新潟県立三条高等学校では、WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業の拠点校として県内唯一のカリキュラム開発を行い、「グローカル探究」「WWL論理・表現Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」「WWL情報」という独自の学校設定科目を開発してきました。また、三条市役所との連携による地域探究、多国籍の留学生を招いた高校生国際会議、海外研修など、地域と世界を往還しながら探究を深める学びの場を積み重ねてきた結果、同校には、生徒が自ら問いを立て、地域や世界と関わりながら学び続ける文化が根づいています。
お話を伺った先生

- 勝山 宏子(かつやま ひろこ)
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校長(国語科)。新潟県教育庁高等学校教育課参事、新潟南高等学校長を経て2023年度に同校着任・現職。

- 北畑 雄一郎(きたはた ゆういちろう)
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教頭(理科)。長岡明徳高等学校教頭、新発田高等学校教頭を経て2025年度に同校着任・現職。

- 押木 和子(おしき かずこ)
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WWL事業部 部長(国語科・司書教諭)。同校で5年以上にわたり生徒の探究活動に関わり、主体的な学びの実現を推進している。
探究の出発点は、生徒自身の「気になること」から
本校がWWLコンソーシアム構築支援事業の拠点校として指定されたのは2021年度のことです。「探究活動の充実」「英語力強化」「国際会議」という3本柱を立て、県内唯一のカリキュラム開発拠点校として歩みを始めました。当時、私たちが強く感じていたのは、生徒が授業の内容を「受け取るだけ」で終わってしまっているという課題意識でした。高校生が自分の頭で問いを立て、地域や世界と関わりながら答えを探していく——そんな学びを学校の日常として根づかせたいという思いが、出発点にありました。
カリキュラムを開発していく中で、最初に直面した壁のひとつが探究テーマの設定です。当初、1年生はSDGsをテーマにしていましたが、いざ授業を進めてみると、生徒たちはネットで調べた情報を並べるだけの学習に止まりがちでした。「SDGsの課題を調べなさい」という枠組みが先にあると、生徒はまずインターネットで「SDGsとは何か」を検索することになります。自分の興味や身近な経験から問いを立てる前に、既存の課題の整理に向かってしまうのです。
そこで2025年度から、1年生のテーマを「社会問題」へと変えました。社会問題の中にはもちろん世界規模の課題も含まれますが、SDGsのような既定の枠からではなく、「自分が気になっていること」「身近で感じている違和感」から入ることができる点が大きく異なります。すると、生徒自身の興味・関心をもとにした探究を行うグループが増えてきました。同時に、探究が地域・国内の問題に偏りすぎるという新たな課題も見えてきました。グローバルとローカルをいかに結びつけるか——このテーマ設計の問いは、現在も継続して取り組んでいます。
2年生は地域課題、3年生は個人の進路に関連した問いで探究を進めます。3年生は進路に関わる本を3冊読んでプレゼンを行う形で構成されており、学年が上がるにつれて問いの幅が広がり、自分の将来とつながっていく設計になっています。
2年生の探究発表は、学年全員が同じ教室に集まって行われた。
クラスを解体し、テーマで集まる
本校のグローカル探究で特徴的なのが、2年生のグループ編成です。クラスの枠を取り払い、テーマの近い生徒が3~4人となるグループを教員の方で決めます。同じグループとなった生徒たちは、その中で議論を重ねグループで 探究するテーマを絞り込んでいきます。教員の間には「生徒同士を無理に組ませても大丈夫だろうか」という懸念もありましたが、時間を重ねるうちに自然と仲良くなっていく——しかも男女混合でも気づけば絆が生まれている——という場面が多々見られました。テーマという共通の目的が、普段の学校生活では生まれにくい関係性を育てていくのだと実感しています。
探究の授業は週1回、固定の時間を設けて実施しています。ただし、活動はその時間だけで完結しません。取材先への訪問は放課後や夏休みも活用し、相手方との日程がどうしても合わない場合は公欠扱いで出かけることもあります。農場への大規模な取材は夏休みに実施するなど、探究の学びはカレンダーを超えて動いています。
こうした探究活動を支えるために、本校では「探究活動の充実」「英語力強化」「国際会議」という3本柱それぞれに対応した独自の学校設定科目を開発しました。「探究活動の充実」にはグローカル探究の時間を、「英語力強化」には1~3年生が継続して履修するWWL論理・表現Ⅰ・Ⅱ・Ⅲとプレゼン資料の作成力を育てるWWL情報をそれぞれ新設しました。「国際会議」は、これら2つの授業で身につけた探究力・表現力・英語力を実際に試す場として位置づけています。3つの柱は独立しているのではなく、互いを支え合う構造になっています。
地域課題発表の様子。市場に出せない規格外トマトがどのように活用されているかをテーマに、実際に農場や生産者のもとへ足を運び、話を聞いた内容をまとめ、考察した成果を発表した。
探究が育てた力と今後の課題
生徒の変化として最も印象的なのが、データ活用力の向上です。きっかけはWWL情報という学校設定科目の導入でした。この授業でデータの収集・処理・可視化の手法を体系的に学んだ生徒たちが、探究の発表の中でその知識を根拠として使えるようになってきたのです。以前は「データを持ってきても、数字の意味を説明できない」というグループが目立っていました。ところが、WWL情報を経験した生徒たちは「このグラフはこういう意味を示している」と自分の言葉で語れるようになっています。授業で学んだことが探究という実践の場で活きる——教科横断が探究の質を変えていく様子を、日々の授業の中で実感しています。
デジタルツールの活用も、生徒主体で広がっています。GoogleスライドやCanvaを使ったポスターデザイン、生成AIを使った情報整理など、学校が指示したわけでもなく、生徒たちが探究を前に進めるために必要なツールを自ら見つけ、使いこなしていきます。「いつの間にか使えるようになっていた」という場面が繰り返されるのは、ツールを覚えることが目的ではなく、探究をやり遂げたいという目的が先にあるからだと感じています。
一方、課題として見えてきたのが「質問力」です。発表を聴いて問いを立て、相手に問いかける力——これが、まだ十分に育っていないと感じています。特定の生徒が活発に質問する一方、会場全体が議論に引き込まれる状況にはなりにくい。発表力は着実に伸びてきましたが、聴く側・問う側の力を育てることが、次に取り組むべき課題です。
市役所との連携と留学生ファシリテーターで動く探究
探究活動において、本校は三条市役所と連携した取組を行っています。その連携が本格化したきっかけは、東京大学が主催する「チャレンジ!!オープンガバナンス」というビジネスコンテストでした。このコンテストは地方自治体と学校が共同で参加する形式で、これをきっかけに市の商工課との関係が生まれ、今では毎週、市役所の担当者と生徒が直接顔を合わせて行う「壁打ち」という形に発展しています。担当者が「この企業に行くといい」「アポのメールはこう書いた方がいい」と生徒に直接アドバイスしてくれることで、生徒は交渉の作法を実地で学んでいます。
最初は「私たちだけが得をしているのでは」という後ろめたさもありました。しかし市役所の担当者から「すぐに結果が出なくてもいい。生徒たちが三条のことを知り、いつか思い出してくれればそれでいい」という言葉をもらったとき、この連携の本質が見えてきました。生徒が地元の文化や産業について調べ、フィールドに出ていくうちに三条のことを「自分事」として捉え直していく。進学や就職で地元を離れたとしても、三条への愛着を持った人材が育っていけば、いつかまちのために動いてくれる人になるかもしれない——市役所にとってそれは、長期的な地域づくりそのものです。連携を支えてくれる市役所担当者の多くが本校の卒業生でもあり、「地元を離れてから戻ってきた人たち」が後輩の学びを支える構造にもなっています。
こうした地域との連携と並行して、本校では国際的な交流の場づくりにも力を注いできました。その中心が、毎年開催するWWL高校生国際会議です。国際会議の運営において特に苦労してきたのが、留学生の招聘です。関東圏と異なり、新潟県には留学生の数が少なく、長岡技術科学大学や国際大学など地元の大学に依頼してようやく40人程度が集まります。それでも、多様な国籍の大学生・大学院生がファシリテーターとして国際会議の分科会に加わり、高校生の議論を丁寧に引き出してくれます。高校生にとって、年上の留学生を相手に対話する経験は、英語ディスカッションへの抵抗を取り除くと同時に、「もっと伝えたい」という欲求を育てていきます。
国際交流の機会は、国際会議にとどまりません。探究型のバリ研修(年間約20~25人参加)と語学中心のボストン研修(年間約15~24人参加)は、いずれも希望者が自ら選ぶ形で毎年実施されており、どちらもWWLが始まってから継続してきた取組です。
こうした外部との交流の積み重ねは、生徒の英語への意欲にも直接つながっています。WWLの取組を通じて海外に目を向ける機会が増えたことで、英検の受験者数が増加しました。さらに1年生の12月には、ISAという企業と連携したグローバルスタディーズプログラムを実施しており、関東圏の優秀な留学生約50人を1週間招いて英語でのディスカッションを行います。この集中的な交流体験が、生徒たちの言語への向き合い方を変えるきっかけになっています。
地域課題発表の会場には、三条市役所の方も出席し、生徒の発表に熱心に耳を傾け、その場で発表の感想や「こうしたらもっと良い」などといったフィードバックも行われた。
生徒に委ねる設計と、教員間に育った対話の文化
探究を機能させるために、本校ではいくつかの指導上の工夫を積み重ねてきました。
まず意識してきたのが、「使うツールを統一しない」という判断です。GoogleスライドでもiPadのKeyNoteでも、生徒が使いやすいものを選ばせることで、思わぬ工夫が生まれてくるからです。その分、教員側での情報管理は大変になりますが、生徒が主体的に選んで動く姿勢を引き出すことを優先しました。提出はGoogleクラスルームに統一することで、管理の手間とのバランスを取っています。
取材先との交渉においても、「生徒に任せる」判断を積み重ねてきました。学校とやり取りがある行政機関や教育委員会等には教員が先に連絡を入れますが、その他の企業や団体には生徒が直接アポイントを取りに行きます。生徒が迷惑をかけてしまうのではないかという不安はありましたが、交渉の過程で生徒自身が礼儀やメールの書き方を学んでいく経験を奪いたくはありませんでした。市役所の担当者が交渉の仕方を教えてくれるようになってからは、この設計がよりスムーズに機能するようになっています。
教員間の探究に関する会議においても、当初は問題が多くありました。WWL事業部と各教科・部門の担当者が集まる週1回の会議は、立ち上げ当初は発言が出ない重い空気が続きました。探究活動は大学入試に直結しないという意識から、関心を持てない教員や、距離を置く教員も少なくなかったからです。それが徐々に変わっていったのは、全学年で探究が広がり、教員たちが自分のクラスの生徒の変化を目の当たりにするようになったからです。「うちのグループのテーマに理科の知識が必要そう」「英語で使える表現はある?」——そんな横断的な情報交換が自然に生まれるようになり、会議はいつしか活発な議論の場へと変わっていきました。
プレゼンテーション資料を含むすべてを英語で行うグループもあった。国際会議等の経験を通じて、探究の成果を英語で発信しようとする生徒の意欲が随所に感じられた。
DXハイスクール採択で実現した取組の継続と発展
2024年度にWWLの予算措置が終了したとき、正直に言えば「国際会議とはいえない規模の小さい会議になってしまう」という危機感がありました。大学の会場を借り、40人近くの留学生を集め、充実した環境で運営できていたのは、それだけの予算があったからこそです。予算がゼロになれば、会場は自校のみ、留学生の数も大幅に減らさざるを得ない——そのリアルに向き合いながらも、「この取組は生徒のために続けなければならない」という思いが、2025年度のDXハイスクール(グローバル型)への応募を後押ししました。
DXハイスクールのグローバル型に採択されたことで、その予算を会場費・移動費・留学生への謝礼に充当し、国際会議の規模と質を維持することに活用しています。同時に、モニターや高性能なノートPCを整備したことで、国際会議の探究発表会が20会場同時進行で実施できるようになり、一人ひとりの発表の場が格段に広がりました。「DXハイスクール予算が、国際会議の文化を守った」という実感があります。
ただ、DXハイスクールの採択結果が判明する時期と、翌年度の国際会議の準備を始めなければならない時期が重なるため、計画の見通しを立てにくい状況が続いています。採択の有無にかかわらず生徒のために取組を継続できるよう、同窓会や地域企業からの協力を得ながら資金面での選択肢を広げておくことが、管理職としての大切な役割だと考えています。
WWLやDXハイスクールを通じた学校の変化は、探究の授業にとどまりません。取組を重ねる中で、学校全体の授業の姿も少しずつ変わってきました。英語や国語でのペアワーク・グループディスカッションが自然に増え、各教科の授業が「スライドを映すだけ」から「生徒が語り合う場」へと変わってきています。「WWLの拠点校になってから学校が変わった」という実感は、教員同士の会話の中でも繰り返し聞かれます。こうした一方向から双方向への変化は、探究だけが起こしたのではなく、国際会議や留学生との交流を含めた学校全体の取組が積み重なって生まれたものです。授業の中で自分の考えを語り、他者の意見に耳を傾け、問いを立て直す姿勢が、生徒の日常に根づきつつあります。
2025年11月に実施された国際会議の様子。生徒たちはディスカッションはもちろん、昼休みの時間も留学生たちと英語で交流し、会議の場内外で積極的にコミュニケーションを図っていた。(提供:新潟県立三条高等学校)
根づいた文化を、さらに前へ
WWLから始まった取組は、DXハイスクールの採択を経て新たな段階に入りました。今後は、これまで築いてきた3本柱をさらに深化させるための取組を続けていきます。
探究活動の充実という観点では、2025年度に新設された理数科との連携が次の課題です。理数科1年生の探究テーマは意外にも人文系の内容が多く、理系の手法を本格的に取り入れた探究が広がるのはこれからです。しかし普通科と理数科の生徒が発表会で互いの成果を聴き合うことで、すでに刺激し合う場は生まれています。実験環境が整い、理系データを扱う経験が蓄積されていけば、探究の深度は確実に変わっていくはずです。
カリキュラムの改良という観点では、「グローバルとローカルをどうつなぐか」という問いが残っています。SDGsから「社会問題」へのテーマ変更は生徒の自分事感を高めた一方で、世界の課題を扱う機会が減るという側面もありました。グローバルな視野を持ちながら地域の課題を探究するテーマをどう設計するか——「グローカル」の名にふさわしいカリキュラムへの問い直しは、現在進行中の課題です。
国際交流の拡大という観点では、DXハイスクールのグローバル型採択を足がかりに、高校生国際会議や県央ネット連携校(地域の高校間ネットワーク)を通じた他校との交流をさらに深めるとともに、海外校との連携や留学生との接点を増やしていきたいと考えています。ボストン研修やバリへの探究研修も続けながら、生徒が「三条から世界へ、世界から三条へ」という往還を自分の学びとして実感できる環境を整えていきます。
何より大切にしたいのは、この取組が「一部の生徒だけのもの」にならないことです。実行委員として国際会議の運営に携わる生徒、探究で地域企業に飛び込んでいく生徒、留学生との対話を経て英語を学び直す生徒——それぞれが自分のペースで変化していく姿を、本校はこれからも丁寧に支え続けていきます。探究・英語・国際会議という3本柱を、この学校に根づいた文化として受け継がれていくものにしていきたい。それが、本校の変わらない願いです。
※本記事の情報は取材時点(2026年1月)のものです。
新潟県立三条高等学校
新潟県三条市に位置する全日制の高等学校。普通科に加え、2025年度より理数科を設置。文部科学省「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」(2021年度~2024年度)の拠点校として県内唯一のカリキュラム開発を担い、「グローカル探究」「WWL論理・表現Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」「WWL情報」を学校設定科目として開発。2024年度のWWL事業終了後もDXハイスクール(グローバル型)採択を通じて国際会議を継続し、探究・英語・国際交流の3本柱による教育を推進している。
