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Home > 政策・施策 > 審議会情報 > 科学技術・学術審議会 > 研究計画・評価分科会 > 情報科学技術委員会 計算科学技術推進計算科学技術推進ワーキンググループ(第6回)配布資料 > 資料2−2 > 3



3. 将来のスーパーコンピューティング環境への期待と課題

(1) 検討概要

 将来(2010年前後を想定)のスーパーコンピューティング環境をテーマに、第2回WG以降WG委員から、スーパーコンピュータユーザの立場、あるいは、共同利用可能なスーパーコンピュータセンターを運用する立場からのプレゼンテーションを受け、それに基づいた討議を行った。

(2) 将来の超高速計算機の必要性について

 大学や研究機関においては、ライフサイエンス、原子力、天文、航空・宇宙、ナノサイエンス、地球環境、等あらゆる研究分野において、実効性能がペタフロップス超級の超高速計算機に対する強い要求がある。

 例えば原子力プラントのような巨大システムにおいては、予算や環境等の制約により実験が困難な場合が多く、計算機によるシミュレーションは従来から重要な研究手段として不可欠になっている。特に、核融合、原子炉熱流動、光量子科学、さらに大強度陽子加速器といった最先端科学分野では、計算機を用いた研究は単なる確認・検証の手段を超えて、新たな理論構築の先導を務め、又は計算結果から実験方法を検討するといったように、「理論」及び「実験」と密接不可分な第三の研究手法として不可欠な存在であることから、当面のこれらのニーズを想定しただけでも、ペタフロップス超級の超高速計算機の開発が必須となっている。その他の分野においても、次の項目(3)「将来の研究目標について」に挙げるとおり、ペタフロップス超級の超高速計算機の必要性が明らかとなった。

 民間企業においても、製品設計・開発の短縮や新規市場の創出等の観点からも、実効性能がペタフロップス超級の超高速計算機の必要性がますます高まっている。
 ペタフロップス超級の超高速計算機の実現は、シミュレーションの詳細化・大規模化により、仮説モデル・近似モデルが更に実際の現象に近づくことで、解析精度の向上が期待でき、実験計画法※などの多変量解析と組み合わせた最適設計・ロバスト設計(品質のばらつきを最小限にし、安定した生産を実現するための設計)への応用も期待できる。
  実験計画法 プロセスや製品、サービス、解決策のパフォーマンスを改善し、最適化したい場合に、どのような実験をするのが最も効果的であるかを計画し、また実験によって得られたデータをどのように解析して結果を予測していくかを導き出す手法
 更に、超高速計算機は、多分野・多レベルな科学技術の融合的発展をベースとした安全・安心な社会の構築、産業の国際競争力の向上、国際的リーダーシップを実現するために、国のプロジェクトとして開発を強く推し進める必要がある。また、超高速計算機は、エネルギー開発から災害対策等に至るまで、国民の生命・財産を守るためのナショナル・セキュリティーを支える重要な担い手となるものであり、単純な経済効果だけの議論を超えて、国が積極的に推進することが必要である。

(3) 将来の研究目標について

 マルチスケール・マルチフィジックスな系全体の最適シミュレーションの実現には、2.(2)で挙げられたような実効性能で1ペタフロップス超の超高速計算機システムが必要とされている。
 マルチスケール・マルチフィジックスな系全体の最適シミュレーションの例としては、薬剤効果に関するDNAから各器官で構成される人体までの一貫した解析や、原子炉材料破壊に関する原子レベルの結合破壊から目に見える破壊まで一貫した解析などが挙げられた。
 このようなマルチスケール・マルチフィジックスなシミュレーションとして、想定し得るイメージ図を例示すると、次項のものが挙げられる。

 また、各アプリケーション分野で、マルチスケール・マルチフィジックスなシミュレーショを行うことによる効果として、以下の様な経済的な波及効果などが挙げられた。
ナノテク分野 半導体業界、ディスプレイ業界の国際競争力の向上
ストレージ装置のユビキタス化、国際競争力の向上
バイオ分野 医薬品業界の国際競争力の向上
流体・構造分野 製造業全体の国際競争力の向上
エネルギー・環境社会インフラの高度化、国際競争力の向上
気象分野 都市の安全性向上、エネルギー需要・環境コストの長期的予測

<マルチスケール・マルチフィジックスなシミュレーションの例>

図:大気・海洋結合シミュレーション
図:ヒューマンシミュレーション

図:溶岩流シミュレーション
 以上のことから、2010年前後のスーパーコンピュータシステムの利用に関して、従来の単一スケールのシミュレーションや単一現象のシミュレーションに加え、これらを統合もしくは融合したマルチスケール・マルチフィジックスな系全体のシミュレーションが将来の目標として挙げられた。以下に、各分野の所要性能概算値を示す。
  1) ライフサイエンス分野   1〜100ペタフロップス級
  2) 天体分野   10ペタフロップス級
  3) 宇宙・航空分野   500テラフロップス以上
  4) 物質・材料分野   数10ペタプロップス級
  5) 原子力分野   1〜1000ペタフロップス級
  6) 地球環境分野   数百テラフロプッス以上
  7) 防災分野   数百テラフロプッス以上

 更に、上記性能を満足する最適なハードウェア・アーキテクチャ検討に必要な項目として、定量的な性能評価方式も今後の重要な課題であると指摘された。
 以下に各分野において想定されているアプリケーションの例、及び、その所要性能値についてまとめた。


(4) 将来の超高速計算機システムの開発について

 ペタフロップス超級の超高速計算機、特に、ベクトル型、スカラ型計算機のような汎用性のある超高速計算機の開発には、CPUの高速化、低消費電力化をはじめとするブレークスルーを実現するハードウェア要素技術の研究開発が必要不可欠である。

 既存技術の延長では物理的な「高速化の壁」につきあたることから、これを突破するための喫緊の課題として、CPUの高速化、CPU−メモリ間伝送速度の高速化、ノード間伝送速度の高速化、低消費電力化・冷却技術の向上等のハードウェア要素技術について、ブレークスルーを実現するための研究開発が必要である。

 一方、分子動力学、格子ガス法※等、特定の分野/計算手法に特化した専用計算機の開発が半導体集積度や発熱の問題を緩和する可能性があるため、有望ではある。但し、他方で専用計算機に適用できないプログラムも多く存在することから、汎用性のある計算機と専用計算機の組み合わせも検討すべきである。

格子ガス法 空間中に規則正しく張り巡らされた格子上だけを移動できる仮想的な粒子を多数想定し、時間ステップごとに「格子点間を並進する粒子」及び「格子点において粒子同士の衝突により向きを変える粒子」の集合として流体をとらえ、その平均的な動きから“流れ”の状況を導く数値計算法のひとつ

 また、計算機アーキテクチャに関しては、ターゲットとするアプリケーションを見極めた上で、これに適したアーキテクチャを検討する必要がある。ベクトル型計算機、スカラ型計算機、専用計算機等は、それぞれ得意とする計算分野を持ち、いずれのアーキテクチャも超高性能化が求められている。

 更に、マルチスケール・マルチフィジックスな系全体の最適シミュレーションを実現するために、これら異なる複数の計算機アーキテクチャ(ベクトル型計算機、スカラ型計算機、専用計算機 等)を複合したシステムの開発も検討すべきである。

 以上のような超高速計算機のハードウェア開発だけでなく、これまでのスーパーコンピュータシステム構築の経験から指摘されたものとして、超高速計算機を効率的に利用・運用するためのソフトウェア開発(OS,コンパイラ、ライブラリ、開発環境、並列アルゴリズム等)、システム開発(システム設計、プログラミングモデル)、信頼性、セキュリティ、性能評価法(ベンチマーク)なども課題として挙げられた。

 加えて、世界最高水準の仮想研究開発環境の中のデータベース化された実験データと超高速計算機の膨大な計算結果データを、知的資産として容易に再利用できる仮想研究環境を構築することで、革新的な共同研究成果に発展させる必要である。更に、超高速計算機利用技術を持った人材(並列プログラム開発者、次世代HPCシステムに精通した開発支援者など)を育成し、利用技術もデータベースとして管理し、データマイニング※によって得られた新たな知見を蓄積するような利用技術の展開も必須である。

データマイニング 種々の統計解析手法を用いて大量のデータを分析し、隠れた関係性や意味を見つけ出す知識発見の手法の総称


(5) 将来のスーパーコンピュータ共同利用のあり方について

 スーパーコンピュータのように巨大な設備を共同利用することは、費用的に大きな負担となる資源の効率的運用という観点で、大きな意義がある。

共同利用可能な計算機センターの必要性について
 単独の研究機関や企業では、幅広い計算ニーズに対応する世界最高性能の計算機システムを導入・維持することは、設置スペースや費用等の問題で困難である。従って、外部からの共同利用が可能な超高速計算機センターが設置されることへの要望が強い。
 このようなニーズにこたえるため、既設の共同利用計算機センター(例えば、7大学に設置された大型計算機センター)を含め、これからも超高速計算機センターについては、より一層の機能の充実をはかり、将来とも十分に役割を果たすべきである。

利用者側からの要望について
 大学や独立行政法人研究機関など、外部利用者からは、遠隔地からのネットワーク利用が可能な環境の実現への要望が高い。
 民間企業からの利用に関しては、市販アプリケーションの使用や機密保持などのセキュリティへの要望が高い。
 また、利用手続きの簡素化、共同利用メニューの多様化、プログラム最適化や利用に関して、広報誌、研究会、ネットワークを通した情報共有・情報公開・教育の推進などの要望が挙げられた。

運用上の課題
 共同利用可能なスーパーコンピュータセンターを運用する立場からは、以下のような運用上の課題が挙げられた。
保守費、電気料金、ユーザ支援などの運用・維持コストの増加。
多数のユーザが使用することによる計算機リソース不足、運用の複雑化。
大量の計算結果を保存するための、データ保存容量の不足。

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