特別支援教育について

長崎県 長崎玉成高等学校(私立)

都道府県名 長崎県
学校名 長崎玉成高等学校
学校所在地 長崎県長崎市愛宕1‐21‐6
研究期間 平成21~22年度

1.概要

1 研究課題

 高等学校における発達障害のある生徒一人ひとりにきめ細やかな教育的支援を行う取組み ~社会適応に向けた、基礎学力・ソーシャルスキル力の育成~

2 研究の概要

 平成21年度より従来の普通科1.型に加え、新しく「普通科2.型」を設置。2.型は「小・中学校時代において心因的な理由で不登校の状態にあった者や発達障害が見られる者」を対象としたクラスである。そこで。一人ひとりの教育的ニーズに対応した校内支援体制の確立、さらに、社会適応に向けた長崎県内でも初の取り組みである「SST」の授業実践、基礎力養成を目的とした「ベーシック」「ハウスワーク」等の教材・指導方法の開発を行う。

3 研究成果の概要

(1)校内支援体制の確立。

ア 拡大特別支援教育対策委員会を職員18名にて構成。特別支援教育コーディネーターを中心に5つのワーキンググループ(情報収集・理解啓発・学習支援・進路指導・対策対応)に分かれ研究実践を行った。

イ 職員研修として外部講師を招き3回研修会を実施。学校視察・セミナー研修に12ヶ所(延べ32名)を派遣。その後校内において報告会を行った。

(2)発達障害のある生徒の実態把握。

ア 入学前親子面談・中学校訪問・テストバッテリーM2・気づきカードなどにより「個人ファイル」作成。

イ 個別の教育支援計画作成。

(3)学校設定科目「ベーシック」「SST」「ハウスワーク」の実践研究。

 担当者会議において教材・指導方法の検討。また年度末の会議にて評価法の改善及び次年度に向けての指導方法について話し合いを行った。

(4)障害のない生徒及び全ての保護者への理解啓発活動。

ア 生徒に向けて:「寛容なる集団作り」のテーマのもと、相談部通信毎月発行。全校生徒10分間面談。生徒会新聞にスクールカウンセラーによる寄稿。各教員による基本的な道徳指導を行った。

イ 保護者に向けて:PTA新聞に掲載。専門家による講演会開催。

2.詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針
ア 生徒の実態(把握方法も含めて) 在籍数20名

 中学校訪問・親子面談・テストバッテリーM2・気づきカード・事例検討会を実施。

1.発達障害であると診断を受けている者 4名
 A:学習障害 B:アスペルガー症候群
 C:学習障害 D:発達性協調運動障害・学習障害

2.スクリーニングチェックによってあげられた者 2名
 A:自閉傾向 B:学習障害

3.中学校時代不登校であった者12名

イ 指導方針

(ア)本校初の特化型クラスであるが、これまで本校が行ってきた「一人ひとりにきめ細やかな指導を行う取り組み」の実績を土台として個別の実態把握に努める。

(イ)個性やニーズに対応した個別指導を行いながら、集団を作る。

(ウ)学校設定科目「SST」「ハウスワーク」「ベーシック」「職業訓練」の実践研究を通して生徒の実態に即した教材・指導方法の開発に取り組む。

(エ)研修による職員のスキルアップを通して「生徒理解そしてわかりやすい授業」の構築を図る。

(オ)障害の無い生徒および保護者に対する理解啓発活動を進める。

ウ 成果と課題

(ア)取り組みから1年が経過し、中学校時代完全不登校であった生徒達が毎日登校し、発達障害がみられる生徒たちもそれぞれに友人ができ穏やかな笑顔が多く見られる。授業中も活発な中にも落ち着いた学習態度である。

(イ)長崎県内初の取り組みである「SST」は指導者も試行錯誤の中、教師2名臨床心理士1名の計3名が毎時間打ち合わせ・検討を行った。公開授業を9月及び3月に実施。年度末検討会において1年間の感想として、2.型が発達障害と心因性不登校の生徒を対象としたクラスである為なかなか難しい状況であったことがまず出された。しかしながら、この1年間の全ての要素が効を奏し、

  • 通学ができるようになった。
  • 発言ができるようになった。
  • 集団生活の中でまわりに合わせられるようになった。
  • 自分の感情を抑えられるようになった。
  • 気の合う仲間ができ喋るようになった。

などの成果が上げられた。次年度は授業の最初と最後に「尺度調査」を実施。「ストレス」の指導案に工夫を加えることとした。
次に「ハウスワーク」検討会においては、「生活自立」を目標として「小・中学校時代の学び直し」という観点で授業を行ったところ、成果としては

  • 予想以上に包丁の使い方が上達したこと。
  • 回数を重ねることが大事。
  • 最初に「説明→調理→後片付け」を指導し、1品1役としたことが生徒にとってわかりやすかった。
  • 真面目なので、最初に指導しておくときちんと年度末まで行えた。などが上げられ、今後の課題としては
  • 個人差の大きい分野の個人指導。
  • 危険度認知の低い生徒への指導。
  • 今年度と同様、実技の授業における複数教員配置。

以上の意見が出された。

「ベーシック」は自分のレベルに合わせて国語・数学・英語を学習する形態のため大変好評であった。担当者会を開き、教材の検討・指導方法・評価法の見直しを行った。

(ウ)数多くの職員研修は職員の意識改革に繋がった。それぞれの特性に配慮したわかりやすい授業の工夫をそれぞれの教師が心がけるようになった。

(エ)全校生徒一人ひとりを大切にする取り組みは「受容する心」の育成に繋がった。
今後の課題としては、次年度これらの成果をもとにさらなる個別指導の充実。全校生徒を視野に入れた授業のユニバーサルデザイン化。そして、全ての人権が保障されたさらなる命の平等を目指した道徳教育の実践が上げられる。

(2)発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫
ア 授業の際の配慮事項等

(ア)授業担当者会を開催し個別の実態把握。
(イ)黒板には授業内容のみ板書。連絡事項等はホワイトボードに記入。
(ウ)授業において板書事項にも一部「ふりがな」を付けた教科もあった。
(エ)タイムタイマー設置。
(オ)板書のチョークの色分けに配慮。
(カ)学習支援員を配置。
(キ)授業中、ノートを取る時間を設け、机間巡視しながら記入できているか確認。

イ テストにおける配慮事項等

(ア)内容・問題の出し方において配慮することとした。
(イ)試験問題の設問において「ふりがな」を付け、終了後生徒・教師にアンケートを実施。

ウ 評価における配慮事項等

 評価に関する検討会を行ったが現段階では、特別な配慮は行わないこととした。

エ 成果と課題

(ア)黒板を板書専用とすることで、生徒も集中しやすい環境となった。
(イ)タイムタイマーの使い方については、今後の社会生活を考えると時計の見方の習得も必要であるため、小テストの残り時間表示など後半は必要に応じて使うようになった。
(ウ)板書での色チョークの使い分けと、生徒がノートに用いている色ペンとの繋がりが持てていない。今後の課題である。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援
ア 支援の方策と内容

(ア)早期取り組みの過程として
 1年生:生徒の観察・適性検査を実施。発達障害があると思われる生徒を確認。
 2年生:生徒および保護者と面談。長崎県発達障害者支援センターを紹介。
 3年生:就労支援フローチャートに沿って指導、就労支援計画作成実行。目標達成を図る。

(イ)保護者に向けて特別就労支援の利用を呼びかけるほか、縁故による就職についてもお願いする。

イ 成果と課題

(ア)研究対象外ではあるが、3年生が特別就労支援により就職が決定した。さらに2名特別就労支援計画を利用した就職を目指している。
(イ)公共職業安定所就職促進指導官より「知的障害・身体障害雇用は順調であるが、発達障害の雇用は難しい。早期の取り組みが必要で関係各機関との連携が大切である。」「特別就労支援を受けることに対する保護者の不安には、差別への恐れがある。社会全体の理解が必要。」という助言をいただいた。さらに取り組むべき課題である。
(ウ)本校における就労支援チャートを作成。職員・保護者に紹介し利用を呼びかけ、チャートに沿って実践中である。

(4)一般の生徒に対する理解推進等の指導の在り方
ア 指導の工夫と取組

「寛容なる集団作り・・・全ての生徒の人権を守る」

(ア)教育相談部通信を毎月全生徒に配布。全校生徒一人ひとりが大切な存在であること。人にはいろいろな特性が有り、そのことを認め合い支え合う暮らしが幸せに繋がること。・・・を一貫して伝え続けた。
(イ)全校生徒10分間面談実施。学習・友人・生活・ストレスマネジメント・将来について、教育相談部が実施。
(ウ)日々の生活の中で道徳教育の充実を図った。
(カ)生徒会新聞にて「カウンセリングについて」・PTA新聞にて「発達障害について」専門家の寄稿を掲載した。

イ 成果と課題

「人権の保障と尊重」を知識と体験の両面から指導を行った。今後さらに学校内に様々な生き方の尊重・受容が進み自己肯定感が増すことによる「寛容なる集団作り」を目指すことが課題である。

(5)教職員や保護者の研修等
ア 研修会開催の回数・時期・研修内容等

(ア)講演会
テーマ 「特別な支援を要する生徒の理解と指導」
期日 5月23日・7月24日
講師 長崎県立鶴南養護学校校長 尾崎洋一郎先生

(イ)視察研修 (11ヵ所)7・12・1・2月に5回報告会を開いた。
5月 大阪府教育センター 1名
6月 (私立)西日本短期大学付属高等学校 4名
11月 福岡県障害者職業能力開発校 4名
12月
 大阪府立松原高等学校 4名
 高機能自閉症・アスペルガー症候群セミナー 4名
 長崎県立鶴南養護学校 2名
 日本発達障害ネットワーク年次大会 4名
 (私立)鹿児島城西高等学校 5名
1月 高知県立高知北高等学校 1名
2月
 兵庫県立姫路別所高等学校 1名
 (私立)星槎高等学校 2名

(ウ)事例検討会4回

(エ)講演会 (一般公開)テーマ「発達障害を持つ生徒のいいところ応援計画」
期日 平成22年3月20日(土曜日)
講師 阿部利彦(埼玉県所沢市教育委員会)

イ 成果と課題

(ア)成果
 数多くの学校視察・報告会・講演会は職員の意識向上に大きな効果を上げた。
 発達障害についての正しい理解、指導方法について理解が深まり、職員間にさらに学ぼうという意識がみられるようになった。

(イ)課題
 多様な障害やその特性、個々のニーズに沿った教育支援の手だてについて今後研修を深めスキルアップすることが課題である。
 全ての保護者に向けて「発達障害についての正しい理解を図る」啓発活動をさらに図る必要がある。

(6)その他の支援に関する工夫
ア 家庭学習における個別指導

 各自の学習進度に応じて、国語・数学・英語について課題を出し翌日指導という形式にて指導を行った。

イ 総合学習

 「漢字検定」受験という目標のもと、1年間学習に励み2月に全員受験した。

ウ 校外学習

7月 宿泊体験学習
3月
 専門学校体験入学
 九州調理師専門学校・ヒューマンアカデミー専門学校・麻生医療専門学校
3月 テーブルマナー講習会

2 研究の方法

(1)研究委員会の設置
ア 構成
NO 所属・職名 備考
1 校長  
2 教頭  
3 教務・生徒指導・進路指導各部長 3名
4 学年主任 3名
5 学科主任(普通・生活技術・福祉・衛生看護科 4名
6 普通科1年担任 3名
7 教育相談部 2名
8 養護教諭 1名
9 特別支援教育コーデイネーター  
10 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 准教授・医学博士
11 長崎県こども医療福祉センター 小児科医師
12 長崎玉成短期大学 教授・臨床心理士
13 長崎県立鶴南養護学校 校長
14 長崎公共職業安定所 就職促進指導官
イ 委員会開催回数・検討内容

(ア)職員による各ワーキンググループ会議
(イ)外部協力者参加
 第1回平成21年8月29日
 第2回平成22年3月6日
(ウ)内容
 各ワーキンググループ毎に計画立案・実践・検証評価・改善。

ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策

(ア)「特別支援教育コーデイネーター」は教育相談部長・特別支援教育対策室長を兼任。1名。本校における全ての研究企画・相談・個別の教育支援計画作成・面談・外部との連絡調整等を行った。

(イ)「個別の教育支援計画」は1学期における「気づきカード」「適性検査」などから必要と思われる生徒および保護者と面談。作成を行った。

エ 成果と課題

(ア)対応に時間がかかる事柄でありながら、現在コーディネーターが1名である。今後は「専門知識と対話の仕方などを熟知したコーディネーター」の養成が課題である。
(イ)今年度は教育支援計画作成について保護者・本人共に理解が得られにくい場合があった。外部協力者からは「2.型に関しては全員作成でいいのでは。」という意見をいただいた。再度検討し次年度に臨みたい。

(2)専門家チームの活用
ア 構成
NO 所属・職名 備考
1 長崎玉成短期大学 教授・臨床心理士
2 スクールカウンセラー 臨床心理士
3 長崎県立鶴南養護学校 校長
(3)関係機関との連携
ア 他の高等学校や特別支援学校との連携

長崎県立鶴南養護学校にて職員1日研修(2名)。
(私立)聖マリア小学校にて職員1日研修(2名)。

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携

 発達障害者支援センター主催の就労支援夏期集中講座(5日間)に生徒4名、秋のセミナーに生徒1名参加。現在もカウンセリング継続中。
 長崎県女性・こども・障害者支援センターに個別の相談

ウ 地域の教育施設や人材等の活用

 「学習支援員」として、長崎大学大学院特別支援教育専攻2年生が通年にて参加。
 「就職指導専門員」が週4日勤務。個別の指導にあたった。
 「若者自立支援長崎ネットワーク」説明会に職員参加。
 「全国LD親の会」学習会に職員参加。

エ 成果と課題

(ア)一人ひとりの生徒を多面的に見る。多面的に支える。―という視点から大変有効であった。今後もさらに連携を図りたい。
(イ)今年度初めて「学習支援員」を導入した。授業時のサポート、放課後の補習と効果的であった。また、毎回の記録をとうして生徒一人ひとりの学習状況の把握を行うことができた
(ウ)3年生の進路指導において、「就職指導専門員」が特別就労部門において細かく指導、進路決定に繋がった。今後も継続が望まれる。

(4)関連事業等との連携

 無し

3.今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

 発達障害を新たに対象とした特別支援教育が小・中学校に導入されて3年、高等学校においてはまだまだ理解が十分ではない現状である。そこで今後の支援の在り方として、

 第1に社会全体が発達障害に対する正しい認識を持ち、様々な生き方を肯定することが一般常識化することである。

 第2に個別の対応には、指導者の増員が不可欠である。私立高校においても指導者増員のための補助をお願いしたい。本校全校生徒405名中、発達障害の診断を受けている生徒は13名。特別な教育的支援が必要と思われる生徒は64名。合計77名。実に15.8%の生徒に支援が必要と思われる現状である。

4.その他特記事項(エピソードを含む)

ア アスペルガー症候群(中学校時代は不登校)の生徒:保護者の話
 7月面談にて「今までずっと、我が子がアスペルガーであることを隠してきた。でもこの学校では障害を前提として面談ができる。私の心が軽くなった。」
 2月面談にて「この頃は友達もでき、遅刻も無くなり元気に登校している。そしてこれまでは考えもしなかった将来のことについて話すようになった。進歩だ。」

イ 軽度知的障害の生徒:保護者の話
 2月面談にて「中学校までは、家庭学習をしようにも難しすぎて手が付けられなかった。しかし今年は子どもに合った宿題が出され家庭学習をするようになった。また、これまではクラスメイトに支えられてきたが高校生活では友だちができ、休日には約束をしそれに合わせて出かけるようになった。充実した1年間であった。」

5.モデル校の概要

1 学級数と生徒数 (平成21年5月現在)

課程 学科 第1学年 第2学年 第3学年 第4学年 合計
学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数
全日制 普通科1 1 32 1 35 1 35     3 102
普通科2 1 20             1 20
生活技術科 1 23 1 27 1 29     3 79
福祉科 1 23 1 22 1 23     3 68
衛生看護科 1 48 1 48 1 48     3 144
5 146 4 132 4 135     13 402
定時制 ○○科                    
△△科                    
                   
5 146 4 132 4 135     13 413

2 教職員数 (平成21年5月現在)

校長 教頭 教諭 養護教諭 非常勤講師 実習助手 ALT 事務職員 司書 その他
1 1 27 1 7 0 0 6 0 1 44

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成22年07月 --