特別支援教育について

第3章 地域における一貫した相談・支援のための連携方策

6 関係機関の連携による支援のための計画(「個別の支援計画」)の策定

 医療、保健、福祉、教育、労働等の各機関が、乳幼児期から学校卒業後まで、障害のある子どもに一貫した支援を行うことができるようにするための計画(「個別の支援計画」)を策定します。

 「障害者基本計画」では、平成15年度からの10年間に講ずべき障害者施策の基本的方向性が定められ、そのうちの1つとして各分野別施策の基本的方向性が示されました。教育・育成分野においては、「障害のある子どもの発達段階に応じて、関係機関が適切な役割分担の下に、一人一人のニーズに対応して適切な支援を行う計画(個別の支援計画)を策定して効果的な支援を行う」こととともに、「重点施策実施5か年計画」においては、「盲・聾・養護学校において個別の支援計画を平成17年度までに策定する」ことが示されました。

 「個別の支援計画」とは、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係機関が連携して、障害のある子ども一人一人のニーズに対応した支援を効果的に実施するための計画です。その内容としては、障害のある子どものニーズ、支援の目標や内容、支援を行う者や機関の役割分担、支援の内容や効果の評価方法などが考えられます。
 この「個別の支援計画」を、学校や教育委員会の教育機関が中心となって策定する場合には、「個別の教育支援計画」と呼んでいます。
 つまり、「個別の教育支援計画」は「個別の支援計画」に含まれるものであり、「個別の支援計画」を教育機関が中心となって策定する場合の呼称であるとの理解が大切です(図「個別の教育支援計画」参照)。
 現在、ほとんどの特別支援学校(盲・聾・養護学校)で、「個別の教育支援計画」を策定しており、特別支援教育の推進により、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等においても策定が進んでいますが、先述した「相談支援チーム」が、ライフステージを通じた一貫した相談支援となるよう福祉、保健、医療、労働等の関係機関と連携して「個別の支援計画」を策定することが期待されます。

 また、近年は、障害者への総合的なサービスを提供するに当たり、相談支援専門員が、医療、福祉、保健、教育等の関係者と協働しつつ、利用者のニーズを把握してケア計画が作成されています。
 障害者自立支援法においては、地域の障害者等(身体障害者、知的障害者、精神障害者、障害児)の福祉に関する各般の問題につき、障害者等、障害児の保護者又は障害者等の介護を行う者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言等を行う「相談支援事業」を市町村の法定事業として位置付け、都道府県から指定を受ける「指定相談支援事業者」には、一定の実務経験と相談支援従事者初任者研修を修了した相談支援専門員を配置して、サービス利用計画の作成や利用調整、その後のモニタリングを行うこととしています。実際にサービスを提供する関係機関においては、このケア計画に基づき、「個別の支援計画」を策定することが考えられます。
 「個別の支援計画」の策定に当たっては、対象者の総合的な評価に基づいて行うことが大切です。評価には、子どもの障害の状態や相談・支援の内容とその効果、子どもやその保護者のニーズ等が含まれるので、関係機関においては、保護者の理解を得て、これを共有して具体的な「個別の支援計画」を策定したり、手帳やファイルに「個別の支援計画」を記載あるいは添付(貼付)し、保護者と共有したりすることも重要です。
 また、「個別の支援計画」の策定に当たっては、保護者の参画を促すなどして、子どもや保護者の意見を十分に聞いて、そのニーズを正確に把握することも大切です。
 さらに、「個別の支援計画」は、相談者の状況と支援の効果を総合的に評価し、適切に見直していくことが必要です。

* 図「個別の教育支援計画」

個別の教育支援計画と他の支援(計画)との関連のグラフ
(出典 全国特殊学校長会『地域・家庭・学校のためのよくわかる「個別の教育支援計画」Q&A-保護者の質問に答えて-』19頁(平成17年))

個別の支援計画の図
(出典 独立行政法人国立特殊教育総合研究所『「個別の教育支援計画」の策定に関する実際的研究』17頁(平成18年))

 なお、ここでは学校等の教育機関が中心となって策定する「個別の教育支援計画」の概要を紹介します。

*「個別の教育支援計画」の概要

1 策定の目的

 「個別の教育支援計画」は、障害のある子ども一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考え方の下、長期的な視点で、乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な支援を行うことを目的とする。

2 内容

(1)ニーズの内容

 「障害のある子ども一人一人のニーズ」とは、障害のある子ども一人一人が、障害があるために遭遇している日常生活や学校生活等における制約や困難を改善・克服しようとするための、医療、保健、福祉、教育、労働等の様々な分野から見たニーズのことである。

(2)支援の目標

 障害のある子どものニーズは、医療、保健、福祉、教育、労働等の様々な観点から生じうるものである。これらのニーズに対応するために、一人一人を取り巻く関係機関、関係者等と協力して、的確な支援を実施するための適切な目標を設定する必要がある。このとき、保護者は重要な支援者の一人であることから、積極的な参画を促し、その意見を聞いて、支援の目標を設定することが重要である。

(3)支援の内容

 支援の目標を達成するためには、支援の内容を明らかにする。そして、各関係者・機関ごとの具体的な支援の内容についても明らかにする。
 なお、具体的にどのような支援が必要となるかは、直接かかわる医療、保健、福祉、教育、労働等の関係者・機関が、本人及び保護者の意向を十分踏まえて、一人一人のニーズに応える形で、共に検討する必要がある。
 また、就学前の医療、保健、福祉等の関係機関・関係者等を中心とする支援から、学校を中心とする支援へ移行する段階における「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、関係機関、関係者、保護者等と連携・協力して、既に早期療育等において実施されている個別の支援計画を引き継いで、適切な目標・内容を設定することが重要である。
 さらに、就学中の「個別の教育支援計画」の策定に当たっては、子ども一人一人の医療、保健、福祉、教育、労働等様々な観点から生じるニーズに対応し、様々な関係機関・関係者等と協力して、地域生活等学校以外の生活全般も含めて、目標や内容を設定することが重要である。

(4)支援を行う者・機関等

 支援を行う者・機関等については、一人一人の具体的な支援の内容に対応して明らかにする。保護者を含め、支援を行う者・関係機関等と、その役割について、その支援の内容を念頭に置き明確にする必要がある。

(5)評価・改訂・引き継ぎ

 実施した支援の評価と、それを踏まえた改訂内容と引き継ぎ事項を記入する。
 なお、乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫した的確な支援を行うために、支援を行う者・機関等について、計画の引き継ぎの体制を明確にする必要がある。

*「個別の教育支援計画」の例


(出典 全国特殊学校長会『「個別の教育支援計画」策定・実施・評価の実際』54頁(平成18年))

-- 登録:平成21年以前 --