特別支援教育について

荒川高等学校(公立)

都道府県名 新潟県
学校名 新潟県立荒川高等学校
学校所在地 新潟県村上市坂町2616-4
研究期間 平成21~22年度

1 概要

1 研究課題

 一人一人の特別な教育的ニーズに応じた支援を行うために、教育相談委員会を中心とした校内支援システムの構築と支援の在り方を探る。

2 研究の概要

 特別な教育的ニーズに応じた支援を行うための校内支援システムの整備と支援の在り方について、平成21年度の「高等学校における発達障害支援モデル事業」の取組と本事業を通じ、その定着と確立を図る。次の4項目について研究を行う。
 (1)校内支援体制の整備と関係機関との連携の在り方
 (2)個々の生徒のニーズに応じた支援の在り方、進め方
 (3)ソーシャルスキルトレーニング実施に向けた取組
 (4)進学・就労支援の在り方

3 研究成果の概要

(1)既存の教育相談委員会に特別支援教育の内容を包括し取り組んだことは、教育相談のノウハウを支援に活かすとともに、人員の効率化の面で有効であった。また、特別支援教育コーディネーターを2名指名し役割分担を行ったことは、支援に有効にはたらいた。
 支援体制を支える職員の専門性の向上を図るために、多彩な職員研修を企画し、実施したが、今後も発達障害理解、具体的な支援方法の検討のために、職員研修を継続していく必要がある。関係機関との連携は、具体的な事例を通して職員に浸透してきており、今後はさらなる連携の強化を図る必要がある。

(2)学年や全校体制で支援が必要な生徒には、個別指導計画を立案しての支援を行ってきた。このことは、生徒の情報の共有、支援の実践や支援の評価に有効にはたらいた。
 学習支援においては、授業のユニバーサルデザイン化を指向した取組を行い、どの生徒にとってもわかりやすい授業を目指した。また、学生支援員を採用した特別支援教育支援員の取組は、特に授業における学習支援において有効であった。

(3)ソーシャルスキルトレーニング(以下SST)を1年次生に実施した。その結果、7割以上の生徒が関わり方のポイントがわかった、今後もSSTの授業を受けたいと回答した。今後は、総合的な学習の時間を利用した集団のSSTと、必要に応じて個別のSSTを組み合わせ、学校生活を円滑に送り、さらには就労支援につながる内容を開発していく必要がある。

(4)就労支援においては、コミュニケーション能力の向上を図ることを重点的に行っなった。また、ハローワークや地域若者サポートステーション等との連携を積極的に行うことにより、進路実現につながった。
 農業体験は、農家という少人数の組織を入り口としてコミュニケーション能力を高める有効な手段であった。今後は、インターンシップ等の就業体験の充実を図るために、校内の体制も整備していかなければならない。

2 詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針

ア 生徒の実態(把握方法も含めて)

(ア)実態把握の方法
 生徒の状況を把握するために、指導要録(抄本)、中学校訪問、健康カード等の保健情報、生徒、保護者向けアンケート、生徒・保護者に対する教育相談、教員を対象にした調査等から、実態を把握している。

(イ)生徒の実態
 平成13年度に、単位制による定時制・普通科(午前部)に改組された高校である。入学してくる生徒は、さまざまな問題を抱え、その問題が生徒の学校生活に大きく影響を及ぼしていることも少なくない。
 具体的な生徒の傾向としては、基本的な生活習慣が身に付いておらず、学習意欲が乏しい。自分の進路に対して明確な目標をもっていない。コミュニケーション能力が身に付いておらず、人間関係がうまくむすべない。また、家庭環境など生徒を取り巻く状況にも厳しい問題が存在している場合も少なくない。
 中学校時代に不登校、もしくはその傾向を有する生徒は例年多数入学しており、平成22年度入学生では31.3%であった。また特別支援学級在籍者は、6.1%であった。
 発達障害と診断された生徒は、平成22年度は、1年次生5名、2年次生1名、3年次生4名、4年次生1名となっている。他に、四肢の機能障害や特定疾患、精神疾患を有する生徒が在籍している。
 このように、不登校や学習不適応等の問題行動を有する生徒、発達障害を有する生徒などが混在しており、指導や対応に細かい配慮と工夫が必要である。

(ウ)教員対象による調査
 担任および授業担当者に生徒実態調査を実施し、特別支援教育支援員による学習支援対象者の選択資料とした。(平成21年11月、平成22年4月実施)
実態調査項目
A:社会性や対人関係で困り感のある生徒

  • 感情をコントロールできない
  • 周囲とコミュニケーションがとれない

B:自分の行動に困り感のある生徒

  • 不注意が多い
  • じっとしていられない

C:学習面で困り感のある生徒

  • ノートがとれない
  • 指示をなかなか理解できない
  • 授業に集中できない

 AとBの項目についての調査対象は学級担任、Cの項目は授業担当者とした。その結果は 次のとおりである。

項目 1年次(%) 2年次(%) 3年次(%) 4年次(%) 全校(%)
H21 H22 H21 H22 H21 H22 H21 H22 H21 H22

A

5.76 9.09 14.43 7.44 6.12 9.67 0.00 8.10 7.87 8.66
B 1.92 0.00 7.21 2.12 4.08 0.00 0.00 5.40 3.93 1.23
C 52.88 12.12 27.83 18.08 25.51 12.90 3.22 16.21 41.81 14.55
AB 0.00 0.00 1.03 0.00 0.00 0.00 0.00 2.70 0.30 0.30
BC 0.96 0.00 3.09 0.00 3.06 0.00 0.00 2.70 2.12 0.30
AC 1.92 2.02 6.18 2.12 1.02 2.15 0.00 2.70 2.72 2.16
ABC 1.92 0.00 2.06 0.00 1.02 0.00 0.00 2.70 1.21 0.30

 この結果から、学習面での困り感が際立っていることが分かった。

(エ)生徒対象のアンケート調査
 進路指導の一環として、全校生徒を対象に、就職・進学にあたり、心配なことがあるかどうかアンケートを実施した。(平成22年4月実施)

アンケートの内容

◎ 皆さんにとって、より良い進路指導に役立てるためのアンケートです。全員答えてください。
 就職・進学をするにあたり、心配なことがあれば( )に○をつけてください。
何個○をつけても良いです。

( )就職や進学をするために、何をやればよいかわからず、心配。
( )与えられた仕事がきちんとできるのか、大学や専門学校の勉強についていけるのか、心配。
( )仕事場・大学・専門学校まで、電車やバスを使って一人で通えるのか、心配。
( )仕事場・大学・専門学校で、ほかの人たちと仲良くしたり協力し合ったりできるのか、心配。
( )食事の準備や片付け、部屋のそうじ、洗たくなど、身の回りのことを一人でできるのか心配。
( )その他に心配なことがある。(  )

アンケート結果

年次 在籍 1個 2個 3個 4個 5個 1個以上
1年次 99
(割合)
17
17.2
21
21.2
11
11.1
5
5.1
11
11.1
65
65.7
2年次 94
(割合)
20
21.3
13
13.8
7
7.4
2
2.1
1
1.1
43
45.7
3年次 94
(割合)
16
17.0
17
18.1
15
16.0
7
7.4
2
2.1
57
60.6
4年次 37
(割合)
1
2.7
3
8.1
2
5.4
2
5.4
0
0.0
8
21.6
合計 324
(割合)
54
16.7
54
16.7
35
10.8
16
4.9
14
4.3
173
53.4

 この結果から、日常生活、就労、自立に不安をもつ生徒が、全校の過半数に達していることが分かった。

イ 指導方針
 本校の研究の取組では、発達障害の有無にかかわらず、一人一人の生徒に応じた支援を行うことを基本姿勢としている。
 そのためには、生徒の情報の収集、共有、支援の実践、評価という一連の流れがスムーズに行われるように、有機的な支援システムを構築する必要がある。
 システムについては、教育相談委員会が中心となって検討し、校内や関係機関との連携を強化し、多方面からの支援を模索する。

ウ 成果と課題
 組織面での考察を始めに行う。教育相談委員会という既存の組織を利用したメリットは、教育相談を組織的に行っていた本校のシステムをそのまま活用できたことがあげられる。委員会は、各分掌、学年から人選されたメンバーで構成されているため、情報の共有の面からも効果的であった。本校規模の限られた職員で新たな委員会の設置は物理的に難しいため、人員の効率化の面からもメリットといえる。しかしその反面、他の分掌との掛け持ちは役割、業務の過重となりやすく、会議運営に支障が出る場合も見られた。
 教員が日々の教育実践の中で、気になる生徒、指導に困難をきたす生徒を教員1人で抱え込まないように周囲でも支援することが、生徒支援を有効にする手段であると考える。そのためには、教育相談委員会が弾力的に運営され、かつ有効な情報交換、支援方法が話し合われること等が今後更に求められる。加えて炉辺談話的な職員の情報交換も大事にされていかなければならない。
 生徒の情報収集に関しては、さまざまな手立てを行っているが、中学校との連携が重要と考え、中高教育連携支援票、中学校訪問を実施している。
 さらに、入学が決まった段階で保護者へのアンケート調査を実施するが、個別の相談を希望する保護者も多く、保護者の要望を聞き取る有効な手段であると考える。入学早々の時期に日程調整を行い、教育相談委員会のメンバーや単位制活性化相談員で面談を実施した。
 個別の指導計画は、情報の共有、有効な支援方法の実施、検討において、その意義は大きい。これを土台とした生徒理解研修会、事例検討会等での意見交換は、支援の検討、評価に非常に有効であった。
 関係機関との連携においては、中学校との緊密な連携が、今必要な支援を模索するうえで、最重要だと考える。中・高教育連携票や中学校訪問は、今後も継続される必要がある。今後は個別教育支援計画への移行が課題である。それは連携なくしては成立しないものである。生徒の自立、社会参加の視点から、関係機関との連携は生涯に渡り有効な社会資源を活用するためのキーワードとなるものである。現在の、支援に必要と思われるときだけに連携をとるということから、地域での支援のネットワーク作りと定着、社会資源の有効活用を目指して、日頃からの積極的な情報発信も重要であると考える。

(2)発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫

ア 授業の際の配慮事項等

(ア)板書計画の工夫

  • 文字は大きく書き、色チョークや下線を工夫し重要事項を目立たせる
  • 配付したプリントと板書のレイアウトを同じようにする
  • イラストや写真、フラッシュカードを必要に応じて貼り、視覚化する
  • 板書量はなるべく少なくし、生徒のペースに合わせて板書のスピードを調整する
  • 難しい漢字には、ルビをふる
  • 図はなるべく単純なものを描く

(イ)教材やプリントの工夫

  • 穴埋めプリントの空欄には番号や記号を振り、該当箇所を見つけやすくする
  • 1授業完結型のプリントを作成する
  • プリントにはドリル形式を取り入れ、反復練習による定着を図る
  • 全員ができる課題と発展的な課題を用意し、全生徒に対応できるよう工夫する
  • DVD、パワーポイント等視聴覚教材を利用する
  • 使用するプリントは、記入欄を大きめにし、書きやすくする
  • 難しい漢字にはルビをふる

(ウ)指導方法の工夫

  • 一方的な説明にならないよう、言葉のやり取りをしながら授業を進める
  • ペアやグループでの活動を取り入れ、教え合い、学び合いを促す。その際、教師も活動の一員として参加する
  • 些細なことでも生徒の話に耳を傾け、コミュニケーションの場としての雰囲気作りをする
  • 指示は一つずつにし、繰り返し説明する
  • ティームティーチングを活かし、個別指導を充実させる(英語科、商業科)
  • 話はゆっくりと具体的にする
  • 生徒が板書しているときは話をせず、板書に集中させる
  • 繰り返しの学習の後、小テストを実施し、基礎的な内容の定着をはかる
  • ルールにとらわれず個々の能力に応じた練習をさせる。ゲームにおいても同じようにする

(エ)その他の工夫

  • 話題にメリハリをつけ、生徒が退屈しない授業を心がける
  • 積極的な参加はその場でほめる
  • 間違いを恐れない雰囲気作りをする
  • 生徒が活動する時間を最大限確保する
  • 問題行動があった場合は、なぜそれがしてはいけないことなのか理由を交えてその都度指摘する
  • 実習のときの班編成は、参加しやすくするため、生徒同士で決めさせ、その中に入れない生徒に声をかけてグループを作るようにする
  • 生徒を注意する際に、「~するな」ではなく「~やろう」と言うなど表現方法を工夫する

イ テストにおける配慮事項等

  • 授業の内容をまとめたテスト対策プリントを作成し、授業の中で取り組ませる
  • 必要生徒には別室受験で対応する
  • 難しい漢字にはルビをふる
  • 選択問題を多めに作る

ウ 評価における配慮事項等

  • 積極的な取組みが見られる場合は、その都度指摘して評価する
  • 文字表現が不得意な生徒のために、書いたものの評価だけでなく、口頭での表現も評価する
  • 平常点を重視し、提出物、授業態度、出席状況等も加味する

エ 成果と課題
 授業のユニバーサルデザイン化を指向し、様々な点から生徒の学習に取り組みやすい環境づくりを目指している。授業のユニバーサルデザイン化は、発達障害を有する生徒にとっては無くてはならないものであり、その他の生徒にとってもあれば便利なもので、すべての生徒が「わかる授業」となるには必要なものである。そこで、ユニバーサルデザイン化の指向における各教科の取組をまとめた冊子を職員へ配付し、情報を共有した。
 少人数授業や習熟度別授業では、生徒の一人一人に対してきめ細かい指導を行うよう目指しているが、個別に支援の必要な生徒は多く、全ての生徒に支援が行き届いてないのも現実である。また、生徒の欠時数が多く連続的な指導も難しいことも現状としてある。
 様々な取組がなされているが、成果として教員が本事業を通してより特別支援教育について意識し、学習支援方法を考えたという意識を改革したことが大きいと考えられる。
 今後も発達障害の有無に関わらず、さらに生徒一人一人の教育的ニーズの把握に努め、基礎学力向上のため、限られた人員と時間の中で、生徒に必要な支援を考えていかなければならない。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援

ア 支援の方策と内容

(ア)地域若者サポートステーションの相談員による就労面談
 村上地域サポートステーションの相談員に平成21年5月より月に1回から2回来校していただいた。就労が困難と思われる生徒に対し、保護者の了承のもと、学校生活や高校卒業後の進路を中心に面談を行った。保護者も生徒と一緒に面談を受けることもあった。

(イ)地域若者サポートステーションにおける職業訓練を通した交流活動
 平成21年の5月から平成22年の3月まで、不登校傾向にある生徒が村上地域若者サポートステーションに赴き、絵画、コンピュータ操作、料理など、自立に必要なことに複数名で取り組むことを通してコミュニケーション能力の向上を図った。

(ウ)ハローワークの学卒担当者による就労相談
 ハローワーク村上の学卒担当職員が平成22年5月より生徒の希望に応じて随時来校し、就職希望の生徒を対象に個別面談を行った。生徒たちはその中で職探しのポイントの指導や履歴書作成や面接に向けてのアドバイスを受けた。

(エ)県労働局で行う「ジュニアインターンシップ」の制度活用
 希望する生徒を対象に、地域の企業に3日間の就労体験を行った。平成21年度は3名、平成22年度は7名が参加した。

(オ)企業見学の実施
 働く意欲の向上を目的とし、希望する2年次生を対象とし、地元の企業見学を実施した。全体で16名の生徒が参加し、発達障害があると思われる生徒3名も参加した。

(カ)校地内の野菜畑と花壇を活用した体験学習型個別支援
 コミュニケーション能力を高める方法として、校地内の野菜畑と花壇を利用し、発達障害の有無に関係なく、特に希望する生徒を対象とし、野菜の栽培・収穫・販売と草花の栽培と花壇づくりの実習を、平成21年5月から10月と平成22年4月から11月の放課後および夏季休業期間を利用して実施した。

(キ)校外における農業体験
 本校は普通科だが、教科「農業」の科目を最大8単位選択することができる。農業に興味を示し、履修を希望する生徒も少なくないが、そのすべてを受け入れられないという現状がある。そこで、農作業に触れる機会を増やすことで、職業体験の一助、達成感を味わうことによる自信づけ及び集団で作業することによるコミュニケーション能力の向上につながると考え、地域の農家における農業体験の導入を試みた。
 平成21年9月、農業系の上級学校への進学を希望している3年次1名が、村上農業普及指導センターのご協力のもと、地域の指導農業士のお宅で一日農業体験を行なった。
 平成22年5月、全校生徒に「夏休み農業体験」の案内をしたところ、3年次2名と2年次1名が宿泊を伴う農業体験を、花壇作りにも参加した2年次2名が一日農業体験を希望した。いずれの生徒も、平成22年4月に実施した実態調査では就労に向けて不安を抱えている生徒で、特にコミュニケーション能力に関する不安を強く感じている。また、一日農業体験の参加を希望した生徒のうち1名は発達障害があると思われる生徒である。
 宿泊を伴う農業体験は、新潟県農林部が行う「高校生農業インターンシップ」に参加する形とし、村上農業普及指導センターの協力のもと、地元の指導農業士2名のお宅で2泊3日の日程で実施した。一日農業体験の受け入れ先は、就労支援担当のコーディネーターでもある本校の農業教員が地域の農家の方と直接交渉し、決定した。
 農業体験に先立ち、県内の農業高校で行われている体験学習のノートなどを参考に作成した「農業体験ノート」を使い、受け入れ先の確認、目標の設定や持ち物の確認および基本的な注意事項の説明を行うとともに、自己紹介の練習、挨拶の実践練習、状況に応じた行動の練習など、必要最低限のマナーについて指導を行った。挨拶や会話の練習は、就労支援担当のコーディネーターも相手役となって実際に近い形の練習となるよう心がけた。
 農業体験本番では、農場で働く皆様の指導を受けながら農作業を行うことで、技術や知識の習得や働くことの意義を考えられるようになることはもちろん、コミュニケーション能力の向上を図る絶好の機会となった。生徒は一日の農作業が終わった後、事前指導で目標を設定した「農業体験ノート」の中の自立チェックシートを記入し、それを受け入れ農家のご主人にもチェックしていただいた。これにより、書く能力や自分の意見を述べる能力、振り返りをもとに新たな目標を見いだす能力の向上を図った。また、就労支援担当のコーディネーターも現地に赴き、農家の意見を踏まえ、生徒に状況に応じアドバイスした。
 農業体験終了後、お礼状を作成するとともに、「自分からすすんで挨拶ができなかった」「わからないことを質問できなかった」「すすんで手伝いができなかった」などの反省点をあげ、それらを克服させるために今後の目標を設定し、その目標に応じ「農業体験後チェックシート」を作成した。農業体験に参加した生徒たちは、「自分からすすんで挨拶をする」「家の玄関掃除を毎日する」「1日1個以上、先生に質問する」など、各自が設定した目標にもとづいて、日常生活で実践し、一日の終わりに振り返り、就労支援担当のコーディネーターと「農業体験後チェックシート」の提出と添削を2週間に1回のペースで行い、目標の到達状況に応じて新たな目標を設定するという作業を繰り返し実践している。事後指導を繰り返すことにより、積極的な態度、話す能力、文章で表現する能力、自分で考えて行動する能力の向上を図っているところである。

イ 成果と課題

(ア)地域若者サポートステーションの相談員による就労面談
 地域若者サポートステーションの相談員による就労面談を受けた生徒たちは、就労への意識を高く持ち続けることにより自分の目指す職業や今後の生き方を見つけることができた。中には、就職試験の際の履歴書の書き方や面接練習にも自発的に取り組む生徒も見られた。翌年の春に卒業予定の生徒で面談を受けた生徒のうち、就職先・進学先を希望どおりに決定することができた者も少なくなく、10月下旬までに就職内定を得た者もいた。
 地域若者サポートステーションの協力を得ようとする際、保護者が子どもの発達障害を受け入れられず、協力が得られないケースもあった。どうすればより多くの保護者の理解が得られるのかという点は、今後の課題と言える。今後は、サポステの取り組み内容をさらにわかりやすく説明し、サポステの活用が子どもの人生にとって有益であることを理解してもらう必要がある。

(イ)地域若者サポートステーションにおける職業訓練を通した交流活動
 職業訓練を通した交流活動に参加した生徒は、不登校傾向は改善しなかったものの、高卒資格の取得と専門学校への進学という目標を見いだすことができた。今後は、高校卒業資格の取得の支援と、生徒の希望する職業と適性を十分考慮した上での進学への支援が求められる。

(ウ)ハローワークの学卒担当者による就労相談
 ハローワーク職員との面談を行った生徒の感想を聞くと、就職への不安が多少和らいだという意見が多かった。自分の希望を学卒担当者にうまく伝えられない生徒や、ハローワーク職員のアドバイスを理解できていない生徒も若干見られたことから、担任や進路指導部と連携の上、事前に生徒の希望を時間をかけて聞いた上でハローワーク職員にわかりやすく説明し、ハローワーク職員のアドバイスを生徒にかみ砕いて説明する形態で臨む必要があったものと思われる。

(エ)県労働局で行う「ジュニアインターンシップ」制度の活用
 参加した生徒の多くは、「やはり自分は製造の仕事がしたい」「今度は販売の仕事にも挑戦したい」「自分にはこの仕事は向いていないのではないか」など、職業について真剣に考えるようになった。ただし、ある程度コミュニケーション能力のある生徒にとっては、能力の伸長や就労意識の向上には効果的な手段であるが、発達障害があると思われる生徒に取り組ませる際には、事前に「ある程度のコミュニケーション能力」を身に付けさせる必要があることから、サポステや地域農家との携携だけではなく、今後は、アシストやライズの職員との個別面談や、アシストやライズにおける職業訓練も行っていかなくてはならないと思われる。

(オ)企業見学の実施
 発達障害があると思われる参加生徒の一人は、実際に仕事が行われている様子に触れることで、就労にはコミュニケーション能力が必要と気づき、サポートステーションにおける職業訓練やジュニアインターンシップへの参加を希望し、就労に向けての取り組みへのきっかけを得ることができた。しかし、発達障害の有無にかかわらず、生徒の中には企業見学の目的を理解していない者もいたことから、より一層の効果を求めるには、農業体験でも取り組んだような事前指導によって、必要最低限のマナーの習得や目的意識の向上をはかっておく必要があった。

(カ)校地内の野菜畑と花壇を活用した体験学習型個別支援
 花壇の試行に参加した生徒はわずかに4名であったが、栽培管理での職員や他の生徒との共同作業や販売実習で地域の人たちと触れ合うことは、コミュニケーショ能力を身に付ける一助となった。また、同様の取組みは農業科目の中でも実施されており、どの生徒も熱心に取り組み、それぞれに達成感を味わっていた。
 平成22年度も生徒の希望により花壇を作ることとした。植栽密度や花文字の見やすさについて話し合うなかで、内気な生徒たちも意見を述べるようになった。「畳2枚程度の花壇に200本は窮屈すぎる」「たくさん植えすぎると植える場所を間違えやすくて大変」「文字のところだけ植えれば見る人もわかりやすい」という意見をもとに、生徒が設計した図面にもとづき、花壇を作成した。現在、7枚の花壇を使っての「ARAKAWA」の花文字が校門付近を彩っている。

(キ)校外における農業体験
 平成21年度の実践で、外部機関との連携や体験学習が本校の特別支援においても有効であることを裏付けた。また、外部の人たちとのコミュニケーションの機会が適度に多い支援が好ましいと思われた。加えて、職業への興味の幅を広げ、適職を見出す機会を設ける意味で、様々な種類の体験学習が可能な体制が望ましいと思われる。したがって、地域若者サポートステーションとの連携に加え、村上市を中心に、新潟県内にある機関(ハローワーク、県農林部、専門学校等)で実施している体験学習や、地域若者サポートステーションで月に1~2回行っている職業訓練などの活用に向けた各機関との連携を今後の課題とし、平成22年度にはその第一歩として農業体験を導入することとした。
 事前指導では、最初、声も小さく、引っ込み思案だった生徒も、挨拶や自己紹介などの場面に応じた会話の練習を繰り返すことで声が大きくなり、態度も堂々としてきた。また、農業体験に向けての不明な点や不安なことなどを積極的に質問する生徒や、話すことができるようになった生徒も見られた。
 農業体験に参加した生徒たちは、「最初に大きな声で自己紹介をしたことで、気持ちが楽になり、農場で働く皆様から仲良くしていただけたので、どの仕事であっても、元気良く話すのが大事だと思った」「挨拶や返事をすることで、農家の皆様からも笑顔で応えていただくことができ、楽しく農作業ができたので、何をするにも挨拶や返事をして行こうと思った」「初めて体験する難しい農作業が多かったが、頑張ればできるようになれることを体験できたので、これからも勉強や部活を頑張って、立派に働ける大人になりたい」「農作業も楽しかったが、他の仕事にも挑戦し、自分に一番向いている仕事を探したい」と感想を述べ、全体として、様々なことへの意欲、特に働いて何かを得たいという気持ちを強くもったようである。
 現在、事後指導を始めてから4ヶ月が経過したが、農業体験に参加した5名とも、農業体験を通して気付いた、社会人としての自分に足りない部分の克服に向けて頑張っているところである。現段階ですべての成果を検証することはできないが、自分からすすんで挨拶をする頻度が高まりつつある、難しい課題にも積極的に取り組むようになる、少人数のグループの中でリーダーシップを発揮する機会が増えるなどの傾向が頻繁に見られるようになった。
 事前指導、農家での農業体験、事後指導のいずれにも共通して言えたことは、自分の意見を話すことができるようになった生徒が少なからず見られたことである。また、発達障害があると思われる生徒にとっては、農家という少人数の組織は、コミュニケーション能力を身につける入り口として適しているものと確信した。一方で、課題も少なからず残った。
 農業体験における農作業の指導について、農家の方々にかける負担が大きかったのではないかと反省している。農作業の事前指導も徹底して行うべきであった。
 就労担当のコーディネーター1人での対応が困難だった点も課題である。結果、農業普及指導センターの職員や受け入れ農家との連絡・打ち合わせに際し、学校に電話があっても就労担当のコーディネーターが出張等で不在であったり、打ち合わせの日時の調整がうまくいかなかったり等の支障を生み、多大なるご迷惑をおかけしてしまった。また、生徒の事前指導に十分な時間を確保することができなかった。
 今後は、インターンシップや企業見学の対応とも合わせて、「インターンシップ委員会」等を設置し、組織的に対応する必要もあるのではないかと思う。また、発達障害があると思われる生徒の中には、校外での活動が精神的な負担になることも考えられるので、花壇作りのほかにも、放課後等を利用した農作物の管理や販売等、職業体験につながることを取り入れてもよいのではないかと考える。

(4)全ての生徒に対する理解推進等の指導の在り方

ア 指導の工夫と取組
 人権教育の観点で、全般的な差別や障害についての理解を深めつつあるが、発達障害に焦点をしぼった指導は行っていない。
 教職員の発達障害を有する生徒への関わり方は、周辺の生徒の関わり方のモデルとなることを認識し、適切な発達障害の理解と支援につながるよう、職員研修を実施した。

イ 成果と課題
 一般の生徒への発達障害を理解させる指導は不十分であると考えられる。
 今後、個性の肯定的な理解を土台とした、発達障害の理解を深める講演会などの啓発活動を慎重に進める必要がある。また、個々の問題を有する生徒への特別な配慮については、保護者の意向を尊重しながら行わなければならない。

(5)教職員や保護者の研修等

ア 研修会開催の回数・時期・研修内容等

(ア)校内研修
平成21年度
 第1回 4月28日 前期生徒理解研修会
 内容 生徒についての情報を職員で共有する
 第2回 5月25日 特別支援教育研修会
 講師
 新潟大学教育学部 特別支援教育専修教授
 内容
 発達障害の理解と指導
 特別支援教育の在り方
 第3回 6月 9日 就労支援研修会
 講師
 発達障がい者支援センター「RISE」コーディネーター
 障がい者就業生活支援センター(アシスト)センター長
 越県域障がい者地域支援センター
 内容
 発達障害のある生徒の就労支援の概要と現状
 発達障害のある生徒の就労支援を本校で行うにあたっての助言
 第4回 7月8日 教育相談研修会
 講師 新潟大学医学部保健学科 教授
 内容 思春期・青年期の心理と問題行動
 第5回 10月5日 特別支援教育研修会
 講師 新潟大学教育学部 特別支援教育専修教授
 内容
 事例検討
 ソーシャルスキルトレーニングについて
 第6回 11月27日 後期生徒理解研修会
 講師 有田病院 臨床心理士
 内容
 教員による生徒の現状と指導・支援の方法についての意見交換
 担任発表の生徒の事例をもとに川尻さんより指導、助言

平成22年度
 第1回 4月16日 新任者対象研修会
 内容 新任者に対して、本校特別支援教育の取組を説明
 第2回 4月26日 前期生徒理解研修会
 内容 生徒についての情報を職員で共有する
 第3回 6月 3日 特別支援教育校内研修会
 講師 新潟大学教育学部 特別支援教育専修教授
 内容
 文部科学省ワーキンググループの提言について
 ユニバーサルデザインについて
 第4回 7月12日 特別支援教育研修会
 講師 新潟大学教育学部 特別支援教育専修教授
 内容 個別指導計画による事例検討
 第5回 7月22日 特別支援教育研修会
 講師 新潟大学医学部保健学科
 内容
 青年期の自傷行為について
 事例検討

(イ)校外研修
平成21年度
 第1回 6月22日 村上養護学校特別支援教育コーディネーター研修
 内容 コーディネーターの役割と発達障害について
 第2回 7月14日 新潟大学附属特別支援学校研修
 内容 授業参観と支援体制について
 第3回 8月25日 県立出雲崎高等学校シンポジウム
 内容 就労支援
 第4回 9月16日 特別支援コーディネーター研修
 内容 生徒の情報の共有方法について
 第5回 10月23日 新潟大学附属特別支援学校研究会
 内容 高等部の就労支援について
 第6回 10月27日 長野県立下高井農林高等学校
 内容 モデル事業報告会
 第7回 2月5日 長野県立望月高等学校
 内容 モデル事業報告会

平成22年度
 第1回 4月30日 新潟大学附属特別支援学校
 内容 SST授業について今井新郎特別支援コーディネーターより助言を受ける
 第2回 6月4日 文部科学省説明会
 第3回 7月27日 村上養護学校「特別支援教育研修会」
 内容 子どもの主体性と教師や友達とのかかわりを育てる授業づくり
 第4回 8月25日 出雲崎高等学校
 内容 高等学校における発達障害支援研究発表会
 第5回 9月15日「村上地域特別支援教育コーディネーター養成研修会」
 内容
 校内における特別支援教育の推進体制づくり
 発達障害のある幼児児童生徒への対応

(ウ)先進校視察
 モデル事業全般や特別支援教育について、取組状況の説明を受け授業参観等を行った。
平成21年度
 第1回 9月 2日 長野県立下高井農林高等学校
 第2回 9月 3日 長野県立望月高等学校
 第3回 9月 3日 群馬県立前橋清陵高等学校
 第4回 9月14日 東京都立世田谷泉高等学校
 第5回 9月15日 東京都立足立東高等学校
 第6回 9月15日 千葉県立船橋法典高等学校
 第7回 12月 8日 山形県立霞城学園高等学校
 第8回 12月 9日 茨城県立水戸南高等学校
 第9回 12月10日 富山県立志貴野高等学校

平成22年度
 第10回 2月22日 富山県立雄峰高等学校

(エ)研究報告会
 本事業2ヶ年の研究の成果を地域及び県内外に発信し、今後の高等学校における特別支援教育の推進と支援のあり方を検討するために、研究報告会を実施した。
日時 平成22年11月19日(金曜日) 午前10時~午後3時20分
場所 村上市荒川地区公民館
参加者 117名
内容
 1 研究報告
 学校紹介 研究の概要 主な実践の報告 総括 質疑応答
 2 指導・助言
 新潟大学教育学部 特別支援教育専修教授
 高等学校における発達障害支援モデル事業
 ~荒川高校の実践から学ぶ~
 3 特別講演
 横浜国立大学教育人間科学部 教授
 特別支援教育の視点を取り入れた学級経営
 ~クラスワイドな支援から個別支援へ~

イ 成果と課題
 職員研修等により生徒情報を、全職員で共有し、共通理解のもと支援・指導をしている。また、専門家からの指導により教員の専門性が向上した。この2年間に多様な職員研修を実施したが、職員アンケートの結果から有効であったという回答が多かった。
 発達障害理解、支援方法、生徒指導全般等に関連する書籍を職員の希望をもとに多数購入し、職員研修に役立てることができた。今後は教員の専門性の継承・発展のため研修を充実させ、さらに有効な支援・指導方法を考えていかなければならない。
 研究報告会には、高校の教員はもとより、地域の小学校・中学校の教員、福祉関係者等の多数の参加をいただいた。取組の一端を紹介することにより、荒川高校への理解と今後の関係機関との連携を土台とした多様な支援の可能性をうかがわせるものとなった。
 スーパーバイザーである長澤教授の指導・助言では、荒川高校の実践に対する評価と高等学校における特別支援教育の方向性を示していただいた。また、特別講演の関戸教授からは、豊富な事例や具体例をもとに、明日からの実践に繋がる興味深い内容を提示いただいた。
 参加者を対象にした事後アンケートからも、全校体制で組織的に取り組んだことや多様な支援方法の工夫についての感想や講師の先生方への賛辞が多く寄せられた。

(6)その他の支援に関する工夫
  1. 自習室の利用
     何らかの心身の理由から、教室で授業を受けることが困難だと認められた生徒には、登校機会の確保と授業参加のきっかけをつくるため、職員監督の下に自学自習を行う場として自習室を設置している。
  2. 特別支援教育支援員(以下「支援員」)の配置
    (ア)目的
     特別な支援を必要とする生徒の増加、生徒の抱える問題が多様化している状況のなかで、教員のみでは十分な支援を行うことが困難な場合があるため、支援員を活用し、より充実した支援を目指した。
    (イ)支援員の業務内容
     平成21年8月31日より、新潟大学教育学部の学生を本校支援員に配置した。当初の業務内容は、休み時間等に支援員室で、生徒に対する相談活動及び学習支援を行うのみであったが、さらなる支援員の有効活用を目指し、平成22年1月からは授業においても支援員による学習支援を実施した。授業では、学習指示の再確認、学習内容の補助指導、板書指導をしてもらった。
    (ウ)成果と課題
     支援員室には、様々な生徒が悩み相談や、テスト前の学習支援を求め通っていた。また、支援員との会話を大切にし、支援員室を心のよりどころとする生徒もいた。
     支援員による学習支援においては、生徒からは支援員が来るようになって授業が楽しみになった等の意見があり、担当教諭からも指示が生徒に行き渡るようになり助けられたなどの前向きな意見があった。
     以上のように、本校における支援員の導入は効果的であり、より生徒の教育的ニーズに応えられたのではないかと考えている。また、学生支援員は、生徒と年齢が離れていないこともあり、生徒にとって親しみやすく話しやすい存在であったといえる。課題としては、支援員が遠隔地からの勤務であることと、学生であるため定期的な勤務が困難であったことがあげられる。
  3. 集団でのソーシャルスキルトレーニング(以下SST)実施に向けた取り組み
    (ア)目的
     本校では、友人関係を上手く作ることができず、そのことが心身の健康に悪影響を及ぼすことも少なくなく、さらに対人トラブル・問題行動へと発展していく場合もある。そのため、発達障害の有無に関わらずコミュニケーションスキルを1年次から身に付けさせるためのSSTを実施することとなった。
    (イ)SSTの実施について
     集団でのSSTの実施は、本校において初めての試みであった。新潟大学附属特別支援学校の今井信郎特別支援コーディネーターによる指導・助言のもとで、1年次生全員に対して、総合的な学習の時間を用いて行った。実施前には1年次の教員がロールプレイで見せる演技のため、練習を行い本番の授業に備えた。
     目標を自分の立場と相手の立場を考えた上手な関わり方を知ってもらうこととして、2回のSSTを実施した。1回目のSSTは平成22年6月2日の実施で、内容は「レストランでの客と店員との上手な関わり方」、2回目のSSTは平成22年9月29日の実施で、内容は「上手な断り方」として行った。
    (ウ)成果と課題
     モデリング時には1年次の担任がロールプレイを見せることで生徒の関心を引くことができた。生徒の中にも自ら演技に積極的に参加する者もいた。そして、7割以上の生徒が関わり方のポイントを知ることができた。またSSTの授業を受けたいと答えた。
     今後はSSTを継続的かつ系統的に行い、生徒の発達段階と現状を踏まえ内容を精選し、総合的な学習の時間を活用した集団のSSTと個別のSSTを組合せながら、生徒が学校生活を円滑に送れ、さらには生徒の就労に結びつけることが今後の課題である。

2 研究の方法

(1)特別支援教育総合推進事業運営協議会の設置

 既存の教育相談委員会に、特別支援教育の機能を包括し研究を進めることとした。

ア 構成

NO 所属・職名 備考
1 新潟大学教育学部 特別支援教育専修・教授 スーパーバイザー
2 新潟県立荒川高等学校・教頭  
3 新潟県立荒川高等学校・教諭 教務 1年次担任 コーディネーター
4 新潟県立荒川高等学校・教諭 進路 4年次担任 コーディネーター
5 新潟県立荒川高等学校・教諭 生徒指導主事  
6 新潟県立荒川高等学校・教諭 生活 2年次担任  
7 新潟県立荒川高等学校・教諭 生活 1年次担任  
8 新潟県立荒川高等学校・教諭 進路 1年次担任   
9 新潟県立荒川高等学校・教諭 生活 4年次副任  
10 新潟県立荒川高等学校・常勤講師 保健 3年次副任  
11 新潟県立荒川高等学校・常勤講師 生活 2年次副任  
12 新潟県立荒川高等学校・養護教諭 保健主事 教育相談委員会委員長
13 新潟県立荒川高等学校・養護助教諭 保健  

イ 運営協議会開催回数・検討内容
 教育相談委員会を平成21年度は14回、平成22年度は、9回(2月末現在)実施した。

  • 「高等学校における発達障害モデル事業」、「高等学校における発達障害のある生徒の支援」計画の検討、実践
  • 「気になる生徒」「校内体制で支援が必要な生徒」の支援の検討、実践、評価
  • 各種研修会計画、実践
  • 教育相談の実施計画、自習室対象生徒審議
  • 特別支援教育支援員による学習支援について
  • 教員実態調査

ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策

(ア)コーディネーターを、教育相談委員会のメンバーから2名指名した。そのうちの1名は、進路指導、1年次担任、1名は、教務、1年次担任という校務分掌である。

(イ)個別の指導計画は、全校体制で支援が必要な生徒に対象を絞り、計画を策定し支援した。

エ 成果と課題

(ア) 今年度は、職員の発達障害理解と支援のスキルアップを中心目標にすえ各種研修会を実施し、一定の成果を得た。しかし、生徒支援の中核組織としての委員会の在り方は、回数や内容等を含め、改善を図る必要がある。

(イ) コーディネーター研修を、新潟大学附属特別支援学校や県立村上養護学校の協力を得て行うことにより、研修がさらに深まった。またコーディネーターが2名いることにより、業務の分担が行われ、特別支援教育を推進する基礎となった。

(ウ)個別の教育支援計画作成
 特別支援教育の根幹である「個に応じた支援」を進めるために、個別指導計画に基づく支援を実施した。個別指導計画を、支援方針を全校の教職員で共有し理解するための土台であるとし、また支援が効果的であったか否かを評価するベースになるものと捉えている。平成21年度、22年度と個別指導計画の立案と実践に対する研修会を実施した。特に22年度は、個別指導計画に基づく事例検討会をスーパーバイザーの指導のもとに行った。今までの事例検討会では、職員間の情報の共有と支援に対する共通理解がなされ一定の成果を得てきたが、個別指導計画による支援という、目標や時期を明確にした支援は始まったばかりであった。今後は学年や学校全体での支援が必要な生徒には、作成していく必要がある。まず作り、それを実践し修正を加えていく。また必要であれば教育相談委員会やコーディネーターがバックアップするなどの体制も重要である。ひいては、これらの個別の計画を立案、実践、評価していくことが、生徒支援システム構築の一番の近道になるとも考える。今後高校においては将来の自立と社会参加を指向して、個別の教育支援計画による実践がより一層求められている。その生徒のライフスパンを見据えた長期的な観点に立った支援と今の問題に必要な支援という、縦と横の支援を考慮した計画が必要である。そのためには、現在クリアすべき課題がいくつか考えられるが、今後保護者の理解も得た、実効ある計画策定を急がなければならないと考える。

(2)専門家の活用

ア 構成

NO 所属・職名 備考
1 新潟大学教育学部 特別支援教育専修・教授  
2 新潟大学教育学部附属特別支援学校  
3 新潟県立村上養護学校  
4 村上地域若者サポートステーション  
5 新潟大学医学部 保健学科・教授  

 平成21年度はチームを編成せず、スーパーバイザーを新潟大学教育学部 長澤正樹教授に委嘱し、モデル事業全般に指導助言をいただいた。平成22年度は、長澤教授に加え、地域の特別支援学校、就労支の充実を図るために地域若者サポートステーション等に協力を要請し、活動した。

イ 専門家の活用状況

(ア)事業の計画立案、実践、評価

(イ)職員研修の講師

(ウ)特別支援教育支援員配置について
 この他にも適宜指導と助言を受けた。

ウ 成果と課題
 長澤教授の指導と助言は2年間の研究の指針となった。平成22年度からは、これまでに研修や生徒支援等で指導、助言を受けた関係機関の方々に専門家チームとしてご協力いただけたことは、大変に心強いものであった。今後も特別支援学校や地域の関係機関等との連携を密にしていきたいと考える。

(3)関係機関との連携

ア 他の高等学校や技能教育施設、特別支援学校との連携

(ア)新潟大学教育学部附属特別支援学校との連携
 平成21年7月14日の特別支援教育コーディネーター研修、平成21年10月23日の特別支援教育研究会に参加して、特別支援学校ならではの、現場実習を中心とした授業の進め方などについて学ぶことができた。また、平成21年11月5日には、本事業の進め方に助言をいただいた。平成21年度には、SSTの授業実施に際し、指導案の検討、授業見学、指導・助言をいただいた。

(イ)県立村上養護学校との連携
 平成21年6月3日に本校における特別支援教育の進め方について助言を受けたほか、平成21年6月22日、9月16日、平成22年7月27日、9月15日の特別支援コーディネーター研修や特別支援教育研修では、個別支援の計画と職員間の情報の共有方法について学んだ。

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携

(ア)ハローワークとの連携
 就職を希望する生徒を対象として就職の情報提供や助言を受けてはいるが、特別支援の観点からの連携は実施しなかった。

(イ)地域若者サポートステーションとの連携
 村上地域サポートステーションの相談員に、個別支援を必要とする生徒を対象として月1~2回の就労面談をしていただいたほか、特に希望する生徒がサポートステーションを訪問し、絵画やパソコン操作などの体験学習に参加した。

(ウ)下越圏域障害者地域生活支援センターとの連携・はまぐみ小児療育センターとの連携
 平成21年度に発達障害のある生徒の就労支援の一連の流れについて現状の説明を受けるとともに、本校で就労支援を行う上での助言をいただいた。平成22年度に関しては、平成23年1月27日に村上市ふれあいセンターで行われた「親と支援者のための療育講座ADHD講座inむらかみ」にて様々な発達障害における支援方法について学ぶことができた。

ウ 地域の教育施設や人材等の活用
 平成21年度より新潟大学教育学部との連携を図った。長澤教授には、本事業のスーパーバイザーとして指導助言をいただいた。また、特別支援教育支援員として、同大学学部生および大学院生を採用し、ピアカウンセリングの立場にたった相談活動や学習支援活動を行った。
 平成22年度は村上農業普及指導センターの協力を得ながら、地域の人材活用を農業体験において試みた。

エ 成果と課題
 地域サポートステーションの相談員との連携と学習支援員の導入および地域農家の方々からは、直接生徒の支援をしていただき、大きな効果をあげることができた。さらに幅広い連携をすることで、生徒に直接的に、より効果的な支援ができるものと考えられる。一般的に、子どもの健全な育成には地域のもつ力の活用が望ましいとされているが、地域に在住する専門家の発掘や産業現場の活用により、本校の特別支援教育も大きな進歩を遂げられると考えられる。
 農業体験における地域農家との連携については、夏季休業期間中という限られた時間の中であったものの、就労への意欲向上やコミュニケーション能力の定着に効果が見られた点から、農作物の栽培を最初から最後まで体験させることで、作業能力の向上はもちろん、より一層の達成感から生じる就労への意欲向上が期待できるので、長期休業期間中だけではなく、年間を通しての連携が望ましいと考える。
 したがって、幅広い分野の産業現場において、随時連携および体験学習のできる状態を作り出し、保ち続けることが理想的であると言え、それを実現するためにも地域の産業現場や住民の皆様への説明や呼びかけを綿密に行い、本校の生徒の傾向についてのご理解と特別支援教育へのご協力を得られるように努力すべきである。
 インターンシップや農業体験は地域への直接的参画となるので、地域の皆様に迷惑をお掛けすることがないよう、必要最低限の社会性を本校生徒に身に付けさせることが必要である。そのためには、生徒が社会規範について意識できる機会はもちろん、SSTの機会も日常的に設けられる指導体制の整備が今後の課題となっている。
 荒川高等学校でこそ機能し得る支援体制を作り出していくためにより一層地域との連携を強化する必要がある。
 特別支援教育は、一人ひとりの教育的ニーズを尊重した「合理的な支援を行う教育」である限り、日々の教育実践の中で、効果的に支援できる方法を検討し、継続されるべきものである。そのためには、すべての学校において、発達障害の知識は言うに及ばず、豊富な支援経験を有する人材が、校内外から確保される体制作りが高等学校でも急務である。

(4)関連事業等との連携

 特記事項なし

3 今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

 学校で様々な児童生徒が共生することは、様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となるものである。
 通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒の割合は6.3%であり、教師も生徒も特別な教育的支援の必要な児童生徒を自然なかたちで受け入れられなければいけない。
 そのためには、学校の体制を整え教師が特別支援についての知識を持ち支援をしていくこと。さらに、特別な教育的支援の必要な児童生徒に対して、そうでない児童生徒がどう関わるのかを教育していくことが大切なことであると考える。生徒同士が個々の違いを認識し、他者が困っているときは、相手の主体性を尊重しつつ支援できるよう、教師や保護者といった大人が教えてあげる必要がある。児童生徒を取り巻く社会全体が特別支援を意識し、支援を求めている者がいれば手を差し伸べることが、もっと当たり前に思えるようにならなければいけないのではないか。

4 その他特記事項(エピソードを含む)

 農業科学基礎の授業や放課後活動を通して、野菜の栽培や販売に興味をもった生徒がいた。その後さらに学びを深めたいと、農業普及指導センターが紹介する農業体験にも参加し、農業系の上級学校への進学を決めた。
 農家における農業体験では、参加したすべての生徒が「立派な自己紹介ができ、挨拶も良く、農場で働く皆様の話をよく聞き、一所懸命に農作業を行うことができた」とのお褒めの言葉を受け入れ先の農家のご主人より頂くことができた。中には、農業体験終了の別れ際に涙を流すほどのすばらしい体験ができた生徒もいた。
 このように、就労に対する具体的なイメージをもちやすい体験型の学習形態は有効であるばかりでなく、人格の形成、人間的な成長にも大きな役割を果たせるものと考える。したがって、体験型の学習の機会をより多く取り入れるべく、一層の工夫と推進を図る必要がある。

5 総括

 特別支援教育の理念と実践は、法体系の整備に後押しされ、小学校、中学校では確実に浸透してきたと思われる。しかし、その支援を受けてきた児童、生徒の次の進学先である高等学校では、特別支援教育のハードもソフトも十分とはいえない中で、目の前の生徒に向き合わなければならない現実がある。それは本校にも当てはまり、自分の意に沿わないことに我慢できずパニックを起こす生徒、対人関係につまずき孤独感にさいなまれる生徒など、日々この生徒たちをどう支援をしていけばよいのか、真剣に悩む職員の姿があった。それに加えて、単位制高校という、ゆっくりと自分のペースで学びが選べるという多様な学びを保証する学校は、学力的にも幅広い生徒が集まり、かつ受け入れていく学校である。職員は、この多様な生徒に対応するためには、学習指導、生徒指導はもちろんのこと、特別支援教育についても精通していることが必然的に求められたのである。
 しかし、特別支援教育、発達障害という言葉は知っていてもそのような生徒に初めて対応する職員も少なくない状態の中では、特別支援教育がどういうものであるか、何を目指していけばよいのかという土台から、しっかりと学ばなければならない2年間でもあった。
 そしてこれらを研修や実際の生徒との対応で培った職員の専門性の向上こそが、今後も引き継がれていかなければならない最大のものであると確信する。
 特別支援教育に対する教職員の思いのないところでは、組織は存在しても形骸化し、実効のあるものとはならない。反対に不十分な体制であったとしても、その理想を追求していくという思いがよりよい支援を作り出すのだと考える。
 2年間の指定が終わったのちも、生徒一人一人の教育的ニーズに応じた支援は継続されていくものである。職員の専門性の向上を財産に、さらに学校という枠を超えた支援の広がりを一層模索していかなければならないと考える。
 緊迫した地方財政状況において、特別支援教育支援員等の外部の人材登用などは困難な面もあるだろうが、一層の財政支援に期待するところである。

6 モデル校の概要

1 学級数と生徒数(平成22年5月現在)

課程 学科 1学年 2学年 3学年 4学年 合計
学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数
定時制 普通科 3 99 3 94 3 93 2 37 11 323

2 教職員数(平成22年5月現在)

校長 教頭 教諭 養護教諭 実習助手 養護助教諭 常勤講師 非常勤講師 事務職員 学校技術員 その他
1 1 25 1 1 1 6 6 3 2 4 51

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成24年10月 --