特別支援教育について

熊本県 球磨工業高等学校(公立)

都道府県名 熊本県
学校名 熊本県立球磨工業高等学校
学校所在地 熊本県人吉市城本町800番地
研究期間 平成21~22年度

1.概要

1 研究課題

 発達障害等の生徒の就労・定着へ向けた、関係機関との連携と3年間の計画的な進路指導の在り方についての研究

2 研究の概要

(1)発達障害があり、学習面で困り感のある生徒に対する基礎学力定着及び授業方法の改善に関する研究

(2)発達障害について、保護者・生徒への理解を深めるとともに、関係機関との協力の下に、互いを理解し共生していける学校づくりに関する研究

(3)発達障害がある生徒の就労・定着へ向けた、関係機関との連携と3年間の計画的な進路指導の在り方についての研究

3 研究成果の概要

(1)校内支援体制については、支援対象生徒の学習面、生活面の困難な状況についてのデータを担当者から校内支援委員会に上げ、支援方針と支援方法について全職員の共通理解を得ながら進めることができた。
(2)地域連携については、近隣の高等学校と人吉球磨地区高等学校特別支援教育研究会を設立し、特別支援教育に関する理解・啓発を進めることで、中高連携の基盤となる高等学校間の横の連携の組織づくりができた。
(3)中高連携については、講話や検討会を地域の中学校16校と高等学校5校が集まり、来年度の新入生に関して、移行支援の具体的方法について検討することができた。
(4)基礎学力定着への取組として、校内検定を全職員で行い、学習面における生徒の躓きや基礎学力の定着の様子を把握し、授業改善への基礎的なデータとすることができた。
(5)授業改善については、ユニバーサルデザインの視点から取り組むこととし、具体的には、学習環境・授業方法の2つの面から進めた。また、11月には研究授業発表会を実施し、専門家の意見も参考にしながら、さらに研究を深化させることになった。
(6)就労支援については、これまでの2年間の支援の積み上げと関係機関との連携により、適切な進路指導を行うことができた。

2.詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針
ア 生徒の実態(把握方法も含めて)

 支援や配慮を要する新入生については、入学前に個別に中学校訪問において聞き取りにより情報を得るようにしている。また、入学後の担任による家庭訪問でも、保護者から生徒の性格や特性、これまでの学校生活における課題や指導上留意してほしい点の聞き取りを行い指導に生かしている。しかし、実際の生徒の実態把握は、入学後の授業や学校生活を通してしか分からない内容も多く、そのため具体的な支援を始める時期が遅くなってしまうことが反省点として残った。このことについては、本校だけでなく、近隣の高等学校も同様の悩みを抱えているということであった。そこで、来年度の新入生については、中高連携の取組として、フェイスシートの活用や中学校訪問により、中学校の担任や保護者から、学習・生活両面において生徒が安心して高校生活に入れるよう指導上の留意点や伸ばしてほしい長所を中心に情報を得る予定である。

イ 指導方針

本校の校内支援体制

 本校の支援体制は上図のとおりである。学習面においては、それぞれの学習成績と授業担当者からの報告を基に、学力向上委員会において、支援対象とする生徒のデータを校内支援委員会に上げ、支援方法や指針について検討し、全職員共通理解の下で支援に当たる。また、不登校・保健室登校など授業に参加できない生徒や対人関係に躓きのある生徒に関しては、担任・養護教諭・学年主任・カウンセラーなどが実態を把握し、校内支援委員会にその詳しい指導経過を上げて、必要に応じて専門委員会の専門家のアドバイスを聞きながら、支援方法を検討し、全職員の共通理解の下に指導を行うようにしている。

ウ 成果と課題

 校内支援体制を確立して、3年目となり、職員の生徒への対応に明らかな変化が出てきた。具体的には、不登校・保健室登校の生徒に対する指導である。これまで不登校や教室へ入れない生徒の指導に関しては担任が一人で抱え込むことが多く、どうしても進級させなければならないという追いつめられた気持ちで指導に当たっていたケースが多かった。しかし、校内支援体制が確立し、校内支援委員会や専門家による支援方法の検討と全職員の共通理解の下で、生徒の状態に応じた適切な支援・指導を行うことが自然にできるようになったことで、担任一人に負担がかかることが軽減されるようになった。その結果、保護者の理解を得られた場合は医療機関などの関係機関へつなぐという選択肢も指導の中に活かされるようになった。
 ただ、課題としては、家庭環境や生徒指導上の理由で学習成績不振や出席時数不足になる生徒と前述のような支援対象生徒は、評価基準や教務規定に明確な線引きができず、指導することの難しさを感じている。

(2)発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫
ア 授業の際の配慮事項等

(ア)講話及び授業研究会

月/日 内容
9月18日 『授業改善への取組』
講師:長崎県立大学経済学部地域政策学科
准教授 宮原 順寛 様
テーマ:「授業改善に関する講話(学習環境について)及び授業見学」
10月16日 『授業改善への取組』
講師:長崎県立大学経済学部地域政策学科 准教授 宮原順寛 様
テーマ : 「ユニバーサルデザインの授業づくりと学校づくり」 ~表現と活動と共同のある学びを目指して~
11月12日 『研究授業発表会』
テーマ:「ユニバーサルデザインの授業づくり」
指導助言:
九州ルーテル学院大学 准教授 河田将一 様
熊本県立球磨養護学校 校長 鬼塚行彦 様
熊本県教育庁高校教育課 指導主事 松原弘治 様
熊本県教育庁高校教育課 指導主事 堀川 丞美 様

(イ)授業改善の校内組織について

授業改善の校内組織について

(ウ)学習環境の整備及び授業方法改善について

 授業改善については、年間を通して持続可能で、どの教科にも汎用性がある授業づくりを目標とした。

a学習環境の整備については、次の4つの目標を掲げた。

  1. 黒板には連絡事項など授業に関係ない事項は板書しない。
  2. 授業に集中できなくなるような掲示物は前方には極力掲示しない。
  3. 机間指導をしやすくするために荷物は後ろの棚かバックの中に入れ、授業中バックは机の下か、机の横にかけておく。
  4. 色覚バリアフリーを目指し、板書は白・黄の2色を基本とし、第3色として橙を使用する。

b授業方法改善については、次の4つの目標を掲げた。

  1. 板書の工夫
    板書事項の精選を行う。色使いや文字の大きさだけではなく、教科書やプリントとの対応などあらゆる面で見やすい板書を行う。また、日付、教科書のページやプリントの番号などを示したり、重要な発問は板書するなどの工夫も行う。
  2. 発問の工夫
    問いの精選と同時に問いかけの方法を工夫する。また、生徒の答え(正答・誤答・無答)に対する準備も行う。
  3. 教材・教具の工夫
    自作の授業プリントを作成する際、見やすさや書き込みやすさを工夫するとともに、パソコンなどICTの活用や実物、模型など教科の特性に応じた工夫を行う。
  4. グループ学習の導入
    従来の一斉学習という学習形態に小集団(班・グループ・二人組)学習を必要に応じて行うことで生徒相互の「学び合い」の場面を授業の中に設定する。
イ テストにおける配慮事項

 テストにおいて、漢字が読めないことによりその問題の意味が理解できない生徒がいるということが分かり、試験的に理数系教科で問題文の漢字にルビを振る取組を行った。また、文章問題の理解を支援する目的で、理科や専門教科の一部で問題に関する図を挿入する取組も行った。その結果、平均点が上がったり、問題を解こうとする姿勢が見られるようになった。

ウ 評価における配慮事項

 特定科目において、特に学習障害(その疑いがある)のある生徒に対しては、授業態度を含め、テストの点数だけではなく、その教科に対する提出物や関心・意欲・態度を重視して評価するなど全職員で共通理解を図りながら評価を行っている。また、試験前には補講を実施し、その過程も評価や判定会の資料として取り入れた。

エ 成果と課題

 授業改善の取組の成果として職員の意識の変化があげられる。11月の研究授業発表会以後の研究授業においても上述の目標に沿った授業の工夫が見られた。また、外部とのつながりを持てたことも大きい。専門的な視点からの授業改善の指摘は現場だけでは見えてこない気づきが多く含まれていた。そして、生徒のアンケートからも上述の取組は支持されている。今後の課題としては、学習環境整備の徹底と授業改善の広がりがあげられる。そのためも年度当初から目的を明確にして、早い時期から取り組むことが必要である。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援
ア 支援の方策と内容

 6月と1月に職業適性検査を行い、その時点での進路意識の状態や生活・学習の状況を調査した。その結果を、業者から担任および関係職員へ提供し、指導に生かした。また、支援の必要な生徒に関しては、具体的な支援方針を知るために、熊本県発達障害者支援センターの協力を得て、6月と8月にケース会議を行い、支援対象生徒の学習・生活・進路指導に対してアドバイスをいただくことができた。また、7月以降何度も担任・進路指導部で3者面談を行い、本人の希望と適性を見極める努力を続けた。

イ 成果と課題

 3年生の支援対象生徒3人は、すべて進学希望だったが、2人は決定したものの1人は自己都合により未定のままであった。また、支援対象生徒以外に生活面で特性を持つ生徒1人に関しては、就職試験前に本人の特性を会社に伝えるとともに、入社後にも改めて伝え、定着へ向けての協力をすることになった。また、進学先が決まった2人については、進学先に本人の特性やこれまでの指導経過を担任及び進路担当者が説明し、指導に生かしてもらえるようにしていきたいと考えている。
 課題として、一般の生徒も含めて早期離職が増えているので、これまでのように就職を決めるだけでなく、本人の特性や長所など伸ばして欲しい点を就職・進学先に伝え、就労・定着へ向けて努力していきたいと考えている。

(4)一般の生徒に対する理解推進等の指導の在り方
ア 指導の工夫と取組

 今年度は、特別支援教育という観点での一般の生徒に対する講話などは行わなかった。ただ、クラスでの人間関係のトラブルや不登校・保健室登校の生徒がいるクラスにおいては、本人が教室へ入れない理由について、担任からどういう点に困っていて、どのように接し、言葉かけをすればいいのか、頑張ることを強要するような態度や言葉には注意しなければならないことなどについて、分かりやすく指導した。高等学校においては、出席日数や欠課時数等により進級が決まるため、配慮を欠く言葉かけをしないように時期をみて、担任から状況を説明し、理解を得るように努力した。さらに、クラスにおいて特性のある生徒の指導について、クラスメイトに本人の特性を説明し、本人が安心して過ごせるような対応を理解することで、本人が困らないで学校生活が送れる環境づくりを行った。

イ 成果と課題

 それぞれの支援対象生徒の特性に応じて、鍵となる各担任が学校全体の支援体制を理解し、コーディネーターや専門機関との連携の中で、計画的な支援ができるようになったことが大きな成果であった。
 今後の課題としては、発達障害に関する知識・理解が一般の生徒に広まるような講話やソーシャルスキルトレーニングなどを実施することができなかったので、年間を通して一般の生徒と支援が必要な生徒が、お互いを理解しあえる学校づくりを目指して、研究に取り組んでいく必要がある。

(5)教職員や保護者の研修等
ア 研修会開催の回数・時期・研修内容等

(ア)教職員研修

月/日 内容
7月1日 『就労支援への取組』
講師:熊本県南部障害者生活・就業支援センター結 副センター長 林田 美鈴
テーマ:「障がいのある方々への就労支援の立場から」
12月2日 『中高連携について』
講師:九州ルーテル学院大学 准教授 河田 将一
テーマ:“よりよい中・高連携のあり方について”
2月22日 『中高連携についての具体的な手段・方法についての検討会』
指導・助言:
 九州ルーテル学院大学 准教授 河田 将一
 熊本県立球磨養護学校 校長 鬼塚 行彦

(イ)保護者・教職員研修

月/日 内容
7月20日 『発達障がい理解への基礎講座』
講師:国際医療福祉大学 福岡リハビリテーション学部 講師 日田 勝子
テーマ:「発達障がいとは何か?その理解と支援」

(ウ)ケース会議

月/日 内容
6月12日 『発達障がいのある生徒への具体的な支援』
講師:熊本県発達障害者支援センター‘わっふる' センター長 田邊 剛政
8月24日 『不登校・保健室登校の生徒への対応』
講師:熊本県発達障害者支援センター‘わっふる' センター長 田邊 剛政
イ 成果と課題

 研究の3つの柱である就労支援・授業改善・地域連携に関して、本校の職員や保護者に対する講話や研修会を実施することで、これまで関心のなかった職員や保護者に対して、様々な気づきのヒントを与えられた。また、これらの研修をこの地域の横の連携としての近隣の4つの高等学校と共有できたことは、この地域の特別支援教育の意識を高めることに確かな成果を上げた。
 しかしながら、保護者に対しては、研修の時期や時間設定・内容などが難しく、今後、生徒・保護者を対象にした研修会をどのように計画し、発達障害に対する理解を深めるかが課題である。

(6)その他の支援に関する工夫

「校内検定について」

ア 概要

 基礎学力を高めるための取組である校内検定については、2年前から、1,2年生全員に、国・数・英の課題を週替わりに与え、学習後毎日提出させるとともに、その中から、月曜日に15分間のテストを実施している。課題の程度は、1年次は、小学校高学年程度から始まり、2年次終了時には高校1年終了程度まで進む。合格すれば次の級へ進み、合格できなければ、次の回も同じ級の課題を行うことになる。これによって、基礎学力の充実を図ろうと始めた。

イ 校内検定で分かった生徒の困難な状況

 校内検定で分かった生徒の基礎学力と困難な状況は次のとおりである。

  1. 書くことが遅く、板書を写すことに精一杯で、授業内容を理解することが難しい。
  2. 基礎的な計算が困難で、理数系の授業の公式の理解、式の変形・展開が難しいため、数学・理科・専門教科で躓きが出る。
  3. 作業内容を理解することが困難なため、個々の作業に時間がかかり、製図・実習などの実技系科目の課題を期限内に完成できない。
ウ 校内検定の成果について

 これまで、各教科の担任は、自分の教科の学力については把握できていたが、この校内検定の課題チェックと採点を分担して行うことで、生徒の基礎学力の現状を把握することができた。これにより、自ら担当している教科の指導に活かすとともに、生徒の授業での困難さにも気づくきっかけとなった。このようなことから、特別支援教育を全職員で行わなければならないという認識が広またことは大きな成果であった。これまでは、小・中学校レベルの基礎的なことが分からないときに、生徒もなかなか質問しづらい面があったが、職員が生徒の基礎学力の実態を知ったことで、授業での発問や声かけについても変化が見られ、基礎的な内容についても分かりやすく教えなければ全員が理解する授業にはならないという意識を持つようになった。

2 研究の方法

(1)研究委員会の設置
ア 構成
NO 所属・職名 備考
1 校長 研究総括
2 教頭 研究総括補佐
3 教務主任・特別支援教育コーディネーター 研究企画・推進
4 生徒指導主事 実態把握
5 進路指導主事 就労支援
6 3学年主任・特別支援教育コーディネーター 就労支援・研究推進
7 2学年主任・カウンセラー・就職支援員 就労支援・授業改善
8 1学年主任・特別支援教育コーディネーター 校内検定・就労支援
9 養護教諭・カウンセラー 実態把握・個別支援
10 研究委員(授業改善担当) 授業改善
イ 委員会開催回数・検討内容

開催回数3回
検討内容
第1回:「平成21年度の計画およびその内容について」
第2回:「前期の活動内容の説明と中高連携についての具体的な方法についての検討」
第3回:
 「平成21年度の研究活動の振り返りと次年度の計画内容」
 「中高連携の具体的な手段・方法に関して」

ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策

 校長が特別支援教育コーディネーターを3人指名し、教務主任、1学年主任、3学年主任が兼任した。生徒の実態を把握する中で、個別の教育支援計画については、これまでも校内で独自の形式を用いて策定してきた。また、校内支援委員会は、その計画を基本として、全職員に支援方針と支援方法の共通理解を得るよう努力している。

エ 成果と課題

 校内支援体制が整備され、特別支援教育の必要性を支援対象生徒の担任のみが感じるのではなく、あらゆる校内の校務分掌の中で、その必要性が認識された。また、様々な課題に対する講話や検討会を通して、職員の意識の向上がみられ、特別支援教育の視点から生徒に対する学習面・生活面での指導も、あらゆる点で少しずつ変わってきた。

(2)専門家チームの活用

 本県では、専門家チームは設定されていないので、本校において活用した専門家について記載する。

ア 構成
NO 所属・職名 備考
1 九州ルーテル学院大学准教授
2 芦北学園発達医療センター医師
3 熊本県南部障害者就業・生活支援センター結副センター長
4 熊本県発達障害者支援センター‘わっふる'センター長
5 熊本県立球磨養護学校校長
6 熊本県立球磨養護学校特別支援教育コーディネーター
イ 専門家チームの活用状況

(ア)九州ルーテル学院大学准教授

 中高連携及び研究授業に関して、講話や指導・助言などにおいて、専門家としての貴重な意見を出していただいた。特に、地域連携の大きな課題である中高連携の具体的な手段・方法においては、他の地域の例など実例を挙げながら、連携を始める上での方法や留意点について、具体的で的確な指摘をもらうことができた。

(イ)芦北学園発達医療センター医師

 不登校・保健室登校の生徒への対応に対して、医師という立場からの専門的な知識やこれまでの経験を基にした。指導の方法や留意点について意見を聞くことができた。このことで、本校職員も医療機関との連携を身近に感じることができ、必要に応じて医療機関との連携を図ることの重要性を確認することができた。中高連携を含め、保護者の視点を正しく理解し、支援方法の具体的な指針を掴むことについて、貴重なアドバイスをもらうことができた。

(ウ)熊本県発達障害者支援センター‘わっふる’センター長

 今年度、2回のケース会議を開き、実際の授業を観ていただくことで、生徒の特性や学習面・生活面での困難さついて的確な指導をしていただいた。これにより、担任及び教科担当者も自信をもって支援計画を立てることができた。

ウ 成果と課題

 躓きを抱えている生徒たちへの対応について、専門的な知識や経験が少ない我々にとっては、専門家からのアドバイスにより、しっかりした根拠を持って支援に当たることができるようになるとともに、支援計画を策定する上でも大きな力となった。また、全職員がそれぞれの生徒の支援策を共通理解する際にも、表面に出ない特性に関して、しっかりした説明をすることができた。ただ、専門家との連携は、今回のようにあらかじめモデル事業の委員としての位置づけがあれば、相談や連絡もしやすく、旅費等の予算面も問題はないが、モデル事業としての位置づけがない場合は、なかなかつながりを持つことは困難である。今後、これらの専門家の講話や具体的支援に関するアドバイスを円滑に享受できるような公的なシステムがあれば、他の地域の高等学校でも、もっと身近に生徒への対応方法の指針を得ることができると期待される。

(3)関係機関との連携
ア 他の高等学校や特別支援学校との連携

 本校のモデル事業の講話や検討会、専門機関との連携を本校だけのものにせず、地域の子どもたちがどの高等学校へ入学しても、同じ支援が受けられるようにという思いから地域の横の連携として、人吉球磨地区高等学校特別支援教育研究会を立ち上げた。具体的には、本校を含む近隣の5つの高等学校と熊本県立球磨養護学校で、各高校の課題や特別支援教育に関する実践を出し合いながら、専門機関によるアドバイスの下に特別支援教育に関する研究成果を共有した。また、中高連携についても、新入生に関するどのような情報を出し合うかを、管内の16校の中学校と本校を含む5校の高等学校とで話し合い、中高連携を始める枠組みを作ることができた。

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携

<熊本県発達障害者支援センター‘わっふる’>
 本校の専門委員会に出席していただき、本校の研究に関して具体的な示唆を与えていただいた。また、6月と8月にケース会議を開催した際、指導・助言者として貴重な意見を出していただき、不登校・保健室登校の生徒の指導を含め、発達障害の理解に専門家として大きな役割を果たしていただいた。

ウ 地域の教育施設や人材等の活用

<熊本県立球磨養護学校>
 熊本県立球磨養護学校の校長や特別支援教育コーディネーターから具体的な支援に関する指導・助言をいただいたり、また、必要に応じて関係機関との連携の窓口となっていただいた。また、本校の取組の一つである中高連携について、地域の16の中学校と5つの高等学校をつなぐ役割を果たしていただき、次年度に向けての中高連携を更に進める指針を得ることができた。

エ 成果と課題

 研究の3つの柱である就労支援、授業改善、地域連携に関して、近隣の高等学校と特別支援学校で講話や研修会を共有することで、本校職員や保護者を含め、地域の特別支援教育の促進につながってきたと思われる。また、不登校・保健室登校などの生徒に対するケース会議を、お互いの事例を出しながら行うことができ、地域の高等学校同士の有機的な連携の基礎も確立しつつある。今後の課題としては、中高連携における地域の協力体制を作るに当たり、中学校やその所管の教育委員会が複数にまたがるため、地域全体で移行支援を広げることの難しさを感じている。今後、地域特別支援連携協議会の課題とするとともに、関係機関や特別支援学校等と協力しながら、本校の取組を少しでも理解してもらえるよう努力していきたいと考えている。

(4)関連事業等との連携

 平成21年度人吉・球磨地区特別支援教育セミナーに関して、高等学校の分科会における企画、講演者の選定、依頼及び会議の構成を担当した。この分科会には、本モデル事業による人吉球磨地区高等学校特別支援教育研究会を通して、高等学校における特別支援教育への関心が高まっていたこともあって、前年よりも多くの参加者があり、討議内容に関しても活発な議論が交わされた。

3.今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

1 全日制課程おける弾力的な単位の認定方法について

 不登校や教室へ入れない生徒に対しては、特に実習を伴う専門高校では単位を取得できるようにすることは非常に困難である。このような生徒の就学を保障する方法としては、部分的な単位制の導入等で、取得できた単位を無駄にすることなく、次年度の学年や転学する際にも有利に働くシステムができれば、受け入れた側も本人の状況に応じた対応をもう少し余裕を持って行うことができると思われる。

2 学習支援員の配置

 学力的に厳しく、一斉授業だけではなかなか授業に付いていけない生徒に対しては、個別指導がどうしても必要となってくる。また、学力差の大きいクラスでは、授業をどのレベルに合わせて行うかについては、非常に教科担任としても悩むところである。もちろん、授業方法の工夫ですべての生徒に分かりやすい授業づくりを進めることは大切なことではあるが、生徒側に立ってみるとすべての生徒を満足させる授業はなかなかできないのが実情である。そこで、学習支援員を配置することで、T・Tの授業や、放課後、部活動や校務分掌で多忙な教師に代わって、必要な支援を適宜行うことを通し、授業のレベルや進み方をある程度保つことが可能になると期待される。

4.その他特記事項(エピソードを含む)

 特記事項なし

5.モデル校の概要

1 学級数と生徒数 (平成21年5月現在)

課程 学科 第1学年 第2学年 第3学年 合計
学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数
全日制 機械科 2 80 2 81 2 78 6 239
電気科 1 40 1 40 1 36 3 116
建築科 1 38 1 41 1 31 3 110
建設工学科 1 34 1 39 1 35 3 108
5 192 5 201 5 180 15 573

2 教職員数 (平成21年5月現在)

校長 教頭 教諭 講師 養護教諭 非常勤講師 実習助手 ALT 事務職員 その他
1 1 42 9 1 1 13 1 5 1 75

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成22年07月 --