共生社会を目指した障害者理解の推進 (特別支援教育研究協力校)中間報告書

都道府県名 長野県
指定校名 東御市立祢津小学校

1 研究のねらい

 障害のある子どもと原籍学級の子どもとの交流及び共同学習を通して、子どもたちの相互理解推進と人間関係の育ちを深めるための指導内容・方法など、指導・支援の在り方を追求する。

2 研究内容

(1) 障害のある児童についての理解を進めるための内容や具体的方法等

  1. 教職員・児童の理解推進
  2. 保護者・地域の方の理解推進
  3. 交流及び共同学習の計画立案

3 評価の方法

(1) 教職員の理解推進について

  1. 学級活動・教科・道徳等での障害にかかわる授業や活動への取組状況
  2. 全校集会や行事等での特別支援学級児童へのかかわりの変容状況
  3. 原学級及び交流学級における特別支援教育への具体的取組の様子

(2) 児童の理解推進について

  1. 交流及び共同学習・全校集会・行事等における児童の変容状況(記録に基づき)

(3) 保護者・地域の方の理解推進について

  1. 学校行事等におけるアンケート

4 研究経過

(1) 教職員の理解推進について

1 校内研修会(講演会)

  1. 期日  平成19年8月21日(火曜)
  2. 講師  両川 晃子先生(信州大学医学部付属病院精神科)
  3. 内容   講演会「発達障害について学ぶ」 午後は個別相談

1 特別支援委員会、職員会等

a 特別支援学級入級児童についての共通理解(2箇月に1度)
  •  特に,情緒情障児学級入級A児(1年生)についての共通理解
b 特別支援学級児童等、特別な支援を必要とする児童についての共通理解
  •  特別な支援を必要とする児童への校内体制について(必要時)
  •  校内委員会の調査及び報告、個別指導の計画について発表(学期に1度)

3 その他

  1. 原籍学級担任との情報交換(随時)
  2. ホットサポートや特別支援教育支援員との連絡調整(随時)

(2) 児童の理解推進について

1 A児の特別支援学級での実態把握

a 情緒障害児学級担任が中心になって記録の累積と分析入学式の写真

2 A児に対する原学級児童の理解及び交流及び共同学習

a 交流及び共同学習の実情
  •  朝の会、帰りの会への参加
  •  体育(特別支援学級担任と共に)
  •  生活科(年間2回)
  •  遠足等の学年行事、運動会・音楽会
b 原学級の子どもたちの様子
  •  入学当初、同じ保育園に通っていた子どもたちの接し方を見ていて、他の園から来た子どもたちもA児への接し方を少しずつ身に付けていった。
  •  2学期になり、A児も徐々に自分を表現できるようになってきた。A児を特別視していた学級の子どもたちも、A児が出来ることが増えてくると、だんだんとA児に対し自分たちと同じ生活をするように求めるようになってきた。移動時に順番にA児と手をつなぐように指導したところ、ためらっていた児童が多かったが、手をつなぐ児童が増え始めた。それまでA児に対し、差別的な言動をみせていたP児はみんなが手をつないでいるところを見て自分でもできるようになった。
  •  3学期になり、A児が歩き回っている時に手をつないで椅子を引いて合図をし、席に座らせてあげるなど自然に対応出来るようになってきている。P児もだんだんA児にかかわるようになってきて、A児とのかかわりが、自分も人の役に立っているとの自信になり、心を穏やかにさせているように思われる。

3 交流学級(2年1組)との交流

a 交流の実情
  •  A児の原学級の子どもたちと共に、学期に1度学級活動の時間に交流を行った。
b 2年1組の児童の様子
  •  年度当初は、A児の言動から否定的に見ているのではないかと思われる児童もいた。
  •  第1回交流会では、ころがしドッジボールをした。この交流会をきっかけに接し方が一変し、声を掛けたり、A児のことを話題にしたりすることが多くなった。
  •  第2回交流会後、音楽会の練習を聞きに来て一緒に歌っているA児の姿を『うれしかった』『大切な友達だと思った』という思いも持てるようになった。
  •  第3回交流会は、『1年生がやりたいことをやろう』と、秋の自然のものを使って大きな絵を作ろうという計画を立てた。A児の手を取りながら一緒にのり付けをしている姿も見られた。数日後、体育の準備運動中にA児がやってきて一緒に準備運動を始めた。それがうれしくて、元気な声で楽しそうに体育の授業を行った。A児と自然に触れ合える様になり、自分からA児の所に行って「遊ぼう」と声をかけるような姿も見られるようになった。

特別支援学級の取組

a 本校の特別支援学級
  •  知的障害児学級 3年2名 4年1名 5年1名 6年1名 いずれも男子情緒障害児学級 1年男子(A児)

 いずれも担任1名ずつで、情緒障害児学級が1名であることもあり、朝の会や帰りの会を合同でしたり、行事等を一緒に行ったりしている。

b 特別支援学級での様子
  •  A児が1年生であることもあり、他の児童はA児をよくかわいがってくれ、面倒もみてくれる。校外学習では、A児の見守り役などどの子もいやがらずに引き受けてくれる。これは共に生活する時間が長く、親近感を持っているからではないかと思われる。
  •  2学期終業式では、特別支援学級全員で全校に対し発表の機会を持った。A児も繰り返して練習してきた言葉を、特別支援学級の仲間の支えもあって、明瞭な発音で発表することができた。全校の前で発表することで、それまで関心の薄かった他学年児童が、「Aちゃん。一人で外にいるよ」と心配そうに担任に知らせに来てくれるようになった。

5 全校へ向けての取組

終業式での発表の写真a 「自分発見アンケート」の実施
  •  全校を対象に、平成20年1月に実施
  • 「自分のことが好きか」「自分は思いやりがあると思うか」「自分を大切にしているか」「困っている時に誰かに相談できるか」「家族の中で大切にされていると思うか」といった自分にかかわることと、「なかよしさわやか学級(注:本校の特別支援学級)の人と話や遊びをしたことがあるか」「話したり遊んだりして、どんなことを思ったり感じたりしたか」など特別支援学級にかかわることをアンケート項目とした。
b 結果から分かったこと(抜粋)
  •  「自分のことが好き」「自分はやさしい」「思いやりがある」と思っている児童は、高学年になるにつれて「そう思う」という児童が減り「そう思わない」という児童が多くなっている。
  •  家族とのかかわりでは、「家族といると楽しい」と答えている児童が多い割には、大切にされていると思っている児童が少なくなっている。男子は学年差があまりないが、女子は高学年になるにつれ、楽しいとか、大切にされていると思っている児童が少なくなっている。
  •  特別支援学級の子どもたちと話をしたり、遊んだりしてかかわりを持っている子どもは全体の8割ほどいる。中には、特別支援学級にある遊び道具で一緒に遊んだりして、特別支援学級の児童の得意なところややさしいところに気づくなど、相手を思いやる気持ちが持てるようになった児童もいる。
  •  A児の原学級である1年1組と交流をした2年生は、話をしたり、遊んだりしたことで「心がぽかぽか温かくなった」「相手が楽しそうだと自分も楽しくなる」「その日あったつらいことがなくなった」など、特に思いを寄せた感想が持てるようになった。
  •  学級に特別支援学級に通う友達がいる学級の児童といない学級の児童の意識を比べると、特別支援学級児童に対しての思いや理解の仕方に違いがみられ、かかわろうという意識もやや低い子どもたちもみられる。また、そのような子どもたちは自己肯定感も低い傾向がみられた。

思いやりがある【男子】のグラフ思いやりがある【女子】のグラフ

なかよしさわやか学級の人と話や遊びをしたことがある【男子】のグラフなかよしさわやか学級の人と話や遊びをしたことがある【女子】のグラフ

特別支援学級の友達と話したり、遊んだりして、思ったことや感じた(6位以下は略)

  思ったこと 感じたこと 1年 2年 3年 4年 5年 6年 合計
1 一緒に遊ぶと楽しい 13 29 18 29 25 21 135
2 うれしい 5 9     1   15
3 やさしくしてくれる   5 2 1 1 6 15
4 なかよしの人は大切       1     1
5 なかよしで明るくていい       2     2
6 かわいい   1   1 2 3 7
c 特別支援学級と全校児童とのかかわり
  •  音楽会(地域に開放)での演奏。10月に行われた音楽会で、校長をはじめ原学級担任や原学級児童が一緒に参加して、「きらきらぼし」の合奏「日本民謡メドレー」の和太鼓演奏を披露。全校児童は、演奏する特別支援学級の友達をみて、「すごく上手でびっくりした」という感想をもった子どももいた。
  •  修業式での発表(前述)
  •  特別支援学級の休み時間等の開放(前述)

(3) 保護者・地域の方の理解推進について

1 学校行事(運動会、音楽会)等に地域へのアンケート

  •  動会では、「先生の伴走で走っている姿がうれしそうでよかった」、音楽会では、「太鼓を演奏している時の真剣な顔がすばらしかった」「合奏がとても良かった。先生方の温かいご指導が伝わってきた。子どもたちも本当に幸せだと感じた」などの感想をいただいた。

2 PTA総会及び学級PTA、来入児保護者説明会での取組

  1.  発達障害についてPTA総会において特別支援教育コーディネーターより特別な教育的支援のニーズのある児童の保護者の悩み、校内支援体制の説明をし、理解を求めた。そのことから、心配な子どもを持つ親から数件の相談を受けた。
  2.  人権教育月間で、人権教育に焦点を当てた授業を行った。さらに、障害者の人権に関わるDVDを懇談会で視聴し、感想を述べあった。
  3.  特別支援教育コーディネーターが来入児保護者会において、発達障害についての話をし、校内支援体制についても説明を行った。不安を抱えていた保護者からは「これで安心して入学させられる」というお話も伺った。

5 成果と課題

(1) 教職員の理解推進について

a 研修会や職員会等で研修

  •  夏休み中に開いた研修会や職員会で機会あるごとに特別な支援を必要とする児童について、共通理解が図られるように時間をとってきた。A児に対する接し方の研修もしているので、以前はA児が一人でいると特別支援学級に連れてきたが、今はA児を見守っていてくれる。また、積極的にA児に声をかけてもらうよう職員に伝えてあるので、廊下でA児と会ったりすると職員の方から話しかけている。

b 長野県総合教育センター等への研修及び医師との相談

  •  長野県総合教育センターで行われる研修や地域で行われる研修会に特別支援学級担任や原学級担任が積極的に参加している。伝達講習により教師間の理解レベルが向上し、同じ話題を共有できている。また、医療機関へ積極的に相談に出かけ、児童理解に役立っている。

(2) 児童の理解推進について

1 原学級(1年1組)の取組から

 A児に対する接し方がよい場合は、その接し方を学級全体に広げる場を設けてきた。そのことで、それまでどのように自分からかかわればよいのか分からなかった児童が、だんだんと望ましい接し方が出来るようになってきた。

2 交流学級(2年1組)の取組から

 交流会を通して、一緒に楽しい時間を過ごし、A児のよさを理解できるようになった児童たちは、A児が集会で泣いていたりさわいだりしていても、「だいじょうぶかな」、「もうちょっとだからがんばって」というような温かい視線を送る姿もみられる。また、「一緒に手を握ったら、とっても温かかったよ。きっとA君の心が温かいんだね」、「A君てがんばっていてすごいな」などと話すようになった。
 しかし、『障害は病気でA君はかわいそうなんだ』ととらえている児童もいて、今後も交流会や道徳の時間などを通して、『障害は病気ではなくて個性の一つで、決してかわいそうなことではない』ということを感じられるようになって欲しい。

3 特別支援学級の取組から

 A児と長い時間接する中でA児のことを理解し、自然に接することができるようになるとともに、がんばっている姿やできた姿を前向きに捉えられるようになってきた。また、A児のがんばっている姿から「自分もがんばろう」「自分もこんなことができる」と活動への意欲を増したり、自己肯定感を高めたりしている様子もうかがえる。特別支援学級の児童のA児へのかかわりから、他の児童がA児へのかかわり方を学べるのではないだろうかと期待している。

(3) 保護者・地域の方の理解推進について

 学校行事に来てくださる来賓の皆さんからのアンケートからは、A児を本校の一員として温かく捉えてくださっている様子が感じ取れる。A児のがんばっている姿を十分に認めてくださっている様子もうかがえる。A児に対する支援についての理解がまだ十分ではないと思える感想もあったが、その場合は後で個々に話をして説明するなどの対応をしていきたい。

6 今後の展望

(1) 2年生との交流の事例から、交流及び共同学習を積み重ねることで、A児の良さやできることを理解し、A児が必要としている支援ができる子どもたちになっていくことが分かってきた。今後さらに交流する学級を増やし、どういった交流及び共同学習がより有効なのかを検証していきたい。
(2) A児の入学を機に、特別支援学級に関心を寄せる児童がみられてきた。全校に行ったアンケート結果から、特別支援学級に入級する児童が在籍するクラスと在籍しないクラスでは、自己理解・他者理解ともに違いが見られた。自己肯定感を高め、障害のある友達にかかわる理解を進めるために、学級活動や道徳の授業を通して、学級づくりをしていきたい。
(3) A児だけではなく、他の特別支援学級児童の教育課程の編成と見直しと並行し、原籍学級においても教育課程の編成と見直しをし、交流及び共同学習の教育課程上の位置付けについて、明らかにしたい。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成21年以前 --