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著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第3回)議事録・配付資料

1. 日時
  平成19年5月16日(水曜日)9時〜12時30分

2. 場所
  如水会館 3階 「松風の間」

3. 出席者
  (委員)
上野、大渕、梶原、金、久保田、佐々木(正)、佐々木(隆)、里中、椎名、瀬尾、津田、常世田、都倉、中山、野原、生野、平田、松尾、三田の各委員、野村分科会長
(文化庁)
吉田長官官房審議官,甲野著作権課長,亀岡国際課長ほか関係者

4. 議事次第
 
(1) 開会
(2) 関係者ヒアリング
(3) 閉会

5. 配付資料
 
資料1-1   慶応義塾大学デジタルメディアコンテンツ統合研究機構
資料1-2 NPO法人著作権利用等に係る教育NPO
資料1-3 全国高等学校長会
資料2 障害者放送協議会著作権委員会
資料3 公立図書館
資料4 独立行政法人国立科学博物館
資料5-1 延長に慎重な創作者(平田 オリザ氏)
資料5-2 延長に慎重な創作者(別役 実氏)(PDF:442KB)
資料5-3 延長に慎重な創作者(椿 昇氏)
資料5-4 延長に慎重な創作者(寮 美千子氏)(PDF:198KB)
資料6 弁護士(福井 健策氏)
資料7 社団法人日本オーケストラ連盟
資料8 中間法人日本写真著作権協会
資料9 社団法人日本美術家連盟
資料10 社団法人レコード協会
資料11 社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会
資料12 学識者(田中 辰雄慶應義塾大学経済学部准教授)(PDF:480KB)

参考資料1   ヒアリング予定者一覧
参考資料2 ヒアリング実施要領
参考資料3 今後の審議日程について(案)

6. 議事内容
  【大渕主査】 おはようございます。それでは定刻となりましたので、ただいまから、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の第3回を開催いたします。本日も御多忙の中、御出席頂きまして、まことにありがとうございます。
 まず本日の会議の公開につきましては、予定されております議事内容を参照いたしますと、特段、非公開とする必要はないように思われますので、既に傍聴者の方々には御入場頂いているところではありますが、特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【大渕主査】 それでは、本日の議事も公開ということで、傍聴者の方々には、そのまま傍聴頂くことといたします。
 まず事務局から、人事異動の報告と配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 事務局の人事異動について御報告させて頂きます。文化庁長官官房国際課長でございますが、秋葉の後任としまして、5月から、文部科学省大臣官房文部科学広報官でありました亀岡雄が着任しております。

【亀岡国際課長】 亀岡でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 引き続きまして、配付資料の確認をさせて頂きます。お手もとの議事次第に配付資料一覧がございますが、本日は資料番号1から12までの資料を配付させて頂いております。資料1につきましては枝番号がございまして、資料1−1から資料1−3まで、資料5につきましても同じように資料5−1から資料5−4までございます。それと参考資料を3点、お配りしてございまして、参考資料1は、本日のヒアリング予定者一覧、参考資料2はヒアリングの実施要領、そして参考資料3は、今後の日程案となってございます。過不足がありましたら、事務局まで御連絡下さい。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。
 本日は前回に引き続きまして、当小委員会が今後検討を進めるにあたって、特に留意すべき事項、検討の視点、方向性などについて、関係の方々に幅広く御意見を伺うこととしております。
 参考資料1をご覧下さい。本日はお忙しい中、ここに挙がっております17名の皆様にお越し頂いております。皆様におかれましては、御協力頂きまして、まことにありがとうございます。
 次に参考資料2をご覧下さい。前回と同様、1分野15分として、5〜7分程度で発表者の方から御意見を頂いた後、7分程度で質疑応答の時間を設けたいと思っております。なお、1分野で複数の方々が発表される場合につきましては、お一人の発表時間は、恐縮ですが3〜4分程度でお願いいたします。
 それで、このように非常に多数の分野の皆様から御意見を伺う都合上、発表者の皆様におかれましては、大変恐縮ではございますが、予定時間を厳守して御発表頂きますようお願いいたします。質問につきましては、原則、委員から発表者に対してのみ行うことといたします。また回答につきましては、原則、発表者が行うことといたします。なお、随行者による回答につきましては、事前に事務局に質疑対応をする旨のお申し出のあった方に限って認めることといたします。そして、質疑回答とも、できるだけ手短にまとめて御発言頂きますよう、お願いいたします。

(1) 教育分野
【大渕主査】 それでは早速ではございますが、ヒアリングに移りたいと思います。まず最初に、教育関係の分野から、慶応義塾大学の金正勲様、NPO法人著作権利用等に係る教育NPOの酒井けい様、全国高等学校長協会の佐藤公作様、御発表をお願いいたします。それでは、まず金様、お願いいたします。

【慶応義塾大学(金)】 おはようございます。慶応大学の金です。よろしくお願いします。私のほうからは、保護期間延長問題に焦点を当ててお話をしたいと思います。
 まず認識すべき重要な問題としては、保護期間というのは、知の創造と利用を最大化することによって、著作権制度の目標であります文化の発展に寄与するための、あくまでも手段であるということ。そして、その保護期間を変更するということには、便益だけではなくて、常に費用が伴うということであります。ここで言う費用と便益というのは、金銭的、非金銭的なものを含むものでありまして、その定量的また定性的な分析を踏まえた上で、政策決定が行われるべきだと思います。
 今日は中でも2つの点についてお話をしたいと思います。1点目は、保護期間延長問題と創作インセンティブの関連性、次に保護期間延長問題と著作権利用における取引費用との関連性についてお話をします。
 まず1点目の保護期間延長問題と創作インセンティブとの関連でありますが、この問題を考える際に重要だと思われるのは、既に創作された過去の著作物に対する保護期間延長問題と、また今後創作されると思われる未来の著作物に対する保護期間延長を明確に区別した上で議論をすべきだと思います。その理由は、少なくとも創作インセンティブという観点で言えば、利用者に対する保護期間延長問題が持つ影響、インパクトというのは大きく異なるからであります。具体的に申し上げますと、前者の過去の著作物については、保護期間を延長することは、創作者の創作インセンティブを高めるとはあまり考えられないのではないかと思います。一方、後者の未来の著作物については、保護期間を延長することによって、創作インセンティブが促進されるということは自明であると思います。ただ、この場合においても当然ながら、その費用というものが伴うわけでありまして、最終的には、延長によって創作インセンティブが促進されると。そういった便益という側面と延長によって著作物の利用が制限されるという効果、更に過去の著作物を土台にして創作する場合の創作制限効果という費用ということを比較分析した上で政策決定を行う必要があると思います。
 この点に関する私自身のスタンスとしては、前者の過去の著作物に対する保護期間延長については反対で、後者の未来の著作物に対する保護期間延長については実証的な分析を踏まえた上で政策議論を通じて、結論を出すべきだと考えております。
 次に2点目でありますが、保護期間延長問題と取引費用との関連であります。著作物を利用する際には、常に取引費用というものが発生します。ここで言う取引費用というのは、著作物を探すための検索費用、そしてその利用のための契約を行うための費用(契約費用)、次に締結された契約というものが適正に実行されているのかということをモニターするための監視費用、この3つの費用が含まれます。この取引費用においては、著作物の利用料というのは、この取引費用には含まれません。取引費用の存在というのは、一貫して著作物の利用というものを制限する効果を持つわけでありまして、これは権利者にとってもプラスにはならないものであります。そこで、著作権によって保護されている著作物の利用というものは、保護されていない著作物の利用に比べて高い取引費用を発生させることになるために、著作物の利用を制限することになります。そこで現状においても、権利者、またその権利者団体を中心に、こうした著作物の利用における取引費用を削減するために、データベースを構築するとか、または集中権利管理機関というものを設置するといった方策を今までも講じてきました。しかし、その対象になる創作物というものは、著作権者にとって商業的に価値があると判断される著作物がほとんどではないかと思います。これはデータベース構築、または集中管理機関の運用などにおいて、経済的な費用が必要であるということを考慮すれば、非常に経済的には合理的な考え方だと思うのですが、しかし、権利者にとって商業的な価値がない、低いと判断される著作物については、権利者が取引費用の削減のために、何らかの投資を行う経済的なインセンティブというものは持たないために、多くの著作物というものが死蔵されていく結果が生まれます。そこで、今回の保護期間延長問題を考えていきますと、創作者が亡くなって50年経過した時点でにおいて、依然として経済的な価値が、商業的な価値が残っていて、かつその価値実現のために権利者が取引費用を削減するための経済的な投資を行うインセンティブを持つ著作物の比率というものはどれぐらいあるでしょうか。これについては実証的な分析が必要になってくると思うのですが、私自身は極めて低い割合ではないかと推測をしております。このように創作者の死後50年が経った時点で、投資に見合う十分な商業的な価値を持たないと著作権者によって判断される大半の著作物に関しては、保護期間が70年に延長されることによって、更に20年、引き続き利用されず、死蔵されていく結果を招くのではないかと思います。これは結果的に著作物の利用を制限するだけではなくて、それを土台にした次なる創造というものを制限する機会を奪ってしまうのではないかと思います。
 青空文庫に代表される見返りを求めない善意なボランティアによって、著作権が切れた著作物のデータベース構築、そして公開といった一連の取組みが可能になったのには、著作権料の支払いが必要ではないという点だけではなく、著作権の、また著作物の利用のための取引費用が非常に低かったというのが大きな要因ではなかったかと思います。このように保護期間延長というのは、今お話ししました極めて低い割合の著作物が持つ商業的な利益を守るために、著作権が切れることによって、その利用が見込まれ、次なる創造の土台となる著作物の利用というものが、更に20年間制限されていく効果になりますので、こうした取引費用という観点からは、私自身は、保護期間延長には否定的であります。
 ただし、次の条件が満たされば、保護期間延長を前向きに考慮する余地はあるのではないかと思います。それは、著作物の創作、著作権の取得においては、金銭的または非金銭的な何らかの投資を著作権者が行うわけでありまして、そうした投資を回収するために、著作権保護期間延長を主張するということは、私は個人的には理解できるものだと思います。そこで仮に保護期間延長に政策的に踏み切った場合においては、保護期間延長による弊害というものを最小化できる、そうした実効性のある制度的な措置というものを講じていく必要があるのではないかと思います。そこで一案としては、創作者の死後50年の時点で、保護期間の延長を希望する著作権者は更新料を支払って登録することによって、著作権の保護期間延長を認めてもらうということが考えられます。こうしたいわゆるopt-in方式を採用することによって、著作権者の一定の利益というものを尊重しながらも、高い取引費用の存在によって、不必要に制限・死蔵されている著作物の利用というものを活性化することができるのではないかと思います。以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。それでは次に酒井様、お願いいたします。

【NPO法人著作権利用等に係る教育NPO(酒井)】 酒井でございます。よろしくお願いいたします。次代を担う児童を育成するのに、日本の文化的な財産である優れた文芸作品に触れる環境づくりが必要でございます。また多くの方々の御理解、御協力が必要であると考えております。
 そこで私どものNPOは、教育現場における著作権の適正な利用を推進するために、平成16年に東京の私立中学、高等学校が中心となって、著作権利用等に係る教育NPOを設立し、現在、29都道府県325校が加盟しております。引き続き加盟校を増やしてまいります。このNPO組織は、著作物利用に関し、入試問題の二次的利用、教員の教材作成等について、一つ一つ許諾を求めるのは難しいので、日本文芸家協会と学校の著作物利用に対する補償金制度を設けて対応をしております。私どもの基本的な姿勢は、生徒が優れた著作物に触れる機会を設けると同時に、著作者を尊重することであります。そのためには、教育現場をはじめ、保護者、生徒に大きな負担とならない措置をお願いいたします。
 過去の著作物等の保護と利用に関する要望でございますが、最初に過去の著作物等の利用の円滑方策についてでございます。全著作者について、国レベルで少なくとも連絡先についてデータベース化し、使用者が簡単にアクセスできるようにして頂きたい。また、権利者不明や回答がない場合については、簡便な裁定制度を整備願いたいと存じます。
 アーカイブへの著作物等の収集・保存と利用の円滑化についてでございますが、利用しやすいような施策を講じて頂きたい。次に保護期間のあり方については、延長については必ずしも反対ではございませんが、同時に学校教育が著作物を積極的に利用できる施策を講じて頂きたい。次に意思表示システムについては、教育活動に自由に利用できる著作物が増えていくことは歓迎でございますが、有効利用を促進するための議論を深めて頂きたいと存じます。以上でございます。

【大渕主査】 ありがとうございました。それでは引き続きまして、佐藤様、お願いいたします。

【全国高等学校長協会(佐藤)】 佐藤でございます。高校の現場からということで発言の機会を頂きまして、御礼申し上げます。なお、私は、この意見は高校全体を表明しているものではないことを初めにお断りしておきます。
 御存じの通り、学校は、基本的人権の尊重を基本的な教育目標として、著作権を正しく理解し、適正な、あるいはまた適切な利用を図っているところであります。確かに教育現場においても、著作権者の権利を最大限に認めていくことは非常に大切であり、重要であると思っておりますし、学校教育の大きな目標であります。しかしながら、学校における利用にあたりましては、以下に述べておりますが、一番下のまる印にあります配慮等、3点について申し上げておきたいと思います。第1点は、まず今さら言うこともないのですが、児童・生徒は文化の担い手であり、また創造者であるということ。2番目としては、教育活動の著作物の利用については、できるだけ利用方法の簡素化及び利用料金の低額化を図って頂きたい。3つ目としましては、急速なデジタル化、あるいはまたネットワーク化に対応できるように一括管理する公的な機関づくりをお願いしたいということであります。
 以下、2つだけ追加させて頂きたいと思います。第1の「過去の著作物等の利用の円滑化について」でございますが、先ほど申しました通り、利用権利処理や交渉窓口の一元化など、利用環境を整備して頂きたい。とりわけ、最近ではデジタル化された著作物につきまして利用が多くなってきていますが、これにつきまして、クレジットが分かる共通化されたフォーマットを作成して、利用する場合には、こちらのほうに連絡をとれるような配慮を願いたいと思っております。
 それから、4番目の「意思表示システムについて」ですが、これは特に必要だと思いますが、分かりやすい方法・ルールで、利用ができるような仕組みづくりは絶対必要であるということで、付け加えさせて頂きます。
 現在、学校現場は色々な教育問題を抱えながら、多忙な毎日を送っております。重ねて、その多忙さを解消するように円滑で、かつ一括した手続を重ねてお願いしたいと思っております。以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。それでは質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして御質問等はございますでしょうか。

【中山委員】 金委員にお伺いしたいのですが、創作誘引を促進する側面が期間延長にあることは自明であると書いておられますが、トランザクションコストについては、実証的研究が比較的できるのですが、インセンティブについては、実証的なことはできないので難しいのですが、少なくとも現在問題になっている50年を70年に延長するということを前提にして考えた場合、20年間延びたから、では一生懸命、論文を書こうとか、作曲するとか、小説を書こうとなるとは経験則上思えないのですが、自明ということは、どうして言えるのでしょうか。

【慶応義塾大学(金)】 アメリカやイギリスなどにおいて、著作権の保護期間の延長が創作インセンティブにどのぐらいの効果をもたらすのかという経済的な分析、実証的な分析があり、その結果からいうと自明ということになります。保護期間を延長することは、創作インセンティブを阻害する要因にはならず、創作インセンティブを高めるプラスの要因にはなる。ただ、その程度は低いという話だと思うのです。
 もう一つ、創作を可能にする土台を保護期間延長によって阻害されるというマイナスの側面ももちろんありますが、創作者にとって保護期間延長を実施することはプラスになるというのは、私自身は当然だと思います。ただ、延長によってどれぐらいプラスがあり、延長によってどれくらいよるマイナスがあるかを比べた時、延長が正当化されるかどうかというのは、別の話だと私自身は思います。

【大渕主査】 佐々木委員どうぞ。

【佐々木(隆)委員】 金先生にお伺いいたします。全体として非常に合理的に整理された御主張だと思うのですが、最後の更新料を伴う登録制による保護期間延長でございますが、非常に合理的な御意見だとは思うのですが、こういった考え方をとっている、もしくはとろうとしている事例は海外であるのかどうかというのはいかがでございましょうか。

【慶応義塾大学(金)】 実際の事例はないと思うのですが、アメリカにおいても、98年の保護期間延長、それに対するプロセスの中で、こうしたアイデアは提示されたという事例はあります。ただ、それが実施された事例は、私が知っている限りはないと思います。

【大渕主査】 生野委員、どうぞ。

【生野委員】 佐藤先生にお聞きしたいと思います。保護期間延長に関して反対ということでございますが、現在、学校教育においては、色々と権利制限規定が設けられていると思うのですが、実際、保護期間を延長すると、どういう具体的な支障があるのかをお聞かせ願えればと思います。

【全国高等学校長協会(佐藤)】 実際にどの程度かというのは分かりませんが、手続がやはり何らかの照会、あるいはまた調査をして、今までどおり申請をする必要がなくなっていくということは、多忙を極める学校教育には非常に有利だということで、特に大きな支障があるということではありませんが、やはり簡素化を考えたときに、過去の50年過ぎたものについては、そのようなことにぜひ配慮して欲しいということです。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それでは、御発表の方々、ありがとうございました。

(2) 障害者分野
 それでは引き続きまして、障害者の分野から障害者放送協議会の井上芳郎様、御発表をお願いいたします。

【障害者放送協議会著作権委員会(井上)】 井上です。よろしくお願いいたします。時間がありませんので、早口になります、手話通訳の方には大変御苦労をおかけします。
 今回、4つの検討事項ということで伺っておりますが、はじめに、障害者全般について、現行著作権法の中で、どのような課題があるのかということをお話しいたします。
 まず1点目ですが、現在の著作権法で想定されておりますのは、基本的に視覚障害、聴覚障害でございます。これ以外の例えば学習障害、最近これはLDと言いますが、これに含まれる障害概念でありますディスレキシア、それから上肢障害、高齢等々、これらが原因で通常の印刷物を読むときに困難がある方たち。あるいは発達障害、知的障害、高次脳機能障害等、こういうことが原因で、難解であったり、込み入った文書、あるいは放送内容等を理解するのに困難がある方たち。こういう方たちへの配慮というものが現在、全くありません。欧米あるいは一部のアジア等の諸国では、既にこの10年間ほどで、著作権法や関係の法律の見直しがされて、今申し上げたような方たちへの配慮が、視覚・聴覚障害の方たちに準ずる形でなされていると伺っております。我が国でも、このような方たちご本人や保護者、親族等々から、色々なニーズが視覚・聴覚障害関係の施設等へ寄せられているのですが、現在、適用外ということで対応できていないということです。このような方たちは、自ら、なかなか声を上げにくいような方たちが多いと思います。現行著作権法で想定されていない方たちの声に、ぜひ「声なき声」ということで耳を傾けて頂きたいと思っております。
 参考としまして、ディスレキシア本人の方が書かれたものを添付しております。内容に詳しく触れる時間はありませんが、岐阜県の養護学校の神山先生とおっしゃいます。御自身、ディスレキシアで、視力は正常にあるのですが、印刷物などを読むのに非常に困難がある。大変御苦労されて大学を出られ、教員免許をとられて、現在、養護学校で教えていらっしゃるわけです。後でお読み頂きたいと思います。
 2番目でございます。視覚・聴覚障害の方への情報保障ということですが、まだまだ不十分な面が残っております。著作物の多くが視覚・聴覚障害の方に大変利用しにくい形でしか提供されておりません。そのため、著作物を複製して、いわゆる「読める」形に変換する必要がございます。ところが、現在の著作権法では、私的複製の範囲の解釈が狭く、限定的でありまして、障害者の方の実情になかなか合わないという実態があります。最近、いわゆるICT(情報コミュニケーション技術)が発展してきまして、支援技術が非常に進歩してきております。それを使った情報保障の可能性は広がっているのですが、著作権法が壁になっておりまして、道が閉ざされているという現実もあります。
 次にまいります。視覚障害の方について更に具体的なお話をいたします。(1)としまして、私的使用のための複製の問題ですが、視覚障害の方御自身がお持ちの著作物、例えば本などを読みたいと思ったときに、第三者に依頼して、録音あるいは点字の形に変換して頂かないと使えないわけです。このことが私的使用のためということでは認められていないわけです。御自身が複製することが不可能であるから、第三者に頼むわけでして、これは視覚障害の方が「読めない」ものを「読める」ようにしているだけである、と考えたいわけです。この問題は、非常に不合理で不公平なことではないかなと思っております。
 (2)としまして、図書館の利用にかかわることでございます。公共図書館、大学図書館、学校図書館などを視覚障害の方が利用したいという場合、著作権法第37条の適用の外に
なりますので、著作権者に複製許諾を求めなければなりません。資料作成、すなわち点訳や音訳に時間がかかる上に、著作権処理に色々な事情で時間がかかる場合も多いと聞いています。これでは、図書館のスムーズな利用が妨げられていると思います。国立国会図書館で現在行われております学術文献録音図書サービス、これはペーパーの最後に参考資料で添付してございますが、これを見て頂いても分かりますように、何らかの事情で著作権者からの許諾が得られず、その資料そのものが視覚障害者の方にとって利用できなくなっているという現実がございます。教育の場面でも同じようなことが起きておりまして、大学図書館の例ですと、視覚障害者の方も、大勢の方が大学に進学していらっしゃいます。自分の大学の図書館の蔵書を利用しようと思っても、似たような問題が起きてきます。筑波技術大学、ここでは37条の適用を受けていると聞いておりますが、国内では、ここ一つだけです。それから、学校図書館、小学校、中学校、高等学校とございますが、盲学校の図書館は別としまして、いわゆる一般の学校の図書館を利用する場合、特に弱視をお持ちの児童・生徒の方にも似たような問題が起きてきております。
 欧米あるいは一部のアジア諸国では、既に公共図書館、大学・学校図書館などでのこのような問題については、著作権法上の配慮がもう既にされていると伺っております。障害者の方の図書館利用を促進して、更に学習権の保障をする必要がありますので、現行著作権法の見直しが必要と思います。
 次に聴覚障害の方に関する具体的な話でございます。今もし仮に、全てのテレビ放送、映画、ビデオ、DVD等々、これに字幕あるいは手話を100パーセント完全に付与することが義務づけられたとしますと、聴覚障害の方と健聴の方とが初めて全く同等に情報を入手し、文化を共有することができたと言えると思います。しかし残念ながら、現実は理想からは非常に遠く、聴覚障害の方そのものが存在を無視されていると言ってもいいのではないかと思っております。全日本難聴者・中途失聴者団体連合会から出されております要望書の中に、こう書かれております。読みますと、「現在までに日本で制作した映画等の映像ソフトは、2006年12月の日本図書館協会調べで、VHSの全タイトルは2万956タイトルで、その内字幕付与は139タイトル(0.66パーセント)、DVDの全タイトルは約1万4,000タイトルで、その内字幕付与は約1,000タイトル(7.1パーセント)です。DVDで若干増えているものの、こと日本映画映像ソフトの分野では聴覚障害者はその視聴をほとんど無視されているといって過言ではありません」という指摘がございます。聴覚障害者情報提供施設での字幕・手話付きビデオ等の貸し出しもありますが、色々な制約から、ごく一部の作品に限られております。テレビ放送について、字幕・手話が付与されたものも多少増えてきておりますが、不十分であります。法改正によりいわゆるリアルタイム字幕の公衆送信ができますが、これも利用できる方は一部であるということでございます。
 特に喫緊の課題だと思いますが、災害時の対応がございます。災害時のテレビ放送への字幕・手話の付与については関係団体から要望書が出されておりますが、一部を除き、実現しておりません。生命の安全にかかわるということで、1日も早い解決が必要だと思います。もちろん現行の著作権法だけに責任があるわけではございません。関係の法令・制度の改正も必要だと思います。
 3番目でございます。この4月から本格的に開始されました特別支援教育でございます。この場面でも、情報保障の課題が生じているわけでございますが、特に教科書、教科用基本図書には著作権法上の配慮が必要と思います。弱視の児童・生徒の方への配慮は法改正で一定程度進展しましたが、未解決のものもございます。例えば知的障害、発達障害の児童・生徒などへ録音図書の形式で教科書などを提供して頂きたいという課題がございます。例えばDAISY(デジタル・アクセシブル・インフォメーション・システム)というものがございますが、これによる実証的な研究・実践例もございます。更に、この録音図書形式で提供される教科書ですが、ぜひ文部科学省の検定教科書ということで位置づけ、弱視児童・生徒向けの拡大教科書と一緒に公的な責任でぜひ提供されたいと思います。こういうことをセットとしてぜひ著作権法の見直しをして頂きたいと思います。
 教育活動というのは、まさに著作権法第1条で言う「文化の発展に寄与する」という目的に照らしても全く合致するものでございます。ぜひ検討をお願いしたいと思います。
 ちなみに欧米諸国では、国家レベルでの取組みが進んでいると聞いております。米国では、NIMASというものが策定されまして、障害を持つ全ての児童・生徒に対しまして、教科書等が統一された形式の電子ファイルで提供され、個々の児童・生徒の教育ニーズに沿った形で自由に変換して利用できるようになっていると聞いております。これは96年の米国著作権法改正があったればこそ、可能になったと聞いております。
 おしまいになりましたが、この小委員会から提示されました4つの検討課題について簡単に申し上げておきます。
 まず1番目、過去の著作物等の利用の円滑化ですが、先ほど国会図書館の例を挙げましたが、許諾が得られないことで、著作物それ自体へアクセスができない、困難であるという状況も出ております。裁定制度が1日も早く確立されるべきだと思います。その際には、ぜひ障害を持つ当事者を検討メンバーとして加えて頂きたいと思います。
 2番目、アーカイブの関係でございますが、当然、アーカイブ化する際には、全ての障害者にとってアクセス可能な形でされるべきと思います。一部の方だけが利用できるというものでは問題があります。このシステムを構築する際にも、ぜひ障害を持つ当事者を検討メンバーとして加えて頂きたいと思います。
 3番目、保護期間の問題ですが、この問題につきましては、著作権者の権利が最大限尊重されるのは当然だとは思いますが、著作権法第1条の「文化の発展に寄与する」という目的に沿うものでなければならないと思います。特に障害者の関係では、現状の不十分な情報保障の環境が放置され、それに加えて保護期間延長ということになりますと、状況がさらに悪化するのではないかと危惧しております。慎重に検討して頂きたいと思います。
 4番目、意思表示システムでございますが、自由利用マークについては、残念ながら、ほとんど普及しておりません。色々な原因があると思いますが、ぜひこれについては現状を十分に分析され、より利用しやすく実効性のあるシステムが提案されるように願っています。
 最後でございます。障害者の関係につきましては、法制問題小委員会で検討されてまいりました。ぜひ今回の発表が法制問題小委員会での検討に生かされ、反映されるよう、期待しております。
 それから、国際的な動きでございますが、去る3月の終わりに、署名式が行われました国連障害者権利条約、それから、2003年以来開催されております国連世界情報社会サミット、これらの成果を生かした検討をぜひお願いしたいと思います。特に障害者権利条約につきましては、我が国でも政府内でその批准に向け、国内の関係法令と調整作業が行われていると聞いております。著作権法に関しましても、障害者の情報保障の観点から、ぜひ検討をお願いしたいと思います。
 ペーパーの最後に、国連障害者権利条約から一部抜粋をしておりますが、これは読み上げることは省略させて頂きます。以上でございます。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移ります。ただいまの御発表に関しまして、御質問等はございますでしょうか。三田委員、どうぞ。

【三田委員】 質問ではないのですが、私のほうから意見を述べさせて頂きたいと思います。
 障害者に対しては、我々著作者も含めて、最大限のサービスをしていく必要があると考えております。現在、視覚障害者に関しましては、点字図書館等の福祉施設による録音図書の作成というのは著作権フリーになっております。それから、この7月からは、同じように録音図書のインターネットによる配信も著作権フリーになるということになっております。ただ、これは視覚障害者に限られておりますので、今お話のありました識字障害、学習障害児童とか、脳梗塞の方とか、ページがめくれない方とか、何らかの形で識字障害を持たれている方は、この視覚障害者に与えられているサービスを受けられないというのが実態であります。これは著作権法を改正するなり、それから、厚生労働省等がかかわることかもしれませんが、視覚障害者という概念の中に識字障害も含めていくような考え方で、利用の範囲を広げていくということで解決する問題であろうと思います。そのように、福祉に対してもっと大幅な利用の範囲を広げていくということが十分に検討されましたら、保護期間50年を70年にするということは、もはや問題ではなくなるのではないかなと考えます。以上です。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それでは、ありがとうございました。

(3) 公立図書館
【大渕主査】 それでは次の分野でありますが、公立図書館の分野から慶応義塾大学の糸賀雅児様、御発表をお願いいたします。

【慶応義塾大学(糸賀)】 慶応大学の糸賀と申します。図書館情報学を専門としております立場から、当小委員会におけます検討課題について意見を発表させて頂きます。お手もとの資料3をもとに説明をしてまいりますので、それをご覧になりながら、聞いて頂ければと思います。
 はじめに、図書館は、その作成時期が過去、未来を問わず、世界中に存在する多種多様な情報資源へのアクセスを市民に対して保障することを任務としております。そういう意味では、公共性の高い機関でありまして、単にアクセスを保障するだけではなく、このアクセスを通じて、再び社会的な生産につなげる。あるいは知的な活動に結び付けると、そういう役割を重要な使命と考えております。したがいまして、過去の著作物の保護と利用のあり方に考えるにあたりましても、市民への情報アクセスがよりよく行われる方向、これが確保されるかどうか、それがひいては公的な利益(公益)、あるいは公共的な利害、更に言えば国益といったものにどのように繋がっていくのか。そのあたりを十分見極めた上で判断をしていく必要があると思います。市民への情報アクセスが不当に制限される方向で制度設計がなされたり、制度の改定がなされることに関しましては、公共的・公益的な観点から、やはり慎重にならざるを得ないと思います。
 もちろん、このような情報資源は、生み出す行為、いわゆる著作物の創作ですが、並びにそれを流通する行為、出版とか、放送、インターネット配信等がこれに当たります。これによって初めて存在することができるわけですから、これらの行為を行う意欲、インセンティブを失わせるような方向での制度設計はあってはなりません。だからといって、これらの行為を行う意欲が失われないにもかかわらず、諸外国の動向でありますとか、既得権益の保護等の理由から、保護が一方的に強化されることについては、やはり賛成しかねるということになります。
 こういう観点に立った上で、当委員会でお尋ねの項目につきまして、以下のように私は考えます。
 まず初めに、過去の著作物等の利用の円滑化の方策についてであります。これを考えるにあたりまして、図書館の所蔵資料の多様性ということをまず考慮に入れなければなりません。図書館は購入・寄贈等の方法により、情報資源を収集し、市民のその利用を円滑に行わせるあらゆる方法を用いて、情報を提供しております。この中には、ここに挙げたような郷土資料、SPレコード等、非刊行資料をはじめとして、1つの組織の中でのパンフレット、機関誌、これは私どもではグレー・リテラチャー、いわゆる灰色文献と呼んでおりますが、こういうような入手不可能なものも図書館では扱っております。むしろ図書館があるからこそ、こういう灰色文献(グレー・リテラチャー)についてもアクセスしやすくなっているとお考え頂いて結構かと思います。
 次に、図書館の利用を阻害している要因について整理してみました。これらの資料を市民に幅広く提供するためには、当然のことながら、著作権制度の趣旨に沿った方法で行われなければなりません。現行著作権法では、これに即して多くの権利制限規定が設けられております。2ページ目に行きまして、しかしながら、これらの入手不可能な資料については、出版あるいは復刻(リプリント)による他の流通が必ずしも多く期待できるわけではありません。そういう意味で、権利制限規定の範囲を超える情報提供を図書館は行わなければならないという社会的役割を持っております。ところが、次に3点挙げるような、この情報提供を阻害する要因がある。場合によっては、これらの資料の提供を諦めるといいますか、放棄せざるを得ないという場合もございます。
 まず1番目に、経年による関係者の範囲の拡大ということがあります。著作権は原則として、製作者の生存年、及びその死後50年まで存続するとされております。しかしながら、死後の著作者の著作物の著作権の帰属に関して、遺族間で明確に取り決めがなされるということは、これはいわゆる著名な作家、芸術家の場合を除いて、むしろまれであります。図書館が取り扱う資料の中には小説以外のものも多く占めるため、こういった著名作家や芸術家の著作物に当たらないもののほうがむしろ多いということになります。これらの方々を丹念に調べていくということは、図書館業務にとって極めて煩雑という現象をもたらしております。また、経年によって死亡する人間が増大するために、保護期間の延長が行われますと、それだけ許諾を得なければならない著作権者の人数が単純に増加するということになります。
 2番目に、そうした著作者の所在情報の拡散を挙げることができます。著作者が団体である場合を除き、一般に著作者の所在情報は公開されておりません。したがって、利用しようとする著作物、今も申し上げましたような無名・変名の著作物の著作権者に関する所在情報を確認するには、通常、当該著作物を流通させた者に対して行うことになります。ところが、当該著作物の流通時期から時間が経つにつれて、出版行為等を行った者が担当から異動したり、退職等により、当該著作物を流通した者に問い合わせ、その所在を掴むことは極めて困難な状況になっております。この点に関しましては、前回の当小委員会で、国立国会図書館の方も明治期の刊行物について、同様の意見発表をされております。こういった状況に加えまして、2005年、一昨年の4月からは、いわゆる個人情報保護法が施行され、第三者への個人情報の提供が制限されるようになったことも、こうした困難に拍車をかけております。
 3番目に、著作権者による公共財たる著作物の独占ないしは利用拒絶といったことが、流通困難の要因として挙げられます。著作物が公表され、パブリックドメインに置かれた時点で、公共財としての性質を持つと私は考えます。しかしながら、著作権の存続期間には、理由のいかんを問わず、著作権者には、その著作物の利用を拒絶する権利が付与されており、適正な使用料の支払い、本来、著作者の経済的利益を保障するだけの条件が整っているような場合でありましても、その利用を拒絶することができるとされております。こうしたために、図書館での円滑な利用がしにくいといったことが予想されます。
 3ページ目に入ります。このような図書館にとって困難な状況がある中で、過去の著作物等の利用の円滑化を考えるための具体的な方策について、以下に列挙いたしました。
 もちろん私は図書館にかかわる者の一人として、過去の著作物の利用の円滑化を図るために、著作権者の経済的利益を害することなく、公共の利益に資すると認められる著作物の利用について、新たな権利制限規定を設けることが必要だと考えておりますが、あわせて、先ほど申し上げたような3つの阻害要因を効果的に除去できる方法が必要となってまいります。具体的には、以下のような方法が考えられます。
 1、著作者情報の網羅的提供であります。著作者がどこにいるのか。とりわけ、没後50年という今、保護期間がございますので、外国人の著作者を含めた、あらゆる著作者の没年が網羅的に検索可能なデータベースを構築し、無料で国民に提供するといったことが考えられます。
 2番目に、今度は著作権者情報の網羅的提供でありまして、これは著作権者の所在そのものが網羅的に検索可能なデータベース、これを同様に構築し、国民が無料でアクセスできるようにする。そうした環境を整えることも1つの方策かと思われます。
 3番目には、著作権の集中的利用許諾体制の構築であります。私的録音・録画補償金制度のように、ある特定の団体に対し、公共財の利用という観点から、公的機関が定めた使用料を支払えば、自由に著作物を利用することができるという制度を構築する必要があると思います。この対象の著作物の範囲を一層広げ、どんな著作物でもあっても、集中的利用許諾体制を使えば、図書館にとって円滑に社会にその情報を流通させることができるという仕組みを作っていく必要もあろうかと思います。例えば録音図書に関しましては、日本文芸家協会の協力もありまして、一括許諾のシステムが既に動いております。こういうものの対象範囲をもっと広げていく必要があるのではないかということであります。
 4番目に、著作権の利用拒絶事由の制限であります。著作者以外の者が、著作物の利用を拒絶する事由につき、ベルヌ条約のいわゆるスリー・ステップ・テストの要件を勘案しつつ、拒絶を行わなければ、著作物の通常の利用を妨げることとなる場合、あるいは著作権者の正当な利益を不当に害することとなる場合に限定する必要があるように思います。これによって、本来、財産権たる著作権が付与された趣旨から逸脱する事由による著作物の利用の拒絶がなくなり、利用が円滑化するものと思われます。
 2番目のアーカイブへの著作物等の収集・保存の円滑化方策については、1で申し上げたことがおおむね当てはまりますので、ここでは省略いたします。
 3番目の保護期間のあり方についてでありますが、既に申し上げました通り、市民への情報アクセスと著作者、著作物流通者の意欲とを勘案して、判断すべきものと考えます。現行の50年という保護期間でありましても、これらの方々の意欲が失われているとは単純には思えません。そうであるにもかかわらず、諸外国の動向や既得権益の保護等の理由のみによって、保護期間の強化、延長がなされるということに関しては、行われるべきではないと考えます。著作物には公共性があるということを前提に、保護期間の有限化が全世界で措置されていることを踏まえての議論を期待したいところであります。また、1で申し上げましたような3つの阻害要因は、保護期間の延長により、更に阻害の度合いが強くなっていくため、保護期間の延長を議論するためには、1の(3)において申し上げましたような、これらの阻害要因を取り除くための整備がなされることが前提になるものと思われます。
 続きまして、4番目の意思表示システムについて申し上げます。意思表示システムの普及は、著作物の利用の円滑化のためには当然、望ましいものと考えます。しかしながら、現状では、意思表示システムは普及しているとは言いがたいものがあります。ちなみに私どもが昨年、国の省庁が刊行しております、いわゆる白書ですね。色々な白書が各省庁から出されております。ここにどの程度、自由利用マークが記載されているかを過去4年間にわたって調査をいたしました。延べ176点の白書を調査した結果、この自由利用マークが記載されているのは、文部科学白書のみであります。例えば障害者の問題を取り上げている障害者白書にも付いておりません。更には、この障害者に関する行政を所管しております厚生労働省の厚生労働白書にも載っておりませんし、法務省が出しております人権教育啓発白書と呼ばれているものにも、このマークは記載されておりません。その理由を省庁に問い合わせたところ、理由は単純でして、そういうマークがあるのを知らなかったということであります。21の省庁から文書でお答え頂きましたが、21のうち19の省庁は、見たこともないし、聞いたこともないと返答しております。これほど実際には、この自由利用マークは普及しておりません。
 中には、これは名前を出さないことを前提に回答を求めましたので、どこの省庁かはあえて申し上げませんが、見当違いの回答を下さった省庁もございます。例えば「私どもの省庁のホームページに掲載されている情報は、障害者の方々に特化したものではなく、広く国民一般に等しく周知するものであるため、当該マークの掲載は行っておりません」と答えたところがあります。これですと、障害者向けのホームページだったら、自由利用マークを付けるが、これは広く一般国民向けだから、障害者が自由に使っていいマークを付けないと言っているように読めます。あるいは、他の省庁の中には「当省庁の白書は、学校教育、障害者の区別なく、どなたでも自由に利用できる著作物です」と。だから、このマークを付けないのだというような、この程度の理解しか実際には得られていないということになります。
 お手もとの資料の4ページ目に戻りますが、したがいまして、このような状況において、自由利用を認める意思表示システムを導入するのであれば、これを促進するための何らかの方策が必要になるものと思われます。例えば著作物の流通に寄与する者が、著作物の作成過程において、このようなシステムの存在を著作者にきちんと告知し、著作者に自由利用マーク等を表示するかどうかの判断を行う機会を設けるよう、これらの者に義務づける制度、ないしは自由利用マーク等の表示実績により、著作者や出版社等に税制上の優遇措置を講じる制度などが考えられます。このような何らかの方策がない限り、表示に対するインセンティブは現行のままでは弱く、働かないと考えます。以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移ります。ただいまの発表に関しまして、御質問等はございますでしょうか。どうぞ。

【瀬尾委員】 集約しますと1点、細かいところで2点、御質問させて頂きます。
 まず、現状でも意欲は失われていないと思われるというのは、利用される方がそう思われているということであって、それを実証したときには、どういう形で意欲が失われていないと実証されているのか。
 もう一つ、不当な理由で使わせない、拒絶するということは、私は、人格権の中で重要な部分だと思っているのですが、これで見ますと、結局、流通させることは絶対の前提であると。流通させないで、拒絶するなんてあり得ないと。作者の中には、どうしてもここでは使ってほしくないから、拒絶しますということがあると思うのですが、そういう人格権的な部分もなくて良いというお考えで、こういうことを結論づけられていらっしゃるのかどうか。人格権と拒絶部分についてお伺いしたいと思います。

【慶応義塾大学(糸賀)】 お尋ねの第1点からお答え申し上げます。現行で、十分まだ意欲があるのではないかということについての実証的な調査ということを、著作者全体に対してやっているわけではありません。しかしながら、現行よりも、それを延ばすことによって、単純に意欲が著しく増すのかといったことについても、逆に言えば保証の限りではないということになります。図書館情報学を研究している立場からすると、そもそも著作物を公表した時点で、その著作者は広く流通することを期待しており、現行のルールの中でも、その意欲が十分高いのではないかということです。あえてこれを延長することで、それが飛躍的に、あるいは一段と向上するとは考えていないという範囲の議論であります。
 それから第2点目の人格権まで含めた拒絶の権利について、これを認めないのかというお尋ねですが、そう考えているわけではありません。しかしながら、あくまでも社会的な利益、公共的な利益を考えた場合に、一方的に拒絶権を行使されるようなあり方についてはいかがなものかと考えているわけであります。私自身もものを書く立場でもあります。そういう意味で、拒絶する権利そのものを廃止せよと言うつもりはございません。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。ありがとうございました。

(4) 博物館
【大渕主査】 続きまして、博物館の分野から、独立行政法人国立科学博物館の井上透様、お願いいたします。

【独立行政法人国立科学博物館(井上)】 国立科学博物館の井上でございます。まず、博物館とはということで、博物館の概念規定を先に御説明した上で、中身の本題に入っていきたいと思います。
 博物館法でございますが、第1条は、理念的なものを示しておりますが、第2条におきまして、概念を規定しております。こちらにございますように、「歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む)し、展示して、教育的配慮のもとに一般の公共の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するための必要な事業を行う」ということでございます。と同時に、基本的な博物館の本質的なところでございます資料を調査研究して、その展示に生かしていく、学習活動に生かしていくということになるわけでございます。3条でございますが、ここにおおむね左に掲げる事業を行うということで、幾つかの事例がございます。最初に、実物、標本、模写、模型、文献、図表、写真、フィルム、レコード等の博物館資料という定義をしておりますが、それを豊富に収集して保管して展示することということでございます。それから、略しますが、6項におきまして、博物館資料に関する案内、解説書、目録、図録、年報、調査研究の報告書を作成し、頒布する。それから7番目に、博物館資料に関する講演会、講習会、映写会、研究会等を主催し、実際にしたり、援助するということで、教育活動がこちらでございます。8項につきましては、文化財保護法との関係でございます。所在地または、その周辺にあって、文化財保護法の適用を受ける文化財について、解説書または目録を作成する等、一般公衆の当該文化財利用の便を図ることということになります。9項目につきましては、博物館、博物館と同一の目的を有する国の機関との連携協力をやるということで、情報の交換、博物館資料の相互貸借を行うことでございます。10番目が、これも重要なことでございまして、学校、図書館、研究所、公民館等の教育、学術または文化に関する施設との連携協力をしなさいということでございます。2でございますが、博物館は、その事業を行うにあたっては、土地の事情を考慮して、国民の実生活に向上に資するために、学校教育を援助し得るようにも留意しなければならないというものが理念として掲げられておりますが、実態を見ますと、甚だ厳しいものがあるということでございます。
 まず初めに、私どもの国立科学博物館の取組みを御紹介申し上げます。これは国立科学博物館法に基づいて、自然史に関する科学その他、自然科学及びその応用に関する調査を行っております。端的に言いますと、自然史の研究と産業技術史に関する研究を行い、それに関する資料を収集して、展示をするということでございます。そういうことによりまして、自然科学及び社会教育の振興を図るというものでございます。本件に関しては、展示物の解説、これは音声も含めまして、動画、静止画の映像を含むもの、それから図鑑、自然観察手法など、これまでに開発した大規模なデジタル・アーカイブを来館者に提供しております。これはネットを通じても提供しておるわけでございますが、これは著作権法上の問題がございまして、不可能な部分もございます。学習が当館のコンテンツを利用して、自分自身で「マイ・ミュージアム」と私どもは言っておりますが、それを自宅ですとか、学校で作成する。自分で学習資料を作るということによって、学習を深化させることを推奨しております。
 もう一点の観点につきましては、私どもは、科学系の博物館のネットワーク事業というものを実施しております。これはグーグルですとか、ヤフー、具体的な名前で恐縮でございますが、そういうところと違って、どこがメリットがあるかというと、これは信頼性の高い情報を提供するために、約240館で同意を得て、ホームページのコンテンツの自動収集を行っているということでございます。当然、他者はどうやっているか、他の検索会社はどうやっているかというと、アメリカのサーバーから検索を行っていて、コンテンツを作っているということになるかと思います。ということで、非常に信頼性の高いコンテンツ情報を収集しているということでございます。これをウェブサイトの検索サービスとして国民の提供するということでございます。
 また、世界で1億2,000万件流通しております生物多様性情報(GBIF)の日本における博物館のノードとしまして、各博物館が作りましたメタ情報がございますが、それの27館・4大学が保有する標本情報につきまして、約86万件を現在収集して、海外へ同時に提供している状態でございます。これらをもとに私どもの博物館は、全世界、日本の中でのデジタル・アーカイブを、科学系の博物館だけではございますが、常に流通させることに意を用いております。
 検討課題でございます。過去の著作物の円滑化の方策でございますが、私どもの博物館というのは、展示及び展示解説を充実させているために常に意を用いているわけでございますが、所蔵資料以外のデジタル・アーカイブ化に関しましては、権利処理に多大な努力が求められております。御存じの通り、認定制度の認知度は非常に低いわけでございまして、その進展が阻害されておるわけでございます。具体的な例を言いますと、川崎市の市民ミュージアムにおかれまして、NHKから購入されたフィルムに関して、それに出演された方の同意を全て取り直した上で、館内で公開をされているという現状でございます。それから、広島市の平和記念資料館につきましては、被爆者のオーラルヒストリーでございますが、それにつきまして過去収集したものをネットに上げて提供する際には、全て再度もう一度、権利処理を行い、提供するということをやっております。もちろんそこに発見されない方といいますか、探し切れない方は非常に多いわけでございます。これに関する新制度、著作隣接権になるかもしれませんが、そういうことに関して、非常に求められているわけでございます。
 2番目でございます。アーカイブへの著作物等の収集・保存と利用の円滑化方策でございます。御存じの通り、ICTの進展に伴いまして、データの保存、再利用の規格というものが常に変化しております。先進的に取り組めば取り組むだけ苦しむという事例が起こっております。そのために、過去にデジタル化したが、陳腐化したりすることによって、新規格による再デジタル化が博物館に常に求められていることになります。その際、データの圧縮・解凍、それから例えばシネスコープタイプですとか、通常のテレビタイプですとか、そういう同一性の保持というものがかなり課題になっております。これにつきましても、より柔軟な新制度の検討を頂いて、デジタル・アーカイブの促進に努めて頂ければと思っております。
 また、当館で行っております科学系博物館のウェブサイト検索サービスというのは、当館に事務局を設置しています全国科学博物館協議会加盟各館の了解のもとに、自動収集を行っているわけでございます。しかし、科学技術を振興するためには、科学技術に関しましては、博物館以外の他機関で作りましたアーカイブがございます。そういうものに対しても活用が求められているわけでございます。こういうデジタル・アーカイブの流通のためには、ロボット検索によるインデックスの切り出しに関する柔軟な新制度の検討が求められていると考えております。
 保護期間でございます。著作権法上の保護期間が終了して、自由な利用が可能になることにより、広く一般に流通し、知られることで利用価値が高まることは当然、予測されるわけでございます。博物館におきましても、過去の作品をデジタル・アーカイブ化して、私ども独自で作ったものも含まれるわけでございますが、内部のインハウスだけではなくて、ウェブに公開することということが、先ほどの博物館法の3条で求められる事業を積極的に展開していると思っています。これが著作権保護期間の延長による阻害というものが確実に考えられるわけでございまして、この事業に与える影響を考慮して頂きたいと考えております。この著作物の公開に関しては、国際的な広がりが求められているわけでございますが、国際協調の観点からは、その延長について、色々な公的利益の妥当性などを勘案して、十分な議論をお願いしたいと思っております。
 4番の意思表示システムでございます。先ほどの糸賀先生の発表にございましたように、意思表示システムというのは、なかなか社会の認知が低いものでございますが、私どもの博物館社会教育センター等の社会教育施設を対象としました自由利用マークというものが設定されておりません。私どもの目的に応じましても、このマークの設定といいますか、設置目的を勘案しますと、ぜひ国公立、例えば博物館とついても、観光施設的なものもございますので、国公立の博物館を対象としまして、自由利用マークの新設ということをぜひ御検討頂きたいわけでございます。
 その他でございます。これはちょっとピント外れかもしれませんが、この際、発表させて頂きます。私どもの博物館の研究者というのは、テレビの制作ですとか、新聞の制作にあたって、出演だけではなくて、番組構成上の重要な協力をしている。これはアイデアを出すだけではなくて、構成に口を出しているという場合もございます。その成果を学会発表でございますとか、博物館の教育事業、子供たちにこのフィルムを見せるというような活用に関しましては、現在の法規では全く不可能でございます。好意的なディレクターがOKですよと言っても、実際上のものではございません。メディアにとっては、博物館の研究者、学芸員の権利処理というのは対象外であるということ。今後のこちらの処理にあたっては、ぜひ、こういう観点を御検討頂きまして、色々な研究者、博物館だけではなくて、大学の研究者も含めた問題ではございますが、この処理についてもぜひ御検討頂きたいところでございます。以上でございます。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして、御質問等はございますでしょうか。
 特にないようでございますので、ご発表、ありがとうございました。

(5) 延長に慎重な創作者
【大渕主査】 それでは引き続きまして、延長に慎重な創作者のお立場から、劇作家、演出家の平田オリザ様、劇作家の別役実様、現代美術家の椿昇様、作家、詩人の寮美千子様、お願いいたします。

【劇作家(平田)】 劇作家の平田でございます。私は、劇作家協会専務理事、著作権担当理事としまして、十数年にわたって、劇作家の著作権及び上演権の保護に当たってまいりました。多くの著作権侵害に関して、演出家、プロデューサーに制裁措置を含む厳しい態度で臨んでまいりました。しかしながら、そのような立場にある私ですが、今回の案件に関しては、慎重な討議の結果、延長に関しては現時点では反対という意見を表明させて頂きたいと思います。
 この点に関しまして、日本劇作家協会では、理事会でも討議をしました。両論併記で情報を提供いたしましたが、ほぼ出席者全員の理事が反対、もしくは更なる慎重な論議をという意見でした。これは劇作家という職業が、作品をただ書くだけではなく、それを上演して頂かないと、ほとんど何も完結しないという非常に特殊な文筆業であるということに由来すると思われます。簡単に言ってしまえば、70年ということは、孫どころか、曾孫あるいは、子供のいない人間にとりましては、甥、姪の子供、孫といった全く想像できない人々が私たちの作品を上演していいとか、上演しては悪いとか、だめだという権利を持ってしまうわけです。先ほどから糸賀先生などが御指摘になさった利用拒絶ですね。この問題が私たちにとっては最も大きいと思われます。
 そして更に、演劇の台本の場合には改変というものが多く行われます。例えば例を挙げると、文化庁、文部科学省も後援・主催して頂いている高校演劇は1時間の上演という制約があります。私たちプロの劇作家は、最低でも1時間半から2時間の戯曲を書きます。ということは、高校演劇で上演される際は、改変が前提とされているわけです。そうしますと、改変が前提とされているわけですから、JASRAC(ジャスラック)のような集中的利用許諾は、ほぼ不可能であろうと。まして、これが海外の作品まで含めて、国際協調──保護期間延長の方は国際協調ということをインセンティブと並んで1つの理由とされていますが、国際協調するならば、海外の作品についても利用許諾を集中的に管理しなければいけなくなるわけですが、これが海外ではまず認められないだろうと思われます。そうすると、1つの方法としては、50年以降、人格権の部分については外すという判断もあるかもしれませんが、そうすると、ますます国際協調はできなくて、混乱を来すだろうと。日本でだけは、改変が50年後は自由ですよということは、おそらく国際関係では認められないだろうと思われます。
 私といたしましては、なぜ今なのかが、良く分からないのですね。国際協調ともう一つはインセンティブの問題があると思いますが、インセンティブのことで言うと、過去に遡ることは不合理だということは、各発表者の方が多く指摘なさっているところです。そうすると、今生きている人間が、明日以降、どなたかが亡くなられて、そこから50年にするか、70年にするかということは、今、私たちは50年後の話をしているのですね。今、こんなにメディアとか、情報の流通のあり方が急速に変わっていく中で、50年後のことを予想できるのか。誰が予想できるのか。今の現行著作権法は、たかだかこの150年間の近代的な個人というものが確立した前提の中でできてきたもので、演劇は、特に集団創作でずっとやってきましたから、かつては著作権という概念はほとんどなかったわけですね。その中から、この150年間で生まれてきて、そして今はとても必要な法律だと私も思っていますし、それを守る立場でずっと活動してきました。しかし、50年後も本当にこのままなのだろうかと。もしかしたら、もっと個人を強調するような社会になっているかもしれません。しかし逆かもしれない。それを今、本当に想像できるのかどうか。そこで私としては、この議論は凍結してもいいのではないかと。少なくともインセンティブの問題に関してだけ考えるならば、10年、20年凍結しても、全く問題はないのではないかと。もしそれがお嫌ならば、今の時点で10年、20年後にもう一度、必ず判断をします。必ず判断をして、そのときには、もしそれが必要ならば、さかのぼって適用しますという決議の仕方も一つの選択肢としてあるのではないかと思っております。
 もう一点は、私たち自身は、演劇の世界は特に世界的にそうですが、公的な支援なくというのは成り立たない分野になりつつあります。今、日本では映画もそうなりつつあります。そういった公的な支援を受けていながら、しかし、個人の権利だけを主張するということが、本当に国民のコンセンサスを得られるのどうか。簡単に言えば、私個人で言えば、もう死んだら公共財で結構なので、生きているうちに保障して頂きたいと。生きているうちに公的支援を増やして頂きたい。そのためには公共財ですということを強調して余りあると思っておりますので、この点に関しては、ぜひさらなる慎重な議論をお願いしたいと思います。以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、別役様、お願いいたします。

【劇作家(別役)】 私も劇作家でございます。保護期間の延長について疑問を感じています。
 今回、ちょっと違う視点で考えてみたのですが、絵画の場合に、写生教育というものと模写教育というものがあります。僕自身も写生教育で育てられたという感じがするのですが、要するにありのままのものを感じたまま書きなさいという教育なのですね。そういう形で個性が開花したと。それから、それぞれ様々なオリジナリティーが生み出されたということは事実だろうという感じがします。ただ、現在の保護期間の延長というのは、この写生教育的な個性の開花というもので、開花された個性をどう保護するかということにほぼ重点を置いているのではないかなと考えております。
 ただ、海外の場合には、模写教育というものがあって、それはまた今日、模写のやり方が見直されていると聞いております。模写教育というのは、要するに先代の師匠が描いたものをそのまま踏襲して、模写していくという形での教育なのですが、これは個性を殺すということで、近代以後では、あまり尊重されなかったということがあるのですが、今日改めて、先代から引き続き、伝統として組み込まれてきた精神をくみ取って、それから例えば、そこで写生教育でできた個性というものも、伝統の中で改めて鍛え直すというような効用があるのではないかということで見直されたのではないかという感じがするわけですね。いわば伝統を重んじる方法だろうという感じがするわけです。
 これは教育面であって、ほぼ著作権法と関係がないわけなのですが、先ほど平田君からもちょっとありましたが、演劇の場合、その他の場合もそうだと思うのですが、実際の創造面においても、写生的な精神を重んじた場合と模写的な精神を重んじる場合の方法が違うわけですね。特に演劇の場合は、前代の伝統を踏襲して、それを改良していくという仕事が非常に多いわけです。その他にも、例えば外国のものを翻案するとか、あるいは古い時代のものを現代に置きかえてやるとか、あるいは悲劇を喜劇としてやる場合が多いのですが、悲劇を喜劇として書き直すとか、そういう形で模写的な仕事が非常に多いということがあって、これがなかなかばかにできないということがあるのですね。演劇そのものも、実は模写教育的な方法によって現代まで発達してきたと。現代の名作と言われているものも、何回かの模写、あるいはその改良によって、できてきたということがあるわけです。
 この場合は、著作物の保護期間というのは、なるべく短ければ短いほうがいい。短くて、早く公共の財産となって、利用できるようになれば、それに越したことはないわけです。ただ、保護期間というのが長くなったり、あるいはそれに対する防御が非常にかたくなったりすると、作品それ自体が孤立して、利用価値がなくなっていって、死蔵されてしまうということになりかねないと考えるわけですね。僕自身、宮沢賢治の『銀河鉄道』というのを、しばらく前から戯曲化したいと思って、なかなか許可がおりなくて、結局、50年で著作権が切れるまで待たなければいけなかったという体験があるわけです。50年で著作権が切れた後、劇作家も何人か、その『銀河鉄道』を戯曲化したいという人がいまして、幾つか作品が出てきたわけですが、それぞれ原作を損なうことなく、むしろ原作の良さを開花させたのではないかという感じがするわけですね。そういう意味で、著作権の保護期間というのは、全然なければいいとは思いませんが、短ければ短いほうがいいのではないかという感じがするわけです。
 少なくとも70年間保護というので囲い込まれてしまうと、その作品が我々の伝統の中に組み込まれて、伝統として生きてくる可能性というのは切れてしまうのではないかという感じがするわけですね。特に我が国の場合、伝統というものを重んじて、伝統の中から新しい文化が生まれてくるというシステムについては、かなり年季が入っているという感じがするわけですね。その精神は失いたくないという感じがする。僕は、優れた芸術作品というのは、個別に突発的に出てくるのではなくて、やはり系統発生するものだろうという感じがするわけですね。これまでの力強い、民族的に重要な芸術作品というのは、それぞれ系統発生しただろうという感じです。その系統発生する可能性というものを殺すことはできないだろうと考えます。要するに模写教育が培ってきた、ある精神というものが、この保護期間の延長の中では、やはり無視されていると考えます。以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。続きまして、椿様、お願いいたします。

【現代美術家(椿)】 現代美術作家で、京都造形芸術大学で教えております椿です。今日は、現代美術というグローバルな非常に巨大なマーケットを有する産業で仕事をすると同時に、日本人であるという2点の、それから教育の現場に毎日いるということから、この問題に対して陳述いたしたいと思います。
 まず、私は京都の京都市立芸術大学というところを6年間学ばせて頂いて、卒業しましたが、その間、私は黒字です。税金によって手厚い保護を受けました。本来なら、6年間相当な自費を払わなければいけなかったのですが、何と最終的に奨学金も受けまして、黒字になったわけですね。ということは、それで私がその後ずっと活動を続け、色々な利益を得ているのですが、最初にそういう資金的には貧しいものですから、公的なバックアップがなければ、だめでした。ということは、私は、創作の原点でクリエイティブ・コモンズの中では、パブリックドメインに最初から助けてもらったと。最初から、色々な人たち、色々な過去の文化遺産に助けてもらってやっているのに、では、おれが作ったもので、お金を全部をくれということは、とても人として言えない。日本人として、先達がやってきたこと、江戸時代からずっと文化を見たときに、とてもそんなに浅ましいことはできないだろうと。国家の品格というか、日本人としての品格の問題を問われていると、ピンと来たわけですね。
 世界を見てみますと、今、iPodというのを皆さん、御存じだと思います。世界的に音楽が流通する新しい形態を作りました。それはiTunesという新しいソフトウェアが開発されて、違法コピーに歯止めがかかったのですね。それまでwinnyとか、VMXとかで違法コピーが横行していたわけですが、それができることによって、みんな、適正な料金を若い人たちが払うようになった。いいシステムができると、適正に運用されることが可能になります。U2というバンドのボノという人が、真っ先にiTunesに移行して、そこで創作活動を続けている。次々に、そういうプラットホームにビッグアーティストたちが動いています。それと同時に、U2のボノは、プロダクトレッドというものを提案しています。今、ドコモの携帯電話でも赤いものが出ていますが、これはプロダクトレッドと言います。これは収益、そのレーベルに関しては1パーセント、アフリカのAIDSの問題に寄付しようでないかと。こういうことに賛同するので、iPodも、アップル社もそれに入りました。ということは、そういうプラットホームが劇的に世界で変わります。若い人たちの共有意識が変わりますから、そこにお互いにコンセンサスと地球全体を共有するという意識が発生してくるのですね。さっき平田先生も、別役先生もおっしゃったように、本当にこれは劇的に変わります。ですから、今、欧米が70年だと言っていても、ヨーロッパ中心にボノが働きかけたら、一気に、これが30年になると。向こうが先にそれを変更してくるということも十分あり得るわけです。
 こういうドラスティックな状況の変化をぜひグローバルな規模で考えて、まず最初にプラットホームの構築ということを建設的に協議して、その後、適正な期間は何年なのかというのをされるべきだと僕は考えております。それをしないと、後世にわたって、日本民族の根幹に触れる問題が出てくるだろうと。それに関して資料に記述してございますので、皆さん、お読み頂ければと思います。
 簡単に申し上げますと、途中のところから読ませて頂きます。「新しい富を生み出すエンジンが」というところですが、著作権意識の希薄な地域、特に今、インド、中国、現代美術においては、インド、中国のアーティストの台頭が著しいです。若手が、ペインティングですが、ほぼ1億を越えるような作品がヨーロッパにどんどん流通して、どんどん爆発的に消費されています。このような状態に、日本が完全に一人負けになっています。唯一、オタクとか、サブカルチャー系が孤軍奮闘しているという状態で、あっと言う間に日本の一人負け状態が生まれてしまいました。そこにも書かれていますように、その中で、戦後日本の中で、やはり建築とファッションというのが世界に通用するようになったわけですね。それは保護がなかった。保護がないので、自前でみんな、向こうに行って新天地を開拓していったと。要するに日本人が持っている開拓精神、チャレンジする気持ち、これが戦後の動乱の時期にまた再生したわけです。我々は、その余祿で、今、ごはんを食べているという実感が否めません。かつ、それがあるにもかかわらず、教育現場で、若い学生たち、クリエーターたちを見ると、私は前途が暗澹たる思いがします。極めてみんな、引きこもり系ですし、外を見ないですし、チャレンジしないですし、そういうところに50年が70年になったよと一言言った瞬間、じゃ、もう批評精神、パロディー、色々なものが消失してしまう。国家的に文化的なエネルギーが衰弱していくのではないかと。だから、逆に言うと、日本においては、それをどうファシリテートとして、鼓舞して、勇気づけて、元気づけて、海外に押し出していくかという、全く今まで戦後日本が経験してきたことと真逆のことを、これからやっていかなければいけない時代が来ている。教育システムでも、そうです。だから、日本のシステムをもう一度、再生しなければいけないときに、最初に70年になるということだけを決めてしまうと、非常に致命的なことが起こるのではないかと私は考えます。
 あと、詳細は、この文書をお読み頂ければ分かると思いますが、何とか文化庁主導で、補助金ではなく、応援金に変えて頂いて、文化によって外貨を獲得すると。国益にかなうということに、日本人全体が向かわないと、ますます製造業だけにおんぶに抱っこという状態を繰り返していては、我々に未来はないと考えます。以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。それでは、寮様、お願いいたします。

【作家・詩人(寮)】 寮美千子です。作家をしております。詩や小説、童話を書いています。
 作品が時を超えて読み継がれることは、創作者としての私の最大の願いです。先ほど、平田先生が演劇は上演されることが前提であるとおっしゃいましたが、本も変わりません。読む人がいなければ、本はただの紙の束にしか過ぎません。より多くの人々に読まれてこそ、正当な評価が得られ、未来の文化に寄与することができます。作品が読まれなくなるということは、創作者にとって最も悲しむべき事態です。かの芥川龍之介でさえ、大正末期に、50年後、自分の作品は読まれるであろうかということを大変憂慮したエッセイを発表しています。また童話作家の新美南吉は、200年後に自分の作品が読まれることで、読んだ人の心の中に自分の魂が生き返るというようなことを書いております。このように長く読まれることを望むことは、私一人のことではありません。
 私は保護期間延長に反対します。作品がより多くの人に読み継がれる機会を著しく減じ、作家個人にとって損失であるばかりでなく、社会全体にとっても大きな損失でもあるからです。
 現在、作者の死後もなお読み継がれる作品は、ほんの一握りに過ぎません。自費出版の点数が、商業出版に迫る今日、埋もれていく作品は膨大な数になります。その中に人類の宝となるような名作が埋もれている可能性も否定できません。現行の保護期間、死後50年は、作品が再評価されるためにはあまりにも長過ぎます。また既に高い評価のある作品でさえ、死後50年を待たずに、あるいは生きているうちにさえ、忘れ去られることも多くあります。時の流れの早い今日、保護期間は25年で私は十分だと思います。先日のヒアリングで、延長派である川口真先生は、著作権を少しでも早く消滅させ、パブリックドメインになれば良いという考えは、創作を軽視するものであり、間違った考え方であるとおっしゃいました。それから先ほど、金先生も、未来の著作物に対する保護期間延長の場合、創作者の創作誘引を促進する側面があることは自明であるとおっしゃいましたが、果たしてそうでしょうか。著作権という壁によって、死後の利用が阻害され、未来へ受け継がれる機会が減れば、それこそが創作を軽視するものであり、作家が心血を注いだ作品の命を絶つことにもなります。読み継がれ、人類共有の財産となることこそ、創作者に対する最大の敬意です。
 データベースがあれば問題がないとおっしゃる方もいらっしゃいますが、自費出版も含めて、作者全てのデータベースを整備することは至難のわざです。膨大な個人情報の蓄積となり、扱いも大変難しくなります。また、自分のことを知られたくないという遺族の方もたくさんおられることと思います。実際、私の祖父・寮左吉は大変たくさんの著書を残しましたが、国会図書館に、生年は残っていても、没年は記載されていません。何度も何度も没年のことを知らせましたが、いまだにその記載はありません。そのような労を誰が取るのかということです。本当にそういうものを構築することが可能なのか。構築していく方向に向かうべきだとは思いますが、データベースを実現した後に、延長問題は議論されるべきであり、架空のデータベースをあてにして議論することは全く危険なことだと思います。
 また、延長派である松本零士氏は、作家は創作のために心血を注ぎ、自分のため、家族のために頑張るもの。創作活動を支えた家族に作家の死後も利益があるべきだと主張なさっていらっしゃいます。しかし、創作活動を支えたのは家族だけではありません。椿先生も先ほどおっしゃっていたように、社会全体です。社会に経済的余剰がなければ、作家も本も売れず、印税も入らず、創作活動に専念できません。そればかりでなく、創作それ自体が、別役先生が先ほどおっしゃったように、過去の文化遺産の中から生まれてくるものです。著作権法は、法によって作者の生活を経済的に支えていますが、作者自身による創作活動は、その死とともに終了します。残された作品から新たな創作活動が芽吹き、育っていくためにも、作品は創作を支えた社会の方々に、なるべく早期に還元されるべきです。著作権保護期間の延長は、万人が継承して享受すべき文化的財産を特定個人や団体の経済的特権として囲い込む行為に他なりません。著作権保護期間は死後25年で十分、現行の50年は、それを大幅に上回るものであり、70年への延長は、創作者としての最大の願いと社会の文化的発展を傷つけるものだと思います。
 補足ですが、先ほど出た著作者人格権は、遺族や団体等の著作権継承者によって必ずしも守られるというわけではありません。逆に自分が思ったことと反対のことをされてしまうこともあります。真の作品の理解者こそが、作家と作品を尊重できるのであり、真の理解者を得るためには、一人でも多くの人に読まれ、未来にわたって読み継がれていくことが大切です。そのためにも、作者の死後、早期のパブリックドメイン化が必要と思います。また、欧米に足並みを合わせようという意見がありますが、欧米の選択が人類の利益に繋がるとは限りません。一部企業の利益を優先して、人類全体の文化的利益を損なっている場合もあります。文化の発展にふさわしい選択は何かを良く考え、日本が率先して諸国に示すべき問題だと思います。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして、御質問等はございますでしょうか。どうぞ。

【都倉委員】 質問です。さっき、ボノの話をされたと思うのですが、僕はCISACという世界会議で、ボノと話したこともあり、彼の講演も聞きましたが、彼の考え方というのは、多分、ミュージシャンとして、自分の著作権を社会に還元したいと。そういう考え方を持っているのですね。だから、著作権そのものの考え方というのは、非常に著作権意識の強い人間だったと僕は思います。ただ、自分がその得たものに対して、それを社会、あるいはグローバルなことに還元したいという考え方だということを僕は非常に強く印象を受けました。
 意見になりました。質問ではなかったので、すみません。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。どうぞ、久保田委員。

【久保田委員】 寮先生に質問なのですが、特定の個人や団体と言われたのですが、団体は、このことによって、どんなメリットがあるのでしょうか。例えば、団体とは何を指しているのですか。

【作家(寮)】 著作権を継承した継承者が、それが一個人である場合ではなくて、例えば会社だとか、団体だとかというものが継承したときに、それをキャラクター商品にしているとか、様々なことで利益を得るということを意味しています。

【久保田委員】 分かりました。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それでは、御発表頂きました方々、ありがとうございました。

(6) 実務家
 引き続きまして、実務家のお立場から、弁護士の福井健策様、よろしくお願いいたします。

【弁護士(福井)】 福井です。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます。
 保護期間は、歴史を通じて、延長を繰り返されてきました。アメリカでは、20世紀の100年間で、約3倍にも保護期間は延びました。私は、保護期間のこれ以上の延長は、創作者のためにも、社会のためにも、そして知財立国のためにもならないと考えています。
 もっとも、これから私が挙げます悪影響は全て予測であり、危惧のレベルのものです。なぜならば、我々の社会は、かつて一度たりとも、創作者の死後70年間という長期にわたって、遺族に作品の独占を認めたことはないからです。その意味で、私たちの社会は、かつてない作品という情報の長期独占時代に突入することになります。
 ただ、影響として一つだけ断言できることがあります。それは、一度延ばしてしまった保護期間は、現実には短縮するのは非常に難しいということです。そのため、今ここで、保護期間を延長すれば、その影響は私たちの子孫にまで半永続的に及ぶ可能性があります。また、その影響は社会のあらゆる領域に及びます。そのため、誰が、どのような理由で延長に賛成し、または反対し、あるいは沈黙したのか。歴史の検証に耐えるような議論を望み、注視したいと思っています。
 さて、悪影響として私が第一に危惧するのは、作品の流通が阻害され、また文化活動が停滞することです。この点、著作権は、死後は相続人全員の共有になるのが原則で、その全員の同意を得なければ利用できないのが原則です。そして、70年前に亡くなった方の遺族全員を探し出し、その許可を得るというのは、実際には極めて困難な作業であることは私自身が実務を通じて強く実感しているところです。ですから、そのために各種エンターテインメント産業活動や、文化活動や、あるいはアーカイブ、図書館、博物館、福祉、教育、研究など、様々な活動に悪影響が及ぶことを危惧いたします。これらは既にNHKや国立国会図書館、その他の団体の意見表明で明確になったところです。しかも、これまでは現場の実態として、ややアバウトな権利処理も時に見られましたが、これからは権利意識が強まりますから、より厳密な処理が求められるようになることは、ほぼ間違いありません。本当に私たちの社会は、死後70年の負担に耐えられるでしょうか。
 これに対して、全著作者を網羅するようなデータベースを構築することで、問題を解消できるという意見を前回伺いました。これは大変意義のある試みです。しかし、第1に、データベースというのはデータであって、それで許可がとれるかどうかは全く別問題です。第2に、70年になることの悪影響を全て解消できるほど、網羅的なデータベースの構築というのは、実際には極めて困難な作業です。例えば図書だけに限っても、国立国会図書館が所蔵している和図書、日本の図書の著者だけで79万人いるとされます。これに対して、日本文藝家協会に権利委託をしている作家は、約250分の1程度に過ぎません。これに海外の作家を加えれば、総数はおそらく10倍にもなるでしょう。そこに雑誌や新聞が加わり、他のジャンルも加わるわけです。死後70年までさかのぼって情報追跡をしようとすれば、莫大な予算をおそらく費やすことになるでしょうが、それを国民に負担させるのでしょうか。
 あるいは裁定システムを簡易にすることで、問題を解消できるという意見も伺いましたが、皆さん、良く御存じの通り、文化庁長官の裁定システムの対象は、ごく限られています。それで全ての問題が解消できるとは到底考えられません。やはり、これらの改善策は大変有意義ですが、延長とは切り離して考えられるべき性質のものだと思います。
 第2の危惧として、古い作品に基づいて新しい作品を生み出すサイクルが害されないかということがあります。添付資料に記載いたしましたのは、公表後50年〜120年程度で、翻案によって作品が新たな傑作に生まれ変わった例です。ご覧頂ければ分かる通り、単にアイデアを借りたというようなレベルのものではなく、現在であれば、遺族がたとえ一人でも反対をすれば、おそらく陽の目を見ないであろう作品が大半です。そして、私のもとにも、創作者側から、古い作品のリメークやパロディーなどの相談は非常に多くあります。その場合色々な検討が必要ですが、究極的には保護期間の問題に帰着いたします。もし延長を繰り返せば、文化はこうした大事な創造の源泉を失うことにならないでしょうか。
 また、知財立国のかけ声をよそに、我が国の著作権の国際収支は年々悪化し、赤字幅は、今や年間6,000億円に迫るものがあります。古い欧米作品の延命が繰り返されれば、こうした輸入超過や国際的な知財の偏在を固定化することにならないでしょうか。特許の国際収支は、これに対して改善を続け、最近、黒字に転換いたしました。特許の保護期間は登録から20年に過ぎません。もし欧米の古い基本特許が100年間守られていたら、我が国の技術立国は果たして可能だったでしょうか。他方、アニメや漫画を例に出して、今後、輸出を増やすために期間を延ばすべきだと言われることがあります。しかし、アニメや漫画、あるいは村上春樹さん、これらの作品の保護期間は少なくとも今後30年〜50年間は切れません。よって、30年後の国民がその時点での世界の知財状況を踏まえて判断すべき問題なのに、30年先を知らない私たちが、今、決めてしまう権利があるのでしょうか。今、決めて、欧米の古い作品の延命を日本が後押しする理由は何でしょうか。
 こうした様々な危惧があるのだから、延長を議論するならば、明確なメリットが示されることがスタートになると思います。延長のメリットがあるか否かは、委員の皆さんの判断にゆだねられるべき問題ですが、私は、少なくともこれまで説得的だと思う理由に出会ったことはありません。例えば、欧米より期間が短いと恥ずかしいとか、あるいは著作権が現状尊重されていないことを理由にして、延長すべきだという混同は、コメントに値するとは思えません。
 これに対して、死後70年が国際標準だと言われることがあります。これは誤った情報が流布されているようですが、アメリカは今、問題になっているような古い作品については死後70年ではありません。添付の表にある通り、公表時期起算です。ですから、全く保護期間は異なります。そのために、アメリカでは保護期間はもう切れているけれども、日本ではまだ続いている作品は数多くあります。アジア、ヨーロッパ、アメリカで、それぞれ保護期間がまちまちなのに、なぜ死後70年が世界標準だと言えるのでしょうか。
 ハーバード大学で対日研究を行っているある教授は、日本人の最大の弱点は、独創性と批判能力の欠如だと言ったことがあります。私たちは、欧米のやることには理由を問わず追随するという姿勢をこそ克服すべきではないでしょうか。付言すれば、ECやイギリスで隣接権の延長が断念されたことに見られるごとく、既に期間長期化は世界の潮流ではなくなっている可能性があります。私たちは今こそ、日本モデルを世界に対して示すチャンスではないでしょうか。
 これに対して、期間を調和させないと、作品の流通を害すると言われることもあります。私は、漫画、映画あるいはイベントといった分野の契約交渉が業務としては最も多く、国際契約だけでも年間100を超える交渉に携わります。しかし、これまで期間不統一が原因で、ビジネスが潰れたという例は一つも記憶にありません。経済合理性から考えても、そんなことでビジネスを止めるというのは、ちょっと想像できません。私が、日々直面する問題は全く異なるものです。それは欧米の強固な主張に押されて、対等な交渉ができないままに、貴重な権利の海外流出を招いたり、あるいは過剰な負担を負わされてしまうというケースの多発です。そして、今度の問題も私には、極めて同根のものに思えます。なぜ欧米から何かを要求されると、途端に譲歩するタイミングを図り始めるのでしょうか。私たちは落ち着いて、日本と世界のために一番良い選択肢を考えてこそ、そして、それをしっかり主張できてこそ、国際社会でも一目置かれるのだということを強調したいと思います。
 なお、20年延長すれば、戦時加算を解消できるという意見も聞きますが、全く同調できません。そもそも一部作品が10年間長いのが不満だから、全体を20年延ばしてしまおうなどという交渉は聞いたことがありません。私がもしそういう交渉を行えば、即刻、クライアントから解任されるでしょう。
 創作者の正当な利益は守られるべきです。そのために議論すべき課題は、まだまだ数多いと思います。しかし、ここで相当性も必要性もない保護延長を無理押しすれば、権利者と著作権制度は社会の信頼を失ってしまわないでしょうか。私は保護延長に反対いたします。御清聴、ありがとうございました。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。今の御発表に対しまして、御質問等はございますでしょうか。はい、生野委員、どうぞ。

【生野委員】 先ほどの御説明の中で、EC、イギリス政府が隣接権の期間の延長を断念というお話がありましたが、私がIFPI(国際レコード産業連盟)のほうから聞いている情報とはちょっと違うので、確認させて頂きたいと思うのですが、確かにECについては、2004年のペーパーで、現時点では時期尚早ということで結論づけられたと思うのですが、これについて現在、欧州委員会で継続検討ということで聞いております。それから、イギリスにつきましては、ガウアーズ・レポートのことだと思うのですが、これがイギリスの政府として最終決定したという話は私は聞いておりませんでして、これについても継続検討をしておりまして、議会の委員会では別の報告も出るというような話を聞いております。これを断念というのは、ちょっと言い過ぎなのではないかと思うのですが、確認させて下さい。

【弁護士(福井)】 私は、その状況を指して断念と申し上げましたが、おそらくより詳細な情報が必要な問題でしょうから、私も追加で情報を出させて頂きます。どうぞ、生野さんからも、正確な情報をお出し頂きますよう、お願いいたします。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それでは、ありがとうございました。
 本日は9時から12時半という非常に長丁場で、通常の審議会の大体倍ぐらいの時間になっておりますので、このあたりで休憩をとったほうが良いかと思います。今、私の時計で10時55分なので、ここで10分間、休憩をとって、11時5分に再開したいと思います。11時5分の少し前までには、お席にお戻り下さるようお願いいたします。

(休憩)

(7) 演奏団体分野
【大渕主査】 それでは、ヒアリングを再開したいと思います。
 演奏団体の分野から、社団法人日本オーケストラ連盟の岡山尚幹様、お願いいたします。

【社団法人オーケストラ連盟(岡山)】 岡山でございます。演奏家の立場から発言させて頂きます。
 私たちは、日常的に著作物を利用して、講演活動を続けているわけでございまして、著作権を持っている者ではないのですが、利用させて頂いています。今までの討議の中で、色々なお話がありました。本質論でお話になったと思うのですが、私たちは現在、一番困っているのは、利用するための費用のことなのですね。これは皆さん方の、この委員会の直接の議題ではないかもしれませんが、現在、こういうような形で著作権が利用され、芸術作品が色々な人の目に触れるようになっているかということを少し認識して頂きたいと思いまして、お話をさせて頂きます。結果としては、利用の円滑化方策ですね。これに関係してくると思います。
 それでは、レジュメをお渡ししてありますので、簡単でございますが、説明させて頂きます。
 オーケストラは著作物のユーザーとして日常的に活動しており、オーケストラの運営者、事務局は、JASRAC(ジャスラック)が定めた著作権使用料を規定どおりに支払っているわけです。金額的なことをちょっと申し上げますと、トータルで私たちは全国で27のプロオーケストラが1年間に去年、JASRAC(ジャスラック)にお支払いした金額は1,800万円ぐらいです。これを少ないとお考えになるか、大きな金額とお考えになるかは御自由でございますが、そのぐらいのものを払っております。これは毎年、そういうことが行われております。
 同時にオーケストラのプレーヤーというのは、個人としては隣接権を持っている演奏者でございますので、間接的かもしれませんが、保護期間が長いほうがいいということもあるかとは思いますが、全体的には、それは弱いほうの意見だと思っております。
 私たちオーケストラの運営者は、現代音楽がどうしても必要なので、そういうものを利用して演奏活動を続けておりますが、まずは今申し上げたようなJASRAC(ジャスラック)というものがうまく機能はしているのです。ですから、私たちは何も作曲家に一々、許諾の手続をとらなくても、JASRAC(ジャスラック)が代行して下さるので、その辺はすごくうまくいっておりますが、問題は使用料のことでございます。
 まず、次のページをちょっと見て頂ければと。資料の2ページ目を見て頂ければお分かりになるように。細かいことは申しません。例えば武満さんの『ファミリー・ツリー』という24分の演奏曲があります。これをやるとなると──今、値上げの途中ですが、平成24年と右端に書いてありますが、この1曲をやることによって、著作権料は12万5,375円払わなければならないのです。私たちオーケストラの運営者にとって、入場料にこれを全部転嫁することは、もうこれ以上できません。そういうようなこともあって、年々上がってくるのは一体どうしようかと思って大変困惑しておりますが、そんな状態です。それから、矢代秋雄さんの『ピアノ協奏曲』という、これは28分の曲ですが、これが15万円かかると。これは分数によって決まってくるものですから、こういう数字になっておりまして、ストラヴィンスキーの『火の鳥』、これをやると25万払わなければならない。これは私たちとしては、じゃ、『火の鳥』は今回はやめようかということになってくるわけですね。武満さんのものもやりたいけれども、まあ、こんなに12万も払うのだったら、止めておこうかと。そういうようなお話になってきてしまうのですね。
 それから、今、この著作権の料金のことだけ申し上げておりますが、オーケストラというのものは、こういう現代作品は貸譜という制度がありまして、楽譜を借りて使って、お金を払わなければならないのですね。ですから、武満さんの曲をやるためには、著作権料の他に貸譜料も払わなければならないと。こういうようなことで結構な負担になってくるわけです。そのことをちょっと申し上げて、皆さん方が、これから延長問題、その他をお決めになるときの参考にして頂きたいと思っているわけです。
 おかげさまで、ラベルの『ボレロ』などというのはしょっちゅうやるのですが、これは切れたものですから、著作権料は払っておりませんが、例えば今、わりあいに演奏される中で、ストラヴィンスキーとか、ハチャトリアンとか、シベリウスとか、こういうものがなかなか演奏されなくなって、ベートーベンとブラームスだけになっている、あるいはチャイコフスキーだけになってしまうのが、本当にいいことなのでしょうかということを申し上げたいのですね。JASRAC(ジャスラック)が悪いとは私は言っておりません。JASRAC(ジャスラック)がすごくいい機能をしていることは確かなのですが、決めた金額があまりにも高くて、もう何年かかかって、JASRAC(ジャスラック)とは交渉しておりますが、今や皆さん方、少なくとも文化庁さんは、JASRAC(ジャスラック)に対して、使用料について利用者が認めればそれでどうぞやって下さいという制度になっているわけですよね。コントロールするわけではないわけですから、私たちも文化庁さんにお願いして、JASRAC(ジャスラック)の値上げを止めて下さいとは申し上げられないのですが、何とかならないものかと思っております。
 そんなことで、JASRAC(ジャスラック)も考えてくれまして、一度はすごい高額の値上げを言ってきたのですが、私たちとの交渉の間に、色々いい案を出して下さって、経過措置も含めて、ここまで落ち着いているのですが、それでもなお、やはり1曲やるのに25万円も払う。私たちは入場料は5,000円ぐらいしか取れないわけですよね。では、何十人分をまた増やさないと、この曲をうまいぐあいにやれることにはならない。そんなことがございます。
 それからもう一つ申し上げたいのは、オーケストラは学校回りなんかもしておりますし、子供たちのコンサートも随分開いておりますが、そういう際にも、やはり著作権はかかっています。JASRAC(ジャスラック)さんと交渉して、色々な形である程度の恩典は頂いていますが、それにしても、まず学校の演奏会のときに、では、著作権料はどこが払うのですかというと、学校側は、私たちにそんなお金はありませんから、オーケストラでやって下さいということになるわけで、結局、オーケストラが値段を負けて、何とかやるみたいなことに現実はなっております。そういうことをお考えの上で今後の討議を進めて頂きたいと思って、お話しに参りました。一応、これで終わります。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして、御質問等はございますでしょうか。はい、平田委員、どうぞ。

【平田委員】 お立場上、言いにくいかと思いますが、要するに、今の御発言は、これまで議論されてきた強制許諾を伴うアーカイブスと許諾の権利の管理を一元化すると、確かに便利にはなるけれども、非常にコストがかかるし、利用を促進するとは限らないと理解してよろしいでしょうか。

【社団法人オーケストラ連盟(岡山)】 はい、そうですね。皆さん、御存じのように、JASRAC(ジャスラック)は年間1,000億の仕事をしております。文化庁予算よりも大きいです。その現実、その中でJASRAC(ジャスラック)さんは3割を手数料として頂いて、7割は著作権者にお払いしていますと言っていらっしゃいます。でも、私たちは、その詳細をつぶさに見ることはできません。まあ、そういう状況でもあります。

【大渕主査】 はい、都倉委員、どうぞ。

【都倉委員】 JASRAC(ジャスラック)関係者は僕しかいないので、ちょっとまた質問ではなくて、申しわけないですが。
 今おっしゃった色々なことを私もJASRAC(ジャスラック)の事務方ではなくて、単なるヒラ理事なのであれですが、長年の色々なお話し合いで、これは決まったと我々もお話を聞いております。ちょっと御説明だけさせて頂くと、この金額が高いか、安いかということは、これは日本という西欧音楽をやっているという1つの前提があるのと、やはりJASRAC(ジャスラック)は御承知のように、相互管理契約というのは世界の百六十幾つの団体とやっておりますので、やはり例えばスウェーデンあるいは欧米諸国とか、東南アジアの津々浦々までやっておりまして、その包括的な責任があるわけでして、それで料率も、これは3、4、5パーセントというのは、実は5パーセントという金額に落ち着いたわけですね。ただ、その経過措置として3、4パーセントと。突然ではということで、年月を減ってなっているわけです。この5パーセントというのは現在のイギリスのPRSとか、ドイツのゲンマとかの基準で多分決めさせて頂いたという報告を僕は受けて聞いているのですがね。ですから、それが高いか、安いかということは、日本のマーケットとしてのオーケストラの活動が一緒の議論になってしまうと、ちょっと議論が並行線になってしまうのではないかと。
 すみません。ちょっと御説明をさせて頂きました。

【社団法人オーケストラ連盟(岡山)】 もう一言言わせて頂くと、JASRAC(ジャスラック)さんは、何でそんなに手数料をお取りになるのですかというと、カラオケで、そこから著作権料を取るためには大変な労力がかかると。人間も必要だし、逃げてしまうことも含めて、それを追いかけていくと、すごくお金もかかるというお話を伺うのですが、私たちオーケストラは、全く逃げも隠れもしませんのに、そしてこんなに正確にお払いしているのに、そういう人と一緒にして手数料を取るというのは、私たちは、これはちょっと理に合わない。オーケストラはもう少し安くしようとか何とか言って下されば、まあ、了解するのですが。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それでは、ありがとうございました。

(8) 写真分野
【大渕主査】 引き続きまして、写真の分野から有限責任中間法人日本写真著作権協会の松本徳彦様、よろしくお願いいたします。

【有限責任中間法人日本写真著作権協会(松本)】 日本写真著作権協会から参りました松本でございます。今日、この過去の著作物の保護と利用に関する小委員会で発言させて頂きますことをありがたく思います。
 本論に入る前に、写真がこれまでに置かれていた現状というものを御説明したほうが、後の課題を討議する上で大事かと思いますので、それを先に申し上げさせて頂きます。
 著作権法が制定されたのが明治32年でございます。その当時、制定された折の写真の著作権というのは、公表後10年という大変短いものでありました。それから約60年ほど経って、新著作権法が制定されたのが昭和46年のことでございます。ここで初めて、写真は公表後50年ということになりました。これは大変私たち創作者にとってみれば、ありがたいということであったと判断いたしております。そうして更に現著作権法が平成8年に死後起算となり、初めて他のジャンルの方々と同等の権利を持つに至りました。これによって、写真家も死後50年という保護のもとに活動がよりやりやすくなった。あるいは遺族にとってみれば、大変利益をもたらす仕事だということを認識させる結果になったと判断いたしております。
 ただ、ここで問題を指摘をしたいのは、この明治に制定されました旧著作権法が10年であったために、私たち、私もそうでございますが、存命している写真家、現在も活躍している写真家、この一部に著作権が切れたものがたくさん生じました。昭和32年以前の作品がそういうことになります。それは私たちにとっては困る問題です。更に困る問題がございます。それは、その後に制作したものについては死後起算が適用される。とういうことは、今現在活動している写真家の中に2つの権利が存在するという問題がございます。これは私たち自身も困りますが、利用される方々も混乱が生じてお困りだろうということが現実に起こっております。我々の団体にも色々な問い合わせがございまして、著作者の所在をお尋ねになられる方が非常にたくさんございます。そういう場合にお答えする仕方にも大変難しいものがございます。作家の制作された作品の年号がいつだったのか。あるいは没年が何年だったのかということで、答え方が全て変わってまいります。そういうようなことが流通の面で大変阻害をしていると言ってよろしいかと思います。
 そして、今回の問題になっております著作権の保護のあり方でございますが、基本的には70年になることを望んでおります。その理由は、こちらに書いてありますように、著作物の分野ごとの著作権法上の差異を可能な限り最小にし、また国際的な著作権の扱いを平準化することが至急望まれている。写真分野の経緯からも分かる通り、著作権と技術進歩は非常に密接に関連しており、著作物間、国際間で差異を設けることは将来的な問題の原因となる可能性が高い。そのような観点から、日本においては、早急に保護期間を死後70年とすることが急務である。また、それに伴い、世界において唯一、我が国のみに残る戦時加算特例を無効化する手段を講じることは国際的な平準化のためにも必須であるということを述べさせて頂きたいと思います。
 次に、私たちは、どのような利用を円滑にする方策をとっているかということを申し上げたいと思います。
 現在、日本写真著作権協会では、略称をJPCAと呼んでおりますが、このJPCAのホームページをご覧頂ければお分かりだろうと思いますが、これに加盟している団体が10団体ございます。この写真10団体、約2万8,000人ぐらいに相当すると思いますが、この方々にIDを発行いたしております。このIDは著作物に氏名表示の代わりにも使えるという制度でございますし、ホームページにございます情報を検索する際にも、その番号から、その方がどういう団体に属されて、どんなお仕事をされているかということが確認できるような仕組みを構築しております。これは現在進められております経団連のポータルサイト、これともリンクして、より広範に利用が促進できるような仕組みを作っております。そうすることによって、今まで埋もれていたような作品も、そのホームページ上に公開されることによって、利用が図られるという結果を生むことが考えられています。
 また、私たちは現在、日本写真保存センターを設立しようという運動を行っております。本年度、文化庁の調査研究費がつきました。これによって、現在、どのような写真原板が遺族のもとに保存・管理されているか、その実態はどのような状況にあるかということの調査を始めました。同時に、海外ではそのような組織が、あるいは団体、アーカイブスがあるのかというようなことも本年、約2カ所ないし3カ所を計画いたしているわけです。これはどういうことかといいますと、写真は歴史的な内容を多分に含んだ情報源でございます。こういったものが作家のもとに死蔵されているというのが現状だと思います。これを掘り起こして、更にそれが広く利用されること、これは私たち写真家だけの利益の問題ではなくて、日本の文化を推進するという意味において、学術あるいはメディアにおいて利用されることを促進したいという願いをもって、これを作っているようなところがございます。こういったものができることによって、更には保存センターができることによって、JPCAのホームページとリンクする。更には経団連のポータルサイトとリンクすることによって、より広範な方々に利用が可能になるということを期待いたしているようなわけでございます。
 以上、簡単でございますが、御説明させて頂きました。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして御質問等はございますでしょうか。平田委員、どうぞ。

【平田委員】 「著作物間、国際間で差異を設けることは将来的な問題の原因となる可能性が高い」とお書きになっているのですが、著作物間については分かるのですが、国際間で差異を設けることで、どんな問題が起こるのか。皆さん、そうおっしゃられるのですが、具体的な問題は全く指摘して頂けていないように思うのですね。私の経験から言いますと、私は権利関係の非常に複雑な国際共同の演劇作品を何本も作っていますが、そこで問題になったことはありませんし、海外のエージェントに問い合わせても、そのことで問題になることは考えられないという返答が返ってまいります。ですから、どういう問題を想定されているのかという点が一つ。
 もう一つは、国際間で差異を設けることがもし問題になるとしても、そう考えますと、確かに今、欧米に関しては70年だから、それを50年から70年にしようというのはいいのですが、そうすると、アジア・アフリカ諸国、他の諸国が50年のままであって、その貿易量が今は確かにアメリカやヨーロッパのほうが多いかもしれませんが、これは多分、逆転するだろうと思われるのですね。アジア・アフリカ諸国との足並みが揃わなくなるわけです。今実際に例えば私の知り合いの辻仁成という小説家がいますが、彼にこの間、聞いたら、印税収入の3割〜4割は韓国での売上だと言うのですね。ですから、もし差異が将来的な問題になるとするのだったらば、アジア・アフリカ諸国との差異は問題にならないのでしょうか。その2点をお伺いしたいと思います。

【有限責任中間法人日本写真著作権協会(瀬尾)】 簡便にお答えいたします。まず、国際間の差異の問題というのは、今、やはり情報もしくは例えば写真においてすら、インターネットにおいて、日本国内、国外を問わず行き交うことになり、また日本語であれば、日本ということは分かりますが、外国語において、結構、色々な流通が図られているし、今後は非常にネットの中で、国という概念が非常に薄れてきている中で、これはどこのものであるのか、これはどのように守られているのか。ネットによる情報の国際化の中で、あえて50年で留めておくよりは70年にしたほうが良いだろうという判断です。例えば国際情報の中で、非常に国境がなくなってきたネットの中で、元の国はどこなのかと。これは英語で、こういうサイトだけれども、どうなんだ、こうなんだといったときに、それを全部、突きとめなければ使えなくなってしまう。もしくはそういうルールが国際間であればまた別ですが、そういうふうなことで考えたときには、ルールは同じほうが使いやすいだろうという点が一つ。
 もう一つ、欧米とアジアについてなのですが、現在流通している著作物の量というのは、ほとんどが日本と欧米、韓国あたりでほとんどの分の流通量を占めると。ほとんど今はそうですが、ただ、これが将来的にアジアが増えて逆転するだろうというお話ですが、逆転するかもしれないし、しないかもしれないし、それは分からない。ただ、そのときには、アジアの各国も自分たちは50年なのか、70年なのかを考えるべきなので、それはその国の問題だと思います。ただ、現時点で、日本の立ち位置と環境を考えた場合には、明らかに全体の流通しているコンテンツのほとんどは70年の保護を受けている状態にあり、その中で日本が踏ん張って、50年にしていると。踏ん張る意味が果たしてどれだけあるのかということです。
 それと、最後に付け加えますと、基本的な話で一つだけ、今の問いでもそうなのですが、物を基準とした考え方の時代は私は終わったと思っているのです。というのは、物というのは、今までずっとバブルを享受したのも、物でもやってきました。物という物差しではかってきたのだけれども、やはり今、この時代になってきて、だからコンテンツだし、それが知財立国と言われている基本だと思っているのですね。そのときに、皆さん、流通が第一前提とおっしゃいますが、流通させるためのものがいくらでもできるという考えであれば、流通は最優先するべきです。増産するべきなら増産すればいいし、設備投資して増やせばいいです。ただ、知財、コンテンツ、こういうものは人の汗と発想でしかできませんから、これを育てること、これを豊かにすることをまず第一に考えないと、枯れてしまいますよ。そういうことを前提とした上で、この発言をさせて頂いているということを御理解頂ければと思います。以上です。

【大渕主査】 金委員、どうぞ。

【金委員】 今のお話の中で、技術が発展してネット化が進むと、それによって情報の国際化が進むという、そういう認識は正しいのだと思います。しかし、それがなぜ50年から70年に延長する根拠になるのかというのが全く分からないのが私の印象です。
 もう一つ、国際的なルールを一致させたほうがいいという話がありましたが、1つのルールのほうが、ネットによる情報国際化時代では望ましいということを正しいとし、その実現を目標としたとしても、なぜ日本は独自の考えを世界に広めていく努力はせずに、独自の路線を放棄し、欧米に追従しなければいけないのか、ということについてお答え頂ければと思います。

【有限責任中間法人日本写真著作権協会(瀬尾)】 時間がないので、簡単に述べます。
 今のお話で、まず最初に国際化のときに、何で日本発ではいけないのかというお話でございますよね。日本で50年にする、50年がいいのだと。これにすることがベストである理由というのが強くあって、それがはっきりしてくれば、50年がいいと思いますが、今は70年は良くないから、現状のままで50年という論でしょう。先ほど25年という案もありましたし、色々な案があるのだけれども、現状維持が、とりあえず変える理由が見当たらない、理由を認められないから50年にするというのではなくて、積極的に日本は50年がいいのだと。だから、これを国際ルールにしていくのだという強い意思と理由づけがあればいいですが、そういう話では今まではなかったし、あともう一つ、良く言われるのが、創作者は本当に、今日も創作者の方はいらして、反対の話もありました。当然あると思うのですよ。だけれども、今、17団体のプロの集団が、みんな、これをして欲しいという要望をしている状況が一応あるので、一応、創作者はそれを願っているということは前提に置いて頂きたいのですね。著作者はうそを言っているのだろうと。本当は延長して欲しくないのではないかとか、そういう話はなしにして頂きたい。だから、創作者、実務者は、それで飯を食って、明日、これが売れなくなったら、おれは食い詰まってしまう人間、それがプロです。創作者はたくさんいますが、その中で売れなくても別に他からお給料が入っている人はたくさんいます。でも、我々の集団というのは、そこで売れなくなったら食えなくなる人間ですよね。その人間たちがそれを要望しているのだと。とすると、社会的にそれを通すことのマイナスとプラスを勘案して頂くという部分だと思います。ですから、50年であれば、現状を維持する必要がないということでなくて、積極的に50年なのか、何なのかということを理由づけをされれば、そこに論になるでしょうが、そういう理由がなく、変えなくほうがいいよと。損してしまうからという話では、それは我々の要望に対して、あまりにも慎重な議論、検討がされているとは考えられないということです。

【金委員】 一つ言わせて頂きたいのですが、今の話は論理が逆転されています。ここでの議論は、死後70年を死後50年に変更しようという議論ではありません。現行法では死後50年になっていて、もしそこで死後70年にしようという話であれば、変更が必要である根拠を提示する義務は、変更を要求する側にあるわけです。

【中山委員】 一つだけよろしいでしょうか。

【大渕主査】 はい、どうぞ。できるだけ質問をお願いします。

【中山委員】 インターネット時代だから、50年と70年と食い違っていると問題が起きるという話なのですが、いずれにせよ、誰が著作者かということを突きとめなければ、どの国の国民か、あるいはいつ死んだか等々を突き詰めなければいけないのであって、期間の問題だけではなく、どっちみち、どこの国が誰が作って、いつ死んだかということは調査しなければならないはずです。なぜインターネット時代になったから、70年にすべきというのはちょっと理解できないのですが、どういう意味でしょうか。

【有限責任中間法人日本写真著作権協会(瀬尾)】 中山先生のおっしゃる通り、確かに根本的な話なので、ネットの時代に国を越えた著作権がどうあるのかと。その国の法律をどう適用させていくのか、元を突きとめるかというのは非常に重要な問題だし、この問題にそれはかかわっていると思います。だから、70年では理解できないという部分に関しては、また審議の中で追々検討していくということで。申しわけございません。

【大渕主査】 はい。御質問でお願いします。

【平田委員】 創作者団体十何団体が、そういう要望を出した。だから、創作者の多くが賛成しているということなのですが、今回の発表でも、アンケートをして頂いている団体もあり、それらの団体はほぼ意見が拮抗していると思います。劇作家協会は、先ほども申し上げましたように、権利者団体ですが、これは決議はできないだろうということで意思表明を取りやめました。写真著作権協会は、この決議に至るまでに、これは重要な決議だと思いますので、会員の調査をなさったのかどうかをお伺いしたいと思います。

【有限責任中間法人日本写真著作権協会(瀬尾)】 構成団体の当然、理事会を通った決議でございます。ただ、全員一人ずつの意見を聞いて、国民投票的な決議を採るということはしておりません。

【平田委員】 アンケートはしていないのですか。

【有限責任中間法人日本写真著作権協会(瀬尾)】 アンケートも何も、これはそういう一人ずつに全員に話を聞く問題ではないと判断しています。

【平田委員】 なぜ行わないのですか。

【有限責任中間法人日本写真著作権協会(瀬尾)】 例えば全員にアンケートをとって、そのアンケートの比率で、これを出さなければいけない問題なのかどうかというのは、我々の理事会の中では、全員一人ずつ聞いて、みんな、本当にいいと言ったのかと。その部分が問題になるとすると、我々がイエス、ノーということは一切言えなくなってしまうのではないですか。

【平田委員】 私は文芸家協会の会員でもありますが、文芸家協会は確かに、保護延長に賛成という要望を出していますが、理事会で決められており、私たちに配られる資料は、もう保護延長ありきという資料しか配られておりません。それは明らかに公平を欠くような誘導的なものだったと私は感じております。他団体も、そういうものがあるのではないかと危惧しております。あくまで会員全員の公平な判断を示すような資料を配付した上で、アンケート調査なりをした上で決議をして頂く。もちろん、これは各団体の執行の過程で民主的な判断はなされていると思いますので、それを否定するものではありませんが、それを強い意見として、創作者がみんな、保護延長を願っているというような言い方をされますと、多少、それは留保したいと思います。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それではありがとうございました。

(9) 美術分野
【大渕主査】 引き続きまして、美術の分野から、社団法人日本美術家連盟の福王寺一彦様、お願いいたします。

【社団法人日本美術家連盟(福王寺)】 日本美術家連盟の福王寺と申します。
 日本美術家連盟は昭和24年に創立されまして、日本画、洋画、彫刻、版画と4分野の美術家の団体です。現在、5,200人の会員がおります。資料9を見て頂きますと、下のほうに、まず国内の作家について書いております。昨年は安井曽太郎先生の保護期間が切れたわけです。安井先生は美術家連盟が昭和24年に創立されたときの初代の会長です。美術の分野の登竜門である安井賞という賞がありました。安井先生の名前にちなんで設けられた賞です。安井先生の著作権は昨年切れてしまったわけです。今年は彫刻家であり、画家であり、詩人の高村光太郎先生の著作権が切れます。来年は小林古径先生と川合玉堂先生。両先生とも日本画の先生です。川合先生は、奥多摩の青梅に今、川合玉堂先生の美術館があります。
 2009年には横山大観先生の著作権が切れます。御存じだと思いますが、日本画の先生です。私も日本画を描いておりまして、日本美術院の院展の大先輩の先生になるわけです。例えば財団法人横山大観記念館というものが上野の池之端のほとりにあります。大観先生が生前、最後のアトリエとして使われていたところです。そこには先生のアトリエが保存されているわけです。先生が使われた筆や絵の具、そういったものが置いてあります。また先生が描かれた作品も置いてあります。そういうものを若い人たちが見ますと、とても日本画というものに対して理解を深めることができるわけです。美術家連盟でも、著作権の代理業務をしておりますが、大観先生の利用申請はかなり多いのですが、その著作権使用料の一部が大観記念館の運営に充てられているわけです。ですから、大観先生の著作権が2009年に切れてしまえば、そういった運営も難しくなるということは間違いありません。
 あと、海外の作家においては、上のほうに書いてございますが、ムンクやクレーという作家ですね。ムンクは一見病的な作風の作家なのですが、日本でもかなり評価されていると思います。例えばムンクの『叫び』という作品があります。これは良くご覧になることもあると思うのですが、ムンクの著作権が一昨年、切れました。その後、日本でムンクの『叫び』の部分だけをくり抜いたビニールの人形とかが出てきまして、こういうことは作家に対して失礼だと思うのです。もちろん流通や利害や経済の問題もありますが、まず作家に対して失礼なことはして欲しくないと思います。
 作家によっては、非常に命がけで作品を作る、描くわけですね。そういった中で、作家というのは、その人でなければ分からない事情というか、その人でなければ分からない観念のようなものが必ずあるわけです。そういうものを表現者として表現するわけですから、周りにいる人は、それを理解する人もいますし、家族によっては、理解されない場合もあります。例えば名前は挙げませんが、生きているときは作品が1点も売れなくて、亡くなってから再評価されるという作家の方がたくさんいるわけです。そういう方の場合に、例えば家族が犠牲になっている場合が非常に多いのです。これは美術の作家だけではなくて、文芸や音楽その他の作家の先生方、みんな、そうだと思いますが、家族を犠牲にしている部分があるわけです。ですから、そういう家族のためにも、保護期間は長いほうがいい、これは正論だと思います。
 あと、例えば先ほど芥川龍之介先生のお話が出てきましたが、芥川賞という新人の登竜門の賞があります。僕は文芸家ではありませんが、そのお孫さんが僕と同じ学校でした。その父兄で芥川也寸志さんという方が、当時、日本音楽著作権協会の理事長か、会長をされていたと思うのですが、前の30年から50年の保護期間延長のときに、30年から50年ですが、そのときに国会で答弁されています。自分は、著作権があったおかげで、学校に行けた、生活することができたということを力説されているわけです。それが当時の国会の先生方を動かしたと聞いています。当時、芥川也寸志さんというのは、父兄として学校でも良く見かけておりましたし、話をしたこともあったのですが。
 同じことを繰り返して申し上げますが、流通や経済だけで考えるのではなくて、作家の気持ちですね。それを中心に考えて頂かないと、まずいけないのではないかと思うのです。作品から作品を作るということを言われておりますが、これはアレンジであって、独創的なものではないのです。例えば美術の教育においては、最初、石膏デッサンとか、そういったものをやっていきますが、またそれについては色々意見がございまして、人の作ったものを描くということが良くないと。結局、自分の独創的なものだけをやっていく。それが一番大事なのですね。それを取り違えている部分があるわけです。ですから、作品を作品を作るのは、あくまで学生の勉強であって、それを作家がしているのは作品ではないわけですね。そういうことを良く考えて頂かないと、法律さえ守ればいいというわけではないのです。法律以上のものがあるわけです。それは何かというと、自分の独創的なものを創作していく意欲ですね。それが一番大事なわけです。それを仮に清潔度と言いますと、そういう清潔度が高い人ほど、よい作家、よい作品を作ることができるわけです。
 保護期間延長のことについてお話ししましたが、以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして御質問等はございますでしょうか。津田委員どうぞ。

【津田委員】 2点あります。僕も前回、エンドユーザーの立場からというところで御発表させて頂いたので、今回もエンドユーザーの立場から、御質問させて頂きたいのですが。
 横山大観記念館のお話で、著作権料がPDになったら、運営自体が困難になりかねないというお話があったと思うのですが、これは結構、わりとエンドユーザーをばかにした話で、エンドユーザーというのは、粗悪な安物ときちんとした著作物を見分ける力を持っているのですよ。そうであったときに、PDになっても、記念館にはおそらく人は訪れるでしょうし、ショップの商品とかを、色々な資料をもって作れるというのは基本的には記念館なりが作ったものがオフィシャルなものとかを売っているということで、それに対しては当然、収入というのは上げられるわけですから、僕は、なぜPDになったら、即、運営が困難になりかねないのかなと繋がったのかというのがちょっと分からないというか、そこの根拠を一個お伺いしたいということです。
 それと先ほど、ムンクのお話が、ムンクの人形が出てきて、そういうものを作るのは作家に失礼ではないかというお話があったと思うのですが、これは本当に僕の個人の判断なのですが、逆に、あのムンクの人形を見て、かわいいと思った若者たちが、それを通じてムンクという作家に興味を持って、その後、美術館とか、美術自体に興味を持って、ムンクという作家を知るきっかけになって、それで美術にお金を払うようになるのであれば、それはまさしく文化的意味はすばらしいことになるのではないかなと僕は思うところです。また、もっと言ってしまえば、作家に失礼というお話も、ムンクはどう思うかというのは分からない話で。もう死んじゃったわけですから。あの人形を見て、いいんじゃない、こういうのもおもしろいねと、もしかしたらムンクは言うかもしれないし、もしかしたら怒るかもしれないけれども、それというのは分からないと思うのです。本人の問題なので。なぜ福王寺さんが失礼だと思ったのかなというところを、この2点をお伺いしたいのですが。

【社団法人日本美術家連盟(福王寺)】 そうですね。まず、作家というのは、特別作家にしか分からないことがあると先ほど申し上げましたが、作品を作るときの制作態度ということがあるわけですね。例えば作家によって、一生懸命描くということが制作態度であったり、あるいは軽い気持ちで描くのが制作態度であったり、色々総合して描くのが制作態度であったりすると思うのですが、その人でなければ分からないことは必ずあるわけですね。予測というのは、色々できるわけです。ただ、予測だけではなくて、やはり作家の気持ちというか、そういうものを大事にして頂きたいということを言っているわけなのですね。ですから、僕の言ったことに、100人聞いていれば、100人の意見があるわけです。それは当然だと思うのですが、作家の気持ちを大事にして頂きたいと僕は言っているのです。以上です。

【津田委員】 横山大観記念館のほうについては。

【社団法人日本美術家連盟(福王寺)】 横山大観記念館は、確かに私が今、所属している日本画の団体で、日本美術院というのがございまして、今、僕はそこで審査員をしていて、作品も出品しているのですが、そこの大先輩なわけです。岡倉天心という創立者がいまして、その方の気持ちを受け継いで、大観先生や観山先生や春草先生が日本美術院を作られたわけです。そういった思想的な意味がとても強いわけです。例えば岡倉天心先生という創立者がいまして、9月2日が命日なのですね。9月2日の命日に、必ず同人の方がそこにお参りする。どういう気持ちでお参りするかというのは、日本の日本画というものが、アジアは一つということで岡倉天心先生が考えていたことを実行していこうという気持ちを確かめ合うことなのですね。それを一番具現化されたのが大観先生なわけです。大観先生が日本美術院の象徴であると考えておりますので、100パーセント、それで経営が困難になるとは、確かに書いてありますが、そういう意味を越えて大事にしていこうということで書いてあるわけです。以上です。

【大渕主査】 中山委員、どうぞ。

【中山委員】 おっしゃることは非常に良く分かりますし、実は私も大観記念館は好きで、良く行くのですが、確かに入場者はあまり多くなくて、多分、入場料だけではやっていけないのだと思います。しかし、良く考えてみると、仮に20年延ばしたところで、20年後には同じような財政難になるわけですね。やはり横山大観や玉堂記念館を残して欲しいというのは、私も期待します。しかしこれは著作権の問題ではなくて、まさに文化財をどうするかという文化行政の話だと思います。20年延ばそうが、30年延ばそうが、その期間経過後には、横山大観記念館をつぶしてもよいという話ではないと思います。つまりこの問題は著作権法の期間延長の問題ではなく、文化財の保護の問題であると思います。

【社団法人日本美術家連盟(福王寺)】 美術家連盟で、著作権の代理業務をしておりまして、大観先生の扱いは結構多いのですね。色々な出版社や新聞社、あと美術館等がたくさんあります。結局、そういうところが今度、無断で使うことができるわけです。そうすると、先ほどもお話ししたように、僕にとっては、日本画家にとっては象徴なわけです、大観先生は。ですから、大事にしたいという気持ちがすごく強いわけです。そういう意味合いで聞いて頂ければと思いますが。

【中山委員】 だから、20年後というのは?20年後は大事にしなくていいのですか。

【社団法人日本美術家連盟(福王寺)】 いや、20年後も、また仮にこういうふうに同じ委員会があって、僕は今、50歳ちょっとなのですが、また出席して同じことを言っているかもしれません。以上です。

【大渕主査】 では、野原委員、どうぞ。

【野原委員】 先ほど御発表の中で、芥川也寸志さんのお話が出て、芥川龍之介さんの著作権料があったから十分な教育が受けられたというお話で、国会議員が納得したと。そういう特殊な例をあげて説得するというのはいかがなものかと私は個人的には思いますが。それで質問は、著作権料の及ぶ期間が著作権者の死後50年か、70年かという問題に対して、その著作権者が、その子孫の生活のために残さなければいけないからのというのは、ちょっと違うのかなと私は思います。死後50年以上経てば子孫といっても孫、ひ孫の世代で、孫を育てるのはその両親だと思いますので、著作権料がなければその子供が学校に行けないのだったら、その親の問題だと思うのですね。その点はいかがでしょうか。

【社団法人日本美術家連盟(福王寺)】 作家によっては、非常に常識的な振る舞いをされる作家の先生方もいらっしゃいますし、あるいはそうではない先生方もいると思うのですが、色々な先生方がいるわけです、作家というのは。先ほどと同じことを申し上げて恐縮ですが、どうしても、その制限態度によってその作家の家族を犠牲にしている部分というのはあると思うのです。ですから、例えば芥川龍之介という作家がいて、早く亡くなりました。ですから、残された人というのは、その著作権料で学校に行けたし、生活できたわけです。

【野原委員】 お子さんではなくて、お孫さんのことですが。

【社団法人日本美術家連盟(福王寺)】 自分で勘違いしているところもあるかもしれませんが、とにかく作家の気持ちを大事にして頂きたいということで申し上げたのです。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それでは、ありがとうございました。

(10) レコード分野
【大渕主査】 引き続きまして、レコードの分野から、社団法人日本レコード協会の生野秀年様、お願いいたします。

【社団法人日本レコード協会(生野)】 私のほうから二項目に関して述べさせて頂きたいと思います。まず、「アーカイブへの著作物等の収集・保存と利用の円滑化方策について」でございます。
 (1)の通り、公共図書館あるいは放送事業者等といったところが進めておりますアーカイブ事業、これについては現在でも既に著作権法の制限規定、具体的には第31条第2号の図
書館資料の保存、あるいは第44条第3項における放送記録保存所での保存、こういった規定で手当てがされているわけでございます。これに加えて、著作権等管理事業法に基づく包括的権利処理、契約の組み合わせによってアーカイブ事業を推進すべきというのが基本的な考え方でございます。
 二点目といたしまして、日本レコード協会では、レコードを使用した放送番組に関しまして、放送事業者に対して一定の保存・利用方法に関する許諾の包括契約を実施しているわけでございます。放送事業者が行う放送以外の関連事業は非常に多くございますが、航空機における番組の利用ですとか、番組のPR等、今回のアーカイブに関しましては、横浜の放送番組ライブラリーですとか、川口のNHKアーカイブス、こういったところでの保存、あるいは視聴のための提供、そういったところの契約が既に実施されているということでございます。一方では、放送番組のネット利用、ブロードバンドの利用に関しましては、昨年10月から、レコードの送信可能化権について集中管理を実施しておりまして、レコード協会以外、インディーズの団体等の協力を得ながら、幅広く集中管理に努めているといった状況でございます。
 三点目といたしまして、今申し上げた集中管理事業以外にも、先月の末に新聞等で色々発表されておりましたが、6団体で歴史的・文化的資産であるSP版、金属原盤、こういった原盤のアーカイブ事業を進めておりまして、1900年初頭から1950年ごろまでのものでございますが、約7万音源を対象に、平成23年の公開を目指して取り進めています。
 こういったアーカイブ事業に関しましては、今申しましたような民間レベルでの取組み、契約、そういったことで円滑化を図るべきというのが基本的な考え方でございます。
 次に、「保護期間の在り方について」でございます。
 (1)にありますようとおり、音楽文化の普及・発展につきましては、音楽著作物(楽曲)の創作、実演の提供、レコード製作(原盤製作)、これらが三位一体となってはじめて
実現するものでありまして、この三者の保護期間に関しましても調和的に設定される必要があると考えます。現在の法律では、楽曲(著作物)の著作権に関しましては、著作者の生存中及び死後50年、保護されているわけでございます。これに対してレコードの保護期間は発行後50年ということで、実質的に著作権との間で格差があるわけでございます。レコードの保護が十分に図られていないと考えます。著作権と隣接権との間で、そもそも保護期間の格差、差異を設ける合理的な理由は何だろうかと考えた場合、そういった根拠というのはなかなか見当たらないと思うわけでございます。よって、現在のレコードの保護期間と著作権の保護期間の格差を解消するために、ぜひレコードの保護期間の延長が必要だと考えます。
 二点目といたしまして、レコードに関しましては、音を固定する物理的媒体を必ず伴うわけでございまして、そういった物理的媒体を良質な状態で次の世代、次の世代という形で受け継いでいかなければいけないと思っております。そのためには、物理的媒体のデジタル化、リマスタリング、そういった作業が必要不可欠となります。その費用負担は避けられません。デジタル化に関しましては、アナログの時代からCDの時代になったことによって、マスター自体もアナログマスターから、U‐マチックというデジタルマスターに変えなければいけない。最近では、U‐マチックというスタンダードであったマスターに関しまして、メーカー側が、もうそのメンテナンス(保守)をしないというところで、機器が変わってきまして、最近ではHD(ハードディスク)タイプのサーバーに保存すると。そういった作業を技術の進歩に伴って継続して行っていかなければいけないということでございます。保護期間の延長によって、そういったコスト負担をして、過去のレコードを商品化することのインセンティブが働く。その結果として、レコード文化の承継及び発展に寄与することが期待できると考えます。
 三点目といたしまして、保護期間の延長に関しましては、これまでも、新たな創作に支障が出るのではないかという議論がございました。これにつきまして、レコード製作者の著作隣接権は、今あるものと同じような、類似するような音を固定した場合には権利は及ばず、デッドコピーに対しての規制でございます。よって、レコード保護期間の延長を行っても、新たな創作及び準創作行為に対する制約とはならないと考えております。
 最後に、最近の音楽配信の普及によって、レコード製作者は過去の音源を含めて、店舗のスペースの制約ですとか、時間的な制約とかを超えて、ユーザーに対して音楽を提供することが可能になったということで、レコード自体の経済的価値は高まっていると考えます。現在、世界では21カ国、次の表で記載しておりますが、21カ国で50年を超える保護期間を採用しているということです。世界の中で日本が第2位のレコード売上を占めるということ。それから、映画の著作物については、2003年に50年から70年という形で延長されたわけですが、そういったことも参酌しながら、レコードの保護期間の延長もぜひ検討頂きたいと考えます。以上でございます。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして御質問等はございますでしょうか。津田委員、どうぞ。

【津田委員】 この後、多分、田中先生の御発表ともちょっと関わりが出てくると思うのですが、レコード協会さんは1942年に作られて、その後、52年から統計をとられていると思うのですが、実際に固定されてから、切れているものが出てきているわけですね。現在、2007年という時点なので。実際に切れた初期のころの音源で、今も経済的価値というか、継続して出されているものの割合はどのぐらいなのかは把握されていますか。

【社団法人日本レコード協会(生野)】 まだデータに関してはとれておりません。

【津田委員】 それを積極的に調査して頂いて、この委員会にフィードバックして頂くということは可能なのでしょうか。

【社団法人日本レコード協会(生野)】 検討させてもらいます。

【津田委員】 よろしくお願いします。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それではありがとうございました。

(11) ソフトウェア分野
【大渕主査】 引き続きまして、ソフトウェアの分野から、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会の久保田裕様、お願いいたします。

【社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(久保田)】 ソフトウェア著作権協会の久保田でございます。私のほうは、委員としてではなく、今回、会員会社にアンケートをとりました結果を客観的に報告したいと思います。
 皆さんのお手もとに、資料11で行っていると思いますが、当協会は、御存じのようにプログラムの著作権保護団体であると同時に、ソフトウェアという言葉になりますと、プログラムプラスデータということになります。また今回、法人ということと自然人ということから言うと、私どもの会員は法人が中心といいますか、法人となっております。そういった観点からと、もう一点は、ゲームソフト等の映像を伴うものは保護期間が70年ということになっています。そういった背景の中で、こういった調査をしたということがございます。
 また、権利保護に関しまして、保護期間との関係や、色々な問題が今抽出されているわけですが、事務局としましては、保護期間としての純粋な問題として問いを出しています。
 その結果を報告させて頂きますと、まず304社の会員会社がいるのですが、132社のほうから、何とか回収をいたしました。有効回答数を見ますと、ビジネスソフトが61社、ゲームソフトが29社、映像関連、これは映画会社等も入っておりますし、アニメの製作者も会員にいるということから、13社入っております。そして書籍のほうは、電子出版物という関係から、CD-ROM等で提供している、また書籍というものも発行されているという会社さんが12社ありまして、その他につきましては、賛助会員である弁護士事務所とか、DRM等を供給しているといった人たちがいらっしゃいます。これが17社ございました。
 そして2番目に移りますが、過去の著作物の利用の円滑化方策につきましてですが、これは過去の著作物を自社の製品や広告等に利用する際に、許諾手続等で困ったことがありますかという問題と、裁定制度について聞きました。その結果、ここに書いてあるように、裁定制度を利用したことがある会社というのは1社もございません。そして、許諾手続につきましては、これは色々とどこの団体でもあるという程度のレベルの情報しか収集できませんでしたので、ここに時間を割くのはやめたいと思います。
 続きまして、中心になります保護期間の延長の問題であります。見事に積極的な意見と反対の意見がほぼ同数出まして、と同時に保留というものが4分の3ということで、まさに現場は今、権利者として振る舞うのか、ユーザーとして──ユーザーといっても、エンドユーザーではなくて、利用者としてのユーザーということで、コンテンツ、それぞれクラシカル・オーサーさんの著作物を利用して、ゲームソフト等を製作する場合の、ちょうど股裂き状態といいますか、どう判断したらいいのか、また収支はどうなのかというようなことが、まだ具体的にゲームメーカーをはじめとして、コンテンツメーカーでは、そろばん勘定もできていないということのあらわれかと思います。
 具体的にお話をしますと、まずビジネスソフトウェア、これはプログラムの著作物に一番近いところでありますが、積極的な意見と反対意見が同数になっております。保留する多くの意見が、コンピュータソフトウェアは、現行のままの50年、70年も使用されることが想定できないということが挙げられております。我々の業界は日進月歩どころか、秒進分歩のような状況ありまして、ドッグイヤーの中で、本当にプログラムなるものがそんなに長いこと使われるのかと。一方、プラットホームのほうも、どんどんプレイステーションをはじめ、ゲームのプラットホームは進化していく中で、そういったものに固定された形で出されるものが中心になろうかと思いますが、この点につきましては、プラットホームまでなくなってしまうでしょうと。そうなったときに、データとして、そのときにできている新しいコンピューティングの中で、そのデータを再利用するというようなことは考えられるということから、1つの意見としましては、明確に再利用するために、データというのは重要になるという意見もございました。
 そういう意味では、具体的な意見を開陳しますと、賛成の意見としては、著作者、著作物の権利がより保護される方向に進むのは望ましいと。まさに70年を唱えている人たちと同じ意見となっております。また著作者の死後50年経過後に著作権がなくなった場合、乱用などによって混乱が生じるのではないかという意見がございます。一方、反対の意見なのですが、コンピュータプログラムの場合、長く保護しても陳腐化するだけだけなので意味がない。こういう意見というものはかなりあろうかと思います。保留につきましては、反対の意見と非常に似通ったところで、この保留の意見が出ているということが特徴的に言えようかと思います。また著作権法の1条に戻って、保護期間の延長による著作権保持企業側のメリットは多いと思われるが、著作物をパブリックドメインにすることによって、文化の発展のメリットも企業としては過小評価できないと。こういった意見も保留の中には多く見受けられます。
 続きまして、ユーザークリエーター的側面にいますゲームソフトウェアというのは非常に分かりやすいのですが、まず積極的な意見(賛成意見)が反対意見を上回っています。ここはビジネスソフトと異なったところであります。また、ほぼ3分の2が保留をしているということですが、具体的にどんな意見が出ているかということについてお伝えします。
 具体的な意見としまして、賛成の意見は、著作物の場合、創作して時間が経過してから良い評価を受ける場合もあって、少しでも保護期間が長いほうが良いと考えられる。これは70年の立場に立っている人と同意見かと思われます。またハードウェア等の技術革新に伴い、昔のコンテンツを再利用できる場合も増え、従来より長い期間にわたって著作物を有効活用できる可能性が高まっている現状、著作権保護期間の延長を希望すると。また、欧米諸国との保護期間にそろえたほうがいいと。この辺は具体的に、なぜそうなのかということにつきましては、なかなか説得力のある意見というのは出てきているわけではないのですが、イメージといいますか、そういう感覚で答えていることです。著作権者の権利は基本的に保護されるべきものである。海外でも広くビジネスを行っているため、米国との法令の異なることは、ビジネスが複雑化し、また著作権管理上も好ましくないと考えていると。これは色々な意見が出ておりますが、現に権利処理をする中で、そういう問題が起こってくるのではないかというリスクがあるのではないかということから、こういった意見が言われております。一方、反対の意見ですが、保護期間が長くなることにより、文化の発展に寄与するとの目的から外れるのではないでしょうか、過度の保護期間は、本来のコンテンツ利用を阻害する要因となると。そして、保留なのですが、まさに混乱しているといいますか、収支のバランス等、まだビジネス的に判断ができていないという側面が代表的な意見かと思いますが、メリット、デメリットがあり、判断できないと。ここが保留のほうの大きな意見となっております。
 その他の意見も、映像、書籍、その他ということなのですが、これはそれぞれの団体さんのほうで取りまとめた意見がありますので、矛盾している意見等もございましたので、あまり具体的にお話をするつもりはないのですが、まず一つ、御報告という意味では、賛成の中に、法人や人間の寿命を考慮すれば、著作物製作のために投じられた資金・労力の償却及び再生産のためにも、相応の保護期間延長が認められなければならない。ただし、著作物公表後のある時期を境に、著作権使用料値下げや、使用規制の緩和が段階的に行われ、最終的に著作権消滅に至ることが理想であると考えると。個人的な理想を言えば、保護期間は約1世紀が妥当と思うというのもございました。また反対のほうは、単純に、50年間、他の人たちに利用されてきた著作物は、50年を超えたら全人類の共有の財産として考えたい。70年は長過ぎると。こういった意見もありました。そして、保留のほうも読み上げておきますと、「権利者と利用者の両側面をあわせ持っており、現状では賛成しかねる。しかし、著作権者の強い要望と国際的な整合性を考慮すると反対もしにくいのが実情。戦時加算のことも含めて、60年に延長という選択肢もあろうかと思われます」。もう一つ、「現在のように改変や複製が簡単にでき、著作物の発表が誰でもできる環境では、保護期間後に、それを利用したサービスが容易にできます。別途、保護期間を過ぎたコンテンツの扱いに関する検討が必要ではないかと思います」。
 以上が当協会のアンケートによる報告となります。結果、これは私は個別に、理事長をはじめ、理事の方にヒアリングをかけたものを加えておきますと、慎重な対応をお願いしたいというところにつきましては、ほぼメッセージが一致するのかなと思います。
 それから、協会の立場として、先ほども質問いたしましたが、団体という言葉の中と、法人という立場からいいますと、法人は利益を追求していくためにあるわけですから、当然、利益が一番取れるということを前提に考えると、そういった保護期間の問題の是非とは別に、ビジネスがどのようになったら、一番最高値を取れるかということを考えて、経済活動を行っているということであります。それと我々のような権利団体や管理事業者団体というものを一緒に語ることによって、どんなことが起こっているかということを一言言いたいと思います。
 私は常々、委員としても言っているのは、著作権法の今の制度と、津田さんが良くおっしゃるエンドユーザーの著作権法に対する認識のギャップが最も怖いわけであります。そういう中に一つ、ブログ等でも意見を発しておりますが、ネット等を見ますと、団体という言葉が都合良く使われていて、権利者でもない、また権利者を代表する団体でもないような言われ方の中で、いつも悪者役をやるのですね。そういった間違った認識のもとに議論が進むことによって、結局、実のある議論にならないと。そういう意味では、先ほども協会が出した声明等のコンセンサスを得た情報と各権利者として参加している人たちの意見というところにもギャップが出てくるという中で、この団体という言葉の使われ方も具体的に示していかないと、一般のエンドユーザーの人たちは、そういった言葉を非常に都合良く使って、また著作権制度について認識が間違ってしまうということがありますので、こういった議論をするときには、団体とか、法人とかということについては具体的な説明を加えて、情報発信をして頂きたいなと思います。以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして御質問等はございますでしょうか。はい、平田委員、どうぞ。

【平田委員】 大変、実感の伴った有意義な報告をして頂いたと思うのですが、このアンケート調査の際には、どのぐらいメリット、デメリットを書かれて、調査をなさったのですか。

【社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(久保田)】 我々のほうでは書いていません。

【平田委員】 全く反対か、賛成かということも。

【社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(久保田)】 はい。

【平田委員】 それで、こんなに具体的に、皆さん、考えてらっしゃるわけですか。

【社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(久保田)】 はい。たくさん意見も頂いております。

【大渕主査】 よろしいでしょうか。それでは、ありがとうございました。

(12) 経済学的立場
【大渕主査】 では最後の御発表でありますが、引き続きまして、経済学の分野から、慶応義塾大学の田中辰雄様、よろしくお願いします。

【慶応義塾大学(田中)】 それでは最後の発表になりますが、慶応大学の田中辰雄と申します。経済学の立場から、簡単に説明したいと思います。長丁場で頭がお疲れのことと思いますが、気分を変えまして、パワーポイントでやります。多少、アニメーションもありますので、頭を緩めてご覧下さい。
 まず、経済学の立場といいますが、基本的には同じでありまして、創作者に誘引を与えて、できるだけ創作物を作り出したい。しかし同時に利用者の利益も考えて、文化の発展にも寄与したいと。この2つをバランスさせるという点です。違うのは、定量的にやる。この2つをバランスさせるわけですから、両者をできるだけはかろうという立場を取ります。それで、これまでのところ、どういうところが言われているのかということを整理し、最後に私の意見を述べるという形にしたいと思います。
 基本的には、経過年数がずっとありまして、縦軸にとりましたのは、売上ないし利用者の数であります。創作物というのは、世に出てから、その後、次第に売上が下がっていって、利用者の数が減っていって、あるところで絶版なり何なりして消えるというパターンを採るのが通例でございます。今だと50年まで権利があり、それを70年まで延ばしますと、この間の部分が言ってみれば、権利を延ばしたことによる利用者の増加、あるいは著作者の収入の増加という形になります。この増加によって、これが新たな創作の誘引となり、新たな創作物が──赤で書いておりますが──出てくるといううのが、そもそもの創作の誘引でございます。一方、利用者の利益というのがございまして、これも色々な方が言われているところでございまして、自由に利用できることの文化的な価値があって、先ほど劇作家の方から、許諾されないのが一番困るというものがございます。ベケットの作品で、そういうことであるらしいですが、そういう議論がございます。
 もう一つは、理由づけで比較的書かれるものとして、利用方法の革新。パブリックドメイン化されることによって、新しい利用方法が出てきて利用者が増える。あるいは、これも何度も出てきましたが、再創造が可能になりまして、新たな創造の糧となるというのが出てくるわけです。今回は、こちらの2つの注目しました。これは絵にして書きますと、50年で切れれば、この後に新しい利用法の革新が出てきまして、新たな波が、もう一波、訪れるというような形で絵に書くことができます。もちろん、これが大きければいいのですが、小さいかもしれません。この辺は量の問題になりますから、これを調べてみましょうというのがここで課題になります。
 なお、確認しておきますと、この議論にしますと、何度も出てきましたが、遡及適用にあまり意味がないことにはなります。もう既にあるものについては、創作の誘引がありませんから。これは金さんをはじめとして、何人か指摘された通りです。
 それと、この黄色い部分を誰が取るかという問題を議論することがありまして、これももちろん当事者にとっては大事な問題なのですが、社会全体にとってみますと、誰が取るかという問題は、あまりエッセンシャルではなくて、もう既にあるものですから、問題なのは赤いほうですね。新しい創作物、あるいは新しい利用方法、これは社会全体にとってプラスが増える部分ですから、そちらのほうを見るのが、社会全体にとっては一番いいだろうということで、この2つを調べてみましょうということです。
 まず、創作者への誘引のほうなのですが、これは今、一番調べられているのは書籍の例でございます。書籍は生前はある程度部数がありまして、死後50年間でずっと下がってきまして、これは延長による効果ですね。これが創作への誘引になるわけです。これがどのぐらいかということは、幾つか研究されておりまして、現状では、どうやら大体、全収入の中で、この赤い部分が占める比率は2〜3パーセント程度です。この数字は、なぜこう低いかといいますと、大半の創作物はそれ以前に寿命を終えて、絶版して、消えていきます。残るものは、現時点で利用できるものは大体10パーセントに足りないと。更にそれを収入に直しますと、更に減りまして、大体2〜3パーセントぐらいだというのが大体の推定値です。これを割り引いて現在価値に直しますと、これも割引の仕方にもよりますが、大体1〜2パーセントぐらい。もっと標準的な値を使いますと、1パーセント以下という値になります。このぐらいの収入増があるということです。これは創作者への誘引への効果です。
 では、パブリックドメインのほうはどうか。はかりの右側のパブリックドメインのほうの大きさはどれぐらいかということなのですが、利用方法の革新は色々ございます。これまで出てきたもので代表的なものを示しますと、前回お話がありました青空文庫の例がございます。これは要するにインターネットで本を読むという新しい利用方法を開拓したという革新だったわけです。閲覧数が、青空文庫のほうからデータをもらって見せてもらいましたところ、6,000作品の中で上位1,000作品を見ますと、1年間で450万回見られていました。450万という数字を目に留めておいて欲しいと思います。それから、絶版本がかなりその中で復活しております。それから、海外利用や聴覚等のハンディキャップを持っている方も利用できる等々の様々な利用があります。
 具体的にどんなものがあるかといいますと、ざっと見てみますと、その後ろのページにありますが、上位の作品は、夏目漱石とか、太宰治とか、芥川龍之介になるのですね。大体、年間の閲覧数は5万〜8万人ぐらい見ています。これは今も文庫で売られていますから、言ってみれば、文庫の部分を多少は食っているはずです。これでただで見られるから買わないという人も思いますが、総和としては多分、増えている可能性が大きいです。読者層が拡大しているということが予想されます。それから、下に書いてありますのは、絶版本です。絶版にも、このように色々ありますが、絶版になってしまったものがありまして、これもかなり何千人かの方が見られているということがあります。そういう形で、基本的にそれなりに見られているということがわかろうかと思います。
 それから、もう一つの例は、今回は議論の対象になっておりませんが、映画です。映画は議論の対象外ですが、ちょうどうまいぐあいにパブリックドメイン化してしまった映画が大量に格安DVDという形で世の中に出ておりますので、それが大体どれぐらい拡大したかということを調べました。現在、月に大体15万本ほど出ているようです。ですから、年間に直すと180万本ぐらい、というのは180万人がそれを見ているということです。それが、どれぐらいの大きさになるかということで、一番売れている『カサブランカ』という映画を調べましたら、大体、これは累積の売上が、業界の人の推定によりますと、6万本ぐらいだそうです。これはどれぐらいの数字かということを比較するために、日本全国におけるレンタルの回数を推定しますと、年間5,000回を超えるらしいです。これは出て数年ですから、レンタルをはるかに上回るユーザーが登場してきて、それを駅からの帰りに買って、家で見たということです。このような革新は書店・街頭で売って、ビデオ屋に来ない顧客層、大体40代、50代、60代の客層を開拓したということです。
 このように見ますと、これは著作権料を使わず、ただで儲けている太いやつと言われたら、確かにその通りなのですが、ただ、これは得べかりし利益ではないということにご注意下さい。つまり、著作権者がもし権利をホールドしていたならば、この市場、青空文庫とか、格安DVDは出てこなかったですね。ですから、言ってみれば、パブリックドメイン化したことによって、新たな利用者や新たな事業者が登場して開拓したという意味で、パブリックドメイン化の利益と一応考えておいたほうがよろしいかと思います。
 それからもう一つは、創造のサイクルというものがあります。創造のサイクルについては、これは何度も次の作品に糧になるという議論で、たくさん例が挙がっておりますから、ここでは繰り返しません。これはホルストの『木星』の例とか、先ほど別役先生のほうからお話がありましたが、『銀河鉄道の夜』ですね。これはアニメ版でありますが、戯曲版もたくさん出ております。これは創造の誘引がどれぐらいあるかということも、ある程度リストアップすることができますが、比較的数が多いということの例としまして、シャーロック・ホームズの例を挙げたいと思います。
 実際に著作権が再創造を阻害していないという議論もあるのですが、そんなことはなくて、やはり阻害している例はあるようです。エラリー・クイーンの『シャーロック・ホームズの災難』という作品があるのですが、これはコナン・ドイルの遺族が許可を出さなかったために絶版となりました。日本では『名探偵ホームズ』という宮崎さんのアニメがありまして、危うく引っかかりそうになったという歴史があります。それから、この数がどれぐらいたくさんあるかということなのですが、これはあるシャーロック・ホームズのシャーロキアンの人たちがたくさん集めているところがありまして、それを調べたのをグラフにしたものですが、このようにたくさん出てきまして、保護期間は1980年ぐらいで切れたのですが、切れた時期には厳密には一致していませんが、最近になってたくさん出ているという状態があります。ですから、相当程度出回っているということは確かなようです。
 それから、パブリックドメイン化の利益のもう一つの量的に書かれるものとしては、これも何度かここで議論になっておりますが、ネットワーク化ですね。デジタル化によって、一般大衆が総クリエーターになって登場してきております。これはブログやホームページ、それからSNS等で、自分の作品を発表するということが盛んに行われております。これは歴史的な事件だと言われております。確かにその通りでありまして、今回、定量化ということで数を調べてみますと、大体1,000万人ぐらいに達していると言われます。こういう人たちは、最初は全くゼロからは創造しておりませんので、もし何かやるとすると、音楽はカバーから、演劇も他の脚本から、小説なんかは、何かを下敷きにして、世界観を借りて、それがアナザー・ストーリーを生むと。そういうようなことをやってやることが多いわけです。そうしますと、パブリックドメインを使えば、著作権法に触れずにすることができますから、言ってみれば、パブリックドメインの価値が高まっているということになります。だから、パブリックドメインという過去の歴史的な倉庫にどんどん加えながら、我々が先に進んでいくということですので、そういうパブリックドメインの価値は高まっているだろうと思います。
 そこで以上のことを踏まえてまとめてみますと、全体がずっと流れてきまして、最後の部分を50年から70年に延ばしますと、創作の刺激になる。一方、これをしないで、パブリックドメイン化すると、ここのところで新たな利用方法が出てきて、それから再創造も行われる。これを天秤の上にかけて比較するということをやってみました。
 今、この数字を見た上でどう判断されるかということは委員の方の御判断だと思いますので、私はここで発表を終えてもいいのですが、私の意見はどうだということを言わなければ済まないと思いますので、そこで私の意見を以下に述べます。
 そうすると、この1〜2パーセントというのは、やはり低いと思わざるを得ないですね。書籍の印税が10パーセントから10.2パーセントに上がったら、よし、もう一冊、書こうかと思うかというと、ちょっと常識的に考えて思いにくい。あるいは、そういう方もおられるかもしれませんが、平均的な値、量としてはあまりに低いのではないかと思います。それに対して、パブリックドメイン化のほうは、これは私の意見だけではなくて、アメリカで、この議論で話題になっているノーベル賞経済学賞を含む17人の経済学者がほぼ同様な見解を出して、最高裁に意見書を出しているのですね。経済学者というやつはなかなか意見の一致しにくい人種でありまして、「3人の経済学者に政策を諮問すると、4つの答えが返ってくる」とチャーチルが嘆いたという話があるように、非常に意見が一致しにくい人種なのですが、それが17人も一致したといって、みんな、経済学者自身もびっくりしたということがあるのですが、それがかなり一致した意見だったということですね。もちろん異論は常にあるのですが。経済学者ですから。
 一方、パブリックドメイン化のほうの意見は、確かにどうも存在しているようです。私も調べてみて、こんなにいたのかということで驚いたのですが。確かに再創造もありますし、青空文庫の例もありますし。DVDは今回の議論ではありませんが。それから、ウェブ発信もどんどん増えていると。そのように並べますと、両方を天秤に掲げて、重さを見ますと、どうも右側のほうが重そうだというのが現時点での私の見解です。だから、私の見解としては、延長しないでおいたほうが社会のためになるのではないかというのが私の意見です。
 最後にもう一つ、経済学者ならでの見解を御提案をしたいということで、一つ追加提案ということをここに示してあります。
 かくして延長には反対ではござまいす。比べた結果ですね。ですが、もしもどうしてもするのであればという場合、両者の主張を接合する方法はないかということです。権利者の遺族の方が、現在の権利を保持したい、あるいは生活を保ちたいと。そういう気持ちも分かります。ある程度は分かります。それをどうしても守りたいのであれば、死後50年以降の延長分については、緩い報酬請求権化するというアイデアは一つ可能かと思います。
 緩い報酬請求権とはどういうことかといいますと、非営利の利用は自由・無償でできる。したがって、青空文庫とか、あるいは障害者の方の利用とか、図書館の利用とか、これは全部、自由で無償でできると。営利でも自由にやって構わない。もちろん格安DVDもやってもいい。ただし、その場合は収入のうちの数パーセントを必ず払わなければいけない。罰則付きで、それを義務づける。そして、再創造も自由・無償できるということにしておきます。こうしておけば、先ほどの展開分のかなり部分は、権利者がホールドすることができます。その上でパブリックドメインの利益もある程度はというか、相当程度は確保することができるというのが1つの案ではないかと申し上げます。以上です。

【大渕主査】 ありがとうございました。では、質疑応答に移りたいと思います。ただいまの御発表に関しまして御質問等はございますでしょうか。平田委員、どうぞ。

【平田委員】 田中先生の意見は、国際協調については一切関係ないということですか。

【慶応義塾大学(田中)】 あまり必要ないと思っています。

【平田委員】 分かりました。

【大渕主査】 他にはよろしいでしょうか。それでは、ありがとうございました。
 9時から12時半ということで、3時間半というほぼ2回分の非常に長時間にわたり17名という非常に多数の方から、ヒアリングを頂くことができました。人数のほうも多かったので、時間内におさめるために、私も前回同様、個人的にはもっとじっくり聞きたいという心を抑えつつ、タイムキーピングに徹しさせて頂きましたが、その辺のところはご容赦頂ければと思います。
 それで次回は前回と今回のヒアリングを踏まえまして、検討課題の整理と議論の進め方について審議したいと考えておりますが、何かこの段階で、特に御意見等はございましたら、お伺いいたしますが、いかがでしょうか。
 特段ないようでしたら、本日はこれぐらいにいたしまして、事務局のほうから、連絡事項等をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 次回以降の日程でございますが、参考資料3を御覧下さい。第4回は6月13日(水曜日)14時〜16時、場所は三田の共用会議所で予定をしております。今、主査から御説明がございましたが、検討課題の整理と今後の審議の進め方についての議論ということで、事務局の方でヒアリングで出された意見をまとめた資料を用意したいと思っております。
 その他、第5回以降の日程は御覧の通り、時間は10時〜12時、三田の共用会議所を予定しております。第7回の場所は未定ですが、決まりましたら、改めて御連絡したいと思います。以上でございます。

【大渕主査】 それでは、これで第3回の小委員会を終わらせて頂きます。本日御多忙の中、ヒアリングに御協力頂きました皆様方には、委員を代表いたしまして改めて御礼申し上げます。本日はどうもありがとうございました。それでは皆様、お疲れさまでした。

─了─

(文化庁著作権課)


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