都道府県名 大阪府
指定校名 大阪教育大学附属天王寺中学校
アクティブコミュニケーション・カードやパズルは、誰もが幼児期に体験している知育玩具の1つである。一方、知的障害児の知育教具としてもよく用いられる。しかし、特別支援学校では「動作」や「形容詞」などを表現するカードやパズルが不足している。
そこで、特別支援学校のニーズに合わせたカードやパズル製作を通して、「どのようなカード・パズルが必要か、なぜ必要か」を生徒に理解させること、製作したカード・パズルを使ってもらうことで「障害児がどのように使うか、どのような感想を持つのか」という関心を生徒に持たせたい。そして、これらの取組を通して知的障害児との交流及び共同学習を促進させ、障害児に対する生徒の理解を深めることを目的とする。
美術や技術の授業を通したものづくりの課題として、多くの特別支援学校で不足している知育玩具の開発・作製を中心とした交流及び共同学習として、「どのような玩具が必要か、なぜ必要か」を生徒に理解させること、製作した玩具を使ってもらうことで「障害児がどのように使うか、どのような感想を持つのか」という関心を生徒に持たせることで、障害児理解を促進させることを目的とした実践を行った。
本校と附属特別支援学校の両校が、耐震補強工事に伴って一時期大学天王寺キャンパスを共有して本校の生徒と附属特別支援学校の中等部の生徒が、一緒に過ごす期間が生じた。これをチャンスと捉え、特別支援学校の先生による本校全生徒への授業、特別支援学校の行事「餅つき大会」への生徒会の参加、本校の音楽会への特別支援学校の生徒の参加などを通して、直接交流の場を設けることで障害児理解につなげる実践を行った。
さらに、大阪府立和泉養護学校とは、ものづくりを通した交流及び共同学習として、本校が長年行っている車いす整備ボランティア活動やアジアの身体障害者への車いすコンテナ積み込みボランティア活動を共同実施することを通して、障害者理解を促進させるようにした。
パズルなどの作品の評価に関しては、協力して頂いている各特別支援学校の先生方に直接見て頂いてコメントをもらう形式で、パズルの種類や内容などについて意見を集約し、今後の認知玩具製作への方向性を調査する方法とした。
本校の生徒たちの「知的障害児理解に対する変化」については、
研究は次の項目で実施した。
(1) 附属特別支援学校との打合せ(6月)
(2) 認知パズルの製作(中3美術科の授業:6月〜10月)
(3) パズルの評価(11月〜1月)
(4) 附属特別支援学校の先生による授業(7月)
(5) 附属特別支援学校の生徒との交流会(1月、3月)
(6) ATACカンファレンス京都2007への参加研修(11月)
(7) 府立和泉養護学校等の知的障害のある生徒とのボランティア活動(7月、2月、3月)
本校並びに附属特別支援学校とも校舎の耐震補強工事が実施されるため、天王寺キャンパスの大学校舎を用いて共に過ごす期間があることとなり、本校の生徒たちに知的障害児を理解させる必要が出てきた。そのために、本校の生徒たちへの特別授業として、特別支援学校の先生による学校紹介と障害児理解のための講演会を実施した。生徒たちだけでなく、多くの教員も「知的障害児の生活を知る上で大変参考になった」という意見が多く出された。学校全体としての「障害児理解」の導入としては大変良かった。
美術の授業において、中3の生徒を対象に「認知パズル」製作を実施した。特別支援学校の先生による講演の効果もあって、生徒たちは社会貢献的な意味合いを感じ非常に積極的に製作に取り組み、下の写真のようなパズルを完成させた。
写真1 生徒の製作認知パズル
一方、技術科の授業において製作する予定であったアクティブコニュニケーション・ カードに関しては、耐震工事の影響でコンピュータ室の使用できる期間に制限ができた ため実施できなかった。
認知パズルの評価をしてもらうために、附属特別支援学校を通じて大阪市立加島小学校の特別支援学級の先生と府立和泉養護学校の先生に評価していただいた。その結果、次のようなコメントをいただいた。
写真2 パズル全体がブドウの形をしたパズル
写真3 5つのパズルが食品だけのパズル
写真4 5つのパズル動作だけのパズル(やせる、よむ、おこる、ゆれる、わらう)
ただし、こちらのパズル製作の授業計画も工事の影響で遅れたため、寄贈した特別支援学校でそのパズルを用いた授業ができなかった。次年度は工事も終了するので、それらを計画的に進めて行きたい。
附属特別支援学校の生徒たちが同じ敷地内に引っ越してくる前の段階で、附属特別支援学校の先生2名による本校生徒全体への特別授業を行ってもらった。それまでは、同じ附属の兄弟校でありながらほとんど知らなかった附属特別支援学校の授業や行事などを知ることができ、本校の生徒たちにとっては、分かりやすく障害児理解が促進された。
1月になり附属特別支援学校が天王寺キャンパスに引っ越してきた。それに伴って、生徒会役員を中心として「餅つき大会」(附属特別支援学校の行事)に参加させてもらったり、本校の3月の音楽会を見学し、本校の先生方の合唱に飛び入り参加するなどして交流会の企画を実施した。特に音楽会では、本校の先生方、特別支援学校の先生方そして特別支援学校の生徒たちが一緒になって歌う姿を見て、生徒たち全員に障害者理解を大きく促進させる効果的な機会となった。特に、「障害児に対する恐れや違和感」を持っていた本校の一部の生徒にとっては、音楽会で障害児が歌う姿を直接見ることによって、「自分たちと変わらない」と感じ、障害児理解に効果的であった。
11月に実施された障害者における代替コミュニケーションの研究会であるATACカンファレンスに参加した。アダプテッドスポーツという考え方の広がり、知的障害者に用いられるPICなどを用いたコミュニケーション方法の種類と活用方法の拡大、音楽や芸術を用いた表現方法の広がり、パソコンを利用したコミュニケーション技術や機器の開発など急速に発展していることを痛感した。
そこで、身近に障害児がいない本校の場合、障害のない生徒たちに障害児を理解させるためには、それら様々なコミュニケーション手段を教師が理解し、日常的な授業の中でも実践する必要性を感じた。さらに、「アスペルガー症候群などに代表されるように障害の範囲が大きく拡大していること」、「同じ障害であっても年齢などによって症状などに違いがあること」、「最新のOSに搭載されている障害者用の様々な機能(例えば音声認識など)を用いれば、日常的な健常者にとっても情報活用手段が広がる可能性がある」などを知ることができた。特にピクトグラム(PIC)を用いたローテクの手法などのコミュニケーション手法、盲聾者体験のワークショップなどは、本校の授業でも実施できる可能性を感じさせてくれた。
これまで10年近く府立和泉養護学校と合同で実施してきた「廃棄車いすのリサイクル活動」(アジアやアフリカの途上国へ車いすを再生して寄贈する活動)を継続実施した。なお、例年は1回直接体験の交流企画だが、本年度は3回へと増やした。
写真5 カンボジア向け車いす積み込み
写真6 タイ・ラオス向け車いす積み込み
知的障害児と中学生、高校生、大学生、社会人が一同に会する機会としては、非常に珍しい機会であった。本校の生徒だけでなく参加者は、一様に「言われるまでは、知的障害児だと気が付かなかった」という感想であった。このような単純作業を通した方が、障害児への理解が自然に深まることも分かった。
本年度は、本校並びに附属特別支援学校が、耐震補強工事の影響から美術科でのパズル製作が遅くなったり、技術科でアクティブコミュニケーション・カード作製授業が、コンピュータ室の使用に制限があり出来なくなったりした。また、附属特別支援学校の同じ敷地内の天王寺キャンパスへの引っ越しも遅れるなど、本研究を実施する上で予測の付かない時期の遅れとして大きなマイナス要因であった。ただし、その遅れの影響で、附属特別支援学校が、来年度の1学期まで同じ敷地内に同居することになった。
そこで次年度は、4月から生徒会活動と連携する形で、附属特別支援学校の障害児との直接交流及び共同学習の機会を積極的に企画する形で実施していきたい。また、本研究での主題である知育玩具製作やものづくりの共同企画も積極的に企画したいと考えている。
一方、研究を評価する方法では、生徒の感想文を科学的に分析するために、テキストマイニングの手法を取り入れ、感想文における障害児理解の変化を調査できるようにしたいと考えている。
初等中等教育局特別支援教育課
-- 登録:平成21年以前 --