都道府県名 神奈川県
学校名 神奈川県立横浜修悠館高等学校
学校所在地 神奈川県横浜市泉区和泉町2563
研究期間 平成21~22年度
通信教育の特性を生かした発達障害のある生徒への支援の在り方
―特別支援学校、保護者・地域、ボランティア等と連携した支援プログラムの開発―
通信教育の特性を生かした学習支援(教育課程、指導方法、評価方法等)及び進路・就労支援等の在り方の研究を基盤とし、外部機関や外部の教育力等を視野に入れた体系的・組織的な支援プログラムを開発する。
○ 毎週月・水・木曜日の5・6時間目に実施している学習支援プログラム(TRY教室)を中心に、生徒が面接指導(スクーリング)の時間内で完成できなかった報告課題(レポート)作成の支援を個別に実施した。
学習内容の理解や、書字等に課題のある生徒一人ひとりに寄り添った支援を通し、多くの生徒が報告課題の完成・提出・合格に至ったことは、生徒の学習に対する意識を向上させるとともに、自己の自信の回復につながった。
○ 通常の一斉形式の試験では合格が難しいと思われる生徒に対し、補習と共に一人ひとりの特性に応じた出題形式で対応することによって合格・単位修得へと導いたことは、生徒の学習意欲や自尊心の向上をもたらした。
○ 全ての生徒にとって基礎学力の定着をより図るために、報告課題への取組に重きを置く評価方法を開発し、平成22年度から実施することとした。
○ 発達障害等のある生徒への対応を考慮した学校設定科目を平成22年度から開設することとした。
○ 学習方法等に課題のある発達障害等のある生徒を、通常の時間割内で個別に面接指導する体制を整備し、平成22年度から実施することとした。
○ 毎月、障害のある生徒及びその保護者を対象として、就労に関する学習会・見学会・体験学習会を実施し、生徒が自分の得意な分野等を発見し、保護者と共に具体的な将来像を描く機会となった。
○ 個別の支援計画(支援シート)に基づくインターンシップ(職場実習)を複数回実施し、障害のある生徒の就労や進路先の決定につなげた。
○ 校内に就労支援チームを配置し、能力開発・職場実習・体験活動を活用する支援を平成22年度から開始することとした。
○ 県立総合教育センターとの連携(教育相談、検査、アセスメント)を開始し、生徒の特性に関する理解が得られやすくなった。
○ 近隣の特別支援学校4校との連携を開始し、生徒の特性の理解や特性に応じた支援への助言を得ることができた。
○ 学習支援ボランティア(YSKサポーター)に個別の学習支援を実施してもらうことによって、生徒の学習意欲や自信を向上させるとともに、様々な背景や経歴を持つYSKサポーターとのふれあいを通して、生徒のコミュニケーション能力の育成に取り組んだ。
○ 平成22年度は、平成21年度に連携を開始した諸機関との関係を深めるとともに、新たな連携機関の開拓を行うこととする。
本校は平成20年に開校した通信制単独校であり、在籍生徒数は5,000名を超える。通信制のため生徒の登校回数は少なく、開校初年度の生徒に関する情報は限られていた。
平成20年度末、発達障害に限らず各種障害のある生徒を対象に就労を視野に入れた保護者の会「自立支援の会」を立ち上げた。
「自立支援の会」登録者数(平成21年度1月末現在) 26名 | ||
内訳 | 発達障害との診断を受けた生徒 | 6名 |
発達障害があると思われる生徒 | 5名 | |
精神疾患(統合失調症など)のある生徒 | 7名 | |
療育手帳を所持している生徒 | 7名 | |
精神障害者保健福祉手帳を所持している生徒 | 4名 | |
特別支援級・通級等出身の生徒 | 6名 |
(注:重複している場合があるので、合計は26名を超える)
平成21年度入学生からは調査用紙(「きめ細かな学習支援を行うためのお願い」)を合格者に配付し、任意提出としたところ、平成21年度新入生1007名のうち、164名から提出があり、高校入学以前の支援の状況や、それぞれの課題や障害についての情報収集が可能になった。また、今年度は児童精神科医師による「専門医による個別相談」を4回実施し、発達障害等の可能性のある生徒については更に専門的な医療機関などへとつなげた。
前記「自立支援の会」に登録している生徒に対し、個別の特性にあった支援が実施できるよう、保護者や外部機関と協力・連携して、支援・指導に当たった。
また本校には発達障害に限らず様々な課題や障害のある生徒が多数在籍しているため、年度当初に全職員に対して次の共通理解を図り、生徒への対応に当たっているが、その内容は発達障害等のある生徒にも有効なものである。
生徒と直接かかわる機会が少ない通信制のため、スクールカウンセラーとの情報交換、保護者相談会での個別相談、相談専用電話(平成21年度に職員室内に設置)や面接指導時などで知り得た事柄等、気が付いたことは、教育相談コーディネーターが所属するグループ(教育相談・学習支援センター)が中心となって内容を取りまとめ、できる限りの対応や支援を行っている。
「自立支援の会」登録の生徒に関しては、スクーリングのない時期や時間帯を活用して個別学習支援、就労支援、体験活動、体験実習などを実施することができた。
また、外部機関との連携を活用した個別支援等により、生徒・保護者・学校の信頼関係が築かれており、生徒の自尊感情向上や将来への希望につながっている。
その一方、支援の必要性を自ら言い出せない生徒・保護者、または発達障害だと気付かずに、自分の能力不足・努力不足だと思い込んで引きこもっている生徒、問題行動に流れてしまう生徒も多数在籍していると思われるが、その姿が見えにくいのが、通信制高等学校の実情である。
「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議~高等学校ワーキング・グループ報告~」には「発達障害等困難のあるとされた生徒」の高等学校通信制課程推計在籍率は15.7%とあるが、その在籍率を本校にあてはめてみると在籍者ベースで700名以上、活動生ベースでは400名程度が「発達障害等困難のある生徒」ということになる。
本校では、平成20年度、21年度に入学した生徒で、中学校在籍時に長期欠席(年間30日以上)に該当した生徒はそれぞれ300名以上にのぼる。また、精神疾患(統合失調症・うつ病・強迫性障害等)のある生徒も多数在籍しており、これらの背景に発達障害等の可能性があることを考えると、上記の400名以上という数字は頷けるものである。
生徒個人に関してより正確な情報を得るためには、入学時における諸提出書類の内容の更なる工夫や、保護者の了解を得て出身学校(中学校、適応指導教室、個別級、フリースクール等)との情報交換を密にする必要がある。中学校等との情報交換は全日制や定時制の高校ではよく行われているが、出身中学校だけでも約300校にのぼる本校にとって、現状のマンパワーでは限界があり、効率的・効果的な方法を模索する必要がある。
更に、生徒の状況をある程度正確に把握し、支援を必要とする生徒が次々と明確になってきた場合には、約50名の教員で、障害のある生徒に対して今年度実施してきたような個別の支援を継続することは難しいと思われる。これは本校の工夫や努力だけでは解決できない課題である。
開催日 | 対象 | 研修内容 | 講師 | |
---|---|---|---|---|
1 | 平成 21年4月 |
職員 | 特に配慮を要する生徒について | 教育相談・学習支援センター担当 |
2 | 21年5月 | 職員 | 生徒対応の留意事項 | 同上 |
3 | 21年6月 | 保護者 | 横浜修悠館高校での相談から思うこと | スクールカウンセラー |
4 | 21年8月 | 職員 | 発達障害のある生徒の支援 | 横浜市発達障害者支援センター相談員 |
5 | 21年9月 | 事務職員 | 生徒対応について 他 | 教育相談・学習支援センター担当 |
6 | 21年9月 | 保護者 外部機関 | 発達障がいが『治る』とは ~環境調整でできること~ | 巡回相談員 (臨床心理士) |
7 | 21年11月 | 職員 | 気になる生徒について | 同上 |
8 | 21年11月 | 職員 | 学校と家庭の連携 ~先生たちに伝えたいこと~ | 神奈川LD等発達障害児・者親の会代表 |
9 | 21年12月 | 保護者 | 子どもとのよりよいコミュニケーションのために | 巡回相談員 (臨床心理士) |
本校では、生徒が個別の時間割を作成し、授業時間ごとに教室を移動することとなっているため、平成20年度は学校内で迷う姿が多く見られた。そのため、平成21年度は各棟ごとに色を変えた手作りの校内案内・教室案内を各所に掲示した結果、迷う生徒の数は減少した。
また、連絡や案内の掲示方法についても工夫を重ね、徐々にわかりやすいものとなっている。
NO | 所属・職名 | 備考 |
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1 | 教頭 | 委員長 |
2 | 教育相談・学習支援センター総括教諭 | 事務局 |
3 | 経営企画グループ総括教諭 | 教育課程グループ |
4 | 教育相談コーディネーター教諭 | 教育課程グループ |
5 | 学習支援コーディネーター教諭 | 就労支援グループ長 |
6 | 学校運営グループ教諭 | 教育課程グループ長 |
7 | 学校運営グループ教諭 | 教育課程グループ |
8 | 生徒活動支援グループ教諭 | 就労支援グループ |
9 | キャリア教育推進センター教諭 | 就労支援グループ |
10 | キャリア教育推進センター教諭 | 就労支援グループ |
11 | 養護教諭 | 就労支援グループ |
開催 | 内容 | |
---|---|---|
1 | 21年5月 | 役割分担、今年度の素案について |
2 | 21年5月 | 今年度の計画について |
3 | 21年6月 | 今後の予定確認 |
4 | 21年9月 | 視察報告、今後の予定確認 |
5 | 21年10月 | 視察報告、前期のまとめ、後期の予定確認 |
6 | 22年2月 | 今年度のまとめ、次年度の計画について |
NO | 所属・職名 | 備考 |
---|---|---|
1 | 横浜国立大学人間科学部准教授 | |
2 | 神奈川県スクールカウンセラー協会代表 | 臨床心理士 |
3 | 横浜市発達障害者支援センター相談員 | |
4 | 県立総合教育センター主幹兼指導主事 | |
5 | 県立総合教育センター指導主事 | |
6 | 県立特別支援学校総括教諭 |
回数 | 内 容 |
---|---|
2 | 本校の取組に関する全体的な指導助言 |
3 | 研修会講師 |
4 | ケース会議での助言、特別支援学校との連携調整 |
○ 文部科学省委嘱事業「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」との関連
ア 具体的な連携方策
イ 成果と課題
発達障害は早期発見、早期対応が重要である。高等学校入学以前での十分な対応ができる環境整備を是非お願いしたい。
本校は通信制高等学校であり、5000名を超える在籍生徒に対し、職員50数名では手厚い個別支援は困難である。その一方、保護者や本人が気付かないまま、または気が付いていても受け入れることができずに、発達障害や二次障害等による不適応や不登校、引きこもり、心因性障害、学力不振等の状態となり、進路先としての選択肢が通信制高校しかない生徒の数は全国的にも増加の一途であると思われる。
適切な支援があれば、生きる喜びを感じながら社会の一員としての役割を果たしていくであろう人材を、引きこもりや社会に適応させることなく放置するようなことは、あってはならないことは誰の目にも明らかである。
通信制高等学校には発達障害等のある、もしくはあると思われる生徒が数多く在籍しているが、それらの生徒に対する支援が必ずしも充実しているとは言えないことを解消すべき喫緊の課題としてとらえ、通信制高等学校教員の人数不足の解消や専門知識を有する職員の配置など教育環境の向上を強く望みたい。
県立総合教育センターへの療育相談につなげ、検査(WISC、WAIS)を行うこととなった4件中3件については療育手帳(B1、B2)の取得に至った。残る1件については、障害の受容等の課題があり手帳申請には至っていない。
また、本校での面談の結果として手帳(B2、精神障害者保健福祉手帳)取得に至った件が3件ある。
課 程 | 合 計 | ||
---|---|---|---|
学 科 | 学級数 | 生徒数 | |
通信制 | 普通科 | 40 | 5016 |
*単位制のため学年の区分はありません
校長 | 副校長 | 教頭 | 総括 教諭 |
教諭 | 養護 教諭 |
非常勤 講師 |
ALT | 事務 職員 |
司書 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 1 | 6 | 46 | 1 | 14 | 1 | 5 | 1 | 77 |
初等中等教育局特別支援教育課
-- 登録:平成22年07月 --