北海道有朋高等学校は、通信制課程と単位制による定時制課程を併設する公立高校として、学び直しを希望する多様な生徒を受け入れてきました。近年は、学習面のつまずきや心理的な不安、将来への迷いを抱える生徒が増える中、通信制課程では、学習支援・心理相談・キャリア支援を柱とした支援体制の充実に取り組んでいます。大学生等が関わる学習指導員や、オンラインを活用した相談体制、若者支援機関との連携などを通して、生徒が再び、学びと社会につながることを目指しています。
お話を伺った先生

- 阿部 穣(あべ みのる)
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校長。2023年度より現職。北海道高等学校遠隔授業配信センター長を兼務。通信制課程において文部科学省調査研究事業「多様性に応じた新時代の学び充実支援事業」の研究取りまとめに携わる。

- 小笠原 淳亙(おがさわら じゅんこう)
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通信制課程教頭。教諭(商業・情報)を経て2023年度より現職。

- 佐藤 豊記(さとう とよき)
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北海道高等学校遠隔授業配信センター次長。道立高等学校教諭(地歴・公民)を経て2023年度より現職。

- 大和田 真利(おおわだ まり)
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文部科学省調査研究事業・支援体制チームチーフ(2025年度)。公民科教諭。教員歴15年目。2023年度より同校通信制課程に着任。公認心理師の資格所有。
学びを、孤立させない。北海道唯一の公立通信制高校として
本校は、通信制課程と多部制・完全単位制の定時制課程を併置しています。通信制課程は、北海道で唯一の公立通信制高校として、長年にわたり多様な学習者の学びを支え、道内各地に協力校を配置することで、広大な北海道においても学びの機会を確保しています。札幌にある実施校に通う生徒もいれば、地域の協力校に通いながら学ぶ生徒もおり、学び方は一人ひとり異なります。地理的条件や生活環境に左右されず学び続けられる仕組みを整えることは、北海道における教育の重要な役割の一つだと考えています。
さらに本校敷地内には、北海道教育委員会が設置する「北海道高等学校遠隔授業配信センター(愛称:T-base)」の拠点校が併設されており、全道の高校生の学びを支える役割も担っています。通信制課程、定時制課程、そして遠隔授業配信という三つの機能を併せ持つことで、生徒の生活環境や地域性に応じた学びを保障してきました。
私たちが学校運営の軸として大切にしているのは、「学びからこぼれ落ちそうな生徒を、孤立させないこと」です。
一人ひとり異なる背景から、支援を考える(通信制課程)
現在、本校通信制課程には約4,000人の生徒が在籍しています。不登校経験のある生徒、基礎学力につまずきを抱える生徒、家庭環境や将来への不安を抱える生徒など、その背景は実にさまざまです。年齢層も幅広く、「高校生像」は一つではありません。
通信制課程では「自学自習」が基本になりますが、自力で学習を進めることが難しい生徒もいます。学習の不安だけでなく、「誰に相談してよいか分からない」といった戸惑いを抱えているケースも見られます。こうした状況を踏まえ、学習指導の方法だけでなく、生徒を包括的に支える学校体制を目指し、「教える」だけでなく「支える」ことを重視してきました。
学習・心理・進路を切り分けない支援体制へ(通信制課程)
近年は、学習支援・心理相談・キャリア支援を切り離さず、一体的に捉えた支援体制の構築に取り組んでいます。生徒の困りごとは、学習面だけ、心理面だけといった単純なものではなく、複数の要因が重なっていることが少なくありません。
例えば、学習のつまずきが自己肯定感の低下につながり、将来への不安を強めてしまうケースもあります。そこで私たちは、生徒を一面的に捉えるのではなく、生活背景や心理的な状態も含めて多面的に把握し、必要な支援につなぐことを意識してきました。
学習指導員が支える、「分からない」と言える関係(通信制課程)
学習面では、文部科学省の調査研究事業「多様性に応じた新時代の学び充実支援事業」の一環として、大学生・大学院生を中心とした学習指導員を配置しました。面接指導日に2名体制で生徒に声をかけ、報告課題のサポートや学習支援、時には話し相手として関わっています。令和6年度より配置され、令和7年度は、のべ605人の生徒に対応しました。(注:令和7年度末の最終人数。TTでの支援278人、個別の学習支援78人、話し相手としての支援249人)
学習指導員は、教員とは異なる立場だからこそ、生徒にとって身近な存在として関わることができます。「先生には聞きづらいが、指導員には話しやすい」と感じる生徒もおり、その関係性が学習への一歩につながることもあります。
小さなつまずきに気付くことから始まる学び直し(通信制課程)
学習指導員が関わる中で見えてきたのは、「分からない」の背景です。教科書と報告課題の改行箇所が異なることで答えを見つけられないことや、公式だけでなく、四則演算の理解など、小さなつまずきが積み重なり、学習への苦手意識につながっているケースが少なくありませんでした。
指導員は、自己開示や共感、肯定的な声かけを意識しながら、生徒の困りごとに寄り添っています。「自分からは相談できないが、実は困っている」生徒に気付き、支援につなげることができた点は、取組の一つの成果だと感じています。
学習指導員からの報告や引継ぎが効果的に実施できる仕組みを整えている。(文部科学省調査研究事業の報告資料より抜粋/大和田真利教諭作成・提供)
心理職が担う、“最初の相談窓口”(通信制課程)
心理的な支援も重要な柱です。通信制課程では、スクールカウンセラー2名、スクールソーシャルワーカー1名、若者サポートステーション2名の計5名体制で、生徒や保護者の相談に対応しています。対面だけでなく、オンラインや電話での相談にも対応し、「必要なときに、必要な形でつながれる」体制づくりを進めてきました。
通信制課程の生徒にとっては、学校に足を運ぶこと自体が負担になる場合もあります。そのため、相談の入口を複数用意することが、生徒や家庭を支える上で重要だと考えています。
心理的な支援に関する説明を生徒や保護者に実施。ポスターを展開することで「相談できる味方」がいることを日々気付いてもらえるよう工夫している。(文部科学省調査研究事業の報告資料より抜粋/大和田真利教諭作成・提供)
進路を「決める」前に、選択肢を広げる(通信制課程)
キャリア支援では、若者サポートステーションと連携し、進路未定のまま卒業する生徒が多いという課題に向き合ってきました。年1回の講話に加え、個別相談やキッチンカーを通じた交流の場を設け、生徒が気軽に社会と接点を持てるよう工夫しています。
キッチンカーでの取組は、相談窓口や面談といった「構えた場」では声を上げにくい生徒とも、自然な会話が生まれる点に特徴があります。食事をきっかけにした何気ないやり取りの中で、生徒の関心や不安が少しずつ言葉になり、そこから個別相談や具体的な支援につながるケースも見られました。
「相談する」という意識を持たずとも社会と関われる場を用意することで、生徒にとって進路や働くことを考える第一歩になっていると感じています。
今年度は、協力校の生徒にも届くよう、講話内容を動画で限定配信しました。進路を早期に決めることを目的とするのではなく、「考え続けてよい」「選択肢がある」と伝えることを大切にしています。
多様な教育的ニーズに対応した指導・支援方法を提供し生徒の選択肢を広げている。(文部科学省調査研究事業の報告資料より抜粋)
遠隔授業配信センター(T-base)が広げる学び
本校のもう一つの重要な役割が、遠隔授業配信センター(愛称:T-base)です。北海道教育委員会が設置したこのセンターは、小規模校や教員配置が限られる学校に対しても質の高い授業を届けることを目的に開設されました。現在は、道内32校に向けて遠隔授業を配信し、それぞれの学校で学びが成立するよう支えています。
有朋高等学校内に設置されたT-base専用の職員室。
三つの機能で北海道全体の学びを支える
T-baseは、有朋高校の校舎内に設置されていますが、単なる「配信スタジオ」ではありません。通信制課程、定時制課程、そして遠隔授業配信という3つの機能が同じ場所に集まることで、北海道全体の学びを支える拠点としての役割を担っています。地域や学校規模によって学びの選択肢が狭まることのないよう、教育の質をどう保障するか。その問いに向き合う中で生まれた仕組みだと感じています。
手づくりで整えた配信環境
センター内には、現在15か所の配信スペースが整備されており、教科や授業形態に応じて使い分けられています。書道や情報、家庭科など、教科の特性に合わせて背景やカメラ配置を工夫し、実習や手元の動きが伝わるよう試行錯誤を重ねてきました。週当たりの配信時間は約295時間に及び、複数の教科・学年の授業が日常的に行われています。
こうした配信環境の多くは、完成された設備を導入したものではありません。現場の教員が中心となり、「どうすれば伝わるか」「限られた予算の中で何ができるか」を考えながら、一つひとつ手づくりで整えてきました。グリーンバックやカメラ台、プロンプターなども、市販品に工夫を加えたり、自作したりしながら改良を重ねています。教員自身が授業者であると同時に、配信環境の設計者でもあるという点は、T-baseの大きな特徴だと言えるでしょう。
限られた空間で効果的な配信が行えるよう、教員のアイディアを取り入れて作りあげた配信スペース。プロンプターも市販品の流用ではなく自作。
現地教員との関係性を大切に連携する意味
遠隔授業は、単に「画面越しに授業を届ける」ことが目的ではありません。小規模校では、どうしても開講できる科目や教員配置に限りがあります。そうした学校に対して、現地の教員と連携しながら、学びの選択肢を広げ、質を補完する役割を果たしています。遠隔であっても、地域にいる教員が生徒を見守り、私たちがそれを支える。その関係性を大切にしてきました。
北海道は広域分散型の地域であり、生徒は道内各地に点在しています。T-baseの取組は、「どこで学んでいても、学びの可能性が狭まらない」ことを目指した実践です。通信制・単位制・遠隔授業という3つの機能が連携することで、地域や学校規模に左右されない学びの保障が、少しずつ形になってきていると考えています。
「最後の居場所」で終わらせない学校であるために
本校には、「ここが最後の居場所だと思って来た」と話す生徒もいます。そうした生徒が、人とつながり、支えられながら学び直す中で、自分の可能性に気付いていく姿を、私たちは現場で見てきました。
支援は特別なものではありません。生徒の声に気付き、孤立させず、必要なところにつなぎ続けること。その積み重ねが、学校の役割だと考えています。
多様な学びを支える学校のかたちを、これからも現場で試行錯誤しながらつくり続けていきます。
通信制課程・定時制課程・遠隔授業配信センター、3つの柱で北海道高校教育の「最高の砦」として進化を続ける。(提供:北海道有朋高等学校)
※本記事の情報は取材時点(2025年11月)のものです。
北海道有朋高等学校
北海道で唯一の公立通信制高等学校として設置された、通信制課程・定時制課程を併せ持つ高等学校。道内各地に協力校を配置し、地域に根差した学びを支えている。校内には北海道教育委員会が設置する遠隔授業配信センター(T-base)が置かれ、小規模校等に向けた遠隔授業の配信拠点としての役割も担う。多様な学習ニーズに応える支援体制を特徴とする。

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