特別支援教育について

西日本短期大学附属高等学校(私立)

都道府県名 福岡県
学校名 西日本短期大学附属高等学校
学校所在地 八女市亀甲61
研究期間 平成21~22年度

1 概要

1 研究課題

 高等学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症、アスペルガー症候群等の発達障害を有する生徒及び、その他特別な支援を必要とする生徒の多様な教育的ニーズ、個性に対応し個に配慮した教育課程、指導内容・方法についての研究

2 研究の概要

 「発達障害児の理解や思考の特性に配慮して、弾力的に教育課程を設定することにより、学力の向上のみならず、学校生活への適応や精神的社会的自立に必要な生きる力の獲得を促進せしめる」という指導目標の達成を目的とした研究である。教育課程に関しては、過去3年間の試行錯誤の結果、「国語、数学、理科、英語」の4領域に絞られた。これら4領域において必履修科目を中心に領域内の既存の科目を総合し、仮に「国語領域、数学領域、理科領域、英語領域」の4領域とする。合科的な扱いとし弾力的な科目内容の設定の余地を認めているのは、個々の対象生徒の特性に応じた個別的な対応の必要からである。対象生徒の在籍する「発達支援クラス」及び、「普通科2類」で選択授業を含む教育課程による授業を実施した。「発達支援クラス」においては初年度から全学年で実施した。「普通科2類」においては「選択A・B」で第2学年から順次実施した。就労支援に関して、「普通科2類」においては第3学年の対象生徒が全員進学希望のため第2学年の1名のみ実施した。

(1)現状の分析と研究の目的

1.子どもや学校の現状や課題の分析
 文部科学省の調査によると小・中学校の通常学級に在籍する児童・生徒の6.3%に発達障害を疑わせる調査の報告がなされている。福岡県における高等学校進学率は98%に及んでいる。発達障害を有する生徒が、少なからず本県の高等学校に入学している計算となる。本校においても少子化に伴う生徒数の減少のため、発達障害児が入学している実状がある。入学後、発達障害の基本的な症状であるコミュニケーション、対人関係等の社会性の困難さや創造性の欠如が引き起こす適応上の問題やトラブルが発生するようになった。また、二次的な症状として、教室に入れない、不登校に陥る、ひいては生徒指導上の問題行動や進路保障等の学校生活全般に及ぶ緊急の課題となってきている。不登校の30~40%が、発達障害との何らかの関係を指摘されている。本校でも不登校指導の結果、最後に残った生徒にASD(自閉症スペクトラム障害)が見られる例も少なくない。また、本態的症状に起因する問題・課題のみならず、学業面での自信の喪失や不当な評価・批判にさらされることによる情緒的問題も発生している。さらに入学以前から周囲の無理解から数々の失敗体験や不当な取り扱いの結果、他者に不信感を抱き、自信を喪失した状態で入学してくる事例が増加している。そのため情動の不安定さに対応できる場、多様な居場所、学習の場の確保や社会性、コミュニケーション能力の獲得、自己実現を図る生きる力の養成を保障するところの個に応じた教育課程上の配慮が、社会的自立を目前に控えた高等学校の教育課程上に具現化される必要を感じている。

2.研究の目的
 本校は、私学教育の将来像を展望するに当たり、進学やスポーツだけでなく「個々の生徒の多様な個性やニーズに柔軟に対応する学校づくり」を標榜してきている。その具体的な取り組みの一つとして、平成元年より情緒障害児教育として、自閉症児を中心に受け入れを行い、今日の「発達(障害)支援クラス」の開設に至っている。在籍中の安定した高等学校ライフの担保のみならず、卒業後の自立的な進路保障の獲得を目指してきた。長年の試行錯誤の結果、高等学校においても学習指導要領を基本としながらも発達障害児を中核に特別な教育的支援を要する生徒に対する弾力的な教育課程の運用や選択教科を設定し、対象生徒一人一人の特性、つまずきに応じた個々の丁寧な指導及び、システムの必要性を痛感し、それらのあり方を本研究の目的としている。

(2)研究内容・方法・検証方法

○実態把握
 「専門家チーム」会議を実施し、本校の取り組みの評価や支援のあり方について指導・助言を仰ぎ、「ケース会議」で検討の上、生徒のつまずき・困難等の実態の把握や理解を深める方法の研究に活用し、「発達支援クラス」を中心に支援を行う。特に近年、精神医学の進歩に伴い解明されてきた「障害」概念の理解を踏まえて、日常の言動からの情報を精査し、より深い生徒の心の実態把握に務める。
 ASDの障害概念の研究が進み、双生児相関研究においては統合失調症の50%をはるかに超える90%の相関を示し、精神疾患研究の指標として中心的研究対象となってきている。それだけに留まらず、「多因子性(遺伝)疾患」の研究においては、ASDの原因疾患として25個以上の候補遺伝子が挙げられている。それらの研究解明の過程において、不登校、ひきこもり、触法少・青年、「きれる」青年、学級崩壊等の理解、原因解明に応用化可能なデータが数多く挙げられるようになってきている。脳神経学的に共通した原因の要素は、「脳神経ネットワーク」の不全であり、バイパス回路の構築が中心的課題であることが指摘されている。その結果、医学的、心理学的に原因解明が明らかになったとしても、課題改善のためには、つまずきごとに一つ一つ理解させる、コツを教える等の治療的教育が指導・支援の中心としての重責を担うこととなってきている。
 そのため、個々の課題に関する実態把握は、まず、生徒自身の考えを聞く。通常とは違った彼ら独特の認知、認識の世界を垣間見ることになるだろう。次にどの部位の認知機能の不全が考えられるのか。単に遅いだけなのか、それとも、独自の異なった神経回路をネットワークして認識に至っているのかなどを、他の情報と照らしながら、医学的、心理学的知見に照らし合わせて、実態を把握することが必要になってきている。

(1)現状の分析と研究の目的
 本校においても少子化に伴う生徒数の減少のため、全入に近い状況で多数の発達障害児が入学している実状がある。入学後、コミュニケーション、対人関係等の社会性の困難さや想像力の欠如が引き起こす適応上の問題やトラブルが発生するようになった。障害の本体的症状に起因する問題・課題のみならず、学業面での自信の喪失や不当な評価・批判にさらされることによる二次的情緒的問題も発生している。そのため情動の不安定さに対応できる場、多様な居場所、学習の場の確保や社会性の獲得、自己実現を図る生きる力の養成を保障するところの個に応じた教育課程の編成が、社会的自立を目前に控えた高等学校の教育課程上に具現化される必要を感じている。
 本校は、「個々の生徒の多様な個性やニーズに柔軟に対応する学校づくり」を標榜してきている。在籍中の安定した高等学校ライフの担保のみならず、卒業後の自立的な進路保障の獲得を目指してきた。発達障害児を中核に特別な教育的支援を要する生徒に対する弾力的な教育課程の運用や指導システムの必要性を痛感し、あり方を本研究の目的としている。

(2)研究内容・方法・検証方法
○実態把握「専門家チーム」会議を実施し、本校の取り組みの評価や支援のあり方について指導・助言を仰ぎ、「ケース会議」で検討の上、生徒のつまずき・困難等の実態の把握や理解を深める方法の研究に活用し、「発達支援クラス」で支援を行う。
○個別的な支援を「校内研究委員会」で論議、「個別の指導計画」を立案・作成し、社会自立に向けた個々の生徒の学習、社会性、職業に関する指導や評価方法の研究に活用する。
○教員の障害理解と意識の変革-専門分野外の医学、心理学でも積極的に最新の情報を学ぶ。
○研究成果の評価方法 学力検査及び認知能力、その他発達の関する心理検査を実施する。学力検査の内容については、準備期間中に国語領域、数学領域、理科領域、英語領域の4領域に関する調査研究を行う。

3 研究成果の概要

○本校普通科の教育課程において、対象生徒一人一人の理解や思考の特性や教科等の特性に応じて、内容の取扱いや指導法の創意工夫、学習環境への適応に対する支援を行い、社会的自立をはかり進路保障に至る道筋を明らかにした。

1.生徒の特性や課題に応じた適切な支援の基盤となる生徒理解のための教師の学びの道筋を明らかにした。、近年、精神医学の進歩は著しく、ASD(自閉症スペクトラム障害)における障害概念の解明をはじめ、子供の心の発達に関する研究成果が数多く発表されている。発達障害児の認知や行動の特性に留まらず、その原因究明も進み、明らかにされたエビデンス(証拠)に基づく正しい指導、支援の方向性が示された。精神医学や認知心理学の進歩発展にも関わらず、新たな神経ネットワークの形成の主役は、治療的教育に負うところが大きい。研修成果も合わせて報告したい。

2.「生徒を正しく理解し、生徒の変容を図るための生徒の特性や課題に応じた適切な支援のあり方、システムの構築」の道筋を明らかにした。当事者ニーズの把握の仕方、適切な指導内容や教材の選定と教育課程上の創意工夫のノウハウの蓄積を行った。

3.個別の対応、指導・支援を取り入れることによって、生徒理解を深め、つまずきを明らかにすると共に、より丁寧な、課題ごとに「コツをつかませる、教えてできる」を指導していく教育環境を整える実践を行い、その道筋を明らかにした。

4.環境的に親和的、構造的空間を準備することによって、分かりやすい落ち着いた空間で学ぶことができるように創意工夫を行い、環境整備の実例を示した。

2 詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針

ア 生徒の実態(把握方法も含めて)
 つまずき・困難の原因の発見と分析

1.対象生徒の実態(平成22年度)-全員:男子、「発達支援クラス」在籍

生徒 障害名 特徴(困難やつまずき)
3年年 a アスペルガー 不登校、うつを脱し、アルバイトも経験。非正規から(経験不足)
b アスペルガー 進学希望もタイミングを逸し定まらず。(対人孤独型、自己肯定感)
c 高機能自閉症 就労に向け、職業訓練から地道に取り組み中(情緒、対人積極型)
2年年 d 軽度自閉症 真面目で記憶力がよい。学習意欲が高い。(社会性、身辺自立)
e アスペルガー ADHD/LD傾向。うつを脱したが、疲れやすい。(情緒、対人孤立型)
f 境界知能 対人関係は良好で自信もついた。進路希望が変遷(学力、行動面)
1年年 g 高機能自閉症 環境にも慣れ、マイ・ペースながら安定(対人孤立型、気分低下)
h ADHD 計算、漢字が得意。影響される。(対人積極型、注意・多動・衝動)
i 境界知能 個別対応で頑張り、定着する。(学力、基本的生活習慣、理解力)
j 適応障害 後がないとかなり頑張れる。マイ・ペース(対人孤独型、社会性)

○対象生徒の実態(平成22年度)-全員:男子、「通常クラス」在籍

生徒 障害名 特徴(困難やつまずき)
2 k アスペルガー 別室登校ながら、学校を休まないで頑張る。(対人恐怖、社会性)
3年 l アスペルガー 進学先も決まり積極的に行動できている。(対人孤立型)
m アスペルガー 安定した学力で進学先も決まり、かなり情緒も安定(対人孤独型)
n ADHD 極端な言動も影を潜め安定している。友人関係も良好(学力)
o 境界知能 進学先も決まり情緒が安定してきた。(学力、対人関係、社会性)
生徒 発達支援クラスでの支援の概要
2 k 別室・通級指導(「適応教室」廃止に伴う学習支援)、生活支援、カウンセリング
3年 l 生活支援(昼休み-コミュニケーション・ルーム) 研修会、カウセリング
m 生活支援(行事) 研修会、「あおぞら(専門家チーム)」と連携
n 観察 研修会(保護者)
o 生活指導(行事、昼休み-コミュニケーション・ルーム、放課後)、カウンセリング

「あおぞら」:福岡県発達障害者支援センター

イ 指導方針
 発達障害のある児童生徒は、小・中学校に6.3%在籍の可能性がある。現在の高校進学率98%ということは、5%前後(推測)が高校に在籍している?境界型も10~15%存在するのではないか?(聞き取りによる推測)この境界型の存在が重要であり、放置されている現状にある。
 高校の特別支援教育(文部科学省初等中等教育局長よりの通知)-特別支援教育の推進について(H19.4.1)1、理念 特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち…一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うものである。…特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず、障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となるものであり、…(原文まま) 2、校長の責務 3、体制の整備及び必要な取組(1)校内委員会の設置(2)実態把握(3)特別支援教育コーディネーターの指名 校務分掌への明確な位置付け(4)「個別の教育支援計画」の策定と活用等 4、地域における特別支援教育のセンター的機能を特別支援学校が担うことになっている。では、 私学は?
 文科省W・Gの報告書から見えないモノ-私立学校の在籍生徒数 31% 大都市圏は50% 福岡県40%(公私6:4)20%前後の県も多い。定時制・通信制8、5% 私立には多様な生徒が在籍(発達障害を持つ生徒、身体に障害を持つ生徒、不登校(ひきこもり)・低学力、低所得(所得の格差)etc-重複・連鎖が考えられる。
 入試と進級・卒業について-健常者と同じ入試は妥当か?健常者と同じ単位認定は妥当か?欠席日数が多いと進級・卒業できないか?単位が取れないと卒業出来ないか?そもそも土俵が異なるハンディがあるのに同じ土俵では当然不利益をこうむる。正当な教員や校長の判断が必要ではないか。
 本校の発達支援に関する取組の沿革(概略)-29年前に重度の脳性小児麻痺の生徒受入と同時期、各棟にエレベーター設置(現在3基) 校内のバリアフリー化を推進し障害を持つ生徒の受け入れ(上・下肢、弱視等) 近年は各学校で受入 外国籍の生徒受入-差別のない土壌が肝要ではないか。H元年、普通科に「情緒クラス(自閉症クラス)」開設 H3年、少人数クラスを3学級と認定 H6年、通学寮を開設 H11年、NPO法人「障害者就労ネットワーク」認証 H19年、文科省「高等学校における発達障害支援モデル校」指定 「発達支援クラス」と名称変更 H21年、同2度目の指定 福岡県私学協会「自主研究助成・奨励事業」指定 H22年、福岡県私立学校経常費補助金で特別支援教育体制の整備に対し加算(画期的な事)を受けるに至った。
 本校の基本的な考え方 統合教育を推進し、障害を持つ生徒を核にして、多様な生徒のスキルを最大限に引き出す。(社会的強者)教職員・PTA・同窓会、特進(進学)・スポーツグループ、普通クラスの生徒たちと(社会的弱者)発達支援が、相互に教育的影響力を受け合う。また、発達支援(心身の発達をサポートする)を行うことが教育の基本と考える。
 発達支援教育の発展的解消 財政的な問題(過去20年間赤字)があり、私学には財政的な支援が極端に少ない(例:特別支援学校 生徒1名に対し教職員2名(福岡県の場合)施設・設備の充実-教育に手厚い環境) 本校の役割と使命の終焉(発展的解消に向けて)1.情報発信センターとしての役割-境界型の救済のために今後重要となる。2.公私を問わず発達支援が必要な生徒をシェアして受け入れる環境の整備-普通科の高校に入学したいという強いニーズに対して、蓄積されたノウハウの伝達を行う。
 最後にStudy Together! Work Together! 1.啓蒙・啓発・研修の推進 2.蓋をせず(差別の構造と同じでは?)-個々に応じた教育環境を整備する。3.近未来型の教育環境(私的な考えではあるが)-ITの高度利用により発達支援を必要としている多数の障害を持つ児童・生徒への教育機会の提供を模索したい。

ウ 成果と課題
 実態把握、つまずき・困難の発見と分析

(ア)発達障害の心理アセスメントの調査(WISC-Ⅲ知能検査)

(ア)発達障害の心理アセスメントの調査(WISC-Ⅲ知能検査)

(イ)社会生活能力の調査(S-M社会生活能力検査)
(◎:優れている ○:問題なし △やや困難 ×困難(幅あり) ※かなり困難)

(イ)社会生活能力の調査(S-M社会生活能力検査)(◎:優れている ○:問題なし △やや困難 ×困難(幅あり) ※かなり困難)

(ウ)視知覚運動能力の調査(フロスティグ視知覚)-対LD、ADHD

(ウ)視知覚運動能力の調査(フロスティグ視知覚)-対LD、ADHD

(エ)言語コミュニケーション能力の調査(ITPA言語能力検査)-対広汎性発達障害

(エ)言語コミュニケーション能力の調査(ITPA言語能力検査)-対広汎性発達障害

(オ)ソーシャルスキル「(スキル別)チェック・リスト」
(オ)ソーシャルスキル「(スキル別)チェック・リスト」(◎:できる ○:だいたいできる △:少しできる ×:できない)

(カ)ソーシャル・スキル「(領域別)つまずき」一覧

(カ)ソーシャル・スキル「(領域別)つまずき」一覧

※1学年で評価が下がっているものの大半は、評価基準の変更による。
※項目参考資料-「(日本文化科学社)ソーシャル・スキル・トレーニング」

○新一年生全員に顕著な発達障害の症状が見られる。
 (事例h)フロスティグ視知覚検査の「形の恒常性」において著しい視知覚能力の不全が明らかになった。日常の行動特徴と合わせて「ADHD」の強い兆候を示している。タイプ的には、注意力の欠如と多動性、衝動性を伴う「複合型」のように思われる。また、理解、思考の困難さに比べ四則計算の速さや漢字の記銘の良さなど「広汎性発達障害」を思わせる能力の偏りを感じさせる面もある。学力の向上なども図りたいところではあるが、進級のための補充に時間を取られ現時点では十分には実施できていない。
 行動上の「不注意」が目立ち、視覚情報と聴覚情報とを取り入れながら次の行動を決定していくことが苦手で、その場限りのバラバラな対応になり学校生活に支障をきたしている。また、これまでの周囲の理解対応のまずさから、反抗的な態度や行為障害(他の生徒に乱暴な振る舞いをして喜ぶ)等の「二次障害」の兆候も見られる。これまでの周囲からの叱責や非難、いじめやからかいなどにより「自己肯定感」の低さが原因と見られる。大事にする、できる限り褒めてやるなどの対応に心掛けてきた。共応動作等の著しい苦手さは見られないものの体格面では同年齢に比較するとかなり差がある。注意指導が短時間(早い場合は数秒)しか維持できないことも多い。直前の出来事や言葉の短期間の記憶も定かでないような状況も多く見られ、根気よく繰り返し言葉かけをするなど指導に大変さを感じている。物事を順序立てて能率よく進めたり、他の状況に注意を払いながら同時に他の作業を行ったりすることも苦手で、常に考えながら取り組むよう諭すように言葉かけを行っているが、一朝一夕には効果は上がっていない。
 本人の希望を確認することが困難であることから、押し付けの一方的なものになっていないか日々自問している。学習に必要なものを頻繁になくしたり準備を忘れたり、指示を忘れたりも多く、指導に支障をきたす場面も度々あり、家庭との連携が十分に取れるようにしたかったが、本態理解に時間を要し3学期になりやっと話し込みができるようになった。
 注意や意識を持続させる必要のある取り組みは、本質的には苦手なようであるが、マンツーマンでの指導など限られた場面では、かなりの集中力を見せることもあり、維持継続ができ易い場面設定が多くできないか、今後の課題である。声かけに聞こえていないかのように反応を示さない場面も多く見られる半面、周囲からの刺激に対してはすぐに反応し気を散らしてしまう状況で「注意」の困難さが顕著である。注意を対象に向けたり、周りからの刺激から守る等の手立てを工夫し、注意の維持を図っているところである。可能な限り生徒の気持ちを認める姿勢で、限りなく忍耐強く接することに心掛けた結果、善悪、正誤があることを意識して行動できるようになってきている。視知覚認知の個別指導も並行して実施している。

(事例g)3学期に入り、初めて自分から「交流クラスで嫌なことがあった。」と訴えてきた。話を一つずつ掘り起こしながら聞くと、「男子生徒から、出身中学を聞かれた。」と。応えないでいると、「次々に計男女4人に同じことを聞かれた。」最後に「笑われて、嫌だった。」とのこと。なぜ、中学校名を答えなかったのかを正すと、「1学期に同じ生徒に同じことを聞かれたから。」とのことだった。彼の思考は、他の生徒に理解してもらえないだろうし、場合によっては、「無視した。」とトラブルに発展することも考えられる。周囲に理解してもらわなければならないし、本人も一つ一つ対応の仕方、対人関係のコツを学ばなければならない。入学した時から全般的な知的遅れは見られないものの対人関係がうまく築けない様子が見て取れた。要求に関しては、一方的ではあるが言葉で伝えることができた。
 入学後しばらくして学校にも慣れた頃、突然、登校を渋るようになった。聞けば、「親しい、友達ができないから。」とのことだった。趣味や特技などきっかけになる場合、部活などから友達の輪が広がることが多かったが、自ら積極的に動く様子もなかった。そうこうしている間に発達支援クラスの中で、同学年の生徒らと行動することが多くなったが、互いに適切なモデルとなる関係には発展しない様子である。
 声をかけると伏し目がちになり目線を合わせない。また、笑うタイミングや状況が通常と違っている等、社会性の基本となる部分での本質的な問題を感じさせる。合わせて身体に触れられることを嫌がる、名前を呼んでも振り向かないなどのASD特有の反応も見られる反面、寡黙ではあるが言語能力の遅れは感じさせない。顔の識別ができないというほどではないが、視線や表情の認知は、日常の観察からは十分にはできていないように思われる。ほほえみやジェスチャーによるコンタクトはもちろんのこと、喜怒哀楽の表情表現もあまり見られな。お世辞や皮肉、比喩表現等もほとんど通じない状態である。
 作文は本人に任せておけば、全く書けない。まず題材が決められない。最近の出来事から誘導し、5W1Hその他を一つ一つ示す指導により短いながら何とか文章になり、三学期に入り感情を表す単語も入るようになった次第である。最後には、自分で題材を決められるようになった。
 言葉の理解が悪くないにもかかわらず、指示に従った行動が苦手であり、自分で判断しようという言動が見られない。明らかに誤った行為であっても平然?と行動し、人の動きを模倣することは苦手にもかかわらず、発達支援クラスの生徒の後について行ってしまうことが度々見られる。紙上では、推理、観察、思考などの素養も十分に身に付けているにもかかわらず、実際の場面では、直観、洞察などが発動されず、記憶力の良さも発揮されていない。言葉による表現力を養い、感情を表に出すトレーニングで少しずつ表情も明るくなってきている。感情の双極性も見られ、塞込んだり笑いが止まらなくなったりすることもある。

(事例i)日常的には、言葉のやり取りで余計な発言で注意されることもしばしばではあるが、まとまったきちんとした会話になると言葉に詰まってしまう。没収物を返してもらいたくても言葉が出てこない。「何の用?」「・・・。」、「○○だろう?」「うん。」、「どうしてもらいたい?」「・・・。」、「○○を、」「○○を・・・。」、「返して、」「返して・・・。」、「いりません。」「いりません。」、「いらないの?」「いります。」といった具合で、一場面一場面ごとに、言葉の指導に時間をかけ考えさせるようにしている。計算のつまずきも見られ、基礎から個別に指導している。読み書きも得意とは行かないが、進級のための特別指導を中心に繰り返し練習することにより、学習態度も徐々に落ち着きを増し表情もしまってきた。我が国における学習障害の定義は対象も広く曖昧でもある。推論や学力まで広げると多くの生徒が対象に含まれることとなる。感情の双極性も見られ、塞ぎ込んだり笑いが止まらなくなったりすることもある。
 2学期後半、突然、学校が面白くないと長期欠席状態に陥った。家庭訪問を繰り返し家庭の環境もよく分かった。かろうじて担任の話には形だけは聞く態度はとってくれた。出席日数不足から留年の心配が出てきた状況を機会に保護者、本人を召喚し、学年主任を入れて話を持つ。知り合いの所に就職を決めているという本人の話。高校中退の意味、社会や経済環境の厳しさを話してもほとんど理解していない様子だった。本人が言い張るので、冬休みにアルバイトいう形で体験させることとなった。明けて3学期、結果は知り合いとやらにアルバイト話どころか、全く相手にされなかったとのことで、しぶしぶ登校することとなった。しかし、このことをきっかけに前述の取り組みが始まり、何とが進級できるところまで頑張れるようになった。

(事例j)「適応」の障害との診断であり、学力的には全く問題が見られなかった。本人のペースに合わせて対応することに努めた結果、学校を休むこともほぼなくなり、未だ朝は弱いものの、早退もなくなり終日頑張れるようになった。通常クラスでの交流授業も必要最小限ではあるが、苦にする様子も見られなくなり体育等にも欠かさず参加できるようになった。
 進級も決まり個別の学習課題を設定して取り組み、課題に関するやり取りの中で、ぽつりと、「漢字が苦手。」と漏らしたので、よくよく書いたものを見てみると視知覚認知に問題のあるタイプの誤字が少なからず見受けられた。遅まきながら集中的に取り組んでいるが、通常の指導で十分漢字の習得が可能な程度に伸びてきているので、特段の視覚認知のトレーニングを実施するまでには至っていない。

(2)発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫

ア 授業の際の配慮事項等

(ア)特別授業(土曜日、定期考査終了1週間、3年次の進路補習)
 -就職・進学指導、SST、その他(合同体育、心理劇等)

(イ)少人数授業(発達支援クラス)-希望により国・数・理・英領域より選択可
 -通常クラスにおいて授業を受けることが困難な教科、個別を希望する教科

(ウ)選択授業(キャリア教育)-コミュニケーション講座、ビジネス講座(2・3年)

(エ)交流授業

(オ)「発達支援クラス」の指導体制(教科担任とのTT)

(カ)通級-適応教室廃止により発達障害の伴う生徒限り実施(2年生男子1名)
 -必要に応じて、発達支援クラスで開講されている授業を受けることができる。

イ テストにおける配慮事項等

(ア)補習(定期考査前1週間)

(イ)習熟度別テスト(発達支援クラス)

ウ 評価における配慮事項等

(ア)欠点レポート(欠点追試で合格が困難な場合)-学期毎、(学年は年度末)

(イ)欠点レポート指導(「発達支援クラス」)-少人数授業、放課後等(短縮期間中)
 -レポートさえ書けばという安易さを払拭するため、能力に応じて個別に対応

(ウ)到達度絶対評価(少人数授業のみ)
 -50%に達するまで繰り返し補講と再試を行い、全員の到達を目指す。
 -競争意欲に欠ける状況が見られるが、個々の能力に応じた評価基準を設定

エ 成果と課題

(ア)特別事業-能力、状態像、進路希望の違いが大きくなり、構成人数や設定回数の不足が見られ、思うような授業設定、運営ができにくくなってきた。

(イ)少人数授業-自閉症(軽度)、境界知能型には、必要不可欠な制度であるが、高機能の生徒の中には、意欲的学習を阻害する面も見られる。基本的な内容を中心に、自分のペース、能力、特性、必要に応じた個別的指導が求められるケースなど、無理なく確実に学力の向上に結びつく利点もあるが。通常クラスの授業に準じた内容の学習を少人数で実施するケース(学力的には通常クラスでの交流授業が可能であっても本人が交流授業を希望しない場合など)の場合、学年全体中での自己の学力を認識できない等の問題点も見られる。

(ウ)選択授業-外部講師による特設授業も多く取り入れられ視点を広げる機会も多い。
 対象が通常クラスの生徒も多く、個々の課題に視点を合わせにくい面も見られる。

(エ)交流授業-普通総合コースにおいても支援の課題を抱えた生徒が多くなってきた。
 「わかりやすい授業」等の取り組みの深化が求められる。

(オ)「発達支援クラス」の指導体制-教科担任単独でも指導できる状況も増えてきた。発達支援担任がより専門的な視点によって指導強化できる体制が求められる。

(カ)通級指導-在籍学級担任や教科担任からの課題の準備や指導体制が進んできた。

(キ)補習-苦手教科の克服を初め、考査の評定、学力の向上につながっている反面、通常の授業での努力を求める環境を阻害していることも考えられる。

(ク)習熟度別テスト-無理なく遂行できる反面、必要な学習に達しないケースも。

(ケ)欠点レポート及び、指導-状況に応じて精神的、物理的負担を考慮して進級に結びつけられてはいるが、ケースによっては、十分な努力を引き出せてないことも。

(コ)到達度絶対評価及び、補講-他者と比較でなく個人内評価が行われ、個に応じた学習に結びつけられているが、社会に通用する基準に達しているか疑問も生じる。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援

ア 支援の方策と内容

(ア)基本的生活習慣(近年の精神医学的知見との関連を注視しながら取り組む。)

  • 自己管理-できないときは援助を求めることができる。状況を申告できる。
  • 生活習慣-一般的な基準を意識して生活でき、誤った認識に自ら気づく。
  • 学習体制-明日の次の学習活動を常に想定しながら発動する姿勢を築く。
  • 不登校対策-怠学の状況下の生来的環境的問題を見抜く目と姿勢を養う。

(イ)情緒の安定
 校内外に見守る多くの目と安心できる居場所を多く設ける。〔校内〕保健室、教育相談(専門家チームとの連携)、コミュニケーション・ルーム、適応教室、別室登校を実施-シェルター機能、 問題の解決と人間関係の修復、特別支援教育コーディネーター〔校外〕発達障害支援センター、障害者地域支援センター等

(ウ)不適応行動の軽減
 つまずきや困難の本体を精神医学や臨床心理の視点も踏まえ十分に理解すること。二次的障害に配慮した支援やアドバイスを行う。

(エ)社会性・コミュニケーション能力

  • 選択授業・トラブルの即時対応・部活動・シミュレーション体育・社会体験学習・進路体験学習・進路ガイダンス・特設授業・各種行事等への参加

(オ)障害部位の改善(個別学習-各種心理検査、視知覚、運動共応、書字・読字等)

  • 職業教育、作業学習、もの作り学習

(カ)資格・検定受験補習

(キ)進学補習

(ク)各種校内・校外進路ガイダンス、企業訪問、職場体験実習、卒業予定者特別指導

(ケ)教育相談・カウンセリング

(コ)就労移行支援事業所、障害者就労支援センター

(サ)金銭管理-「マネーじゅく」との連携によって、SST、対人関係の課題発見、心理劇(見学者を意識した」場面)の機会としている。

イ 成果と課題

○過去3年間の軽度発達障害児(全員男子)の進路状況

  • 平成20年度
     [LD.ADHD] 専門学校(コンピューター系)2年生
     [軽度自閉症] 職業訓練「雇用支援センター」→就職
  • 平成21年度
     [アスペルガー] 専門学校(コンピューター系)1年生
     [軽度自閉症] 職業訓練「社会福祉事業団」→就職
     [LD(境界知能)] 職業訓練「雇用支援センター」
  • 平成22年度
     a[アスペルガー] アルバイトから(卒業式以降求職)
     b[アスペルガー] 自営(製造業)
     c[軽度自閉症] 職業訓練「社会福祉事業団」

(事例a)中学からの登校ままならずの状態が続く。登校しても半日で体調不良を訴えて帰宅することが多かったが、態度は良好だった(過剰適応?)。大人に話を聞いてもらうことで情緒は安定するが、内容は家族への不満で、一方的な主張が多かった。1、2年次の長期休暇中、家族とのトラブルにより各一ヶ月前後の入院を経験。
 3年次を前に主治医、精神保健士、発達支援センター、地域支援センター、発達支援クラスで、関係者会議を定期的に持つこととなった。方向性が出ることはなかったが、多方面での情報を聞き、指導・支援に活用できる体制が作れた。
 家族問題では進展がなかったので、外(進路)に目を向けさせ、家族からの独立、自立の方向性でのアプローチが功を奏し、冬季休業中には60時間のアルバイトに成功。卒業後もアルバイトから、現在三者でハローワークでアルバイト検索中。また、今後の継続的な支援の必要性を考えると主治医の意見書をもらい、特定求職者の登録の可能性も考慮して備えをしていかなければならないと考えている。

(事例b)自己肯定感が低く、何事にも消極的な態度であったが、3年次になると、前向きな姿勢も見られるようになり、進学を希望する。夏季休業中に3者でオープンキャンパスに参加すると計画であったが、実家での大きなアクシデントが発生、落ち着くまで見合わせることとなった。3学期に入っても動きがなく面談を繰り返すうち、自信がなく決められないとのこと。これまでも、出鼻をくじかれると一気に意識が内向してしまう事例は多く、タイムリミットぎりぎりで決心がつくのが常であった。今回のケースは、自営業という逃げ道があり、希望を貫けなかった。

(事例c)体験実習、職場実習を経て、就労移行支援事業所に入所が決定。

(4)全ての生徒に対する理解推進等の指導の在り方

ア 指導の工夫と取組

(ア)啓発活動-「障害者問題」をまず、知識として理解させる。
※ポイントは、実際の画面での指導につなげるため、必ず発生するであろう「どう理解したら、どう関わったら良いか分からない事象、困った事象、問題と思われる事象」などを目にした場合は、いち早く連絡してもらうようにお願いする。

  • 全校集会-・学年集会・ホームルーム(交流クラス)・その他必要な状況で。

(イ)課題・問題の早期発見(最重点)→トラブルなど恐れず指導の機会と捉える。

  • 問題の発見、トラブルの早期解決-1.個人、グループ、対象クラス、全クラス、対象学年、全学年、全校一斉等2.カウンセリング、集会、討論、指導・説諭

イ 成果と課題
 -交流クラスでの触れ合いの中から互いに発見したこと-

交流クラス教科担任・クラス担任

【授業中の出来事】
 本校では多くのクラスに、机と椅子が一脚多めに置かれている。発達支援クラスから授業を受けに来る生徒のためのもので、ほとんどのクラスが後ろのドア近くに彼らの席を設けている。特定の授業だけを受けに来る生徒が多いのでどうしても出入りしやすい端の席になるが、それは時折感情を制御できなくなる発達支援クラスの生徒たちにとって必要な措置でもある。A君は、自分のペースを乱されると怒りを抑えられなくなるようで、突然荒々しく立ち上がって教室を出て行く彼に驚いていると、「今日はみんなの笑い声が耳障りだったんだろうね」とそのクラスのメンバーはむしろ彼に気を遣いながら遠巻きに見ている。
 五月に入って安部公房の小説を始めた途端、相変わらず無表情ではあるものの彼はじっと前を凝視して授業を受けるようになった。私は「君は本を読むことが好きなんですね?」と、初めて彼に質問してみた。「はい」と低く応えた。彼はクラスで最も注目される存在に変化した。そして彼もまた難解な質問を選ぶようにして、適切に答えることを楽しみだした。一学期終わり、名前を消して投票し合うクラス内での作文コンクールで、彼が書いた作文は他を大きく引き離して一位に選ばれた。
 自分を語ることを嫌う彼が、名前を消してであれ、皆が読むことを前提にした作文を提出してきたことに私は新鮮な驚きを感じた。クラスメイトたちも同じ気持ちだったようで、作文の上手さや面白さを評価すると共に、彼が自分たちに向かって心を開き出したことを喜んでいる様子だった。「最近、彼、変わったよねえ。なんか明るくなった」などと彼のことを自然に話題にするようになった。
 二学期後半になると、彼は卒業レポートを作成するための班活動に積極的に参加してくるまでになった。彼の論文を読みながらクラスメイトたちは、「障がい者」が抱える問題を、極めて客観的かつ論理的に仕上げてきた彼の勇気に感動したと言う。そして彼との触れ合いを通して、変化していく人間の面白さや奥深さを実感したようだ。

【振り返ってみれば】
 クラスの中で最もかばわれる存在だと、皆が思い込んでいたB君の思いがけない姿。その意外な出来事はきっと生徒たちに人間の不思議さを感じさせてくれたに違いない。確かに彼は社会的なルールに合わせることができないので、日常生活では不利になることが多い。けれどその彼が見せてくれた全く別の姿は、クラスメイトたちに誰もが秘めている可能性のようなものをなんとなく予感させてくれたのではないかと思う。
 今はもうすっかり落ち着いて、授業中もノートをとりながら真面目に授業を受けている。社会性を身に付けた彼の変化は、このクラスの成長を象徴しているとクラスメイトたちは考えているようで、誰もが彼を大切にする。そして彼に対するその対応は、当然クラスメイト同士の関係性にも大きく影響してくる。おそらく彼がこのクラスの生徒たちに与えてくれたものは、自分を含めた人間という存在の持つ可能性や優しさや温かさなのではないかと思う。

(5)教職員や保護者の研修等

ア 研修会開催の回数・研修時期・研修内容等

平成22年度「特別支援教育(発達支援・不登校)に関するセミナー」(公開)
 -高等学校における発達障害のある生徒への支援-

主催:西日本短期大学附属高校
共催:立花高等学校
後援:
 福岡県・八女市・筑後市・柳川市教育委員会
 福岡県私学協会・私学教育振興会 国立特別支援教育総合研究所

  1. 主旨 発達障害を必要とする生徒と不登校生徒の増加は、現在の教育の大きな課題です。発達障害と不登校(中途退学)にはその要因が複雑に絡み合っています。この分野に於ける高等学校の対応は遅く、実態の解明も遅れている現状です。発達障害と不登校の問題は、社会的課題であり、問題の解決に当たっては、初等教育から高等教育に至るまで連携を強化し、問題を掘り下げる必要があります。本セミナーで情報が共有できれば幸いです
  2. 日時 平成22年8月24日(火曜日) 9時30分~16時30分
  3. 会場 全体会、Bパート:サザンクス筑後 Aパート:サンコア
  4. 対象 発達障害・不登校に興味のある教育関係者、関係機関、保護者、学生等
  5. 日程
     10時 基調講演 文部科学省特別支援教育調査官
     12時30分 分科会 Aパート 不登校問題
    (講演)立花高等学校 校長
    (報告)八女市福島中学校、私学学習支援センター、西短附属高校
    (助言)福岡県立大学教授、子ども家庭教育センター主任 Bパート 特別支援教育
    (講演)西日本短大附属高校 校長
    (報告)西日本短大附属高校、福島小学校、筑後北中学校
    (助言)山口大学准教授、発達障害支援研究所所長
  6. 実行委員会 中学(4)、高校(6)、特別支援学校(2) 計12名

分科会(Aパート・不登校)「実践報告」
 「実践報告2.」 福岡県私学教育研究所 学習支援センター長

  1. 開設福岡県の支援を受けて、社団法人福岡県私学教育振興会と福岡県私学協会が合同で福岡地区に平成19年開設。北九州地区・筑豊地区・筑後地区に平成21年開設
  2. 名称及び所在地
    【福岡地区】;福岡県私学教育研究所・福岡学習支援センター
     福岡市博多区三筑2丁目7番8号(福岡国土建設専門学校内)
    【北九州地区】;福岡県私学教育研究所・北九州学習支援センター
     北九州市小倉北区皿山町10番18号(東筑紫学園むつみ寮2階)
    【筑豊地区】;福岡県私学教育研究所・飯塚学習支援センター
     飯塚市吉原町6番1号(あいタウン2階)
    【筑後地区】;福岡県私学教育研究所・久留米学習支援センター
     久留米市天神町8番地(リベール4階)
  3. 目的
     環境の変化やその他の理由により、学校での学習の継続が困難な生徒に対して、学習の場を提供し、学業の継続を支援することで不登校や中途退学の防止に寄与することを目的として、福岡県私学教育研究所に学習支援センターを設置。また、高校生の不登校や退学防止のみならず、既に何らかの事情で中途退学したが、再度高校にチャレンジしたいと思っている人などに対しても学習の場を提供し、学習の継続を支援することも目的としている。あくまでも当センターは在籍校から預かっている生徒が早く在籍校へ戻り、教室でクラスメートと勉強が再開できるように支援するのが目的である。センターは進級・卒業の認定をするところではない。
  4. 福岡県の私立高等学校(在籍校)の当センター利用方法
     福岡県の各私立高等学校は「学習支援センター利用内規」を作成して、4地区の各学習支援センターを利用している。高校生は在籍校の担任に相談し学校長の許可のもとに学習支援センターを利用することができる。学習支援センター通所者のセンターにおける出席状況と学習状況は毎月在籍校に報告している。現在、国語・社会・数学・理科・英語の5教科の教師が学習指導に当たっているが、各支所の近隣の私立高校に協力を求め、その他の教科の指導教師の派遣をお願いしている。各私立高等学校はセンター利用生徒の利用期間の出席状況と成績を参考に「学習支援センター利用内規」に基づいて進級の判定を実施する。なお、公立高校に在籍していて同じような悩みで学校に行けない人や公私立の高等学校を中途退学し再度高校を受験したい希望を持っている人も当センターを利用することができる。
  5. 年度別利用状況
    5.年度別利用状況
  6. 21年度学習支援センター利用者の進路動向
     在籍校復帰(68)、転校(10)、通信(16)、再受験(2)、定時(7)、未定(9)
  7. 学習支援センター利用生徒の実態
     不登校の理由としては、適応障害・不安障害・統合失調症・心身表現性障害・躁鬱症・発達障害などがあげられている。行きたいのだが学校へ行けないあるいは教室に入れないという悩みを抱えている。しかも、登校できないために、学習面で遅れることがひどく気になり、体調まで崩してしまうという悪循環を繰り返してしまう。その他にはクラスメートとの交友関係に悩んでいること。いじめを受けて登校できなくなってしまったこと。また、勉強についていけない。慎重に進路選択をしたのだが、入学してからどうしても校風があわないなどの様々な悩みを持っていることが挙げられる。
  8. 学習支援センターでは、「肩から力を抜いて、焦らずにセンターを活用しましょう」が、私たちの第一声です。昼夜逆転の生活をしていた生徒は、最初は遅刻して来るが、まずは通所できるようになるのを待つ。学習面はもちろん大事だが、カウンセリングで自分の心の内を開かせるのが大切なことだから、カウンセラーは結論を急がず、たわいのないことから話を聞いてあげることに留意している。在籍校から預かっている生徒に関しては担任を通じ、学校との連絡を密にしながら接している。センターへ相談に来る生徒の状況は一人一人異なり、その対応の仕方や助言・指導も異なってくる。
  9. 実践例
    <3年生・女子>
    通所期間 平成21年4月7日~平成22年2月10日
    適応障害治療中 カウンセリング43回 在籍校へ復帰・卒業
  10. 在籍校からの所見
     中学2年次不登校。中学3年次別室で自学自習。週2日は欠席。支援学習の学級に通級して学習していた。

分科会(Bパート・発達障害支援)実践報告「高等学校における発達障害のある生徒への支援の実際」
 西日本短期大学附属高等学校 「発達支援クラス」

  1. 特別支援学級担任と特別支援教育コーディネーター
  2. 支援の対象となる発達障害の範囲 -福岡県の高等学校進学率98%-
    (1)自閉系
    (2)非自閉系
    (3)「境界知能(IQ70~85)」
    (4)発達障害特性
    (5)傾向
    (6)疑わしい生徒
  3. 「発達支援クラス」は、「特別支援学級」か?
    (1)普通科少人数クラスと交流クラス
    (2)少人数授業と個別指導
    (3)その他
  4. 授業の配慮事項
    (1)職業指導・SST
    (2)少人数授業
    (3)個別指導
    (4)選択授業
    (5)シュミレーション
  5. テスト・評価における配慮事項
    (1)補習
    (2)考査
    (3)欠点レポート
    (4)欠課・欠席補充
    (5)基礎学力補充
  6. 研修の取り組み
    (1)障害理解
    (2)実践研修
    (3)地域との連携とシェア
  7. 開設の経緯・土壌
    (1)私学経営
    (2)障害児教育
    (3)自立・参加
    (4)教育
  8. 中学校や関係機関との連携
    (1)中学校(進学相談、個別の教育支援計画)
    (2)ケース(ケース会議、関係者会議)
  9. 「発達(障害)支援」組織図
  10. 国の子ども・若者の問題
     教育行政から労働行政への円滑な移行(青少年大綱、子ども・若者育成推進法)
  11. 不登校の支援の方向と課題(「知識提供型」支援と「寄り添う」支援)
  12. シェアする(1)進学先(2)高等学校
  13. 交流教育 「発達支援クラス」は、ない方がよい?
  14. 自立と自律(就労を通して社会参加)
  15. 卒業生の進路(就労移行支援事業所、コンピューター系専門学校)
  16. ホームへルパー2級を取得(意欲か適性)
  17. 発達支援クラスの22年間の歩みと展望
  18. 高等学校「特別支援学級」の課題と可能性

分科会(Bパート・発達障害支援)「質疑応答」

【Q1】

  1. 〈中学校に対する質問〉高校入試について、一般高校の受験を希望した場合、入試時間の延長や個別受験などの特別な配慮を中学校側から相手の高校に申し入れをしているか。また、受験校にはアスペルガーや自閉症などの問題を抱えていることを伝えているか。
  2. 〈西日本短期大学附属高校に対する質問〉入試に関しては、私立高校の方が個別受験を要する生徒に対して100%聞き入れてくれるとおっしゃったが、可能か。(特別支援学校教諭)

【A1】

  1. 〈中学校からの回答〉受験校に対して特別な申し入れは特にしていないが、気になることがあれば調査書の中で伝えている。受験の形態は、推薦や専願入試を勧めている。
  2. 〈西日本短期大学附属高等学校からの回答〉
    • 西短では言ってもらえれば対応できる。事前にわかっていれば対応しやすい。面接する中で気付いた時には気掛けて対応している。
    • 私学が全部できるかというとそうではない。公立(特に進学校)は支援を必要とする生徒を受け入れたがらない。しかし最近では徐々に受け入れる体制を作っているのではないだろうか。
    〈特別支援学校からの回答〉
    • 公立受験の場合、校長を通して県教育委員会に伝えれば点字などの対応もできる。

【Q2】

  1. 〈西日本短期大学附属高校に対する質問〉
     発達支援クラスも普通科ということだが、カリキュラムはどのようになっているのか。
  2. 〈特別支援学校を含めた各学校に対する質問〉学校内に特別支援の免許や資格を持っている教員が各学校に配属されているのか。(高等学校教諭)

【A2】

  1. 〈西日本短期大学附属高等学校からの回答〉自閉症の生徒が在籍していたときは作業的な授業を取り入れていたが、自閉症の生徒が入学してこなくなり、軽度の発達障害の生徒が増えてきたためニーズが変わってきた。そこで、生徒の実態に応じて基礎的な内容を中心に、76単位+20単位の学校設定科目(学校で自由に設定ができる)の卒業に必要な単位を修得させている。このことは、文部科学省からの許可も得ている。
  2. 〈特別支援学校からの回答〉特別支援の免許を持っている教員がいるかということについては、特別支援教育の資格はなくても構わないということになっている。

【Q3】

  1. 〈西日本短期大学附属高校に対する質問〉
    高校の入試説明会や入試要項などの中に、特別支援教育を必要とする生徒に対して特別な配慮がなされているということが記載してあるのかどうか。また、学校長の連絡会等で広めてほしい。
  2. 〈西日本短期大学付属高校福島教諭に対する質問〉発表の中で、特別支援教育とインクルーシブ教育のすみわけについて対立するような意見が見受けられたが、意見をお伺いしたい。(小学校教諭)

【A3】

  1. 〈西日本短期大学附属高等学校からの回答〉学校案内についてはよく見てもらうと、特別な配慮については記載してあるが、学校同士でももっとわかりやすくしていく必要があるので、校長会でもこの意見を是非伝えたい。
  2. 〈西日本短期大学附属高等学校福島教諭からの回答〉
    • むしろ私も、インクルーシブ教育については賛成である。普通クラスに在籍しながら、必要に応じて特別支援クラスで学んだりすることができるシステムが望ましい。
    • インクルーシブエジュケーションシステムの解釈として、国連権利条約の中で統一されたものはない。しかしその条約は、障がいがある子もない子も平等の教育を受けられるという考えが根底にある。

【Q4】

  1. 〈西日本短期大学附属高校に対する質問〉高校に入学したからには出口の保障をしなければならないと思うが、受け持ちクラスの中に高機能自閉症の生徒がおり、その保護者も卒業後の就職等の心配をされており相談を受ける。これまでに、そのような高機能自閉症の生徒が就職したという事例があれば教えていただきたい。
  2. 〈西日本短期大学付属高校福島教諭に対する質問〉広汎性の自閉症生徒がいるが、本人も保護者も自覚がない場合どのようなアプローチをしたらよいのか。(高等学校教諭)

【A4】

  1. 〈西日本短期大学附属高等学校からの回答〉高機能自閉症の方も、社会的に専門職や研究職で活躍されている。本校の卒業生は、芸術関係に進んだ子もいるが、多くがコンピューターの専門学校などに進みコンピューター関係の仕事で活躍している。クリエーターのような仕事に就いたら、同じような人がいたりすることもある。会社側もそういう生徒を配慮して雇っている。また、療育手帳を取得すると就職に就きやすい。
  2. 〈西日本短期大学附属高等学校福島教諭からの回答〉
    • 地域にある自立支援センターに相談をして、保護者にも自覚していただいてはどうか。
    • 巡回相談チームの先生より、保護者の方に『○○というところが気になりますので、観察しておいてください。』というような伝え方をしてもらうことで保護者のあり方も変わったことがある。

分科会(Bパート・発達支援)「助言」【山口大学 准教授】

 子どもの発達や育ち方が違うのに「自閉症はこうである」「発達障害はこうである」「ADHDはこうである」などと決めつけるのは危険である。
小中学校の9年間の積み上げがあるからこそ、高校3年間で花開くのである。システムだけでは何の役にも立たない。なぜなら、特別支援教育は一様ではないからである。今や、東京大学のアスペルガーの学生たちに研究をさせて、ノーベル賞を目指させるという取り組みが始まっている。
 先ほどの質疑応答【Q4】2.で、広汎性の自閉症生徒がいるが、本人も保護者も自覚がない場合どのようなアプローチをしたらよいのかという質疑があったが、そのような生徒より、他に支援を必要としている保護者や子どもがいれば、そちらの方を優先させてあげることが必要である。きちんと治療できる子から支援していく。なぜならば、保護者も子どもも自覚がない場合は、何かしてあげても続かないからである。卒業してからの仕事はなにをしても職種は関係ない。大事なのは、『仕事』は何をしようということではなく『時間の使い方』を教えてあげることである。生活がきちんとできて、次の日のことを考えることができるようになるために、保護者の方に協力していただきたい。この『時間の使い方』を考えることができないと就労は続かないのである。そして、子どもの気持ちを無視したら駄目である。しっかり意見を聞くことを忘れてはいけないのだ。

イ 成果と課題
 全体会(Aパート・不登校)「講演」アンケート結果-高等学校-

(1)特別支援教育

  1. 現状(動き)
    • 少しわかった。
    • 現状を知ることができてよかった。
    • 課題が多く、高校では全くと言っていいほど進んでいない状況。
    • 先駆けて実践されている学校から様々なことを教えてもらいたい。
    • センター試験の特別措置は初めて知った。
    • 先生方の認識はまだまだ低いので、このような研修は必要。
  2. 文科省(政府)の方針
    • 文科省の方針が分かって、大変有意義だった。
    • 全体像が分かりやすく、参考になった。
    • 理解を深めることができた。
    • 座席指定はしないという箇所が目からうろこだった。
    • とてもよかった。
    • 各校がどういった取り組みを実践していくかだと思う。
    • 直接話を聞くことができて、役に立つ。
    • 国の動向がよく分かった。
    • 新しい情報を知ることができてよかった。
    • 資料を持ち帰って、勉強したい。
    • 色々な体制を知ることができて勉強になった。
    • 少し話が難しかった。
  3. インクルーシブ教育
    • 資料が豊富だった。
    • インクルーシブな教育の必要性を提示してもらった。

 分科会(Bパート・特別支援教育)「講演」アンケート結果 -高等学校-

  1. 私学の取り組み
    • 実況が分かりやすかった。
    • 具体的な状況を理解できた。
    • 大変な取り組みを続けていらっしゃるのだと実感した。
    • 私学の難しさを聞けて参考になった。
    • 参考になった。
  2. 西短の取り組み
    • 熱心に取り組まれている様子が分かった。
    • 熱意が伝わった。
    • 22年目と聞き、素晴らしい取り組み。
    • 思いが聞けた。
    • 口調が楽しかった。(親しみやすそう。やりがいを感じれそう。)
    • 飾り気がなく好感が持てた。
    • 熱い思いを学ぶことができました(2)。
    • 流れと今後の困難性をよく理解できた。
    • 分かりやすかった。
    • 進んでいくべき方向が分かったような気がする。
    • “生き抜く力”が印象的だった。
    • 分かりやすく、西短を理解できた。
    • 初めて知った。20年以上の取り組みに驚いた。
    • 地方から発信していく勇気、支える協力があってこそ。

分科会(Bパート・特別支援教育)「実践報告」アンケート結果-高等学校-

  1. 全体
    • 熱心に取り組まれている様子が分かった。
    • 現場での思い、苦労が分かった。
    • 小・中・高と発表され、取り組みの内容がよく理解できた(2)。
    • 小・中・高の実践が分かりやすく理解できた。
    • 連携の中で前向きに向き合って頑張ろうと思った。
    • 少しだけ理解できた。
    • 少し役に立った。
    • 実践の良いところは取り入れていきたい。
    • できるかどうか不安ももっと増えていくのを感じた。
    • 支援について参考になることがたくさんあった。
    • すぐにでも使わせていただきたい内容が多くあり、大変参考になった。
    • 社会にどう進出(対応)できるのかが一番の課題。
    • 小・中の取り組みが分かり、参考になった(2)。
    • 高校の取り組みの遅れを痛感した。
    • 今後の課題も明確になった。
    • きちんと取り組む学校があるのだと知った。
    • 時間が短く伝えきれなかったのでは?・校内のシステムの話が中心だった。
  2. 個別
    • 読み上げだったが、教科書的なモデルケース。
    • 他校を知ることができ有意義だった。
    • 内容的にとても参考になった。
    • 支援について具体的な説明があり参考になった。
    • 高校卒業後の出口保障が困難であることが分かった。
    • 発達支援クラスを作った思いや理念が理解できた。
    • ノウハウの普及、教育を変えようとする意欲に敬意を表する。
    • 具体的な実践に学ぶことができた。
    • 実践をもっと周知していきたい。
    • 時間配分の間違え?
(6)その他の支援に関する工夫-平成21年度に引き続き、下記の事項で推進
  • 関係教室の配置と機能(コミュニケーション・ルームの充実、適応教室の廃止等
  • 「発達支援クラス」の入試の変更(入級基準-登校意欲、学習意欲を重視等)

2 研究の方法

 高等学校における発達障害児の教育に効果的な指導・支援や教育課程の構築に関する本研究のねらいを具体化することによって、発達障害児の高等学校における「生きる力(ソーシャル・スキル)」の獲得に至る道筋を明らかにしたいと考えた。研究事項及び実践内容として、ア 前年時に企画・試行された教科の総合化や選択授業を含む教育課程の具体的な実施・運用を行う。また、前年時の研究成果の分析・評価を行い、より実効性のある教育課程の編成及び実施、指導・支援についての研究に努める。イ 苦手教科の克服による基礎学力の養成や得意教科の学力の伸長による潜在的個性や能力の開花と、精神的自立に向けた自我の獲得(保護的生活から脱却するとき生じる不安の克服)の過程の関連性を明らかにすることを重点課題とする。ウ 対象生徒の在籍する「普通総合」の第1学年(4クラス)から選択授業を含む教育課程による授業を実施する。エ また、苦手教科の克服による基礎学力の養成や得意教科の学力の伸長による潜在的個性や能力の開花と、経済的自立を目指す行動の獲得(就労、進学等の進路・職業観、働くことの意義の獲得)等の社会的自立に寄与する指導・支援や教育課程の関連性を明らかにすることを最終年次の重点課題とする。オ 前年時に企画・試行された総合教科、選択授業を含む教育課程の汎用的実施・運用の可能性を探求する。以上、5点を挙げた。その他、講演会、専門家チーム会議等の開催、視察研修、研究報告を行った。平成19年からのモデル事業(2回3年間)の研究成果の分析・評価を行い、より汎用性の高い教育課程の研究開発に努めると共に、研究成果の分析・評価を行い研究成果の取りまとめ、発達障害児に対する効果的な教育課程の編成及び、実施、指導・支援に関する研究開発の実践発表を企画した。不登校状態に陥っている対象生徒について、不登校対策委員会と連携して取り組みを行った。

(1)特別支援教育総合推進事業運営協議会(校内研究委員会)の設置

ア 構成(必要に応じて、専門家チーム委員も参加を求める)

NO 所属・職名 備考
1 西日本短期大学附属高等学校・副校長 委員長
2 西日本短期大学附属高等学校・保健部長 事務局
3 西日本短期大学附属高等学校・教務部長
4 西日本短期大学附属高等学校・進路指導部長
5 西日本短期大学附属高等学校・一学年主任
6 西日本短期大学附属高等学校・二学年主任
7 西日本短期大学附属高等学校・三学年主任

保健部(校内研究委員会・小委員会)

NO 所属・職名 備考
1 部長 「発達支援クラス」担当
2 副部長 「交流」担当
3 養護教諭 保健室、「不適応」担当
4 一学年主任 一学年担当、「中・高連携」担当
5 二学年主任 二学年担当、「事務管理」担当
6 三学年主任 三学年担当、「進路・適応(通級)」担当
7 部員 庶務担当(発達支援クラス担当)

イ 運営協議会開催回数・検討内容

  • 第1回
     「特別支援教育総合推進事業事業」の経過を説明
     「4領域」基礎学習カリキュラム審議
     「キャリア教育・コミュニケーション講座」指導内容の審議
  • 第2回
     平成22年度「特別支援教育総合推進事業事業」研究計画の審議
     「特別支援教育コーディネーター」の指名-教諭・福島文吾を再任
  • 第3回
     平成22年度「総合特別支援教育総合推進事業」説明会報告
  • 第4回
     「特別支援教育セミナー」開催の骨子及び、実行委員選定
     「特別支援教育セミナー」実行委員会、合同会議
  • 第5回
     「教育部会(旧、特支連携協」委員委嘱(八女市・広川町)の件の承認
     「特別支援教育セミナー」開催の実施案及び、準備委員選定
     「特別支援教育セミナー」実行委員会、合同会議
  • 第6回
     「個別の指導計画」「個別の教育支援計画」の策定
     「私学協会研修(特別支援協議会)」の報告
     「特別支援教育セミナー」実行委員会、合同会議
  • 第7回
     「発達支援クラス体験入学会」「発達支援クラス説明会」開催の検討
     「特別支援教育セミナー」実行委員会、合同会議(総括)
     「次世代育成と発達障害者支援の体験博覧会2010」講義内容の検討
  • 第8回
     「専門家チーム」教育相談会の計画
     「特別支援教育セミナー」実行委員会、合同会議(報告集作成)
  • 第9回
     「九州山口自閉症研究協議会」講演内容の検討
     「次世代育成と発達障害者支援の体験博覧会2010」講義の報告
  • 第10回
     「熊本県情緒障害児教育研究協議会」講演内容の検討
     「九州山口自閉症研究協議会」講演の報告
  • 第11回
     「平成22年度特別支援総合推進事業」完了報告書の審議
     「熊本県情緒障害児教育研究協議会」講演の報告
  • 第12回
     「研修(国立特別支援総合研究所)」の報告
     「平成22年度特別支援総合推進事業」成果報告書の審議

ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策

  • 特別支援教育コーディネーター:教諭・福島文吾(発達支援クラス担任)、保健部
  • 「個別の指導計画」の策定、「個別の教育指導計画策定」の準備

エ 成果と課題

(ア)小委員会を設け、毎週1回検討会議を実施できたことは研究の進展に大きく貢献した。日常の生徒に関する情報交換が行われ、各学年への指導・支援が一定浸透した。
 また、小委員会メンバーとなることで積極的な関与が見られるようになり、発表会を兼ねたセミナーにおいては、委員の多くが発表(紙上発表を含む)を行った。

(イ)発表会(セミナー)を機に校外を含む実行委員会とは別に、若い先生を中心に校内準備委員会(発表者を含む)を立ち上げた。発表内容の検討や準備作業を通して、一層関心を深めてもらい、参加者が500名を超えるイベントを成功させ、達成感・充実感を味わうことができた。今後の平素の取り組みにつながるものと期待している。

(ウ)年間、多くの来校者、講演、啓発活動に多大に貢献した。直接かかわるメンバーは固定的ではあるが、発表会(セミナー)を始め最終年度に全学を挙げて取り組めたことは今後につながる大きな収穫だった。

(2)専門家の活用

ア 構成

NO 所属・職名 備考
1 山口大学教育学部障害児教育学科・准教授 臨床心理士
2 九州看護福祉大学社会福祉学科・専任講師
3 福岡県発達障害者支援センター「あおぞら」 臨床心理士

イ 専門家の活用状況

  • 研修会、学習会講師を依頼
  • 教育相談、カウンセリング、心理検査を依頼
  • 校内研究委員会、特別支援教育セミナーに対する助言、アドバイス等

ウ 成果と課題

(ア)発達支援クラスの授業、教室環境等の整備と担当者、教職員との懇談

(イ)正式に実働可能な委員を委任。小委員会、ケース検討会等を随時開催

(ウ)モデル事業遂行のポイント、今後の方向性について重要な示唆をいただいた。

(エ)教育相談、カウンセリング、心理検査等を実施

(オ)課題-委員が3年間固定し、連携は十分とれたが、深化できなかった面もある。

(3)関係機関との連携

ア 他の高等学校や技能教育施設、特別支援学校との連携
 -「特別支援教育セミナー」(平成19・22年)平成22年度、約500名の参加

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携
 -ケース会議(発達障害者支援センター「あおぞら」臨床心理士)

ウ 地域の教育施設や人材等の活用

  1. 進学相談(入学前)-個別※
  2. 中学からの申し送り(新入生)
  3. 「個別の教育支援計画」( 中学から持ち上がり)
  4. 中学校定期訪問(近況報告)
  5. 「中高連絡会」(夏季休業中)-1学年
  6. 関係者会議-病院(主治医・保健師)、学校(特別支援教育コーディネーター)、発達障害者支援センター、障害者生活支援センター

エ 成果と課題
 主な来校者、報道、発表等

  • 山口県萩総合支援特別支援学校(8月6日)
  • 京都府向日市市議会(10月22日)
  • 東京都立足立東高等学校(2月5日)
  • 岡山県高梁市立宇治高等学校(2月16日)
  • 愛知県立瀬戸西高等学校(3月8日)
  • 大阪府立松原高等学校(2月22日)
  • 徳島県立徳島中央高等学校(3月23日)
    ※個別の来校者の他、「説明会・見学会」、「体験入学」、「久留米市中学校特別支援教育協議会」「南筑後軽度発達障害児親の会」等
  • 西日本新聞・共に生きる「トラブルを通じ社会を学ぶ」(6月23日)
  • 西日本新聞・福岡ワイド「筑後市で初のセミナー」(8月25日)
  • 国立特別支援教育総合研究所・重点推進研究
    「障害のある子どもへの一貫した支援システムに関する研究」研究報告
     (私立高校における発達障害支援教育)特別支援学級「発達支援クラス」の取り組み
  • 文科省「文部科学時報(12月号)」執筆 「西日本短大附属高校の取組み」
  • 特別支援教育セミナー(文科省・モデル事業発表会)研究発表(8月24日)
     (高等学校における発達障害のある生徒への支援)
  • 筑紫野市「進路講座」講演(9月27日)(特別支援教育の中で不登校の支援を考える)
  • 日本発達障害ネットワーク(日本財団助成事業)(11月20日)
  • 「次世代育成と発達障害者支援の体験博覧会2010(日本小児精神神経学会)」
     (講座)講義(高等学校における特別支援学級の効用と限界の考察)
  • 九州・山口自閉症研究協議会「山口大会」基調講演(2月19日)
     (広汎性発達障害児の高等学校における特別支援教育の今後の可能性)
  • 九州地区情緒障害児教育研究会「熊本大会」講演(2月24日)
     (高等学校における発達障害のある生徒への支援の実際)
(4)関連事業等との連携
  • 若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム-1名、協力して就職活動を支援

3 今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

1.選択肢を広げる

 進学先でシェアする

特別支援学校 高等学校 通信制
特別支援学校 高等部
高等支援学校
(高等支援学校)
分教室・分校
普通高校
特別支援教育
特別支援学級
(発達支援クラス)
通級指導教室 平日登校制
学校内学校
普通高校 エン・カレッジ
(東京都)

リソースルーム
適応指導教室

その他

コース制

学習支援センター フリー・スクール

※その他、高等専修学校・技能連携校(サポート校、生活指導、職業指導)等
※太字は、国の制度以外(斜体は、提案)

2.選択肢の多様性を増す

 高等学校でシェアする

在籍の形態 通常学級 特別支援学級
分教室方式
コース制
分校方式
通信制
支援の措置 通級指導
リソースルーム
適応指導
エン・カレッジ
少人数クラス
交流授業
20人学級
(授業交流なし)
知的障害児対象
(大阪府)

平日登校制
学校内学校
(授業交流)

※リソース・ルーム-臨床心理士、各種療法士等の配置(数校を巡回指導で対応)

4 その他特記事項(エピソードを含む)

1.発達障害の範囲

(1)自閉系(広汎性発達障害・ASD)-アスペルガー症候群、高機能自閉症、自閉症

(2)非自閉系-LD、ADHD 計6.3%

(3)「境界知能(IQ70~85)」-学習面でのつまずきが主 13~14%

(4)発達障害特性-多因子遺伝性疾患(障害ではなく特性が近親者にも多く見られる。)

(5)傾向-多くの人に(山口大学・木谷)

(6)(文科省)疑わしい生徒も支援の対象

(7)不登校-43%が発達障害に関連(文科省)、報告の多くは30~40%
 ※福岡県の高等学校進学率は98%→特別支援教育の対象が、高校生の10%以上では。

2.国の子ども・若者の問題

(1)ニート、長期引きこもり(若年無業者)を中心とした対応を要請

 -教育行政から労働行政への円滑な移行 「不登校・発達障害」対策
 ア 青少年大綱(H.20 総理府) イ 子ども・若者育成推進法(H.21 総理府)

(2)法制度整備(法治国家では、「法」の制定によって初めて、存在が認知される)

ア 「発達障害支援法」-発達障害の存在を認知

イ 「障害者自立支援法」改正-発達障害を独立した障害として認知

ウ 「高等学校における発達障害支援モデル事業」→「特別支援教育総合推進事業」
 -通常の体制、カリキュラムの中で創意工夫を!
 (文科省)高等学校WG:論議の過程では、「特別支援学級、通級制」も検討
 →「発達支援クラス」は、全国で唯一の高等学校「特別支援学級」

3.エピソード(エピソードは、課題の本質を語る)

○エピソードg(本人との話)
 作文指導の一件から、窓を開き力を発揮する場面に極端に偏りがあることを話し合った。
 不満やクレームに限って、はっきりしっかり言葉にできる。決して言語表現が苦手なわけではないことが分かった。「それも含めて、会話が必要な時、注意指導を受ける時、要求要望がある時等、言葉の必要な時にも、心を開くようにがんばろう。」「作文の時と同じように、書けないのじゃなくて、書き出せないだけだから。」「g君の特性で、自分の責任じゃないし、すぐに変えられるわけでもない。今はまだ、こうすればできるようになるという方法も思いつかないし、少しずつ意識していこう。」と話すと、かなり素直に「はい。」との返事だった。
 これまで、よほど了解できない限りこんな良い返事はもらったことがなかった。

○エピソードh(保護者との話)
 携帯電話の没収をきっかけに、母親と1年の締めくくりの面談を行った。「2学期に入り1年生4名の生徒理解が概ねできるようになった。3学期に入って指導方針も定まった。」「各人、全体的にはできている感じがあり絞り込みに時間がかかった。しかし、極端に落ち込んでいる部分が明らかになってきた。彼の場合は、対人関係での混乱が見られる。」「二次障害として、反抗的態度や気分の落ち込みも見られる。」1.彼の生来の特徴であって、責任はないこと、2.一つ一つを丁寧に繰り返し指導する必要があること、3.日頃から認めてあげる、褒めてあげることが大切なことなどを確認した。

5 総括

1.発達支援クラス22年間の歩みと展望

(1)「情緒(自閉症)クラス」→「発達(障害)支援クラス」

(2)「特殊教育」→ 「特別支援教育(知的に遅れのない発達障害も含む)」

(3)「発達支援(普通科少人数)クラス」→「通常クラス」に拡大→ 「インクルージョン」
 ※図らずも「特別支援学級」との認知を受ける(特総研「重点推進研究」、文部科学時報)

2.発達支援クラスの発展的解消

(1)「コミュニケーション・コース」-定員20名、コースとして独立

(2)「通級制(リソース・ルーム)」-固定制から通級制へ形を変えてシステムを残す。

(3)「学校内学校(平日登校型通信制)」-定員50名(特例措置)、交流授業を実施

3.発達障害のある生徒への支援としての高等学校「特別支援教育」の展開

(1)「コース制」(佐賀・太良高校、長崎玉成高校、大阪府)-小さな「特別支援学校」?

(2)「高等支援学校分校・分級室」(大阪・熊本等)-「療育手帳」取得が条件

(3)「特別支援学級」-軽度知的障害、自閉症を対象
 療育を重視-「障害特性」に対応した指導・支援を中心に行う。

(4)「通級制」-高機能発達障害を対象
 心理療法も重視-「精神衛生」に配慮した指導・支援を中心に行う。

(5)インクルーシブ教育→「リソース・ルーム」でユニバーサル・サポートを目指す。
 「エンカレッジ・スクール」(東京都)

6 モデル校の概要

1 学級数と生徒数(平成22年5月現在)

課程 学科 第1学年 学科 第2学年 第3学年 合計
学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数
全日制 普通科
  普通科            
(特進) 1 28 (Ⅰ類) 1 11 1 20
3
59
(普総) 5 171 (Ⅱ類) 3 96 4 123
12
390
(健ス) 1
45
(健ス) 1
28 1 41
3
114
(発支) 1 4 (発支) 1 3 1 3 3 10
8 248 6 138 7 187 21 573
8 248 6 138 7 187 21 573

※(普総):普通総合 (健ス):健康スポーツ (発支):発達支援クラス

2 教職員数(平成22年5月現在)

校長 副 校 長 教頭 教諭 養護教諭 常勤講師 非常勤講師 事務職員 司書 その他
1 1 1 21 1 10 16 8 1 0 60

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成24年10月 --