
高知県立窪川高等学校は2024年度、高知県西部で唯一「DXハイスクール」に採択された小規模校です。2019年度に開設した学校設定科目「地域課題研究」を軸にICT活用を進めてきた土台の上に、文理横断型カリキュラムやデジタルラボを整備。文化祭を題材としたアプリ開発や来場者データ分析、3Dモデリングや生成AI活用など、実社会と接続した探究的な学びを展開しています。地域とともに未来を創る学びの拠点を目指しています。
お話を伺った先生
- 和田 拓(わだ たく)
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校長(国語)。高知県立窪川高等学校教頭を経て2025年より現職。

- 川村 康裕(かわむら やすひろ)
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教頭。高知県教育委員会事務局 高等学校課 教育DX推進担当チーフを経て2025年より同校着任。現職。

- 廣󠄅出 隼正(ひろで はやまさ)
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理科教諭。教員歴3年目。2025年より同校着任。2026年よりDX推進を担当。

- 前田 喜久子(まえだ きくこ)
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DXコーディネーター。高知県立高校魅力化/ICTコーディネーター。
地域課題から始まった学びの再設計
高知県立窪川高校は、高知県西部に位置する小規模校です。周囲を山々に囲まれ、地域との距離が近い環境にあります。生徒の多くは地元から通学し、家族や地域の産業と日常的につながりながら学校生活を送っています。
この立地は単なる環境条件ではありません。学びの基盤そのものです。農業、商業、観光、地域行事――教室の外に現実の課題があり、生徒の生活圏と地続きになっています。その事実が、本校の教育を形づくっています。
2019年度に開設された学校設定科目「地域課題研究」は、その象徴的な取組です。地域の現状を知り、課題を見出し、仮説を立て、調査し、提案へとつなげる。探究の手順を踏むほど、必要になるのが情報の扱い方でした。
集めた情報をどう整理し、どう可視化し、どう共有するか。探究を深めるほど、デジタルの手段は「あると便利」から「なくては進まない」へと姿を変えていきます。
DXは制度から突然始まった改革ではありません。探究の必然から生まれた流れであり、その延長線上に現在があります。
2025年度はデジタルラボが整備され、授業の中でも機器を活用する場面が増えています。3Dモデリングと3Dプリンタ出力、高性能PCを用いたシミュレーション、マイクロコンピュータによる農作物の自動水やりシステムの考案など、学びは「使ってみる」段階に入りました。
地域課題研究やDXハイスクール、国際交流などに取り組む。(提供:高知県立窪川高等学校)
農業・商業・情報を結びつける6次産業化の学び
本校では、文理横断型カリキュラムの一環として、農業科目と商業科目を相互に関連づけ、さらにデジタルものづくりと接続させる6次産業化カリキュラムの構築を進めています。
これは、農業分野での生産活動を商業的視点と結びつけ、さらに情報活用やデジタル技術の視点を加えることで、価値創造のプロセスを学ぶ取組です。単に作物を育てる、あるいは販売方法を学ぶという分断された学びではなく、複数分野を横断しながら地域資源を活かす視点を養うことを目指しています。
進学コースには文系・理系の中間的な類型を設置し、「情報Ⅱ」を含む教育課程を編成しています。情報活用の視点を加えることで、地域課題研究や各教科での学びを横断的につなぐ構造を整えています。
教科の枠を越えた学びの設計。それが、本校における文理横断型カリキュラムの特徴です。
文化祭を通した実践的な横断学習
2年生の「地域課題研究」では、生徒主体で文化祭の企画・運営を行っています。その過程で、デジタルラボのICT機器を活用したプロジェクトが実践されました。
文化祭の来場者分析アプリの開発、自分が塗り絵をした魚がモニター上で泳ぐ「お絵描き水族館」の構築、生徒が描いたフレームで撮影し、表示された二次元バーコードから画像を保存できる「プリクラ風アプリ」の制作など、ICTを活用した取組が展開されています。
また、レーザーカッターを用いたキーホルダー制作や、プリンタを活用したトートバッグ制作、AIを活用したフォトブースなども実施されました。
取組を進める中で、生徒からは「まさかこんなものが自分たちで作れると思っていなかった」という驚きの声もありました。さらに、大量に制作していく過程では、自然とコミュニケーションが生まれていきました。
準備段階では、役割分担や進行管理も必要になります。誰がいつ何をするかを言葉にし、遅れが出れば調整する。リーダーシップや協働、交渉力といった力が、制作の裏側で鍛えられていきます。
生徒の言葉には、主体的に取り組んだ実感がにじみます。成功だけでなく試行錯誤を経験したからこそ、得られる感覚です。
こうした経験は、情報活用能力だけでなく、企画力や協働性、実社会との接続を意識する力として積み上がっていきます。
生徒が制作したフォトブース。文化祭で提供されたプリクラ風のアプリとなっており、二次元バーコードから画像を保存できる。ICTを活用した実践的な取組の一つ。
3Dプリンタやレーザーカッター、UVプリンタ、ガーメントプリンタなどデジタルファブリケーション機材を使って生徒が作ったトートバッグや巾着袋。
高性能なゲーミングPCやMac、デジタルファブリケーション機材など先端機器が設置されたデジタルラボ。文化祭や部活動など放課後に活用されることが多い。
情報Ⅱと探究の接続
情報Ⅱを含むカリキュラム編成により、情報活用の学びは教科内にとどまらず、地域課題研究や文化祭での取組とも接続されています。
生成AIの利用も広がっています。「AIに答えを聞く」という受動的な使い方から、「AIを活用して何かを創り出す」という能動的な使い方へ。動画やポスター制作など、デジタル創作に挑戦する動きが授業の中にも入り始めています。
教員の中には、AIを活用して独自の学習アプリを作成し、生徒の課題への取組状況や振り返り内容を分析し、個別最適な指導の補助に役立てている例もあります。
情報活用は単独の技能として切り出されるのではなく、探究活動や教科横断の学びと結びつきながら磨かれています。
横断型の学びがもたらす変化
文理横断型カリキュラムとICT活用の積み重ねは、学びの選択肢を広げています。生徒は活動を通して、「自分は何に惹かれているのか」「どの領域に手応えを感じたのか」を言語化する機会が増えました。進路を決める材料が増える――それが、学びの現場で起きている変化です。
教科の枠を越えて学ぶ経験は、自らの関心や将来像を具体化する契機となっています。
文理横断とは、単に科目を組み合わせることではありません。地域と向き合い、複数の視点から考える姿勢を育むこと。その実践が、窪川高校の教育の中で着実に進められています。
多様な生徒の進路実績。(提供:高知県立窪川高等学校)
DXコーディネーターという推進の軸
文理横断の実践を支えているのがDXコーディネーターです。教員経験を背景に学校文化を理解しながら、外部との接点も持つ。その立ち位置は、校内の熱量を具体的な前進へとつなぐ「翻訳役」にもなっています。
完全な外部人材ではありません。従来型の教員でもありません。双方の事情が見える中間点に立ち、現場の迷いを整理し、選択肢に落とし込む。その存在が推進の軸になります。
職員室では、日常的に授業相談が持ち込まれます。「こういうデータ分析を授業で扱いたい」「生成AIをどう活用すればよいか」。問いは具体的で、時間は限られています。だからこそ、できることを一つずつ一緒にほどいていく。
前に出すぎない。それでも、止めない。動きが途切れそうなところに手を当て、現場が動ける状態を整えていきます。
加えて、校内の組織として少人数で構成された「DX推進委員会」をつくりコーディネーターが中心となり推進に取り組んでいます。委員会は隔週で開かれ、今後の取組や進捗状況について情報共有を行っています。忙しい学校ほど、重要な議題は後回しになりがちですが、定期的な話し合いの場を確保することが、推進を日常業務の一環として継続することにつながります。
「分からないことだらけで現在も暗中模索状態で進んでいます」と教員から率直な言葉が出ることもありますが、そうであるからこそ、情報共有の場として「DX推進委員会」の価値が際立ちます。推進とは勢いではなく、続けられる設計です。
外部との橋渡し
外部講師との調整も重要な役割です。学校独自のリズムや事情を理解し、それを外部に伝えるとともに、外部の提案を学校文化に適合させる。翻訳者としての機能が求められます。
両方向の信頼関係がなければ、連携は形骸化します。地道な調整が成果を支えています。
昨年度から継続している小・中・高校の学校教員や地域の方など教育現場でのICT活用に興味のある方を対象とした「教育ICT活用研修会(LEG高知 高知県立窪川高校 主催)」では、県内外から9名の講師を招き、Google、ロイロノート、生成AIなど多岐にわたるテーマで14の分科会を実施しました。研修は知識の共有にとどまらず、校内で試すための共通言語づくりにもなっています。
こうした研修会や校内での取組の積み重ねを受け、生徒アンケートでは「ICT端末をほぼ毎日活用している」と回答した生徒が91%に達しました(県平均48.4%)。授業内での「主体的な活用」についても「週3回以上利用している」と回答した生徒が82%に達しています(県平均38%)。数字は成果の一部にすぎませんが、日常の学びに溶け込んできたことは確かです。
ICT活用が「特別な取組」ではなく授業づくりの前提として受け止められる場面が増えており、そうした受け止め方の広がりが学校文化の変化を示しています。
地域とともに広がる学び
デジタルラボは今年度、文化祭や部活動、小学生向けワークショップ、地域の方に向けたテスト開放を実施し、授業内の本格活用を意識した運営をしています。
デジタルラボの活用を通じて得られる地域に支えられているという実感が、生徒の意識を変えていきます。「こんなことをしたい」と生徒が相談すると、「よっしゃ、手伝っちゃろ」と地域の方が時間を割いて話をしてくれる――そんな場面があります。地域と学校の距離の近さが、探究の背中を押しています。
「やりたいことを応援してくれる学校」。生徒がそう説明するようになりました。挑戦を後押しする空気が、教室の外の地域とも結びつきながら育っていきます。
探究と文理横断、DX推進の積み重ねが、そうした言葉として表れてきています。
テスト的に地域へデジタルラボを開放している。(提供:高知県立窪川高等学校)
静かに、しかし確実に
窪川高校のDXは劇的な変化を伴うものではありません。派手さよりも継続を重んじ、できることを一つずつ積み上げています。
DXハイスクールという制度を活用しながらも、向き合うのは目の前の生徒一人ひとり。その姿勢が揺らがない限り、取組は続きます。
文理横断の学び、外部と内部をつなぐ支え、地域とともに広がる実践。
その重なりが、学びの質を着実に押し上げています。

※本記事の情報は取材時点(2025年12月)のものです。
高知県立窪川高等学校
1942年に高知県立窪川農業学校として設立され、その後普通科を設置し現在の校名となった伝統ある公立高等学校。全日制普通科を基本とし、2年次から「地域リーダー養成コース」と「進学コース」に分かれ、地域課題を学びの出発点とする教育を進める。2024年度より、文部科学省「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」に県西部・中山間地域の小規模校として唯一採択され、ICT・データサイエンス・デジタルものづくりを教育の中核に据えた学びを展開。少人数の環境を生かし、起業精神・協働性・真理の探究を育む教育方針のもと、生徒一人ひとりの主体的な学びと地域に貢献する姿勢の育成に取り組む。
