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岩手県

岩手県立大槌高等学校

震災を経て生まれたつながりを学びに変える 岩手県立大槌高等学校の地域探究科と伴走型の学校改革

  • 取材・文:株式会社シード・プランニング
  • 素材提供:岩手県立大槌高等学校

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岩手県立大槌高等学校は、人口減少による入学者数の減少と、従来の普通科カリキュラムの閉塞感を背景に、2019年度から高校魅力化の取組を開始しました。2024年度には普通科改革の一環として「地域探究科」を設置。探究を軸に、基礎学力の学び直しに対応する個別最適な学びやデュアルシステム、NPO法人のコーディネーターの常駐、東京大学大気海洋研究所との連携を通じ、地域をフィールドに学びを再設計し、はま留学(全国募集)にもつながっています。

お話を伺った先生

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伊藤 晃(いとう あきら)

副校長。以前教諭として同校に勤務した経験を持ち、東日本大震災当時も在籍。その後、2024年4月に副校長として再び着任し、学校改革の推進にあたる。

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小野寺 綾(おのでら りょう)

認定NPO法人カタリバ「大槌町教育魅力化」事業責任者。コーディネーターとして「大槌高校魅力化」と「大槌臨学舎」の事業推進を担っている。

「選ばれる学校」を目指して行った学校改革

岩手県沿岸部にある本校は、1学年2クラスの小規模校です。限られた規模の中でも「選ばれる学校」を目指し、2024年度に探究を核にした新学科「地域探究科」を設置しました

新学科設置を後押ししたのは、学校の外側と内側の両方に横たわる、見過ごせない課題でした。

まず外側では、入学者数の減少が続く中で、大槌町は、もし大槌高校が廃校になれば、地域社会に大きな影響が出ると考えていました。地域に一校しかない高校として、「この先も学びの場をどう維持し、どんな価値を届けるのか」を改めて考え直す必要があったのです。

内側にも、学びが生徒に届きにくくなる構造がありました。当時の普通科では大学受験対応の科目が時間割の大半を占め、関心や進路に応じて学びを選べる余地は限られていました。就職希望の生徒にとっては必要性を実感しにくい科目も多く、学びが「自分のこと」として立ち上がりにくくなっていたのです。

こうした状況を受け、「生徒にとって意味のある学びをどうつくり直すか」「地域や中学生にとって選びたくなる学校とは何か」という問いを起点に、学校改革を進めることにしました。2019年度に文部科学省の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」の地域魅力化型指定校に選ばれたことも、その改革を具体化する大きな契機となり、高校魅力化の取組を開始することになります。その後の試行錯誤を経て、2024年度に地域探究科の設置へと至りました。その過程では、探究を回す体制づくりに加え、外部人材であるコーディネーターの役割や学校との関係性を手探りで整えていく必要もありました。新学科の創設によって学校が急に変わったのではなく、試行錯誤の積み重ねが、地域探究科の設置へとつながったと捉えています。

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「ひょっこり表現島(国語)」や「くらしmath(数学)」など、変わった名前の学校設定科目を選べることも大槌の魅力のひとつ。

「地域をフィールドに学ぶ」地域探究科の学び

地域探究科の特徴は、地域を題材として学ぶだけでなく、地域を学びのフィールドとして活用している点です。1年生は「総合的な探究の時間」の授業の一環として実施されている地域課題解決型の学習プログラム「SIMulationおおつち(シムおおつち)」で大槌町の課題にグループで取り組み、2月に町議会の議場で成果を発表します。課題設定ではテーマを与えず、生徒の中から出てきた問いを尊重します。2年生は「マイプロジェクト」で個人テーマへ移行します。そこでは、アニメやファッションなど地域に関係のないテーマも探究のテーマとして選ぶことができます。3年生は、進学希望者が自分の興味関心に近いテーマを研究・発信している大学教員や関連書籍の執筆者など「学びたい分野の専門家」にオンラインで取材し、就職希望者は関心のある職業の実務者(その職に就く先輩等)にインタビューします。インタビューを通して、求められる力を具体的に知り、自分の課題と次に伸ばしたい力を整理します。最後には「18年間で一番お世話になった人」を招いてプレゼンする発表会も開かれます。

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1年生、「総合的な探究の時間」の様子。(提供:岩手県立大槌高等学校)

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2年生、「マイプロジェクト」の様子。(提供:岩手県立大槌高等学校)

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3年生、専門家と実務者インタビューの様子。(提供:岩手県立大槌高等学校)

カリキュラム面では、義務教育段階の学習まで戻れる「個別最適数学」や、地元企業で年4回インターンシップを行う、いわゆる「デュアルシステム」を取り入れた「大槌キャリアプログラム」を授業として導入。進学・就職コース間の科目選択の壁も取り払い、進路を問わず学びを組み立てられる設計へと転換しました

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地元消防署で行ったデュアルシステム(企業実習)の様子。(提供:岩手県立大槌高等学校)

震災を経て生まれたつながりが支える探究

本校の探究が「地域をフィールドに学ぶ」学びとして成立している背景には、震災を経て生まれた地域とのつながりがあります。震災前、本校と地域の教育的なつながりはほとんどありませんでした。転機になったのは震災時、避難所となった本校で、生徒が避難所運営に携わり、震災後は生徒自身が復興について発信するようになったことです

2013年には、本校に町内180か所で定点写真を撮り続ける復興研究会が発足し、学校の活動が地域の記憶や復興の歩みと結び付きながら広がっていきます。大槌町も教育の復興に力を入れ、住民参加で教育大綱を策定しました。こうした積み重ねが、学校の取組を町全体で支える土台になっていきました。

この「つながりの土台」があるからこそ、現在の探究では学校の外に学びの相手がいます。1年次の「SIMulationおおつち(シムおおつち)」で町の課題に向き合い、町議会の議場で成果を発表できるのも、地域に「高校生の学びを一緒につくる」という受け止めが育っているからです。教室の中だけで完結させず、地域の大人や行政との対話を通して提案を磨き直していく学びが可能になります。

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復興研究会の定点写真撮影の様子。(提供:岩手県立大槌高等学校)

そして、この土台は探究だけでなく、全国から生徒を受け入れる「はま留学(全国募集)」を進めていく上でも欠かせない支えになっています。実際に県外から入学する生徒の中には、海や魚への関心を入口に、東京大学大気海洋研究所との連携や研究会の活動に魅力を感じ、進学先として本校を選んでくれるケースがあります。地域ならではの学び(例えばジビエへの関心など)に惹かれて来る生徒もおり、「ここでしかできない学び」が県外生徒の志望動機になっているのです。受け入れ面でも、留学生を迎える下宿先について、親戚等に限らず一般の個人宅でも受け入れが始まるなど、学びと生活の両面で地域が支える動きが進んでいます。

地域に支えられながら学べる環境を基盤に、探究の相手は町内外へ広がっています。NPO法人カタリバが運営する「学校横断型探究プロジェクト」では、全国の小規模校とオンラインでつながり、互いの探究を発表して質問やコメントを交わします。年に複数回の交流会として継続的に実施されており、対話を通して探究の次のアクションを具体化していく機会にもなっています。学校の規模や地域の枠を超えて「語れる相手」が増えることで、探究が深まる回路が生まれています。このようなつながりの積み重ねは、生徒の変化としても表れています。例えば、漠然と「地域が好きだ」と感じていた生徒が、探究を通じて血縁集団のあり方を探究のテーマに選び、関心を深めた結果、地域社会の仕組みを政策や制度の観点から学びたいと考えるようになり、総合政策学部への進学を決めました。関心を出発点に、地域の現実に触れながら問いを言語化し、学びを次の選択へつなげていく――地域探究科が目指してきた学びが、少しずつ形になっています。

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はま留学(全国募集)のパンフレット。あわせて、はま留学をPRするYouTube動画を公開するなど、広報にも力を入れている。(提供:岩手県立大槌高等学校)

戸惑いから信頼へ コーディネーターと築いた協働

探究や地域連携、さらにはま留学(全国募集)までを日常の教育活動として回していくために、本校では外部人材であるコーディネーターが職員室に常駐し、企画・調整に加えて生徒の伴走にも関わる体制を整えてきました。

コーディネーターは、カリキュラム開発や地域との接点づくりを担う専門人材として位置づけられ、学校内の会議への参加や学科編成の協議進行、コンソーシアムの企画運営、地域の企業・役場・研究機関・NPO等との連携調整など、探究を動かす裏方の役割を担っています。

ただ、コーディネーターの導入は、教員一人ひとりが議論して積み上げたというより、体制が先に決まったこともあり、導入した直後はその存在と役割について理解できず、コーディネーターに「何を任せ、どう協働するのか」が分からない時期もありました。

状況を変えたのはコーディネーターの地道な歩み寄りです。探究の授業を週次で企画・運営し、教員と打合せを重ねながら次回の方針を一緒に決めていく。そうした積み重ねを続けることで、教員の間にも「生徒たちのために一緒にいい環境をつくる仲間」という意識が芽生え始めました

さらに常駐という強みを生かし、日常の中でコーディネーターが生徒たちの探究活動や進路の相談に乗るようになりました。教員以外にも相談できる相手ができたことで、生徒もより安心して学校生活を送れるようになったと感じています。 今では、コーディネーターの伴走の姿勢やアイデアが授業づくりや生徒指導にも浸透しています。

大海を航る力を育てる学校を目指して

取組を始めてから数年が経ち、探究を軸にした学びは少しずつ学校の日常として根づいてきました。この歩みを踏まえ、次に目指す姿も見え始めています。

学校としては教科の壁を超えた学校設定科目の開発など、カリキュラムをより柔軟にしていくことを目指しています。探究では、起業に挑戦する生徒が現れるような、成果が地域にも波及する段階に到達したいと考えています。ただ、高校3年間だけでそこまで育てきるのは難しいという課題もあります。そのため、義務教育段階から町ぐるみで探究を積み上げ、学びを体系化していきたいと思っています

そして、普通科改革を行っている先生方には、「自校に一般受験対応の科目がどこまで必要なのか。無理でもまず問いを投げかけてほしい」と伝えたいです。受験科目を前提に時間割を組むのではなく、生徒にとって意味のある学びから逆算して考えることが、改革の第一歩になるのではないでしょうか

こうした考えの根底にあるのが、本校のコンセプト「大海を航る、大槌(ハンマー)を持とう」です。生徒一人ひとりに強みを持たせ、社会に送り出す歩みをこれからも続けていきます。

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社会で活躍する武器を身に付ける教育をこれからも続けていく。(提供:岩手県立大槌高等学校)

※本記事の情報は取材時点(2025年11月)のものです。

岩手県立大槌高等学校

岩手県沿岸部に位置する1学年2クラスの小規模校。2019年度から高校魅力化に着手し、2024年度に普通科改革の一環として地域探究科を設置。「大海を航る、大槌(ハンマー)を持とう」を魅力化コンセプトに、自立・協働・創造の3つの柱を据えた教育を展開。NPO法人のコーディネーター3名が職員室に常駐し、探究活動を軸とした地域との協働、東京大学大気海洋研究所との連携、デュアルシステムの導入など、地域をフィールドにした特色ある教育を展開している。

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