筑波大学附属坂戸高等学校は、文部科学省「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」拠点校として、海外高校・大学・企業と連携した国際協働型の探究学習を展開しています。スーパーグローバルハイスクール(SGH)期の実践を土台に、海外研修、海外大学を含む高大接続、企業との対話を組み合わせ、社会課題を自分事として捉える力を育成します。卒業生の追跡調査からは、国境を越えた行動へつながる学びの持続性も見えてきます。
お話を伺った先生
- 建元 喜寿(たてもと よしかず)
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主幹教諭。農業科・国際教育推進委員会委員長。博士(カウンセリング科学)。岡山県立高松農業高等学校教諭を経て2001年より同校着任。現職教員派遣制度を利用し2008年から2010年に国際協力機構(JICA)青年海外協力隊員に参加。「WWLコンソーシアム構築支援事業」事業担当責任者。
社会課題を“自分事”にする学び
本校は、文部科学省「WWLコンソーシアム構築支援事業」拠点校として、海外高校・大学・企業と連携した国際協働型の探究学習を推進しています。総合学科として30年以上にわたり探究活動を積み重ねてきた歴史を持ち、2000年代前半から国際教育の充実を図ってきました。スーパーグローバルハイスクール(SGH)指定を契機に海外連携が本格化し、その実践は現在のWWLへと発展しています。
制度が変わっても、理念は変わらない。むしろ、社会の変化に応じて、その中身を問い直し続けてきました。
なぜここまで国際教育に力を入れるのか。背景にあるのは、社会課題がもはや遠い出来事ではなくなっているという実感です。
気候変動、森林資源の枯渇、食料の安定供給、地域格差。これらはニュースの中の出来事ではありません。日々の消費行動、生活様式、進路選択。私たちの選択は、世界のどこかの誰かの暮らしに影響を与えています。見えにくいこのつながりを、学びの中でどう手繰り寄せるか。そこに国際教育の意味があると考えています。
本校が掲げるキーワードは「当事者性」と「協働性」。
課題を自分の問題として引き受ける姿勢。そして、立場や背景の異なる他者とともに解決策を探ること。その両輪がなければ、複雑化した社会課題には向き合えません。
筑波大学附属坂戸高等学校が含まれる高大接続型ネットワーク構築の概要。(提供:筑波大学附属坂戸高等学校)
SGHからWWLへ。実践を「構造」に変える
「当事者性」と「協働性」を育てる試みは、SGH期の取り組みの中で少しずつ形になっていきました。海外の学校と関係を築き、フィールドワークを重ね、現場で対話を重ねる。一つ一つは小さな実践ですが、その継続が生徒の視野を広げ、問いの質を変えてきました。
ただ、個々の取り組みだけでは広がりにも継続にも限界があります。そこでWWLでは、これまで積み上げてきた実践を学校全体の仕組みとして位置づけ直しました。
高校・大学・企業が連携し、海外校も含めたネットワークを明確な枠組みとして整える。探究活動を単発の行事に終わらせず、教育課程と結び付け、高大接続へとつなぐ流れをつくっています。
SGHが実践の積み重ねだったとするなら、WWLはそれを日常の教育活動の中に組み込み、継続できる形に整える段階にあたります。支援事業の枠組みを活用しながら、学校としての方針をより明確にする。制度に任せるのではなく、制度を手段として理念をかたちにしていく。その積み重ねが、現在の国際協働探究を支えています。
インドネシア教育大学から来日した国際教育実習生が高校で授業を実施。(提供:筑波大学附属坂戸高等学校)
海外大学を含む高大接続
本校のWWLの特徴の一つは、高大接続を制度上の連携にとどめず、日々の学びの中で機能させているところにあります。筑波大学の授業を高校生が履修できる制度が整えられ、海外大学との学術的なつながりも段階的に広げています。形式的な連携ではありません。生徒は実際に大学の授業に参加し、専門分野の思考に触れ、研究の進め方を体験します。
こうした経験を積み重ねるうちに、進路に向き合う視線にも少しずつ変化が生まれます。
海外研修や国際協働探究を経験した生徒は、進学を考える際に「どこに合格できるか」よりも「自分は何を問い続けたいのか」を基準に考えるようになります。森林問題の背景にある法制度や経済構造、地域社会の営み。食料問題に潜む流通や国際政治の課題。一つのテーマの奥行きを知ることで、関心は自然と周辺領域へと広がっていきます。
進学はゴールではない。探究を続けるための通過点にすぎません。その捉え方の違いは、決して小さなものではありません。
自分の進路を自分の言葉で語れるようになること。そこに、自律した学習者としての歩みが始まります。
開発された海外研修プログラム。グローバル企業との連携は現在も続いている。(提供:筑波大学附属坂戸高等学校)
ASEANとともに学ぶ「海外研修と国際協働探究」
海外研修は、視察にとどまるものではありません。現地の高校生や大学生、企業関係者と協働し、課題を共有し、議論し、発表し、改善を重ねます。そこには「見学者」はいません。一人の当事者として、その場に加わります。
連携の中心はASEAN地域です。インドネシアを起点に、タイ、フィリピン、マレーシアへと広がっています。かつては支援の色合いが強く見られた関係も、いまは対等に学び合う関係へと移りつつあります。経済発展を遂げる地域と向き合うとき、日本が学ぶ側に回る場面も少なくありません。関係は固定されたものではなく、対話を重ねるなかでかたちを変えていきます。
高校生国際ESDシンポジウムでは、複数国の学校、企業、国際機関が参加し、研究や社会アクションについて議論します。参加した生徒は語ります。「高校という壁を越えてつながることが目標だったので、実現できてうれしかった」。掲げてきた目標が具体的な経験として手応えを持った瞬間でした。
現場での対話は容易ではありません。言葉の壁、文化の違い、価値観の衝突。それでも聴き続ける。相手の話を最後まで受け止める。その積み重ねが問いを磨いていきます。揺らぎを受け入れる勇気。そこから当事者としての自覚が育っていきます。
筑波大学附属坂戸高等学校で行われた高校生国際ESDシンポジウムには連携校であるインドネシアの高校生も同校に来日し参加した。シンポジウムでのディスカッションの様子。
高校生国際ESDシンポジウムは配信もされ、海外の連携校の学生も現地からオンライン参加している。
教員と生徒が一丸となって運営する高校生国際ESDシンポジウム。オンライン配信を含め、司会や進行は生徒が主体となっている。
生徒の変容と卒業生の行動
海外研修の成果は、在学中だけでは測れません。卒業後の行動にその成果が表れています。
インドネシアで地震が発生した際、研修経験のある卒業生が中心となり支援活動を立ち上げました。仲間へ呼びかけ、募金を集め、現地と連絡を取り合う。高校時代のネットワークが、社会的行動の基盤になっています。経験が思い出で終わらず、人と人との関係として残っていることがうかがえます。
海外経験を経て国内課題に向き合う進路を選ぶ卒業生もいます。地方創生や地域活性化へと関心を広げる例もあります。外に出たからこそ、改めて足元の課題に目が向く——そうした変化も見られます。視野が広がるとは、選択肢が増えること。その変化は派手ではありませんが、進路の選び方に確かな影響を与えています。
さらに、同校では研修参加者の追跡調査も行っています。経験がその後の価値観や意思決定にどのような影響を与えたのかを検証し、次の実践へと反映させています。教育を「良かった」という感想だけで終わらせない姿勢が、拠点校としての取り組みを支えています。
卒業生追跡調査でわかった研修参加者への影響。(提供:筑波大学附属坂戸高等学校)
企業との対話で生まれる予定調和を越える緊張感
企業との連携では、生徒が率直な問いを投げかけます。環境と経済は両立できるのか。企業の社会的責任とは何か。企業側が想定していなかった問いが向けられることもあり、対話は決して穏やかなだけではありません。そうした緊張感が、生徒の思考を一段深めていきます。
求められているのは、正解を述べることではなく、問いを磨き続ける姿勢です。そのために聴き、考え、問い直します。企業側にとっても若い世代の率直な視点は新たな気づきにつながります。互いに学び合う関係が築かれてこそ、この連携は次の対話へとつながっていきます。
高校生国際ESDシンポジウムではインドネシアでの研修プログラムを共に提供する企業からの発表も。
海外研修、持続可能性への模索
海外研修には費用がかかるため、行けない生徒も出てくる可能性があります。そうした生徒を費用面でサポートするため、奨学金的支援の整備や他校との協働による機会拡充も進められています。単独校で抱え込まず、ネットワークで解決する。そうした工夫を重ねながら、継続のかたちを探っています。
海外との取り組みはコロナ禍もまた大きな試練でした。オンライン活用が進む一方で、現場に立つ経験の重みも再認識されました。空気や間合い、生活のリズムは、画面越しでは伝わりきりません。現場でしか得られない学びがある。そのことを、改めて実感する機会にもなりました。
複数の海外連携校から寄せられたその地域特有の品々。
未来へ、学びが交わる場として
今後はASEANを軸としたネットワークをさらに広げ、研究テーマに応じて世界を往来する高校生を育てたいと考えています。夏はこの国へ、冬は別の国へ。探究のために移動する姿は、決して遠い未来の話ではありません。
学校は、多様な人が出会い、学び合うことのできる場でもあります。海外の高校生、大学生、企業、地域社会。立場の異なる人々が交わることで、新たな視点が生まれます。交わりが深まれば、学びはより立体的になっていきます。
国際教育を特別な活動にしないこと。日常の中に自然に織り込んでいくこと。その歩みは、いまも積み重ねられています。
世界の声に耳を傾け、自分の立ち位置を問い直し、他者と協働していく。その力は、これからの社会を生きるうえで欠かせないものになっていくはずです。筑波大学附属坂戸高校の実践は、日々の教育活動の中で着実に積み重ねられています。その成果は、生徒の進路選択やその後の行動の中に息づいています。

※本記事の情報は取材時点(2025年11月)のものです。
筑波大学附属坂戸高等学校
1974年開校。筑波大学の附属学校として設置された全日制・男女共学の総合学科高等学校。普通科に代わる新しい学科として総合学科教育を先導し、30年以上にわたり探究的な学びを実践してきた。文部科学省「スーパーグローバルハイスクール(SGH)事業」指定校を経て、現在は文部科学省「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」拠点校として、海外高校・大学・企業と連携した国際協働探究を推進。高大接続や国際ESD活動を通じて、社会課題に向き合う力の育成に取り組んでいる。
