職業自立を推進するための実践研究事業中間報告書

都道府県名 千葉県
地域名 君津地域

1 研究のねらい

 児童生徒の進路指導の充実及び高等部卒業後の職業自立の推進を図るため、教育、福祉、労働関係機関、企業等の緊密な連携協力体制を作り、障害のある生徒の職業自立の支援の在り方に関する方策を以下のような視点で探っていく。
(1) 就労を希望している生徒への支援の方法
(2) 家庭環境や本人の問題から就労が困難な生徒への対応の方法
(3) 就労後の定着に向けた有効な個別の教育支援計画(個別移行支援計画)の活用の見直し
(4) 学校、家庭、地域等の進路に向けた意識の向上と情報の共有化

2 研究内容

(1) ハローワークとの連携を図り、共に職場開拓を行い、雇用先や実習受け入れ先の 拡充を図る。
(2) 就労サポーターの派遣により職業・作業学習・現場実習の指導内容、方法の改善を行う。
(3) 学校職員の就労支援に関する研修会の充実を図る。
(4) 有効な活用に向けた個別の教育支援計画(個別移行支援計画)の見直しと、個々の実態に応じた就労支援を行う。
(5) 就労支援ネットワークを構築する際の課題を明らかにし、より良い連携協力体制の在り方を探る。

3 評価の方法

(1) 以下の観点について、実習先や連携協議会の場で評価する。

  1. 就労を希望している生徒、就労できる力を持っている生徒が進路先に結び付くことができたか。
  2. 就労を目指す生徒の職業教育の内容の充実ができたか。
  3. 個別の教育支援計画(個別移行支援計画)の有効な活用に向けての見直しができたか。
  4. 連携協議会の設置により、連携のネットワークが、今までよりスムーズに動くことができたか。

(2) 職業自立に向けた取組について、学校内部評価、外部評価をとる。
(3) 職業自立に向けた取組について、生徒へのアンケートを実施し、効果を知る。

4 研究経過

平成19年度事業実施日程

事業項目 実施日程
5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
連携協議会                
研修会            
先進校視察              ○○○○  
就労サポーター            
アンケート調査                  
リーフレット        ○
チェックリスト              
事例研究    

(1) 職業自立連携協議会の設置

 これまで本校では、生徒の就労を支援するに当たり、必要に応じて関係機関の協力を求めていたが、多くの機関が一堂に会し、定期的に開催される連携協議会のような組織はなかった。今回、本研究を進めるに当たり、本校では、労働、福祉、企業等の10機関の協力を得て、職業自立連携協議会を立ち上げた。これらの機関はいずれも本校の生徒たちをよく知る地域の支援機関であり、本協議会はそのまま支援ネットワークともなる組織である。職場開拓や就労先開拓、「作業学習」や「産業現場等における実習」の指導内容・方法の改善、個別の教育支援計画(個別移行支援計画)に基づく就労支援システムの構築など、障害のある生徒の職業自立を推進する上で、協力機関からの意見を取り入れ、効果的な就労支援の在り方を探るためのものである。
 今年度は、3回協議会を開催し、効果的な就労支援のための様々なアドバイスをいただいた。

1 第1回職業自立連携協議会(7月9日実施)

a 内容

 校内参観の後、本校の概要と高等部卒業生の進路状況、そして本研究の目的、内容等を説明し、研究の進め方について意見を求めた。

b 検討事項及び意見、アドバイス
  • アセスメントでは、障害者職業総合センターの就労移行支援のためのチェックリストが参考になる。
  • 本研究では対象者について一般就労を目指す生徒に限定すると焦点化しやすい。
  • 事業所等に学校や障害者に対する理解を求める時には、ここぞという売りを出すことや相手側にもメリットがあるように留意するとよい。

第1回職業自立連携協議会の様子

2 第2回職業自立連携協議会(11月26日実施)

a 内容

「作業学習」の授業参観後、試作した職場開拓用リーフレット、アセスメントのためのチェックリスト、個別の教育支援計画(個別移行支援計画)等の説明をし、それらの改善・見直しについて協議した。

b 検討事項及び意見、アドバイス
  • リーフレットは、就労か、実習先開拓か目的によって内容が検討されるべきである。受け入れ側にもメリットがある印象が持てるものを出してはどうか。
  • チェックリストは、就労を目的に作成し、理解面だけでなく実際にできるかどうかの視点で考えた方がよい。また、生徒と一緒にチェックすることで意識付けにも活用できる。
  • 授業の参観では、完成度の高い作業や技術的なアドバイスも大切ではあるが、「作業を通して就労する力を付ける」という意識が必要である。

3 第3回職業自立連携協議会(1月28日実施)

a 内容

アドバイスを得て改善したリーフレットや個別の教育支援計画(個別移行支援計画)について協議し、1年次のまとめを行った。

b 検討事項及び意見、アドバイス
  • リーフレットでは、職場実習の説明で「契約書を取り交わす」より、「手続きを取り交わす」と書いた方が企業側からすると実習生を受けやすい。
  • 就労を考える時には、離職した原因の分析や定着率の面からも探ってみた方がよい。就労支援とともに生活支援が職場定着に向けてはとても大切になる。就職がゴールではなく、スタートであるという意識を本人・保護者が抱くよう支援していくとよい。
  • 個別の教育支援計画(個別移行支援計画)の活用では、本当に困った時や、本人が必要としているサービスに対して、誰が最もふさわしいのか決めることや、活用する本人・保護者が計画書の理解を深めることが大切である。

(2) 研修会の充実

生徒や保護者、教職員を対象に下表のような就労及び就労支援に関する研修会を実施した。

研修項目 対象者 内容
就労支援セミナー 高等部就労希望2・3年生保護者、高等部職員(担任) 企業における障害者雇用、障害者就労支援の取組等
就労アドバイザー 高等部生徒、保護者 企業が求める人材像
全校職員 職業教育に企業が求めるもの
先進校視察報告 高等部職員 他校における就労支援の先進的な取組
就労サポーター 高等部職員 職業教育に関して
事例研究 高等部職員 ケース検討

1 就労支援セミナー(11月30日)

講演 「企業における障がい者雇用」 〜先輩、保護者からのメッセージ〜
説明 「千葉県における障害者就労支援の取組」他
講師 株式会社さくらサービス 取締役 宮嶋 正人 氏 他

 厚生労働省の障害者就労支援基盤整備事業の一環として行われたセミナーで、本校を会場に開かれたものである。対象者は高等部2・3年生の就労希望者と保護者、担任で、本校参加人数は58名である。講師となった本校卒業生の「つらいことがあっても諦めない。職場がきびしくても我慢したら、今の職場の楽しさがある」「気をつけていることは休まないこと、ホウ(報告)レン(連絡)ソウ(相談)とオ(おはようございます)ア(ありがとう)シ(しつれいします)ス(すみません)です」という言葉に生徒たちは真剣に耳を傾けていた。セミナーを受けて各教室では、「職業」の時間に再度、本セミナーの内容を取り上げ、生徒の意識の強化と定着を図った。保護者の感想からは、「キャリアセンター(障害者就業・生活支援センター)の方の講話が子どもに一番聞かせたい内容だった。もう少し時間をかけ、何回かに分けて繰り返し聞かせてやりたいと思った」など企業からの立場とそこで働いている卒業生や保護者の立場、就労生活をサポートする立場からの話などそれぞれの立場の話を聞くことができ、とても参考になったという意見が多かった。

2 就労アドバイザー(12月11日) 

講演 第1部 「企業が求める人材像と職業人としての心構え」
第2部 「職業教育に企業が求めるもの」
講師 株式会社ダックス顧問 木川 正夫 氏

 第1部(生徒・保護者)と第2部(教職員)に対象者を分けた。第1部では、規則正しい生活やあいさつ及び人間関係の大切さなど職業人としての心構えを、また、障害者の就労を支える家族の支援の大切さについて話があった。第2部では、職場開拓では企業との信頼関係を築くこと、職業生活に向けて正しい生活リズムを確立することの必要性について話があった。保護者からは、「正しい生活習慣が社会に出ても重要なことは分かっていたが、今の状態を見るとかなりできていないので、今後、甘やかしすぎないように気をつけたい」、「どこでも言われている通り、あいさつや他人と仲良く仕事ができることの大切さを改めて実感した」など。また、職員からは、「日常生活と結び付くことが多かったので基本的生活習慣から見直していきたい」などの意見が聞かれた。第1部の講演後、話を聞こうと保護者が講師を囲む場面も見られた。

3 先進校視察報告会(9月20日 他)

 職業教育や就労支援に関して先進的な取組をしている特別支援学校や職業リハビリセンター等を訪問した後、高等部で視察報告会を開いた。情報の共有化を図り、生徒の職業自立に向けて授業改善及び就労支援の方策を探る手がかりとした。以下はその抜粋である。

  • 生徒たちには現場の環境(職場)をよく見せてあげて欲しい。実際に体験する中で学んでいく経験が大切である。ワーキングスキルを身に付けながら徐々に働くことに対する明確なイメージを持ち、社会の現場に出ていけるようにするとよい。基本的なことだが、毎日規則正しく登校することやあいさつ、言葉遣いの指導はとても大切である。
  • 就労を前提にどんなことができるのか、必要としているのか調査し、作業内容を決定した。職業教育はより実践的で、作業種や仕事内容が社会のニーズに応じたものがよい。作業学習のねらいは作業能力を上げることだけではない。社会性や対人関係能力、意欲、態度等「働く」ために必要な力を培うという意識が大切である。
  • 学校公開により、生徒理解や学校理解・啓発ができ、職域拡大のためになる。社会とのギャップをできるだけ埋めていく努力・工夫が大切である。

(3) 就労サポーターの活用

 「職業」、「作業学習」、「産業現場等における実習」等の授業の改善を図るため、事業所等から就労サポーターを招聘し、就労するにはどのような能力・適性が必要なのか、それらを身に付けるにはどのように授業を改善したらよいのか、等について指導、助言を求めた。サポーターの助言から、働くためには、あいさつ、報告、連絡、相談等のコミュニケーション能力が求められることを確認し、授業や日常生活の中で、意図的にコミュニケーション能力を伸ばす手立てをとるなど授業の改善を図った。生徒の意識が少しずつ変化し、自分から進んであいさつ、報告、連絡、相談をする場面が増えてきた。
 また、生き生きと働いていくためには、褒めることが重要であると助言された。授業でも褒める機会を多くするように心がけることにより、働くことの喜びを少しずつ感じ、進んで働く姿が多く見られるようになってきた。

5 成果と課題

 連携協議会や研修会、就労サポーター等様々な場で関係機関から貴重な意見やアドバイスを受け、授業や実習、職場開拓等の見直しを行い、職業教育及び就労支援の改善を図ることができた。
 職業自立連携協議会では、「企業側は障害者のことを知らないから不安がある。理解できるように学校が説明をしたり、どんなことができるのか具体的に伝えたり、障害者雇用の助成制度について情報提供したりするとよい。雇いたいと思っているところはある」というアドバイスに希望を持つことができた。
 ハローワークとの連携では、求人票のやりとりの回数が増え、新たな事業所の開拓につながった。まだ数は少ないが、ハローワークで開拓した事業所の紹介から、実習先を広げることもできた。
 研修会では、企業経営者や卒業生の実体験に基づく話は、保護者が家庭支援の在り方を見直すきっかけにもなった。学校生活においても日常生活の指導や基本的生活習慣について見直すことになった。
 就労サポーターの活用では、生徒の就労を考える時、卒業時が終点ではない。生徒の実態をしっかり把握し、卒業後を見据えて指導すればその後の定着がよいことを確認した。  また、社会性やコミュニケーション、対人関係が職場では大切になるという指導を受け、場に応じた言葉遣いや人間関係、時間の把握、仕事に対する意識などがしっかり身に付くよう各授業の見直しを行った。

6 今後の展望 

 本校の学区である木更津、君津、富津の各市は、交通の便が悪く、事業所数も少ないため、たとえ就職を希望しても自宅から通える職場が見つからないことがある。また、本人の能力や意識の問題だけでなく、経済的な問題や家族からの支援が得られないなど、家庭的な要因のため就労が難しい場合もある。就労支援だけでなく、本人への生活支援や時には家族への支援も必要となる。就労先の開拓は今後もハローワークと連携し、拡充していきたい。求人票も常に生徒の身近にある状況を作り、意識の向上を図りたいと考えている。さらに、職場開拓だけでなく、学校の授業の中や進路相談の中にも入ってもらうなど、さらに効果的な連携の在り方を探っていきたい。
 卒業後、社会への橋渡しとなる個別の教育支援計画(個別移行支援計画)の活用の仕方も課題の一つである。卒業後の継続支援がスムーズにできるように、見直し検討を進めたい。アセスメントのためのチェックリストやリーフレットもさらに見直したいと考えている。
 また、市役所の障害福祉課や商工会議所など行政や労働機関等、より多くの関係機関の協力を仰ぎ、さらに連携協議会の充実を図れたらと願っている。2年目はこのような課題に取り組みながら生徒たちの職業自立に向け、授業や就労支援の更なる改善を図り、就労した卒業生と在校生の事例を通して本研究の妥当性を評価したい。評価に当たっては、内部評価のほか、外部の関係者からも意見を求め、より多面的で客観的な評価にしたいと考えている。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成21年以前 --