特別支援教育について

佐賀県 太良高等学校(公立)

都道府県 佐賀県
学校名 佐賀県立太良高等学校
学校所在地 佐賀県藤津郡太良町大字多良4212‐6
研究期間 平成21~22年度

1.概要

1 研究課題

 発達障害のある生徒も気になる生徒の一人として受け入れて、自己実現を図らせていくために、全日制高校で求められるカリキュラムをはじめ、支援体制、効果的な指導法や教材、就労支援などの研究を行う。

2 研究の概要

 発達障害のある生徒に対する支援体制の充実を図るとともに、発達障害のある生徒に対する就労支援や一般の生徒に対する理解推進等の指導の在り方等について研究を進める。また、教職員の資質向上や保護者の理解啓発を推進するために研修等を実施する。

3 研究成果の概要

(1)発達障害のある生徒に対応した教育課程及び教育内容について

 平成23年度改編に向けて立ち上げられた新太良高校設置準備委員会及びそのもとに設置された作業部会の中で協議を行い、それぞれの適性に応じた学習計画が可能となる多彩な科目設定・少人数学習指導・TT等によるきめ細やかな学習指導等を検討した。

(2)授業方法や評価方法等の工夫

 発達障害や学習支援に関する校内研修、研究授業や他校視察等による実践研究を行い、生徒理解を深めるとともに、生徒の特性に配慮した支援や指導について研究を行った。教職員は、今まで以上に生徒の実態を把握して、指導や支援に取り組むようになってきた。

(3)個別の指導・支援の方法について

 学習面及び生活面において個別の対応が必要な場合があり、事例研究を通して担任や教育相談担当、スクールカウンセラー等が連携して対応する形ができてきた。今後は、より体系的な支援体制を整えて、スムーズな対応ができるようにしていく必要がある。

(4)教育環境の整備

 平成21年度より導入された電子黒板を用いた授業を行い、効果的な学習支援について研修と実践を重ねた。また、教育相談に対応するための施設等の設置も検討した。

2.詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針
ア 生徒の実態(把握方法も含めて)

(ア)日常的な行動観察による把握

授業やホームルームでの生徒の様子から、以下のような実態が見られた。

  • 基本的生活習慣や規範意識が身についていない。
  • 友人とのトラブルなど問題行動を起こす。
  • 授業中に教師の連絡や指示された内容がわからないことがある。
  • 教科書を読んだり板書内容を写したりすることをスムーズに行うことが難しい。
  • 周囲のことが気になって、授業に集中することが難しい。

(イ)チェック・リストによる行動傾向の把握

 学習面や行動面における困難や問題の実態について詳細を知るために、気になる生徒を抽出し、客観的に把握することにした。各学年の担任等で抽出した1年生2名、2年生1名、3年生2名について、文部科学省作成の「児童・生徒理解のためのチェック・リスト」を使ってチェックを行ったところ、以下のような傾向が見られた。

  • 個別に言われると聞き取れるが、集団場面では難しい。
  • 指示の理解が難しい。
  • 学校での学習で、細かいところまで注意を払わなかったり不注意な間違いをしたりする。
  • 集中して努力を続けなければならない課題を避ける。
  • 授業中や座っているべき時に席を離れてしまう。
  • 思いつくままに話すなど、筋道の通った話をするのが難しい。
  • 内容を分かりやすく伝えることが難しい。
  • 気が散りやすい。
  • 常識が乏しい。

(ウ)基礎学力の実態把握

 生徒の基礎学力の実態を把握するために、本校で作成した国語、英語、数学の基礎学力テストに加えて、全国学力研究会が作成した基礎学力テスト(国語、英語、数学)を実施したところ、以下のような傾向が見られた。

  • 国語、数学、英語、すべてにわたり基礎・基本といわれる知識が身についていない。
  • 二桁の四則計算を間違えたり、簡単な図形の求積問題などにおいて公式を知らなかったり、覚え間違えたりしている。

 以上のように、学習面、生活面において様々な困難のある生徒が在籍している。

イ 指導方針

 学習面では、生徒の特性に基づく効果的な指導・支援を行う。生活面では、スクールカウンセラーや特別支援学校等の専門家等の協力を仰ぎながら、社会スキルの定着が図れるように支援体制を整える。

ウ 成果と課題

 当初は発達障害か否かの判断に目が向きがちだったが、研修等を通して、生徒が、どのような「分かりにくさ」や「困難」を持っているかという視点に立ち、生徒一人ひとりの生活上の制約や困難に目を向けるようになった。今後は、生徒の教育的ニーズにしっかりと対応できるように、教職員の支援力の向上を図っていきたい。

(2)発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫
ア 授業の際の配慮事項等

 学習面で有効と考えられる以下の支援を、授業の中で行った。

  • 学習の見通しが持てるように、教科書や問題集のページやその時間に取り組む内容を掲示する。
  • 書くことが苦手な生徒のために、書き込みプリントを使用して板書の軽減を図ると同時に、板書の際に文字の大きさや色の使い分けなど、見やすさへの配慮を行う。
  • 個別の対応が必要な場合は、机間指導の際に声かけや説明を行う。
  • 学習内容の理解と定着を図るために、電子黒板による視覚的支援を行う。
  • 授業が単調にならないように、授業の中で内容の異なる活動を用意する。

 また、個別に指導が必要な場合は、放課後に課題等を行う時間を設定して、指導を行った。

イ テストにおける配慮事項等

 考査一週間前から特別時間割(45分授業)を組み、すべてのクラスで学習会と放課後の勉強会を設定し、集中的に取り組める時間を確保した。
 また、考査期間中に自習時間を設けて、直前のテスト勉強を行うことができるようにした。

ウ 評価における配慮事項等

 考査試験の成績に加えて出欠状況、課題の提出状況やノートの状況等を考慮して、総合的に評価した。

エ 成果と課題

 今年度は、各教職員が試行錯誤しながら学習支援の実践研究を行った。授業における配慮について、教職員一人ひとりが創意工夫しながら取り組んだところ、生徒は学習意欲を維持して活動するようになってきた。特に、電子黒板の活用では視覚的に提示できるため、言葉による説明より学習内容等が理解しやすく、スムーズに学習できていた。
 また、全校学習会や放課後の勉強会においては、生徒同士で勉強する場面が多く見られるようになった。家庭学習が定着していない生徒や、どのように勉強していいのか分からない生徒にとって、模範となる生徒が側にいて、共に学習することができる環境は必要であると思う。
 次年度も継続して実践研究に取り組み、支援方法の共有と蓄積を進めていきたい。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援
ア 支援の方策と内容

 本校では、従来から以下のような進路指導を行っている。

1年 進路ガイダンス、礼法指導
2年 進路ガイダンス、礼法指導、インターンシップ
3年 面接指導、模擬面接、礼法指導

 総合的な学習の時間を使って1年次より進路ガイダンスを行い、進路情報の提供と進路意識の高揚を図っている。また、ガイダンスの中でマナー講座を設けて、マナーの意義と大切さをはじめ、姿勢や立ち振る舞い等の所作についても指導を行っている。
 2年次には、2年全員が3日間のインターンシップを行っている。
 3年次には、面接指導に加えて模擬面接指導を行い、OBや同窓会会長等の外部の方に面接員として参加していただき、就職に向けた実践的な指導を行っている。

イ 成果と課題

 進路ガイダンスを1年次から行うことは、将来の進学について意識させるよい機会となっている。また、生徒が軽視しがちなマナーについて、外部講師から説明や指導をより細かく受けることができたことも、その意義を知る上で有効ととらえている。インターンシップは実際に働くことで、就労をより身近に考える機会となっている。
 発達障害のある生徒への支援については、平成23年度に向けてハローワーク等の専門機関と連携して、就労支援の在り方を研究していく必要がある。

(4)一般の生徒に対する理解推進等の指導の在り方
ア 指導の工夫と取り組み

 今年度は十分に取り組むことができなかったので、次年度、先進事例等を参考にして取り組みたい。

(5)教職員や保護者の研修等
ア 研修会開催の回数・時期・研修内容等

(ア)全教職員を対象とした研修会等

【第1回】「発達障害の理解と支援」
期日 6月25日(木曜日)
講師 佐賀県立うれしの特別支援学校小山正巳教諭、内田国博教諭
内容
 発達障害の定義とLD、ADHD、広汎性発達障害等の特性について
 発達障害のある生徒の困難さと支援について

【第2回】「基礎的な学習に困難を示す生徒への学習支援について」
期日 7月30日(木曜日)
講師 佐賀大学文化教育学部園田貴章教授
内容
 学習障害の特性の理解と具体的な支援について

【第3回】「生徒の実態と具体的な支援の在り方について」
期日 10月14日(水曜日)
講師 佐賀県教育センター研修生立石斉教諭
内容 特別支援教育に関する本校教職員の意識アンケート及び生徒に対して行った生活・学習アンケートの結果から見える生徒の実態と今後の課題について

【第4回】「LD・ADHD等の心理的疑似体験プログラムを用いた分かりにくさの体験」
期日 12月25日(金曜日)
講師
 佐賀大学文化教育学部園田貴章教授
 佐賀大学文化教育学部中島範子特別研究員
内容 学習面や生活面における分かりにくさや困り感についての疑似体験を通した生徒理解と支援について

(イ)事例研究及び授業研究

【第1回】事例研究
期日 5月28日(木曜日)
講師 佐賀県立うれしの特別支援学校小山正己教諭、内田国博教諭
内容
 校内参観及び気になる生徒についての指導助言
 日常生活の中での関わりについて
 スクリーニングテストについて

【第2回】事例研究
期日 10月23日(金曜日)
講師 佐賀県立うれしの特別支援学校小山正己教諭、内田国博教諭
内容
 校内参観及び学習支援についての指導助言
 授業における活動について
 授業内容の掲示について

【第3回】「事例研究会並びに授業研究会」
期日 11月19日(木曜日)、20日(金曜日)
講師 国立特別支援教育総合研究所研究員藤井茂樹先生
内容
 事例研究会
 生徒の様子と教職員の関わりについて
 意欲的な活動につながる支援について
 授業研究会
 生徒の様子と教職員の関わりについて
 意欲的な活動につながる一斉指導について

【第4回】「事例研究会」
期日 1月15日(金曜日)
講師 本校スクールカウンセラー赤坂朝子先生
内容 1年生対象のカウンセリング状況の報告と今後の対応及び気になる生徒に関する情報共有

【第5回】「事例研究会」
期日 1月25日(月曜日)
講師 本校スクールカウンセラー赤坂朝子先生
内容 2年生対象のカウンセリング状況の報告と今後の対応及び気になる生徒に関する情報共有

(ウ)学校視察

7月24日(金曜日)長崎県立鹿町工業高等学校
 ユニバーサルデザインによる一斉指導について

8月 6日(木曜日)兵庫県立姫路別所高等学校
 集中できて、分かる授業の研究について

9月10日(木曜日)和歌山県立和歌山東高等学校
 総合的な学習の時間を活用した基礎学力の充実について

9月10日(木曜日)京都少年鑑別所
 高等学校における発達障害のある生徒の対応等について

9月11日(金曜日)京都府立朱雀高等学校
 養護教諭を中心とした「気になるカード」を用いた生徒の実態把握について

2月23日(火曜日)愛知県立衣台高等学校
 生徒へのサポート体制の構築について

3月 4日(木曜日)西日本短期大学附属高等学校
 個性やニーズに応じた「学力保障」のための授業方法や評価方法について

イ 成果と課題

 校内研修や実践研究を通して、本校教職員の発達障害への理解は深まった。また、事例研究等を通して、生徒がどんなことに困難を持っているのか、具体的な事例をもとに支援を考えるようになった。平成22年度も、生徒の困り感の視点から支援を行うことができるよう、実践を重ねていきたい。
 保護者対象の研修については、職員研修を優先したために実施までには至らなかった。平成22年度は、PTA総会等の機会を捉えて講演等を計画し、保護者への理解を図っていきたい。

(6)その他の支援に関する工夫

 平成21年度から、各クラスに導入された電子黒板を用いた授業の開発を、佐賀県教育センターに依頼して、研修と研究授業を行った。従来の板書と言葉による説明を行う授業展開だけではなく、電子黒板を用いた視覚的支援を併用することにより、見通しをもって、落ち着いて学習に取り組む場面が見られた。教職員も、電子黒板を積極的に授業に取り入れて、使用方法や教材研究等の実践研究を行っている。
 平成22年度も、電子黒板の効果的な利用方法について実践を重ねていく中で検討していきたい。

2 研究の方法

(1)研究委員会の設置
ア 構成
  所属・職名 備考
1 佐賀大学文化教育学部 教授
2 嬉野温泉病院 医師
3 臨床心理士 西九州大学非常勤講師
4 産業カウンセラー
5 県立学校スクールカウンセラー
6 太良町立多良小学校 教諭
7 嬉野市立塩田中学校 教諭
8 佐賀県立うれしの特別支援学校 教諭
9 佐賀県教育センター研究課 係長 生徒指導担当
10 佐賀県教育庁教育政策課 指導主事 特別支援教育担当
イ 委員会開催回数・検討内容
  開催日 内容
1 12月25日 本校の概要についてモデル事業の取り組みについて
2 2月24日 平成 22年度の取り組みについて
ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策

 特別支援教育コーディネーターを1名指名し、生徒の実態をよく知る養護教諭の協力を得ながら、校内における推進と外部との連絡調整等を行った。
 本校では、近隣の特別支援学校の巡回相談員を活用し、生徒が抱える制約・困難に関する背景や、その支援について助言を受けているが、その際の助言内容等を個別の教育支援計画に記載し、一貫した支援のために活用していく。

エ 成果と課題

 特別支援教育コーディネーターは、今年度赴任してきため、本校生徒の状況をより周知した養護教諭が、コーディネーターの役割を担うことが多くなってしまった。生徒の状況等の情報を共有し、支援を行う体制を整えることが必要である。

(2)専門家チームの活用
ア 構成
  所属・職名 備考
1 佐賀大学文化教育学部 教授  
2 国立特別支援教育総合研究所 研究員  
イ 専門家チームの活用状況
  所属・職名 内容
1 佐賀大学文化教育学部 教授 校内研修、研究委員会
2 国立特別支援教育総合研究所 研究員 事例研究、授業研究

 佐賀大学文化教育学部教授には、校内研修会(7月30日、12月25日)において、発達障害の分かりにくさの理解と、学習障害の支援について講演をしていただいた。また、研究委員会(12月25日、2月24日)において、モデル事業の取り組み全般に対する助言をいただいた。
 国立特別支援教育総合研究所研究員には、事例研究会及び授業研究会(11月19日、20日)において、生徒の分かりにくさや困り感への指導・支援に対する意見と助言をいただいた。

ウ 成果と課題

 専門家からは、以下の点について意見・助言があった。

  • 学ぶ楽しさを体感できる授業作りの必要性
  • 基本的な学力の定着の重要性
  • 生徒のプランニング力の育成
  • 「できる」授業に向けた教材開発と自己評価を上げる指導、支援について

 それぞれの専門の立場から、平成23年度改編も踏まえた取り組みと方向性について、助言をいただくことができたのは有意義であった。
 事例研究会、授業研究会のいずれにおいても、実態の違いに応じた一斉指導の必要性の指摘を受けた。他の生徒と活動する中で達成感を持てるような支援について、今後も指導助言を受けながら研究を行っていきたい。

(3)関係機関との連携
ア 他の高等学校や特別支援学校との連携

 近隣にある佐賀県立うれしの特別支援学校の巡回相談員を活用して、生徒が抱える困難等に関する背景やその支援について助言を受けた。また、発達障害に関する研修の講師依頼を行った。

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携

 連携するまでには至らなかったが、毎月開催される地区の自立支援協議会に参加して、発達障害者の地域サービスの利用状況等の現状と課題について情報収集を行った。

ウ 地域の教育施設や人材等の活用

 特になし

エ 成果と課題

 近隣の特別支援学校の巡回相談員の活用は、生徒の具体的な支援を考える上で大変有益である。事例研究会等の実施を通して今後も連携を続けていきたい。

(4)関連事業等との連携

 今年度は、発達障害支援では特になかった。

3.今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

 高等学校における発達障害のある生徒の指導・支援は、様々な課題を抱えながら試行錯誤の取組みが行われている。高等学校において、生徒たちが学校生活にうまく適応できないケースが見受けられるが、その一因として小学校、中学校で行われてきた指導・支援が高等学校に十分に引き継がれていないことがある。このような不適応を起こさないように小学校、中学校、高等学校の三者が連携を深めて一貫した支援のネットワークを作り、それぞれの年齢に応じた支援を行うことができるような体制を作る必要がある。
 また、本校のような小規模校においては職員数の面において対応が難しくなると考えられる。小学校、中学校との連携に加えて、職員配置の面においても支援体制の整備が望まれる。

4.その他特記事項(エピソードを含む)

 特記事項なし

5.モデル校の概要

1 学級数と生徒数(平成21年5月現在)
課程 学科 第 1 学年 第 2 学年 第 3 学年 合計
学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数
全日制 普通科 2 65 2 68 2 59 6 192
2 教職員数(平成21年5月現在)
校長 教頭 教諭 養護教諭 非常勤講師 実習助手 ALT 事務職員 司書 その他
1 1 22 1 3 1 0 5 0 3 37

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成22年07月 --