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鹿児島県立国分高等学校

理数科も普通科も「地の利」を活かした課題研究。失敗を恐れずトライし続ける力がついた鹿児島県立国分高等学校

  • 取材・文・撮影:西田理乃(教育家庭新聞社)
  • 編集:TOPPAN
  • 素材提供:鹿児島県立国分高等学校

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スーパーサイエンスハイスクール(SSH)第Ⅰ期(2018年度~)に指定され、第Ⅱ期(2023年度~)では「イノベーティブな科学系人材の育成を目指した国分プログラムの開発と展開」に取り組んでいる鹿児島県立国分高等学校。同校の生徒は、海と山、複数のIT企業を擁する豊かな環境で理数科、普通科ともに地の利を活かした課題研究に取り組んでいます。さまざまな大会に出場して毎年のように成果を上げており、進学実績にもつながっているという同校の課題研究の進め方についてお聞きしました。

お話を伺った先生

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石谷 洋一(いしたに よういち)

校長(数学科)。鶴丸高等学校教頭、加世田高等学校長を経て2024年度に同校着任・現職。

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小平 英樹(こびら ひでき)

教頭(地歴)。高校教育課高校振興係指導主事、与論高等学校教頭を経て2023年度に同校着任・現職。

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神園 奉和(かみぞの ともかず)

SSH推進部主任(国語)。2021年度に同校着任。普通科の担任を務めた後、2023年度にSSH推進部副主任、2024年度より現職。

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大保 隆成(おおぼ りゅうせい)

SSH推進部副主任(数学)。2022年度に同校着任。2021年度に理数科の担任を務めた後、2024年度より現職。

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河野 裕一郎(かわの ゆういちろう) 

理数科主任(理科・化学)。2022年度に同校着任。つくばScience Edge 2024で最優秀賞を受賞したリン酸班の活動を支援した。

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福永 千花(ふくなが ちか) 

理科実習助手。2016年度に同校着任。同校の課題研究開始時から関わっており、SSH推進部の企画・渉外を担当。

理数科の成果が普通科の生徒を刺激

スーパーサイエンスハイスクールで理数科の課題研究が高評価

本校の理数科は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定される以前から課題研究に取り組んでいます。しかし、学校広報や情報発信には積極的とは言えない面があり、少子化の影響から入学者が減少し始めるなか、本校の特色を打ち出した取組をより積極的に行い、地域に発信していく必要があるのではないか、と考えました。その方法の一つとして「スーパーサイエンスハイスクールに申請しよう」と声を上げたのが、当時本校に在籍していた本校出身の校長と、本校出身で理数科一期生の教員でした。

「教科学習に力を入れる方が生徒の将来のためになる」「新しい取組は時間がかかる」などの肯定的ではない意見もありましたが、当時の本校出身の校長と教員の熱心な説得もあり、まずは1回申請してみよう、ということになりました。無事に申請が通り、理数科においてスーパーサイエンスハイスクール第Ⅰ期(2018~2022年度)のスタートを切ることとなりました。

理数科はもともと、課題研究に熱心だったこともあり、2018年度のスーパーサイエンスハイスクール生徒研究発表会に初出場した生徒たちが、文部科学大臣賞を獲得し、世界大会(シンガポール)に出場したのです。理数科が日常的に行っていた課題研究が全国レベルであることに、学校全体が驚きました。賞を獲得した生徒たちが研究内容を全校生徒の前で発表したところ、「自分たちも課題研究をやってみたい」と目を輝かせたのが、普通科の生徒たちです。そこで普通科の希望者を対象に、自主ゼミというかたちで生徒会予算を計上して課題研究を進めることとし、以来、課題研究は本校の学びの柱となっています。

1年生で地域の資源価値を学び、課題研究のテーマにつなげる

課題研究について、理数科は主に理科の教員が、普通科は教職員全体で進めています。いずれも1年生は基礎訓練期で、1学期に地域の資源価値について専門家から学びます。2学期のサイエンス研修では8コースを用意し、普通科も理数科も参加。自分が関心をもったコースを選択します。フィールドワークで地層や川などの霧島地区の自然を観察したり、上野原縄文の森で遺跡について深く学んだりするほか、第一工科大学でスポーツ科学や栄養学の講義を受講したり、鹿児島大学の水産学部や法文学部で研究について学んだりするなど、生徒の多様な興味・関心や要望に応えられるようにしています。

課題研究テーマ設定講座やアンケート作成講座、アドバイス講座もこの時期に行い、3学期にそれぞれの興味・関心に応じて文理混成でグループ分けをし、グループごとに研究テーマを設定します。2年では協働的に課題研究を行い、中間発表を9月と11月に、成果発表会は1月に実施。3年では研究成果論文を作成します。

毎週金曜日には、東京大学がオンラインで配信している講義をどの学年の生徒でも視聴できるようにしています。物理化学や生物地学のほか、広く文系の分野までさまざまな講義を紹介し、生徒は自由に、自分が興味のあるものを視聴しています。
スーパーサイエンスハイスクールに関わる運営については、週1回程度実施しているスーパーサイエンスハイスクール委員会で検討します。本委員会には教科を越えて、生徒の課題研究に主に関わる教員が所属しており、会議では生徒の活動について情報共有もしています。

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1年グローカルサイエンス(GS)で地域の資源価値について学ぶとともに課題研究に関するスキルを育成。グループごとにテーマを設定する。(提供:鹿児島県立国分高等学校)

先輩の活躍を超える研究をめざす理数科の生徒たち

2年の課題研究は週2時間ですが、さらに研究を進めたい積極的なグループは、放課後や休日を利用して自主的にグループで集まって取り組んでいます。

理数科は全学年が1フロアにいるため、1年生も積極的に先輩の課題研究を見に行っています。受験が終わった3年生が後輩の課題研究を指導する姿もあります。先輩の研究内容がテレビや新聞、ラジオなどに取材されている様子や、国内外のさまざまな大会での先輩の活躍を間近に見ることが良い刺激となっており、自分たちも、と考えて頑張るグループばかりです。近年は、1年生のうちに各種研究発表会や大会に参加するチームもあり、2024年度の九州生徒理科研究発表会には理数科1年生から2チームが出場していました。

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放課後になると生徒が集まり、発表ポスターを作成するために構想を練り合い、よりよい発表内容や方法、順番を検討している。

「赤潮が発生すると養殖ブリが甚大な被害を受ける。九州地区だけで2023年度は約26億円の被害があった。それを防ぎたい」と考えた理数科のグループは、赤潮発生の原因の一つであるリン酸濃度測定器を3Dプリンタで製作していました。この取組「河川・湖沼・海水中のリン酸濃度測定器の開発」はつくばScience Edge 2024で文部科学大臣賞を獲得。一般的に高額であるリン酸濃度測定器を安価に製作する取組は注目を集めました。県の水産試験場の職員から「赤潮の起こる原因はリン酸だけではない」ことを聞いた1年生が、次は窒素濃度測定器の製作に挑むなど、研究の発展も見られます。

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赤潮発生の原因の一つであるリン酸濃度測定器を3Dプリンタで製作したチームは、つくばScience Edge 2024で最優秀賞の文部科学大臣賞を獲得した。

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海洋環境の向上に役立つとされるコアマモ(海中に生える種子植物)。海水の塩分濃度を変えて育成中。

中間発表は、スーパーサイエンスハイスクールの助言者である鹿児島大学の先生や鹿児島県立博物館の職員、霧島ジオパークの担当者や他校の教員などに外部講師を依頼。講師の質問にうまく回答できなかったグループは資料を見直し、回答できるように再度検討。新たな問いが生まれ、その講師に改めて質問に行くという積極性も見られます。
中間発表では採点も行っています。採点項目は「テーマ設定」「研究内容」「目標達成(到達度)」「発表法・態度(プレゼンスキル)」の50点満点(表参照)です。2023年度からこの採点結果を「Sランク」「Aランク」として一部公表したところ、生徒の意欲がワンランクアップ。どうすればSランク評価を受ける研究になるのかを考えて進めるようになりました。

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中間発表では「テーマ設定10点」「研究内容20点」「目標達成10点」「発表法・態度10点」で採点する。(提供:鹿児島県立国分高等学校)

データ活用に向けて数理統計の学習を充実

普通科・自主ゼミの課題研究は、スーパーサイエンスハイスクール第Ⅰ期では全体の約3割(80人程度)の生徒が実施。2023年度から始まった第Ⅱ期では15グループ、約150人の生徒が活発に活動しています。地域の中学校の総合的な学習の時間における探究の手伝いも行っており、中学生の発表を見て講評したり、自分たちの研究内容を発表したりしています。

第Ⅱ期は収集したデータの活用に向けて数理統計に力を入れています。普通科の自主ゼミは文系の研究も多く、それについてはスーパーサイエンスハイスクールの予算を利用できません。しかしアプリ作成やデータ分析を盛り込む場合は、予算の利用も可能であることから、数理統計に力を入れることとしました。「理数科に負けるな!」という勢いで、普通科の生徒たちの活躍が理数科の生徒を凌駕することもあり、活発な雰囲気が校内にあふれています。

生徒にはルーブリックを渡し、それを基に発表内容を評価します。評価項目は「課題発見力」「情報活用力」「協働性・主体性」「表現力」「科学力」で、それぞれ3段階で評価しています。

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自主ゼミの予備調査で地域のシジミを採取したところ、すべてタイワンシジミだったことから、研究テーマを「国分平野における外来種タイワンシジミの生息状況」に確定した。(提供:鹿児島県立国分高等学校)

2回の中間発表で課題研究の質が高まる

本校の課題研究では中間発表が2回あり、その間は約2か月間しかありません。しかし、この短期間に、生徒の課題研究の質が高まります。

普通科・自主ゼミで、鹿児島県のカラス被害を防ぐために、カラスの鳴き声の有効活用について研究したグループがありました。1回目の中間発表での評価は最下位でしたが、それに奮起した生徒たちはその日のうちに外部講師にアドバイスをもらい、データの数値化に取り組みました。ポスター内容にビジュアルも多く取り入れるなど改善を図り、2回目の中間発表で好評価を得るとともに、つくばScience Edge 2024に参加。「音でカラスがいなくなる?カラスの鳴き声とその有効活用について」はフロアポスター部門で入賞したのです。普通科であっても科学系の大会で力を発揮できたことで、普通科の生徒たちのモチベーションは一層高まりました。

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中間発表を経てポスター内容が大きく進化。普通科の自主ゼミがつくばScience Edge 2024で賞を獲得した。(提供:鹿児島県立国分高等学校)

アドバイスは5W3Hで探究の深化・自走を支援

本校の課題研究がうまく回っているポイントの一つが、教員負担がそれほど大きくない点です。その理由はいくつかあります。

まず、当初から全校体制で取り組んでいたこと。理数科がスーパーサイエンスハイスクールに指定された際、理数科の教員の負担を増やすのではなく、関連事務はそのほかの教科の教員が複数名で担当するなど、全校体制で進めることとしました。

次に、教員のアドバイスや質問では「5W3H」(表参照)を意識している点です。教員は、生徒が困っていると助けたくなるものです。そのような教員ならではの気持ちを抑え、生徒自身が悩み、調べ、考えるように「いつ、どこで、何を調べるのか」「どうしてやりたいと思ったのか、誰に伝えたいのか」「その課題が解決することでどのようなメリットがあるのか」などの問いかけを中心としています。この方法が生徒の課題研究の自走を後押しすること、自主性を育むことがわかり、第Ⅱ期から意識して取り組んでいます。生徒の課題研究は、教員が教えられる範疇をすぐに超えますが「教えるのではなく、生徒の自走を支援する」ことの効果を理解できれば、生徒に任せる勇気も生まれます。

この5W3Hは生徒同士の質問にも取り入れています。他人の研究や発表について、疑問は伝えるが否定はしない、という点を徹底しやすくなり、生徒の頑張る気持ちにもつながります。

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教員の質問やアドバイスは5W3Hで行う。(提供:鹿児島県立国分高等学校)

地の利は本校探究の強み

地の利も本校の強みです。近隣に海も山も、霧島ジオパークもあり、日本のトップ企業や鹿児島大学、第一工科大学、県立博物館もあり、各所の専門家が本校に訪れ、講演やアドバイスなどの協力を得られます。生徒が生きた課題を見つけやすいこと、専門家の協力を得やすいことは教員負担の軽減につながっています。

失敗を恐れずトライし続ける力が身についた

課題研究では実験などの失敗は日常的です。失敗を糧にして次の実験を考える、という過程を繰り返すことで、失敗を恐れずトライする力がついたと感じています。自分たちで考えながら失敗を乗り越えて研究を進めていることから、各種発表会の質疑応答にもしっかり答えられるようになりました。

文系の課題研究は当初、調べ学習で終わることも多かったのですが、2年後半にはスキルが身につき、独自の視点をもち、考えたこと気付いたことを相手に伝わるように話し方も工夫するなど大きく成長。各種コンテストでも評価されています。教科中心の学びのみでは身につかなかった力ではないかと感じています。

自分がやりたいことが課題研究を通して明快になっているため、進路指導やアドバイスもしやすくなりました。大学入試において、総合型選抜を設ける大学が増えていますが、それにマッチできる生徒が多く育っていると感じます。

理数科で課題研究をやりたい、普通科で自主ゼミをやりたいと考えて入学してくる生徒も増えました。1年生から外部大会の参加をめざす生徒もいます。学会で発表したい、学会に入りたい、課題研究で大学の先生の話を聞いたことからその大学の研究室に入りたいという生徒もいます。

大会参加に積極的な生徒が増えたため、大きな大会は校内で予選会を実施。大学主催など出場枠が決まっている大会は、先着順としています。自分たちで出場したい大会を見つけてくる生徒もいます。

生徒は、地域の大人や教員に伝えることに面白さを感じているようです。市役所の2階でポスター発表を行った際は、人通りが少なかったため、自分たちの発表を見てもらいたい、調べてわかったことを伝えたいと考えた生徒たちは自ら1階まで行って一般客に呼びかけていました。地域の大人が自分たちの説明を通して興味・関心を高める様子や応援の声をいただいた経験を経て、さらに多くの人に知らせたいと願うようになっています。

学校全体も明るくなりました。本校の生徒は、中学時までに率先的に活動したり、主体的にクラスを動かしたりする経験が少ない生徒が多いのですが、課題研究を通して世界に発信しようという気概をもつ生徒が増えたためです。

生徒会の生徒が「SOWの国分」と表現してくれました。「種を蒔く」「総合」「創造」「自走」「想い」があふれている学校であるという意味です。課題研究を通して学校愛も育まれていると感じています。

地域の中学校に国分の課題研究を報告

当初の課題であった、学校広報不足の解消に向けて、中学校3年生と保護者に向けた「最新NEWS from 国分高校」も発行しています。現在、課題研究はほぼすべての学校で行われているものです。そのなかでも本校の課題研究は生徒が楽しく取り組んでおり、成果も出ているなどの魅力を伝えようと3年ほど前から発行を始め、年間10回程度、発行しています。伝えたい内容が年々増えており、発行回数が毎年少しずつ増えています。

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中学校3年生と保護者に向けた「最新NEWS from 国分高校」を2021年度から作成。2024年度は11回発行した。

取組を精選し、より継続しやすい仕組みに

当初は生徒に5W3Hで向き合うのがやっとだった教員も、生徒の目を見張る成長を目の当たりにして、教科の授業をもっと教科横断的にして課題研究につながるようにしよう、などの意識が芽生えています。

教員の入れ替わりが進むに従って、次第に「本校に着任したからには課題研究に積極的に取り組まなければならない」と考える教員も増え、一層スムーズに回るようになった面もあります。

第Ⅱ期ではトップレベルゾーンの成果を増やすとともに、現在の取組をさらに精選し、シンプルにして、より「継続しやすい仕組み」とすることにも取り組んでいるところです。

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第Ⅱ期は研究内容のさらなる充実を図りトップレベルゾーンを増やすことをめざしている。(提供:鹿児島県立国分高等学校)

※本記事の情報は取材時点(2024年12月)のものです。

鹿児島県立国分高等学校

2023年度に創立110年を迎えた。普通科と理数科を有し、課題研究を行っている。2018年度にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定され、2023年度から第Ⅱ期目。イノベーティブな科学系人材の育成を目指した国分プログラムの開発と展開に取り組んでいる。2023年度つくばScience Edge「文部科学大臣賞」2連覇。

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