都道府県名 新潟県
学校名 新潟県立出雲崎高等学校
学校所在地 新潟県三島郡出雲崎町大字大門71
研究期間 平成20〜21年度
発達障害等により特別な教育的支援を必要としている生徒に対して、個々に応じた支援の進め方と在り方及び支援体制・組織づくりを研究する。
モデル事業による2年間の取組を通じて、特別な教育的支援を必要とする生徒に対する校内体制の整備を進めるとともに、本校の支援プログラムの確立を図る。そのために、次の5項目についての研究を行う。
(1)校内支援体制の整備と関係機関との連携の在り方
(2)生徒理解と個々の生徒のニーズに応じた支援の在り方、進め方
(3)ソーシャルスキルトレーニングに向けた取組
(4)就労等への支援の在り方
(5)全校生徒及び保護者への理解・啓発活動の在り方
ア 個々の課題に応じた支援:個別の教育指導計画の作成と授業見学、事例検討会の実施から個々の課題に対応する支援を進めた。
イ 学習支援員の活用:研究対象生徒の観察及び教育支援の充実を図り、授業の取り組みや効果的な支援の仕方について大きな成果が見られた。
ウ 自立・就労支援:個別の相談会や就労支援、就業体験を通して外部機関との連携を深めるとともに、ケース会議の実施から卒業後の継続した支援を図った。ソーシャルスキルトレーニングを実施することで、自立・就労に必要な社会性を高めた。
校内研修や当事者を招き開催した、専門機関、行政、保護者等を対象とした理解・啓発のシンポジウムによって教職員等の意識の変容を図った。教材作成や教授法等におけるユニバーサルデザイン化の実践を冊子にまとめ、全教員で共有した。
特別支援学校や行政・専門機関を招いた研究協議会を開催し、支援対象生徒の、早い時期からの専門機関とのつながりや高校入試及び高校と中学校の連携の在り方、適正な進路指導等について検討した。
(成果)
(課題)
(成果)
(課題)
(成果)
(課題)
(成果)
(課題)
[平成20年度]
第1回(7月31日)
テーマ:「学校の中のユニバーサルデザイン化〜授業の中のちょっとした工夫でできるユニバーサルデザイン化〜」
内容:特別支援学校職員を講師に、分かりやすい板書の仕方やプリント作成の工夫などについて研修し、教職員の理解が進んだ。
第2回(8月27日)
テーマ:「自立・就労に向けたソーシャルスキル・ライフスキルの獲得〜家庭・学校・外部機関でしておきたいこと〜」
内容:町の公民館を会場に、本校職員の他、地域の小中学校、高等等学校、本校の保護者、行政機関を対象にシンポジウム形式で実施。シンポジストや参加者から当事者に必要とされるスキルや学校・外部機関の役割や関わり方など、様々な意見が出された。約100人が参加。
第3回(10月6日)
テーマ:「高等学校における特別な教育的ニーズのある生徒への社会的スキル訓練の意義」
内容:上越教育大学加藤哲文教授による講演。
第4回(1月14日)DVD鑑賞による研修
タイトル「青年期、成人期の発達障害者支援1」
「青年期、成人期の発達障害者支援2」
[平成21年度]
第1回(4月15日)
テーマ:「発達障害基礎研修」
内容:特別支援学校教員を講師として、新たに着任した教員を対象に発達障害に関する基礎的な事柄について研修し、スムーズに授業が始められる配慮した。
第2回(7月31日)
テーマ:「学ぶことに困難を抱えている生徒への支援の手だて〜授業場面から〜」
内容:授業中の様子をビデオ取りしたものを題材にし、授業場面での指導技術のユニバーサルデザイン化を学習した。
第3回(8月25日)
テーマ:「社会参加をする前に、してほしかったこと〜家庭や学校でしてほしかったこと〜」
内容:町の公民館を会場に、本校職員の他、地域の小中学校、県内の高等学校、本校の保護者、行政機関、福祉機関等を対象にシンポジウム形式で実施。現在、発達障害をかかえながらも社会で活躍している当事者と、その方々を支援する立場の方からの発表から、家庭や学校での支援について様々な意見が出された。約150人が参加。
(成果)
(課題)
NO | 所属 ・ 職名 | 備考 |
---|---|---|
1 | 上越教育大学大学院学校教育研究科・教授 | 臨床心理士、学校心理士 臨床発達心理士 LD教育士スーパーバイザー 他 |
2 | 新潟県立出雲崎高等学校・教諭 | コーディネーター |
3 | 新潟県立出雲崎高等学校・養護教諭 | サブコーディネーター |
4 | 新潟県立出雲崎高等学校・教頭 | |
5 | 新潟県立出雲崎高等学校・教諭 | |
6 | 新潟県立出雲崎高等学校・教諭 | |
7 | 新潟県立出雲崎高等学校・教諭 |
[平成20年度]
第1回(5月12日):
出雲崎高等学校における特別支援教育の在り方について
第2回(6月16日):
研究のタイムスケジュールについて
第3回(7月14日):
(1)発達障害のある生徒の受け入れに関わる研究の進め方について
(2)学習支援員の活用及び巡回指導員との連携について
※特別支援学校教諭参加
第4回(8月6日):
(1)ケース会議及び連携会議報告
(2)個別の移行支援計画作成について
(3)先進校視察について
第5回(9月22日):
(1)発達障害のある生徒等の授業や学校生活の課題に、どのように対応していけばよいか、日常の事例を通した検討会
(2)学習支援員との連携を生徒の指導に活かす効果的な指導及び活用の在り方について
※8月26日、養護学校3校から専門相談員5名を招いて、(1)の事例検討会の事前打合せを実施
第6回(10月6日):
(1)生徒の職場体験実習から見えてきた共通課題に対して、今後どのようにソーシャルスキルトレーニングに取り組むか
(2)ソーシャルスキルを身につけさせていくために、日常の学校生活の関わりの中でできる工夫について
第7回(11月17日):
(1)事例検討会
(2)授業方法の工夫について
※養護学校3校から専門相談員5名参加
第8回(12月4日):
生徒の就職に向けた方針及び専門機関の支援内容や方法等について
第9回(1月19日):
(1)発達障害のある生徒の受入に関わって、現場の実態から見えてきた課題の整理
(2)発達障害のある生徒の受け入れに関わる研究の進め方について
第10回(2月26日):
モデル事業初年度のまとめと次年度の取り組みについて
[平成21年度]
事前打合せ(4月20日):
H21事業の進め方及び研究内容について
第1回(5月11日):
(1)支援の必要な生徒の学習評価について
(2)特別支援教育研修会について
第2回(6月29日):
とぎれない支援について
※特別支援学校教職員、行政参加
第3回(9月28日):
とぎれない支援について
※特別支援学校教職員、行政参加
第4回(11月2日):
モデル事業の成果、課題について
第5回(12月7日):
(1)モデル事業のまとめについて
(2)モデル事業終了後の支援方法について
(コーディネーターの指名)
(教育支援計画の策定)
(成果)
(課題)
NO | 所属・職名 | 備考 |
---|---|---|
1 | 上越教育大学大学院学校教育研究科・教授 | 臨床心理士 |
2 | 上越教育大学特別支援教育講座・准教授 | 特別支援教育 |
3 | 新潟県立はまぐみ小児医療センター・医師 | 小児科医 |
4 | 国立病院機構新潟病院・医師 | 児童精神科医 |
5 | 黒川病院・医師 | 精神科医 |
6 | 上越教育事務所・指導主事 | |
7 | 中越教育事務所・指導主事 | |
8 | 下越教育事務所・指導主事 |
上記No3新潟県立はまぐみ小児医療センター医師とは、生徒のケースを通して連携支援した。
上記以外でも専門家との連携が多くあり、「(3)の関係機関との連携」で述べる。
外部機関も業務多忙にも関わらず積極的な協力をいただき、生徒にとってきめ細かな対応が取られている。
一方で、外部機関のマンパワー不足も現実にあり、対象生徒がさらに増加した場合、十分な支援ができないことが予想される。
また、通学圏域が拡大している中、生徒の居住地に対応する専門機関の連携づくりも課題となる。
文部科学省の委嘱事業「新潟県発達障害者支援・特別支援教育総合推進事業運営会議」に委員(推進地域高等学校長)として、本校校長が会議に参加し、特別支援教育推進のための意見を述べている。また、グランドモデル地域の特別支援学校と連携し、授業方法についての研修会や事例検討会を実施することができた。
今後、本事業に参加している関係機関とのさらなる連携と推進すること、県内高等学校と連携する方法について情報を共有することが課題である。
1 発達障害のある生徒の保護者の多くが、普通高校への進学を希望しているが、高校には特別支援学校や義務教育にある就学援助等の支援制度がない。また、教員数や施設設備も十分ではなく、教育課程における「履修と修得」の問題もある。
しかし、こうした義務教育諸学校と高等学校との違いに対する本人や保護者等の認識が十分ではなく、高校入学後に中学校時代のような個別指導や別室指導や別室登校を要求されることもあるが、人的にも物的にも受入体制ができていない。
さらに、こうした高等学校の制度や体制に対する認識不足は、生徒本人・保護者のみならず中学校側にも見受けられることも多く、教育委員会主催の研修会や地区ごとの中高連携協議会等、様々な機会を活用して中学校側の理解推進を図ることも必要と思われる。
2 定時制高校には、発達障害のみならず、不登校や知的障害等、様々な問題を抱える生徒が多数入学しているため、限られた教員数や現状の施設設備では、個々のニーズに応じた対応が困難である。
特に、学級担任はこうした生徒や保護者への対応に日々追われ、上級学校進学者や普通就職希望者など、一般生徒に対する指導に十分な時間が割けない状況にある。
こうした状況から、特別支援教育コーディネーターが果たす役割は非常に大きく、発達障害に対する専門的知識や実践経験を有する専属のコーディネーターの配置が望まれる。
また、現状では教頭や教諭・養護教諭がコーディネーターに任命され、養成研修等も実施されているが、個別の支援計画の作成や外部専門機関との連絡調整など、コーディネーターとして十分に機能するためには、最低限、担当授業時間数や通常業務の軽減等が不可欠である。
3 高校生の就職の場合、求人活動や合同会社説明会の開催等は、教育委員会と行政の商工労働部局等との連携のもとに進められているが、発達障害のある生徒の場合、普通就職を希望しても厳しい状況にあり、たとえ就職できてもコミュニケーション能力の不足など、ソーシャルスキルやコミュニケーション能力の不足等から、職場に定着できないケースが多い。
こうしたことからも、高校在学中から、障害者就業・生活支援センター等の専門機関と連携した支援が必要となるが、新潟県内に数カ所ある支援センターでも、高校生を支援対象としていない所もあり、対応に差がある。
このような現状から、発達障害のある高校生の就職を推進するためには、行政の商工労働部局の他に、教育委員会と行政の保健福祉部局との連携を推進することも重要である。
さらに、発達障害のある子どもを持つ保護者は、自分たちが子どもの面倒を見られなくなった後のことを最も心配されておられることから、行政の福祉部局はこうした保護者の支援を進めることも必要と思われる。
(ADHD・LDの生徒の事例)
小学校時代は、いくら言われても漢字が書けなかったり、宿題もすることができず、親や教師に叱られていた。中学校時代にもその傾向はあり、黒板が写せない、何を始めても長続きしない、やれると思って役員に立候補しても実際はやれなかったりしたことで自信をなくし、保健室登校や欠席がちになった。
その後、いったんは高校に入学したが半年でうまくいかず休学し、その年度の春に本校へ転入学した。
入学後、テストが近づくたびに保健室への来室や早退が増えていく傾向が見られた。そこで、養護教諭が本人の今までの様子と現在の状況を聞くことにした。その中で、小中学校のことや、授業中の困り感を聞くことになった。「□の中に漢字を納めて書くことができない。」「本を読んでいても、どこを読んでいるか解らなくなって同じ行を読んだり、漢字の読み間違いをする。疲れて1ページくらいしか読めない。」「筆算は両手の10本指の範囲でしかできない。電卓があればできるけど・・・。」「母はいつも片付けができないとか、勉強をしないと叱られてばかりいる。」などの話を延々としてくれた。養護教諭は担任にも連絡し、担任にも話を聞いてもらい、ADHD・LDの疑いを持った。
その後、本人とも十分話をし、保護者とも面談し受診をお願いした。その結果、予想通りの結果であった。
実際、思春期の複雑な心理状況の中で、初めて自分に障害があることを知って、「やはりショックだった。」と涙ぐんでいた。しかし、「診断が目的ではなく、自分を理解して進路選択等に活かすことが目的ですよ。」と話しながらサポートを続けた。そのことで本人は自分の特技を活かした専門学校への進学を決めた。
現在、本人は自分の障害を受容し、どのようなアイテムや支援を使っていけばよいかを心得ている。
本校では平成16年度から、様々な困り感を持つ生徒に対する取組みを一つひとつ積み上げてきた経緯から、教職員のコンセンサスのもと、モデル事業をスムーズに進めることができ、大きな成果があったものと考える。
また、モデル事業を進めるにあたってのコンセプトの一つには、従来からの一つひとつの取組みの目的や内容をクリアにするとともに、取組の全体を体系化することで、「出雲崎モデル」とも呼べる支援モデルを確立するというものがあったが、この点においてもほぼ目標を達成できたと思う。
ただし本校には、発達障害だけではなく、知的障害、精神障害、重い疾病、不登校など、実に様々な問題や困り感を持つ生徒が多数在籍していることから、発達障害の生徒に対してのみ特別な支援を行うわけにはいかない状況にあったため、モデル事業の対象生徒は抽出するものの、困り感を持つ他の生徒に対する支援を通しても研究を進めることとした。
医師による発達障害の診断がある場合は、本人及び保護者の障害理解が進んでいるため、就業・生活支援センター等の専門機関につなげて、卒業後の就業を見通した支援が可能となるが、本人は勿論のこと、保護者が自分の子どもの障害やその可能性を認めないケースも多く、こうした場合は、専門機関からの直接的支援が難しい。
本校では、将来の自立就労を視野に入れ、医師の診断に基づく正しい自己理解(障害理解)と、それを踏まえての専門機関と連携した適切な自立就労支援というスタンスで、生徒・保護者にアプローチしているが、なかなか受診に結びつかないケースも多い。
しかしそのような場合でも、2年生の後半から3年生になる頃には卒業後の進路を意識し、受診や障害者手帳の取得などに前向きになる場合が多いが、この段階からでは、十分に支援することは困難である。
将来の自立就労を考えれば、高校入学直後から支援を開始することが不可欠であり、そのためには、中学校段階で本人と保護者(少なくても保護者は)が、障害理解(自己理解)していることが大変重要である。
校内環境や授業におけるユニバーサルデザイン化、ソーシャルスキルトレーニング、就業体験、ケース会議、事例検討会、研究委員会、職員研修等、様々な取組を行っているが、言うまでもなく、これらは全て、困難を抱える生徒の自立就労を目的に実施しているものである。
本校のような定時制高校には、発達障害のある生徒が多く入学しているとの調査結果が示されているが、知的障害をともなっている場合も多い。頭では、「発達障害」と「知的障害」を区別できても、知的障害の境界付近のIQ(知能指数)の場合は判断が難しくなる。
本校では、こうした生徒に対する学習評価の問題について、各教科の評価方法や基準に対する調査や教員の学習評価に関するアンケート、教務部と支援教育部との協議等を実施して検討してきたが、結論には達しておらず、従来通り、定期考査の結果や日頃の学習活動(授業の出席・参加状況、課題への取組状況等)等を総合的に評価している状況である。
学習評価の問題は、最も難しい問題であるが、特色ある教育課程の編成や弾力的な評価方法等に関する検討を今後とも継続しなければならないと考える。
様々な実践を通して確信したことは、発達障害のある生徒が高校卒業後にも決してとぎれない支援が受けられるよう、在学中から専門機関につなげてやることの重要性である。仮に様々な配慮のもと無事に卒業できたとしても、自己の障害理解やソーシャルスキルの習得がないまま社会にでたら、周囲の環境に適応できず、厳しい状況になることが予想される。この点は、保護者も同様である。子どもの障害を理解も、受け止めることもできず、さらには相談する相手(専門機関)や方法もわからなければ、親子共々途方に暮れることになる。しかし、在学中から専門機関につながっていれば、卒業後も様々な局面で支えてもらうことが可能となり、社会的に孤立することがないのである。
2年間のモデル事業を通して、「学校でやれること」と、「学校だけではやれないこと」など、特別支援教育が抱える問題点と課題等について、具体的に認識を深めることができた。
同時に、高等学校では、生徒の入学と同時に将来の自立就労を強く意識した計画的な支援が必要不可欠であること、そのためには一人ひとりの教師が研修に励み、生徒の障害や困り感を見取る感性や知識、さらには適切な指導方法等を習得することの必要性と重要性も実感した。
高等学校における特別支援教育は、まだ始まったばかりで課題も多いが、発達障害や特別支援教育を、文字通り、「特別なもの」「難しいもの」と意識しすぎると、結果的には何もしない、できないことになってしまう。私たちは、“特別支援教育は、何も「特別」なものではなく、従来から行ってきたきめ細かな指導をより徹底するだけ”、との認識を持ち、今後も丁寧に生徒たちを支援していけばよいのである。
課程 | 学科 | 第1学年 | 第2学年 | 第3学年 | 第4学年 | 合計 | |||||
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学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | ||
定時制 ( 午前部 ) | 普通科 | 2 | 61 | 2 | 54 | 2 | 40 | 1 | 6 | 7 | 161 |
校長 | 教頭 | 教諭 | 養護教諭 | 非常勤講師 | 実習助手 | ALT | 事務職員 | 司書 | その他 | 計 |
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1 | 1 | 22 | 1 | 7 | 1 | 0 | 3 | 0 | 4 | 40 |
初等中等教育局特別支援教育課
-- 登録:平成22年07月 --