都道府県名 広島県
指定校名 広島大学附属東雲中学校
障害のある生徒と障害のない生徒の人数の比率を変えた交流形態を意図的に試み、その活動の様相から、よりよい交流及び共同学習の形態の在り方を探り、どのように交流及び共同学習を行うことが真の相互理解を図ることに有効であるかについて明らかにする。
(1) 道徳・特別活動の年間計画を再編する。
(2) 少数の通常の学級の生徒と多数の特別支援学級の生徒との交流及び共同学習を学級活動の時間や昼食時間、行事において意図的に設定する。
(1) 事前事後のアンケート、行事に関するアンケートを実施し、特別支援学級の生徒の意識変化を比較・検討する。
(2) 事前事後のアンケート、行事に関するアンケートを実施し、交流及び共同学習に参加させる回数の差異による通常の学級の生徒の意識の変容を比較・検討する。
(3) 教師による行動記録を通して、生徒の変容をみる。
(1) 道徳・特別活動の年間計画の再編
本校では、人権・道徳・特別支援教育推進委員会を中心に、道徳の時間、日常生活における人権・道徳・特別支援教育の企画・立案及び推進を行っている。
本年度当初に通常の学級、特別支援学級双方の生徒の実態を鑑みて、学習指導要領(道徳)の内容項目である「強い意志」(1−(2))、「向上心・個性の伸長」(1−(5))、「生命の尊重」(3−(2))、「集団生活の向上」(4−(1))に特に重点を置き、指導計画を作成し、道徳の指導に当たった。また、日常生活の指導(行事の取組等を含む)においては、本校指導部等との連携を基に、校内支援体制を強化するように努め、障害者理解をはじめとした通常の学級の生徒と特別支援学級の生徒の日常・学校行事における交流をより自然なものとするように検討を重ねた。
特別支援学級の生徒を含めた全校生徒が参加する学校行事は、合唱コンクール、体育祭、文化祭があり、それ以外に学年生徒全員による学年行事を年間に1回ずつ実施する。入学後すぐに実施する第1学年での野外活動の主なねらいは、「自らが所属する学年集団の意義についての理解を深め、役割と責任を自覚すること」、「特別支援学級の生徒と通常の学級の生徒の交流及び共同学習を通して、互いに理解し合う態度を育てること」であり、卒業まで同じ学年集団として学校生活を送るための意識作りの位置付けとした。第2学年で実施する修学旅行、第3学年での校外学習においても、「特別支援学級の生徒と通常の学級の生徒の交流及び共同学習を通して、互いに理解し合う態度を育てること」を目的の一つして実施することとした。特別支援学級の生徒への事後調査では、各行事においての活動そのもの(野外活動でのキャンプファイヤー、修学旅行でのスキー講習、校外学習での奉仕活動)については内容が理解でき、楽しく参加できたが、行事全体を通しては、通常の学級の生徒との会話ができず、集団活動に参加できないための寂しさがあったという回答であった。しかし、学年による差異もあり、学年が進むにつれて「通常の学級の生徒がうまくサポートしてくれる」「学年行事がもう少しあっても良い」などの肯定的な回答も増えており、3年間を見通した行事の立案・実施は、交流及び共同学習として効果を上げつつあると考えられる。また、学校行事においては、縦割り係活動による生徒の自主的な運営が本校の特徴としてあげられる。生徒の自主的な活動の中で、「特別支援学級の生徒と通常の学級の生徒の交流及び共同学習を通して、互いに理解し合う態度を育てること」も目標の一つとしたが、自主的な運営を通常の学級の生徒中心に行わせることは、生徒にとって行事を無事終わらせるだけでかなりの負担になっており、この目標の達成率は低かった。事後の意識調査においても、「通常の学級の生徒が多い所では、活動しにくい」、「通常の学級の生徒に何か言われそうでこわい」、「特別支援学級の中での活動で出せている力が出せない」など目標に反した回答が特別支援学級の生徒から多く出された。
生徒会委員会活動においては、生徒の自主活動であり、特別支援学級の生徒への適切な支援が生徒同士では行いにくく、検討される内容等が特別支援学級の生徒には理解されにくいものとなってしまった。今年度もこの部分の改善をうまく進めることができず、「話の内容がよく分からないから、つらい」、「意見を言いにくいし、言ってもちゃんと聴いてもらえない」といった意見が出されており、次年度の課題として残った。また、部活動においても、人数比があまり変わらない部活動では、比較的通常通り活動が出来たが、多数を通常の学級の生徒が占めるものでは、孤立しがちであった。
(2) 本校生徒の意識調査
今年度計画した、少数の通常の学級の生徒と多数の特別支援学級の生徒との交流及び共同学習を実施するに当たり、通常の学級、特別支援学級双方の生徒の意識の予備調査を実施するためのアンケートの作成を行った。以下、調査項目の作成と選定に向けて留意したことを記す。
1 特別支援学級の生徒の通常の学級の生徒に対する意識調査
本校特別支援学級は、各学年に一クラス設置されており、クラス定員を各学年8人としている。本年度は、一年生3名、二年生8名、三年生8名の合計19名の生徒が在籍している。生徒たちは、中・軽度の知的障害を有しており、個別の指導計画に基づき特別支援学級において集団、個別の支援を受け学習している。
番号 | 質 問 の 内 容 | 回答 | |||
そう思う | 少し そう思う |
あまり 思わない |
そう 思わない |
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1 | 1・2組の生徒は、1・2組の生徒だけで勉強するのがよい | ||||
2 | たくさんの1・2組の生徒の中に1人でいると、きんちょうする | ||||
3 | 1・2組の生徒と話をする時、自分が傷つけられるかもしれないと思って不安になる | ||||
4 | 1・2組の生徒は意地っぱりで、人の意見を受け入れない傾向にある | ||||
5 | 1・2組の生徒と自分1人で関わるのはいやだ | ||||
6 | 1・2組の生徒と同じグループで勉強をしたい | ||||
7 | 1・2組の生徒といっしょに普通の学校で勉強することができる | ||||
8 | 1・2組の生徒を手伝うことができる | ||||
9 | 1・2組の生徒と一緒の活動に、せっきょくてきに参加したい | ||||
10 | 1・2組の生徒の教室に1人で行くと、きんちょうする | ||||
11 | 1・2組の生徒は、私と会うたびに、やさしくしてくれる | ||||
12 | 1・2組の生徒は、私とくらべて、おおきなちがいはない | ||||
13 | 1・2組の生徒とも、友だちになりたい | ||||
14 | 1・2組の生徒がいないと、私は生活できない | ||||
15 | 1・2組の生徒にも、一人ひとりの良さがある | ||||
16 | 1・2組の生徒は、私が他の生徒からいじめられていたら知らないふりをする | ||||
17 | 1・2組の中でも1人になることはなく、しぜんに活動できる | ||||
18 | 1・2組の生徒が、3組の教室に1人で来たときには、きんちょうしない | ||||
19 | 1・2組の生徒は、みんな同じだ | ||||
20 | 1・2組の生徒と仲間になりたくない | ||||
21 | 1・2組の生徒は、なんでもできる | ||||
22 | 1・2組の生徒についてもっと知りたい | ||||
23 | 1・2組の生徒と3組生徒が同じくらいの数なら、楽しく活動できる | ||||
24 | 1・2組の生徒は、私のことを年下あつかいする | ||||
25 | 1・2組の生徒と一緒の活動に参加したくはない | ||||
学年 | 1 | 2 | 3 | ||
性別 | 男 | 女 |
本校では、教科学習での交流は実施しておらず、日常生活や行事での交流が主なかかわりとなっている。行事等でのかかわりにおいては、場面によってかかわる人数比が異なり、その時々で互いが受ける印象が異なってくるのではないかと考えられた。このような実態のため、意識調査のアンケート(図1)の作成に当たっては、特別支援学級の生徒が学校生活全般を通して通常の学級の生徒(本校では、1、2組が通常の学級のためアンケート中では1・2組と表記している。)に対して抱いているイメージを問うもの(1、4、7、8、11、12、14、15、16、19、21、24)と交流及び共同学習を具体的にイメージしやすく、人数比を含め、それそのものの在り方を問うもの(2、3、5、6、9、10、13、17、18、20、22、23、25)をランダムに配置した。また、個々の項目の表現では、肯定的な(プラスイメージとして受け取れる)表現と否定的な(マイナスイメージとして受け取れる)表現を意図的に配置するとともに、同一の内容を逆の意味の表現で提示すること(1と7、13と20、9と25)で、意識の比較ができるように考慮した。実施は、各学級において四段階尺度選択で行い、本校特別支援学級の生徒19名を対象とする。
2 通常の学級の生徒の特別支援学級の生徒に対する意識調査
通常の学級の生徒に対する意識調査のアンケートは、生育歴の中での障害者理解の学習やボランティア体験等の実情を問うものと特別支援学級の生徒に対する一般的なイメージと交流及び共同学習を具体的にイメージしやすく、人数比を含め、
番号 | 質 問 の 内 容 | 回答 | |||
そう思う | 少し そう思う |
あまり 思わない |
そう 思わない |
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1 | 障害のある生徒は障害児の学校だけで勉強するのがよい | ||||
2 | 障害のある生徒は大変なことがあるとすぐあきらめてしまう | ||||
3 | 障害のある生徒と話をする時、自分が彼らを傷つけるかもしれないと思って不安になる | ||||
4 | 障害のある生徒は意地っぱりで、人の意見を受け入れない傾向にある | ||||
5 | 障害のある生徒に自分1人で関わるのは嫌だ | ||||
6 | 障害のある生徒と同じグループで勉強をしたい | ||||
7 | 障害のある生徒も普通の学校で、私たちと共に勉強することができる | ||||
8 | 障害のある生徒も私たちを手伝うことができる | ||||
9 | 障害のある生徒と一緒にいれば、不便なように感じられる | ||||
10 | 私の学級に障害のある生徒がいれば、勉強のじゃまになるのでいやだ | ||||
11 | 障害のある生徒の教室に1人で行くと、緊張する | ||||
12 | 障害のある生徒と会うたびに、彼らに対して特別やさしくしてあげようと思う | ||||
13 | 障害のある生徒も我々とくらべて、特別な違いはない | ||||
14 | 障害のある生徒と一緒の活動に、積極的に参加したい | ||||
15 | 障害のある生徒は、私たちがいないと生活できない | ||||
16 | 障害のある生徒は普通の学校では、適応することができない | ||||
17 | 障害のある生徒も、一人ひとりの良さがある | ||||
18 | 障害のある生徒が他の生徒からいじめられていたら、知らないふりをする | ||||
19 | 集団の中でも障害のある生徒が孤立することはなく、自然に活動できる | ||||
20 | 障害のある生徒と友だちになるのは恥ずかしいことである | ||||
21 | 障害のある生徒を手伝うためのボランティア活動に参加したい | ||||
22 | 障害のある生徒と一緒に仕事をすれば、損をするので共に働きたくない | ||||
23 | まつばづえを使用している障害のある生徒のカバンを持ってあげたい | ||||
24 | 障害のある生徒は、みんな同じで個性はあまりない | ||||
25 | 障害のある人を手伝うための募金活動に積極的に参加したい | ||||
26 | 障害のある生徒と仲間になりたくない | ||||
27 | 障害のある生徒が側で食事をしていると、食欲がなくなる | ||||
28 | 障害のある生徒は、私たちの活動のじゃまになるので参加してほしくない | ||||
29 | 障害のある生徒は、できないことばかりだ | ||||
30 | 障害のある生徒についてもっと知りたい | ||||
31 | 障害のある生徒は障害を克服するために努力している | ||||
32 | 障害のある生徒には、年下のように接する | ||||
33 | 障害のある生徒と一緒の活動に参加したくはない |
それそのものの在り方を問うものをランダムに配置したもの(図2)を作成した。
図2のアンケートは、特別支援学級の生徒の意識調査の調査項目と対比させて構成し、調査結果の比較・検討が行えるものとした。また、特別支援学級対象のものよりも質問項目を増やし、学校生活以外での障害者に対する意識を問うものも織り交ぜることで、交流及び共同学習についての項目が際立たないように設定したこと、特別支援学級のものと同様に逆の意味の表現を用いた質問を配置したことなどが、留意点としてあげられる。
(1) 成果
研究経過にも記載している通り、よりよい交流及び共同学習の形態の在り方を探る上で、道徳と特別活動の年間計画を再編し実践してきた。また、今年度の活動を通して、少人数の通常の学級の生徒と多数の特別支援学級の生徒との交流及び共同学習における生徒の意識変化を比較・検討するためのアンケートを作成して実施した。本アンケートについては、今後、結果集約とそれに基づく考察を行い、次年度の交流及び共同学習における生徒のかかわりについて検討していく。
(2) 課題
年間行事を含め日常的な生活場面における通常の学級の生徒と特別支援学級の生徒の交流の在り方について、目的を再認識しながら、取組を行ってきたが、今年度においては、まだ十分な成果を上げるに至っていない。通常の学級における道徳の時間での障害者理解にかかわる授業の実施時期・内容・方法をさらに充実させ、年間計画をさらに改善していくことが必要と考えられる。また、校内委員会を中心として特別支援学級の生徒との交流だけではなく、通常の学級に在籍する特別な支援を要する生徒への支援体制を確立していくことが次年度の課題である。
アンケートの結果を基にした交流及び共同学習の実践・検討を行い、活動に参加させる回数の差異及び活動における人数の差異による通常の学級の生徒の意識の変容を比較・検討する。
初等中等教育局特別支援教育課
-- 登録:平成21年以前 --