特別支援教育について

球磨工業高等学校(公立)

都道府県名 熊本県
学校名 球磨工業高等学校
学校所在地 熊本県人吉市城本町800番地
研究期間 平成21~22年度

1 概要

1 研究課題

 発達障がいのある(傾向がある)生徒に対して地域連携(中高連携)による生徒理解を行い、学習環境の整備・授業方法の改善により、就労・定着へ向けての具体的な手段・方法を研究する。

2 研究の概要

(1)教育・医療・福祉・労働などの専門機関と連携し、教育上特別な支援を必要とする 生徒やその保護者に対して、専門機関のアドバイスを基に的確な就労・定着へ向けての支援を行うことができる手段・方法に関する研究

(2)学習面で困難さを感じている生徒を含め、それ以外の生徒へも学習環境・授業方法両面でユニバーサルデザインを意識した“わかりやすい授業づくり”に関する研究

(3)地域の県立学校、中学校との連携を図り、中高連携による移行支援への取組

(4)発達障がいについて、保護者・生徒への理解を深めるとともに、関係機関との協力の下に、お互いが理解し共生していける学校づくりに関する研究

3 研究成果の概要

(1)4年目となる基礎学力定着のための校内検定を全職員で続けることができたことにより、教科の壁を越えて、生徒の学習面の困りの実態を全職員で共有できたことが挙げられる。このことは、学習面だけに限らず本校の特別支援教育全般に対する職員の意識付けの中で大きな役割を果たすこととなった。

(2)授業改善については、昨年度の専門家による講話と研究授業発表会等によって、生徒の視点からユニバーサルデザインを意識した学習環境づくりや授業方法改善を進めていくという方針を確認した。具体的には、学習環境については、教室及び工業科実習棟の整備や表示方法の工夫を行うこととし、授業方法改善についても、いくつかの共通項目と各教科の特性を生かした授業方法を検討していくことになった。

(3)地域連携については、同じ地域の高等学校から指導上の悩みや困難さを聞き、それに対する支援方法を本校の取組を通してお互いに学ぶことで、高等学校における特別支援教育をより深化させることを目的に人吉球磨地区高等学校特別支援教育研究会を設立し、本校を含め地域内の5つの高等学校及び球磨養護学校との連携を図った。また、これを生かし、地域の中学校と話し合いを行い、今年度に入学予定の新入生について、その特性や学校生活での困りの情報を入学前に高等学校へ伝えることになった。

2 詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針

ア 生徒の実態(把握方法も含めて)
 支援や配慮を要する新入生の情報については、入学前に個別に中学校訪問において聞き取りにより情報を得るようにしている。また、入学後の担任による家庭訪問でも、保護者から生徒の性格や特性、これまでの学校生活における課題や指導上留意してほしい点の聞き取りを行って指導に生かしている。しかし、実際の生徒の実態把握は、入学後の授業や学校生活を通してしか分からないものも多く、そのため具体的な支援を始める時期が遅くなってしまう傾向が反省点として残った。このことについては、本校だけでなく、近隣の高等学校も同様の悩みを抱えているということであった。そこで、今年度の新入生については、中高連携の取組として、フェイスシートの活用や中学校訪問により、中学校の担任や保護者から、学習・生活両面において生徒が安心して高校生活に入れるよう指導上の留意点や伸ばしてほしい長所を中心に情報を得て実態把握に生かしている。また、入学後の生徒の実態把握については、教科間の授業の様子を教科担任から担任へ伝え、それを集約して、次年度へ支援を引き継ぐためにプロフィールシートの作成に取り組んだ。これには、中学校からの情報と専門家による具体的な支援方法のアドバイスも書き入れ、高等学校で支援の積み上げができるよう工夫している。

イ 指導方針

本校の校内支援体制
本校の校内支援体制

 本校の校内支援体制は上図の通りである。支援の必要な生徒が出ると、保護者および担任が生徒の学校生活での困難な状況を把握し、学習で躓いている生徒に関しては、学力向上委員会で支援対象の生徒かどうか判断し、そのデータを校内支援委員会へ上げることになっている。また、不登校や教室へ入れない生徒に関しては、養護教諭・担任・カウンセラーが生徒の状況を把握し、その情報を校内支援委員会へ報告する。そのあと、これらの生徒に関して、校内支援委員会で状況把握と支援方法を検討し、その結果を全職員へ伝え、支援方針に関して共通理解をしたうえで生徒の指導にあたるようにしている。また、中高連携を深めることにより生徒の実態把握を行い、必要に応じて外部専門機関と連携を取りながら具体的な支援方法について検討を重ねている。この際に、保護者・担任・外部専門機関・校内支援委員会が双方向の情報を共有しながら支援することで、担任一人に負担がかからないよう、周りの職員の共通理解のもとで支援を行いながら、生徒をよりよい方向へ導いていこうという基本的姿勢で本校の支援体制は成り立っている。

ウ 成果と課題
 この2年間研究指定により、多くの専門家による講話や研修会を通して、発達障がいのある生徒たちが様々な困りを抱えながら学校生活を送っている現状を理解したことで、本校の職員の多くが、日頃の授業や学校生活を通して生徒の困りに気づくことも多くなった。また、教科を超えて行っている校内検定やプロフィールシートの作成を通して、生徒が分からない理由を生徒のせいにせず、教師側に一度返して、教材や発問、学習環境の改善などの授業改善も積極的に進めることができるようになった。
 また、不登校・保健室登校の生徒に対する指導においても、コーディネーター・養護教諭が担任と協力し、チームで支援方法を考える体制ができた。これにより、担任一人に負担がかかることが軽減され、校内支援委員会や専門機関との協力し支援方法の検討と全職員の共通理解の下で生徒の状態に応じた適切な支援・指導を行うことできるようになった。これは、昨年度の課題として残った家庭環境による不登校の問題についても、福祉・医療との連携で解決の糸口をつかむことができるなどの成果につながっている。
 課題としては、不登校による出席時数不足になる生徒の指導については、これまで同様、背景に様々な課題があり、これらの生徒と前述のような支援対象生徒との指導に対して、評価基準や教務規定に明確な線引きができない中で指導することの難しさを感じている。

(2)発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫

ア 授業の際の配慮事項等
 授業改善については、主題の一つとして、年間を通して持続可能で、どの教科にも汎用性がある授業づくりを目標とした。

(ア)教室における学習環境の整備については、次の4つの目標を掲げた。

  1. 黒板には連絡事項など授業に関係ない事項は板書しない。
  2. 授業に集中できなくなるような掲示物は前方には極力掲示しない。
  3. 机間指導をしやすくするために荷物は後ろの棚かバッグの中に入れ、授業中バッグは机の下か、机の横にかけておく。
  4. 色覚バリアフリーを目指し、板書は白・黄の2色をベースとする。その他の色は補助程度の使用を心がける。

写真1 板書事項以外書かない黒板
写真1 板書事項以外書かない黒板

写真2 荷物は棚か机の横に掛けて整理
写真2 荷物は棚か机の横に掛けて整理

(イ)実習棟における環境整備は、次の2つの目標を掲げた。

  1. 実験道具の準備・後片付けがしやすいように棚・道具入れのなどの構造化を図る。
  2. 機械などが安全に操作できるような安全表示の工夫を図る。

写真3 棚・容器・写真表示の3段階の構造化
写真3 棚・容器・写真表示の3段階の構造化

写真4 工作機械の安全表示
写真4 工作機械の安全表示

(ウ)授業方法改善については、次の4つの目標を掲げた。

  1. 板書の工夫
     板書事項の精選を行う。色使いや文字の大きさだけではなく、教科書やプリントとの対応などあらゆる面で見やすい板書を行う。また、日付、教科書やプリントの番号などを示したり、重要な発問は板書するなどの工夫も行う。
  2. 発問の工夫
     問いの精選と同時に問いかけの方法を工夫する。また、問いに対する生徒の答え(正答・誤答・無答)に対する準備も行う。
  3. 教材・教具の工夫
     自作の授業プリントの見やすさや書き込みやすさへの取組を行い、同じくパソコンなどICTの活用や実物、模型など教科の特性に応じた工夫を行う。
  4. グループ学習の導入
     従来の一斉学習という学習形態に小集団(班・グループ・二人組み)学習を必要に応じて取り込むことで、生徒相互の「学び合い」の場面を授業の中に設定する。
  5. ユニバーサルデザインの視点からの生徒への配慮
     授業プリントは生徒がとじやすいようにできるだけ規格の統一を図る。また、プリントには十分な余白を確保し、生徒が書きやすいように配慮すると共に必要に応じて漢字にはふりがなをふる。

イ テストにおける配慮事項
 テストにおいて、漢字が読めないことによりその問題の意味がわからない生徒がいるということが分かり、試験的に理数系教科で問題文の漢字にふりがなをふる取組を行った。また、文章問題の理解を助ける目的で、理科や専門教科の一部で問題に関する図を挿入する取組も行った。その結果、平均点が上がったり、問題を解こうとする姿勢が見られるようになった。

ウ 評価における配慮事項
 特定科目において、特に学習障がい(その疑いがある)のある生徒に対しては、授業態度を含め、テストの点数だけではなく、その教科に対する提出物や関心・意欲・態度を重視して評価に入れるなど全職員で共通理解を図りながら評価を行っている。また、試験前には補講を実施し、その過程も評価や判定会の資料として取り入れた。

エ 成果と課題
 授業改善の取組の成果として職員の意識の変化があげられる。昨年11月、今年7月と12月に実施した研究授業発表会での研究授業においても上述の目標に沿った授業の工夫が見られた。また、外部とのつながりを持てたことも大きい。専門的な視点からの授業改善の指摘は現場だけでは見えてこない気づきが多く含まれていた。そして、生徒のアンケートからも上述の取組は支持されている。また、昨年度の課題としては、環境整備の徹底を挙げていたが、工業科では実習棟の道具の片付けと実習するうえでの安全確保のための表示の工夫が行われ、教室でも棚の整理やカバンの収納などを工夫して、学校全体で取り組むことができた。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援

ア 支援の方策と内容
 今年度は、3年生に発達障がいの診断のある生徒が1名在籍した。この生徒については、昨年度に医療機関より診断を受けており、医療機関と連携しながら支援を続けてきた。今年度、具体的な就職に関しては、本校の専門委員でもある熊本県南部障害者就業・生活支援センターと相談しながら就職先を探し、現段階では内定をすることができていないが、現在受験中である。

イ 成果と課題
 成果としては、上述の生徒は、外部の専門機関である医療機関と障害者就業・生活支援センターと連携して、就労支援をした初めての生徒であった。これまで、本人・保護者の承諾が得られず、これらの機関との連携で就労支援をすることができず、結果的に早期離職をしてしまったケースや就職先が見つからなかったケースも経験しており、これらの専門機関との連携は、就労・定着という本校の進路指導の方針からすると非常に大切であると感じた。1年生にも、発達障がいのある生徒がおり、この生徒の今後の進路指導については、これらの専門機関との連携の下で進めていきたいと考えている。

(4)全ての生徒に対する理解推進等の指導の在り方

ア 指導の工夫と取組

(ア)啓発ドラマ  「アイムヒア 僕はここにいる ~僕のあゆみ~」視聴
 H18大阪府人権教育啓発ドラマ 企画・制作 大阪府教育委員会

  1. 主題
     人権教育の一環として、発達障がいを理解するとともに、当事者がどのような困りや生きづらさを感じているかを理解するそのうえで、自分たちが当事者の気持ちとなり、また、それを理解したうえで、支援者としてどんな支援が必要かを学び、全ての人権が尊重される豊かな社会の実現について考えるきっかけとする。
  2. 生徒に理解してほしいこと
    1. 障がい者と支援者の両方を自分に置き換えて考えてみる
       このドラマで紹介される「広汎性発達障がい」のある主人公は、見た目には障がいがあるように見えない(視覚障害、聴覚障害、肢体不自由など比べると)。
       しかし、現実には、主人公は広汎性発達障がいの特性のために仕事や人付き合いに困難さを抱えている。今回、このドラマのテーマは、この困難さをその主人公を取り巻く周りの環境によって、「困り」や「生きづらさ」を軽減できるのではないかということである。これは、周りの人が、その人の特性を正しく理解し、その人らしく、いきいきとした人生を送れるようにその人との関係の中でできる適切なサポートをすることで、このドラマの主人公のように、「困り」や「生きづらさ」を減らすことができる可能性を表現している。そのことを分かることが大切である。それと同時にサポートする側である周りの人もその支援(分かりやすい表示や分かりやすい指示など)を通して、仕事や生活をするうえでその人から有形無形の恩恵が得られるのではないだろうか。
  3. 生徒への問いかけ
     社会には、体の障がい、心の障がい、脳の障がいなど様々な障がいのある人たちがいる。今回のドラマであったような見かけでは分からない部分で、社会で生きにくさを感じたり、仕事でも一生懸命やっているのにできないことで非難されたり、いじめにあったりしている人たちもいる。しかし、これらの人たちは人とは違う特性を持っており、周囲が指示の仕方や接し方など、その人の特性を理解した支援方法を少しだけ考えてくれれば、また、その人に合わせてくれれば、持っている能力を発揮して、社会で生きていくことができるということを分かってほしい。

(イ)講話 「人、それぞれ 特性・個性の理解」
 熊本県立大津養護学校 校長

  1. 概要
     一般の生徒へ発達障がいの困りについて具体的な事例を挙げての説明であった。人はそれぞれ、得意なこと、苦手なことがある。そして、発達障がいのある人の特性についても、学習障がい、多動性障がい、自閉症・アスペルガー症候群などそれぞれの特性で生活するうえで生きづらさや困りを抱えている人がいる。しかし、これらの人たちは、周りの人がその特性を理解し、適正な支援をしてくれれば、社会で自分の強みを生かし生きていけるということを分かってほしいという内容であった。生徒たちは講話で、学習障害の疑似体験を通して、見え方や聞こえ方に特性があり、とても苦労して生活している発達障害の実態を知ることができ、貴重な体験となった。

イ 成果と課題
 ドラマ視聴及び講話は、人権教育の一環としても位置づけて行ったが、目的としては、発達障がいのある生徒たちを含めて、学校生活に困りがある生徒たちが安心できる環境作りのためには、周りの生徒たちが発達障がいを正しく知り、適正な支援をすれば、彼らは仕事や社会生活を不自由なく行えることを理解してほしいということであった。そのうえで、生徒たちが支援者として差別や偏見することなく、自分たちとの違いをその人の個性と理解し、そばで支える存在になってほしいという思いであった。
 ドラマでは、仕事や社会生活で発達障がいの特性や困りがどのようなものかが分かりやすく描かれており、発達障がいの正しい理解のためには非常に良い題材であったと感じた。また、講話では、生徒たちが実際に疑似体験を通して、より身近に学習や学校生活での生きづらさを感じていることが分かり、自分が身近な支援者として、これから力になりたいという感想を持ったようであった。
 今回の取組が、今後、生徒たちが社会に出て、様々な人々と仕事や社会生活を共にするとき、発達障がいを理解することで、正しく当事者の特性を理解し、支援者としての適正な支援ができるようになるきっかけとなることを期待している。

(5)教職員や保護者の研修等

ア 研修会開催の回数・時期・研修内容等

(ア)教職員への理解・啓発

月/日 内容
6月30日 『授業改善への取組』
講師:熊本大学 教育学部 准教授
テーマ:「ものづくり教育の現状と改善 ~実習棟を学びの場に~」
8月3日 『発達障害の基礎理解』
講師:兵庫教育大学大学院 准教授
テーマ:「発達障害のある児童生徒の抱える課題とその支援」
11月26日 『授業改善への取組』
講師:九州ルーテル学院大学 准教授
テーマ:「認知のしくみと学習困難」

(イ)保護者への理解・啓発

月/日 内容
7月20日 『発達障害の基礎理解』
講師:くまもと発育クリニック 療育相談員
テーマ:「どうして僕はできないの?どうして僕はわからないの?
~発達の課題を持つ子どもの理解と支援~

イ 成果と課題
 研究の3つの柱である就労支援・授業改善・地域連携に関して、上記の教職員や保護者に対する講話や研修会を実施することで、これまで関心のなかった教職員や保護者の中に、様々な気づきのヒントが与えられたと思われる。また、これらの研修に関しては、地域の高等学校・中学校へも案内し、共に研修を受けたことにより、地域の横の連携・縦の連携を作るうえでの共通する土台を作れたと感じている。そして、このことが、中高連携を始めとする地域連携の取組で、この地域の特別支援教育の意識を高めることに確かな成果を上げたと思われる。
 課題としては、保護者に対しては、研修の時期や時間設定・内容などについて、設定することが難しかった。今後の参加者のアンケート等を検討し、参加されない保護者や興味のない保護者への啓発を継続して行うことが必要だと感じた。

(6)その他の支援に関する工夫

「校内検定について」

ア 概要
 基礎学力を高めるための取組である校内検定については、4年目になる。1,2年生全員に、国・数・英の課題を週替わりに毎日提出させ、その中から、月曜日に15分間のテストを実施している。問題の程度は、1年次は、小学校高学年程度から始まり、2年次終了時には高校1年終了程度まで進む。合格すれば次の級へ進み、合格できなければ、次の回も同じ級の課題を行うことになる。これによって、基礎学力の充実を図ろうと始めた。

イ 校内検定で分かった生徒の困り
 校内検定で分かった生徒の基礎学力と困りは次の通りである。

  1. 書くことが遅く、板書を写すことに精一杯で、授業内容を理解することができない。
  2. 基礎的な計算力が低く、理数系の授業の公式の理解、式の変形・展開が困難なため、数学・理科・専門教科で躓きが出る。
  3. 作業内容を理解することが困難なため、個々の作業に時間がかかり、製図・実習などの実技系科目の課題を期限内に完成できない。

ウ 校内検定の成果について
 校内検定は課題チェックと確認テストの採点を全職員で分担して行う取組である。普段の授業では見えにくい、生徒の基礎学力の現状を把握し、学習面での困りを発見する一つの手立てとなった。同時に、今年度、様々な研修・授業改善などについて、全職員が主体的に取り組むことを促す効果があった。
 また、教師の発達障がいに対する知識・理解が進んだことで、教科担任が気づかなかった読字障害・書字障害(LD)を校内検定の取組を通して、見つけることができるなど期待以上の成果を上げた。

2 研究の方法

(1)特別支援教育総合推進事業運営協議会の設置

ア 構成

NO 所属・職名 備考
1 校長 研究総括
2 教頭 研究総括補佐
3 教務主任・特別支援教育コーディネーター 研究企画、推進
4 生徒指導主事 実態把握
5 進路指導主事 就労支援
6 3学年主任・カウンセラー 就労支援
7 2学年主任・特別支援教育コーディネーター 地域連携・校内検定
8 1学年主任 就労支援・個別支援
9 養護教諭 実態把握・個別支援
10 特別支援教育コーディネーター(授業改善担当) 授業改善

イ 運営協議会開催回数・検討内容
 開催回数 6回

検討内容

  1. 中高連携による実態把握と支援対象生徒の具体的支援について
  2. 授業改善について
    1. 教室及び実習棟を含む学習環境の整備について
    2. 指導方法改善について
  3. 校内検定の改善と発展的な活用方法について
  4. 専門機関との連携による生徒支援について
  5. 研究発表会に向けて
    1. 公開授業について
    2. 全体会について
  6. 取組についての反省と課題

ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策
 校長が特別支援教育コーディネーターを3名指名し、1名は教務主任、1名は2学年主任を兼務し、もう1名は授業改善担当とした。中高連携をはじめ学校内の教科間の連携により、生徒の実態を把握する中で、個別の教育支援計画及び教育指導計画については、校内で独自の形式を用いて行ってきた。また、今年度は、外部の専門機関とケース会議を定期的に開いた事例も2件あり、その他にも不登校対策などで専門機関に積極的に相談し、個別の教育支援計画の策定などに大きな成果を上げた。

エ 成果と課題
 成果としては、3名のコーディネーターがそれぞれに役割を果たしたことである。外部の専門機関との連携においても、コーディネーターが窓口となり、それぞれのケースに合った専門機関と繋ぐことで生徒及び保護者の問題の解決に組織的に取り組むことができた。また、ユニバーサルデザインの授業づくりを目指した授業改善についても、コーディネーターが具体的な改善点を明らかにし、全職員で取り組める体制づくりをしたことで、工業科実習を含め、研究発表会ではすべての授業を公開授業とすることができた。

(2)専門家の活用

ア 構成

NO 所属・職名 備考
1 九州ルーテル学院大学・准教授  
2 くまもと芦北療育医療センター・医師   
3 熊本県南部障害者就業生活支援センター結・副センター長  
4 熊本県発達障害者支援センター‘わっふる’・センター長  
5 熊本県立球磨養護学校・校長  
6 熊本県立球磨養護学校・特別支援教育コーディネーター  

イ 専門家の活用状況
 開催回数 3回

検討内容
 第1回:「平成22年度の計画およびその内容について」
 第2回:「研究発表会における公開ディスカッション」
 第3回:「平成22年度の研究活動の成果と課題について」
 「中高連携の具体的な手段・方法に関して(フェイスシートの提案)」

ウ 成果と課題
 これまで、学校生活において、躓きを抱えている生徒たちへの対応について、専門的な知識や経験が少ない我々は、具体的な解決の糸口を探すことが非常に難しかった。この点において、専門家の提示した一つ一つのアドバイスは支援を行ううえでのしっかりした根拠となり、支援計画を立案するうえでも大きな力となった。
 また、今回の研究では、専門委員の方々に疑問点を質問し、適切なアドバイスを得る機会が与えられ、困りのある生徒たちの課題を解決するうえで大きな手助けとなった。このことで、生徒たちの問題解決には、校内の教師の力だけでなく、地域の外部関係機関との連携を深めることが大切であるということを改めて実感した。
 課題としては、これらの専門機関の中には相談件数が多く、多忙で、要望してもすぐには相談を受けてもらえないところもあり、時間的に行き詰り、解決できないケースをどうすれば良いのかという点が挙げられた。

(3)関係機関との連携

ア 他の高等学校や技能教育施設、特別支援学校との連携
 本校の研究指定による講話や検討会、専門機関との連携を本校だけのものにせず、地域の子どもたちがどの高等学校へ入学しても同じ支援が受けられるようにという思いから地域の横の連携として、昨年度、人吉球磨地区高等学校特別支援教育研究会を立ち上げた。今年度も、年間を通して5回、本校を含む近隣の5つの高等学校と熊本県立球磨養護学校で、各校の課題や特支援教育に関する実践を出し合いながら、専門機関によるアドバイスの下に特別支援教育に関する研究成果を共有した。また、中高連携についても、昨年2月、6月、今年の2月と3回にわたり、高等学校入学後の実態把握の手段・方法について、管内の16校の中学校と本校を含む5校の高等学校とで話し合い、フェイスシートの作成を含め、中高連携の枠組み作りを行うことができた。これについては、教育事務所の協力もあり、来年度以降も続けることになっている。

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携

<熊本県発達障害者支援センター‘わっふる’>
 本校の専門委員として、本校の研究に関して具体的な示唆を与えていただいた。また、11月には、支援対象生徒の実態把握のための授業見学とケース会議を行ったが、その際に支援方法に関する貴重な意見をいただいた。

<熊本県南部障害者就業・生活支援センター結>
 本校の専門委員として、就労支援の面から貴重なアドバイスをいただいた。また、本校の支援対象生徒に関する就労支援についても、協力していただき、医療機関との連携により進路指導を行うことができた。

ウ 地域の教育施設や人材等の活用

<熊本県立球磨養護学校>
 熊本県立球磨養護学校の校長と特別支援教育コーディネーターから具体的な支援にする指導・助言をいただいたり、また、必要に応じて関係機関との連携の窓口となっていただいた。また、本校の取組の一つである中高連携についての地域の16校との中学校と5つの高等学校の連携を繋ぐ役割を果たしていただき、来年度以降も中高連携をさらに進める指針を得ることができた。

<人吉球磨圏域療育センター>
 療育相談員として、本校の保健室登校の生徒のケース会議に出席し、保護者と学校の円滑な関係づくりに大きな役割を果たしていただいた。

エ 成果と課題
 昨年度から中高連携の取組を進めてきたことにより、早期の実態把握ができるようになった。しかし、それぞれに様々な課題を抱えている生徒たちに対して、専門知識に乏しい教師の力だけで課題を解決することは現実的に難しいことが分かった。そこで、前述の関係機関との連携を図ることが、これらの課題を解決するための大きな力となった。特に支援を始める際、継続する際に、保護者との関係づくりが課題とされているが、専門家が連携の中に入ることで保護者の安心感も得られ、学校の支援についても客観的な意見をいただくことができ、円滑に継続的に支援を行うことができた。また、本校を含め、人吉球磨地区という小規模な地域における幼・小・中・高の一貫した移行支援の取組には、発達段階に応じた地域の教育・医療・福祉・療育のそれぞれと連携し、支援の積み上げを行っていくことが非常に大切であることが分かった。その意味で本校が高等学校のモデルケースとして関係機関との連携の実践を行うことができたことはこの地域の特別支援教育の広がりにとっては意味のある取組となったと思われる。

(4)関連事業等との連携

 平成22年度人吉・球磨地区特別支援教育セミナーに関して、全体会を本校主催の特別講演会として、兵庫教育大学大学院の井澤信三先生を招き、特別講演会を実施した。また、高等学校の分科会において企画・講演者の選定、依頼及び会議の構成を担当した。このセミナーにおける高等学校の分科会への参加については、本研究をきっかけとして設立した人吉球磨地区高等学校特別支援教育研究会を通しての横の連携により、地域の高等学校における特別支援教育へ関心が高まり、前年よりも多くの参加者があり、討議内容に関しても活発な議論が交われた。

3 今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

1 全日制課程おける弾力的な単位の認定方法について

 本県において、少子化による統廃合により地域によっては、選べる学校の校種も限られてきている。このような中で全日制の課程では単位を取得することが難しい生徒も入学している。これらの生徒に関しては、授業改善や基礎学力をつける取組で学習面の支援はできるが、不登校や教室へ入れない生徒に対しては、特に実習を伴う専門高校では単位を取得させることは非常に困難である。このような生徒の就学を保障する方法としては、部分的な単位制の導入等で、取得できた単位を無駄にすることなく、次年度の学年や転学する際にも有利に働くシステムができれば、受け入れた側も本人の状況に応じた対応をもう少し余裕を持って行うことができると思われる。

2 学習支援員の配置

 学力的に厳しく、一斉授業だけではなかなか授業に付いていけない生徒に対しては、個別指導がどうしても必要となってくる。また、学力差の大きいクラスでは、授業をどのレベルに合わせて行うかについては、非常に教科担当としても悩むところである。もちろん、授業方法の工夫ですべての生徒に分かりやすい授業づくりを進めることは大切なことではあるが、生徒側に立ってみるとすべての生徒を満足させる授業はなかなかできないのが実情である。そこで、授業のレベルや進み方をある程度保つためには、学習支援員の配置によりTTによる授業を行い、放課後には、部活動や校務分掌で多忙な教師に代わって、補講を適宜行うことができるなどの対応が可能になると期待できる。
 また、保健室登校など教室へ入れない生徒への個別指導についても、教科担任が担当できる時間数には限りがあり、十分な対応ができないこともある。こういった点を解決するためにも是非必要に応じて配置されるべきだと考える。

4 その他特記事項(エピソードを含む)

 特記事項なし

5 総括

 昨年度からこの研究指定を受けて、特別支援教育に関して取組を進めてきた。特に地域連携については、これまで新入生の実態把握に時間がかかり、何とか中学校からの情報を円滑に高等学校入学後の指導につなげていきたいと考え、中高連携の取組を始めた。義務制の中学校と高等学校では、いろいろな点で考え方の違いがあり、お互いに生徒を思う気持ちは同じでも、情報を伝達する手段・方法となると困難な点が多く見られた。しかし、専門委員の先生方のアドバイスもあり、地域で連携のための話し合いを繰り返しながら、連携の枠組みはできつつある。また、この実態把握で得られた情報を生かし、課題解決を行うための専門機関との連携も、様々な困りの生徒を支援する中で次々と連携の和が広がってきている。
 この2年間で本校職員の特別支援教育に関する知識・理解も高まり、授業改善のための取組に関しても、全職員で意欲的に取り組むことができた。本校の研究指定は、特別支援教育が始まり、3・4年目を担当し、その役割を終えようとしている。これまでの2年間の研究で解決できた課題もあるが、解決できなかった課題、また、新たに見つかった課題など、まだまだ、努力していかなければならない点も多い。これから、本校をはじめ、この研究による取組が全国に広がり、高等学校における特別支援教育がさらに理解され、残された課題が解決されていくよう本校としても努力していかなければならないと感じている。

6 モデル校の概要

1 学級数と生徒数(平成22年5月現在)

課程 学科 第1学年 第2学年 第3学年 合計
学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数
全日制 機械科 2 62 2 79 2 79 6 220
電気科 1 40 1 40 1 40 3 120
建築科 1 41 1 35 1 39 3 115
建設工学科 1 29 1 33 1 39 3 101
5 172 5 187 5 197 15 556

2 教職員数(平成22年5月現在)

校長 教頭 教諭 養護教諭 非常勤講師 実習助手 ALT 事務職員 司書 その他
1 1 42 9 2 12 1 5 1 0 75

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成24年10月 --