特別支援教育について

資料6 専門家チーム報告書の作成例

<例1>
学校名 小学校 2学年 組 性別 男子 氏名 担任
1.判断の結果
 学習障害である。
 主に,読むことと書くことに特異な困難がある。
2.判断の根拠
A.知的能力の評価
[1] 全般的な知的発達
知能検査を実施し,全般的な知的発達は正常範囲にあることが確認された。
[2] 認知能力のアンバランス
 言語理解力は年齢平均的水準にあり,言語の聴覚的な情報を処理する過程は意味理解,記憶,連合,表出においても年齢相応に発達していることを示している。一方,視知覚統合力は年齢からすると明らかに不十分であり,視覚認知,その記憶,体制化,表出において劣っている。本児の場合,刺激を同時に処理することは非常に不得手であり,それと比べて順序立てて継次的に処理することの方は得手とする。したがって,視覚的情報を同時的に処理することを求められる時に最も困難を示す。しかし,継次的な情報処理を用いることで学習が補完されていることも予想される。また,視覚−運動協応性の稚拙さは顕著である。
B.国語・算数の基礎的能力の評価
 観点別到達度学力検査を実施し,国語についてはおおよそ1年生段階の到達度,算数の計算についてはおおよそ2年生段階の到達度であると判断された。また,以下項目で学習困難な状況があり,主に国語において特異な困難が認められた。
「聞くこと」おそらく注意が散漫なため,指示理解が不正確になりやすい。複数の指示は聞き漏らしが多い。
「話すこと」順序立てての話が苦手である。単語の想起が困難な面がある。
「読むこと」ひらがな,漢字の読みでは,逐字読みや読み間違いが見られる。文章の音読になるとさらに困難が目立ち,読みの速度は遅く,読み間違いも多くなる。読解問題は読まずに回答してしまう。
「書くこと」文字の形や大きさなどが整わず,書字にあきらかな困難がみられる。ひらがなよりも漢字でより困難が目立つ。ひらがなは間違いなく書くが,かたかなは完全には習得できていない。漢字は1年生の配当のものも習得できていない。文字の模写に苦労している。
[計算]数の概念は獲得している。計算は速く,正確である。ただし,筆算では桁がずれて誤ることがある。
[図形]形の弁別はできているが,図形の模写は非常に苦手である。定規等の使用が困難。
C.医学的な評価
 読み書き障害の疑い。発達性協調運動障害。視覚運動協応に顕著な困難。
D.他の障害や環境的要因が直接的原因でないことの判断
[1]他の障害や環境的要因
 保護者との面談から,本児は発達期において,始歩や始語に遅れがみられた。その後も運動面の発達は同齢児と比べて遅かった。保護者は本児を愛情豊かに養育されてきたと思われる。本児なりの発達を見守る姿勢と,同時にそれを促進するような支援や教育を考えたい意向とをもっている。環境的には学習を阻害すると考えられる要因は見当たらない。
[2]他の障害の診断
 医学的には発達性協調運動障害をもつと診断された。観察からも,いわゆる不器用さは顕著であった。これは学習上の問題を生じる一要因となっているだろう。しかし,本児の学習上の困難さはその認知機能のアンバランスが最大の原因として考えられる。
3.指導を行うにふさわしい教育形態と配慮事項
A.教育形態
(1)通常の学級における指導を基本とする。
(2)教員,通級指導教室での指導,個別による指導などを行う。
B.指導上の基本的配慮事項
 本児の認知機能の特徴及び基礎的学力の状態からいくつかの留意点があげられる。
(1)言語理解力は年齢相応であることから,指示理解にみられる困難は本児の注意力の問題によるところが大きいだろう。重要な情報は,注意を喚起し,注意の集中を確認しながら与えることはが必要である。
(2)視覚統合力が劣っていることから文字や図形の認知(把握)に弱さがある。加えて,運動協応性の不器用さから,書字や作図にはかなりの困難をきたしている。従って,一連の課題には,視覚的情報の内容 と提示の仕方に工夫を配するとともに,耳から入る言語情報を付加することが有効となるだろう。
(3)本児の外部からの情報の受け取りや対応の特徴から,課題は部分から全体へ,順序性の重視,聴覚的 ・言語的手がかり等を利用した学習方法が有効になると考えられる。
C.教科に関わる指導方法
<国語>
[聞く]声かけ,合図などの注意喚起に留意する。
[話す]話す事柄を整理させる。(内容の柱・その順序の構成等話し方の技術の習得)
[読む]親指と人差し指で単語や文節等をはさみ,語句をまとまりとして読む読み方を活用する。聴覚的記憶力が良好なので,文や詩の暗唱,斉読の教材を活用し,読むことへの意欲を高める。
[書く]文字サイズとマス目を配慮したノートを活用する。
漢字学習については,文字の構成部分を筆順に従ってリズムよく唱えながら覚える方法での学習が有効である。
ノートのマス目と合わせたマス目黒板を活用する等して,板書の視写を助ける。
<算数>
[図形]ノートのマス目と合わせたマス目黒板を活用する等して,板書の視写を助ける。
D.その他の配慮事項
(1) 個別指導の時間の設定
 書字,読字については,特に担任等による個別指導が有効と考えられるので,全体の学習環境を考えながら,検討を要する。
(2) 通級による指導
 利用可能であれば,個別的な指導内容を設定する。
(3) 保護者への支援
 学習の要点や指導上の工夫についての情報の提供等を通して家庭学習との協調を進める。保護者への支 援を考慮することが望まれる。
(4) 環境整備
 1.一斉指導場面での座席の配慮
 2.視覚的な言語環境を整備する(本人が読みやすいように,文字情報の提示の仕方を工夫する)。
(5) その他
 本児の中に形成されつつある学習へ向かう姿勢を損なうことなく,学習を進めていくことが必要である。そのためには,苦手領域の補習を強調するのではなく,より得手とすることを盛り込み,学習及び学校生活への意欲を育てていくことが大切である。ワープロの活用等代替システムにも触れさせる。
4.再評価
(指導方法及び配慮事項による教育的対応の効果の有無,並びに引き続き特別な支援や配慮を要するか否かを,必要な指導期間を経た後に評価する予定である)
<例2>
学校名 小学校 5学年 組 性別 女子 氏名 担任
1.判断の結果
 学習障害と判断される。
 算数と書くことに特異な困難がある。
2.判断の根拠
A.知的能力の評価
[1] 全般的な知的発達
 知能検査を実施した結果,全般的な知的発達は正常範囲にあることが確認された。
[2] 認知能力のアンバランス
 認知能力はWISC‐Ⅲ検査及びK−ABC検査によって評価した。
言語理解力は,年齢相応の発達水準を示しており,言語的な情報を処理する過程(理解,表出面ともに)は良好である。一方,視覚的な情報を認知すること自体には明らかな問題はみられないが,空間操作能力においては問題が認められる。また,聴覚及び視覚的短期記憶の問題も疑われる。空間操作や記憶面の難しさに対しては,言語的な手がかりを用いることで学習が保障されていることが予測される。思考能力は長けているが,全体的に処理を要するのに時間がかかるようである。
B.国語・算数の基礎的能力の評価
 観点別到達度学力検査を実施し,国語については,おおよそ4年から5年生段階の到達度にあるが,漢字を書くことについては2学年以上の遅れが認められる。また,算数においては、全般的に1〜2学年程度の遅れがみられ,おおよそ3年生段階の到達度であると判断された。
「聞くこと」:特に困難は認められない。
「話すこと」:口数は少ないが,こちらの問いに対する応答は的確である。
「読むこと」:単語及び文章とも読みに関する速度,正確さに目立った問題はみられない。読解も良好である。
「書くこと」:特に,漢字を書くことに困難がある。3年配当の漢字でも正当率50%に満たない。書字は丁寧である。
「数と計算」:加・減・乗法については正確に行うことができるが,間に0が入る計算,余りのある除法については手続きが習得されていない。但し,演算方法の選択,立式は正確に行うことができる。
「量と測定」:単位の概念が安定していない。また,角度についての問題も難しい。
「図形」:二等辺三角形,ひし形,平行四辺形等の図形の基本的な性質が理解されていない。
「数量関係」:グラフや表のグラフや表の読み取りが難しい。
C.医学的な評価
 訴えからすると,発達性計算障害が疑われるが,読み書きの問題の有無を調べる必要がある。ADHDあるいは広汎性発達障害等は疑われない。現在まで脳機能検査は受けていないので,とりあえず脳波検査を受けることを勧める。やや不器用であるが,発達性協調運動障害とは診断できない。
D.他の障害や環境的要因が直接的原因でないことの判断
[1] 他の障害や環境的要因
 保護者との面談から乳幼児時期の運動,言語の発達はゆっくりではあるが,遅れはみられなかった。但し,ことばの理解は十分と思われる反面,無口でことば数が少なかった。また,母親の後追いや人見知りが強く,母子分離の面では未だに不十分なところがある。就学後,読み書きの問題が出てきたので,家庭で保護者(母親)が学習をみてきた。家庭環境面で,生活上の変化に伴い,本児にも心理的負荷が掛かっていることは予想される。しかし,学習上の困難はその発現時期と内容から判断して,これらの環境要因が直接の原因となっているとは考えにくい。
[2] 他の障害の診断
 学習上の困難を生じると予想される疾患,その他の障害は認められない。
3.指導を行うにふさわしい教育形態と配慮事項
A.教育の場と形態
(1)通常の学級における指導を基本とする。
(2)必要に応じて加配の運用,個別による指導等を行う。
B.指導上の基本的配慮事項
 本児の認知能力特性及び基礎的学力の状態からいくつかの配慮点が挙げられる。
(1)文字や図形の操作,記憶に弱さがある。これらの力を要する一連の課題には,提示の仕方や内容説明の際に,工夫を配することが考えられる
(2)本児の認知能力特性から,言語的な手がかりの利用が有効と思われる。また,身近な生活体験と関連付けて示すことも有効であろう。何かを記憶する時には,単に繰り返し覚えさせるのではなく,意味付け等することが重要である。
(3)反応はゆっくりとしているが,内容を理解し,推論を進める能力はあるので,本児が情報を処理するに足る時間的余裕も配慮する必要があろう。
C.教科に関わる指導方法
(1)国語
 国語に関しては,本児の得意とする領域なので,現在の達成度の維持を図るとともに,有能感を味わわせる機会を多く設定する。
 但し,漢字学習については配慮を要する。具体的には,ただ単に繰り返し書いて覚えさせるというやり方ではなく,意味付けを行う等して,記憶することへの負担を考える必要がある。
(2)算数
「数と計算」:現時点では,大きなつまずきはないが,間に0が入った計算,余りのある除法に関しては,計算の手続きが安定していないので,これらについての手続きを再度確認にする必要がある。
「量と測定」「図形」「数量関係」:これらのつまずきについては,まず,基本的な概念が正確に習得されていないところが多々みられた。これらに関しては,目で見て覚えたり,頭の中だけでイメージしたり,作業や活動を通して概念を導き出したりするよりは,「言語的な説明を用いて,身近な体験等と関連付けて」説明をした方が,より本児の理解が促進されると予測される。これから新たに学ぼうとしている課題(概念)については,それぞれことばで明確に定義付けを行い,1つずつ整理することが必要と考える。
D.その他の配慮事項
(1)個別指導(放課後等)
 特に算数と漢字学習についての個別もしくは配慮指導が望まれる。
(2)保護者への学習情報の提供
 家庭での補習学習への助言,また,必要に応じて教材(宿題)の提供を行うことが考えられる。
(3)その他
 本児は,とてもおとなしく,自分から積極的に活動することは少ない。しかし,親しい友人と一緒であれば活動範囲も広がるため,グループ編成等で配慮を行い,本児の心理的な安定を確保することが考えられる。
4.再評価
 (指導方法及び配慮事項による教育的対応の効果の有無,並びに引き続き特別な支援や配慮を要するか否かを,必要な指導期間を経た後に評価する予定である)

※資料5 「個別の指導計画の様式例」は,下記の機関・個人が作成したものを参考に修正を行ったものです。

千葉市養護教育センター
熊本県熊本市立慶徳小学校
国立特殊教育総合研究所 海津亜希子研究員
滋賀県甲賀郡甲西町立三雲小学校 西谷淳教諭
東京都杉並区立中瀬中学校 月森久江教諭

※資料6 「専門家チーム報告書の作成例」は,独立行政法人国立特殊教育総合研究所が行った研究の報告書「学習障害児の実態把握,指導方法,支援体制に関する実証的研究」に記載されたものに一部修正を加えたものです。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課振興係

(初等中等教育局特別支援教育課振興係)

-- 登録:平成22年10月 --