都道府県名 岡山県
学校名 岡山県立和気閑谷高等学校
学校所在地 岡山県和気郡和気町尺所15
研究期間 平成21~22年度
生徒の実態把握をし、専門家に研究の方向性についてのアドバイスを受けながら実践的な研究をしていく。発達障害の理解を深めることで、日々の教育活動における個別・全体への指導法を工夫し、それを全教職員で共有していく。
週1回の教育相談係会や、毎月の学年会議の情報交換会などで実態の把握に努めている。また心理検査(hyper‐QU)の分析会や、全教職員の「気づきシート」によって「気になる生徒」を把握し、多角的に教職員の共通理解を図っている。「気づきシート」によって把握した「気になる生徒」は全校生徒のほぼ13%にあたる。
(ア)全生徒を対象として、日常生活において「わかりやすいメッセージの伝え方」を工夫し、さらに授業改善に取り組む。
(イ)生徒の実態を全教職員で共通理解する。
(ウ)専門家の助言を参考に、具体的な個別対応を検討する。
(エ)「気になる生徒」について、スクールカウンセラーと連携して対応を協議する。
心理検査や「気づきシート」による実態把握で、教職員個々の感覚ではなく、客観的に生徒の実態を把握し、生徒への理解を深めることができた。またこれまで以上に教職員が注意深く生徒を観察することができ、対応にも工夫がみられた。外部研究委員の豊富な経験に裏打ちされた専門的なアドバイスは、本校教職員にとっての大きな気づきとなった。またこれは指導の工夫への大きな原動力となった。これらの指導の工夫を集め、まとめることができた。
今後の課題としては、「気になる生徒」への具体的な対応策を全教職員が共通理解し実践に移すとともに、支援を通して得られた知識と経験を活かし、授業改善などの教育実践をさらに進めることである。
同じ場面でも、生徒の受け取り方や見え方が違うということを教職員が意識した上で、授業の見通しを示すことや、板書の構造化やグループ学習による学び合いなどに取り組み始めている。
一部の教科では、問題文を枠で囲んだり、ふりがなを付けたり、また図表や強調文字を入れるなどをし、生徒にとって分かりやすい工夫をした。テストに至るまでに、テスト対策課題を与えたり、補習を行うなどした。
学力だけではなく、授業への取組(発表活動など)や課題への取組もできるだけ点数化するなど、多角的に評価している。学習に困難を感じている生徒に対しては、教科担任が「できること」や「やるべきこと」について明確になるような面接指導をしている。
授業においては、見通しを示すことで、落ち着いた雰囲気で授業を展開できるようになった。またテストにおいては、問題文を枠で囲むことや、ふりがなを振ることによって、より積極的に取り組む姿勢が見られた。
課題としては次のことが指摘できる。いわゆる平常点の算出を宿題の提出に求める傾向がいまだ強く、「書くこと」が苦手な生徒にとっては不利になっている。今後は「話すこと」、「読むこと」、「聞くこと」も評価の内容に組み込む工夫が必要である。例えば、英文や公式などの暗唱や、口頭試問による評価などである。これについても教科科目担当者の共通理解が必要である。
進学・就労については、発達障害のある生徒に対して特別なことはしていない。しかしどの生徒にも、生徒自身が選べる進路学習ができるように指導を計画的に行っている。進路指導課が中心となり、個別の面接や小論文の指導に全教職員で取り組んでいる。
就労支援のためのセミナーに保護者と本校教職員が一緒に参加するなど、保護者に寄り添う立場で支援をしている。
進路希望が明確な生徒については既存のプログラムである個別の面接指導や小論文指導を通じて自分の希望する進路に進むことができることが多かった。しかし進路に対して具体的なイメージが持てない生徒は、進路実現が困難であった。
今後は生徒自身が自己理解を深め、自己肯定感を高めるための体験型のプログラムなどの一層の拡充を図ることが課題である。また発達障害のある生徒に対しての特別な支援方法や卒業後の支援機関との連携構築を考えていくことが課題である。
昨年度は、人権教育担当者と連携して発達障害をテーマにした映画上映会を実施した。本年度は、自己理解を深め自身をコントロールする力を涵養するために、メンタルトレーニング(1年生対象)やコーチング(2年生対象)を実施した。3年生には、養護学校教諭を招いて生徒参加型講演会「ミニはあとふるコンサート」を実施し、障害への理解を深めさせた。
スクールカウンセラーの増員により、全校生徒を対象に教育相談活動の充実を図った。
(ア)メンタルトレーニング(1年生)
※各講演前の7日間、CDを聴く(10分)。「勝利の7day's」を実践。
深川英伸先生(サクセスプラン研究所)
(イ)コーチング(2年)
(ウ)生徒参加型講演会(3年)
(エ)スクールカウンセラーの増員による教育相談の充実(全校生徒)
スクールカウンセラーの増員により、月2回程度であった相談日が、9月より週3回程度に増えた。生徒や保護者の相談に個別に応じること以外に、放課後の時間を使っての「自分も相手も大切にした上手な伝え方」講座を開設するなどして、広く生徒への働きかけをした。
(ア)「メンタルトレーニング」では、プラス思考でやる気を持って頑張ろうとする気持ちの構えが大切であることを知らせることができた。また、「夢に向かって努力する」ことの具体的な方法を全員で体験的に学ぶことができた。生徒へのアンケート結果によると、「メンタルトレーニングを通して変化がありましたか」という問いに対して「あった」と答えた生徒は全体の73.9%であった。
(イ)「コーチング」は、「これからの自分の生き方やあり方に参考となる視点を増やし、これまで以上に周囲とよりよい関係を築きながら、自分らしく生きていくためのポイントをつかむ。」という目的で実施した。生徒にとって自己理解や他者理解が最も必要であったので、生徒たちは興味深く話を聞いた。
(ウ)「生きるって素晴らしい~ミニはあとふるコンサート~」は、特別支援学校の教員による講演と音楽会で構成されていた。特別支援学校の生徒に関する話は、障害を持つ人々への理解を深めさせた。またそこから生まれたオリジナルソングとその歌が生まれるまでのエピソードは、生きることのすばらしさや周りにいる人々への感謝の気持ちを抱かせた。感動的な時間を共有する中で、生徒だけでなく教職員にとっても、「生きることのすばらしさ」を知識としてではなく、心で感じる機会となった。
(エ)スクールカウンセラーの相談日が増加したことにより、生徒に対してきめ細かい対応ができた。
(オ)今後の課題として、メンタルトレーニングやコーチングには費用がかかるため、本年度のような実施を継続することは難しいので、生徒のニーズに合った、そしてより効果的な教育活動になるよう見直すことが必要となる。また生徒が自分の特性に気づき自己理解を深めていける取組を実践していくことが課題である。その際、教職員の相談助言力のスキルアップを図り、教育相談活動を拡充していくことが大切である。
(ア)保護者への啓発
(イ)教職員への啓発
(ウ)教職員対象校内研修(事例検討を含む懇談会)
(エ)情報共有研修
(オ)Web自己研修・DVD試聴会
(カ)視察・研修会・報告会参加による研修(参加人数)
1.外部研修会
2.他校視察
3.情報発信
イ 成果と課題
教職員の発達障害や特別支援教育への理解は深まってきた。同じ場面でも受け止め方や認識の度合いが違うということがわかり、「伝わっていないかもしれない」という別の見方ができるようになった。そして指導の工夫も見られるようになってきた。
今後は、校内委員会の機能的な活用を図ること、就労支援を見据えた個別の対応の道筋をつくること、教職員一人ひとりの実践的なスキルアップを図ることが課題となる。そのために日常的啓発活動の継続と、教職員研修の充実を他の分掌と連携しながら進めていく。
生徒指導の基準を整理し、図示するなど明確に示した。また教職員が指導基準を共通理解し、同一歩調で指導にあたる工夫をした。
食堂や廊下でのマナーに生徒自身が気づき実践できるよう、肯定的なメッセージと視覚的な工夫をした掲示物を貼った。
各教科で工夫した内容を収集した。
(例)数学科の場合
【取組・支援】
【成果と課題】
それぞれの立場での「わかりやすいメッセージの伝え方」の工夫が見られ、生徒の雰囲気は全体的に落ち着いてきた。言葉で注意しなくても、その掲示物を指さすことで、生徒がルールに気づき、指導がしやすくなり、トラブルも減った。
各教科の指導の工夫を目に見える形にしたことにより、教科や学年を越えてそれぞれの工夫を共有することができた。その中から共通して取り組める本校のスタンダードとして授業の見通しを持たせるための板書の工夫を提案した。
校内研究委員10名と、関係機関の外部委員10名で研究委員会を構成した。
NO | 所属・職名 | 備考 |
---|---|---|
1 | 学校長 | 研究統括 |
2 | 教頭2名 | 研究統括 |
3 | 教育相談課長 | 研究推進コア |
4 | 特別支援教育コーディネーター ・教育相談課 | 研究推進コア |
5 | 進路指導課長 | 研究推進コア |
6 | 養護助教諭 | 研究推進コア |
7 | 分掌代表各1名(教務・生徒・進路指導・保健厚生・図書) | 校内研究委員 |
8 | 岡山市こども総合相談所医療副専門監(医師) | 外部研究委員 |
9 | おかやま発達障害者支援センター所長 | 外部研究委員 |
10 | 地域生活支援センターパレット所長 | 外部研究委員 |
11 | 岡山大学大学院教育学研究科准教授 | 外部研究委員 |
12 | 国立特別支援教育総合研究所総括研究員 | 外部研究委員 |
13 | 岡山県立東備養護学校特別支援コーディネーター2名 | 外部研究委員 |
14 | 岡山総合教育センター特別支援教育部指導主事 | 外部研究委員 |
15 | 岡山県教育庁指導課特別支援教育室指導主事2名 | 外部研究委員 |
(ア)コアミーティング(研究委員のうち、中核となるメンバーで構成) 41回
研究内容に関するすべての原案の作成
(イ)研究室会議(校内研究委員で構成) 12回
研究内容に関する原案の協議と、各分掌との連絡調整
(ウ)研究委員会 2回
・第1回研究委員会
日時:平成21年8月25日(火曜日)14時~16時
場所:本校会議室
内容:
(1)事業概要について
(2)本校の特別支援教育への取組と実態
(3)本研究の概要について
(4)研究経過について
・第2回研究委員会
日時:平成22年1月22日(金曜日)14時10分~16時
場所:本校会議室
内容:
(1)平成21年度の取組と成果・課題について
(2)平成22年度の計画について
(3)その他
平成20年度に「高等学校における発達障害支援事業」(県事業)を受けて、ミドルリーダー(教諭:教育相談課長)と、特別支援教育コーディネーター(教諭:教育相談課)を指名し、校長を委員長とする特別支援教育校内委員会を設置している。従来の教育相談係の活動や学年団会議をベースに生徒の情報交換をおこない、学年を越えて情報共有をし対応を協議する場にしている。校内委員会の他のメンバーは、教頭・進路指導課長・教務課長・保健厚生課長・養護教諭・各学年主任・当該担任となっている。
生徒の実態把握(「気づきシート」「生徒の自己理解を図る調査」「保護者の気づき」、心理検査など)から、生徒一人ひとりへの適切な対応についての情報共有できる仕組みができつつあり、第1学年からの実施に向けて準備をしている。これが個別の教育支援計画作成につながると考えている。
NO | 所属・職名 | 備考 |
---|---|---|
1 | 岡山大学大学院教育学研究科 准教授 | |
2 | おかやま発達障害者支援センター 所長 | |
3 | 国立特別支援教育総合研究所 総括研究員 | |
4 | 岡山市こども総合相談所 医療副専門監(医師) | |
5 | 岡山県立東備養護学校 特別支援教育コーディネーター |
(ア)岡山大学大学院教育学研究科准教授
(イ)おかやま発達障害者支援センター・所長
(ウ)国立特別支援教育総合研究所・総括研究員
(エ)岡山市こども総合相談所医療副専門監(医師)
(オ)岡山県立東備養護学校特別支援教育コーディネーター
外部研究員を招いての研究委員会を2回開催した。そこで研究の方向性・妥当性などに関して助言を受けることを通じて、高等学校における発達障害への理解の必要性と特別支援教育の意義を再確認することができた。また懇談会や電子メールを通じての助言を受ける中で、個別対応の仕方のヒントを得た。それが教職員のスキルアップにつながった。
今後は研究の内容や方向性を本校の実情に応じた、より実践的なものにしていくとともに、近隣小中学校や専門機関とのネットワークを広げていくことが課題となる
特別支援学校の学校公開日や公開講座には、複数の教職員が参加し、特別支援学校での指導・支援の工夫について学んだ。また、高校入学以前に特別支援学校教員による中学校等への巡回相談で関わりのある生徒に関して、現在の様子を報告した。
外部研究委員である発達障害者支援センター所長の来校時に、高校で必要な関わりや就労支援について具体的な助言を受けた。また地域生活支援センター所長らかも、そこでの具体的な取組について学んだ。地域でのネットワークを広げるとともに、要支援の生徒への就労支援の幅も広げていくよう努めている。
地域生活支援センターを視察し、活用の仕方を学ぶとともに、支援が必要な生徒に関しての具体的な連携の仕方を模索している。
地域でのネットワークづくりを進めたことにより、それぞれのライフステージにおける支援がつながっていく手がかりを得た。実践の中で、このネットワークをさらに広げ、深めていくことが課題になる。
上記事業との連携により、県内の高校の特別支援教育担当者の研修会が開かれ、本校の取組を発表するとともに、各校での取組の情報交換をした。
発達障害のある生徒がより情緒が安定した中で学校生活を送れることが大切であり、周囲の環境を整えることが大切である。周囲の環境とは、周囲にいる生徒の状況や教室環境そのもの、そして最大の環境は教師自身・保護者自身である。教師や保護者の生徒(子ども)を見る目が変わらなければならない。「他の子と比べてばかりではないか」、「乗り越えるべき課題だけを強調しすぎていないか」「その子の興味や関心、特性を理解しているのか」などをもう一度周囲の大人が考えていく必要がある。特に、社会に出ていく前の最後の砦ともいえる高校では、従来の在り方を大きく見直し、対応の幅を広げていく必要がある。
発達の面でのアンバランスの中、失敗体験を繰り返してきて、自己肯定感が低くなっている生徒をこのまま社会に出すわけにはいかない。それぞれのライフステージに関わっている大人がその年その時での効果的な対応をしていく責任がある。もし、「学び残し」があれば、「学び直し」も高校教育に組み入れていかなければならない。生徒の「分かりたい」という気持ちをしっかりキャッチし、生徒のつまづきに気づき「分かる授業」を作っていくと共に、評価の在り方を見直しながら、全ての生徒がいきいきと学校生活を送ることを目指していきたい。
その鍵となるのは、教職員集団の情報共有とチームワークである。特に、高校では、小学校・中学校に比べて、一人の生徒に関わる教職員が多いため、生徒にとって「わかりやすい」一貫した対応をしにくいからである。学力を主な選抜基準として受け入れている高校でこそ、もう一歩踏み込んで表面的にはすぐには分からない生徒の「困り感」に気づいていくことが大切である。「ステレオタイプの評価で生徒の持っている素晴らしい能力を潰してしまっていないか」ということを考えていきたい。
出身中学校の特別支援担当者・校長が来校し、本校教頭・学年主任・担任・養護助教諭・教育相談課長(特別支援教育担当)・特別支援教育コーディネーターで、本人の特性や中学校での支援の具体的なやり方などの情報提供を受けた。(4月6日(月曜日))
保護者・新担任・特別支援教育担当者・養護助教諭が同席し、昨年度の様子や春休み中の家での様子の他、気になることなどの情報共有をした。(4月21日(火曜日))
発達障害の子を持つ保護者に対して、同じような悩みを持つ親との交流を希望している保護者の要望に応える形で、双方の保護者に確認をとり、PTA総会後に懇談会を開催した。教頭と教育相談課長(特別支援教育担当)が同席した。(5月16日(土曜日))その後連絡を取り合い、親の会(7月21日(火曜日))に共に出席した。何かあったら相談できる人が学校の教員以外にできたことで、保護者は少し安心されていた。
「欠席・遅刻が多い」「情緒が不安定」「問題行動を繰り返す」「最近元気がない」などの「気になる生徒」の指導について、担任が一人で抱え込まないようにした。学年会議での情報共有はもちろん、本人や保護者をスクールカウンセラーとの面談につなげたり、担任が直接スクールカウンセラーに相談する場合もある。その後、担任・学年主任・養護助教諭・相談係などが集まり、コンサルテーションを持ち、対応している。
課程 | 学科 | 第1学年 | 第2学年 | 第3学年 | 第4学年 | 合計 | |||||
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学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | ||
全日制 | 普通科 | 2 | 76 | 2 | 72 | 2 | 78 | 6 | 226 | ||
キャリア探求科 | 3 | 120 | 3 | 113 | 3 | 109 | 9 | 342 | |||
計 | 5 | 196 | 5 | 185 | 5 | 187 | 15 | 568 | |||
計 | 196 | 185 | 187 | 568 |
校長 | 教頭 | 教諭 | 養護教諭 | 養護助教諭 | 主任 実 習教 員 | 講師 | 非常勤講師 | 事務職員 | その他 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 41 | 1 | 1 | 1 | 6 | 12 | 6 | 8 | 79 |
初等中等教育局特別支援教育課
-- 登録:平成22年07月 --