特別支援教育について

第3章 まとめ

 地域人材の活用について、今回、取り上げた実践事例の特徴を以下の観点に従ってまとめた。

1.ボランティア等の活用場面について

(1)専門的な知識・技能・資格を活かして活用している例

 教員免許を持っている、教員免許を取得中である、あるいは教員としての経験がある、大学等で心理学関係の専門家になるための学習をしている、特殊な技能がある等を生かして活躍している例があった。具体的には以下のとおりである。

1.相談員やカウンセラーとして

 児童生徒等の様子を観察して助言を行う、悩んでいる児童生徒の相談に直接携わる。

2.個別の指導計画等を作成する際のスタッフとして

 児童生徒等の観察や心理検査などを行い、校内委員会で作成する個別の指導計画等の話し合いに参加する。

3.学校支援人材の養成スタッフとして

 学校を支援する人材の研修や養成に携わる。

4.教員が授業を進める際の補助

 教室に入り、直接、児童生徒に対する支援を行う。あくまでも教員の授業進行を補助する立場で行う。個別の児童生徒に対応する場合もあれば、学級全体を対象に支援する場合もある。

5.児童生徒の学習の幅を広げる(人形劇、読み聞かせ、紙芝居、遊びなど)

 人形劇など、ふだんの授業では接することができないような活動を提供する。伝統的な遊びを伝えるなどの活動を行う例もある。

6.教材開発

 障害のある子どもにとって使いやすい教材を開発し、学校に提供する。

7.環境整備(施設補修、植物の世話など)

 なかなか手が回らない細かな環境整備に力を貸している例があった。床や壁の補修、庭木の手入れ、花壇の整備などに対する特殊な技能を生かしている。

8.車椅子などの修理

 上記と似ているが、特殊な技能を生かして特殊な用具を修理している例。

9.コンピュータ学習や理科実験などの補助

 教員の専門性を補完し、また、手が不足する面に対する援助を行っている例。

10.外国人児童生徒への相談も含めたコミュニケーション支援

 外国語を学んでいる人材が、増えてきている外国人児童生徒への支援を行っている例。

(2)一般的な知識やある程度の専門的知識・技能があれば対応できる支援例

 基本的には、専門的な資格を求めていない。ある程度の研修やボランティア経験などがある人材が学校支援を行う。

1.教員が授業を進める際の補助

 注意がそれている場合に声をかけるなどして、授業の補助を行う。

2.車椅子などの介助

 ある程度の基礎的な知識を身につけた上で、外出する際、車椅子を押したり、トイレの介助をしたりする。

3.生活面での支援(着替え、トイレなど)

 幼少期の子どもが生活面で支援を必要とするような場面に対して、支援を行う。

4.安全確保のための見守り

 教員だけでは目が届かないようなところにまで目を配り、危険を避け、安全を確保するための補助を行う。

5.休み時間などの遊び相手

 学生などの場合、障害のある子どもが遊ぶときに相手をしたり、集団との仲立ちをしたりする。危険な遊びをしないで、安全に過ごせるように配慮する。

6.放課後支援

 放課後、学校に残って遊びや学習などを行う場合に、個別に、あるいは少人数の集団に対して支援を行う。

2.人材の確保方法について

 人材をどのようにして確保するかは、地域の実情に応じた工夫が行われている。教育委員会がコーディネーター役を果たしていることが多いが、個々の学校が直接人材募集をすることもある。

(1)特定の団体と連携する(大学、NPO、ボランティアグループなど)

 特定の団体と連携することで、一定の専門性のある人材を確保する。大学の学生、大学院生、あるいは大学教員などの、ある分野に関して専門的な知識のある人材が多い。特別支援教育をテーマに活動しているNPOやボランティアグループ、ボランティア研修を受けた市民をボランティアグループとして組織した上で協力を求めるなどの例があった。

(2)広く公募する

 特別な資格を必要としない場合には、広報などを利用して、広く公募することもある。募集した後、簡単な研修を行う場合もある。

(3)研修受講者を募集し、その中から依頼する

 学校支援などのテーマの基に、人材養成研修講座の募集を行い、その受講修了者を活用する。ある程度の知識・技能が見込める上、依頼する側や当事者が適性を見極める時間がもてる。
 地域人材を活用して研修を行う場合には、人材を養成する人材が地域で増えていくというメリットもある。

3.資格等について

 下記のような資格を求めている場合があった。支援内容と資格とは密接に結びついていると同時に、地域人材に対する報酬の額に反映している。要求する資格の専門性が高いほど、報酬も高くなる傾向があった。

(1)教員免許を持っている

 学校教育の場において、安心して任せられる要件を満たしていると思われる。

(2)教員になるための勉強をしている学生

 教員免許に準ずるものとしてとらえられる。

(3)心理学の専門家

 特定の資格を有している場合のほかに、大学院で学んでいる場合も含まれる。

(4)一般の市民

 その地域に居住し、共に子どもたちを育てていくという立場である。

(5)学校長などの推薦を得た者

 ボランティアなどの場合は、様々な希望者がある。学校長が面接等を行い、責任を持って推薦するなどの手順を踏んでいる例があった。

4.成果

 教育現場に地域人材が入って支援することにより、児童生徒に対する教育的効果だけでなく、幅広い範囲での成果が認められた。

(1)児童生徒に対する成果

 児童生徒に対しては、以下のような成果が報告された。

  • 読み書きや算数など、学習面で向上が見られた。
  • 授業に取り組む態度が落ち着いたり、学習が理解できるようになったという自信から意欲が見られるようになったりした。
  • 様々な活動における安全が確保できた。
  • 集団に入ることができるようになった。不登校状態が改善の方向に向かった。
  • 相談しやすい相手ができ、安心して学校生活を送るようになった。
  • 周囲の児童生徒が障害のある児童生徒を理解することが進んだ。
  • 情緒面での安定が見られた。自分の感情をコントロールすることができるようになってきた。
  • 暴力行為が発生する前に介入されることで、落ち着くことができるようになった。

 など

(2)学校や教員に対する成果

 学校や教員に対しては、以下のような成果が報告された。

  • 安心して授業に取り組む環境が提供され、学級が活性化した。
  • 専門的な見地からの助言や児童生徒の実態を適切に把握するための情報提供がなされた。
  • 学校としての特別支援教育に対する専門性が高まった。
  • 地域に対して開かれた学校に変わってきた。
  • 教育活動の幅が広くなった。これは児童生徒にとっても利益となった。
  • 外部人材と意見交換することにより、児童生徒に対する観察力が高まった。
  • 個別の指導計画作成などを地域人材派遣の条件とした結果、学校の特別支援教育体制の推進が図られた。
  • 人材養成の場としての特別支援学校の活用ができた。

 など

(3)その他

 その他、以下のような成果も指摘されている。

1.人材自身への効果として
  • 自己の成長ややりがい、生きがいにつながった。
  • 大学の単位認定につながった。
  • 教員志望の学生にとっては、大学では経験できない貴重な現場体験学習ができた。
  • 進路や適性について考えるための貴重な情報が得られた。
2.地域に対する効果として
  • 理解啓発につながった。地域において直接かかわった人材が特別支援教育について理解することができた。
  • 関係者相互の連帯感ができ、地域のネットワークが形成された。

5.課題

 今後の課題としては以下のような点が指摘されている。

  • 更に多くの人材を確保すること。人材を発見し協力を呼びかけること。
  • 人材の専門性を向上させていくこと。
  • 個人情報の流出を防ぐこと。公務員の守秘義務とは異なる枠組みの中で解決される必要がある。
  • 事故が起きた場合の補償や保険をどのように取り扱うか。
  • 報酬や交通費など最低限の経費をどのように負担するか。
  • どのような支援を行うかの事前打ち合せが十分に取れない場合がある。
  • 教員と地域人材の専門性の違いから見解の相違が生じる場合がある。
  • ボランティアの場合は支援する側の事情により、計画的に行えない場合がある。
  • 人材が希望する支援内容と実際に任せられる内容が異なるという問題、あるいは児童生徒との相性の問題が起こり得るため、どのような支援をお願いすることが良いのか十分な打ち合せや事前協議が必要である。
  • 地域人材を支える仕組みを学校内につくりあげることが必要である(一人だけで背負わない、教員だけで背負わない、他者と協働する態度)。
  • 支援人材に対する支援内容の決定などに関して教員の専門性向上が欠かせない。

6.実践から示唆されたこと

 地域人材を養成することが人材確保につながる。間口を広く募集し、段階的に経験や研修を積むことで意識や専門性を高めていく。つまり、身近な地域で簡単な内容で支援してくれる人材から始めて段階的に養成していくことを考えていく必要があるだろう。地域人材の調整役としての活躍も特別支援教育コーディネーターに期待されるが、地域人材を組織化し、相互の情報交換やモラル、技能の向上を図ることも有効である。
 なお、報酬については、支援行為自体には支払われず、交通費などの経費を補助するという場合から、人材を一定期間専属的に活用するために非常勤講師として雇用するといった場合まで、様々な例があった。支援内容と求める資格、用件などに応じて、慎重な検討が必要なところだろう。それぞれの長所、短所を分析していく必要がある。

-- 登録:平成21年以前 --