職業自立を推進するための実践研究事業中間報告書

都道府県名 山口県
地域名 宇部・下関地域

1 研究のねらい

 本校の位置する宇部市には、県内唯一の特例子会社があり、現場実習等において連携を図りながら就労支援に取り組んでいる。しかしながら、域内全体としては一般企業への雇用が厳しい状況にある。そこで、一般就労を目指すために、効果的な作業学習や現場実習の在り方・支援の方策、各機関と協働した企業との連携の在り方について情報収集や実践的な研究を進めていくこととした。
 なお、山口県では、平成20年度から各特別支援学校の名称を総合支援学校と改め、障害のある児童・生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、より充実した特別支援教育を推進することとしている。また、これを受け、本校では、平成20年度から産業科を設置し、就労に向けた新たなる取組を始めることとしており、これまで以上に教員の職業教育・生活自立に向けての指導や支援に係る専門性の向上が必要である。

2 研究内容

 本校は、同一敷地内に本校寄宿舎(遠隔地の生徒のための学生寮)と県立知的障害児施設が隣接しており、市外出身生徒が半数以上を占めている。したがって、一人一人の障害の状態や進路希望に合った就労支援を行うためには、近隣のハローワーク、障害者職業センター、就労・生活支援センターとの一層の連携が必要である。
 企業に障害者を正しく理解してもらい、また、学校側も企業の意向やニーズを把握するためにも、地域の企業との実質的な連携及び情報交換が欠かせない。このような状況により、下記の4つの視点から研究を行うこととした。

(1) 地域における関係機関との連携
(2) 就労サポーター等の参画による授業改善
(3) 新規職場開拓による企業への理解・啓発
(4) 先進地視察による支援方法の検討

3 評価の方法

上記(1)~(3)については、下記の方法で評価や考察を行った。     評価項目と評価方法

評  価  項  目 評  価  方  法
地域における関係機関との連携 事業の成果や研究のねらいの達成度について意見聴取を行い、事業全般の評価を行う。
就労サポーター等の参画による授業改善 外部人材の参画による授業の改善について、協議やアンケートを通して評価する。
職場開拓による新規企業への理解・啓発 新規職場開拓した実習先の事前打合せや反省会にて、意見聴取等を行い評価する。

4 研究経過

(1)  地域における関係機関との連携

1 協議会や相談会の開催

協議会・相談会の年間計画

日 時 会 議 名 目  的
H19.5月随時 高等部3学年個別進路相談会 雇用に向けた実習の進め方を確認
H19.6. 1 進路指導懇談会 就労支援について保護者へ情報提供
H19.10.19 県内(宇部地域)就労促進連絡協議会 宇部の企業・関係機関との情報交換
H20.2月随時 高等部3学年個別進路確認会 卒業後の就労支援機関の紹介と確認
H20.2.22 県内(宇部地域)就労促進連絡協議会 年間の事業実施状況報告と意見交換
a 高等部3学年個別進路相談会及び個別進路確認会

 5月の個別進路相談会では、高等部3学年の生徒・保護者同席のもと、ハローワーク及び就業・生活支援センターを交えて、雇用に向けた実習の進め方について協議した。家庭の支援が弱い生徒については、福祉事務所にも同席を得て、グループホーム利用などの生活支援についても検討した。2回目以降の実習中にも関係機関に実習先の会社へ同行してもらうことにより、生徒一人一人の支援について、地域の関係機関と共通理解を図ることができた。
 2月の個別進路確認会では、会社担当者、生徒・保護者同席のもと、地域の関係機関を交えて、卒業後の支援について共通理解を図った。支援機関や相談窓口の担当者を紹介し、各支援機関の役割分担についても確認した。
 また、「個別の教育支援計画」の内容を確認してもらい、卒業後、保護者から会社やグループホームへ確実に引き継ぐよう依頼した。

b  進路指導懇談会

 企業、就労移行支援事業所、支援センター等から43名の参加があり、講演とグループ協議を行った。午前中の講演では、支援センター所長から「卒業後を支える相談支援事業」いう演題で卒業生の生活支援事例を発表された。午後のグループ協議では、「就労支援とその実際」というテーマで、特例子会社社長や就労継続支援A型(雇用型)の施設長より、障害者雇用の取組について講話が行われた。保護者は、障害者雇用の担当者へ直接質問・相談することができ、雇用の仕組みだけでなく就労の基礎となる生活自立の重要性を知ることができた。

c  県内(宇部地域)就労促進連絡協議会

 10月の協議会では、企業等の関係機関、就労移行支援事業所を交えて、ハローワークや福祉事務所へ高等部3学年生徒の進路希望状況や内定状況を伝え、本人や家庭への支援について共通理解を図った。企業、就労移行支援事業所へ「作業学習見学会・評価会」の趣旨を説明し、評価方法等について協議した。企業の担当者が参画しやすい時間帯や見学日程等について情報交換を行った。
 2月の協議会では、協議内容により時間や参加関係機関を分けて実施した。午前中は、企業や就労移行支援事業所へ作業学習見学会の評価と改善策を提案・報告した。午後は、関係機関へ高等部3年生の内定状況を報告し、卒業後における本人や家庭への支援について共通理解を図った。

2  地域における就労支援ネットワークや協議会への参加

地域の協議会の概要

日 時 会 議 名 目  的
毎月1回 宇部市障害者就労支援ネットワーク会議 ハローワークや商工会議所との連携
H20.7.24 UBEグループ障害者雇用支援ネットワーク会議 現場実習の説明と依頼
年間3回 光栄会 就労支援ネットワーク構築事業 宇部地域の支援センターとの連携
H19.8.17
H20.2.6
県内(下関地域)就労促進協議会 下関地域の就労情報収集
作業学習の見直し
H19.2.22 山口養学校障害者雇用支援セミナー 山口地域の就労情報収集
a 宇部市障害者就労支援ネットワーク会議

 宇部市障害福祉課を事務局とし、商工会議所、ハローワーク、就労・生活支援センター、福祉サービス事業所、教育機関が集まり、障害者雇用の啓発について情報交換や協議を行った。宇部養護学校は、高等部の作業学習見学会や高等部1、2学年の体験的な現場実習を通して、新たな会社に障害者の理解と雇用の啓発を進める役割を担うこととなった。

b  UBEグループ障害者雇用支援ネットワーク会議

 宇部興産グループ33社の担当者が、2ヶ月に1回集まり行っている障害者雇用に向けた研修会へ参加した。本校生徒の実態や現場実習の様子を写真や映像で紹介し、体験的な現場実習のシステムについて説明した。6ヶ月後には、UBE障害者雇用支援ネットワークより学校見学の依頼があり、12社の担当者が来校し、授業への参画をはじめ情報交換を行った。

c  光栄会就労支援ネットワーク構築事業

 宇部地域の就労や生活に関わる支援センターが中心となり、養護学校を含む地域の社会資源との連携及び情報の共有化を図った。研修会などを通して、県内のグループホーム関係者との情報交換を行うことができた。

d  県内(下関地域)就労促進協議会及び山口養護学校障害者雇用支援セミナー

 各地域ごとに実施される企業や関係機関を交えた特別支援学校生徒の就労支援の会議に参加した。本校に在籍する下関地域及び山口地域出身生徒の実習や就職のための情報を得ることができた。また、同時に開催された作業学習等の見学会では、本校にはないビルメンテナンス及び情報実務という作業種について情報収集することもできた。

地域内の関係機関及び他の地域とのかかわり~イメージ図~

(2)  就労サポーター等の授業参画

1 作業学習見学会・評価会

 企業や就労移行支援事業所の担当者を就労サポーターとして、作業学習の10の作業種を見学してもらい、協議やアンケートを通して評価を得た。この評価により、企業のニーズや要望を知ることができ、就労につながりやすい作業学習に向けた見直しや改善に役立った。また、これまで実習の受入を躊躇していた企業にも、見学会に参加してもらうことができ、障害者の理解につながった。

2 ジョブコーチ支援方法研修会

 本校全職員を対象として、山口障害者職業センターの主任カウンセラーより「ジョブコーチによる支援方法」というテーマで講演を行った。支援事例とあわせて、事業所とかかわる時の留意点について説明を受けた。指摘された留意点は下記の通りである。

  • 事業所の立場を考慮し、こちらの都合に偏った教育論を押しつけない
  • 相互理解と信頼関係を築くために、マナーが大切である
  • 支援記録は箇条書きで誰が見ても、要点が分かりやすい書き方がよい 等

3 就労・生活自立を目指すための進路学習会

 就労を希望する高等部1・2年生を対象として、宇部市にあるグループホーム施設長より「なぜ働くの?働くために必要なものは?」というテーマで講演を行った。グループホームの様子が分かるビデオをもとに、地域生活で必要な心構えやマナーを、生活と就労両面から説明された。家賃や生活費など具体的な金銭管理にも触れ、本当の生活自立の大変さを生徒に伝えることができた。講演後の生徒のアンケートでは、「自立」、「一人暮らし」という言葉が多くみられ、生活自立への意識が高まったことが分かった。

(3)  企業訪問による理解・啓発

1 現場実習受入への支援要請

 ハローワークからの最新の求人情報などをもとに、連携して職場開拓を行った。就労・生活支援センターから得た障害者の離職情報なども有効に活用し、今年度は新たに32の事業所に実習を受け入れてもらうことができた。特に、3学年の雇用を前提とした実習では、職場開拓にハローワークも同行してもらった効果は大きかった。初めて本校の作業見学会に参加いただいた企業についても、可能な限り会社訪問や現場の見学を依頼し、今後の実習の受け入れを進めていく予定である。

2  職場開拓マニュアルの作成

 本校では、進路指導課の教員が中心となって職場開拓を進めているが、今後は誰が担当となっても職場開拓が進められるよう、企業等とかかわる際の留意点等のマニュアルを作成した。内容は下記の通りである。

  • 本校生徒が適応しやすい職種や勤務条件などを考慮した企業の選び方
  • 電話交渉でのマナーと伝える内容
  • 会社訪問時のマナーと持参物(職場開拓パンフレット、実習事前調査票等)

(4)  理解啓発用リーフレットの作成

 現場実習の受入先の拡大、企業等の理解啓発を目的として、各特別支援学校が、それぞれの地域で現場実習の受入を依頼するためのリーフレットを作成した。
 表紙のタイトルを「一人ひとりの夢の実現に向けて」とし、実習の様子等16名の生徒の表情を掲載した。年度内に県内の特別支援学校へ配付し、20年度の職場開拓に活用することとしている。

(5)  先進地視察

視察先と視察内容

日 時 視 察 先 視 察 内 容
H20.1.23 千葉県障害者職業総合センター トータルパッケージの活用方法
H20.1.24 東京都立永福学園養護学校 就業技術科における職業指導
H20.1.25 埼玉県立養護学校さいたま桜高等学園 就業技術科における職業指導
H20.2.7 兵庫県明石市役所セブンイレブン 市役所内コンビニでの障害者雇用
H20.2.8 京都府立福知山高等技術専門校 販売実務課における訓練方法の調査
H20.2.25 長崎県立希望が丘高等養護学校 就労移行支援チェックリストの活用
H20.2.26 長崎県立虹ヶ丘養護学校 清掃班、介護喫茶班の作業学習指導

1 障害者職業総合センター

 「障害者の職場適応促進のためのトータルパッケージ」について、本校での活用を検討するため、その構成や効果について情報収集を行った。トータルパッケージを構成するプログラムの中の「幕張ワークサンプル(MWS)」という部分は知的障害や発達障害等にも有効に活用できる。MWSの構成は下表の通りである。

幕張ワークサンプル(MWS)の構成

分 類 作 業 名
事務作業 数値チェック 物品請求書 ラベル作成 etc
OA作業 数値入力 文章入力 コピー&ペースト etc
実務作業 ナプキン折り ピッキング 重さ計測 etc

 MWSには、下記のような特徴が見られる。

  • 個人の現状の能力と学習可能性を評価できる。
  • 課題レベルが自由に選べる。(5段階程度)
  • 指導者にとっても、また本人にも結果が分かりやすい。

2 学校関係

 視察先の5つの特別支援学校、高等特別支援学校及び高等技術専門校を訪問し、職業教育における先進的な取組について視察した。特に、来年度から本校の産業科で実施予定であるビルメンテナンス、OA実務及び介護福祉についての情報収集を行った。その他、山口県内の特別支援学校にはない取組として、食品加工や販売実務についても視察できた。作業室の器具や備品は現場で使用されているものがそのまま設置されているなど、学校での作業と実社会での仕事の間に差が無いような配慮がなされていた。また、毎週1回非常勤講師として外部人材の参画を得ている学校もあった。事務的な求人が増えつつあり、パソコンによる入力作業や文書作成に力を入れている学校が多く見られた。

3 明石市役所セブンイレブン

 市役所内2階の一角にあり、障害者雇用モデルとしてハローワークの全面支援を受けながら官民が一体となり運営している福祉コンビニエンスストアである。精神障害者3名、知的障害を伴う精神障害者1名、身体障害者1名を雇用している。午前中は健常者だけで、午後は5人の障害者と店長が勤務する形態となっている。
 短い時間ではあるが、商品の陳列、接客、清掃など、客の状況をうかがいながら複数の種類の仕事をこなす能力が求められていた。

5 成果と課題

(1)  地域における関係機関との連携

 宇部地域には、いろいろな機関や団体が設立した障害者就労支援ネットワークがある。本校でも、労働等の関係機関が参加する県内就労促進連絡協議会を設置し、高等部生徒の進路支援を行っている。
 近年、障害者雇用が注目されており、校内に限らず、外部機関が主催する障害者就労に関する研修会などにも、多くの保護者が参加するようになってきた。
 また、関係機関を交えた個別相談会も充実し、支援の引継ぎが確実に行われるようになった。卒業後も「個別の教育支援計画」の有効的な活用が期待されている。

(2)  就労サポーター等の参画による授業改善

 これまでは現場実習という限られた期間のみ企業とのかかわりを持ってきた。しかし、今年度は作業学習という日常の学習活動を通して、生徒や教員が企業とかかわり、身近に就労を感じることができるようになった。
 今回の作業見学会は、障害者雇用をしている企業同士の忌憚のない意見交換を期待し、会社関係者だけで作業見学会を行った。評価の報告会では関係機関から、次回の作業見学会の参加を希望する声が多く聞かれた。今後、基本的生活習慣やマナー等を評価し、指導してもらえる支援センターなどによる就労サポーターの参画も検討したい。

(3)  新規職場開拓による企業への理解・啓発

 これまで本校では生徒一人一人の希望や居住地を考慮しながら職場開拓を進め、今年度は、昨年度の2倍以上の新規の実習先を開拓し、就職率も4割に近づけることができた。
 しかし、来年度からの産業科の開設に合わせ、今回作成した職場開拓マニュアルを活用した効率的な企業訪問が必要と考えられる。
 企業に配布する理解・啓発リーフレットには、現役生徒の実習の写真や感想を掲載しているが、今後、介護など新たな職域への進出によっては、内容を刷新していく必要がある。

(4)  先進地視察

 生徒の生き生きとした真剣な表情から、実際の道具を使用すること、企業の実際に限りなく近い学習環境を整えることの重要性を知ることができた。
 作業手順の改善や備品の設置については、就労サポーターと相談しながら決定すると良いことも分かった。

6 今後の展望

 本校では、20年度の産業科の開設に合わせ、企業等をはじめとする社会のニーズに対応した職業教育の研究を進めている。視察を行った先進校のように「作業学習からの脱却」も視野に入れ、作業学習の環境改善から取り組む必要がある。
 同一作業種であっても、実際の会社の動きをイメージできるよう「周囲とペースを合わせる流れ作業」、「一人で複数の工程を行う作業」、「手順書を確認しながら進める作業」などを取り入れる工夫をしたい。
 また、就労に役立つ資格や生活スキルの習得を目指し、地域のボランティアなどの外部人材の参画を得た授業の実施も積極的に試みたい。
 就労移行支援のためのチェックリストを効果的に活用すると、生徒一人一人の能力を適切に把握することができ、本人の特性に合った職種を試みる機会を増やすこともできる。そのためには、生徒の特性に合う職種や職場の準備が不可欠である。
 これからも、学校見学会などをきっかけに障害者を正しく理解してもらい、その後の企業訪問で、一人一人の生徒が得意とする仕事をアピールして現場実習へつなげていきたい。
 また、近隣の特別支援学校との職場開拓情報を共有することにより、さらに効率の良い職場開拓を目指したい。
 宇部市では、労働、福祉及び教育機関が協力し合い、熱心に障害者雇用への理解・啓発を進めている。最近は、商工会議所の協力もあり、障害者雇用の会議や研修会などに参加したり、雇用に前向きな企業も増えてきている。ただし、就労の継続には、余暇活動など生活の安定も欠かせない。寄宿舎における生活を豊かにする支援の在り方等についても外部人材の積極的な参画を得るなどの新たな取組を通して、就労支援、職業教育の充実に資する実践的な研究を進めていきたい。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成21年以前 --