リーダーシップを発揮して,特別支援教育を視野に入れた学校経営を行い,全校的な支援体制を確立します。
小・中学校における特別支援教育の全校的な支援体制を確立するに当たって,校長自身がこのことの意義を正確にとらえ,リーダーシップを発揮することが大切です。そのためには,各教育委員会等が実施する研修に参加したり,校長会等での情報交換を活発に行ったりすることによって,常に認識を新たにしていく必要があります。
各学校が特別支援教育に組織(システム)として全校で取り組むためには,校長が作成する学校経営計画(学校経営方針)に特別支援教育についての基本的な考え方や方針を示すことが必要です。そして,その中で,特別な教育的支援を必要とする児童生徒への指導を学級担任任せにするのではなく,校長が先頭に立って,全教職員が協力し合い学校全体としての対応を組織的,計画的に進めるということを明確に打ち出す必要があります。
学校における特別支援教育の推進は,校長の指導性の発揮いかんによって大きく変わるものです。校内体制については,校内委員会の設置,特別支援教育コーディネーターの指名,学校内外の人材活用,近隣の盲・聾・養護学校や関係機関との連携等,さまざまな角度からの推進が求められます。また,校内支援体制の構築,校内委員会による児童生徒の実態把握,個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成,支援の実施,評価,改善のプロセスについて,校内全体で取り組めるよう校長がリーダーシップを発揮していくことが大切です。
学校経営上,校長が念頭におくべき事項には,次のような内容がありますが,教頭や特別支援教育コーディネーターをはじめ校内全体で取り組んでいくこととなります。
○教師一人による支援から学校全体での支援への意識の向上(意識改革)
○学級担任や障害のある児童生徒本人を組織として支えるために必要な校内支援組織の構築(組織改革)
○個々の児童生徒の特性を理解し対応する教員の指導力の向上(資質向上)
○各教科・領域の指導計画作成に当たっての配慮事項の検討と具体化(指導改善)
○すべての児童生徒にとって「分かる」「できる」を実感できる教育環境の整備(教育環境の整備)
○特別支援教育についての児童生徒や保護者への理解推進(理解推進)
○児童生徒の安全確保と対応方針の確立(安全確保)
○外部の専門機関等との連携の推進(地域連携)
校内の支援体制を確立するに当たっては,系統的な支援を行うための組織と仕組みを構築する必要があります。具体的には,次のような体制の構築を目指します。
○校内委員会を設置して,校内全体で支援する体制を整備する。
○特別支援教育コーディネーターを指名し,校内の教職員や,校外の専門家・関係機関との連絡調整に当たる仕組みを整備する。
○該当学級の学級担任だけでなく,同学年の担当教員,専科担当教員,その他ティームティーチング担当教員,少人数指導担当教員等,学校内外の人材を活用して個別や小集団での指導体制を整備する。
○巡回相談員,盲・聾・養護学校の教員など専門知識を有する教員,スクールカウンセラー等心理学の専門家等による支援体制を整備する。
なお,LD,ADHD,高機能自閉症の児童生徒がいじめや児童虐待の被害を受けている場合や,周囲との人間関係がうまく構築されない,学習のつまずきが克服できないといった状況が進み,不登校に至っている場合などにおいては,例えば校内の生徒指導体制との連携を図るなど,総合的に児童生徒への対応を図る必要がある場合もあります。学校の状況等によっては,このような総合的な取組を円滑に行えるような体制を組むことも重要でしょう。
校内には就学指導委員会を組織している学校も多くあります。
特別支援教育の体制整備を進める中で,この組織は特別支援教育の校内委員会の機能に包括される場合が多いと考えられます。組織としての在り方は変わっても,就学前から就学後までの一貫した支援を行うための校内での検討を進めていく場をもつことは,これからも必要なことです。
今後は,特殊学級や盲・聾・養護学校での教育が望ましいかどうかというだけでなく,専門家チームや巡回相談員等の支援を受けながら,どのような支援がどの程度必要なのかを明らかにしながら,保護者とも協力して対応することが大切です。
特別支援教育を推進するために,当該児童生徒自身の自己理解を図るとともに,児童生徒や保護者への正しい理解を広めていくことが重要です。
例えば,次のようなあらゆる機会をとらえて理解の推進を図る必要があります。その際,校長が先頭に立って理解を進める努力を行うことが求められます。
○児童生徒向けには,儀式的行事でのあいさつ,全校朝会での講話等。
○保護者向けには,学校だよりやPTA総会,研修会等でのあいさつ等。
○地域向けには,学校評議員への教育方針や教育状況の説明の中でふれたり,学校保健委員会等での議題に取り上げたりする等。
校内における全体的な支援体制を整備するため校内委員会を設置します。
○学習面や行動面で特別な教育的支援が必要な児童生徒に早期に気付く。
○特別な教育的支援が必要な児童生徒の実態把握を行い,学級担任の指導への支援方策を具体化する。
〇保護者や関係機関と連携して,特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対する個別の教育支援計画を作成する。
○校内関係者と連携して,特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対する個別の指導計画を作成する。
○特別な教育的支援が必要な児童生徒への指導とその保護者との連携について,全教職員の共通理解を図る。また,そのための校内研修を推進する。
○専門家チームに判断を求めるかどうかを検討する。なお,LD,ADHD,高機能自閉症の判断を教員が行うものではないことに十分注意すること。
○保護者相談の窓口となるとともに,理解推進の中心となる。
これらの機能を一度にすべて満足させなくとも,徐々に機能を拡充していく方法をとることでこれらの基本的な役割を満たしていくことも考えられます。
校内における支援を開始するまでには,保護者の理解のもとに,必要に応じて外部の専門家による判断等を踏まえて,実態把握と必要な支援内容を明確にし,校内委員会による教職員の共通理解を図りながら進めていくことが大切です。
実際の支援に至るまでの手順は,児童生徒によっても,また,学校の支援体制によっても違いがありますが,一般的には次のような手順が考えられます。
図 支援に至るまでの一般的な手順
校内委員会の設置の仕方には,次のようにさまざまな方法があります。それぞれ利点があり,各学校の実情を考えて設置していくことが大切です。
校内組織の設置は小・中学校によっても異なり,学校規模や上記の設置方法等によっても異なることから,ここでは一例を示します。なお,校内委員会の名称には,特別支援教育委員会,校内支援委員会,個別支援委員会等各学校の実態に応じた名称が考えられます。
図 特別支援教育校内委員会の校務分掌上の位置付けの例
各学校の規模や実情によって一律には考えられませんが,一例を示します。例えば,校長,教頭,教務主任,生徒指導主事,通級指導教室担当教員,特殊学級担任,養護教諭,対象の児童生徒の学級担任,学年主任等,その他必要に応じて外部の関係者が考えられます。大切なことは,学校としての支援方針を決め,支援体制を作るために必要な人たちから構成することです。
校内委員会で支援の対象となった児童生徒への支援の状況については,定期的に校内委員会に報告するとともに,校内の教職員が共通理解を図っておくことが大切です。そして,学期ごとや年度ごとなど定期的に支援の内容や方法について評価を行い,必要な見直しを行います。
その際には,保護者の参画を得て,家庭における状況の変化などの意見を参考にすることが大切でしょう。
校内の関係者や関係機関との連携調整や保護者の連絡窓口となるコーディネーター的な役割を担う者を校務分掌に明確に位置付けます。
特別支援教育コーディネーターは,学校内の関係者や外部の関係機関との連絡調整役,保護者に対する相談窓口,担任への支援,校内委員会の運営や推進役といった役割を担っています。具体的には次のような活動が考えられます。
○校内委員会のための情報の収集・準備
○担任への支援
○校内研修の企画・運営
○関係機関の情報収集・整理
○専門機関等への相談をする際の情報収集と連絡調整
○専門家チーム,巡回相談員との連携
コーディネーターには,学校全体,そして地域の盲・聾・養護学校や関係機関にも目を配ることができ,必要な支援を行うために教職員の力を結集できる力量をもった人材を選ぶようにすることが望ましいといえます。各学校の実情に応じて,教頭,教務主任,生徒指導主事等を指名する場合や養護教諭,教育相談担当者を指名する場合,特殊学級や通級指導教室の担当教員を指名する場合など様々な場合が考えられます。
国立特殊教育総合研究所や各教育委員会等のコーディネーター養成研修に積極的に参加させ,校内でも計画的に準備を始めることが大切です。
特別支援教育コーディネーターの校務分掌上の位置付けは,各学校においてコーディネーターが担う役割や校務分掌組織のつくり方によって異なってくることが予想されます。校内委員会の役割の一つとして位置付ける場合のほか,既存の生活指導部や教育相談部等の組織に位置付ける場合等,各学校の実情によりさまざまに考えられます。各学校の校長の判断で,最も実情に即した位置付けをしていくことが求められます。
なお,例えば,平成15年5月の文部科学省初等中等教育局長通知「不登校への対応の在り方」により,各学校には不登校対応のコーディネーター的な役割を担う者を位置付けることが求められていますが,特別支援教育コーディネーターと不登校対応のコーディネーターについては,それぞれの役割が重なり合う場合も考えられることから,相互に連携を図ることが大切です。また,学校の実態等に応じ,双方の役割を担うコーディネーターの指名も考えられるでしょう。
校内の教職員の理解推進や指導力の向上を図るため,研修の推進が求められます。
特別な教育的支援を必要とする児童生徒への指導を校内で適切に行うためには,教員の十分な共通理解とLD,ADHD,高機能自閉症への専門的知識や理解が欠かせません。そのために,校内研修を組織的に活用し教員の意識改革や特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対する指導力を高めていくことが求められます。
例えば,次のような研修の例が考えられます。
国立特殊教育総合研究所や教育委員会,教育センターが開催するコーディネーター養成のための研修,LD,ADHD,高機能自閉症の理解を深めるための研修や指導力の向上を図るための研修に積極的に参加させることが大切です。また,関係する学会や団体が開催する研修や大学での公開セミナー等についても,その必要性等に応じて参加を促すことが考えられます。
保護者への理解の推進を図るとともに,保護者と協力して支援する体制づくりが求められます。
保護者に対し,自校における特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応方針等を説明し,理解を得ることは大切です。コーディネーター等が保護者との連絡調整の窓口となる役割を担うこととなりますが,校長はリーダーシップを発揮して保護者の理解の推進を図ることが重要となります。
保護者が不安に思ったことや心配事を学級担任や学校に自由に相談できるかどうかは学校と保護者との信頼関係の深さにかかっています。しかし,多くの場合「こんなことを相談してもよいものか」「どんなふうに話したらいいか」等なかなか学校に相談できない保護者が多いのが現状ではないでしょうか。また,担任もこんなことを保護者に伝えてもよいのかと躊躇してしまうこともあるでしょう。
しかし,児童生徒の教育的ニーズに応じた指導を進めていくためには,日常的に双方が情報を交換しながら共に協力して子どもに対応することが必要です。そして,学校,保護者双方が協力して児童生徒の支援を行うために,下記のような保護者との協力体制づくりも欠かせません。
図 保護者との協力体制
広い視野をもって,専門家や医療,福祉等の関係機関との連携を推進していくことが求められます。
教育委員会は,LD,ADHD,高機能自閉症に関する専門的な知識や技能を有する者を巡回相談員として委嘱します。巡回相談員の主な役割は次のとおりです。
また,教育委員会には,教育委員会の職員,特殊学級や通級指導教室の担当教員,通常の学級の担当教員,盲・聾・養護学校の教員,心理学の専門家,医師等で構成される専門家チームが置かれます。専門家チームの主な役割は次のとおりです。
校長は,広い視野の中でリーダーシップを発揮して,教育委員会に設置される巡回相談員や専門家チームからの適切な助言等を受けられるよう連携を進めていくことが大切です。
児童生徒の能力や可能性を最大限に伸ばしていくためには,一人一人の障害の状態や程度等の専門的な判断や個々の障害の特性に基づく適切な指導が必要であることから,個別指導に当たっては,教育,心理,医療等の外部の専門家の導入や緊密な連携が求められます。
また,地域の福祉・医療・労働等との連携も不可欠であり,単一又は複数の市町村を網羅する支援体制との関連で対応を考えていくことも必要です。さらに,企業,地域の人材,保護者等の民間の人材の活用やNPO法人との連携・協力も考慮する必要があります。
さらに,大学との連携を深め,学生ボランティアを活用していくことも有効な方策として考えられます。
小・中学校が,障害の状態や特性等に応じた専門的指導を充実させるためには,障害のある児童生徒への専門的な教育を行っている盲・聾・養護学校と連携を図ることが大切です。具体的には,合同研修会,派遣研修等の研修会の充実や,巡回相談の実施などが考えられます。
特殊学級や通級指導教室の担当者がコーディネーターに指名されている場合は,教員用の「6.通級指導教室及び特殊学級の担当者の役割」も参照してください。
校内の関係者や医療,福祉等の関係機関との連絡調整,保護者との関係づくりを行います。
通常の学級の中で,特別な教育的支援を必要とする児童生徒に効果的な教育活動を行うためには,障害のある児童生徒の保護者のみならず,障害のない児童生徒の保護者への理解を進めることが大切です。
そのために学校として,自校の教育や対応の方針を具体的に説明し,理解を得ることは欠くことのできないものです。さらに,一人一人に対応した指導や個々のケースに応じた対応への理解を進めることも大切です。
保護者への理解を推進する上では,個人情報の保護の観点から情報の管理を慎重にし,誤解や学校への不信感が生じないよう配慮することが重要です。その上で,学校だよりやPTA活動,教育相談等の機会を活用してわかりやすく説明することが大切です。
保護者に対する学校の相談窓口となり,保護者を支援します。
担任の教師に対して,相談に応じたり,助言したりするなどの支援を行います。
なお,児童生徒が直接相談に来た場合は,ていねいに事情を聞き,相談内容を把握した上で,担任と連携をとり,児童生徒を取り巻く状況を整理していきます。
校内での適切な教育的支援につながるよう教育委員会に設置されている巡回相談や専門家チームとの連携を図ります。
校内委員会の適切で円滑な運営がなされるよう推進役を担います。
個別の教育支援計画とは,該当の児童生徒に対して,乳幼児期から就労までの長期的な視点で部局横断的に関係機関(教育,福祉,医療等)が連携して作成するものです。作成に当たっては,例えば「個別の教育支援計画」策定検討委員会を設置して検討を行うことも考えられます。また,作成作業においては保護者の積極的な参画を促し,計画の内容や実施について保護者の意見を十分に聞いて,計画を作成・実施し改善していくことが重要です。個別の教育支援計画については,第1部の「3.特別支援教育とは(2)特別支援教育を支える仕組み」や,第5部の保護者用「3.学校との連携(4)個別の教育支援計画と個別の指導計画」を参照してください。
個別の教育支援計画については,これまで取組がほとんど行われていないことなどから,児童生徒の状況や学校の実情等に応じて,まずは保護者との連携を図りながら情報を収集して作成にとりかかることとし,作成・実施・評価のプロセスを通して改善を加えていくことが大切です。
個別の指導計画については,第1部の「3.特別支援教育とは(2)特別支援教育を支える仕組み」,教員用「2.個別の指導計画の活用」や,第5部の保護者用「3.学校との連携(4)個別の教育支援計画と個別の指導計画」を参照してください。
例えば,相談への対応といっても,担任からの場合や保護者からの場合など様々な場合が考えられます。ここでは,いくつかの場合を想定して,対応方法のヒントとなるよう連絡調整の例を紹介します。
《ポイント》児童生徒を自分自身で観察すると,相談内容が把握しやすくなります。
《ポイント》保護者とは,一度で完結させようとしないで,ていねいに連絡を取り合うようにします。
《ポイント》コーディネーター,担任,保護者といった少人数のチームをつくり,速やかに弾力的に対応することが考えられます。
《ポイント》時間に制限があるので,効率よく相談できるよう事前に相談内容の整理と情報収集をしておく。
児童生徒の出すサインに気付き,つまずきや困難などの状況を理解します。
児童生徒一人一人に適切な教育的支援をしていくスタートとなるのは,児童生徒の出している様々なサインに対して「変だな?」「どうしてかな?」という担任の気付きです。そして,「変だな?」「どうしてかな?」と気付いたら,次に「いつ」「どこで」「どのような時」「どんな問題が起こるか」を観察し,問題となっているつまずきや困難などの様子を正確に把握することが大切です。
児童生徒の出しているサインの中には,「これはサインなのかな?」と思うようなものの場合もありますが,それを見逃してしまったために,適切な対応が遅れてしまうこともあります。場合によっては,問題行動等につながることもあります。担任として,児童生徒の出すサインに気付く感性をもつことが大切といえるでしょう。
担任の児童生徒のサインに対しての気付きは,次のような場面や機会にありますが,そのいくつかを例にあげてみます。
担任教師の学習や生活場面で子どもが困っている状況からの気付きです。
担任教師の指導上困っている場面や状況からの気付きです。
担任教師の家庭訪問や教育相談における保護者からの情報による気付きです。
担任の気付きの記録をとっておくとともに,「担任としてどのような対応や支援をしたか」「児童生徒の反応はどうだったか」等も記録するようにします。この記録は,校内委員会で提示する資料づくり,個別の指導計画の立案・作成,保護者面接等の際に役立つ貴重な資料となるからです。
児童生徒のつまずきや困難の状況やその原因の理解,指導方針等が果たして正しいかどうか,不安もあるかと思います。特に原因の理解については正しくとらえないと,その後の指導も間違った方向で進めてしまう場合も起こります。学年会や校内委員会は,担任のそうした不安を取り除く場ですので大いに活用したいものです。そのためには,担任が率直に悩みを話せる雰囲気の学校であることが何よりも大切といえます。
児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した個別の指導計画を立案・作成するとともに,それに基づく指導の結果を評価し,改善につなげていきます。
気付きと理解の次は,特別な教育的支援を必要とする児童生徒一人一人に,具体的にどのように支援していくかを検討し,一人一人の教育的ニーズに応じた計画を立てます。それが個別の指導計画の立案です。個別の指導計画は,校内関係者との連携のもとに校内委員会で作成しますが,ここでの話合いで担任のもつ様々な情報が必要になります。したがって,担任の日々の記録が大切になります。個別の指導計画の立案・作成の具体例や様式例については,「3.支援の実際」及び資料5「個別の指導計画の様式例」(p93~104)を参照してください。
個別の指導計画の立案,作成は,主に次のような手順で行うことが考えられます。
担任が観察した様子,保護者や関係者の情報(少人数でのチームによるケース会議記録),個別に蓄積されたファイル等から,配慮や支援が必要な実態を把握します。例としては,「文字読みが苦手」「文字がうまく書けない」「集中が続かず他のことに気をとられてしまう」などです。
児童生徒にとっての具体的な目標を設定します。例えば「指示を理解する」「机上を整理する」「ワークシートの枠中に文字を書く」などが考えられます。ただし,目標は焦点を絞った方がよいでしょう。通常,目標の設定に当たっては,単元,学期,学年ごとなどに行うことが大切です。
目標に対する具体的な手立てを設定します。例えば,配慮としては,「保護者と1週間ごとに情報交換をする」「さりげなく応援してくれる友達を同じグループにする」「座席の位置を前にする」などです。支援としては,「全体への指示の後,その子に指示をして理解したかどうかチェックする」「1時間目の開始までに机上に学習の準備ができるよう特製のチェック表を導入する」「大きめのマス目のワークシートを用意する」などです。児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて,目標,手立てや実施の方法,実施期間等を具体的に書きます。
設定された目標に沿って指導した結果,どのように変わったか等について,校内委員会で評価を行います。
個別の指導計画に基づく指導の結果として,本人の努力が認められた場合や目標を達成した場合はその子をほめてあげることも大切でしょう。また,状況が変わらない場合には,巡回相談員の活用も図りつつ,目標の設定や課題の内容,具体的な手立ての設定などを見直していくことが重要です。
次の担任が児童生徒を理解しやすいように,一連の取組みの結果を個別の指導計画に記録しましょう。引継ぎは,個別の指導計画を渡すだけではなく,時間をとって話合いをもつことが望まれます。また,進学や転学等に際しては,適切な指導が一貫して行われるよう計画が引き継がれていくことが大切です。
※ 個別の指導計画については,第3部特別支援教育コーディネーター用の「5.校内委員会での推進役(5)校内委員会での個別の指導計画の作成への参画」及び第5部保護者用「3.学校との連携(4)個別の教育支援計画と個別の指導計画」も参考にしてください。
ここでは,学級担任や教科担任としての具体的な配慮や支援の例を紹介します。
例えば,クラス全体には,注目させてから短かくポイントを絞って指示をし,そのポイントを板書します。聞き取りが苦手な児童生徒には,クラス全体への指示の後,個別にもう一度指示を伝えます。さらに,伝えたことを理解したかどうか復唱させたり,行動を見たりしてチェックします。
例えば,書くことの苦手な児童生徒への対応としては,学習プリントやワークシートは,本人と相談の上一定の大きさのマス目のあるものを用意します。消しゴムで消したときに破れにくい紙を渡します。また,言葉だけではイメージがつかみにくい児童生徒への対応として,図や絵や写真など,言葉以外に視覚的な手がかりを提示します。読むことの苦手な児童生徒への対応としては,教科書の漢字にふりがなをふるようにします。文字の位置を指で押さえながら読んだり,読んでいる行だけが見えるカバーシートを使ったりします。また,文字を拡大したり,分かち書きしたりしたプリントを用意します。これらのことは,家庭と連携して行うことが考えられるでしょう。
学年でのティームティーチングや少人数学習等を生かした支援を設定しましょう。その際には,授業前に,担任とティームティーチングや少人数担当教員が支援を必要とする児童生徒の対応について必要な打合せをすることが大切です。
教室でのルール,決まりごと,スケジュール等は視覚的に分かりやすく掲示し,児童生徒が目で見て確認できるようにしましょう。また,一日の予定は朝の会などで児童生徒に説明し,もし変更があればできるだけ早く知らせましょう。落ち着きがなくじっと座っていることができない,整理整頓ができない,次の学習の用意ができないといった場合(特に小学校低学年)は,次の手立てが有効な場合があります。なお,実施の際は,児童生徒の実態に合わせて方法を工夫することが大切です。
改善したい行動例 | 集中が続かず座る姿勢が崩れがち | 机上の学習の用意や整理が困難 |
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目標の設定の例 ○意識をもたせるようにします |
要因として,注意集中が続かない,姿勢保持が困難などが考えられます。 正しい座り方について本人と話し合い,姿勢よく座ることを目標にすることと取組の方法について確認し合います。 |
何度も叱ったり注意をしたりしないようにします。 本人とゆっくり話し合い,学習の前に机上の整理を目標にすることと取組の方法について確認し合います。 |
手立ての工夫の例 ○見通しをもたせるようにします。 |
特に焦点をあてたい時間を決めて,最初から長時間姿勢よく座ることをねらわず,短時間から始めます。 毎回,チェックすることを伝え,伝えた瞬間に姿勢を直してもプラスの評価をします。 結果はその都度本人に知らせ,できたときはていねいにほめます。 |
チェック表を作成し,数日は担任が本人と一緒につけます。 評価は,最も焦点をあてたい時間に絞ります。数日間実施後,様子を見て本人チェックにします。 焦点をあてる時間を増やし,最終的に,チェックリストなしで行動できるようにします。 |
目標の行動ができたかどうかのチェックとフォローアップの例 ○自信をもたせるようにします。 |
本人が視覚的にチェックできるシートを用意します。 努力したときや達成したときは,チャンスを逃さずほめるようにします。 また,本人が継続して実施できるようにします。 |
・クラス全体でソーシャルスキルを学習しましょう。例えば,下記のように望ましい行動について絵カードやロールプレイ等で学習し,実際の場面で活用する方法が考えられます。また,高機能自閉症の児童生徒には,対人関係上の困難さが予想される場面の対処について,一定のルールとして事前に説明しておくと効果がある場合があります。
ここでは,担任の配慮や支援を支える具体的な仕組みの例を紹介します。
支援を要する児童生徒への対応は学校全体としての取組が大変重要です。担任だけの支援では限界があります。そこで,支援を要する児童生徒への対応について,コーディネーターの協力を得ながら学年で話し合うとともに,校内委員会に報告し,担任を中心としたチームで検討するようにしましょう。
地域の学校に通級指導教室や特殊学級がある場合は,教育相談を実施したり,障害のある児童生徒への専門的な検査や指導等を実施したりしていることがあります。保護者や学校と検討し,そのようなサービスを活用するかどうか話し合っていきます。
学校でオープン教室を設置して,その活用を工夫することで成果を上げているところがあります。例えば,通常の学級での一斉授業では,なかなかできにくい個別の対応が必要な児童生徒がいる場合,放課後に指導教員と一緒に学習をするという方法です。そこでは,視覚的に分かりやすい学習環境を用意し,興味に合わせた学習ができるようにしたり,刺激の少ない学習用の区画をつくったり,パソコンを活用したりするなどの方法が考えられます。なお,ここでの指導者としては,通級指導教室や特殊学級の担当教員,各学級や各教科の担任教員等が考えられます。
校内委員会を通して,専門家チームのメンバーや巡回相談員と,支援の在り方や個別の指導計画の作成について話し合うことが考えられます。
ADHD等の診断は,学校での児童生徒の観察や担任のチェックが大変重要な判断材料になります。気になる行動やその変化等はできる限りメモや記録をつけるようにします。また,医師の診断により,児童生徒が各種の薬を飲む場合の薬効評価は,家庭ではなかなかできません。薬を飲んだ時間を把握し,児童生徒が薬を飲んだ時と飲んでいない時の様子を保護者を通して医師に伝えることが望まれます。
児童生徒や家庭の状況によっては,コーディネーターと情報交換しつつ,保健や福祉の関係機関との連携が必要な場合があります。関係機関との連携を進めていくことが大切となります。
盲・聾・養護学校が地域のセンター的機能を発揮することが期待されていることから,最近では,小・中学校に向けて教育相談を積極的に実施したり,小・中学校等において校内研修を実施する際には様々な協力や支援を行ったりする学校が増えてきています。盲・聾・養護学校の教育機能や相談機能の活用も検討することが大切です。
保護者との情報交換を通してニーズを把握するとともに,支援の方法等について保護者に説明し理解を得ます。
担任は,担当した学級のすべての児童生徒に適切な指導をしなければなりません。支援を必要とする児童生徒に気付いたら,保護者との情報交換を心がけます。その大前提になるのが,保護者との信頼関係です。保護者の気持ちを受容,共感して受け止めることを心がけて話し合いましょう。その際,コーディネーターとの連携協力のもとに行うことが大切です。
保護者は,その児童生徒を育ててきた最も身近な理解者であり,我が子の学習面や行動面での困難さもいち早く感じ取っています。学習面,行動面,対人関係等についての保護者のニーズを聞き取っていきましょう。
児童生徒の困難な要因を考えて手立てを提案していくためには,以下の情報を把握しておくことが考えられます。
家庭の様子,生育歴(言語,社会性,運動等),医療機関の受診歴,就学前の様子や小学校での状況等これらの情報を保護者の理解を得て収集し,共に検討していきます。
コーディネーターの協力を得つつ,早急に担任ができる効果的な教育の在り方を具体的に検討し,まずできることから取り組んでみましょう。効果が確認できたら,また次の手立てを考えることができます。
指導が困難な場合の多くは,担任一人では解決の方策が見つけにくいことにあります。そのような場合は,いち早く様々な方法が検討されるように,校内委員会等で話合いをもちます。担任,コーディネーター,保護者,児童生徒にかかわる人々がチームとして援助することが重要です。同学年の担任,校内委員会,巡回相談員の活用等,段階に応じてチームでの検討が考えられます。なお,個別の教育支援計画の作成に当たっては,保護者の参画を促すことが大切です。
会議の実施に当たっては,コーディネーターと連携協力し,次のことを行うことが考えられます。
児童生徒の教育的ニーズに応じた適切な教育的支援を行うには,より正確な児童生徒の状態の把握が重要となります。その際,情報の収集や実態把握を行うことが考えられます。担任は,得られた情報も参考にし,必要に応じて校内・校外の関係者にも提供した上で,個別の指導計画を立てることについて,保護者に説明し理解を得ておくことが大切です。
就学した直後に教育的支援の必要性があると考えられた場合には,就学前の情報が役立ちます。保護者等から必要な情報を得て,個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成と支援に生かすことも大切です。また,転学や進学の際には同様の配慮を行う必要があるでしょう。
児童生徒の個人情報の管理に際しては,個人のプライバシーが損なわれないよう適切な取扱いに注意します。
ここでは,校内に通級指導教室や特殊学級が設置されている場合,その担当者が校内でどのような役割があるかを述べています。また,担当者が特別支援教育コーディネーターに指名されている場合は,第3部の「特別支援教育コーディネーター用」を参考にしてください。
担任からの相談の場合,まず話を聞くようにします。できるだけ偏りなく情報を聞き取り,一緒に状況を整理していきます。その際,一方的な情報収集に偏らないよう留意します。
相談内容から状況がつかめ助言をする場合,その担任の理解の範囲を見極めながら担任の実行できる内容を助言していきます。
障害児教育の担当者としての児童生徒の理解と解釈を求められた時は,多角的に考えられる児童生徒像として,総合的な解釈になるよう心がけます。組織的な援助やかかわりを視野に入れて説明していくことが望まれます。
担当者としての専門性を生かして,情報収集と問題の発見に協力します。学年会での情報交換の中から状態の把握が必要とされた児童生徒について,集会時や学校行事などでの行動観察や,学習や行動の特徴から総合的に考えて実態把握していきます。学年会等では,その児童生徒の緊急課題の見極めや言動についての解釈,支援の仕方や具体的な配慮の仕方,教材の提供等について助言したり,学年としての共通理解について話し合ったりしていきます。
通常の学級における活動の中で支援する場合は,あくまでも担任の指導内容やねらいに沿えるように事前に話合いをもちます。実際の指導場面では,周囲の児童生徒の動向に注目しながらも,支援する児童生徒へ個別にかかわり過ぎることで,逆に差別感や孤立感,羞恥心などが生まれないよう十分配慮します。選択教科,総合的な学習の時間などの指導の場合も同様です。学校行事や学年行事等では,組織の中の一員としての動きをしつつ,担任の連携のもとに,さりげなく支援していきます。
校内の特別支援教育コーディネーターとは,できれば定期的な情報交換を行うことが望ましいでしょう。しかし,不定期でも情報交換しあって校内事情の把握に努めます。コーディネーターから援助の依頼を受けた場合も,校内におけるコーディネーターとの役割分担を明確にし,効果的な支援体制が構築できるよう協力していきます。
初等中等教育局特別支援教育課振興係
-- 登録:平成22年10月 --