価シートを新たに作成し、特別支援の発想に基づいた授業づくりを試みた。このシートは、いかに教える側が生徒の実態を把握し、クラス全体や個々のニーズに応えようとしているかを評価するもので、シートにあげられる項目は授業実施者ごとに、あるいは同一実施者であっても対象ごとに異なる。

イ テストにおける配慮事項

 生徒の実態に即し、以下のような配慮を行ったが、発達障害があるということでの特別扱いはしていない。

(ア)テストを冊子(表紙付きで綴じたもの)形式にし、監督者の負担を減らすとともに表紙の注意事項を読ませることで落ち着かせる。
(イ)ゴシック体や太字の活字を適宜用い、見やすくする。
(ウ)紛らわしい質問は避け、わかりやすい解答欄を作る。
(エ)テスト自体をワーク形式にし、習った内容を表に整理していきながら解いていけるように作る。
(オ)テスト前に同じ形式の対策プリントを実施し、混乱を防ぐ。特に支援の必要な生徒には何度でも繰り返す。
(カ)小テスト等で再試験を複数作成する際には、簡単なものを一つ用意しておく。

ウ 評価における配慮事項

 発達障害のある生徒が不利にならず、またやる気や達成感を持って次に向かえるよう、以下のような工夫がなされた。

(ア)実習時に進度表を作り、点数化する。
(イ)予定表や評価基準を明示した綴りを持たせ、常に自分の評価を確認できるようにする。
(ウ)提出物のチェック表をあらかじめ持たせ、提出物の漏れを防ぐ。
(エ)提出物の締め切りやルールを明確にして徹底する。
(オ)学期途中に、時々授業中に押したスタンプの総計を発表し、達成感や危機感を持たせる。
(カ)生徒同士の相互評価(長所をコメントする)を活用する。
(キ)個々の能力に対する達成度、意欲・関心等を重視する。

エ 成果と課題

 昨年来取り組んできた、様々な授業改善の効果を確かめるものとして、授業評価シートは一定の成果をあげた。また、授業者がこのシートを作成するにあたり、学級全体や一人一人にいかに多様な支援が必要かが実感された。本校は、従来から公開授業に熱心な土壌があり、今後さらに様式等を改善することで、「集中でき、わかる授業づくり」にいかしていきたい。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援
ア 支援の方策と内容

 在籍生徒の約3分の1が就職を希望する本校において就労支援は重要である。今年の採用試験の結果をみても、面接で苦戦している生徒が目立つ。本校ではあらゆる教育活動を通じて生徒のコミュニケーション能力の育成に努めているが、今年度も昨年に引き続き、就労支援につながる特設ソーシャルスキルトレーニングを下記の要領で実施した。

NiceMan/NiceWoman計画2009 対象:34回生全員(1年~2年)

  内容 目的
第1回(21年1月) 他己紹介 自分の長所を知る。
第2回(21年12月) 無人島ゲーム (1) 自分の考えを上手に話す。
(2)みんなで上手に意思決定する
第3回(22年1月) サバイバル 多数決を用いずに、全員の合意で意思決定する

このトレーニングは本校の実態に鑑み、「発達障害に特化する」「就労に特化する」というよりも、全般的なソーシャルスキルアップを目指すほうがよいとの助言(兵庫教育大学大学院井澤信三准教授)を受けて計画されたものである。

イ 成果と課題

 まず自分に自信を持つことからソーシャルスキルトレーニングは始められた。「気になる職業調べ」「就職の基礎知識」等の年間プログラムを補う形で計画された今回の企画は、わずか3回の実施ながら十分にその役割を果たしたと思われる。ただ、本校のカリキュラムや学級編成に照らし合わせると、今後は1年生での実施が望ましいと考えられる。

(4)一般の生徒に対する理解推進等の指導の在り方
ア 指導の工夫と取組

 人権学習の一環として映画「ぼくはうみがみたくなりました」(監督:福田是久)を鑑賞し、あわせて原作者である山下久仁明氏による講演会を生徒・保護者を対象に実施した。
 その際、自分自身や家族等周囲の人々について悩む生徒の出現が予想されるため、映画鑑賞後、原作者による十分なケアを実施した。

イ 成果と課題

 人権教育・保健・教育相談を総合して生徒支援部を発足させた、そのねらいを見事に実現した企画となった。映画上映後の原作者の講演の効果もあり、生徒は十分にその意図を理解した。また、自己肯定感を高めると同時に、他を思いやる心も育成することができた。
 ただ、事前指導がやや不分であったため、事後指導にとまどいを感じる担任も存在した。

(5)教職員や保護者の研修等
ア 研修会開催の回数・時期・研修内容等
    時期 対象 内容
20年度 1 6月 教員 基礎研修1「発達障害について」
講師:キャンパスカウンセラー(臨床心理士)
2 6月 教員 拡大学年会議
助言者:キャンパスカウンセラー(臨床心理士)
3 7月 教員 基礎研修2「発達障害支援教育について」
講師:県教育委員会事務局特別支援教育課 主任指導主事兼係長
4 7月 教員 ケース会議
助言者:キャンパスカウンセラー(臨床心理士)
5 3月 教員
保護者
「子ども達の夢を実現させるために」
~そのアドバイスが子どもをだめにする~
講師:神戸セミナー校長 喜多徹人氏 (臨床心理士)
21年度 1 4月 教員 着任者研修
「本校のモデル事業に関する 基本的な取り組みについて」
講師:特別支援教育コーディネーター
2 5月 教員 生徒理解のための研修会1
「適性検査(4月実施)の結果について」
講師:特別支援教育コーディネーター
3 5月 教員
他校教員
外部講師による研修会1
「通常学級における授業づくり ~ユニバーサルデザインの教育をめざして~」
講師:大阪教育大学名誉教授 竹田契一氏
4 9月 教員 生徒理解のための研修会2
「個別の教育的支援について」
講師:特別支援教育コーディネーター
イ 成果と課題

 初年度、2回にわたる基礎研修を経てようやく本事業はスタートした。従来ならば自分の「困り感」を周囲に気づかれることなくトラブルメーカー・困った生徒として追いやられていた生徒が、様々なかたちで支援を受け、元気に学校生活を送ることができているのが何よりの成果である。
 そうした特別支援の発想に基づく生徒理解を共有し続けるためには、2年目当初の研修会は必須のものであった。その後、全体的な生徒理解に始まり個別支援に至るまで、比較的スムーズに本事業が進められたのは、これらの研修会を経て全職員が共通理解に至っていたことが大きい。
 また、5月に実施した研修会は広く全県に案内したことで50余名の参加があり、モデル校として一定の役割を果たすことができた。
 ただ、事業の進行に従い、基本的な考え方の理解にとどまらず授業改善等具体的な支援の方法についての研修を望む声は日増しに高くなり、今後の本校のうれしい課題となった。

(6)その他の支援に関する工夫

 生徒一人一人の自己肯定感を育成するために下記の取り組みを実施した。

(ア)コンサートの実施

名称:夢コンサート
テーマ:「夢をあきらめないで」~「今」は未来の自分のために~
対象:全校生徒、保護者
日時:平成21年5月13日(水曜日)
出演:「エスペランサ」

(イ)生徒支援部による「自分大好き!夢・通・信」の発行

 キャンパスカウンセリングの紹介や部活動における生徒の活躍等、本事業に関する記事を6回にわたり大きな活字を用いたわかりやすい記述で掲載した。

2 研究の方法

(1)研究委員会の設置
ア 構成
NO 所 属 ・ 職 名 備 考
1 教頭 委員長
2 生徒 支援部 生徒支援部長 (特別支援教育コーディネーター) 事務局
3 養護教諭
4 学年より 第1学年生徒支援係 担任
5 第2学年生徒支援係 担任
6 第3学年生徒支援係 副担任

 21年度は、新たに創設した生徒支援部が研究委員会を兼ね、その部長が特別支援教育コーディネーターの任にあたることとした。

イ 委員会開催回数・検討内容

 専門部として独立したため、企画立案等に関する部内での委員会は教頭を含めほぼ毎日行われているといっても過言ではない。また、特別支援教育コーディネーター・養護教諭とも比較的自由に動ける立場にあるので、個別支援にかかる担任や各学年との連携も特に特別な会議の場を設定するまでもなく密に行われている。

ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策

 20年度は学年副主任が特別支援教育コーディネーターを兼ねていたため、学校全体を見渡す動きはしづらく、実際の支援は養護教諭に委ねられることとなってしまった。そのため、21年度は新しく支援のための独立した分掌(生徒支援部)を創設し、その部長を特別支援教育コーディネーターに指名した。
 「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」については、特別支援教育コーディネーターが比較的動きやすい立場を活かして校外研修に積極的に参加し、まず、本校の実態に即した様式を提案した。次に地域の発達障害者支援センターの助言を得ながら、実際に学年団等と連携して本人及び保護者の願いにそった計画の策定を試みた。

エ 成果と課題

 「特別支援教育」「コーディネーター」「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」。従来の組織になじまないものには、新しい容れものがふさわしかったようである。本校において生徒支援部はよく機能した。
 「個別支援」を実施する場合、常に問題になるのは「誰が支援するのか」ということである。これまで担任個人や学年団が担ってきた(担わざるをえなかった)役割を、新しく特別支援教育コーディネーターが担当する。その任務のスムーズな遂行には少なからぬリーダーシップが求められ、主幹教諭なり生徒支援部長なりの職や立場も有効であった。ただ、個別支援の基地としての保健室はいかにも使いづらく、今後は特別支援教育コーディネーターが常駐する小部屋が必要となろう。
 また、「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」を有効に活用するためには、データをデジタル化して保護者を含む関係者が自由に閲覧・加筆できるよう管理する必要があり、校内LAN等の整備が急がれるところである。

(2)専門家チームの活用
ア 構成
1 兵庫教育大学大学院准教授 臨床・教育学系(特別支援教育) 教育学博士 臨床心理士
2 キャンパスカウンセラー 臨床心理士
3 ひょうご発達障害支援センタークローバー相談員 臨床心理士
4 大阪教育大学名誉教授 医学博士
5 県教育委員会事務局特別支援教育課主任指導主事
6 県教育委員会事務局特別支援教育課指導係指導主事
7 県労働局職業安定部職業対策課雇用対策係主任
イ 専門家チームの活用状況
NO 回数 内 容
20年 21年
1 4 4 (1)本校の取り組みに対する全体的な指導及び助言
(2)LHRや総合的な学習の時間を活用した、体系的なソー シャルスキルトレーニングの計画及び指導
2 37 35 (1)地域の専門機関との連携を中心とした個別支援
(2)特別支援教育コーディネーター及び学年団等へのコンサ ルテーション
(3)職員研修 (基礎研修1:発達障害の概要) 講師
3 0 6 (1)「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の策定にかか る指導助言
(2)ソーシャルスキルトレーニングを中心とした個別支援
(3)特別支援教育コーディネーター及び学年団等へのコンサ ルテーション
4 0 1 職員研修( 通常学級における授業づくり) 講師
 ※校外からの参加者50余人
5 1 0 職員研修 (基礎研修2:発達障害支援教育) 講師
6 0 1 報告会における指導・助言
7 1 1 就労支援に関する助言
ウ 成果と課題

 発達障害のみならず特別支援教育にかかる経験や知識をほとんど持たない教員が多数を占める本校において、専門家の活用は不可欠である。また、一般の教員にとって校外の専門機関との連携は容易でなく、キャンパスカウンセラーの果たす役割は大きい。
 本校では、研修で得た知識や共通理解を土台に、個別支援に際して下記のような流れを作ることができた。

  1. 担任及び学年団が本人・保護者と信頼関係を築く。
  2. 特別支援教育コーディネーターがキャンパスカウンセラーと連携して「困り感」や「願い」を明らかにする。
  3. 特別支援教育コーディネーターが専門機関の助言を得ながら「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」を作成する。
  4. それらにそって特別支援教育コーディネーターが校内の必要部署と連携し、「支援」を実現する。

 今後はその流れを検証しながら、さらに確実なシステムとしていきたい。また、次年度以降も巡回指導等、ひょうご専門家チームの有効な活用が期待される。

(3)関係機関との連携
ア 他の高等学校や特別支援学校との連携

 兵庫県立特別支援教育センターより、ひょうご専門家チームの一員である大阪教育大学名誉教授竹田契一氏を派遣していただき、研修会を持つことができた。その際、県内外の高等学校より50名を超える参加があった。
 また、本校より下記の研修会に参加した。

  主催 日時 内容 本校よりの参加者
20年度 姫路特別支援学校 10月22日 スキルアップ研修会 「広汎性発達障害の理解と支援」 特別支援教育
コーディネーター
21年度 姫路工業高等学校 6月12日 障がいを持つ生徒への 農業実習指導 教頭 生徒支援部長
姫路特別支援学校 7月21日 第1回夏季特別支援研修会
「子どもを育む私たちの責任 ~障害と向き合いながら~」
教務部長
8月10日 第2回夏季特別支援研修会
「自閉症や知的障害のある子どもへの支援ツールとその活用法」
生徒支援部長 担任8名

 本校は近接する姫路特別支援学校と20年来、学校行事等を中心とした交流を行ってきた。21年度は新しく「後期中等教育の充実事業(はばたきサポート)」も実施され、両校の絆はますます深くなっている。

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携

 21年度より「ひょうご発達障害者支援センタークローバー」と連携し、月1回の頻度で巡回指導を受けている。
 また、特別支援教育コーディネーターが兵庫発達障害者等就労支援連絡協議会(兵庫労働局主催)の委員を務め、就労支援について各専門機関とともに検討する機会を持っている。

ウ 成果と課題

 姫路特別支援学校は発達障害に特化した学校ではない。従って、本校生や教員が両校の交流を通して、直接「発達障害」について理解を深めようとするのは正しいとはいえないが、生徒一人一人を「困り感」を持った存在として認め、支援していこうとする発想や方法は大いに学べるところである。
 本校教員には、今回の事業を通して、特別支援学校における授業方法や、視覚支援・聴覚支援等様々な支援方法についての学びの機会を求める声が多くなってきた。また、次年度は、姫路特別支援学校と本校において新たな研究も予定されている。今後はそれらを生かしながら、さらなる交流の形を模索していきたい。
 また、特別支援教育コーディネーターが兵庫発達障害者等就労支援連絡協議会の委員に就任したことは、本校にとって大きな収穫であった。この協議会をきっかけとして、労働局や教育大学等専門機関から助言を仰ぎ、個別支援を含むソーシャルスキルトレーニングの方向性を定めることができた。次年度以降もぜひ継続して実施していきたい。

(4)関連事業等との連携

 特になし

3.今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

 特殊教育から特別支援教育への転換は、ひとりひとりの特性に応じた多様な支援を、通常学級の中で実施しようというものである。発達障害もまた例外ではない。個を見つめ、個に「やさしく」あろうとするその方法は、同時に集団全体にとっても「やさしい」ユニバーサルデザインをめざすものとなっていくに違いない。
 ただ、その実現にあたり現状の枠組みでは困難な点が多い。特に学級定員・カリキュラム・特別支援教育コーディネーターのありかたについては早急な改善が望まれる。

4.その他特記事項(エピソード含む)

本校の学校評価に溶かし込まれた本事業に関する項目と教職員による自己評価結果は、下記の通りである。
  項目 評 価(平均)
20年度 21年度
1 全校集会等ではプロジェクターなどを活用して生徒の視覚に 訴える等、指導をより効果的なものとする。 3.4 3.2
2 生徒・保護者に対して、教育相談に関する情報を提供し、心の教育を充実する。 2.9 3.2
3 挨拶の仕方、話し方、聞き方などのソーシャルスキルトレー ニングを実施し、社会性を培う。 2.7 2.9
4 キャンパスカウンセラーによる研修を実施し、生徒に対する効果的な指導方法を共有する。 2.9. 3.2
5 公開授業・研究授業等を利用して実践的な指導力の向上を図り、「わかる授業」づくりにつとめる。 3.1 3.2

※評価は4段階(4:できている3:まずまずできている2:あまりできていない1:できていない)

5.総括

 新しい葡萄酒は新しい革袋に。学校現場において、今まさに新しい革袋が求められている。本校において生徒支援部を創設し、特別支援教育コーディネーターがその部長を兼ねたことはそうした試みのひとつである。
 「高校とはこんなもの」。多くの教師が知らず知らずにかけているそんな眼鏡を外したとき、生徒ひとりひとりのニーズが目の前に浮かび上がってくる。「『困った』生徒が実は『困っている』生徒だった」という気づきは大きく本校を変えた。
 特別支援教育の発想は、発達障害を抱えた生徒や保護者だけではなく、あらゆる生徒、ひいては学校全体に大きく働きかけていく力を持つ。
 2年間の指定事業を終えようとして、今やっとその戸口に立った感が強い。

6.モデル校の概要

1 学級数と生徒数 (平成21年5月現在)

課程 学科 第1学年 第2学年 第3学年
生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数
全日制 普通科 201 5 186 5 160 5 547 15

教職員数 (平成21年5月現在)

校長 教頭 主幹教諭 教諭 養護教諭 非常勤講師 実習助手 ALT 事務職員 その他
1 1 5 35 1 4 1 0 3 3 54

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成22年07月 --