共生社会を目指した障害者理解の推進 (特別支援教育研究協力校)中間報告書

都道府県名 福島県
指定校名 いわき市立草野小学校

1 研究のねらい

 本校は、学区内に福島県立聾学校平分校があり、年間を通して行事や日々の学習において交流を深めてきた。
 毎年度当初には、両校の教員がより効果的な交流をするためには、どのような活動をしていけばよいかについて共通理解を図り、年間計画を作成してきた。その計画に基づき年間を通して活動をしてきた。
 この交流活動は、昭和54年より継続して実施され、教職員も児童もごく自然に交流を深めることができており、それは、日常生活の一部となっている感がある。
 本研究では、これまでの活動を踏まえ、以下の点を研究のねらいとして取り組むこととした。

〜障害のある児童と障害のない児童が互いに理解し合うことを目指して〜

(1) 共に助け合い支え合って生きる共生社会の理解を促す。
(2) 相互の触れ合いを通じて豊かな人間性を育む。
(3) 交流及び共同学習を通して相乗効果による学習のねらいの達成を目指す。

2 研究内容

(1) 児童が「共生」についての理解を深めることができる授業についての研究。
福島県立聾学校平分校と草野小学校とが家庭や地域の協力を得ながら、両校の教員が「共生」に向け連携し、児童が主体的かつ自然に交流し理解を深め、互いにそれぞれの個性を認め合うことができるような交流及び共同学習の在り方についての研究。

(2) 福島県立聾学校平分校の児童との交流及び共同学習を通して、障害のある児童と障害のない児童が、授業や学校行事を通して交流することにより、共に助け合って学習することの大切さを学び、ひいては豊かな人間性を育成することに関する研究。

(3) 福島県立聾学校平分校の教員と草野小学校の教員がティーム・ティーチング等の形態で行う、互いの子どもたちについての理解を深め、それぞれの個性を踏まえ、相互に学習の効果が上がる授業の在り方についての研究。
主として福島県立聾学校平分校と交流及び共同学習を行う学年は1・3・6年生。また、教科で交流及び共同学習を行う場合は、1年生が図工科・体育科、3年生が算数科・図工科・体育科、6年生が理科・体育科とする。

3 評価の方法

 交流及び共同学習の際に児童の様子や変容を記録し、進め方や計画の在り方について、随時反省をする。それを記録として残し、蓄積していく。この記録を、次の交流及び共同学習や次年度の活動に活かすようにする。
 また、両校の児童に交流及び共同学習についてのアンケートを年2回程度実施し、児童の意識の変容についても考察を深めていく。

4 研究経過

(1) 活動の実際

平成19年度 交流教育実施内容

月日 活動名 領域 規模 備考
4月18日 交流1年生を迎える会
学級の歓迎会
行事
学級活動
全校
学級
全校児童との対面
その後学級で
5月12日 交流春の大運動会 行事 全校 練習にも参加
6月 陸上競技大会の練習 体育 6年 大会にも参加
7月〜9月 水泳(プール学習) 体育 学級 記録証の授与
11月17日 子ども秋祭り 各教科 全校 午後はコンサート
12月 走ろう会 体育 学年 週に1回ぐらい
3月5日 卒業生を送る会 児童会 全校 聾学校合奏発表
随時 交流授業 各教科 学年 1、3、6年

(2) 全校での交流活動

1 交流1年生を迎える会

 聾学校の1年生と草野小学校の1年生を草野小学校の全校児童が温かく迎え、1年生になった喜びをみんなで祝う活動を行った。上級生から歓迎の言葉を述べ、歌を歌ったり、歓迎のアトラクションを行ったりした。
 1年生の紹介の場面では、聾学校の1年生もステージ上に立ち、手話で自己紹介等を行い、交流学年だけでなく全校児童との交流を行うと意識付けを行った。また、各種アトラクションの中では、聾学校の1年生も草野小学校の1年生に交じって楽しくゲームを行い、互いに交流を深めた。

2 交流春の大運動会

 春の運動会では、練習の時間に聾学校の児童が草野小学校に来校し、各種競技の練習を一緒に行いながら、交流を深めた。
 当日は、入場行進の時に、互いの学校の校旗を掲げて行進したり、開会式で両校の校歌を手話を交えて歌ったりした。
 また、競技でも両校の児童が同じ種目に参加し、交流を深めた。

3 子ども秋祭り

 午前中は、各学年での各種発表会等が実施され、両校の保護者も交えて活動した。
 また、午後は一緒にコンサートを聴いた。演奏者がユニークな服装をしたり、大きな身振り手振りをしたりして視覚的にも楽しめる要素を多くすることにより、聾学校の児童も音楽を楽しむことができた。

4 卒業生を送る会

 始めに両校の校歌を手話を交えながら合唱し、その後、学年毎に出し物をして楽しんだ。
 1年生は聾学校の児童も草野小学校の1年生の児童の中に入り、合奏などをした。 
 また、聾学校の児童だけの合奏も披露され、草野小学校の全校生は真剣な眼差しでそれを鑑賞した。
 最後には、全員で手話を交え「ビリーブ」という曲を合唱した。

(3) 学年単位での交流活動 (1・3・6年児童との交流)

1学年

 聾学校の1年児童が草野小学校の1年3組を中心に交流及び共同学習を進めた。音楽科では、聾学校の児童が同じように歌ったり踊ったり、また、鍵盤ハーモニカを演奏する姿に驚き、自然に拍手がわき上がった。
 体育科では学年まとまっての授業が多かったため、100人近い集団行動に聾学校の児童は、当初戸惑いを見せていたが、いつでも1年3組の児童が声をかけて活動することができていたので、聾学校の児童も、「自分は3組の一員なのだ。」という意識をもって行動できていた。また、他の学級の児童も聾学校の児童が生き生きと、がんばっている姿に刺激を受けていた。
 1年生の児童は聾学校の児童が“特別の存在”であるとは、思っていないようで一緒に活動する仲間と感じ、自然な形で接していた。また、聾学校の児童も草野小学校へ行くと何か新しい発見があるとの期待を持って、楽しんで交流していた。

3学年

 聾学校の3年児童が草野小学校の3年3組を中心に交流及び共同学習を進めた。聾学校担任が付き添い、主に国語科・図工科・体育科で必要に応じて手話を使って交流を深めた。
 国語科の授業では、意見を板書させて、互いの考えを確認できるように工夫した。図工科では、聾学校担任が手話で通訳をし、絵の制作や鑑賞を行った。
 体育科では、聾学校の児童も周りの動きをよく見ながら参加し、準備等も含め他の児童とより深く交流を深めることができていた。特にサッカー型ゲームの練習では、グループを組んだ他の学級の児童と仲良く、喜んで練習に参加する姿が見られた。

6学年

 聾学校の6年児童が6年1組を中心に交流及び共同学習を進めた。主に算数科・図工科・体育科の学習を中心に交流及び共同学習を実施する予定であったが、両校の柔軟な対応により、体験学習を取り入れた学習が実施される時には臨機応変に参加した。
 体育科では運動会、陸上競技大会、走ろう会の練習等で交流及び共同学習をし、活動中、互いに競い合い、励まし合う姿が見られた。
 また、社会科では、大昔の生活の体験学習をし、火おこしや弓矢の的当てを体験した。その際には、聾学校の児童も、草野小学校の児童の手をかりるというよりは、協力し合って活動することができていた。
また、市内の見学学習では施設に関心を持ち、進んで学習する姿がみられた。聾学校の児童と草野小学校の児童が手をつないで活動するなど自然に且つ、友好的に見学することができていた。
 理科では地層の見学学習を実施し、海岸線にみられる地層を観察しノートに的確にまとめることができた。聾学校単独ではなかなかできない集団での見学学習であるので、参加したこと自体に喜びを見いだしていた。

5 成果と課題

(1)成果の見られた点

1 共通理解に立った交流及び共同学習が進められた。

 平成19年度に本研究の指定を受け、交流及び共同学習についての取組を進めてきたところであるが、聾学校との交流自体は長年継続して取り組んでいるため、両校ともスムーズに活動を進めることができた。
 また、年度初めに両校の教員が、共に分け隔てなくより自然に交流及び共同学習を実施するための取組方について共通理解を図って臨んだ。1年生を迎える会・交流春の大運動会・秋の収穫祭、卒業生を送る会等の行事では、よりよいものになるよう周到な準備をして進めたことにより、互いの児童が授業の中での発表や活動に意欲的・主体的に活動する姿が見られた。

2 草野小学校児童の聾学校の児童に関する理解が深まった。

 草野小学校の全児童に対して9月と2月の2回実施したアンケートの結果を見ると、聾学校についての認識が高まったことが次のような点で認められた。

  1. 聾学校の児童についての理解が深まった。
  2. どんな障害のある人がいるのか分かった。
  3. 学校の場所はどこにあるのか分かった。
  4. 情意面で聾学校の児童と話したり遊んだりしたいと感じている児童が増えてきている。
  5. 聾学校の児童ともっと交流したいと考えている児童が増えている。

交流及び共同学習についてのアンケート結果

設問 内容(はい) 9月実施 2月実施
1 聾学校という名前を聞いたことがありますか 486 486
2 聾学校はどこにあるか知っていますか 268 283
3 聾学校へ行ったことがありますか 182 213
4 聾学校にはどんな人がいるか知っていますか 419 446
5 聾学校の人と話したことがありますか 216 229
6 聾学校の人に会ったら
挨拶する
話しかける
370
95
370
80
7 聾学校の人と遊んだりしたいと思いますか 396 400
8 聾学校の人と友達になりたいですか 431 411

3 障害のある児童と一緒に学習することが当たり前と感じるようになっている

 子どもたちの感想の中にも障害があることについて特別意識している様子はなく、授業中など互いに教え合うなど、一緒に学習することが当たり前なものとなっている。
 その自然な交流を通して児童は、相互に相手を思いやる気持ちやよりよい活動をするためには、どのように活動すればよいかを児童自身が自ら考えることができるようになってきている。
 1・3・6年生の学級での交流及び共同学習は週単位での交流を継続することにより、児童が障害のある児童をより身近に感じ、休み時間など互いに楽しそうに一緒に遊んだりするなど、障害のあるなしに拘わらず「みんな友達なんだ」との認識のもと共に助け合い、楽しく活動することができた。
 聾学校の児童は、学級の中で特別な存在ではなく、たまにしか会えなかった友達が普段の学習にも加わるのは大歓迎といった感があった。

4 記録ファイルの蓄積が交流及び共同学習の改善につながってきた

 交流及び共同学習の際に児童の様子や変容を、主に交流学級でファイルに記録し、反省等を蓄積してきた。それをもとに次の活動につなげていくようにした。
 学級単位での交流及び共同学習については実践、反省、改善のサイクルで活動ができた。

交流及び共同学習の記録(両校児童の活動の様子と課題を記録する。)

(2) 今後の課題

1 全校児童の理解を促すこと

 聾学校児童が4名であり、草野小学校の全校児童に占めるその割合が低く、全校的にはまだ、交流及び共同学習が研究の意図した方向に十分進んでいるとはいえない状況である。
 また、児童の実態としてどのように聾学校の児童とかかわったらよいのか分からない、手話ができないなどの理由から積極的に交流を持てないとの実態がある。
 アンケートの結果を見ると、「聾学校の人と遊んだりしたいと思いますか」の項目では、9月に比べ2月の方が人数がやや多くなっているのに対し、「聾学校の人と友達になりたいですか」の項目では、20人少なくなっていることからもこういった実態がうかがえる。
 今年度、聴覚障害者の方を講師として手話教室を実施したり、手話を付けて歌を歌ったりする取組をしたが、より深く交流及び共同学習を進めるためにはコミュニケーションの在り方等も含め、考えていくことが必要となる。
 こういった児童の実態に対して、意識の変革を促す取組をし、交流学級のみならず全校的な意識の高揚がみられるようにする方策が必要であろう。

2 授業の工夫に関すること

 授業の中で、児童の理解を深める掲示物や板書の仕方について、聾学校の児童の視点で作成することで、草野小学校の児童の理解につなげるような工夫が必要であろう。ひいては、それがユニバーサルデザインな授業にも発展できるようにしたい。

6 今後の展望

 この交流及び共同学習の場が、児童に共に助け合って生きていくことの大切さや障害について考えるよい機会となっているのは確かである。
 また、教職員も交流及び共同学習を進めることが互いにとってよい経験となっていることを再認識し、よりよい交流をするために積極的に互いに共通理解を図り、交流を深めることの大切さを感じている。
 今後は交流学級だけでなく、学年全体でかかわっていくなど、学校全体として児童がいかに交流及び共同学習の意義の理解や意識の高揚を図っていくべきか、より具体的な方策を模索していくようにすべきであろう。
 また、障害のある児童を含めた授業が、障害のない児童にとっても分かりやすく学習しやすい授業となるためには、両校の教師がティーム・ティーチング等で授業を展開する際にどのように連携し、どのような工夫をする必要があるのかについて、研究を進めていくことが次年度への課題となるであろう。

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初等中等教育局特別支援教育課

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